もし慎二が良い奴だったら   作:駒由李

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慎二に雁おじのようなお人好し成分がログインしたら、桜がヤソデレブラコソの肉食女子になった。ジャソプとか何かのようなアホエロが書きたかった。時間軸は救済後の後。
▼びゃっくんが生きてるのは、慎二や桜をこういう風に育てちゃっているので多分本人の正確もちょっと違うんだと思います。最近、彼は態と息子をああいう性格に育てたんじゃないかなーと邪推してます。
▼お題は「ぷち★とまと」より。


ハプニング!

 その日は比較的平和に過ごしていたと、慎二は記憶している。だから、何が悪かったのかと問われれば、慎二は運が悪かったとしか答えようがない。否、自身が運が良かった時などあっただろうか――間桐の魔術に関われなかった分、体を蝕まれずに済んだという点では彼は間違いなく幸運だった。しかし本人としては、不幸になってでも魔術に携わりたかった事が本音だ。それは、第5次聖杯戦争を経て、仮初めにとはいえライダーのマスターを務め、そして自身で実践は出来なくても、ライダーと共に魔術の知識だけでも桜に教授している今でも変わらない。義妹の様子を見ればそれは屹度何も知らないからこそいえるのだろうと、慎二はわかっていたけれど――慎二は、物分かりの良い少年だった。

 しかしそれを差し措いても、慎二は、あまり自分が幸せだとも思っていなかった。その義妹が主な原因だった。

「兄さん、ご飯が出来ましたよ」

「あぁ」

 扉越しに、桜の声が聞こえる。慎二はその時、丁度椅子から立ち上がったところだった。本棚から取り出していた書物を戻そうとしていたところだったが、脳の活動に糖分を消費した結果か。慎二の脳は、その時、整理整頓よりも空腹を少しでも早く満たす事に優先した。だから、ベッドに本を放ると、直ぐさま扉を開いた。それがまずかったのだろう、慎二は後に反省する。

「きゃっ」

「わっ」

 扉を開くと、桜が転ぼうとしていた。仰向けに。どうやら急に扉が開かれたから、避けようとしてバランスを失ったらしい――一瞬でそこまで考えた慎二は、やはり頭の性能は良い方だった。運動能力も悪くない筈だ。咄嗟に彼女の腕を掴んだのも良い反射だった。

 しかし、自身が、支えとする筈だったドアノブを掴み損ねたのは失策だった。

 彼と同じ色の、真っ直ぐな髪が宙に浮く。

「くっ」

 慎二が咄嗟に出来たのは、自身を下敷きにする事だった。

 ――2人分の悲鳴と、振動。

「な、何事ですか?!」

 恐らく、食事の準備をしていたのだろう。階下からライダーの声が響く。慎二は、その声を聞きながら、ぶつけた頭を撫でていた。顔を顰める。

「……ったた……おい、桜。早く退いてくれ」

「……」

「おい、桜」

 思ったより、桜の体は成長していた。豊満な体つきでも、十二分に彼女は痩せている方だ。しかし、それでもやはり、大人と変わらず成長した人間はそれなりに重いのだ。だから、慎二は、身を挺して庇った妹に早く退くように催促する。回しかけた目を開いた。

 視界では、桜が義兄の体に俯せに転がっていた。至極間近に、愛らしく整った顔立ちがある。出会った頃より女性らしくなったそれに胸にときめくものがなくもないが、それより今は強かにぶつけた頭の痛みの方が勝った。自身の体重と倒れた速度、それにもうひとり分の体重が原因だろう。それにしても、この空いた手が触れる柔らかいものは何なのだろう。……柔らかい?

「……に、兄さん」

「え」

 眼を瞬く。間近の顔が、酷く真っ赤だ。それに気付いて、慎二は自身の左手を見た。青味の濃い目を瞠る。

 重力に忠実な、2対のそれ。彼女の体重と共に、桜の片方の乳房が、布越しにとはいえ、慎二の手を埋めていた。

「――さ、桜! 早く退け!」

 さすがに赤面した。しかし慎二が手を退けようにも、桜が乗ったままでは難しい。自身の胸板と彼女の胸に挟まれた左手は、軽いパニックを起こした慎二には簡単に除けられない。その間も、その柔らかさは彼の体に訴えかけてくるから、彼は焦った。元が色好みで、加えそうでなくともそれに心身共に興味を示しやすい年頃。それに相反する女性への縁のなさ――そこに、実のところ血の繋がりのない女性の体が密着。非常にまずかった。兄としては非常にまずかった。これが赤の他人でもまずいが。にも関わらず、桜は赤面をしながらも――その面に、喜色を満たす。悦に浸ったそれに慎二が思わず目を剥くと、彼女は甘やかな息を吐いて更に体を落とした。

