いよいよ美空と光璃の対決が近づいています。
そうすればやっと久遠ちゃんの再登場が間近ですので書くのが楽しみです。
流牙たちが甲斐に移住してから数日が経過した。
鬼狩りをしながら甲斐の生活に慣れたある日、夕霧が流牙たちを甲斐に案内すると提案した。
早朝、夕霧に連れられて流牙と結菜と綾那と歌夜は馬に乗って甲斐巡りをする。
詩乃は朝がとても弱く、書庫の書物をのんびりと読むお休みの日でもあるので置いてきた。
しかし、早朝といってもまだ朝日は出ておらず、結菜たちは眠そうに欠伸をしていた。
「ふわぁ……甲斐の人は本当に早起きね」
「綾那、まだ眠いです……」
「私もちょっと……」
「そう?俺は別に平気だけど」
流牙はまだ朝日が昇ってない夜中でもけろっとして馬に乗っている。
「あのね……魔戒騎士で四六時中動き回れるあなたと一緒にしないでよ」
ため息をつく結菜の言う通り魔戒騎士はホラーという魔獣が夜に現れる関係上、夜中に行動することが多い。
それに踏まえて日中はホラーの情報を集めたりホラーの出現を抑えるエレメントの浄化を行なっている。
片や普通の人間である結菜たちから見れば人外並みの体力と体質を持つ魔戒騎士と一緒にされては困る。
「流石は兄上でやがりますな」
「それほどでもないよ。それにしても、いい風景だな……やっぱりこういう自然は心が落ち着くな」
山や森が広がる甲斐の風景を五感で楽しみながら馬を進ませる。
名所の山々や寺を案内した後、お昼時になり薫が作ってくれた弁当を広げて食べていると夕霧が話しかけた。
「あのですね……兄上」
「どうした?」
「一つ、聞きたい事があるでやがりますが……」
「何だ?」
「兄上は、姉上のことや夕霧のことを……その、恨んでやがりますか?」
「……え?何で?」
「何でって……改めて考えてみれば、あの時期を狙っての長尾への一撃は我ながらひどいでやがるな……と」
「ああ、あれか……」
長尾の内乱が終わった直後に夕霧がやってきて流牙を寄越さないと攻めるという脅し……あれは強力で完璧な一撃だった。
「確かに夕霧は姉上の意思に従ったでやがりますし、先祖の光瑠様や眠っている轟天などのことで間違ったとは思ってやがりませんが……こうやって兄上と仲良くなってから考えたら、悪いことをしたな……と」
「夕霧が気にすることじゃないよ。俺をここまで連れて来させるにはそれしかなかったと思うけどね。光璃と美空のいがみ合いは何とも言えないけどね……」
「面目次第もないでやがりますよ」
「だけど、流牙は好機だと思っていたのよね」
結菜が笑みを浮かべながら補足説明をする。
「好機、でやがりますか?」
「鬼退治をするために武田を味方につける好機よ。みんな驚いていたわよ」
「ああ。でもまさか光璃たちが俺と同じ一族で、光璃と祝言を挙げるとは思わなかったけどな。そういう意味だと、俺も武田を利用したと同じようなもんだけどな」
「それはお互い様でやがりますよ」
「だろ?そういうもんさ、鬼退治は協力してくれるんだよね?」
「兄上の望むような協力体制は姉上次第でやがりますが……少なくとも、長尾とのいがみ合いよりも日の本を蝕む鬼を倒す方が優先だと、夕霧は考えてやがりますよ」
「十分だ。説得は俺がする。それに……何となくだけど、光璃と美空は仲良くなれる気がするんだ」
「ええっ!?い、いやぁ……流石に姉上と美空殿が仲良くは難しいかと……」
光璃と美空の間には犬猿の仲と言わんばかりの強いいがみ合いの関係であり、夕霧は仲良くなれるのは無理だと汗をかいて首を左右に振った。
しかし、流牙はそんな事ないと微笑みながら答える。
「俺だって昔、一時期一緒にいた同じ魔戒騎士とあまり仲良く出来なかったからさ。それこそ光璃や美空の関係と同じで考え方が違うから合わなかったんだ。だけど……」
流牙の脳裏には弓を持つ月下に輝く魔戒騎士と斧を持つ小さなたくさん命を守る魔戒騎士の姿が浮かんだ。
「だけど?」
「ある出来事をきっかけに、同じ守りし者として、同じ魔戒騎士として、そして……共に戦う仲間として心を一つにすることが出来たんだ。だから、光璃と美空もきっと……」
傷つき、崩れ落ち、倒れそうになりながらも共に立ち上がり、人々を守るために刃を振るう。
流牙はいつか光璃と美空もそんな関係になればいいなと強く願う。
「流牙なら光璃様と美空様の関係を紡ぐこと出来るわ。私は信じてる」
「綾那も信じてるです!」
「私も流牙様なら出来ると信じております」
「ありがとう、みんな」
その後流牙たちはお昼を食べ終え、馬に乗って次の目的地に向かおうとしたその時だった。
チリーン!
