牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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ひゃっはー!
一葉ちゃんの登場です。
戦国恋姫は可愛い子ばかりですが一葉ちゃんはベスト5に入るぐらい大好きです。



『舞 〜Dance〜』

堺から次に流牙達が向かったのは西の都、京都。

 

しかし……。

 

「京都って確か、日の本で一番優雅な所なはずだよな……?」

 

今まで見た町の中で一番静かで、一番みずぼらしい町だった。

 

「応仁の乱以降、京は寂れる一方なんですよ。何でも公方さまは言うに及ばず、畏き所でさえ、その日の食べ物にご苦労なさっていると聞きます」

 

「戦乱の世とは言え、お労しい限りですね……」

 

「どこも大変なんだな……」

 

そう話しながら町を歩いていると……。

 

「お頭、危ない!」

 

「うおっ!?」

 

後ろから何かが走って来て流牙にぶち当たった。

 

「流牙!」

 

ぐらりと傾いた時、流牙はとっさに地面に背を向けてその人影を庇って倒れた。

 

「いてて……え?」

 

「お頭、大丈夫ですかっ!?」

 

「お怪我はありませ……うわー、綺麗な人!」

 

ひよ子が驚き、流牙は目の前にいる少女を見つめる。

 

陽光を浴びて光り輝く艶やかな髪に紫色の瞳が流牙を見つめていた。

 

久遠と似た綺麗な容姿だが、触れたものを骨まで切り落とすような殺気に満ち溢れてた。

 

「えっと、大丈夫?」

 

「借りるぞ」

 

「えっ?」

 

少女は流牙の腰にあった牙狼刀を引き抜いて立ち上がった。

 

向こうから複数の男達が近づいており、どうやら少女を狙っているようだった。

 

「穏やかな状況じゃないな……」

 

「ふむ。どうやらあの女が追われているようだな。……我への刺客かと思ったが」

 

「刺客じゃなくても、面倒なことに巻き込まれているな。しかたない、やるか!」

 

「ふふふ、流石は守りし者だな」

 

「久遠たちは下がってて。エーリカ、行くぞ」

 

「はい!」

 

久遠はこの状況を楽しそうに見つめ、流牙とエーリカで少女の助太刀に入る。

 

「助太刀するよ」

 

「微力ながらお手伝い致します」

 

「……要らん。それにお前は刀を持ってないじゃないか」

 

「そう言うな。こっちの好きでやってるからね。それに刀が無くても戦えるからね」

 

流牙は拳を交差させてからファイティングポーズを取る。

 

「……好きにせい」

 

「好きにさせてもらうよ。さぁて……女の子一人に男達が囲むこの状況、莉杏がブチ切れ事案の第二弾だな。とりあえず怪我しない程度に痛めつけるか」

 

流牙と少女は同時に動いた。

 

流牙はまずは男達の武器を捌き、破壊しながら急所を軽く攻撃し、悶絶して動けなくしていく。

 

「さて、あっちは?」

 

少女は見事な剣捌きで男の持っていた槍を細切れにした。

 

「……粋がっているのも良いが、少しは自分の腕を弁えたほうがよいぞ」

 

「へぇ……やるねぇ」

 

少女の強さに感心していると男たちは仲間を呼んできた。

 

「まずいな、仲間を呼んできたな」

 

「乱戦になる前に止めないと」

 

「だな。しかし、それにしても……すごいな、あの子」

 

戦っている少女は息を荒げる事もなく、刀と蹴り技を駆使してまるで舞いのように刀を振っている。

 

流牙も軽く男たちを相手にしていると、この世界に来てから聞き慣れた鉄砲を構える音が遠くから聞こえた。

 

「っ!?危ない!」

 

流牙は牙狼剣を魔法衣から取り出すと男に向けて放たれた弾丸を鞘で受け止めた。

 

「大丈夫か!?」

 

「な、何で俺を……」

 

「俺はあんたを死なせるつもりはないからな。撃たれる前に早く逃げろ!」

 

