牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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絶狼<ZERO> –DRAGON BLOOD-のファンタジー感がとても良いですね。
銀河騎士VS竜騎士・・・・・・良いですね、ファンタジー好きには心をくすぶるような感じでとても楽しみです。


『憧 〜Yearning〜』

美空の極秘の依頼で流牙隊は空に力を貸すことになった。

 

もっとも、流牙は力を貸せないので頭抜きの隊となるが、それでも詩乃や雫、一葉たちがいるのでそこは問題ない。

 

流牙は魔戒騎士の掟があるので今回の空と名月の戦には中立の立場でいることになった。

 

しかし、中立の立場と言っても流牙は流牙隊の頭であるので周囲の人間がこっそり空に味方するのでは?と疑惑を持つのも当然なので、流牙は美空と宇佐美の立会いのもと一つの契約書を一緒に書いてもらった。

 

それは流牙が完全なる中立の立場であり、双方の勢力の情報を漏らさない、一切の手助けをしないという内容のものだった。

 

この書状を写し、美空は空と名月、越後の家臣たちにも配布し、その事を周知させた。

 

これにより流牙は比較的自由に動くことができ、空と愛菜の動きを客観的視点から見守る事が出来るのだが……。

 

「さあ、流牙様!お茶ですわ!」

 

「ありがとう、名月ちゃん」

 

中立の立場という事を伝えるや否や、すぐに名月からお茶会の招待状が送られてきた。

 

しかも流牙だけで。

 

北条側の何かの罠だと推測さたが、中立の立場である流牙を罠にかける理由もないし、同盟の重鎮である流牙を傷つければ美空が許さない。

 

下手をすれば一葉たち流牙隊のメンバーがブチ切れて殲滅する勢いの襲撃になったり、仮に久遠たちがその事を知れば全面戦争になりかねない。

 

特に危険がないだろうと判断してひとまず流牙は名月が滞在している屋敷へ赴いた。

 

到着するなり名月が出迎えて流牙を茶室に案内し、見事で雅のある手際で茶を入れて流牙に出して今に至る。

 

「俺、茶の席の作法とか分からないからごめんね」

 

「まあ、そうでしたの。流牙様は天の国から来たと聞きましたが、天の国ではこのような茶の席はありませんの?」

 

「そうだな。俺たちの世界ではこういう茶の席はほとんど無いな。やっていたとしても極一部の人たちしかやらないな」

 

「それは驚きです。流牙様、天の国について教えていただけませんか?」

 

「俺が答えられることならいくらでも」

 

それから流牙と名月は茶の席で話をしながら楽しい時間を過ごした。

 

ちなみに……名月は気付いてないが、隣の部屋の襖の奥から流牙に向け、名月の姉……正確には叔母だが、綱成が鬼のような殺気を放っていた。

 

『名月に手を出したらその頸を切り落とす……』

 

と言わんばかりの殺気に流牙は苦笑を浮かべながら茶を飲む。

 

しかしその殺気はそれほど名月を大切に思っていることの表れなので悪い気はしなかった。

 

ある程度天の国についての話が終わると今度は流牙が名月に質問をする。

 

「名月ちゃん、今度は俺から質問いいかな?」

 

「はい、何でしょう?」

 

「美空の後継者として空ちゃんと争うことになって、君はどう思ってる?」

 

「そ、それは……」

 

「もちろんその事を空ちゃんはもちろん誰にも話したりはしない。俺は中立の立場だからね。俺はただ、越後の後継者である名月ちゃんの素直な気持ちを知りたいだけなんだ」

 

「わ、私は……私、空様をお慕いしておりますの」

 

「慕ってる?嫌いじゃないんだ。こういう後継者争いを行う人達って違いを嫌うって印象は強いけど。まあ、空ちゃんはありえないか」

 

「嫌うわけがございません。空様は物静かであらせられますが、事に及んでは決断早く、また果敢な決定をされる事もあり、将としてはとても素晴らしき方ですの。少し人見知りが激しいところもありますが、それも空様の魅力の一つだと思っておりますわ」

