京での二条館の攻防戦を書くのが楽しみです。
そしてそれが終わると更なる流牙の女難が(笑)
魔戒騎士は大変ですね・・・・・・。
お休みのキスをしてもらうために流牙と流牙隊+αと追いかけっこが始まってしまい、必死に逃げている流牙。
しかし、風よりも早く走る足で全力で逃げる流牙に見失ってしまう流牙隊+α。
すると、警備をしていた足軽を見つけたひよ子は流牙がどこに行ったか尋ねた。
「はっ、はっ、あの、今ここに流牙様はいませんでしたか!?」
「流牙様ですか?それなら、あっちの方へ走って行きましたよ?」
「そうですか、ありがとうございます!みんな〜、流牙様はあっちに行ったよ〜!」
ひよ子は近くにいるみんなに呼びかけて流牙が向かったとされる方向へ走って行った。
残った足軽は目線を隠していた笠を取りながら呟いた。
「……ごめんね、ひよ子」
その足軽は織田家の足軽ではなかった。
足軽はその場で回転すると鎧は漆黒の魔法衣へと姿を変えた。
そう……足軽の正体は流牙だったのだ。
流牙の纏う魔法衣は本人が望む衣装に変化することができ、ホラー狩りの潜入捜査でこの魔法衣の能力を重宝している。
今回はひよ子達の目を欺くために足軽の格好にしたのだ。
「さてと……久遠の元に行くか」
流牙は魔法衣を翻し、流牙隊+αに見つからないようにしながら久遠の元へ向かった。
☆
観音寺城の数ある屋敷の一つの縁側で久遠は一人で座って月を眺めていた。
戦いが終わった後の静けさで妙な静寂が広がっていた。
そこに一つの影が近づいた。
暗闇に紛れることができる漆黒の闇と良く似た衣に身を包んだその影に久遠は笑みを浮かべて話しかけた。
「よく、この場所がわかったな」
「ザルバが久遠の匂いを辿れたからだよ」
ザルバの探知でようやく探すことができた久遠の隣に流牙が座る。
「ふぅ……」
「疲れているようだな。何かあったのか?」
「ちょっとね……」
流牙は梅と起きた騒動について説明した。
「会ってまだ少ししか時間が経ってないと言うのに貴様と言う奴は……そこまで女を誑しこんで……」
「だから誤解だって……梅を助けただけなのに……」
「もはや天性の女誑しだな」
「それ、結菜にも言われた……」
「ふむ、流石は我が妻だ。夫の性質を的確に言い当ててるな」
「もう止めてくれ……」
流石にこれ以上は流牙の心に大きな傷を与えかねないので久遠はそれ以上言わないようにした。
月を眺めながら流牙は久遠に言う。
「一つ一つ、久遠の夢に向かっているな」
「次は京……一葉の元に行かなくては」
「三好を倒して、その後は越前……頑張っている市ちゃんと眞琴の為にも、俺たちも頑張らないとね」
「そうだな……道のりは険しいが、我には頼れる者たちがおる。この夢も現実になるだろう」
まだ始まったばかりだが着実に進んでいる久遠の夢への道。
思いにふけている久遠に流牙は立ち上がり、魔法衣からギターを取り出してピックを構える。
「色々忙しくて遅くなったけど、堺の約束を果たす時が来たよ」
「おお……遂にか。我が夫がどんな演奏をするのか楽しみだ」
「この曲を久遠に捧げるよ」
「わ、我にか……?」
自分に捧げる曲と言われ、ドキッとなる久遠に流牙は笑みを浮かべる。
「ああ。聞いてください……『篝火ノ夢』」
流牙はピックでギターの弦を鳴らし、淡い曲調の演奏をし、歌い始める。
それは魔戒騎士と魔戒法師の生き様を表すような淡く切ない歌だった。
しかし、人と人が紡いだ絆や縁はとても大切なものだということを伝える心に響く歌詞だった。
曲が終わり、流牙は久遠に感想を聞こうと思ったが……。
「く、久遠!?どうしたの!?」
「え……?」
久遠の目からは一筋の涙が溢れ、流牙は何があったのかとオロオロしてしまう。
「あっ、す、すまん!あまりにも素晴らしかったから呆然としていた……」
「そう?よかった……」
「たまに南蛮語があったから分からなかったが、少し寂しげな歌で今のこの場に良い雰囲気の歌だった……しかし、一つだけ解せないとこほがあったな」
「え?どこ?」
「闇を纏った……というところだ。闇を纏うとは闇に堕ちる、という事ではないのか……?」
鬼のこともあり、闇をよく思っていない久遠に流牙は苦笑を浮かべながら隣に座る。
「そうだね。闇は人を悪に染めるかもしれない……だけど、乗り越える事で正の心でも闇の力を使えるんだ。……俺もそうだからね」
「何!?流牙、どういう事だ!?お前が闇を……」
「今は見せられないけど、俺は……ガロの鎧は闇を纏えるんだ。だけど、俺の心は悪に染まってないでしょ?」
「確かにそうだが……本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫。俺の闇は光と共にある。そして、人間に仇なす邪悪なる存在を討つための力だ。久遠……俺を信じて」