「ひぃいいいっ!?」

 

鉄砲で狙われることを知り男たちは一斉に逃げていった。

 

「余計な事を……返す」

 

何かを知っているのか少女は牙狼刀を流牙に投げ渡してそのまま京の町中へと消えていった。

 

「なかなか良いものを見たな」

 

「ああ、あの子は強いな。魔戒騎士と同等に戦える強さだ」

 

「ほお。そこまでか。流牙、魔戒騎士の最強の称号を持つお前とどっちが上か?」

 

「そうだな……実際に戦ってみないとわからないけど、剣士としては是非とも相手をしてみたい」

 

謎の少女の剣の腕に一度手合わせをしてみたいと思う流牙だった。

 

「それにしても……鉄砲の音、気になりますね」

 

「周囲を探ってみましたけど、鉄砲を撃った人物は見当たりませんでした。よほどうまく隠れているか……」

 

「それとも鉄砲の音真似がすごくうまい人とか!」

 

「なるほど、確かにその可能性もありますね」

 

真剣に考えるエーリカだが、そんなはずはない。

 

「えええぇ〜……ボケたつもりだったのにぃ」

 

「音真似じゃないよ。俺たちには見えない所からの狙撃だろう。性能が良く、遠距離射撃のできる者だね」

 

そうやって色々考えていると、周囲が騒がしくなり、京の都の治安を守る検非違使が近づいてくる。

 

「ここに居たら面倒な事になる。みんな、逃げるぞ」

 

検非違使に絡まれないように走ってその場から離れた。

 

「詩乃!大丈夫か?」

 

「は、はい……ひゃっ!?り、流牙様!何を……!?」

 

みんなに比べて体力が無く、既に息切れしている詩乃を流牙は抱き上げた。

 

「詩乃は体力ないから走れないから運んでやるよ、嫌か?」

 

「え、いや、あの……ぜ、是非ともこのままでお願いします!!」

 

「よし、しっかり掴まってろよ!」

 

突然抱き上げられて少し混乱した詩乃だがこんなチャンスは滅多にないと顔を赤くしながら頷いた。

 

「全く、この誑しが……」

 

「いいなぁ、詩乃ちゃん。お頭に抱き上げられて……」

 

「って言うか詩乃ちゃんを抱き上げたまま速度を落とさず、息を切らずに走れるって凄いよね……」

 

「とてもお優しいのですね流牙さんは」

 

久遠はジト目で睨みつけ、ひよ子と転子は羨ましそうに見つめ、エーリカは微笑ましく見ていた。

 

しばらく走り、都で一際大きな屋敷の前で止まる。

 

「ふぅ、ここまで来れば大丈夫だろう。詩乃、降ろすよ」

 

「は、はい!ありがとうございました!」

 

名残惜しかったが流牙に密着できてご満悦な詩乃だった。

 

そんな詩乃にひよ子とと転子が近づいて尋ねた。

 

「ねえねえ、詩乃ちゃんどうだった?」

 

「流牙様に抱き上げられてどんな気分だった?」

 

「えっと、その……凛々しいお顔と幼さの残る瞳を間近で見られて……もう最高でした」

 

「「羨ましい〜!」」

 

「ところで適当に来ちゃったけど、ここはどこだ?」

 

「ここは足利将軍の住まい、二条館ですよ……」

 

「え?ここなの!?」

 

適当に走ってきたが目的の場所に運良く辿り着いた。

 

しかし、屋敷と言っても門はかなりボロボロになっていた。

 

「ここが将軍の屋敷……?本当にここなのか?人の気配がないような......」

 

「いえいえ。間違いなく住んでおりますよ」

 

「……誰だ?」

 

流牙達の背後に現れたのは右目を髪で隠した上品な服を着た少女だった。

 

「ふむふむ……小名風を装った方が一名。その護衛らしき方たちが四名、異人さんが一名、ですか……珍しい組み合わせですなぁ。それで、将軍さまに拝謁に来られたのですかな?」

