牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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流牙の新作映画が発表となり嬉しいです。
でも神ノ牙なのでスピンオフな話になるかどうかわかりませんがまだまだ牙狼が楽しめるので幸いです。


『継 〜Successor〜』

流牙たちは遂に美空たち越後と鬼を倒すための同盟を結んだ。

 

しかしそこに謎の客人……美空の養女である少女、北条三郎名月景虎がやってきた。

 

「まずはご無事の内乱鎮圧、誠に祝着至極にございます。美空お姉様。越後国主の世継ぎが一人、名月景虎、お祝いの言上を仕りますわ」

 

「ありがとう名月。あなたも無事で良かったわ」

 

(越後国主の世継ぎの一人だって……?どういうことだ?美空の後を継ぐのは空ちゃんじゃないのか?)

 

何やら国同士の政治に関わる内容らしく、美空から話を聞いてなかったので流牙は真剣に話の内容に耳を傾ける。

 

(そう言えば空ちゃんを奪還した時にもう一人女の子がいなかったかって美空が言っていたな……それはあの子の事だったのか)

 

特殊な立場の人間……北条という苗字から名月は関東の巨大勢力である北条家の人間ではないかと推測する。

 

名月は美空が流牙たちに会うために越中に出かけている間、実家の人間が貢ぎ物を持って来ていたので空や愛菜のように囚われることなく中立の立場で入られたらしい。

 

北条の当主……『氏康』の名代として、名月の姉である『北条綱成』が来ており、一人の女性が入室して来た。

 

柘榴とはまた違った露出度の高い服に身を包んだ凛とした振る舞いの武人で鋭い眼差しで美空を見ていた。

 

「……本日は長尾の養子となった我が姪・名月景虎の実家として、国主殿に門責に参った次第」

 

「へぇ?相模の片田舎の領主が問責なんて、大きく出たものねぇ」

 

美空は真っ向から喧嘩するような発言をし、秋子たちを困らせた。

 

そして、綱成の口から衝撃的な内容が出された。

 

「此度の越後の内乱により、我らが領内である武蔵から上野にかけての治安が乱れに乱れ、北条としては甚だ迷惑至極。これは越後国内の政情が安定しないためであり、長尾家が人心収攬さえも出来てない証左ではなかろうか?よって、名月景虎の実家である我が北条家は、長尾家に対し、早期の後継者指名と、当代の隠居を勧めるものである」

 

それは越後の後継者が決まってないから国が乱れているので早急に後継者と美空の隠居を進めるという無茶苦茶な内容だった。

 

「ええ!?い、隠居とはどういうことですの?わたくし、そんな話はーーーー」

 

「名月は少し黙っていなさい。良いわね?」

 

「は、はい……」

 

名月は話を聞いておらず、綱成に黙ってと言われてしまい、言葉が出なくなる。

 

「もしこの勧めを無視するのであれば、北条としては致し方なし。養子に出したとは言え、名月は我が愛すべき姪である。北条家はその実力の全てを持って、名月の身の安全を確保する。……以上。全て氏康の事であると思し召せ」

 

綱成の言葉に長尾家臣たちの間にどよめきが走る。

 

「そんな無法な……」

 

「へぇ……面白いこと言ってくれるじゃない」

 

ふらりと倒れかけた秋子をよそに美空は笑顔で相槌を打っていた。

 

美空は笑っているがその身からは冷たい殺気が沸々と溢れていた。

 

流牙は無言で詩乃と雫を下がらせ、魔法衣の内側に手を伸ばす。

 

「ちょっと確認なんだけどさ。たった今、私は喧嘩を売られたって認識で良いのよね?ねっ?ねっ?そういうことよね?うふふっ……良かったぁ。最近、腹が立つことが多くて、むしゃくしゃしてたのよねぇ〜。事態が事態だから前に出る事も出来ないし。丁度良いわぁ〜……その喧嘩、買ってあげる!!」

 

今までの鬱憤がついに爆発し、美空は冷静さを完全に失って刀を手に取る。

 

「ちょっ!」

 

「不味い……!」

 

「ああっ、またややこしいことに……っ!」

 

柘榴たちの慌てふためく様も視界に入ってないのか、美空は抜いた刀を構えて下半身にバネを溜める。

 

「返事はあんたの頸ってことにしてあげるわ!」

 

怒気と共に啖呵を切った美空が溜めたバネを解き放ち、刀を振り上げたその時だった。

 

キィン!!

