牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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越後編も遂に後半戦の後継者争乱編に突入です。
新キャラも続々登場するので書くのが楽しみです。
朧ちゃんはまだツンツン時期で周りが引くほどのデレデレは北条編なので残念です。
その代わり名月ちゃんを可愛く書いていきたいと思いますので!


『乱 〜Disorder〜』

美空たちは空と愛菜を取り戻し、いよいよ春日山城を取り戻す最後の戦いに臨んだ。

 

人質を取り戻し、恐れるものが何も無い美空たちは気合い十分で春日山城近くに向かうが越後衆に混じって黒い影が一つあった。

 

「どうして俺は……ここにいるんだろう……?」

 

それは美空の隣にいる呆然とした流牙だった。

 

本来なら流牙は結菜や詩乃たちと共に戦場から離れた場所で陣を待機をしているはずだが、美空に無理やり連れてかれてしまった。

 

「言ったでしょ?私たちの力を見せるって」

 

「だからってこんな間近でなくても良いじゃないか……」

 

「別に良いじゃない。あなたには絶対に戦わせないし、特等席で見せてあげたいのよ」

 

「お願いだから結菜達の元に帰らせてください……」

 

「ダ・メ・よ♪じゃないと同盟の件を更に先延ばしにするわよ?」

 

「そんな……」

 

最低でもしばらくは美空か秋子の隣に居なければならなくなり、軽く意気消沈する流牙だった。

 

ちなみに流牙隊の小波を筆頭に何人かは美空の頼みで城内に侵入して内側から扉を開けるように裏方で動いている。

 

侵入方法はいつもの通りで流牙があらかじめ飛ばした縄付きの鉄の矢を投げ飛ばして城壁に刺し、綱渡りで侵入した。

 

そして、美空達は春日山城の大手門で最後の戦いに臨むため、戦国武将特有の口上を述べた。

 

「城方の極悪謀反人ども、御大将の言葉、耳かっぽじってよーく聞くっすー!」

 

「聞けぃ!越後に仇なす謀反人どもよ!貴様らの頼みの綱であった人質二人、この長尾景虎がしかと取り返した!もはや貴様らに勝ち目なし!己の罪を認め、降伏するならばしかるべき温情を与えよう!それでも戦うというのなら、越後の武士として、勇敢に殺し合おうではないか!越後の龍に付き従う兵どもよ!天高く旗を掲げよ!この越後の支配者は誰なのか、天に!地に!衆目を教えてやれ!」

 

越後衆の兵たちの気合の声が轟き、美空たち越後衆を象徴する旗を掲げた。

 

「長尾の御旗たてぃっすー!」

 

「越後が英傑、長尾景虎。その守護を務めるは、武勇名高き毘沙門天の旗」

 

毘沙門天の化身と謳われ、加護を受けている美空を象徴する『毘』の文字が描かれた旗を掲げる。

 

「我らに毘沙門天の加護あらんことを!」

 

「もひとつ掲げるっすー!」

 

「大日大聖、懸かり乱れ龍の旗」

 

また、越後の龍の異名を持つ美空のもう一つの旗である『龍』の文字が描かれた旗を掲げる。

 

「我らに不動明王の加護あらんことを!」

 

「毘沙門天よ、不動明王よ!勇敢なる我らの戦い。存分に照覧あれ!」

 

「かかれぇぇぇぇぇぇぃ!」

 

柘榴が先陣を切り、越後衆の兵たちが一斉に走り出した。

 

その光景を見た流牙は口を開きっぱなしでぽかーんとした様子で先程とは別の意味で呆然とした。

 

「凄いな……」

 

こんな間近で戦の開始を見たことなかったのでその勢いや迫力に圧倒されてしまう。

 

空と愛菜を取り戻したことで恐れるものが何もなくなったこともそうだが、当主である美空のカリスマ性や武将や家老の柘榴たちの存在が兵の力を高めている。

 

越後衆の力を間近で見る流牙はこれから鬼に向けて共に戦うことになるとしたら大きな戦力になると実感するのだった。

 

ザルバのカバーを開いて一緒にこの戦いの行く末を見守る。

 

