牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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今回はちょっとしたギャグとシリアスが混ざったような話です。
書く度にツンデレキャラで一番美空が好きなんだなと改めて実感しました。
可愛くてツッコミも鋭くて今後も活躍すると思います。


『愛 〜Family〜』

春日山城に向けて移動し、夕暮れ時に流牙は流牙隊のみんなと一緒に夕食を食べていた。

 

ちなみにそれだけじゃ少し足りないので近くの野山に生えている野草などを流牙や小波で採取し、料理上手の結菜や転子がお浸しやお吸物にするなどをしてなんだかんだで結構充実しているのだった。

 

そんな楽しい夕食の時、結菜はあることを思い出すように流牙に尋ねた。

 

「ところで流牙、一つ聞きたいことがあるんだけど」

 

「ん?何?」

 

「移動とかで忙しくてなかなか落ち着かなかったけど、あなたのガロの鎧……どうなってるの?」

 

「どうなってるって……」

 

結菜の質問の意味がいまいちわからずきょとんとしていると、少し不安な表情を浮かべてその意味を答えた。

 

「ほら、この間……心滅獣身で鎧が大きくなって、色々変化していたじゃない……」

 

「あぁ……」

 

心滅獣身でガロの鎧は何倍にも膨れ上がり、魔戒騎士の鎧から破壊の化身となった巨大な獣の姿へと変貌した。

 

銀狼の魔戒騎士のお陰で腰のエンブレムを牙狼剣で突き、鎧を強制解除をして魔界に送還したがそれ以降、流牙は一度も鎧を召喚していない。

 

「多分大丈夫だと思うよ?鎧は一部が破損しても魔界に送還して再召喚すれば元に戻っているらしいから。何なら食事の後に召喚してみるか」

 

「そうね、私も久しぶりに鎧を真正面からしっかり見たいし。みんなも見るよね?」

 

『『『はいっ!』』』

 

ひよ子達は元気よく返事をし、急いで夕食を食べ終えると陣から少し離れた静かな小川の近くで行う事になった。

 

結菜や一葉、流牙隊の主要メンバーが集まり、流牙は皆から見つめられて少し緊張しながら牙狼剣を左側に構える。

 

そして、鞘から抜いて天に向けるように掲げ、切っ先で光の円を描いた。

 

ひび割れた円の中から金色に輝く鎧が召喚され、流牙の体に装着される。

 

夜の闇を照らすように煌びやかに輝く黄金の光。

 

それは結菜達がよく知る人々に希望を与える金色の光、黄金騎士ガロの姿だった。

 

威風堂々とした変わらぬ、心滅獣身の恐ろしくない、いつものガロの姿に結菜達は流牙に拍手を送った。

 

拍手喝采を浴びた流牙は照れくさそうにしながら鎧の橙色の瞳で皆を優しく見つめた。

 

するとそこに四つの影が流牙達に近づいていた。

 

「へぇー!それが金色の天狼の本当の姿なのね。なるほど、この前のと違って勇ましくて美しい鎧ね」

 

それは流牙が鎧を召喚して披露すると、どこからか嗅ぎつけてきた美空達だった。

 

「おおー!とっても綺麗っす!こんな真夜中なのにキラキラしてるっす!」

 

「本当に綺麗……」

 

「これが金色の天狼……なるほど、この越後までその名が轟いてもおかしくないですね」

 

美空達がガロの鎧の美しさに絶賛し、中でも特に気に入った美空が近づいたその時だった。

 

美空の体から白い光が輝くと五つの光が舞い降りた。

 

「た、帝釈!?みんな!?」

 

それは美空と契約している五つの戦乙女……護法五神だった。

 

帝釈天たちは美空を守るように前に出てガロを睨みつけて警戒していた。

 

ガロの鎧の中にある秘められた邪悪な力……神である帝釈天たちはそれを警戒している。

 

それに気付いた流牙は静かに帝釈天たちに近づく。

 

ガシャン!ガシャン!!と、鎧の重みがある音が一歩一歩と静寂の空気に響きあった。

 