 

「くっ!?」

 

「なっ!?」

 

美空と綱成の間に一つの影が立ちはだかった。

 

「何をするのよ……流牙」

 

「刀を納めろ、美空」

 

流牙が美空の前に立ちはだかり、右手で持つ鞘に納めたままの牙狼剣で刀を受け止めた。

 

もう一方の左手では後ろにいる綱成がすぐにでも抜こうとした刀の柄を抑えていた。

 

美空はギロリと殺気の込めた瞳で流牙を睨みつけた。

 

「これは私が売られた喧嘩よ?邪魔しないでよ」

 

「……子供に血を見させるな」

 

流牙は静かな怒りを漂わせながら美空を睨みつける。

 

「っ……」

 

今まで感じたことのないその怒りに美空は思わずたじろいでしまう。

 

「何が起きているのか、どういう関係か知らないけど、その子の姉を斬ろうとしたな?せっかく城を取り戻し、平和になった越後でこれ以上悲しみを作るな!!」

 

流牙はこれ以上越後に悲しみを作らないために、そして……名月を悲しませないために美空を止めに入った。

 

暴走する美空をたとえ気絶させても止める……流牙はその覚悟で美空の瞳を見つめる。

 

「……ちっ。今回はあんたに免じて引いてやるわ」

 

美空は流牙の言葉で頭が冷え、刀を下げて鞘に納める。

 

流牙も牙狼剣を下ろし、綱成の柄から手を離した。

 

綱成は流牙の牙狼剣とその風貌に目を見開いて驚く。

 

「赤い鞘の剣……黒衣に銀の指輪……まさか、金色の天狼、道外流牙!?」

 

「え?うん、そうだけど?」

 

綱成が流牙がここにいることに驚き、流牙は振り向いて肯定する。

 

「……美空殿、どうしてこの方がここに?」

 

「尾張の織田信長と離れ離れになったところを私が保護したのよ。そして、馬鹿姉たちに囚われていた空と愛菜を春日山城から救い出したのよ」

 

「春日山城から……お二人を?」

 

「ええ。だから、春日山城奪還の一番の功労者と言える男よ」

 

「そうでしたか……」

 

只者ではないとすぐに分かったが、まさかこの戦国の世で今一番の話題の人物と言える流牙が越後にいるとは綱成にとっては予想外だった。

 

すると、綱成の隣にいる名月は胸元を強く握りしめながら流牙に近づいて勇気を出して話しかけた。

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

「わ、私!北条三郎名月景虎と申します!初めまして!」

 

目を輝かせ、頰を少し赤く染めながら自己紹介をする名月に流牙は腰を下ろし、膝をついて名月と目線を合わせた。

 

「初めまして、俺は道外流牙だ。えっと……名月ちゃんでいいかな?」

 

「は、はい!あの……流牙様と呼んでもよろしいでしょうか?」

 

「様はつけなくてもいいけど、名月ちゃんの好きに呼んでいいよ」

 

「ありがとうございます!ああっ……まさかここで金色の天狼様にお会いになれるなんて……」

 

その嬉しそうな反応は空と愛菜に初めて会った時と同じで流牙は笑みを浮かべた。

 

すると、流牙を気に入らないのか綱成は少し苛立った態度で話しかける。

 

「……美空殿を止めたことには礼を言いますが、下がっていただけますか?今は越後と北条の重要な話をしているので」

 

「そうだね。じゃあ名月ちゃん、またね」

 

「は、はい!あの……もしお時間があれば後でお茶でも……」

 

「いいよ。しばらくはこの国に留まることになるからいつでも呼んでくれ」

 

「わかりました!楽しみにしています!」

 

本当に嬉しそうな表情をする名月に流牙はニッコリと笑みを浮かべて軽く手を振りながら元いた場所に座ると詩乃は呆れ顔でため息をつき、雫は苦笑いを浮かべていた。

 

