牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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いよいよ流牙の黄金騎士としての全ての力が揃います。
天の牙狼・闇と地の轟天……二つの力を持つ流牙は黄金騎士としてま最強クラスになれるかもしれません。
まあそれくらいないとこれからの鬼の軍勢とは戦えませんので。


『轟 〜Gouten〜』

ザジとホラー鬼との激闘に疲れ果てて眠った流牙が目を覚ますとそこは見知らぬ天井だった。

 

「流牙、目が覚めた?」

 

「結菜……」

 

「流牙、大丈夫……?」

 

「光璃……ああ、大丈夫だよ」

 

心配そうに見つめてくる結菜や光璃たちを見て流牙は笑顔を見せた。

 

あの地下室で何があったのか尋ねられ、流牙は隠す必要が無いと思って静かに語る。

 

黄金騎士ガロに討滅されたホラーの怨念から生まれた時空ホラー・ザジとの壮絶なる戦い、そして……愛する妻を探して亜空間を旅していた異なる世界の黄金騎士ガロの継承者、冴島鋼牙。

 

その突拍子もない驚くべき話に皆は驚き、魔戒法師の血と記憶を受け継ぐ光璃は目を輝かせながら真剣に話を聞いていく。

 

「時を操る魔獣に、流牙とは別の世界の黄金騎士ね……はぁー、何だかちょっとした神話みたいなすごい話ね」

 

「しかも何処かへと消えてしまった奥方を探すためにあての無い旅を続ける……一途なお方なのですね」

 

「鋼牙さんと言いましたか?流牙様が認める方なら、是非ともお手合わせしたいです!」

 

「綾那ったら相変わらずね。でも、確かにもう一人の金色の天狼様のお力を見て見たい気持ちがありますね」

 

「しかし、まさか我々が人質になっていたとは……面目ありません」

 

結菜、詩乃、綾那、歌夜、小波はそれぞれの思いを口にする。

 

「でもそれは仕方ない……ザジは時を止める事が出来るホラー、時を止められたら私たちに為すすべがない。でも、流牙は勝った」

 

「時を止める……そんな恐ろしい奴がいるとは兄上もよく勝てましたでやがりますね」

 

「うんうん。流石は私達のお兄ちゃん、黄金騎士ガロ様だね!」

 

光璃、夕霧、薫は流牙がザジに打ち勝った事を素直に喜んだ。

 

その後も色々話が弾んでいくと、ふと結菜があることに気付いた。

 

「ねえ、流牙。一つ思ったことがあるんだけど……?」

 

「何?結菜」

 

「地下室に眠っている轟天……あの子、どうやって蘇らせるの?」

 

「どうやってって、それは……あっ」

 

ここで一つ大きな重要なことに気がついた。

 

地下室に眠っている轟天はかつてのガロの鎧と同じく金色の輝きと共に力を失っている。

 

「分からない……どうやって轟天を蘇らせればいいんだ……?」

 

それをどうやって蘇らせるのか流牙には見当がつかなかった。

 

ガロの鎧の金色はかつて母の波奏が行ったゼドムの種子を体の中に取り込んでソウルメタルの黄金の輝きを体内で育てる方法を使ったが、ゼドムは既に流牙達が討滅している。

 

何よりゼドムの種子を取り込んだ術者の命を蝕むその方法を流牙が絶対に承認するわけにはいかないので省く。

 

「私も……轟天を蘇らせる方法は分からない……」

 

光璃も困った表情で首を横に振って分からないと言う。

 

祖先の光瑠からの願いは轟天を黄金騎士に渡すことで蘇らせる方法は見つけられなかったようである。

 

この世界には魔戒関係の人間は流牙と(一応)光璃の二人だけであり、轟天を蘇らせる方法を見つけることは不可能である。

 

「仕方ないか、無理に探す必要はない。俺たちの目的は鬼を倒すことだから」

 

「役に立てなくて、ごめん……」

 

「いいさ、光璃は武田の棟梁だ。光璃は自分のやるべき事を精一杯やればいいんだよ」

 

「うん……」

 

シュンと落ち込む光璃に流牙はポンと頭を撫でて慰める。

 

まるで兄妹みたいな光景に場の空気は和むが、詩乃はため息をついて「またですか……」と呟いていた。

 

その後、結菜達はそれぞれ自分に任されたことや自分の思うがままに行動をし、光璃達は武田家の仕事をする。

 

ただでさえ魔戒騎士と言う職業柄、過労気味の流牙は皆に言われて大人しく天馬神社で休む事になった。

 

ふと魔法衣から牙狼剣を取り出し、耳に当ててみると……。

 

ドクン……!

