牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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今回は流牙の過去が語られます。


『歌 〜Song〜』

宴の席で流牙のガロの鎧のお披露目と剣舞を見せ、共に食事と酒を楽しんでいるとエーリカはどうしても話したい事があると言って全員に耳を傾けてもらった。

 

「私はとある役目のためにこの日の本に来たのです」

 

「役目?」

 

「私はポルトゥス・カレから派遣された天守教の司祭。……というのは表向きの役目で、本当の使命は、日の本に潜む、とある人物を暗殺することなのです」

 

暗殺と聞き、全員に静かな緊張感が漂う。

 

「暗殺?穏やかじゃないな」

 

「その人物の名は分かりません……」

 

「分からない?」

 

「はい。司祭様より命じられた任務は、この極東の国で異形の悪魔を操る人物を暗殺せよというものです。任務を受け、私は日の本の武人たちを従える将軍に協力を要請しようとしたのですが……」

 

「もはや将軍としての力のない余に落胆としたか」

 

「も、申し訳ありません!」

 

「よい、事実だからな。それより話を進めてくれ」

 

「エーリカ、その異形の悪魔はどんな存在だ?」

 

「悪魔とは異形の姿をした化け物のことです。膂力強く、敏捷性、体力……どれもこれも、普通の人では太刀打ちできないほどの力を待っている。対象の人物は、その異形の者を増やして、この国を悪魔の楽園にしようとしている。……司祭様からそう伺っております」

 

その悪魔の話を聞き、既に流牙たちの脳裏にはあの化け物の姿が浮かんでいた。

 

「つまりエーリカはその悪魔を操る謎の人物を切るためにこの国に?」

 

「はい。……」

 

「……一つ質問があります。その悪魔とやらは、人を襲いますか?」

 

詩乃は確認のためにエーリカに質問を投げかける。

 

「はい……悪魔たちは人肉を喰らいます。それに女性を襲って悪魔の子を孕ませるのです」

 

流牙以外全員女性なのでその話を聞いて背筋が凍り、顔を青くする者が出る。

 

「おぞましい生き物です。しかも悪魔たちの生命力は凄まじく、人間は決して打ち勝つことはできないでしょう。その見た目はおぞましく、口から牙が生えて驚異的な身体能力を備えています。人肉を好み、夜な夜な街に現れては人を喰らう。そして悪魔に殺された者は、呪法を施せば同じような悪魔として復活する。神の力を行使できる司祭や司教ならいざ知らず。普通の人では悪魔に対抗することもできず、殺されてしまうでしょう」

 

強大な力を持つ悪魔……しかし、その存在を流牙は切り裂いていた。

 

「エーリカ。俺はその悪魔……鬼と常日頃から戦って狩りをしているんだよ」

 

「えっ!?狩りをしているとは流牙さんは一体……」

 

戸惑うエーリカに流牙は牙狼剣を見せながら答えた。

 

「俺はこことは違う別の世界から来た、魔界から現れて人を喰らう魔獣・ホラーから人々を守りし者、魔戒騎士だ」

 

「魔戒騎士……?流牙さんは騎士様だったのですか!?」

 

「金柑よ、流牙はただの騎士ではない。流牙は邪悪なる異形を討滅する存在として最高位にして最強の存在、黄金騎士ガロの称号を受け継いでいるのだ!!」

 

何故か久遠が自慢げに話し、それに衝撃を受けるエーリカだった。

 

「お頭の鬼退治は凄いですからね!」

 

「鬼に反撃させないくらいに容赦なく切り倒しますからね」

 

「流牙様は鬼殺しの剣神とも呼ばれていますからね」

 

「何と!?それに黄金騎士という最高位にして、最強……では先ほどの金色の鎧がその証と!?」

 

「ああ。この牙狼剣はホラーや鬼など邪悪な存在を切り裂くことができ、ガロの鎧はその力を高めることができる……」

 

流牙は声のトーンを落として静かに話していく。

 

「流牙、さん……?」

 

いつしか流牙は牙狼剣を強く握りしめながら今まで久遠達にも見せた事のない炎を纏ったかのような怒りに満ちた憤怒の表情を浮かべていた。

 

「許さない……人を化け物に変え、その人の人生を無茶苦茶にする奴は絶対に許さない!!」

 