「兄さん……こんなところで、駄目ですよ!」

「桜! 違う! 全くもって違う! これはただの事故!! ――ちょ、頼むお願い離れて離れてください桜さああああんんんんん!! 意外に腕力強いねお前えええええ」

 押し退けようとしても、桜は慎二の体に密着して離れない。慎二は焦った。同時に怖かった。肉食獣と化した義妹が。

 その悲鳴で、事の次第を察したライダーが駆け付けてきた時には、慎二は抵抗あえなく、着ていたシャツ剥かれかかっていた。

 

「……ライダー、お前のマスターどうにかしてくれよ……」

「どちらかというと、サクラの躾は家族の、それも義兄の貴男の仕事では」

 夕食後。その時、桜は風呂の掃除に勤しんでいた。皿洗いをする慎二は、隣で洗い終えたそれを布巾で拭くライダーに溜息を吐く。

 夕食前、義妹が義兄を襲うという割と頻繁に起きる惨事は今日もライダーの手により防がれていた。ライダーは時折「自身が召喚される前はどうやって逃げていたのだろう」と真剣に慎二に問いたくなるが、あまり深く追及しない方がいいかも知れないと同時に思う。どうにかして逃げてきたのかそれとも既にこれまでに食われた事があるのかわからない慎二は、手慣れてきた皿洗いをしながらいう。

「どうにか出来たらこの10年、苦労してない」

「でしょうね。というか、いつからあのような事に」

 ライダーは何の気なしに問う。

 桜と親しくなった士郎や大河の話では、以前はそれ程明るさのない少女だったという。それでも義兄に対してだけは笑顔を見せていたから、俄にはライダーには信じがたかったものだ。「衛宮達と付き合うようになってからは、家でも表情が増えたな」とは、少しだけ嬉しそうで、悔しそうでもある慎二の談だ。その彼は、すっかり老け込んだ様子で呟く。その目は遠い。

「……出逢った時からあんな感じだった気もする……」

「Oh......」

「うん、そうだな、でも衛宮達と会って、更に聖杯戦争が終わってからもっと激しくなったな」

 再び溜息を吐き、頭を振る。黙っていれば秀麗な顔立ちであるし、実際に学内では異性に人気があると人伝にライダーは聞いている。本人も女好きの気が強いから、もっと強気で傲慢な性格ならば桜の事も構わずに女子生徒を侍らしていたかも知れない。尤も、ここで彼がそれを出来ていないのは、桜がその悉くの機会を潰しているからだとライダーは知っている。更に聞いたところ、桜は家の中でも外でも、部活ですら慎二にべったりだという。まるで恋人のようにくっついて回っているとは、同じ部活の士郎の談だ。異性への、明らかな牽制である。髪色が同じといえど、顔立ちはまるで似ていないから、知らない女生徒が見れば、慎二の恋人とと間違える事すらある。スタイルが良く、現在では弓道部の副主将。その上、成績の良い義兄に教わっている為か、勉強も得意。性格もおっとりとしているという完璧なスペックだ。しかも最近では、自発的に「実の兄妹ではない」と噂を立てている。実際慎二に問い質しても同じ答えが返ってくる。気の弱い者ならば、それで彼女の行動の意味を察して立ち去ってしまう。それで立ち去らない、謂わば彼女と同じ肉食系女子ならば……その先を、桜の一見穏やかな笑みを思い出し、ライダーは探る事が出来なかった。恐ろしくて。

 しかし、ふとライダーは隣の彼を見下ろす。成長期途上か、まだ彼女より小柄な慎二は、眉を顰めながらも辿々しく洗い物を続けていた。それが、間桐家を支配し、同時に財政を主に支えていた臓硯がいなくなった事で、使用人を雇う余裕などなくなった為に彼が自らはじめた事だ。一応は急遽、土地の管理に専門の代理人を雇うなどをしているが、あまり無駄遣いが出来なくなったのは現実だ。鶴野が退院してきたら多少は楽になるかも知れないが、役に立たないかも知れない。それを考えると、慎二がより増えた桜の負担を減らそうとした事には、ライダーは少しばかり嬉しかった。彼女は少しだけ微笑みながら問う。