 

「牙狼剣……!?」

 

流牙は牙狼剣から心臓の鼓動のような声が聞こえ、鞘から抜いて刃に自分の顔を映す。

 

牙狼剣から聞こえる微かな声……それは牙狼剣と繋がっているガロの鎧からの声だった。

 

流牙は急いで天馬神社の地下へ降り、轟天の前まで来た。

 

轟天は相変わらず動かないままだったが、流牙が来たことで僅かに動き出していた。

 

「……轟天の前で呼び出せばいいのか……?」

 

流牙は静かに牙狼剣を掲げて円を描いて魔界からガロの鎧を呼び出して召喚する。

 

纏う必要はないので流牙はその場から下がり、牙狼剣が宙に浮いて召喚されたガロの鎧と共に轟天の前で飾られるように現れた。

 

数百年の時空を越え、遂にガロの鎧と轟天が再会を果たした。

 

再会を果たした轟天は力を無くしながらもガロの鎧を前に少しずつ首を動かして顔を上げた。

 

どうすれば轟天が蘇るのか……その方法がわからない流牙に応えるように鎧から無数の金色の粒子が溢れ出して一つの塊となり、人の形へと変えていった。

 

そして、それは中国服に似た服装に身を包んだ女性となり、流牙は目を見開いて呟くような声で尋ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「母さん……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは流牙の失われたたった一人の家族、愛する母……波奏だった。

 

金色の粒子で現れた波奏は優しい母の笑みを浮かべて流牙に話しかける。

 

「流牙、立派になったわね」

 

その優しく、懐かしい声に流牙は瞳から涙を流しながら近づく。

 

「母さん……本当に、母さんなんだね……?」

 

「そうよ、流牙……私の愛する息子……」

 

波奏は流牙を優しく抱きしめ、流牙も波奏を抱きしめる。

 

自分の手で殺さなければならなかった母と再会することが出来た流牙は涙を流しながら波奏を強く、強く抱きしめる。

 

親子の再会を喜びながら流牙は何故鎧から波奏が現れたのか尋ねた。

 

「どうして母さんがガロの鎧から……?」

 

「ここにいる私は魔導ホラーに込められたガロに金色の輝きを取り戻す為の無数の光の粒子に宿った魂の欠片が集まったもの……私が命をかけて作って来たものだから、光に私の魂が宿ってガロの中に今までずっと入っていたのよ」

 

ボルシティにいる全ての魔導ホラーに宿っていた光は全て波奏から生まれ、波奏が育てて来たもの……その光に波奏の魂の欠片が含まれていてもおかしくはなかった。

 

「ガロに……母さんの魂が……?それじゃあ、ずっと俺の事を……?」

 

「でも、見守ることしかできなかった……あなたが苦しい時、辛い時に何もしてこれなかった……」

 

ガロの鎧の中でどんなに流牙が苦しい時でも辛い時でも魂の存在となった波奏にはただ見守ることしか出来なかった。

 

しかし、今は違う。

 

「だけど、もう一度……あなたの力になれる」

 

「母さん……?」

 

波奏は轟天に触れると、その体を構成している金色の粒子が少しずつ轟天の中に入っていく。

 

「流牙、私の力で……轟天を蘇らせるわ」

 

「轟天を!?そんな事が出来るの!??」

 

「出来るわ。ガロの金色の輝きを少しだけ轟天に分ければ蘇られるわ」

 

「少しだけ?それだけで大丈夫なの?」

 

「この土地は良い龍脈の流れがあって、長い年月をかけて自然の気が傷付いた轟天を癒していたの。だから、金色の輝きを分ければ元の力を取り戻すわ」

 

「龍脈の気……そうか、だから光瑠はここに轟天を……」

 

轟天をいつか必ず蘇らせるために光瑠は龍脈の流れが宿るこの地の深くに轟天を眠らせ、気の力で長い年月をかけて癒す事を考えていた。

 