「これが終われば美空たちは同盟に加わるかな……」

 

『さぁな。だが、お前は信じているんだろ?』

 

「今はそれしか出来ないからね……」

 

越後衆の力を目の当たりにすると同時にある考えが流牙の頭の中をよぎった。

 

人同士の争う戦に参加することが出来ない流牙は守るべき存在である人の醜い一面の一つ……戦の光景が瞳に、記憶に焼き付けていく。

 

元の世界では見ることがなかった戦の光景……。

 

己の正義、欲、使命……理由は異なるがそれの為に人は争い続けている。

 

魔戒騎士と魔戒法師は魔獣の手から人を救う為に影から戦い続けてきたが、長い歴史の中で守るべき存在である人に絶望し、闇に堕ちた者は大勢いる。

 

かつて、神の牙の異名を持ち、守りし者たちの中で名が通っていた一人の魔戒騎士がいた。

 

その魔戒騎士は魔戒法師の女と結婚し、一人の子供を授かり、幸せな旅をしていた。

 

しかし、守るはずだった大勢の人間に裏切られてその子供は生贄にされてしまい、魔戒騎士と魔戒法師は怒りと悲しみで復讐に取り憑かれ、ホラーに憑依されてしまった。

 

そして、人の心を失い、ホラーを喰らい、大勢の命を奪う化け物へと変わってしまった。

 

もしも同じ立場だったらその魔戒騎士と同じことをしていたかもしれない……だけど、流牙は一人ではない、側にはいつも共に戦い、苦難を共にする大切な仲間たちがいる。

 

たとえ道を踏みはずそうになっても仲間たちが止めてくれる。

 

「俺は人を守る……守りし者として」

 

流牙は人の醜さを受け入れながら改めて守りし者としての強い意志を確かめていくのだった。

 

そして……美空たちは無事に春日山城を取り戻すことに成功したのだった。

 

 

美空が春日山城を取り戻して、一夜が明けた。

 

流牙は流牙隊の主要メンバー全員を引き連れて空の案内の元、春日山城内を歩いていた。

 

ちなみに春日山城を乗っ取った首謀者である美空の姉、晴景は逃亡中、残った母……政景は城に残っていた。

 

重い処分にはならないそうだが、実の母が謀反を起こして、その上娘の空を人質に取ったことに流牙は腹が立ち、軽くブチ切れそうになって思わず説教をしに行こうとしたが、結菜たちに止められた。

 

「着きました。お姉様、流牙様以下の皆様をお連れ致しました」

 

「通して頂戴」

 

部屋には美空だけでなく秋子や柘榴、松葉といった春日山の主要な将が揃っていた。

 

「大所帯ね」

 

「みんな来いって言っただろ?」

 

「まあいいわ。本当ならちゃんとした評定の方が良いのだろうけど、一応流牙は裏方だから。……悪いわね」

 

「別に良いよ、この方が気が楽だから」

 

「さて、道外流牙どの」

 

「……はい」

 

美空の真剣でかしこまった表情と声に流牙に緊張が走り、背筋を伸ばして美空と向かい合う。

 

「この度の春日山城攻城戦。勝利を得ることが出来たのはひとえに道外どのの助力あったればこそ。その功を素直に認め、かねて貴殿より要請のあった織田との攻守同盟を受け入れよう」

 

美空からの念願の答えを聞き、流牙だけでなく結菜や一葉たちは一瞬言葉を失った。

 

遂に美空は同盟に加入することを決めてくれたのだった。

 

そして流牙は笑みを浮かべ、久遠の夫として答えた。

 

「……織田家棟梁、織田久遠信長の夫、道外流牙。その名において、長尾家との攻守同盟を受け入れる。ありがとう、美空!」

 

「越後のために働いてくれた、その借りを返すため。そして……あなたの描く未来を見るためにね」

 

それは宴の夜に流牙と美空の話した描いた未来と夢の話……それを実現するための大きな一歩だった。

 

しかし、同盟を結んだと言ってもそうすぐに兵を出せるわけではない。

 