 

「そうだ」

 

「......手土産は?」

 

「ある」

 

「これはこれは!ようこそいらっしゃいました!さぁさぁご遠慮なくお入りくださいませ!」

 

いきなりテンションが変わりこちらに来い来いと手招きをする。

 

「いきなり雰囲気変わりすぎだな。あんたは誰だ?」

 

「これは申し遅れました。我が名は細川与一朗藤孝。通称は幽。足利義輝さまの御側衆を務めております……と名乗ったところで、さぁさぁ、早速お持ちになった手土産をそれがしに」

 

「流牙、渡してやれ」

 

「ああ、とりあえず目録だけどいいかな?」

 

「はいはい。現物をいただけるなら、全く問題ございません」

 

「えっと、尾張国長田庄住人、長田三郎より足利将軍へのご進物目録。銅銭三千貫、鎧一領、刀剣三振り、絹百疋だ」

 

「銅銭三千貫!?これはこれは誠に剛毅であらせられる!いやぁさすが尾張と美濃に跨る家のご当主であらせられますなぁ」

 

久遠の正体をすぐに見破った幽に流牙立ちに緊張が走る。

 

「では……お客様方を、二条館客殿に案内仕りましょう」

 

そうして流牙たちは幽に案内され、二条館に招かれ入っていった。

 

「それでは公方様にお繋ぎ致す。……今しばらくご歓談の程を」

 

そういい残して幽は流牙達を古びた客室に案内した。

 

「……流牙、あやつをどう思う?」

 

「幽さん?食えない人だと思ったかな」

 

「うむ。あやつ、食えん」

 

見た目や振る舞いは武士の礼儀作法に沿っているが、久遠の正体を見破りながら脅していた。

 

「まぁとにかくあの人にはなにか魂胆がありそうだな。で?どうなんだ、幽さん?」

 

「いえいえ、別に魂胆などございませんよ~?」

 

「「ひゃーっ!?」」

 

「それにしても、なかなか鋭いお方ですな」

 

「それほどでも」

 

いつのまにか幽が部屋の端っこにいて茶を飲んでいた。

 

「あ、粗茶ですがどうぞどうぞ。織田三郎信長殿?そして……田楽狭間の天人、道外流牙殿」

 

「やっぱり、最初から俺と久遠の正体に気づいていたんだな」

 

「で、藤孝とやら。……我の事を知ったとして、何とするつもりだ?」

 

「今のところは特に何も。ただ公方さものお側衆を自称する私としては、今後のことを考え、各地の有力者と懇意にしておく必要がございますば」

 

「その割に人を見ん。.....我は好かん。最初に言え。我を試すのならそれなりの覚悟を持っておくがよい」

 

「……はっ。でもねぇあの場でご正体を見抜いたならば、進物は置いていってくれました?」

 

「織田家当主として正式に公方と話をしにきたわけではない。……見抜かれていたら踵を返しただろうな」

 

「でしょう~。だからあれは方便ということで一つ手を打って頂けますと助かるのですが……どうでございましょうねぇ?」

 

「将軍様はそれほどまでお金に困っておいでなのですか?」

 

「それはもう!……まぁでも毎日毎日町を練り歩いて悪漢どもから銭を巻き上げてるらしいですが……」

 

「今、悪漢から銭を巻き上げてると聞こえたけど?」

 

流牙の耳の良さに幽は驚いて思わず口を手で押さえた。

 

「っ!?良い耳をお持ちですが、なんでもございません!こちらの話でございますよー!」

 

「本当に……?それじゃあ……」

 

流牙は出された欠けた茶碗を手に取り、耳に当てる。

 

「何をなさっておるのですか?」

 

「俺には物に込められた声を聞けるんだ。これで将軍がどんな人なのか確かめようと思ってね……」

 

目を閉じて耳に神経を集中すると将軍の姿がどんなものか聞こえてくる。

 

「……白に近い綺麗な長髪、左右に開いた大きな額、紫色の瞳……?」

 