帝釈天たちは近づく流牙に警戒心を高め、今すぐにでも交戦しようとしたが、流牙は歩きながら鎧を解除すると牙狼剣を鞘に納めて美空たちにも見せる。

 

「護法五神の帝釈天、多聞天、持国天、広目天、増長天……で、名前は合ってるよね?」

 

神仏である護法五神に対し、恐れずに笑顔を向ける流牙。

 

鎧を解除しても未だに警戒している帝釈天たちに流牙は自分の気持ちを伝える。

 

「君たちは美空のことを大切に想っているんだね。でも大丈夫、この牙狼剣の刃が、ガロの力が人間に向けることはない。守りし者として、俺は人間を守るために戦い続ける。だから……俺を信じて欲しい」

 

流牙の言葉にそれが嘘ではないと感じた帝釈天たちは静かに警戒と戦闘態勢を解いた。

 

そして、目を閉じて光となって流牙と美空の前から姿を消した。

 

「驚いた……帝釈たちが私以外の言葉をちゃんと聞くなんて」

 

「ふぅ。流石は神様、ホラーと対峙するより緊張するな」

 

流牙の世界には神という存在がいるかどうか分からない。

 

人間以外の異形はホラー、稀に霊獣が存在するが神は見たことない。

 

「でもまさか美空たちが見にくるとは思わなかったよ」

 

「一度見ておきたかったからね。あなたの鎧を見れて良かったわ。まさに金色の天狼に相応しい姿だったな」

 

「ありがとう。そうだ、これから南蛮の楽器を演奏するんだけど、せっかくだから聴いていけば?」

 

流牙は魔法衣からギターを取り出した。

 

鎧のお披露目と一緒に皆の心を癒すために流牙のギターの演奏会もやる事になっていた。

 

「これが南蛮の楽器……せっかくだけど、やめておくわ。まだ空と愛菜と春日山城を取り戻してないし。そうね……演奏は二人を取り戻した時の宴の席で披露してちょうだい」

 

「分かった。取って置きの曲を演奏するよ」

 

「ええ、楽しみにしているわ」

 

美空たちとその場で別れ、流牙はギターを構えて心を癒す月夜の演奏会を始めるのだった。

 

 

それは春日山城に向けて準備をしていたある日のことだった。

 

「たのもー!たのもーっす!」

 

「ん?何だ?」

 

道場破りのように活気のある叫ぶ声が流牙隊の陣の外から聞こえ、流牙は陣の外に出てそれらを出迎えた。

 

「あ、リュウ」

 

「これはリュウさん直々にお迎えっすか。丁度良かったっす!」

 

それは松葉と何故か大量の武器を持って来て背負って来た柘榴だった。

 

「どうしたんだ?柘榴、そんなに叫んで。まるで道場破りみたいだったぞ?」

 

「え?破っていいんすか!?」

 

「一応道場みたいな事をやってるけど、看板は無いよ?」

 

ちょうど流牙は久しぶりに道外流道場として陣内で軽く稽古をしていた。

 

「でも強い奴はいるっすよね!」

 

「まあいるけどね」

 

「じゃあ今日は誰がいいっすかね……そうだ!あの槍持ってるちっちゃいのとかいるっすか?」

 

「槍使いで小さい……どっちだ?」

 

流牙が思いつく限り槍使いで小さくて強いのは小夜叉と綾那の二人だった。

 

「どっちが誰だか分かんないけど、どっちでも……何だったら両方でもいいっすよ」

 

「それだけはやめておけ。とりあえず中に入れば小夜叉か綾那……どっちかいると思うから。好きに戦って」

 

「分かったっす!松葉、後は任せたですよ!」

 

「承知」

 

そう言ってうきうきと楽しそうな雰囲気で柘榴は沢山持ってきた武器と共に陣の奥へ走っていった。

 

「それで。俺になんか用でもあったの?」

 

「柘榴はおまけ。大将がお呼び」

 

「美空が?分かった、行こうか」

 

流牙は松葉に連れられて美空の元へと向かった。

 