「ザルバ?」
『流牙、鬼の気配だ』
「っ!分かった!みんな、鬼だ!」
ザルバが鬼の気配を察知し、みんなの表情が鋭くなる。
すぐにザルバの案内で流牙たちは馬を走らせて鬼のいる方向へ向かった。
こっそり流牙たちの護衛で動いていた小波から句伝無量を伝って鬼の居場所が特定し、一刻も早く小波の援護に向かおうとしたが……。
『流牙、鬼の気配がなくなった』
「気配が無くなった?」
小波が早々に倒してしまったのかと思い、小波の元へと急ぐとそこには見慣れない二人の少女がいた。
何と、鬼は少ないながらもこの二人が退治してしまったらしい。
一人は右目を眼帯で覆った少女でもう一人の浪人風の少女……それは流牙は見覚えがあった。
「君は……茶屋の時の……」
「やあやあ、あの時はご馳走になったね」
「流牙、知り合いなの?」
「前に久遠たちと堺に行った時に茶屋で会ったことがあるんだ。ただのお嬢さんじゃないと思ったけど、なるほど……君は武田の人間だったんだね?」
「御名答。ちなみに、自分はあなたのことを調べていたのさ」
「俺を?」
「田楽狭間に舞い降り、金色に輝く狼を模した鎧を纏う天人。甲斐の足元でそんな噂話が出たのなら、調べるのは当然だろう?」
「まあ、光璃が知りたがったのはそれだけじゃないと思うけど」
黄金騎士ガロの継承者が天人としてこの世界に現れたと噂を聞けば光璃はそれを徹底的に調べ上げるのは必然である。
「君の活躍はこの目で見させてもらったよ。特に衝撃的だったのは九頭竜川での破壊の神の如き姿をした暴狼と、越後で美空殿の護法五神と一体化した天龍の姿……破壊と守護、相反する力を宿す金色の天狼の鎧とそれを纏う君はとても興味を持つよ」
「それはどうも。まさかあの戦いを遠くから見ていたとはね」
「見れば見るほど興味が溢れる、こんな気持ちは初めてさ。天人は人を惹きつける魅力でもあるのかな?」
「さぁね。ところで君の名前は?」
「おっとこれは失礼、改めて名乗ろうか。我が名は武藤喜兵衛一二三昌幸。下山城代を務めております。お気安く、一二三とお呼びくだされ」
「俺も改めて、名は道外流牙。光璃の夫になった。それで、君は?」
「私は……山本勘助湖衣晴幸と申します」
浪人風の少女は一二三、眼帯の少女は湖衣、流牙は名前を覚えて頷いた。
「一二三と湖衣か、二人共よろしくな」
「ええ、よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします……んっ?」
湖衣は流牙の両目を見ると不思議なものを見たような表情を浮かべて首をかしげた。
「ん?どうした、湖衣」
「あ、あの……流牙殿は目に不思議な力をお持ちですか?」
「目に不思議な力?」
「は、はい……なんて言うか流牙殿の両目が何かに守られているような……そんな感じがあるので」
湖衣の説明に流牙たちは納得がいった。
流牙の両目には大きな秘密があり、流牙は少し暗い表情を浮かべながら湖衣と一二三と真実を語った。
「実はね……この両眼は一度、剣で潰されたんだ」
「なっ!?」
「……剣で潰された目がどうして見えるようになっているんだい?」
「ある強敵との戦いで目を潰され、一度は光りを失い何も見えなくなった。だけど、生き別れた母さんと再会した時に母さんが術を使って自分の目の力を代償に俺の目を直してくれたんだ……」
もう何度目か分からない自分の瞳にかけてくれた波奏の母の愛情……それに湖衣は目を見開いて驚き、マイペースな一二三も心が揺れた。
「そう言うことでしたか……納得がいきました、その両目に宿っている力からは優しい光が見えましたから……」
「なるほど、流牙殿のお母上の光をその目に宿し、多くのものを見続けているわけか……」