「なっ!?ぶ、無礼ですぞ!流牙殿!!」

 

将軍の姿がビンゴと言わんばかりに正解だったのか幽は珍しく大慌てをした。

 

「え?ダメ?じゃあ次はそこらへんの道具を……」

 

「お、お待ちくだされー!!」

 

流牙の能力……いわゆるサイコメトリーに翻弄される幽だった。

 

その光景に久遠達は大笑いをして時間が過ぎるのだった。

 

「はぁはぁ……全く、物に込められた声を聞くとは流石は天人と言うべきですかな……ではそろそろ公方様の元へ案内仕る」

 

「デアルカ」

 

「それで、流牙殿はどういたしますか?」

 

「俺?俺は堅っ苦しいのは苦手だから庭で良いよ。のんびりみんなと一緒に待ってるから」

 

「……なるほど。面白いですなぁ。これはやはり、公方様には会わせられない」

 

「どうして?」

 

「いえいえ、では三郎殿。主殿に案内仕る」

 

客室を出て廊下を歩き、久遠とエーリカは主殿へと向かう。

 

流牙はひよ子と転子と詩乃と一緒に庭で平伏して待っているがかなり遅かった。

 

久遠がイライラしていたその時にようやく奥から将軍が来た。

 

「足利参議従三位左近衛中将源朝臣義輝様、御出座ぁー!」

 

将軍だと思われる少女が現れ、一斉に頭を下げ、流牙も慌てて下げる。

 

流牙はちらっと将軍を見るが、それは先程のサイコメトリーで聞いたのとはと違う体が細い子が出てきた。

 

ガサッ……。

 

「……ん?」

 

不審に思っていると庭の一角から小さな音が流牙の耳に届くとそれは先程の乱戦の時と同じ鉄砲を構える音だった。

 

「下座に控えまするは、尾張国長田庄が御当主、長田上総介申すもの。幕府への献上品として銅線三千貫、鎧一領、刀剣三振、絹百疋」

 

「殊勝なり」

 

「公方さまよりのお褒めの言葉でござる。恐れ入り奉り、今後も謹んで御忠勤めされぃ」

 

「忠勤?阿呆らしい」

 

「お、長田殿!御前であるぞ!頭が高い!控えなさい!」

 

「公方でもない奴に頭を下げられるか」

 

久遠の言葉に騒然とし、庭の一角がガサガサと動き出し、流牙は立ち上がると同時に走り出した。

 

「「「流牙様!?」」」

 

隣にいたひよ子達が驚くなか、流牙は魔法衣から牙狼剣を抜いて鞘から刀身を抜くとすぐに納めて鍔鳴りを起こすと、鞘に取り付けられた三つの仕込み刃が十字に展開する。

 

そして、久遠を守るために右手でそのまま牙狼剣を抜き、いつでも仕込み刃を飛ばせるよう鞘を左手で構える。

 

「久遠下がれ!鉄砲で狙われてる!」

 

「何!?」

 

「り、流牙殿!?このような場所で剣を抜くなど無礼ですぞ!!

 

「無礼?ふざけるな……妻を鉄砲で狙われて黙っているわけがないだろ!庭にいる狙撃手……撃ちたかったら撃て!その代わり、弾は全て叩き斬り、この刃を代わりに投げ飛ばすぞ!!」

 

本気で仕込み刃を投げ飛ばすつもりはないが、久遠を守る為に庭にいる狙撃手に向けて軽い脅しをかけた。

 

そのお陰もあってか庭から驚いたような高い声が小さく響いていた。

 

そして、流牙の気の込められた怒声に奥にいた将軍と思われた少女はビクビク震えていた。

 

「……当代の公方は剣の達人と聞く。その足音などはまるで手弱女のように弱々しく、そして何より我が夫の怒声に震える者が公方であるはずがあるまい。のぉ、そこの小姓よ」

 

「……………ふっ」

 