「落ち着け、流牙!怒る気持ちは分かるが何故そこまで……」

 

「そうだ……ザルバ殿!」

 

久遠が流牙を落ち着かせようと駆け寄り、詩乃はとっさに流牙の左手にはめられているザルバのカバーを外して話せるようにした。

 

『ふぅ、感謝するぜお嬢ちゃん。おい、流牙。お前の気持ちはよくわかる。だが今怒りを出しても何も変わらないぞ?』

 

「ザルバ!だけど!」

 

『確かにお前や波奏はあの男に人生を狂わされ、何度も辛い目にあった。しかし、お前の使命は何だ?守りし者としての心を忘れるな。冷静になれ。今ここで怒りを解き放っても意味は無い』

 

「流牙よ……お前に何があったのだ?あまり人の過去を聞きすぎるのは良くないと思うが、我はお前の妻だ。それに、ここにいるものはお前の怒りを理解しようとしている。だから、話してくれないか?」

 

「……分かった。少し長くなるけど、聞いてくれ」

 

それは流牙の運命でもある戦い……ガロの鎧が金色を失い、漆黒の鎧となっていた時の物語。

 

独立国家・ボルシティを舞台に流牙と仲間達でホラーを相手に戦っていたが、流牙……ガロにしか倒せない魔導ホラー。

 

謎が深まる魔導ホラーを倒す度に金色を失ったガロに黄金の輝きが宿る。

 

全ての元凶……多くの人の人生を狂わせた邪悪で卑劣な男、金城滔星の邪悪な魔の手。

 

かつて熟練の魔戒騎士であったが金城滔星によって魔導ホラーにされてしまった尊士との壮絶なる戦い。

 

しかし、その戦いで流牙は尊士の剣で両眼を貫かれて光を失い、絶望と敗北を与えられた。

 

絶望のどん底に叩き込まれながら見出した僅かな希望……牙狼剣に認められ、黄金騎士として認められた。

 

そして……死んでいたと思われていた母・波奏との十五年ぶりの再会。

 

波奏はガロに金色を取り戻すという流牙との約束を果たすため、十五年前に流牙が修行に旅立った後、ガロに金色の輝きを取り戻すためにゼドムと呼ばれるホラーの種子を体に取り込み、浄化してソウルメタルの金色の光を育てる儀式を行った。

 

しかし……そこに滔星が現れて波奏を連れ去り、それから十五年も飼い殺しにして魔導ホラーを生み続ける存在となってしまった。

 

波奏はいつか必ず魔導ホラーを流牙が討滅することを信じ続け、歌を奏でて魔導ホラーに宿るガロに金色を取り戻す光を育て続けてきた。

 

そして波奏の信じた通りに流牙はほとんどの魔導ホラーを倒し、ガロに金色を取り戻していく。

 

全てを知った流牙は守りし者としての再起の決意を胸に抱き、波奏は己の瞳の光を対価に流牙の失われた瞳を元に戻した。

 

激闘の末に尊士を含む全ての魔導ホラーを打ち倒し、完全なる金色の輝きを取り戻したガロ……しかしそれは波奏との永遠の別れを意味していた。

 

魔導ホラーを生み続けてきたその体はホラーになりつつあり、波奏を人間として死なせるため、流牙に生き続けてという約束を交わし……波奏は自ら牙狼剣を突き立てて眠りについた。

 

そして、最後の戦い……殺戮の闘将と呼ばれる強大な力を持つホラー、ゼドムを抑え込もうとした師……符礼は消滅してしまう。

 

しかし、残された魔導筆で弱点を指し示し、流牙たちを勝利に導いてボルシティに本当の平和が戻った。

 

流牙のボルシティでの壮絶な戦いと悲しき別れ……それを聞いたこの場にいる半分以上の者は涙を流していた。

 

「流牙よ……お前を絶望に追いやり、母上殿を飼い殺しにした滔星という愚か者はどうなった?」

 

久遠は体を震わせてこの場にいる誰よりも怒りを募らせていた。

 

「そいつはゼドムとの戦いの時に現れたホラーに憑依された」

 

『あいつの陰我はホラーでも驚くほどのものだった。最後は流牙が斬ろうとしたが、黄金騎士が相手にするまでもない雑魚ホラーと一蹴して嬢ちゃんによって射殺された。まあ嬢ちゃんにとってもそいつは父親と叔母の仇だったからな』