その途中でひよ子と転子と小夜叉、そして秋子と会った。

 

無事に流牙隊と森一家の補給が完了し、八咫烏隊を含む鉄砲隊は戦で大きな戦力になるので玉薬も補給してくれた。

 

「ありがとう、秋子さん」

 

「いえいえ。それより松葉ちゃん。柘榴ちゃんは?」

 

「いつもの悪い癖」

 

「……そう。それと……御大将はどうだった?」

 

「まだ平気。普通にしてる」

 

美空の様子を気にしている秋子に流牙は目を細めた。

 

「そう……。なら良かった。すみません、うちの若い衆がご迷惑をお掛けしているようで

 

「とんでもない。こちらにも戦いが好きな子が多いから、いい刺激になると思うよ」

 

「そうならいいんですが……」

 

「ンだ?何かやってんのか?」

 

「流牙さま、何かあったんですか?」

 

「柘榴が流牙隊と腕試しがしたいらしくてね。多分、綾那と戦ってると思うよ。小夜叉も行ってきたら?」

 

戦うことが好きな小夜叉は流牙にそう言われて元気よくはしゃぐ。

 

「おっ!いいな、よーし行ってくるぜ!」

 

「こ、小夜叉ちゃん!?」

 

「ま、待ってくださいよー!」

 

小夜叉は柘榴と手合わせをするために流牙隊の陣に向かって走り、ひよ子と転子は後を追う。

 

「大丈夫かしら、柘榴ちゃん……その辺の加減は……多分、大丈夫なんじゃないかなーって……思っちゃったりはするんだけど……」

 

「大丈夫、そう、信じたい」

 

「まぁ、何かあったら大騒ぎになるし、もし収集がつかなくなったら俺が拳骨を食らわせて大人しくさせるから」

 

ちなみにその拳骨だが、実践したことはないが小夜叉と梅が恐れる岩を砕く鉄拳だとは二人は知らない……。

 

「げ、げんこつですか……?とりあえず、その時はお願いしますね?」

 

「任せてくれ。それじゃあ松葉、美空の所に行こうか」

 

「うん」

 

秋子と別れ、引き続き松葉と歩いていると流牙はあることを思い出す。

 

「そう言えば……さっき秋子さんと話していた、美空の様子って、何かあるのか?」

 

「…………出家」

 

「出家?」

 

「大将、機嫌が悪くなると出家するって言い出す」

 

「どういうこと?」

 

「もともと大将、僧籍の身」

 

「僧籍だったんだ……」

 

「普段は空さまがいれば平気。でも、今はいないから……みんな心配している」

 

「美空にとって家出みたいなものか……小さい頃にお寺に預けられていたからか」

 

「……喋りすぎた。大将には内緒」

 

「ああ、分かったよ。美空には黙っておくよ」

 

「うん。あ、着いた」

 

話をしているうちにあっという間に美空の陣に到着した。

 

「大将。リュウ、連れて来た」

 

「遅かったわね。柘榴は?」

 

「悪い癖」

 

「ちょっと抜け駆け!?誰とやり合ってるの。一葉さまだったら承知しないわよ!」

 

「違う。槍使いで、ちっちゃくて、強いの」

 

「槍使いで、ちっちゃくて強い……誰?」

 

「何人か候補がいるけど、多分綾那。今頃やってると思うよ?」

 

「ちっちゃくて強い槍使いでけでそんなにいるの?ちょっと有能な人材が多すぎるんじゃない?」

 

「お陰様でね。それより、補給してくれてありがとう」

 

「大将。松葉はこれで」

 

「ええ、ご苦労様」

 

松葉と別れ、流牙は椅子に腰掛けて美空に話しかける。

 

「それで、今日はどうしたんだ?何かあったのか?」

 

「暇だから呼んでみただけ」

 

「そうなの?それじゃあ、何か話でもする?」

 

「随分とあっさり了承したわね……」

 

「美空と友好を深めるにいい機会だろ?まずは話からしなくちゃ何も始まらないからね」

 

「全く……本当にあなたは女誑しね〜」

 