久遠は襖の近くで平伏していた小姓の一人に目線を向けると、その小姓は顔を上げて笑みを浮かべた。

 

「君はあの時の……!?」

 

それは先程町で流牙と共に戦ったあの謎の少女だった。

 

「用心が行き届いているようで何よりだ」

 

「そこの男が気付くのが遅かったなら、貴様の頭に穴が開いていただろうよ」

 

「この男はただの男じゃない。我の自慢の夫でな。……で?」

 

「良いだろう、なかなか面白き奴だ。話をしてやろう」

 

「一葉様!?」

 

「お姉さま……」

 

襖が開くと中から怯えている少女が謎の少女に抱きついていた。

 

「双葉、代役大儀である。後ほど呼ぶ。それから……お主よ、剣を収めよ。我が妹が怖がっておる」

 

「あっ……ごめん……」

 

震えている少女に流牙は慌てて牙狼剣を鞘に収め、仕込み刃を閉じる。

 

「長田の。場所を変えるぞ。良いな?」

 

「デアルカ。流牙、感謝するぞ。また後で」

 

「ああ……」

 

そうして久遠と謎の少女は主殿を後にした。

 

「……それで、どういうことが説明してもらえるかな?」

 

「ぎくっ!?」

 

流牙は有無を言わせない笑みを浮かべながら逃げ去ろうとした幽の肩を掴んだ。

 

その後、幽に何が起きたのか説明させることを約束させて流牙達は客室に戻った。

 

客室に戻るや否や、流牙は詩乃に説教されてしまう。

 

いくら久遠を助けるためとはいえ無礼すぎや無茶のしすぎと言う理由でぐちぐちと説教をし、流牙は軽く落ち込んでしまう。

 

そして、ようやく久遠と先程の少女がやって来た。

 

「一葉、我の夫を紹介しよう」

 

「夫か。……」

 

「やっぱりあの時の子だったんだね」

 

「その節は世話になったな」

 

「ああ。ところで君が本当に公方様なのか?」

 

「うむ。改めて名乗ろう。我が名は義輝。足利幕府十三代将軍である」

 

「君が将軍という事は……さっきの小さな女の子は?」

 

「あれは我が妹だ。名は双葉というが……」

 

一葉の妹は幽に連れられて来たが、先程の流牙の怒声にまだ怖がっているらしく幽の後ろに隠れていた。

 

流牙はゆっくりとその子に近づいて申し訳なさそうに小さな笑みを浮かべながら挨拶をする。

 

「さっきは驚かせてごめんね。俺は流牙、道外流牙だ。君の名前は?」

 

「……わたくしの名は足利義秋。通称は双葉と申します。あなたが……黄金の天狼様ですか……?」

 

「まぁね。でもその天狼の本当の名前は黄金騎士ガロと言うんだよ」

 

「黄金騎士、ガロ……?」

 

「そう。よろしくね、双葉ちゃん」

 

「は、はい……流牙様……」

 

少しだけ流牙への警戒が薄れた双葉は笑みを浮かべる。

 

その後、一葉から力を失った幕府の内情を伝えられ、久遠と一葉が手を組む事を告げられた。

 

すると一葉はある事を流牙に提案してきた。

 

「さて、流牙よ。我は久遠に協力してやっても良いがお前に条件がある」

 

「条件?」

 

「この日の本全域に轟いているお主の異名である黄金の天狼……その噂が本当かどうか私に見せてみよ」

 

「ガロの鎧を見せろということか……?」

 

「ほう、その金の鎧はガロの鎧と言うのか?そうだ、それを我に見せてみろ」

 

「……ガロの鎧は見世物じゃない。黄金騎士ガロの称号を受け継いできた英霊の魂と多くの人の想いが込められ、ホラーや鬼から人を守るためのものだ」

 

「なるほど、お主のお家流みたいなものか。じゃがまだ我はお主の事を認めてはおらん。それに……」

 

将軍として生きてきた一葉の不敵な笑みを浮かべた。

 