 

「ほう……それで?」

 

「乱世渦巻くこの時代、国を守り、民を守るのは、果断であるだけの主では不可能ですの。国内にしろ、国外にしろ、一朝事あるとき、多くの繋がりを用いて事を鎮め、国と民を守る。それこそが乱世の主が持つべき本当の力かと考えておりますわ。この戦に勝利した暁には空様を友として迎え入れ、共に越後の繁栄を築いていきたいと考えていますの!」

 

「そうか……まだ幼いのにしっかりしているね。俺なんかと比べ物にならないよ」

 

「流牙様は幼い頃はどうお過ごししていたのですか?」

 

「俺?俺は七歳の頃から無人島で十年間も修行をしていたよ」

 

「まあ!無人島で十年も!?」

 

「ああ……辛かったけど、俺にとっては大切な日々だったよ」

 

流牙は名月の後継者候補としての強い自覚と空への思い、そして越後を思う心を聞き、名月もまた美空の思いを受け継いでくれると確信した。

 

少しすると綱成が茶菓子を持って部屋に入ってきた。

 

そして、鋭い眼差しで流牙を睨みつけながら質問をしてきた。

 

「ところで、道外殿。一つお尋ねしたいことがあります」

 

「何かな?」

 

「あなたは金色の天狼という名をお持ちですが……本当に黄金の鎧を呼び出せるのですか?」

 

「え?」

 

「お、お姉様!流牙様に無礼ですよ!」

 

「いいえ、名月。噂というものは遠ければ遠いほどその事実が書き換えられていることはよくあります。武人としての活躍ならともかく、訳わからずの存在の噂なら疑うべきです」

 

「……確かにそうかもしれないね」

 

流牙は茶器を置くと畳んでおいた魔法衣を纏う。

 

「ねえ、綱成さん」

 

「……何でしょう?」

 

「もし俺が黄金の鎧を呼び出したら少し話を聞いてもらうよ」

 

「話?」

 

流牙は茶室を出て玄関でブーツを履くと庭に出て、名月と綱成の前に現れる。

 

魔法衣を翻して内側から牙狼剣を取り出して左手で持つ。

 

そして、柄を握り、鞘から刃を抜いて切っ先を上に掲げ、円を描く。

 

牙狼剣の切っ先は満月のような綺麗な光の円を描き、ひび割れた円からガロの鎧を召喚し、装着する。

 

金色の天狼……その名に相応しき黄金の鎧を装着した流牙を見て名月は目を輝かせ、綱成は困惑した表情を浮かべる。

 

「まあ……!!」

 

「まさか本当に……!?」

 

「これで信じてもらえたよね?」

 

「はい!もちろんです!ね?朧お姉様!」

 

「え、ええ……そうですね……」

 

綱成はまさかは本当に流牙が黄金の鎧を召喚出来るとは思ってもみなかったので予想外の展開に内心焦り始める。

 

流牙は鎧を解除して魔界に送還しながら綱成に話しかける。

 

「さて……それじゃあ話を聞いてもらうよ」

 

「何を、でしょうか?」

 

「今……この日の本に巣食う邪悪なる存在、鬼についてだ」

 

流牙は綱成ーー朧と名月の二人に日の本に巣食う鬼について話した。

 

越後ではまだ現れてないが、朧の話では関東近辺で少しだが現れているとの情報がある。

 

流牙はこの世界から鬼を全て討滅するために仲間たちと戦っている事を説明し、朧にある事をお願いする。

 

「綱成さん、一つお願いがある」

 

「朧で結構です。それから、御本城様が以前仰ってましたが、北条は同盟には加わりません」

 

「それは構わない。ただ、あなたが関東に帰ったら鬼に対する警戒を強くしてくれ」

 

「お願いとはその事ですか?」

 

「ああ。鬼の脅威がいつ広がってもおかしくはない。だから警戒を強くして、いつでも対処できるようにしてくれ」

 

