それから魔導火ライターってあんな使い方出来るんだ(笑)
さて今回で流牙にとって悲しき別れが待ち受けます。
そして、遂に牙狼の禁断の力が目覚めます・・・・・・。
「俺が鬼達を止める。みんなは少しでも遠くに逃げてくれ」
「「「っ!!?」」」
それは流牙が命をかけて鬼を止め、結菜達を逃す……つまり、自ら犠牲になるということだった。
「何を言ってるのよ!あなたが死んだらみんなの犠牲が無駄になるじゃない!」
「そうです!流牙様!あなたはここで死んではいけません!」
「流牙が残るのならば余が代わりに残る!流牙を見捨てることなど出来ん!!」
「……結菜、これを」
流牙は自分の大切な相棒であるザルバを抜いて結菜に渡した。
「流牙……あなた……」
「もし……君に男の子が生まれたら、魔戒騎士として育てて欲しい。ザルバを頼んだよ」
流牙は震える手でザルバを受け取った結菜の姿を瞼に焼き付けて立ち去ろうとしたその時だった。
「この大馬鹿者が……!!!」
ドスッ!!
「がはっ……!?」
流牙の背後に現れた桐琴は流牙の腹を思いっきり殴った。
完全に油断していた流牙は腹に強烈な痛みが走り、体の力が抜けて崩れ落ちる。
慌てて結菜と一葉が流牙を支え、流牙は苦痛で顔を歪めながら桐琴を見る。
「桐琴、さん……な、何を……!?」
「小僧、貴様はこの日の本の未来を背負う男……ここで死んだら日の本は終わる。易々と死ぬような真似をするな」
「でも……誰かが、止めないと……」
「結菜様、公方。小僧を頼む」
「桐琴……」
「……うむ。任せておけ」
「結菜様、久遠様にはよろしく伝えておいてください……。小僧、ここの殿はワシ一人で務める。その間に引け」
それは流牙の代わりに命をかけて鬼を止めるという桐琴の決断だった。
「なっ……ふざ、けるな!桐琴さんを置いていけるわけが……」
「お前の許しはいらん。おい小娘、小夜叉に言伝を頼む。小僧と共に達者で暮らせ。そして九郎判官を守って死んだ弁慶のように、命を賭して小僧を守ってやれ。……そう伝えろ」
「必ずや……!」
桐琴は詩乃に小夜叉への言伝……遺言を託し、詩乃は強く頷いた。
そこに騒ぎを聞きつけた鞠達が桐琴の別れを知り、それぞれが最後の話をする。
鞠、綾那、歌夜は桐琴の死を背負い、流牙を守り、支えると誓いを立てた。
すると、ザルバから鈴の音が響き、持っていた結菜はカバーを開いた。
『桐琴よ……お前さんのその名を黄金騎士の友、このザルバの魂に永遠に刻もう』
普段他人を認めないザルバが桐琴を認めた。
「ザルバ……結菜様達と共に流牙を支えてやれ。これまで交わして来たお前との話、中々楽しかったぞ」
『俺様もだ。さらばだ……』
それぞれが最後の別れを告げる中、まだ認めていない流牙は桐琴との約束を問うた。
「俺との……俺との決闘の約束はどうなるんだ!?」
「悪いな、そいつは来世に頼む……さぁ、小僧を連れて行け!加賀を抜け、越中を抜け、日の本を包む闇を抜け!駆けよ!疾く駆けよ!駆けるものこそが歴史を作り上げるのだ!」
桐琴は流牙に背を向けて歩き出し、一葉は撤退命令を下した。
「桐琴、さん……!」
流牙は手を伸ばすが、体が思うように動かず、だんだん桐琴の姿が小さくなって見えなくなる。
「小僧……いや……『流牙』!!!」
初めて桐琴が流牙を名前で呼び、流牙は目を見開いた。
「生き延びて、必ずこの日の本を救え……そして、皆の希望の光となれ!!!」
「桐琴さん……」
「最後に……お前と小夜叉と一緒に三人で出掛け、鬼狩りをしていた時……とても楽しかったぞ。まるで、自分のガキが増えたようでな!!」