春日山城を取り戻したばかりでまだ色々とやらなければならないことが美空たちに待っている。

 

流牙たちも美空たちの事情があるのですぐに出してもらえるとは思ってもいなかったので、ひとまずは織田との連絡を取れるように依頼した。

 

流牙の考えた同盟が無事に結び、大きな仕事を終えて皆が喜ぶ中……嵐は突然やって来た。

 

「申し上げます!たった今、正門にお客様が……!」

 

兵から緊急の用事を美空に報告して来た。

 

美空は内乱の直後だからロクな客ではないと追い払おうとしたが、その客人は見過ごすことができない人物らしく美空は舌打ちをして立ち上がる。

 

「チッ……流牙、後で呼ぶから今は下がっていて」

 

「何かあったのか?」

 

「……遠い親戚が口出ししてきてね。まぁ長尾家内のいざこざよ」

 

「長尾家内か……分かった、何かあったら呼んでくれ」

 

そして、客とは上段で会うと言い残した美空は長尾家の主要メンバーと共に流牙たちにも同席を要請した。

 

何故自分たちが呼ばれたのか今一理解が出来ないが、ひとまず流牙は詩乃と雫を連れて上段の間へとやって来た。

 

屋根裏には小波に、結菜と一葉たちは隣の部屋で待機している。

 

上段に鎮座する美空はいかにも不機嫌そうな表情を浮かべて客を待っていた。

 

その周囲には長尾家家老である秋子と共に見たことのある二人がおり、立ち上がって近づいて来た。

 

「流牙どの!」

 

「貞子さん!」

 

一人は空と愛菜を奪還した時に出会った、二人を影から見守っていた居合いの武将、貞子だった。

 

「この度は本当にありがとうございました」

 

「ああ。それよりも貞子さんが無事で良かったよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

流牙は貞子と再会を喜ぶと以前侵入した時に見た、うさ耳のリボンを付けた少女が話しかけた。

 

「おお。貴様が道外流牙とやらか。ふむふむ、中々どうして。良き面構えをしておるのぉ」

 

「あなたは……?」

 

「我が名は宇佐美定満と申す。通称は彩綾じゃ。よろしく頼むのじゃ」

 

「どうも。えっと……」

 

流牙はどこか懐かしさを感じる宇佐美の雰囲気に少し呆然としていた。

 

「なんじゃ、どぎまぎしおってからに。小僧殿は年若幼児体形型に欲情する変態なのかえ?」

 

「違います」

 

流牙はロリコンの疑いを掛けられたが即答で否定し、一つの疑惑を確かめるための質問をした。

 

「失礼だけど……もしかして俺より年上ってことは無いかな……?あなたと少し似た雰囲気の人を知っているんだけど……」

 

それを聞いた瞬間、宇佐美と貞子は目を見開いて驚いた。

 

「よく気がついたの……その通り、儂は貴様より年上じゃぞ」

 

「もしかして、おばあちゃんってことは……?」

 

「そうじゃが?しかし、どうして気がついたのじゃ?」

 

予感は的中し、流牙は苦笑いを浮かべて宇佐美の問いに答えた。

 

「実は……俺の尊敬する人、リュメ様と言う方がいて。その人は見た目はあなたのように幼女だけど、実年齢はおばあちゃんなんだ……」

 

「な、なんと……儂以外にも『可愛いババァ』を目指している者がおるとは……!?」

 

宇佐美は自分以外にも幼い見た目で中身は高齢という者がいることに衝撃を受けていた。

 

「可愛いババァって……リュメ様は目指して無いよ、確かに小さくて可愛いけど……」

 

流牙は初めてリュメに出会った時の驚きや自分たちに親身になってくれた優しさを思い出す。

 

「リュメ様は卓越した法力を持っていて、その影響で肉体の歳が取らなくなってしまったんだ」

 

「なるほどの……是非とも同じ可愛いババァ同士会って見たいものよのぉ。じゃが……そのリュメはお主の世界の者じゃな?」

 

「そうだよ。でも、もし会えたらあなたと楽しく話せると思うよ」

 

