今回は原作とは大きく違う衝撃的な展開を組み込みました。
ただ原作通りでも面白みがないと思ったので少し変えてみました。
関東最大勢力……北条。
朧は関東に帰ると姉であり、当主である北条氏康と今回の名月の後継者争いの顛末について話していた。
「姉様。この度の仕儀、誠に面目もなく……」
「ああ、別にいいわよー。仕方のないことだし、朧は良くやってくれたと思うわ」
「ですが……」
「良いの良いの。今回のちょっかいは、越後の小娘に、北条を忘れるんじゃないわよ、って思い出させるためのものだったから。北がある程度落ち着いていれば、それで良かったの良かったの……名月も成長出来たようだしね」
「それは……ええ。名月はとても強くなりました。私たちの庇護は要らないのかもしれません」
「子が巣立つのって、嬉しい気持ちも強いけど、何だか寂しい気持ちにもなるわね」
「全くです……ただ」
「ただ?」
「名月が成長するきっかけを作った男……道外流牙、あの男の存在が気に入りません」
名月が強い心を持って成長出来たきっかけを作った流牙。
流牙がいたからこそ名月は強い心を持つことが出来たが、空を支えて共に越後を発展していくという結果になってしまった。
「道外流牙……金色の天狼と呼ばれる今話題の天人ちゃんね、あなたの目から見てどんな男の子だった?」
「そうですね……この戦国の世では異端のような男です。女や権力などの欲に溺れず、人を鬼の手から守るためだけに生きている……そんな男です」
「姫乃の話だと、沢山の奥さんを大切にしているけど決して手を出してないのよね〜。それからかなり強かったんだって?」
「ええ。実際に刃を交えていませんが、鬼を相手にまるで修羅か戦神のように戦っていました。それに……黄金の鎧を纏った彼は美空殿の護法五神以上の力を発揮します」
「へぇ〜。誰よりも優しく、そして誰よりも強い男の子。ふふっ、それは一度会って見たいわね」
氏康はこれから流牙を中心に起こる数々の出来事……それを傍観しながらいつか出会う日を楽しみにするのだった。
☆
宴から一夜明け、流牙は上段の間で美空の隣に座っていた。
流牙は遠慮したが美空の夫になったのだから上段の間に座るべきだと秋子たちが推薦する。
そして、いよいよ典厩との対談が始まる。
典厩が上段の間に入り、明るく堂々とした態度で挨拶をする。
「おはようでやがります!昨日のお返事を伝えくさりやがれです!」
典厩の独特な口調に既に疲れる美空。
すると、典厩は美空の隣に座っている流牙を尋ねる。
「して、こちらにいらっしゃりやがるのは?」
「ああ。紹介が遅れたけど、私の良人よ。流牙、名乗りなさい」
「道外流牙。美空と夫婦の契りを結んだ者だ。よろしくな」
「はぁ……っ!?そんな情報、こちらの草の誰も仕入れてやがりませんぞ……!?一二三も知らぬとは、いつの間に……」
流牙と美空がいつの間にか夫婦の契りを交わしていたことに典厩は酷く困惑して驚いていた。
「あら。天下に知らぬ事なしと言われる武田にも、知らない事があるものなのね〜」
典厩に一矢報いたとあって美空はニヤニヤと笑顔を浮かべていた。
「むむむ……ど、道外流牙殿と言えば……金色の天狼と呼ばれやがる、あの道外流牙殿でやがりますよな?」
「一応そう呼ばれているよ。誰が言いだしたのか知らないけど」
「光璃がご所望の金色の天狼よ。私の良人でもあるのだから、丁重に扱いなさい」
典厩は流牙をじっくりと見つめてその風貌や身につけているもので本物だと判断する。
「黒衣に銀の指輪……それにこの気……間違いないでやがりますな……」
「ねえ、武田に行くのは良いんだけど、二つ聞かせて欲しいことがあるんだけど」
「何でやがりますか?」
「一つ、俺をどうしたい?」
「……あなたに姉上から返す物があるのでやがります」
「返す物?」
晴信から流牙に返す物があると言われ、心当たりがない流牙は首を大きく傾げる。
「流牙、あなた光璃に会ったことあるの?」
