牙狼 〈GARO〉 -戦国ノ希望-   作:鳳凰白蓮

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今回は色々と話を詰め過ぎました。
流牙を中心とした騒動が巻き起こり、ギャグメインとなりました(笑)
私の大好きな結菜が壊れ始めました(笑)


『旅 〜Travel〜』

詩乃を攫って流牙隊に配属となった次の日、久遠は今までの流牙の活躍に褒美を上げることになったがあまり欲が無い流牙はそれを断った。

 

「無欲な男だな……そうだ、流牙。結菜から聞いたが、あの刀の柄が壊れたそうだな」

 

「ああ、そうだけど」

 

「なら私が刀の新しい柄を、ついでに鞘と鍔も用意しよう。せっかくだからお前の牙狼剣の赤い鞘と柄のような物でどうだ?」

 

「良いのか?柄が粉々に壊れちゃったからどうしょうかと思っていたんだ」

 

「刀は武士の魂だ。それに貴様は私の夫だ。格好がつくように良いものを用意しよう」

 

「分かった、せっかくだからお願いするよ」

 

流牙は久遠に刀を渡して職人に頼んで柄と鞘と鍔を作ってもらうことにした。

 

そして、一週間近くで完成すると刀は牙狼剣に似た赤い鞘と柄がはめられ、鍔にはガロの三角形の紋章が彫られたもので見事な刀となった。

 

せっかくなのでこの刀を『牙狼刀』と呼ぶことにして流牙のもう一つの武器となった。

 

牙狼刀の完成を喜んでいると久遠に行きあった。

 

「久遠!」

 

「おぉ、流牙か。どうだ?牙狼刀の方は?」

 

「バッチリだよ」

 

「うむ、見事な装飾だな。そうだ、今から屋敷に来てくれるか?」

 

「城じゃなくて?」

 

「少し色々あってな」

 

「色々?わかったよ」

 

久遠の言葉に疑問を抱きながら一緒に屋敷に向かう。

 

「今、帰った」

 

「お帰りなさいませ」

 

屋敷に入ると三つ指をついてお辞儀をしている結菜がいた。

 

(……ねえ久遠。結菜になにかあったのか?)

 

(どうもせんぞ)

 

(そうか?なんか俺の知ってる結菜じゃないって言うか……大和撫子っぽいというか)

 

「……………」

 

(怖い!笑顔がものすごく怖い!)

 

いつもとかなり違う反応に流牙も思わず警戒してしまう。

 

「今は置け。後で説明する」

 

「あ、ああ……」

 

そう言って屋敷の中を進んでいく。

 

「まぁ、座れ」

 

「ああ……」

 

「お茶をお持ちしました」

 

「うむ、苦労。そこに控えておれ」

 

「はい」

 

結菜は久遠の斜め後ろに座る。

 

「よいな、結菜」

 

結菜は頷いてから流牙をジッと見つめて口をあけると、

 

「織田久遠が妻、結菜。本日より流牙さまの側室として御奉公させて頂くことになりました。久遠様共々、お可愛がりくださいますよう。何とぞよろしくお願いいたします」

 

「………………はい?」

 

あまりにもとんでもない内容だったので流牙も頭が一瞬真っ白になった。

 

「我が妻は、我が夫であるお前の妻でもある。……そういうことだ」

 

「え?えっ?ええっ?な、なんでそんなことに?」

 

「帰蝶……結菜がな、お前の事を認める、といってくれたのだ。そして二人で話し合った結果、流牙を奉公することとなった」

 

「詩乃……竹中殿の救出劇を側で見て、あなたのことを信用できると思ったの。だから……」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ、側室てことは愛人みたいなもの……だよね?いきなりなんで」

 

「ふむ。不満なのか流牙は?」

 

「いや、そうじゃなくて……」

 

「はぁ……あんたは鈍感且つ純粋だからちゃんと言葉にしないと駄目よね。私はね……流牙、あなたの事を好きになったのよ」

 

「…………ええっ!!?」

 

まさかの結菜からの告白に驚愕する流牙。

 

「全く、最近の貴様は誑しすぎる」

 

「待ってよ久遠!だからそれはみんなには何回も言ってるけど誤解だから!俺はそんな気は全くないんだよ!!?」

 

「良いか!貴様が誰とどうなろうと我は束縛するつもりはないが……正妻は我だという事を忘れるでないぞ!」

 

「い、いや、分かってる、分かってるけどさ!」

 