「ちょっと、その点だけは断固抗議するけど」

 

「あら何を言うの?幕府公認の誑しの癖に」

 

「好きで幕府公認になったつもりは無いんだけど……はぁ……本当にどうしてこうなったんだろうな……」

 

流牙はしょぼんと暗くなり、自分の不運(?)と言う名の女難に酷く落ち込んでいると、流石の美空も少し言い過ぎだと思い、急いで話題を変える。

 

「えっ……?そ、そんなに落ち込まなくても……そ、そうだ。一つ聞きたかったんだけど!」

 

「何……?」

 

「ここに来るまでに、あなたの兵に風邪の予防方を教えていたわよね。あれは南蛮のやり方?」

 

越後に来る際、流牙は流牙隊や兵のみんなに風邪をひかないように予防法を教えていたので、寒い地域に住んでいる美空はそれを非常に興味を持っていた。

 

「ああ……こっちはかなり寒いから風邪を引かないように対策を話していたんだ」

 

「良かったらそれを教えてくれない?」

 

「別に良いよ。越後は寒い地域だから通用すると思うし」

 

「あなたの国も寒いところだったの?」

 

「いいや、俺の生まれ故郷はそうでもなかったよ。ただ、俺は無人島で十年も過ごしていたから、そこで独自に編み出したんだ」

 

無人島で十年過ごしていたと言う流牙のとんでもない発言に美空は自分の耳を疑った。

 

「……はい?おかしいわね、今無人島で十年も過ごしていたって聞こえたけど……」

 

「おかしくないよ。本当に無人島で十年を過ごしていたんだよ」

 

「何で無人島で十年も過ごすことになっているのよ!?一体何歳からやったの!?」

 

「何でって、魔戒騎士としての修行で、ガロの鎧を継承するための修行。七歳から魔戒獣の羅号と一緒に毎日ひたすら修行に明け暮れていたんだ。特に冬は寒くてね……最初の年は本当に寒くて、凍えて危うく凍傷になりかけたから。うおっ、今思い出すだけでも寒いな……」

 

「七歳の時から十年も修行って……ま、まぁ、無人島って言っても流石に雨風凌げる家くらいは……」

 

「そんなものは無かったから外で寝ていた野宿だよ」

 

悉く美空の予想を遥かに超える流牙の過酷な修行時代に自分の人生は何だろうと落ち込んでしまう美空だった。

 

「……寺に預けられて、越後の当主になって、その結果……捻くれている私の人生って、何だろうって思えてくるわ……」

 

「み、美空。俺の人生は色々とかなり特殊だからあまり自分と比べない方がいいよ?美空だって十分波乱万丈だし……」

 

「人を守るために修羅の道を行くあんたも相当波乱万丈よ……ねえ、せっかくだから魔戒騎士と魔戒法師について話してよ。良いでしょう?あなたが暴走していた時、助けてあげた恩があるんだから」

 

「魔戒騎士と魔戒法師……気になるの?」

 

「ええ。私、寺に預けられていたから歴史に興味があってね。天の世界で戦う、魔を戒める騎士と法師についてね。それぐらい良いでしょう?」

 

確かに美空と護法五神がいなかったら心滅獣身で暴走していたガロから流牙を解き放つのは難しかったかもしれない。

 

そう言われると流牙も弱くなり、仕方ないと了承するしかなかった。

 

「……分かったよ。とりあえず歴史とか知識とか教えられる範囲で教えるよ」

 

「頼むわ♪」

 

流牙は自分の知る限りの魔戒騎士と魔戒法師の歴史や知識を教えた。

 

何百年、何千年と続く守りし者の長い歴史に美空は一つ一つじっくりと聞いていく。

 

「なるほどね……魔戒騎士と魔戒法師、守りし者は言わば一つの宗教的な組織みたいなものなのね。やっぱり昔だと相当闇も深そうね」

 

「そうだね……歴史が長い分、過ちも沢山あっただろうけど、その過去の過ちがあるからこそ二度と犯さないと今の人たちは戒めている」

 