「我の最愛の妹の双葉を怯えさせた罪は重いぞ?幸い双葉も噂に名高い黄金の鎧を見たがっていたからな。それとも何か?お主はこんな可愛い娘をこのまま悲しませる冷血漢なのか?」

 

「うぐっ……」

 

そう言われて心にぐさっと刃が刺さった気持ちになり、たじろぐ流牙。

 

「流牙……お前の気持ちはよく分かるがここは我慢してくれるか?これからの事で一葉の力は必要なんだ」

 

久遠からの後押しもあり、流牙は少し考えてから大きなため息を吐いた。

 

「……分かった。だけど、条件が二つある」

 

「ほう?どんな条件だ?」

 

「まず一つ、鎧を見せても良い人間はこの場にいる者だけ。それ以外は駄目だ」

 

「うむ、良かろう。我と双葉と幽の三人だな」

 

「次にガロの鎧に絶対に触れないでくれ。触れたら皮膚が引き裂かれるから」

 

「何と!?しかしお主は大丈夫なのか?」

 

「鎧は魔戒騎士である男が触れても問題はないんだ。だから絶対に触れないでくれ」

 

「分かった。皮膚が引き裂かれるのは御免だからな。よし、では今夜の小さな宴の席で鎧を見せてもらおう」

 

「か、一葉様!?幕府は財政難だということをお忘れですか!?」

 

突然の宴の席を用意する事を決めた一葉に幽は目を見開いて驚きながら反論する。

 

「固いことを言うな。せっかく噂の金の鎧を拝めるのだぞ?宴ぐらい良いではないか」

 

「ならば我らも酒と肴を用意しよう。せっかくだから少しでも豪華にしよう」

 

「それはありがたい!今夜が楽しみだ!」

 

久遠の提案に既に息ぴったりの一葉は笑みを浮かべて今夜の宴を待ち望んだ。

 

流牙は気が乗らなかったが仕方ないと言った様子で静かにその時を待った。

 

そして、夜……月が輝き、屋敷の一角で織田家と足利家の小さな宴が行われた。

 

この場にいる面々は流牙、久遠、ひよ子、転子、詩乃、エーリカ、一葉、双葉、幽の九人である。

 

早速ガロの鎧をお披露目する事になったが、流牙はそれではいけないと思いちょっとしたサプライズをする。

 

「ただ鎧を見せるだけじゃつまらないから簡単な剣舞を見せるよ」

 

剣舞と聞き、ひよ子たちの拍手が広がる。

 

流牙は魔法衣から牙狼剣を取り出し、静かに鞘から抜いた。

 

「ほう……改めて見ると流牙の剣、不思議な拵えをしておるが、最上大業物と遜色ない輝きと鋭さを持っておるな」

 

灯りに反射する牙狼剣の刃を見て、一葉は一目で牙狼剣の作りが超一流の物だと分かった。

 

もっとも、牙狼剣が古より何百年、何千年も脈々と受け継がれてきたとんでもない代物だとは知る由もないが。

 

流牙は心を深く沈めて目を静かに閉じた。

 

脳裏に今まで戦い、切り裂いてきたホラーや鬼の姿を思い浮かべて目を開いた。

 

そして、牙狼剣で普段と変わらぬ平手突きに似た我流の剣の構えをして流牙の剣舞が始まった。

 

周囲にホラーや鬼がいることを想定しながら牙狼剣を振るう。

 

ホラーや鬼を切り裂くための剛の一閃と言うべき力の込められた剣を振るい、空気を切り裂いていく。

 

しかし、時折強弱をつけるように指と手首を巧みに使い、牙狼剣を回転させたり宙に浮かせて持ち手を変えたりする柔の一閃と言うべき曲芸に似た剣を振るう。

 

この場にいる半分以上が武士である一同は流牙の剣舞にとても驚いていた。

 

剣術の流派は数あれど基本的な動作や構えなど共通する部分など多い。

 