「無いよ。俺だって武田家の人間に会うのはこの子が初めてで、別に誰かに何かを貸した覚えはないし……ねぇ、その返す物って一体何のことだ?」
「これに関してはこの場では言えないのでやがります。ただ、流牙殿にとって非常に重要なものでやがりますのでそこだけは納得して欲しいでやがります」
「そっか……分かった。もう一つは俺には美空以外に妻がたくさんいるんだけど、甲斐に行く時は同行させて欲しい」
「確かに、離れ離れにというのは、ちょこっとだけ忍びないでやがりますな。ですが、美空様は流石にダメでやがりますよ?」
「分かってるわよ」
「で、その嫁殿とやらはどちらでやがりますか?」
「ああ。あそこにいるんだけど……」
そう言って流牙は広間の一角、秋子たち長尾勢と向かい合う位置に座っていた結菜たちを指差す。
「ふむ。で、どちらでやがる?」
「だから、そこ」
「ここにいらっしゃるのは分かるでやがります。ですから、ここにいるどなたが嫁殿でやがりますか」
「全員だけど」
「はああ!?こんなにいやがるですか!?」
「そうだな、越後にいるのは」
「これが全部じゃないでやがりますかー!?」
「仕方ないだろ……俺に拒否権なんて無いに等しいんだから……嫁になりたいと言えば無条件でなれるんだから……」
「……流牙は本来、妻は一人だけって考えなのに色々な成り行きで現状がこうなっちゃったのよ。察してあげなさい……」
「あー、なるほど。あの天下御免のお触れ……男としてなら嬉しいが、それが逆に苦しめているんでやがりますね」
典厩は流牙の置かれている立場を様々な情報を基に直ぐに察したのだった。
その後、典厩の妥協による提案で嫁を五人まで甲斐に連れて行くことを許可した。
その内の五人を流牙の考えで選ぶことになり、結菜、詩乃、綾那、歌夜、小波に決定した。
結菜は何が何でも付いて行くと言って聞かなかったので選ばれ、詩乃は知恵、綾那と歌夜は流牙の護衛、小波は情報収集役として選ばれた。
ちなみに選ばれなかった一葉は駄々をこねたが、流牙隊を任せられるのは一葉しかいないと諭されて何とか納得してくれた。
小夜叉は森一家の仕切りと久遠との繋ぎを任せ、鞠は信虎の事もあるので越後に残らせた。
出来ることならみんなを連れて行きたいが、これが最善の選択としてみんなが納得した。
そして、典厩……夕霧と話をつけて共に流牙たちが部屋を出ようとしたその時。
「流牙!」
「美空……」
「その……」
美空は流牙に言いたい言葉がたくさんあったが、上手く言えなかった。
そんな美空に流牙はもう一度約束をする。
「約束する、必ず戻る」
昨夜と同じ約束の言葉。
その言葉を聞いた美空は流牙の妻として旅立つ夫に微笑みながらこの言葉を贈った。
「ええ……行ってらっしゃい」
「行ってくる」
そして……流牙達は越後を後にし、甲斐へ旅立った。
☆
流牙達は越後から馬で甲斐の中心地、甲府に向かった。
途中、綾那と歌夜は夕霧と馬術勝負をしたりしていた。
武田は戦国で一番馬の扱いに優れており、夕霧の馬術は素晴らしいものだった。
小波は流牙達と離れながら忍者らしく隠れて移動していた。
そして、数日かけて到着したのは武田の本拠、躑躅ヶ崎館。
そこで流牙達を出迎えたのはいかにも武人と言った感じの少女だった。
「拙は武田家にて侍大将を務める、馬場美濃守信房。通称は春日と申す。そちらは……道外流牙殿に……織田信長の妻の斎藤帰蝶殿、今孔明の竹中半兵衛殿、三河の本田平八郎殿と、榊原小平太殿にあらせられるな?」
既に流牙達の名前を知っていることから武田の情報網の恐ろしさを目の当たりにした。
「流石は武田……情報網が凄いな」
「この武田に知らぬ事などありはしませぬ。ましてや、こちらからお招きしたお客人のことであればなおさら」
「そうか……早速だけど、ここにいるみんなを休ませてもらえないか?俺は大丈夫だけど、みんなをゆっくり休ませたい」
「うむ。己が妻に対する細やかな気遣い、流石は天下御免の女誑しだけある」