そして今、光瑠の永きに渡る想いが成就する時となった。

 

「流牙、あなたはこの異世界でこれからも辛い戦いをすることになるわ……でも、忘れないで。あなたにはザルバと私、そして……この異世界で生まれたあなたの大切な家族がいる」

 

「あっ……そうか、母さんは久遠たちを知っているんだよな……」

 

ガロの鎧の中で波奏は久遠たちのことを見ていた。

 

久遠たちがどれだけ流牙の事を愛しているのか……。

 

「全く……誰に似たのか知らないけど、あんなに沢山の奥さんを持つなんて、母さんは驚きよ?しかも妹も娘も出来るなんて……」

 

息子が沢山の美少女たちにモテモテな事を素直に喜べばいいのか、呆れればいいのか母として複雑な心境だった。

 

「えっ!?いや、その……俺もまさかこんなことになるなんて……」

 

「私としては莉杏に奥さんになって欲しかったんだけど……」

 

波奏は死ぬ直前に莉杏に流牙の事を頼むとお願いしていた。

 

莉杏が流牙を支え、ゆくゆくは流牙と結婚して子供を……と波奏は考えていたが、まさか流牙に沢山の奥さんが出来るとは思わなかった。

 

「でも、久遠さんや結菜さん、それに一葉さんたちみんな可愛くて流牙を大切に想ってくれているいい子たち良かったわ。流牙が誰を選ぶのか分からないけど、誰を選んでもお母さんは応援するわ」

 

「え、えっと……ありが、とう……?」

 

素直に喜べばいいのか分からず首を傾げながら言う流牙だった。

 

とりあえず波奏が奥さんたちである久遠たちを気に入ってくれているので安心した。

 

「轟天は……魔導馬は魔戒騎士の大いなる力。これからの戦いで必ずあなたの力になれるわ」

 

「でも……俺はまだ内なる試練を受けてない……そもそも、俺にその資格があるかどうか……」

 

魔導馬を使うにはホラーを百体浄化してから『内なる試練』と呼ばれるものを受けてクリアしなければならない。

 

仮に轟天が蘇っても流牙自身はまだその資格がないと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『その心配はいらない、道外流牙よ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、ガロの鎧から威厳のある雰囲気を醸し出す低い声が響いた。

 

「誰だ!?」

 

すると、ガロの鎧から眩い白い光が辺りを包み込むとそこに一人の男が現れた。

 

それは流牙の鎧とは異なる前の姿の黄金の鎧に大きな黒いマントをなびかせる黄金騎士だった。

 

「ガロ……!?」

 

『我は先代の黄金騎士の英霊だ』

 

「先代の、黄金騎士!?」

 

それはガロの鎧が金色を失う前の黄金騎士の継承者。

 

そしてここにいるのは鎧に込められた死んだ黄金騎士ガロの継承者の魂……英霊である。

 

流牙は姿勢を正して頭を下げると英霊はゆっくりと流牙に近づけながら話す。

 

『道外流牙よ、お前は既に百体以上のホラーを討滅している。更に……お前は己の心の弱さと闇を受け入れ、ガロの闇であるザジを倒した。これ以上ないほどに轟天を受け継ぐ資格を手に入れている』

 

流牙は既に轟天を受け継ぐ資格を得ており、英霊からも認められていた。

 

「ありがとうございます!」

 

『いいや、礼を言うのはこちらの方だ。よくぞ……よくぞ、ガロの黄金の鎧を蘇らせてくれた』

 

突然の英霊からの感謝の言葉に流牙と波奏は目を丸くした。

 

しかし、英霊からの感謝の言葉はある意味当然のことだった。

 

『私はかつて人々を、仲間を守るためにガロの鎧の金色を解き放った。だが、そのせいで鎧は真の力を失ってしまった』

 

一度ガロの血筋を継ぐ者がいなくなり、流牙は波奏と符礼法師との約束を胸に十年間の厳しい修行の末にガロの鎧に認められた。

 

しかし、金色の輝きを失った鎧はその力を本当の意味で発揮する事が出来なかった。

 

そして……ガロに金色の輝きを取り戻したのは他でもない、流牙と波奏だった。

 

『流牙と波奏……二人の親子の強い絆で鎧の金色を蘇ることが出来た。鎧に眠る全ての英霊を代表して礼を言う。二人の守りし者としての想いに感謝する』

 

英霊は流牙と波奏の二人に向かって頭を下げて感謝の気持ちを伝えた。

 

なんと言えばいいのかと言葉に表せられない嬉しい気持ちが流牙と波奏の心の中から溢れてくる。

 

ガロの英霊に認められたことや感謝されたことは魔戒騎士として、魔戒法師として嬉しいものだった。

 

しかし、喜ぶのも束の間だった。

 

チリーン!