「……分かりました。相模に帰ったら御本城様にお伝えしておきます」

 

「ありがとう。さて……それじゃあそろそろ失礼するよ」

 

流牙は名月と朧の二人と話ができてひとまず満足し、春日山城へ戻る準備をする。

 

「名月ちゃん、立場上あまりこう言ったことを言えないんだけど、頑張ってね」

 

「はい!頑張ります!」

 

「あ……そうだ、最後に一つ。どうして名月ちゃんはそこまで俺を……金色の天狼を慕っているんだ?」

 

「決まっております!金色の天狼はこの日の本の幼子たちの憧れですの!」

 

「憧れ?」

 

「はい!調べてもらったところ、日の本各地で金色の天狼の数々の偉業は伝わっておりまして、特に幼子たちの憧れでおり、希望の象徴にもなっておりますの!」

 

これは流牙にとっては驚きの事実だった。

 

戦乱渦巻く戦国の世では戦が続き、更には鬼という魔獣が現れ、不安な未来が人々に負の心を与える。

 

しかし、そんな中に現れた一筋の希望の光……金色の天狼、またの名を黄金騎士ガロが日の本を平和にすべく鬼を討滅するために戦い続けている。

 

その噂が日の本を駆け巡り、特に英雄などの大きな存在に憧れを持つ幼子たちの間では黄金騎士ガロは希望の象徴なのだ。

 

知らず知らずのうちに自分の存在が日の本に生きる者たちの希望の光になっていることに流牙は思わず笑みがこぼれるほど嬉しかった。

 

「そうか……じゃあ俺は君たちの希望の光になれるようもっと頑張らなくちゃな」

 

「はい!応援しています!」

 

「ありがとう、名月ちゃん」

 

流牙は名月の頭を撫で、名月は嬉しそうな笑みを浮かべて流牙を見送った。

 

ちなみに……隣にいる朧は北条の妹たちを溺愛しているため、名月をたぶらかす存在として流牙が気に入らず、殺気を込めた瞳で睨み続けていた。

 

屋敷を出た流牙はのんびりしながら春日山城に戻ろうと足を運ぼうとすると、流牙の耳に不穏な音が届く。

 

「金属音……?こんな街中で?」

 

流牙は気になってその音の方へ赴くとそこには目を疑う光景があった。

 

「小波!?」

 

それは小波がくノ一と思われるギャルみたいな風貌の女にボコボコにされて踏みつけられている光景だった。

 

「じゃあね、伊賀の服部さん」

 

くノ一が苦無を振りかざし、小波を殺そうとしたその時、流牙は魔法衣から鉄の矢を取り出した。

 

「やめろぉっ!!!」

 

「なっ!?」

 

鉄の矢を投げ飛ばし、二人の近くに刺さるとくノ一は小波から下がった。

 

流牙は小波の前に降り立ち、倒れている小波を抱き上げた。

 

「小波、大丈夫か!?」

 

「ご、ご主人様……!?」

 

小波は体中傷だらけで傷つけたのは間違いなくそのくノ一だった。

 

「どうして小波がここに?」

 

「そ、その……ご主人様が心配で勝手に後をついていたのです。遠くから見守っていたら風魔忍者のあの女が襲いかかってきて……申し訳有りません、頭に血が上ってしまいこの様です」

 

「あんた、確か道外流牙だっけ?」

 

「誰だお前は……?」

 

「風魔忍軍棟梁、風魔姫野小太郎よ」

 

「風魔……?詩乃たちが言っていた北条の忍者か……」

 

「はっ、弱い草を配下に置くなんて可哀想な男ね。そいつ、あんたのことでちょっと挑発したら簡単に頭に血がのぼったのよ?」

 

「俺を……?そうか、小波。一緒に帰るぞ」

 

「は、はい……」

 

「傷は酷いがほとんどが打ち身だな。早く傷薬を塗れば大丈夫だろ。よし、すぐにでも行くか」

 