流牙はその言葉に目を見開き、息が止まるようだった。
その後ろ姿には自分に未来を託して死んでいった大切な母と師匠……波奏と符礼の姿が重なった。
流牙の両眼から大粒の涙が溢れ、この世界で出来た『母』の最後の勇姿をその目に焼き付けた。
「桐琴……母、さん……」
「ふっ……さらば、達者でな!!!」
それが日の本の未来を守るために命を燃やし尽くす最凶の女武者の最後の姿だった。
☆
桐琴が鬼を相手にしている間に一葉の先導で流牙達を連れて先を急いだ。
流牙は桐琴に腹を殴られた時の痛みが体に残っており、結菜に支えられながら歩いていた。
「流牙……」
結菜は渡されたザルバを流牙に返した。
「もう二度と自分を犠牲にしようと考えないで……」
「……ああ」
「もし破ったら雷閃胡蝶でぶっ飛ばすから……」
「……分かった」
流牙は桐琴の思いと結菜の約束を胸に抱き、ザルバを握りしめる。
流牙達が逃げ延びた先は九頭竜川と呼ばれる有史以来氾濫を繰り返し、崩れ川との異名がある川だった。
ここを渡河すれば加賀は目の前だが鬼は確実に近づいている。
すると先に来ていた小夜叉は桐琴の姿がないのを気づく。
桐琴から言伝を託された詩乃は涙を流しながら小夜叉に桐琴の最後の言葉を伝えた。
突然の母の死に小夜叉は雨の中、慟哭の叫びをあげた。
まるで雨が小夜叉の涙を覆い隠すように降り注ぎ、沢山の涙と声を荒げ、言伝の言葉を噛み締めながら前を向いた。
小夜叉は流牙を守り、森一家の頭として生きることを決めた。
流牙は小夜叉の再起に心を打たれ、休んでいる場合じゃないと結菜の肩から離れてザルバを左手中指に嵌める。
「ザルバ、俺も負けてはいられないな……」
『そうだな。お前のために命を咲かせた桐琴の想いに応えなくてはな』
それぞれが心に強い思いを込める中、そこに鬼の大軍が近づいて来た。
流牙は目を閉じて心を深く静めて牙狼剣を鞘から抜いて構え、強い意思を持つ瞳を輝かせる。
「桐琴さんの思いを無駄にしないためにも……俺たちは死ぬわけにはいかない。必ず、生き残ってこの日の本を救うんだ!!」
流牙は鬼の大軍に向かって突撃し、牙狼剣を振るう。
今まで以上に生きる意志を強く持つ今の流牙の神経は研ぎ澄まされ、無駄が無い動きで鬼を切り裂いていく。
更に魔法衣から牙狼刀を取り出すと鞘を投げ飛ばして鬼にぶつけながら構えると、刃が白く輝いて鬼を断ち切る力を増した。
しかし、牙狼刀に引き寄せられるように鬼が次々と集まっていく。
流牙は牙狼剣を掲げて円を描くと、一斉に鬼が襲いかかり、光の輪からガロの鎧が召喚される。
鎧が装着され、鬼の爪が流牙に直撃しかけたその時、翡翠の炎が旋風となって天を焼き尽くすように舞い上がる。
流牙の全力の烈火炎装で周囲の鬼と空を覆う雨雲を焼き尽くした。
しかし、まるで流牙達を嘲笑うかのように更に鬼の大軍が現れた。
「生きて、守るんだ……」
牙狼剣と牙狼刀を強く握りしめ、流牙は自分に言い聞かせながら鬼を切り裂く。
必ず生き延びて、己の使命と約束を果たすために。
これ以上、大切な人達の命を散らさないように。
「うぉおおおおおおおおおっ!!!」
二つ銀の刃を鬼の血で染めながら凄まじい勢いで鬼を討滅していく。
しかし、鎧の制限時間が刻々と近づいてくる。
『流牙!もう時間が無いぞ!早く鎧を解除しろ!』
「分かってる!」
ザルバが流牙に警告を出すが、今流牙が鎧を解除すればたちまち鬼の餌食になってしまう。
流牙は一旦闇を纏って空を飛び、そこで解除してから再び鎧を召喚しようとした。
しかし……。
ガシッ!