 

「そうか……もしまだ生きていたら私が流牙の代わりに手を下していたところだ」

 

滔星に引導が渡されて久遠は少し安心した。

 

そして、流牙の話を聞いてそれぞれが自分の思いを口にする。

 

「ううっ……まさかお頭にそんな悲しい過去があったなんて……」

 

「でも、流牙様のあの優しさと強さの起源が分かった気がする……」

 

「鬼やホラーから人々を守ろうとする強い意志……なるほど、これが守りし者、魔戒騎士ということですか……」

 

「一度絶望に落とされながらも母との約束で再び立ち上がり、戦い続けるか……」

 

「流牙様……そこまで辛い思いをしてまで使命を……」

 

「公方様や久遠殿も壮絶な過去をお持ちでしたが、いやはや流牙殿のもなかなか壮絶でしたな……」

 

そして、エーリカは……。

 

「……流牙さん」

 

涙を浮かべながら流牙に近づき、その手を取って強く握りしめた。

 

「あなたと私は立場は違えど人間の幸せと未来を奪う、悪しき化け物を憎む者同士。共に鬼からこの国を守りましょう!!」

 

「エーリカ……ああ、共に戦おう!」

 

同じ志を持つエーリカに感化され、流牙も手を握り返して深く頷いた。

 

「我らを忘れてもらっては困るぞ、流牙」

 

「久遠?」

 

「我もこの日の本から鬼を排除し、天下布武を目指してこの命尽きるまで夫である流牙と共に戦おう!!」

 

「お頭!流牙隊の一番最初の仲間として、最後までついていきます!」

 

「私も流牙様と共に戦います!」

 

「流牙様、私は既にあなた様のもの。我が知恵でお導きします!」

 

久遠達はエーリカの目的と流牙の過去を聞いて鬼と戦う決意を示した。

 

「なら、余を使うが良い。流牙、久遠よ」

 

「一葉?」

 

「力無き公方とはいえ、余はまだ公方であるのだ。日の本の民のことを考えれば手を貸すしかあるまい。今幕府は様々な勢力の脅威にさらされている。そこに久遠達織田家が救出に来ればやがて広がっていく鬼を駆逐する一大勢力が生まれる。皮肉な事だが、勢力を持たない余だからこそ、勢力に担がれるには最適だ」

 

力を持たない公方だからこそ久遠達が神輿を担ぐ者になって力を集めるのだ。

 

「それに……余の持つお家流は鬼相手に絶大な威力を発揮する。必ずお主達の力になろう」

 

「わ、私も微力ながらお手伝いします!」

 

「やれやれ。これはどうやら大事になってきましたな」

 

双葉も協力すると言い、幽はやれやれと言った様子だった。

 

こうして久遠と一葉は共に日の本から鬼を倒すために手を組んだ。

 

まずは一度久遠達は尾張に戻って兵を整えてからすぐに京へ向かうことが先決だった。

 

それから各地の諸勢力を糾合し、日の本から鬼を駆逐し、久遠の考える天下布武を行うという考えだ。

 

時間がかかるがそれが鬼から日の本を救うための一番確実で近道だと流牙とエーリカも納得した。

 

そして、話がひと段落すると、再び宴が再開され、色々な話を盛り上げていくのだった。

 

 

その夜……遅くまで宴会をやっていて流牙達は二条館に泊まることになった。

 

そんな中、眠れない双葉は目を覚まし、喉が渇いたので水を飲みに行った。

 

廊下をゆっくり歩いていると……。

 

〜〜♪〜〜〜♪〜〜〜〜♪

 

「弦の音……?」

 

こんな真夜中に弦の音が聞こえ、不審に思った双葉はその音の元へ静かに向かった。

 

琴や琵琶とも異なる初めて聞く弦の旋律にうっとりしながら進むと、物陰に隠れている見慣れた後ろ姿を目にした。

 

「お姉さま……?」

 

「ん?おお、双葉か。あれを見てみよ」

 

姉の一葉に手招きされ、恐る恐る近づいて弦の音の正体を目にすると……。

 

「流牙様……?」

 