そして……綱成は先程よりもさらに鋭い眼差しで流牙を横目で睨み付け、美空は大きなため息をついて呆れ顔で流牙を見る。

 

「流牙……」

 

「何?」

 

「後で一発ぶん殴らせなさい」

 

「はっ!?な、何で!!?」

 

「うるさい!この天下御免の女たらしが!!」

 

「ええっ!?何のこと!?」

 

本当に鈍感すぎる流牙に詩乃たちがやれやれといった様子の中、宇佐美は笑いを堪えてますます流牙を気にいるのだった。

 

それから改めて話の続きをし、美空は今の自分の考えを伝える。

 

「私はまだ壮健であり、後継者を決める必要性を認めないわ

 

「では我らは名月の身の安全を守るために、護衛の者を越後に派遣させてもらう」

 

「そんなこと許すと思っているのかしら?

 

「身内を守るための手立てに許可など必要無し」

 

「その物言いが喧嘩を売ってるって言ってるんだけど、やっぱり買って……無理ね、流牙がまた止めるか」

 

喧嘩を買おうとしたが、流牙がまた止めると分かっているので大人しく刀から手を離す。

 

しかし、互いの主張を譲らないのでいつまで経っても打開策が見つからなかった。

 

その時、小さな影が立ち上がった。

 

「あ、あの……後継者を決めると言っても、一体、どうやって決めるというのですか?」

 

それは弱々しいわけでない、強い意志を秘めた声を発したのは空だった。

 

「……というと?」

 

「美空お姉様が決めれば、北条の皆様はご納得されるのでしょうか?そういうことをお求めになっている訳ではない……そう感じるのですが、如何でしょうか?」

 

「……我が北条が越後に求めるのはただ一つ」

 

「一つ、ですか?それは?」

 

「西と東に難儀を抱える北条としては、北で面倒事が起きれば、この上もなく面倒な仕儀となる。それだけは避けたい。だからこそ、今回のような事が無いよう、越後は後継者を決め、領内の安定を図って欲しいのだ」

 

「なるほど。越後が後継者を決めていれば、今回のような内乱は無かった、と。そう言いたいのですね」

 

「……その通りだ」

 

空の言葉に頷いた綱成だったが、その表情には僅かな乱れが見て取れた。

 

「分かりました。ならば長尾としての答えは一つ。私と名月ちゃんの二人、どちらがお姉様の後継者に相応しいか、決めましょう!」

 

「ちょっ……空っ!?何をーーーー!?」

 

空の瞳には覚悟が宿っており、美空は越後の当主として、空の母として口出しする事ができなかった。

 

「……分かった。あんたに任せる」

 

「はいっ……!」

 

「あなたは美空様の養子の一人、確か空様……と仰いましたね」

 

「いかにも」

 

「決めると仰ったが、一体どのようにして、越後国主の跡継ぎに相応しいと決めるのです?」

 

「私も名月ちゃんも、後継者と言う前に一人の武士。一人のもののふなのです。当然ーー」

 

「戦で事を決する、か」

 

空は頷き、普段の弱々しさを全く見せない威風堂々とした態度を見せた。

 

「……その意気やよし!しかし空様。名月には我ら北条がついている……果たして勝てますかな?」

 

「もとより」

 

「相分かった。ならば……戦場で会いましょうぞ。事、ここに決したり、一のご養子、空様が後継者となるか。氏康が末娘、名月景虎が後継者となるか……篤と拝見させて頂こう」

 

「あ、ちょっ……お姉さま、お待ちくださいまし!」

 

振り向きもせず退出した綱成達の背を黙って見送っていると、

 

「……へ、へぅぅぅ〜〜〜〜」

 

「危ないっ!」

 

ヘロヘロな声を出しながら頭から湯気が出そうなほど顔を真っ赤にして倒れそうになる空を流牙は駆け寄って抱きとめた。

 

「う、うう、が、頑張りました……私、がんばりましたよぉ〜……!」

 

「ああ。しっかり見ていたよ、頑張ったね、空ちゃん」

 

「はい、頑張りました……っ!一生懸命に頑張りましたよ……!」

 

「空様ぁー!空様ぁー!これぞとやっでございます!どやーっでございますぞ空様ー、どやー!」

 