「いい加減それは勘弁したいけどね……」
「その事ばかりではないがな。金色の天狼としての鬼狩り、織田足利の同盟のこと、鬼どものこと、金ヶ崎での暴狼の如き暴走、御館の乱の時の美空殿の護法五神と一体化した竜を模した姿、そして……貴殿らの前に現れた謎の少年のこともな」
武田は流牙の活躍だけでなくガロの心滅獣身や護法天竜、更には謎の少年の事も調べていた。
武田の情報網や情報収集力……もはや凄いを通り越して恐ろしいものだった。
流牙達はそんな武田に恐れを抱きながら部屋に案内され、そこで武田信晴と面会する夜まで休むこととなった。
小波も無事に合流し、そこで武田の話をある程度するとみんなに旅の疲れがひとまず夜まで眠りについた。
流牙はいつでも動けるように壁に寄りかかりながら静かに眠りについた。
しばらく休むとザルバから鈴の音が鳴り、流牙は目を覚ましてカバーを開いた。
「ザルバ、どうした?」
『流牙、ここから少し離れたところで鬼の気配が二ヶ所を感じた』
「二ヶ所だって?分かった、すぐ向かう」
しかし、今流牙達は武田の客人とはいえ実質人質のようなもの、勝手に流牙が鬼狩りに向かえば結菜達の身が危ない可能性が出る。
流牙は鬼の魔の手から人を守るために急いで武田と交渉してすぐにでも討滅する許可を貰いに部屋を出た。
部屋を出たのはいいが、躑躅ヶ崎館の屋敷は広く、何処をどう進めば良いのか分からなくなってしまうほどだった。
するとそこに小さな影が近づいた。
「あなた……何をしているの?」
流牙が振り向くとそこには赤い髪をした静かな雰囲気をした鎧を身につけた少女がいた。
少女の紅い瞳が真っ直ぐ流牙に向けられており、流牙も真っ直ぐ少女を見つめて堂々と自分の名を名乗る。
「俺は道外流牙。この国に鬼の気配を察知した。鬼狩りに向かうために武田の人間と交渉しようとしている」
「道外……流牙……」
少女はゆっくりと近づきながら流牙の姿を目に焼き付けるように見開いていた。
「あなたが、黄金騎士ガロの継承者……」
少女はまるで流牙と出会うことを待ち焦がれたようにザルバがはめられた左手を手に取り、そのままザルバごと流牙の左手を両手で優しく包み込んだ。
「これは黄金騎士の友、ザルバ……やっと、やっと……あなたに会えた……」
両手で包み込んだ左手を少女は自分の頰まで持って行き、その瞳に小さな涙を浮かべていた。
「君は、一体……?」
ここまで自分を待ち焦がれている少女に戸惑いを隠せない流牙だった。
「もっと後に打ち明けるつもりだったけど、ここで会えたのも運命……私は……」
少女はにっこりと優しい笑みを浮かべ、自分が何者なのか打ち明けた。
「私は武田家棟梁、武田晴信……通称は光璃」
それは美空の宿敵にして流牙を甲斐に呼び出した張本人である武田家棟梁、武田晴信だった。
「君が、武田晴信!?」
晴信……光璃の突然の出会い。
流牙は目の前の少女が光璃だとは思いも寄らずに驚いてしまう。
美空が散々悪口を言うほどの策士である少女だとは思えないおっとりとした不思議な雰囲気を漂わせていた。
すると、光璃の口からとんでもない言葉が放たれた。
「そう……そして私は、黄金騎士と共に戦う一族……ジンケイの血を引く者」
黄金騎士と共に戦う一族。
それは流牙の体にも流れている亡き母の血筋……黄金騎士を支える魔戒法師の一族『ジンケイ』。
光璃は流牙や天の世界にいる莉杏と同じ、ジンケイの一族の末裔だった。
「俺と同じ、ジンケイの末裔……?」
自分と莉杏の二人だけとなった同じ一族の末裔を目の前にし、言葉を失う流牙だった。
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滅びゆく一族の生き残り。
見えない確かな繋がり。
時と世界を越え、二人を導いた。
次回『血 〜Blood〜』
人に流れる紅き絆。
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