二人の目線の先には月明かりに照らされている縁で流牙が堺で久遠に買ってもらったギターを演奏していた。

 

穏やかな表情をして静かにピッグで弦を弾くその姿は様になっており、二人はその姿に目を奪われた。

 

「……こっそり見てないでこっちに来たら?」

 

「ふむ……ばれていたか」

 

「すみません、覗き見をしてしまって……」

 

「いいよ。それより二人も座ったら?」

 

一葉と双葉はそれぞれ流牙の隣に座り、初めて見るギターを興味深そうに見る。

 

ちなみに流牙は二人に対してタメ口だが、二人が良いと許可したので流牙はいつも通りの口調で話している。

 

「琵琶に似ておるが細部がかなり異なるな」

 

「これはギターって言って、南蛮の楽器なんだ。この前堺で久遠に買ってもらったんだ」

 

「南蛮の楽器ですか。初めて見ました」

 

「流牙よ、南蛮の楽器であるこれを弾けるのか?」

 

「まぁね。一曲弾こうか?」

 

「うむ、是非とも」

 

「お願い致します」

 

「それじゃあ、ギターの演奏と俺の歌を」

 

「歌?」

 

「あ、そうか。この世界の歌は違うんだったな……俺たちの世界だと歌は音楽に乗せて気持ちを込めた言葉を乗せるんだよ」

 

「音楽に言葉か……それで流牙はどんな歌を聞かせてくれるのか?」

 

「うーん、そうだな……夜中だからあんまり激しいのはダメだよな。少し落ち着いた感じの歌でいい?」

 

「うむ、それで頼むぞ」

 

「お願いします」

 

「それじゃあ歌います。曲名は『風 〜旅立ちの詩〜』!」

 

右手でピッグを構え直し、左手でギターのコードを押さえながら弦を静かに弾いていく。

 

流牙が演奏するその曲は旅立つ一人の男とそれを待ち続ける一人の女のお互いを想い続け、いつか巡り会うことを夢みる一つの物語を描いた歌である。

 

かつてボルシティでホラー狩りのためにライブに乱入し、あっという間に大勢の観客の心を掴んで盛り上げたその魅惑の歌声は健在ですぐに一葉と双葉を魅了させた。

 

歌にはちょくちょく英語……一葉と双葉からしたら南蛮語が入っていたので意味はわからないが、それ以外の流牙の歌声もあって歌詞はとても心に響くものだった。

 

そして、歌い終わると一葉と双葉から拍手が送られる。

 

「素晴らしかったぞ、流牙!なるほど、これがお主の国の歌か!」

 

「とっても綺麗な歌声でした。もっと聞きたいぐらいです

 

「そうじゃな、双葉。流牙よ、他には無いのか?」

 

「え?他に?うーん……じゃあ、俺の世界で昔流行っていた歌を歌うね。曲名は……『SAVIOR IN THE DARK』!」

 

「せいば……何じゃ?」

 

「SAVIOR IN THE DARK。闇の中の救世主、って意味だよ」

 

「闇の中の救世主か……ふむ、面白そうだ。早速頼むぞ」

 

「かしこまりました、将軍様」

 

再びピッグを構えた流牙は先ほどの演奏とは違う早さのある曲だった。

 

それは戦いに身を投じる一人の男が一人の女と出会い、成長して本当の意味で戦いに大切な心を目覚めさせた物語の歌である。

 

普段から京都の町で暴れている一葉はその歌に興奮してすぐに気に入った。

 

「素晴らしいぞ、流牙!これを余が暴れている時に流れて欲しいくらいだ!」

 

「なんか妙に一葉に合いそうな気がするのは気のせいかな……?」

 

「ふふふ、お姉さまったら」

 

月夜の中、三人は音楽を通じて仲良くなり、絆を深めていった。

 

そして、流牙の守りし者としての強い意志と人を惹きつける不思議な魅力によって一葉と双葉はいつしか惹かれるようになったのだった。

 

そのことを鈍感である流牙が知る由もなく、翌日にはいつの間にか仲良くなっていることに久遠達が嫉妬するのは必然であった。

 

 

 




誰もが幼き日に望んだもの。

命の尊さと重さを知り。

守りたいと誓いを立てる。

次回『妹 〜Sisters〜』

それはかけがえのない大切な輝き。



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