流牙は久遠の瞳をじっと見つめた。
久遠は初めて流牙に会った時に目を見ればどんな人物か分かると言っていたが、今は夫婦で久遠は流牙の事を夫として大切に想っている。
なのでお互いに見つめ合うだけで久遠は顔を真っ赤に染めてしまう。
「わ、分かった!我は何があっても流牙を信じる!だからあんまり見つめるな!」
「ありがとう。闇の力はその内見せることになると思うから、見守っていてね」
「ガロが闇を纏うか……ガロだけでも凄いのにそこに闇を纏うとはどんなものになるのか想像もつかないぞ」
久遠にとって闇を照らす金色の輝きが闇を纏う姿を想像する事が難しかった。
「誰もが驚くあっと驚く能力があるよ」
「それは楽しみだ。皆に新たな希望を見せてあげてくれ」
「ああ、任せてくれ」
流牙と久遠の月夜の密会……それは二人の絆を深める大切な時間となった。
しかし、久遠と過ごせる時間がこれから少なくなってしまう事を今の流牙は知らなかった。
☆
観音寺城を落としてから、はや数日が経過した。
江南の小城を攻めていた壬月たちとも無事に合流を果たし、観音寺城で出陣の準備に手間取っていたが、ようやく準備が整い、いよいよ京に向けて出発となる。
途中、森一家の桐琴と小夜叉が来て、たわいもない話をしていたが、馬が合わないのか梅と小夜叉が喧嘩をし出した。
口喧嘩だけならよかったが、互いの獲物を取り出して殺し合いの喧嘩をしようとしていたので流牙は近くにあった岩の元に行き、拳を強く握りしめた。
そして……。
ドゴォオオオオオン!!
「うおっ!?」
「はひっ!?」
流牙は岩を拳で粉々に粉砕し、喧嘩していた二人はビクッと驚いて止まった。
「二人共……喧嘩を止めてって、言ったよな……?」
流牙は満面の笑みを浮かべているが体中から怒気を放っており、あまりにも恐ろしい姿に小夜叉と梅は震えていた。
「この岩を砕くお仕置きの拳骨か、大人しく喧嘩を今すぐやめる……どっちがいい?」
拳には傷一つ付いておらず、岩を粉砕した際の細かい小石や砂埃が付いていた。
「「すみませんでした……」」
二人はすぐに頭を深く下げて喧嘩を止め、消沈しながら大人しくなった。
いつも強気な小夜叉が消沈したので桐琴は大笑いしながら自分の持ち場に戻っていった。
喧嘩も収まり、京への歩を進めると、犬子から報せが来た。
「流牙様ー!本陣にて久遠さまがお呼びですよ!」
「久遠が?何があったのかと?」
「京への露払いに出ていた麦穂様と雛から早馬が到着したらしいんです」
「分かった。すぐ行く。詩乃、部隊を頼んだ」
「はい、行ってらっしゃいませ」
流牙は詩乃に流牙隊の指揮を任せ、久遠の元に急いだ。
「久遠!何があった?」
「流牙……予想してはなかったことが起こった。胡散臭い変事だがな」
「胡散臭い?」
「うむ。実は……あの松永弾正少弼が降伏したらしい」
「松永って、一葉たちを狙っている敵の親玉だよな?」
「そうだ。だかは予想だにしなかった変事が起こった、と言ったのだ。今から松永と謁見を行うつもりだ。それで流牙には護衛を頼みたい」
「分かった。だけど、その前にちょっと待ってくれ。小波」
「お側に」
「悪いけど俺たちの謁見の時に、周囲に松永、それか三好の草や兵が居ないか探ってきてくれないか?」
「御意。……いた場合は?」
「出来るだけ殺さないで欲しいが……小波に任せる」
「承知。では速やかに処理に向かいます」
小波は流牙の前から消えて周囲の様子を探りに向かった。
「行くぞ!」
「ああ!」
それから流牙と久遠は軍を率いて走りだし、瀬田に到着したのは夜になった。
陣幕で区切られた本陣、久遠の座所に到着した。
床几に腰掛けた久遠の横に立つように、流牙が護衛として立つ。
すると、ザルバからの呼び出しでカバーを開けて耳元で声を聞く。
『流牙、微かだが……』
ザルバの話を聞き、流牙は声に出さず驚いて目を見開きながら魔法衣のポケットにある不気味な一つ目の化け物のような姿をした小さな箱を取り出して客人を待った。
「松永弾正少弼様をお連れ致しました」
麦穂と雛、そして妙齢な女性が在所に入ってきた。
「まずは謁見の機会を与えていただき、深くお礼言上仕る。織田上総介殿」
「貴様が松永弾正少弼か」
「いかにも松永弾正少弼久秀。通称は白百合。見知り置き願おう」
その女……白百合は何も恐れないような不敵な様子で久遠と対峙する。
「単刀直入に聞く。何を考えて降伏をーー」
「久遠、ちょっとごめん」
「流牙?」
流牙は久遠から白百合の元に行き、用意していた小さな箱を取り出した。
カチャ!ボウッ!!