「そうかそうか。話は変わるが、御大将から聞いておる。鬼と戦う為に織田と同盟を結ぶとな。じゃがのぉ……」

 

「もしかして……武田が心配?」

 

「ほぉ、気づいておったか」

 

美空たち長尾衆の宿敵とも言える存在、甲斐の武田。

 

美空と対等に戦える相手とあって、常に気が抜けないのだ。

 

「越後との同盟……その為には武田をなんとかしなければならない。越後内部は美空たちに任せるとして、武田は機会があれば俺がなんとかする」

 

「お主が?」

 

「ああ。それは、武田を仲間に引き入れる」

 

武田はこの戦国にその名を轟かせている一派で諜報部隊の情報収集能力は凄まじく、棟梁の『武田晴信』は戦の天才と呼ばれている。

 

流牙は是非とも武田も同盟に加わって欲しいと密かに思っていた。

 

「武田が仲間になれば同じ同盟国である越後と争うことはなくなる……どうかな?」

 

「はっ!武田を?あの甲斐の虎を仲間に引き入れる?……くくくっ、あはははははっ♪」

 

「変かな……?」

 

「変というより、その考えは思いつきませんよ……」

 

「武田とは長年敵対しておる儂らでは思いつかん、面白い手じゃと思ってな」

 

「敵対しているからこそ手を組んだら凄い力になると思う。だから機会があれば武田と会ってみたいと思う。まぁ……美空にはしてないけど。言ったらやばいことになりそうだし」

 

「その方が良いぞ。じゃがまぁ……うむ。儂は貴様を気に入ったぞ!」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

「うむ♪……そうじゃ!小僧には特別に、儂のことを『うささん』と呼ぶことを許してやるのじゃ!」

 

「うささん?」

 

「そうじゃ。この呼び方は儂が気に入ったやつにしか呼ばせんのじゃ。それで、気に入ったついでに、小僧どうじゃ?今宵、儂と床でまぐわわんか?」

 

「う、うささま!?」

 

まさかの宇佐美からの提案に隣にいた貞子は目みを開くほど驚いたが、流牙は冷静な様子で軽く頭を下げた。

 

「全力で断らせていただきます」

 

「なんじゃ、つまらんのぉ。はっ!?もしやお主、実はそっちの趣味が……」

 

「何を考えているか知らないけど、変な邪推はやめてください」

 

「だったら、ここは一つババァ孝行だと思うてーーーー」

 

「うさぁ!この性悪兎ぃ!そんなところで色目使ってないで、こっちに来なさい!」

 

流牙に色目を使っている宇佐美に対し遂にブチ切れだ美空は大声で叫んで呼び戻した。

 

「ほっ。我が儘姫が、自分の物に手を出すなと怒っておられるわい。ここは退散の一手じゃな」

 

「それでは流牙殿、失礼します」

 

「ああ。貞子さん、うささん、また後で」

 

「うむ。後で呼んでやるから来るのじゃぞい♪」

 

「……酒ぐらいは付き合いますからそれ以上はやめて下さい」

 

「それは楽しみじゃな。のう、貞子よ」

 

「はい!」

 

宇佐美と貞子と酒を飲み交わす約束をし、一息をつくが、隣にいる詩乃と雫にジト目で睨みつけられて落ち着く暇がない流牙だった。

 

そして、ここに呼ばれた目的である客人が遂に現れた。

 

「越後国主・長尾美空景虎さまご養女、北条三郎名月景虎さま、ご入室ぅ」

 

小姓の呼び声と共に一人の少女が入室したきた。

 

「……北条?」

 

北条の名字に疑問を抱きながら流牙は入室してきた金髪のドリルツインテールをし、美空の衣装に似た雪の結晶が描かれた衣服を着た可愛らしい少女を見つめる。

 

その少女の存在が越後に新たな争乱を起こすことになるのだった。

 

 

 

.




小さな波は大きな波を呼ぶ。

新たな陰謀が越後に危機をもたらす。

未来を導くため、小さき二つの希望が対立する。

次回『継 〜Successor〜』

越後の未来を決める戦いが始まりを告げる。



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