「まさか……薄々気づいていたけど。流牙、向こうの世界に恋人がいるんじゃ無いでしょうね?」

 

「何!?それは本当か!?」

 

「おかしいと思ったのよね……自分で言うのもなんだけど、私や久遠、壬月と麦穂、三若、ひよところと詩乃……みんな結構可愛いと思うのに全然手を出してこないし……」

 

「確かにそうだな……流牙、夫婦に隠し事は無しだぞ!正直に白状するのだ!」

 

久遠と結菜の二人の圧力に流牙も正直に自分の気持ちを話す。

 

「……恋人はいないよ。でも……俺の相棒……母さんの遺言と自分の意思で俺と一緒にいてくれる大切な女の子……莉杏がいるんだ」

 

「莉杏か。流牙よ、その莉杏のことを好きなのか?」

 

「好きかどうかと言われれば、多分好きだと思うし、『あの事』があるから絶対に莉杏を失いたく無い気持ちは強い……」

 

「あの事?」

 

「もし良かったら、教えてくれない?」

 

「……実はこの世界に来る少し前に世界を闇に変えようとした伝説のホラー、ラダンとの戦いで莉杏がジンガという奴に捕まってラダンの動力源にされたんだ。莉杏は俺たちと人々を守るために……特別な魔導具を使って自爆して命を絶ったんだ……」

 

「自爆、だと……!?」

 

「それで、その莉杏さんはどうなったの!?」

 

「一度は命を落としたけど、空から降り注いだ命の光でなんとか生き返ったんだ。あの時は母さんの時と同じ、俺の大切な人がいなくなってしまったと大きな悲しみに暮れてしまったよ……」

 

「そうか……無事で何よりだな」

 

「でも、誰かのために自決するなんてそうそうできる事じゃ無いわよ。やっぱり流牙と同じ守りし者なのね。でもこれではっきりしたわ」

 

「はっきりしたって……何が?」

 

「流牙、あなたは莉杏さんの事をとても大切に想ってる。そして、莉杏さんもきっと……だから、宣戦布告よ!」

 

結菜はビシッと流牙を指差して宣言する。

 

「せ、宣戦布告?」

 

「ええ!私と久遠は絶対にあなたを莉杏さんから振り向かせるわ。そして、絶対にお互いを愛し合う本当の織田家の夫婦になってもらうわ!!」

 

「おお、そうだな!流石は結菜だ!」

 

「ちなみに、私の予定では久遠と流牙の子供は織田家次期当主!そして私と流牙の子供は黄金騎士の後継者として育てるわ!これで後継者問題は解決ね!」

 

まさかの織田家の未来の当主どころか未来の黄金騎士の後継者のことを考えている結菜だった。

 

「うぉおおおおおい!?ちょっと結菜!?君は何を言ってるんだ!?」

 

「そ、そうだぞ結菜!まだ我には子供の事は……」

 

「そんな事を言ってる余裕は無いわ、久遠!これは流牙の妻としての責務よ!どんな手を使っても流牙を魅了しなさい!!」

 

「み、魅了か……よし!我に出来ることを全力でしよう!」

 

「それでこそ私の久遠よ!!」

 

流石は親友と言う名の夫婦の会話に流牙も頭を悩ませた。

 

「お二人はお忙しそうだから、そろそろ立ち去らせてもらうよ……」

 

暴走する二人を止める術を知らない流牙はこっそりとその場から逃げ出そうとする。

 

「逃がすかこの女誑しめ!!!」

 

「今日は屋敷で泊まりなさい!!!」

 

しかし妻の二人がこのまま逃すはずがなかった。

 

「俺は鬼狩りの仕事があるから失礼します!!」

 

流牙はこの世界に来た初日の夜と同じく全速力で逃走する。

 

「「待てぇいっ!!!」」

 

「か、勘弁してよぉっ!!」

 

久方ぶりに流牙を狙う追いかけっこが始まってしまった。

 

今度は久遠と結菜の二人だが途中で麦穂や三若や流牙隊の三人も参加してきて城下町を舞台にドタバタした追いかけっことなった。

 

結局最後は鬼柴田の壬月に怒鳴られ、説教を受けるという結果になってしまったが、流牙の女難はまだ始まったばかりだった。

 

 

ドタバタの追いかけっこから少し経ち……穏やかな夜を過ごしていたある夜、遂に美濃との決戦の時となった。

 

織田を先頭にあちこちの小豪族が名乗りを上げて集結していく。

 

流牙隊は以前稲葉山城を調べた時に見つけた獣道を進んで城内に進入して城門を開ける事となった。

 