「なっ!?」
地面の中から鬼の腕が出てきて流牙の足を掴んだ。
それから続々と鬼が現れて触れれば大きな痛手を負うガロの鎧を強く握りしめながら流牙の動きを封じた。
それを好機と見た大量の鬼が一斉に流牙に襲いかかり、数十体の鬼が覆い被さった。
鬼はガロの鎧に皮膚が引き裂かれながらその鋭く大きな爪と牙を突き立てていく。
流牙の絶体絶命の危機に一葉達は一斉に救出しに向かった。
そして……流牙の運命を変える『その時』が少しずつ近づいていた。
-----10-----
「流牙!!喰らえ、鬼共!!三千世界!!!」
一葉の三千世界で刀を大量に召喚して放つが、流牙を覆い尽くす鬼の密度が高すぎて捌ききれない。
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「くっ……ここでは樹木から流牙殿は遠すぎる」
幽には植物を操るお家流があるが、完全に会得してないことと、流牙と樹木の距離が離れすぎて使うことが出来ない。
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「流牙!こんなところで死ぬんじゃねえ!!ちくしょう、邪魔だぁあああっ!!」
小夜叉が流牙を助けようと突撃するが、地面から現れた大量の鬼に阻まれる。
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「流牙様ぁっ!!」
「綾那!早く流牙様を!」
小夜叉に続き、綾那と歌夜が加わって鬼を蹴散らす。
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「流牙を離すの!疾風烈風砕雷矢!!」
鞠はお家流を全力で開放して鬼を切り刻む。
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「ご主人様!臨、兵……くっ、邪魔だぁっ!」
小波は印を結んで句伝無量とは異なるもう一つのお家流を使おうとしたが、鬼が邪魔をして集中することが出来ない。
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「流牙様!」
「早くなんとかしないと!!」
ひよ子と転子も小夜叉たちの助太刀に向かいたがったが、足軽の指示と目の前の鬼の撃退に動けない。
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「何をしていますの、八咫烏隊!早くハニーを押しつぶしている鬼を撃つのです!」
「む、無理だよぉ〜!鬼が多すぎるよ!」
「っ……」
梅は八咫烏隊に近づく鬼を蹴散らしながら叫ぶが、鬼が多すぎて鉄砲があまり意味をなさず烏と雀は焦っている。
-----2-----
「流牙様!早く脱出を!!」
「ですが、このままだと……!」
詩乃と雫は必死に頭の中で打開策を思いつこうと考えるが、見つからなかった。
-----1-----
「流牙ぁあああっ!!」
結菜の悲痛な叫びが響く。
鬼に押し潰されて動けず、ガロの鎧と共に流牙が鬼に食われそうになったその時……。
-----0-----
バリィン!!!
鎧の中で『何か』が砕け、ガロの紋章が刻まれている腰のエンブレムが回転して上下反転した逆三角形となり、鎧に異変が起きた。
「うぐっ!?」
流牙が纏うガロの鎧から流牙に異変を齎す赤い邪気が解き放たれた。
赤い邪気が強い衝撃波となって放たれ、覆いかぶさっていた鬼を全て弾き飛ばし、流牙は不思議な力で宙に浮いていた。
結菜達は流牙が脱出し、安心した次の瞬間、その表情が不安となって崩れることとなる。
解き放った赤い邪気がガロの鎧に流れ込むと、 牙狼剣と牙狼刀が手からすり抜けるように落ちて地面に突き刺さった。
「あっ、がっ……ごっ、ぐぁ……!」
今まで感じたことの無い自分の中の何かが壊れ、何かが入り込む言葉に表し切れない感覚が流牙の体を襲うと、鎧が大きく膨れ上がった。
鎧が徐々に巨大化していき、人型の鎧からまるで神話の化け物のような姿へと変形した。
何倍にも大きくなった鎧は全身から刃のようなものが突き出し、背中からは竜のような鋭利で長い尻尾が生えた。
そして、味方には優しくて頼もしく、敵には恐ろしい二つの表情を見せる橙色の瞳を持つ狼の兜は一変し、見たもの全てを恐怖に変える獣の兜となっていた。
巨大で禍々しい獣の姿……それは魔戒騎士が鎧装着の制限時間である99.9秒を過ぎても鎧を解除せず、鎧に心を喰われ、変化した姿。
魔戒騎士の闇……禁断の力。
最強の魔戒騎士・黄金騎士ガロの全てを破壊する最凶最悪の姿。
その名は……『牙狼・心滅獣身』。
闇を照らす希望の光が全てを破壊する絶望の闇へと変わり果てた姿となってしまった。
『「ガアァアアアアァアアアアアアアアアーーーーッ!!!」』
金色に輝く暴狼の咆哮が雨の音を掻き消すように天に向かって轟いた。
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それは望まぬ力だった。
暴走する金色、滅びの刃。
心無き光が闇を消し去る。
次回『獣 〜Beast〜』
獣の咆哮が全てを滅ぼす。
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