箱を開くと中から翡翠色の火が灯され、白百合の目の前に近づけて翳した。
「な、何をする!」
「黙ってろ……よし、あんたは人間だな」
白百合の赤い瞳には何の変化は起きず、流牙は一息をつき、箱を閉じて翡翠色の火を消す。
「流牙、松永に何をしたのだ?」
「これは魔導火ライター。魔界の炎を灯すことができて、人間の眼前で翳すと、魔獣が憑依しているなら瞳孔に模様が浮かんで見抜くことが出来るんだ。ザルバがこの人から鬼の匂いがするから人間かどうか確かめたのさ」
魔戒騎士は魔導火ライターを使って人間に憑依したホラーを探知している。
鬼の匂いがするとザルバから聞き、白百合が鬼かどうか確かめたのだ。
「鬼の匂いだと……?貴様、何があった!」
「うむ。我に思うところあり。三好と手を切り、上総介殿を頼る決意を致した……三好三人衆、外道に堕ち申した」
「外道?」
白百合の話は久遠たちが観音寺城を落とした当日、勝竜寺で白百合と三好三人衆は抗戦の準備をしていた。
そこに若狭から若い謎の占い師がやってきて巧みな話術で三好三人衆を誑かし、飲めば百人力となる妙薬を献上した。
白百合は己の力で戦わず、訳のわからない薬に頼るような外道と共に歩くことは出来ないと、織田に降伏を申し出た。
「これが三好と袂を分かつ時にくすねた例の丸薬よ。服用するつもりはないが、後で調べようと思っていたのだ」
白百合が取り出した小さな印籠の中には丸薬が入っており、流牙はその薬をザルバを近づけさせるとすぐにその正体が分かった。
『こいつは薬なんて代物じゃないぜ。鬼の体液を固めたものだ。こんなものを食ったら心は壊され、たちまちその姿が鬼になるぞ』
白百合から鬼の匂いがしていたのはこの薬が原因だった。
流牙はこの薬を与えたザビエル、そしてそれを服用して自ら鬼となって外道に堕ちた三好達へ強い怒りを持った。
「力を手に入れるためにこんなものに手を染めるなんて……白百合さん、この薬を処分させてもらうね」
「好きにしろ」
「ザルバ!」
『おう!』
流牙は丸薬を全て空に放り投げてザルバを掲げると、ザルバの口から魔導火を放射させ、丸薬を灰も残らず全て燃やし尽くした。
流牙は滅多に使わないがザルバの口からも魔導火を出すことが出来、魔獣に攻撃できる。
「さて、弾正少弼。話は少し逸れたが、以降我が手足となって働け」
「はっ!」
白百合は久遠の元で働くことになり、壬月と麦穂は反対したが久遠は手元に置くことにして麦穂に預けることになった。
多少の不安が残るが、白百合は織田軍に加入する事となった。
「流牙。我は後続を待って態勢を整える。だが、白百合が織田に降ったとなれば三好が動く可能性が高い」
「了解。流牙隊で先に京に向かって一葉と合流する。そして、一葉たちを守る」
「頼む。我も出来る限り早く体制を整えるつもりだが、今しばらく時間がかかる」
「魔戒騎士として魔獣に身を落とした三好はこの俺が斬る」
「頼もしい限りだ。一葉たちを頼む」
「任せて」
流牙は陣に戻る前に白百合の元へ行った。
そして、魔戒騎士として三好と共に戦っていた白百合に言っておくことがあった。
「白百合さん……あんたの昔の仲間、外道に堕ちた三好は俺が斬る」
「なるほど……ただの優男かと思いきや、ずいぶんと強い意志を持つ男よのぉ。田楽狭間の天人、道外流牙殿」
「鬼を切るのが俺の使命だ。だからあんたは久遠の為に働いてくれ」
「ふふふ……任されよう。そして、お主がどれほどのものか見せてもらうぞ」
白百合との話を終え、流牙は陣に戻った。
陣に戻ると既に出陣の準備が出来ており、小波が先回りして伝えてくれていた。
そして、流牙率いる流牙隊とエーリカ……後はどうしてもついて行くと言う結菜を連れて一足先に京へ向かった。
小波の先導の元、何の妨害も無く無事に二条館に辿り着くのだった。
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力を求め外道に堕ちた者。
平和を求め未来を守る者。
新たな時代への刻限が刻まれる。
次回『戦 〜War〜』
光を喰らう闇の襲来が始まる。
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