そして、例によって戦には参加しない流牙は陣で久遠の側にいた。

 

着々と作戦が完了していき、一つ一つ城攻めが近づき、久遠は本陣を動かし始める。

 

「時は来た!美濃の蝮、斎藤山城より受けた国譲り状を今こそ現実にする時だ!勝負は二度あらじ!皆、奮え!」

 

織田家が一気に攻める時が来るがここで一つの変化があった。

 

「あれ?流牙……?」

 

気がつくと久遠の隣にいた流牙は陣から姿を消していた。

 

 

その後、戦は織田が優勢となり、織田家最強の森一家の桐琴と小夜叉が前線に出てきた。

 

そして、森一家が城門をあっさり突き破るとそこには信じられない光景があった。

 

「何だぁ……?鬼の死体……?」

 

そこには数多の鬼の死体が転がっており、煙のように消滅していってる。

 

「おい、母。あれ……」

 

小夜叉の指差した方には暗闇の中で輝く黄金の光があった。

 

狼をモチーフにした金色の鎧を纏うその者は金色の剣を手に鬼を一掃し、全ての鬼を斬り倒すと黄金の鎧が解除される。

 

そこにいたのは漆黒の魔法衣を身に纏う……。

 

「あ、みんな。お疲れ」

 

久遠の夫にして流牙隊の頭、道外流牙だった。

 

「お、お頭ぁっ!?」

 

「流牙様ぁっ!?」

 

「ど、どうしてここに流牙がいるんだよ!?」

 

「扉、閉まってましたよね?」

 

「どうやって乗り込んだんだの!?」

 

「確か久遠様と一緒に陣にいるはずですが……」

 

「流牙!何故お前がここにいる!?そしてどうやって先回りをした!?」

 

ひよ子、転子、和奏、雛、犬子、麦穂、壬月の順で驚いていると流牙は牙狼剣をしまいながら答える。

 

「何故って、ザルバが鬼の気配を察知したから来たんだよ。あと、正直に門から入るわけにはいかなかったからあれを使った」

 

流牙が指差した方には城に矢が突き刺さっており、その後ろには長い紐が繋がれていた。

 

「矢と、紐……?」

 

「遠くから紐をつけた矢を投げて城に差して綱渡りをして来たんだ」

 

『『『……はぁっ!??』』』

 

流牙の衝撃的な発言に一同声を上げて驚いた。

 

約十分前……久遠と一緒に陣にいた流牙はザルバの呼び出しでこっそりと抜け出した。

 

『流牙、鬼の気配だ。面倒だがあの城の中からだ』

 

「城の中か……今はみんなが城攻めをしているから正面から行くのは難しいな。それなら……」

 

流牙は魔法衣から流牙隊の装備の中から少しもらった矢が入っている矢筒と丈夫な紐を取り出した。

 

紐をしっかりと近くの木に括り付け、紐の先を矢の後ろに結ぶと弓を使わずに思いっきり矢を投げ飛ばした。

 

「はっ!!」

 

紐の付いた矢はしっかりと城に突き刺さり、なんの障害もない一直線の道が完成した。

 

「ふっ、はぁあああっ!」

 

そして、流牙は気合いを入れると紐の上を走り、門の開閉に苦労していた織田軍を見下ろしながら見事な綱渡りをしてあっさりと城内に進入した。

 

城内に進入するなりどうやって進入したか不明だが複数の鬼を発見し、牙狼剣を抜き、ガロの鎧を召喚しながら鬼の討滅をするのだった。

 

「何だその無茶苦茶なやり方は……」

 

「流石の森家でもそんな馬鹿げた事はできないぜ……」

 

織田最強の桐琴と小夜叉も流牙のやり方に呆れ果て、

 

「ころちゃん……私達のお頭って凄いね……」

 

「凄いというか、もはや神業だよ……」

 

ひよ子と転子は自分達のお頭の凄さに乾いた笑みを浮かべ、

 

「なぁ、もし流牙が戦に加わったらもっと楽に終わるんじゃないか?