「うん、頑張ったよ私。愛菜、見てくれていた?」

 

「越後きっての義侠人、樋口愛菜兼続、この可愛いおめめで確かに見ておりましたぞー!どーんっ!」

 

「あはは、ありがと、愛菜」

 

「……全く。よくも大見得を切ったものね、空」

 

「あ……か、勝手をしてしまい、誠に申し訳なく……ごめんなさいです……」

 

「……うん。とにかく今は愛菜と共に部屋に下がっていなさい。他の者も下がれ!」

 

強い口調の美空の下知を受け、過労級の者たちも上段の間から立ち去っていく。

 

だが、その殆どの者たちの表情には一様の表情……不安が浮かんでいた。

 

「……美空」

 

「なによ?あんたもさっさと出て行きなさい」

 

「あまり多くは言わないけど、休める時には休んでくれよ」

 

「あんたもね」

 

「ああ」

 

互いに頷きあい、部屋を出た。

 

新たな争乱、次の戦に備えるために……。

 

 

美空が春日山城を取り戻してから早数日……流牙は詩乃たちにもしもの時に備えて戦の準備を頼んでいた。

 

流牙は越後に鬼がいないか見回りをしながら情報収集をしていた。

 

鬼が出現しているか、現段階で行わなければならない事、そして……空と名月の後継者の事。

 

幸い鬼は越後には現れてはおらず、内乱が終わった後で武士たちは忙しそうに働く。

 

しかし、誰もが後継者の事を話そうとしなかった。

 

流牙は越後の恩人であり、同盟の重臣とはいえ、当然といえば当然の話である。

 

不安の未来が続く中、これからどうなるんだろうと思っていると……。

 

コロン。

 

「ん……?小石?」

 

どこからか小石が投げられ、流牙は周りを見渡すと鈍い風切り音が飛び込んできた。

 

「はっ!?上か!?」

 

音からすぐに察して上を見上げると大きな岩が落ちてきた。

 

流牙は魔法衣から牙狼剣を取り出し、膝を曲げてから高く飛び上がり、鞘から刃を解き放つ。

 

「はあっ!!!」

 

牙狼剣の刃が岩を真っ二つに切り裂き、二つの岩の塊が地面に墜落する。

 

「敵襲か!!」

 

流牙は自分を狙う暗殺者だと思い、牙狼剣を構えるが……。

 

(流牙!こら、流牙!いい加減気付け!)

 

「……美空?」

 

(わっ!バカッ!シーッ!)

 

(何やっているんだこの娘は……)

 

建物の影に隠れて身振り手振りで流牙に黙れと文句を言った後、美空は付いて来いというように背を向けた。

 

ひとまず流牙は牙狼剣を鞘に納めてそのまま美空の後をついていった。

 

そして、到着した場所は小さなお堂でその中に美空に続いて流牙も入った。

 

こぢんまりとしたお堂の内部は思っていた以上に狭く、流牙と美空の二人が入った事で必然的にお互いの体温が空気を伝って感じられるほどの距離になっていた。

 

「全く……呼んでるんだからさっさと気付きなさいよ」

 

「あんな岩を落としてそれはないよ……俺を狙う暗殺者だと思ったよ」

 

「ははっ、女誑しのあんたならいつか本当に暗殺されちゃうかもね」

 

「……今ほど自分のこんな運命を呪いたいと思ったことはない」

 

「あんた……色んな意味で難儀な性格よね。早くなんとかしないとますます苦労するじゃない」

 

「……出来ると思う?」

 

「ごめん……言ってみたものの、あんたには無理だと思うわ」

 

「はぁ……それで、こんなところに呼び出して何の用だ?」

 

用件はなんとなく察しているが、流牙はあえて美空の口から聞きたかった。

 

「そうね……でもどこから話せば良いのかしらね……」

 

美空にしては珍しく、躊躇うような吐息が美空の今の想いを伝えていた。

 

「空ちゃんのことだね?」

 

「……どうしてそう思うの?」

 

「それぐらいわかるよ。それで、美空を悩ましていることはなんだ?」

 

「そう……ね。長尾空景勝と北条名月景虎。二人の差に、私は納得がいっていないのよ」

 