「そうね。それにしても、何百年、何千年とホラーとの戦いから人を守り、戦い続けてきた守りし者たちは本当に凄いと思う。今までよく戦ってこれたわね」

 

「古の時代から受け継がれてきた守りし者としての永遠の想いがあったからこそホラーに世界を滅ぼされる事なく守れてこれたんだ」

 

過去から受け継がれ、そして現在から未来へと繋いでいく永遠の想い……それこそがホラーを討滅することができる、守りし者としての本当の強さなのだ。

 

「いい話が聞けたわ。ありがとう」

 

「どういたしまして。あ、そうだ。俺も聞きたいことがあるんだ」

 

「ん?何?」

 

「君と秋子さんの娘の空ちゃんと愛菜ちゃんの事」

 

すると、先程まで良い雰囲気だったのに何故かいきなり空気が凍りつき、美空は目を見開いてから流牙を睨みつけた。

 

「ん?どうしたの?」

 

「まさか、あの二人まで毒牙に……!」

 

「は?毒牙って?」

 

「柘榴や松葉はあの子達の事だし、秋子は行き遅れなくらいだから別にいいけど、あの二人に手を出したら織田との全面戦争くらいじゃ済まさないわよ!?」

 

空と愛菜を思うがあまり、色々と妄想して暴走してしまう美空。

 

しかも自分の配下に対してかなり酷いことを言うほどだった。

 

「ちょっと!?柘榴と松葉はともかく、秋子さんに対してかなり酷いことを言ってないか!?」

 

「事実でしょ!」

 

「君は鬼か!?秋子さんが聞いたら泣くぞ!?って、誰が二人に手を出すか!」

 

「でも天下御免の誑しなんでしょ!?」

 

「それは俺にとって不名誉で誤解だ!誑しなんてした覚えはない!」

 

「そうかしら!?あの今川のおちびちゃんだって愛妾なんでしょ!?ほらやっぱりそうじゃない!」

 

「そ、それは、鞠は俺の事を好いているから結果的にそうなったんだ!それに、鞠は可愛い妹分で、あんな小さな子に手なんか出さないよ!」

 

「怪しいわね。こう、言葉巧みに……天下御免の誑しのお家流とかで何とかしてるんじゃないの?」

 

「そんな恐ろしいものがあってたまるか!俺にとってのお家流はガロと、この耳の力だけだ!」

 

「耳の力?ただ耳がいいだけでしょ!」

 

「……俺は物に込められた思いや声をこの耳で聞けるんだ」

 

「はぁ!?何それ!?物に込められた思いや声を聞けるなんてありえないわよ!剣といい、鎧といい、魔法衣といい、あなたはどれだけの力を持ってるのよ!?」

 

「そう言う美空だって護法五神を使役しているじゃないか。俺からしたら神を使役している方がすごいと思うけど」

 

「その帝釈たちの三昧耶曼荼羅を防ぎ切った鎧の所有者のあんたが何を言うのよ!」

 

片や伝説にして最強の魔戒騎士の称号である、黄金騎士ガロの継承者。

 

片や毘沙門天の加護を受け、護法五神を使役する越後の当主。

 

どちらも人とは異なる存在の力を操ることができ、単純にどちらが優れているなどと測ることは出来ない。

 

「……ねえ、俺の負けでいいからもう止めない?話がかなり脱線してるし……」

 

「それもそうね……それで、話を戻すけど、何であの二人のことを聞きたいの?」

 

「気になるだけだ。そこまで美空が大切にしている二人なんだろ?」

 

「ええ……そうね。空は大切な子よ。それこそ、私の娘にしたいくらいに」

 

「愛菜ちゃんは?」

 

「愛菜は秋子の娘だしね。それに空とも歳が近いし、仲もいいから……これから先、絶対に空を助けてくれる将に育ってくれると思う」

 

「そうか……それなら、尚更何とかして助けなくちゃな」

 

「……あなたとは関係ないのに、どうしてそう思うの?」

 