 

「そうですねぇ……剣術と体術は超一流で矢と紐だけであっさり城に進入できますし……」

 

「もう流牙様一人でいいんじゃないかなぁ……?」

 

和奏と雛と犬子は流牙のハイスペックに軽く心が消沈し、

 

「でも流牙殿は人を殺さない、戦に参加しないという固い約束を久遠様と交わしていますからね……」

 

「全くもったいない……その力があれば歴史に名を残す戦国最強も夢ではなかろうに」

 

麦穂と壬月は流牙の実力や能力を知っているからこそもったいないと苦笑を浮かべた。

 

天下の名だたる堅城と呼ばれた稲葉山城を矢と紐だけであっさりと進入した流牙に一同は複雑な心境だった。

 

「さて、俺は鬼を討滅したから久遠の元に戻るよ。みんな気をつけてね」

 

「……待ちな、小僧!」

 

立ち去ろうとする流牙に少し不機嫌な様子の桐琴が止めた。

 

「……何?」

 

「私達森一家より先に城に入っておきながらそのまま黙って帰るとは良い度胸じゃないか」

 

「俺は鬼を討滅しただけだ。戦ならあんた達の仕事だろ?」

 

「人を斬らない信条らしいが、そんな事でこの戦国の世を生きていけると思っているのか?」

 

「生きるよ。俺は死なないし、必ず生きて鬼からみんなを守る」

 

「そう言う台詞はな……強くなきゃただの戯言だ!!」

 

桐琴は東海一と謳われる槍を流牙に向けて振り下ろした。

 

流牙は牙狼剣を取り出して抜刀し、桐琴の槍を捌いて弾き返した。

 

「は、母の槍を捌きやがった!?」

 

森一家の当主である桐琴の槍を捌いた流牙に小夜叉だけでなくこの場にいた全員が驚いていた。

 

流牙と桐琴の剣と槍の刃を交わし、桐琴は面白いと思ったのか笑みを浮かべて槍を引いた。

 

「……はっ!どうやら口先だけじゃ無いみたいだな。小僧!今度また会ったら手合わせを願おうか?」

 

「時間があったらね。じゃあね、桐琴さん」

 

流牙は軽く手を振りながらその場を後にした。

 

その後、稲葉山城内の戦いは鬼を流牙が討滅した事もあってあっさりとカタが付いた。

 

稲葉山城に入城した久遠は稲葉山城を岐阜城と改名した。

 

岐阜というのは周の文王が岐山より起こり、天下を定む……という故事からとったらしい。

 

この国の歴史にはあまり詳しく無い流牙にはちんぷんかんぷんだったが、久遠は岐阜という名前に天下布武の決意を表明したのだ。

 

流牙は戦には参加出来ないが、久遠の夫として久遠の進む道を見守ろうと思うのだった。

 

 

それは朝に長屋でのんびりと寝ている時だった。

 

「D・リンゴのケバブ食べたいなぁ……」

 

流牙の協力者である謎のお爺さんであるD・リンゴのケバブは好物であるのでこの世界に来てから和食中心の食事だったので、ケバブを食べている夢を見ていた。

 

「いつまで寝ている!さっさと起きろ!」

 

「ぐおっ!?」

 

腹の上に思い衝撃が走り、流牙は目を覚ますとそこには……。

 

「久遠!?なんだよこんな朝っぱらから!」

 

流牙の上に馬乗りになっている久遠であった。

 

「ちょっと遠出するからついてこい!」

 

「またいきなりだな……」

 

「思い立ったが吉日とも言うからな。ついて来い流牙」

 

「ついていくのはいいけど、何処まで?」

 

「遠くだ」

 

「その遠くがどこなの?」

 

「………………」

 

「なんで黙る!?」

 

「言いたくないから黙ってる。壬月にも麦穂にも内緒で行く。だから供をしろ」

 

「織田家当主様がそんなことしていいの?」

 

「良い。我は十年後のために今動くのだ。文句は言わせん」

 

「文句を言わせないなら、ちゃんと伝えてからのほうが良くないんじゃないのか?」

 

「………………」

 

「また黙る……何でだよ」

 

「やかましく言われるのが嫌だ」

 

「子供……」

 

「ふんっ。子供で悪いか。人としての経験は壬月たちのほうが上かもしれないが、好かんものは好かんのだ」

 

「まぁ。気持ちはわかるけど」

 

「供をするのはいいけど何人いる?」

 

「多くは要らん。流牙部隊の主要な三人でいいだろう」

 

「了解」

 

「ほら、とにかくさっさと起きろ」

 

「起きるけどさ……ところで、見えてるんだけど」

 

「何がだ?」

 

「それ」

 

目をそらしながらスカートの所を指差した。

 

「それ?………………っ!!い……いつ……からだ?」

 

「最初から」

 

「そうか。ならば思い残す事はないな……」

 

「え?」

 

すると久遠はゆらりと立ち上がり……。

 