しかし、流牙は今は亡き友との十年に及ぶ実践の修行と数々のホラーを相手にした命懸けの戦いの中で生み出された流牙だけの剣術はどれにも当てはまらない正に型破りの流離の剣だ。

 

少なくとも流牙の剣術を真似することはできても完璧に模倣する事は叶わない。

 

そんな流牙の剣術に久遠達は感動していると、いよいよ鎧を召喚する時が来た。

 

周囲のホラーや鬼を吹き飛ばすような体を横に回転させながら振るう回転切りを行った直後に牙狼剣を天に掲げた。

 

掲げた牙狼剣で頭上に円を描き、空間を切り裂いた光の輪が浮かび上がる。

 

光の輪の内側にひび割れたような模様が描かれ、静かな光が降り注がれて流牙の体を包み込むと円の中から複数の光の塊……黄金に輝くガロの鎧が舞い降りる。

 

黄金の鎧の部品達は流牙の周囲を舞い踊り、静かに流牙の両足から装着され、胴体から両腕……そして最後に頭部へと体全体に装着される。

 

『狼』の意匠を持つ鎧……それは古の時代、ホラーに立ち向かっていったとされる黄金の狼の伝説に因んで作られている。

 

更にとある強力な法力を持つ者によって浄化されたことでその形は変化し、鎧の細部に刻まれた紋様や飾りは美しく、見るもの全てを魅了するほどの輝きがあった。

 

いつもはホラーや鬼を射殺すような気を放っている流牙の瞳と一つになっている兜の瞳は今だけ優しい朝焼けの太陽のような綺麗な橙色に輝いていた。

 

そして、細身の直剣である牙狼剣は幅広い大剣へと変化し、それを納める赤い鞘も大きく変化して鎧と同じ金色のものとなっていた。

 

流牙が右足を一歩前に踏み出すと背後に炎と金色の文字が彩る紋章が大輪の花の如く広がり、鎧の召喚と装着が完了した。

 

その天上から舞い降りた神の如く神々しく、気高い姿を初めて目にした一葉、双葉、幽、そしてエーリカの四人は驚きのあまり言葉を失った。

 

しかしそれと同時にガロの鎧の美しさに目を奪われてしまう。

 

これほどに美しい輝きを放つものを今まで見たことない、夢ではないかと錯覚するほどに。

 

対する久遠達は今まで何度も見てきたガロの鎧を始めて正面からじっくり見られることに喜びを感じた。

 

そして流牙は大剣となった牙狼剣を鞘から抜き……魔戒騎士の最強にして最高の称号である黄金騎士ガロ……その金色に輝く剣舞を始める。

 

ホラーや鬼に対して一撃必殺の威力を誇る牙狼剣の剣閃はまさに豪快なものだった。

 

しかし、豪快と言いながらも時にふわりと軽やかに舞う大剣に一体どんな構造をしているのかと久遠達は驚きを隠せない。

 

それもそのはず、魔戒騎士の鎧と剣の原材料であるソウルメタルは持ち主の心で重くもなり軽くもなる不思議な金属で作られているからである。

 

つまり流牙にとって今の牙狼剣は見た目に反して羽のように軽いのだ。

 

そして、鎧を纏える制限時間である99.9秒はあっという間に近づいていき、最後に流牙は激しくて素早い動きをしてクライマックスを演出する。

 

最後にガロの鎧を魔界に送還しながら牙狼剣を鞘に納め、鍔鳴りが鳴り響く。

 

一瞬の静けさの後……久遠達から鳴り止まない拍手がわき起こった。

 

流牙は照れながら席に戻ると久遠達から絶賛の声が矢継ぎに出され、上機嫌となった一葉は将軍自ら流牙に酌をする。

 

こうして一葉は流牙の事を認めるが、エーリカからこの国に起きている異変が語られるのだった。

 

 

 




奏でるは弦の音色。

響くのは彼の言葉。

音色と言葉が月夜に交わる。

次回『歌 〜Song〜』

二つの旋律が調和を紡ぎ出す。




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