「俺は一人でも多くの人間を鬼の魔の手から守る。そして、母さんから貰ったこの瞳で多くの人の笑顔を映すんだ」
百聞は一見にしかずとはよく言うが、湖衣と一二三は何故流牙に人が集まるのか、その理由の一つがこうして目の前にしてなんとなく分かった気がした。
その後流牙たちは一二三と湖衣と一緒に下山城へ向かい、これからに向けて情報交換をする。
鬼や駿府屋形の状況……駿府屋形は嵐の前の静けさのように特に動きはないが、鬼の動きが複雑に変化していた。
バラバラだった動きが統率が取れてきているように一二三は見えている。
『恐らくは鬼を操る統率者と呼べる存在が現れたのだろう。特に自ら鬼となった武と知恵を持つ人間が鬼を束ねていることが鬼の行動に変化が現れただろう』
「……ホラーと同じだな。魔獣は力のあるものに従う。それは何処の世界でも同じだな」
「流牙殿の天の世界でも同じとは世も末ですな。しかし、こうなるともはや鬼はただの獣ではなく、危険極まりない勢力であると認めるしかないでしょう」
「そうだな。一刻も早くみんなを一つにしないと……」
流牙は未だにバラバラな織田、長尾、武田を一つにして日の本を守る同盟にしないといけないと焦りがではじめる。
この同盟の鍵を握るのは言うまでもなく流牙である。
流牙は何かきっかけがあれば良いんだけどと思いながら下山城で一夜を明かした。
翌朝、下山城を出て躑躅ヶ崎館に戻ろうとしたその時だった。
「典厩さまー!」
「兎々!こんな時間にどうしたでやがりますか!?」
それは武田四天王の一人で兎耳をつけた小さな少女、兎々だった。
「越後勢が信州に向けて行軍を開始したと報が届いたのれす!急ぎ、躑躅ヶ崎館にお戻りくらさい!」
「美空達が!?」
美空達が進軍していると聞き驚く一同。
流牙たちは一二三と湖衣と別れてすぐに躑躅ヶ崎館へと戻った。
すぐに軍議が行われ、詩乃は美空の目的が流牙の奪還が目的であると推測した。
このままでは長尾と武田が激突することは必至、流牙は光璃にあることを提案する。
「光璃、俺を行かせてくれ。美空を説得する」
「ダメ……美空は信用出来ない」
「そんなことを言っている状況じゃないだろ。俺たちがやらなければならないことはわかってるだろ?」
「でも……仮に流牙が行ったら美空に捕まって取られちゃうかもしれない……」
「確かにそうかもしれない、だけど……俺は二人が傷つけ合うのを見たくない!」
流牙にとって光璃も美空も大切な妻であり、
この日の本を守るために共に戦う大切な仲間でもある。
これ以上大切な仲間が争い、傷つけ合うのを見たくない。
「頼む、光璃!」
流牙は深く頭を下げて光璃に頼んだ。
流牙にベタ惚れの光璃は流牙に頭を下げられたら首を左右に触れるわけがなかった。
「……流牙に頭を下げられたら、嫌と言えない。わかった……流牙に任せる」
「ありがとう、光璃!」
武田はひとまず長尾を迎え討つ準備はするが、基本的に流牙と詩乃の策で被害を出さないようにする作戦に出る。
流牙が一足先に美空の元に向かい、説得を試みてその間に詩乃たちは流牙隊と合流する予定だ。
片や流牙を奪うため、片や流牙を守るため……二人の乙女の戦いの間にいる流牙。
いがみ合う二つの大国を結ぶために流牙は架け橋となるために駆け抜ける。
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彼は走る、戦いを止めるため。
彼女は走る、想いを取り戻すために。
次回『誇 〜Pride〜』
二つの思いが弾き合う。
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