「そこに直れ!根切りにしてくれるわ!」

 

刀を抜いて流牙に襲いかかった。

 

「危なっ!!?」

 

布団から飛び出し、間一髪で避ける。

 

「おおおおお、落ち着け!下着見られたぐらいで刀を抜くな!!」

 

「うるさいうるさいうるさい!好きな男に見られて死にたいと思うから、刀を抜いたのだ!貴様も殺して我も死ぬ!安心して死ねぃ!」

 

「安心要素がどこにも無いんだけどぉっ!?」

 

ご乱心となった久遠は無茶苦茶な軌道で刀を振るう。

 

「うぉおおおおお?!本当に殺す気か!?久遠、少し落ち着いてくれ!!」

 

久遠が振り回してくる刀を流牙は冷静に見極めて避けていく。

 

「当たり前だ!死ね!いや我が殺す!共に土塊となれば寂しくもあるまい!安心せい!」

 

「まてまて!可愛いのにそんなことで死のうとするな!!」

 

「………っ!」

 

「お、おい?どうした久遠?急に止まって」

 

「………………うな」

 

「え?」

 

「か!…………かわ、いいとか……言うな!」

 

「なんで?とっても可愛いのに」

 

「…………っ!!!!!こここここここの痴れ者め!ねねねねきりにしてくりぇりゅわ!」

 

舌を噛みすぎてもはや何を言ってるのか分からない状態だった。

 

「ああもう、どうしたらいいんだよぉっ!?」

 

混沌と化したこの場に救い主が現れる。

 

「あー、はいはい。落ち着きなさい久遠。照れ隠しに逆ギレしても、噛んでいたら迫力も何もあったものじゃないわよ」

 

結菜が久遠をなだめる為に来てくれた。

 

「ゆ、結菜ぁ……た、助けろぉ……」

 

涙目になりながら久遠は結菜の後ろに隠れてしまう。

 

「た、助かった……結菜、ありがとう」

 

「心配しなくても良いわ。可愛いって言われて恥ずかしくなってどうしたらいいのか分からないのよ」

 

「ああ、なるほど。慣れていないんだな」

 

「まぁね」

 

「そ、そんなことないぞ!べ、別に我はいつもと変わらん!何を勝手な事を言うか!」

 

「……私の背中に隠れながら言っても。まーったく説得力ないわよ?」

 

「ぐぬぬ……」

 

「ふふっ……やっぱりなんだかんだ言っても年頃の女の子だね。それで、結局用件はなんだっけ?」

 

「ほら、拗ねるのもいい加減にしなさい。流牙に用事があるんでしょう?さっさと言わないと、壬月や麦穂が事態に気付いてしまうわよ」

 

「うっ……そ、それは嫌だ」

 

「なら、さっさとしなさいって」

 

「う、うむ……流牙、我について来い」

 

「それはいいけど、どこまでか言ってくれないと準備できないぞ」

 

「堺に行く。その後、京に寄るつもりだ」

 

「堺と京って確か西の方にある大きな都市だよね?」

 

「うむ。美濃を評定した今、将来のことを考えるために、広く見聞を広めたい。堺では堺の商人どもと繋ぎを持ちたい。今後は米中心ではなく銭を中心にすべてを動かす」

 

「ふむ。西の地方の鬼を調べるのにも丁度いいな……分かったよ、久遠は俺の部隊で護衛する。出発はいつから?」

 

「今からだ」

 

「マジかよ……準備なんてまだ」

 

「それならば、既に手配は完了しておりますよ」

 

「詩乃?」

 

いつの間にか詩乃が起きていた。

 

「流牙様の馬と荷台の準備を。流牙様は先に久遠様とご出立を。ひよところとあとで追いますので」

 

「そっか、ありがとな詩乃」

 

流牙は詩乃の頭を優しく撫でる。

 

「っ!は、はい!道中、お気をつけくださいませ……」

 

「あぁ、速く来てくれよ、先に行って待ってるから」

 

「は、はい!!」

 

詩乃の笑顔の返事を聞いた俺はすぐに自分で出来る準備をする。

 

「流牙!早ぅせい!」

 

「はいはい、それじゃあ結菜。行ってくる」

 

「えぇ、いってらっしゃい」

 

流牙と久遠は西に向けての旅を始めるのだった。

 

 

 




未知なる物との遭遇に心を踊り。

未来の縮図に夢を描く。

そこは夢の集う場所。

次回『都 〜Capital〜』

共に楽しもう、この時を。




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