「……家族を助けたい気持ちは俺にもよく分かるからさ。それに、魔獣との戦いで巻き込まれた幸せな家族を奪われたことが何度もあったから……」

 

「そうなの……でもそうじゃなくても、あなたはかなりのお人好しね」

 

「自覚はしている」

 

「あなたにはそう言う相手はいないの?大切な人とか……」

 

「そうだな……離れ離れになった久遠や仲間達はもちろん、そして俺と一緒にいる結菜や一葉、流牙隊のみんな。俺たちの為に命を散らした桐琴さん。そして……」

 

流牙は晴天の青空を見上げ、空に向かって手をかざし、美空も空を見上げる。

 

「空……天……?」

 

「俺はみんなが言う天の世界から来たって知ってるよね?その世界には共に大きな戦いを潜り抜けた沢山の仲間がいるからさ。それに……」

 

流牙の脳裏には旅の中で出会って来た大切な仲間達の姿。

 

そして、一番大切な一人の女性の姿。

 

「大切な相棒を残して来ちゃったから……」

 

「もしかして、その相棒ってあなたの恋人?」

 

「恋人じゃないけど、多分お互いにずっと一緒にいたいと願っている関係、かな?」

 

「へぇー、あなたがそこまで言うなんてね……」

 

「平和な時と戦いの時……どちらの時間も支えてくれる大切な人。君にとっての空ちゃんみたいな存在だね」

 

「そう……今頃心配しているでしょうね」

 

「ああ。だから……いつかは必ず、終わらせなければならない」

 

「終わらせるって、何を?」

 

美空の問いに流牙は空にかざした手を握りしめ、強く握った拳を胸に持って行く。

 

そして、美空に己の歩む道を答える。

 

「全ての鬼を討滅し、その背後にいる黒幕を倒し、この国を人の世にする」

 

「そのために、春日山で恩を売るつもり?」

 

「そうだ。そして……全てが終わったら、俺は元の世界に帰る」

 

元の世界に帰る……流牙のその答えに美空は驚いたように目を見開いた。

 

今の流牙は幕府公認で将軍・一葉の良人、この日の本で最も大きな権力を持つ権力者でもある。

 

どんな事でもできる権力者があっさりとその立場を捨てて元の世界を帰ると言ったのだ。

 

そして何より……。

 

「……あなたの奥さん、離れ離れの信長や一葉様達を捨ててでも……帰るの?」

 

「ああ……そうだな……」

 

「……最低ね。あんなにも可愛くて良い子達を捨てるなんて」

 

流牙の妻達は一葉以外会うのは初めてだが、どれも心優しく流牙の事を心の底から大切に想っている。

 

同じ女として、いくら体を交わってない夫婦とはいえ、いつか妻を捨てることを宣言しているその夫の流牙を睨みつける。

 

そんな美空の言葉に耳が痛い流牙は苦笑を浮かべた。

 

「そう、だね……最低な夫だよ、俺は。でも、それを承知でみんなは俺の妻になってくれたんだ」

 

「……全く、ある意味、歴史上最低最悪な女誑しね」

 

「誑しているつもりは無いけど……そうかもね……」

 

この国を守るためとはいえ、皆が了承しているとはいえ……流牙は男として最低なことをしているかもしれない。

 

だけど流牙は立ち止まる訳にはいかない。

 

多くの人の思いや約束を胸に戦い続けると誓ったから。

 

「……もう良いわ。色々話してくれてありがとう」

 

「ああ。じゃあ戻るね……」

 

「ええ……」

 

流牙は美空に言われた言葉が棘となって胸に深く刺さり、苦しい心の痛みを抱えながら静かに陣から立ち去る。

 

「本当に、難儀な男ね……」

 

孤高に生きようとするも、お人好しで優しすぎる一人の魔戒騎士……そんな流牙の背中を見て、美空は大きなため息をついた。

 

 

 




儚く、脆く、そして強い小さな命。

生きとし生けるものが作り出した奇跡。

小さくも大きな可能性を持ち、新たな明日を創る。

次回『子 〜Children〜』

子供は未来を創る希望の欠片。



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