 

「ザルバ?」

 

ザルバのカバーを開くと驚くべき言葉を発した。

 

『流牙、話のところ悪いが鬼の気配だ』

 

「また鬼が現れたのか!?」

 

鬼が現れたと知ると、英霊は奥の方を指差して言う。

 

『行け、お前の力を、助けを待つ者がいる。守りし者としての使命を果たせ』

 

「はいっ!!!」

 

黄金騎士として、守りし者としての英霊の人々を守る為の強い想いに応えるため、流牙は強く頷いた。

 

そして、波奏はポンと流牙の背中を叩いて笑顔で見送る。

 

「流牙、気をつけてね。行ってらっしゃい」

 

「行ってきます、母さん!」

 

波奏と英霊に見送られた流牙は牙狼剣を取り、鬼を倒し、人々を守るために走っていく。

 

流牙を見送った波奏と英霊は轟天に向かい合い、手を前に突き出す。

 

『行くぞ、波奏』

 

「はい」

 

二人の手から金色の粒子を放ち、轟天に金色の力を与える。

 

漆黒の鎧に包まれた轟天の体にヒビが入り、そこから金色の輝きが漏れ出した。

 

 

地上に戻った流牙は光璃たちと合流し、既に武田四天王が鬼の討伐に向かっていた。

 

「光璃、付いてきてくれるか?」

 

「もちろん行くけど、どうしたの?」

 

「君と……光瑠に見せたいんだ。天馬の本当の輝きを!」

 

「天馬の……!?うん、わかった……!」

 

流牙は光璃と共に鬼が現れた場所へ向かった。

 

鬼は下級ばかりであるが、それを統率する中級の鬼がいた。

 

中級の鬼は下級よりも一回りも二回りも大きく、下手に動けば武田軍に大きな被害が出る可能性があるので流牙と光璃が来るまで周囲の民の避難誘導に専念した。

 

その後、流牙と光璃が到着し、鬼の群れを遠くから見つめる。

 

鬼の数は三十体ほどで中級の鬼が統率して操っていた。

 

そして、流牙は牙狼剣を手にし、耳に当ててその声を聞く。

 

『流牙……!』

 

牙狼剣から波奏の声が響き、流牙は遂にその時が来たと頷いた。

 

「……はい!」

 

流牙は鬼の前に出て静かに牙狼剣を抜き、天に掲げて円を描く。

 

描いた円からガロの鎧が召喚され、流牙の体に装着される。

 

黄金騎士ガロとなった流牙は鞘に収められた牙狼剣を抜かずにその場に立つ。

 

鬼たちは流牙を……黄金騎士ガロを殺そうと一斉に襲いかかる。

 

「来い……古の時代より黄金騎士と共に戦地を駆け抜ける金色の天馬……」

 

流牙は牙狼剣を抜いて再び天に掲げ、今まで待ち焦がれていたその名を呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「轟天!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流牙がその名を呼んだその時、天馬神社の地下に眠っている天馬が遂に目を覚ました。

 

『ヒヒィーン!!!』

 

天馬神社の地下室から一度魔界に送還され、流牙の周りが金色の光に包まれた。

 

襲いかかって来た鬼たちが突然現れた金色の光に吹き飛ばされ、光璃たちは目を見開いた。

 

そして……光が止むと同時に現れたのは漆黒ではなく、ガロと同じ眩い金色の鎧に身を包み、真紅の鬣を靡かせる天馬。

 

愛する母と尊敬する英霊の力によって永きに渡る眠りから解き放たれた黄金騎士ガロの魔導馬、轟天の降臨だった。

 

「あれが……轟天の真の姿……!!」

 

光璃は轟天の真の姿に黄金騎士ガロの降臨の時と同じく目を輝かせた。

 