「でも、シンジはサクラの事が嫌いじゃないですよね」

「……嫌い、じゃない」

 更に顔を顰め、渋々といった様子で答える。それでも手の動きに淀みが出なかった辺り、彼の親友に似てきたかも知れない。実際「衛宮はよくこんなの今までひとりでやってきたな」と、彼女の問を誤魔化すように愚痴っている。そんな彼に、ライダーは更に問う。

「なら、好きですか」

「それは、わからない」

 今度の返答は、きっぱりとしたものだ。眼鏡越しに見詰める彼女に、慎二はいう。言葉を選ぶように、慎重に彼はいう。

「……やっぱ、複雑な気持ちも色々あるんだよ。いまだに。やっぱ、この家は僕が継ぎたかった・とか。魔術はどうしようもなく今でも憧れてる。手が届かないから尚更だ。どうしようもない事をいまだに考えたりする。自分では納得したつもりだし、桜にもそういう気持ちをぶちまけた。桜はそれを受け入れてくれた。そして、桜には、この家という居場所が必要だ。妹としても大切で大事なのは確かだから、この家で守ってやりたいっていう気持ちもあって……何ていうか、やっぱ、わかんない」

 支離滅裂に紡がれる言葉と、彷徨う瞳。それらが、彼の心情を表しているようだった。ライダーは言葉のひとつひとつに頷いていた。

 兄弟に対する複雑な気持ちは、彼女にも理解出来るものだった。それは彼女が抱いていたものとは種類を異ならせていても、「ひと言では言い表せない思い」は共通している。少なくとも、彼女はそう思っていた。だから、彼女は優しく微笑んだ。

 ライダーとしては、出来ればマスターである彼女が報われてくれれば嬉しい。少なくとも、そんな彼女の乱行を何だかんだと受け入れている慎二が、本質で義妹を好いていないとはライダーには思えなかった。

「シンジ。素直が1番ですよ。シロウを見ていればわかるでしょう」

「素直ねぇ。あっ」

 慎二は首を傾げた。その拍子に皿が1枚落ちた。

 

 素直といわれても。ライダーに答えた言葉が、素直に彼の心情を表していた。

(妹として大切なのは間違いないんだけどな)

 洗い立ての浴室。本来はライダーが先に入りたい、といっていたのだが、「明日が返却期限の本を忘れていた」との事で先に慎二が入っている。シャワーを頭から浴びながら、慎二は黙考していた。皿洗いの時、ライダーに問われた事だ。

『なら、好きですか』

 問われた時。わからないと即答した。わからなかったからだ。自分の気持ちが。壁に凭れる。洗面所で扉が開く音がした。それに構わず、慎二は考える。

 真っ赤な顔。一所懸命なところが可愛い、とは思う。少々行き過ぎなところもあるし、やらかしている事も知っている。それでも、それを積極的には止めないのは。

「……嫌いじゃないから困るんだよ」

「ライダー、好い加減石鹸じゃなくて、このシャンプーセットを」

「?!」

 突如、扉が開かれた。驚いて顔を向ける。その拍子に、髪から飛んだ水しぶき。それが、扉を開いて眼を瞬いていた義妹の胸を僅かに濡らした。

 桜が、手に持っていた試供品らしきビニルのケースを取り落とした。跳ねて、慎二の足下に転がる。

「……さ、桜?」

 桜の目は、義兄の顔を見詰めていた。しかし、暫くすると、その視線はやや下っていき――不意に、顔が真っ赤に染まる。

 そしていきなり、カーディガンを脱ぐ。

「?! さ、桜?!」

「やだ、兄さんったら……!」

 驚く彼に、桜はリボンも解いた。カーディガンの下のシャツも一気に脱ぐと、豊満な胸を包んだ下着が露わとなる。たわわに揺れたそれに思わず目が釘付けになる。そしていそいそと服を脱いでいきながら、彼女は鼻息を荒げた。

「ライダーにいって順番を変わって貰ったんですか? 遠回しな誘い受けですね! 私が来るってわかってたんですか!?」

「ちょっ……どうしたらその発想になるの桜?! 待っ待て待て待て脱ぐなそれ以上脱ぐなやばいから待って待っ……ライダァァァァァァァァァいやあああああああああああああ」

 ――この時、助けを求められたライダーは、読書に夢中で直ぐに気付く事はなかった。

 しかし伊達に間桐家1の幸運値を持ってはいない。この後、偶々慎二が学校に忘れていったプリントを届けに来た士郎が彼の救助を請け負い、そして桜の恨みを買う事となる。

 

 

(せめて心の整理をつけてからにさせてくれ!! By 慎二)

 

End.

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