流牙は小波を連れて帰ろうとするが、小波との戦いに水を差された姫野はそれを許すはずがなかった。

 

「そんなことさせると思ってるのっ!?力尽くでもあんたなんかに渡さないんだから!」

 

「勝手に言ってろ。俺は小波を早く治療したいんだ」

 

「ふざけんじゃないわよ!伊賀の服部ぃ!あんた勝手に逃げるんじゃないわよぉーっ!」

 

「ご主人様!危ないっ!!」

 

姫野は大量の苦無を投げ飛ばし、流牙は目を細めて魔法衣から再び牙狼剣を取り出し、柄を握る。

 

「いい加減にしろ……」

 

キィンキィンギィィン!!!

 

高速の抜刀で苦無を全て弾き返し、そのまま姫野の周りに弾き飛ばした。

 

「ひっ……!」

 

姫野は苦無を弾き返され、更には流牙から放たれた気……姫野には一瞬だけ獲物を狙う牙を向けた狼のような気が見え、恐ろしくなって体が震えてしまった。

 

この世界に来てから流牙は様々な戦国武将……一葉をはじめとする多くの戦国武将と共に行動してきた。

 

武術の達人である彼女たちは自分の気を発し、自分よりも格下の相手の心を呑み込む術を持っている。

 

魔戒騎士として幼い頃から修行し、日頃から魔獣ホラーと戦い続けている流牙も既に武術の達人であり、気を放つことをすぐに習得した。

 

「今から小波を連れて行くんだ、邪魔するな。もうこれ以上大切な仲間を失いたくないんだ……失せろ」

 

「…………っ!!」

 

仲間を失いたくない故の怒気は充分な脅しとなり、心を呑まれてしまった姫野はガクガクと震えて動けなくなっていた。

 

気は下手に人間を傷つけずに済む方法として重宝している。

 

「……これで追ってこないだろう。小波、大丈夫か?」

 

「はい、これぐらい……っ!?」

 

「無理をするな。忍者でも小波は女の子なんだから……よいしょっと」

 

「え?ご主人様、何を……きゃぁっ!?」

 

流牙は小波をお姫様抱っこで軽々と抱き上げてそのまま歩き始める。

 

「ごごご、ご主人様!?何をなさるのですか!?」

 

まさか流牙にお姫様抱っこをされるとは思わなかったので小波は今までで一番顔を真っ赤にしてオロオロとしていた。

 

「何って、このまま春日山城まで運ぶんだけど?」

 

「こ、このままですか!!?」

 

「嫌だった?」

 

「い、いえ、その……お、重く、ないですか……?」

 

「全然、とっても軽いよ。一気に春日山城まで走るから首に手を回して」

 

「は、はい……では、失礼します……」

 

小波は恐る恐る流牙の首に手を回して更に体を密着させる。

 

密着させて初めて感じる魔法衣と防護服の上からでも分かる流牙の鍛え抜かれた筋肉に温かい体温、そして……流牙から漂う良い匂い。

 

結菜や一葉たちと同じく流牙に惹かれている小波はこれほどの幸せはないと思うほどに顔がにやけてしまいそうになってしまうが、何とかそれを抑えて流牙の顔を見る。

 

凛々しくも優しいその横顔……惚れた弱みと言うか、小波は更に顔を真っ赤に染めてしまう。

 

「行くよ、小波」

 

「はいっ!」

 

流牙は小波を連れて春日山城まで走っていった。

 

ちなみに、その後ろ姿を見た姫野は小波に更なる対抗意識を燃やし、流牙に対しては絶対に勝つと意気込むようになったのだった。

 

そして……春日山城近くで流牙隊が滞在している宿に戻るなり、小波をお姫様抱っこをしている流牙を見て一葉を筆頭に自分たちにもと一悶着があったのは言うまでもなかった。

 

 

 

.




少女は弱さを力に変え、立ち上がる。

守るため、変わるため、立ち向かうため。

その小さき体には無限の煌めきがある。

次回『勇 〜Brave〜』

勇気、それは最強の武器。



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