永きに渡る先祖、光瑠の念願が叶い、目を輝かせた後に涙を流した。

 

戦国最強の騎馬軍団を持つ武田衆はその轟天の美しい輝きや勇ましい姿に感動して目を奪われた。

 

流牙は轟天の手綱を左手で握り、牙狼剣を右手で構える。

 

「はあっ!!」

 

手綱を操り、轟天を走らせて鬼の群れに突撃する。

 

轟天は決して止まることのない駿馬の如き屈強な脚で鬼を次々と轢き殺し、流牙は牙狼剣の刃で次々と切り倒していく。

 

轟天の名馬と呼ぶべき素晴らしい力にそれを操る流牙の見事な馬術。

 

魔戒騎士と魔導馬、二つの力が重なり、まさに人馬一体としての最高の力が生まれている。

 

ほぼ全ての鬼を討滅し、最後に残ったのは一回り体が大きい中級の鬼だった。

 

そして、流牙と轟天……魔戒騎士と魔導馬の力の結晶がその姿を現わす。

 

「轟天!」

 

『ヒヒィィイイイーン!!!』

 

轟天は流牙の想いに応えて後ろ足で立ち上がり、前足で地面を思いっきり叩きつけて聖なる蹄音を響かせた。

 

キィーン!!!

 

轟天から放たれた衝撃波が周囲に響かせると、牙狼剣の刃が巨大な両刃となり、鋼牙の轟天が与えた力と同じ『牙狼斬馬剣』へと姿を変えた。

 

牙狼斬馬剣を構えた流牙は手綱を操って中級の鬼に向けて轟天を走らせた。

 

巨剣とは思えない滑らかで軽々とした動きで牙狼斬馬剣を掲げ、轟天の駿馬としての脚で中級の間合いに入り、一気に牙狼斬馬剣を叩きつけた。

 

剛剣一閃。

 

まさにその言葉が適切と言わんばかりの凄まじく、力強い一撃で中級を真っ二つに叩き切り、轟天は急激に足に力を込めて地面に焦げ跡が残るほどにブレーキをかけて止まった。

 

現れた全ての鬼を討滅し、鬼の気配が無くなり、ようやく一息をつくと流牙は轟天に手を添えた。

 

「これからよろしくな、轟天。俺と一緒に人々を守ろう」

 

『ブルゥ……』

 

轟天は新たな主である黄金騎士ガロの継承者、流牙と心を通わしながら鎧と同じくその体を分解させながら魔界へと帰って行った。

 

「流牙……」

 

「光璃!」

 

流牙は光璃の元へ行き、早速感想を聞いた。

 

内容はもちろん、轟天についてだった。

 

「どうだった?轟天の真の姿を見れて」

 

「うん……とっても綺麗で勇ましかった。黄金騎士が跨った姿は戦神みたいだった……」

 

念願だった轟天の復活に表情はあまり見られないが、光璃は小さな子供のように興奮している様子を見せていた。

 

「褒め過ぎだよ、俺なんて鋼牙さんに比べたらまだまだだからね」

 

「そんなことないよ、あなたは最高の黄金騎士だよ」

 

「ありがとう。それじゃあ、一旦屋敷に戻ろうか」

 

流牙がみんなと一緒に屋敷に戻ろうとしたその時、光璃が魔法衣の裾を掴んで止めた。

 

「光璃?」

 

「これで……流牙の、黄金騎士の力が揃った。次は私の番」

 

「私の番って、何が?」

 

「ねぇ、流牙……」

 

「何?」

 

首を傾げる流牙に綺麗な紅い瞳で見つめる光璃の口から驚くべき告白を受ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私と……祝言を挙げて、夫婦になって?」

 

「…………え???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはこれから起きるであろう流牙を巡る龍と虎の……否、乙女と乙女の意地のぶつかり合いを告げる始まりの言葉だった。

 

そして、流牙の度重なる女難が更なる追い討ちを掛けるのは言うまでもなかった。

 

 

 

.

 

 

 




それは優しき心を持ち、強き力を持つ娘。

遠い祖先の記憶を受け継ぎ、法の術を操る。

記憶の中にある天狼と出会うその時を待っていた。

次回『虎 〜Hikari〜』

そして、娘は想いの全てを解き放つ。



.

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