「二人の差?能力の差ってことか?」

 

「いいえ。能力の差じゃない。……景虎には実家の力があるけど、空には……」

 

「無いのか?」

 

「……ある、とは言えないわね。空の実家は、前の春日山城の戦で城方についた長尾政景なの。そして政景は今、罰を受けて謹慎中よ」

 

「なるほど……今の空ちゃんには味方はいない。仮に美空が許して謹慎中の政景が空についたとしても周囲が認めないし、謀反を起こした奴と同じ陣営にはいたくないと思うだろうな……」

 

「そういうこと。だから今、空に後ろ盾は無いの。でも……名月には大きな後ろ盾がある。あの子自身がどこまで理解しているかわからないけど。名月の後ろ盾があそこまで口を出していると、それは越後の脅威でしかないわ」

 

「……俺はこの世界の人間じゃないからまだそこまで知識は無いけど、子供を政治の道具にするなよ。ったく……氏康って人は相当な切れ者だな」

 

「それが関東の盟主、北条の当主なのよ……」

 

「それで、美空が納得してないことって何?」

 

「この勝負、五分じゃない。名月の方が圧倒的に有利な状況になっている。そこが不満なの。もちろん五分の状況を作り上げるのも、人の上に立つ者の資質よ。でも今回はーー」

 

「裏で手を引いている人間の影響力が大きすぎる……ってことか?」

 

「そう……五分で勝負するならば、私は越後のために、その勝利者を後継者に指名するわ。でもーー」

 

「分かった、それ以上はいい。だけど……条件がある」

 

「……何なの?」

 

「気づいていると思うけど、『俺自身』は力を貸すことはできない。美空に力を貸したのはあくまで同盟のためだ。魔戒騎士である俺が人同士の争いに加勢することは許されない」

 

流牙は魔戒騎士最強の黄金騎士の称号を継ぐ者。

 

鎧を使わなくとも魔獣と渡り合える身体能力、剣術と体術はこの戦国の世でも最強とも言われている。

 

仮に流牙が戦場に出れば一騎当千の力を発揮し、戦局をあっという間に変えてしまうだろう。

 

「……やっぱりね。分かっていたわ、あなたが力を貸せないことは」

 

「だけど、流牙隊なら力を貸せる。流牙隊は元々尾張の織田信長の部隊だ。俺が許可を出せばすぐに動いてくれる。長尾の人間じゃない。だから、口出しされても無視はできる」

 

流牙隊には流牙を抜きにしても武将や軍師、更には忍者など様々な分野に優れた人材が多くいる。

 

これは力無き空の大きな支えになることは間違いがなかった。

 

それを聞いて美空は少し安心したように小さく笑みを浮かべた。

 

「そう言ってくれると思っていたわ……あなた達は他国の者だから越後の縛りはない……空のこと……頼んだわよ」

 

「みんなにそう伝えるよ。それじゃ俺はみんなにこのことを伝えるから部屋に戻るよ」

 

「あーーーー」

 

「ん?まだ何かある?」

 

美空は無意識のうちに流牙を呼び止め、その無邪気な瞳が美空を見つめる。

 

「……無いわよ」

 

「そう?」

 

「良いから、あんたはさっさと行っちゃいなさいよ。ほらしっし」

 

「はいはい、わかったよ。じゃあね」

 

流牙は美空に手を振りながら挨拶をし、お堂を後にした。

 

お堂に一人だけとなった美空は大きく息を吸い込んでからため息と一緒に色々な気持ちを吐き出した。

 

「はぁ〜〜……参ったわね。私、また……いつのまにか、あいつに頼っちゃってる……」

 

最初は鎧などに興味を持つだけで何かの利用価値のある男だと思っていた。

 

しかし、流牙の覚悟や想い、そして過去を知り、彼への思いや気持ちが少しずつ変わっていった。

 

「まさか私……ううん、やっぱり私……」

 

美空は胸をぎゅっと強く抑えた。

 

初めて感じるその痛いけど心地よい気持ち……それが確信に変わるのはもう少し先となる。

 

 

 

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天から舞い降りた光。

光は小さき子供たちに宿る。

次回『憧 〜Yearning〜』

天狼の輝きは夢や希望を与える。



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