「【刀艦乱舞】ドーナツ・ホールを空けたのは」(https://novel.syosetu.org/85876/1.html)が前提。刀艦乱舞。正確には艦これ終戦→100年を経る→歴史修正主義者との闘い勃発
この刀剣男士は二次元にも三次元にもいない創作(https://novel.syosetu.org/85874/2.html)(まんばとこの刀剣男士、こことは別の本丸)です。
「本当に1度も闘いに使われた事のない、人に扱われた事のない、完全に『神』として扱われてきた刀剣が刀剣男士になったら果たしていう事を訊いてくれるのか」とふと疑問に思った結果のものです。石切丸や太郎太刀、三日月でさえ伝承上だとしても使われた事があるとされてるので
作中に出て来る「MRI捜査」は前作でも出したトッ/プ・/シー/クレ/ット@清/水玲/子先生著に出て来る架空の捜査方法です。平たくいうと死んだ人の脳みその記憶をDVDとかみたいに映像を再生できる技術。23世紀だと多分音声も再生できそう
突き立てた刃。分霊としての、自分の本体だ。その切っ先が、あと少しでこの審神者の頸動脈を断ち切ろうとしていた。そんな中で、面隠しの乱れた審神者は嗤う。
「もう、うんざりなんだよ。『モノ』の記憶に振り回されるのは」
煙の立つ本丸、外からは剣戟の音。誰かの怒号、泣き声、あるいは鳴き声。何かが焼け落ちる音もする。恐らく、誰かが火を点けたのだろう。焼き討ち――そんな言葉が頭に浮かぶ。しかし、それは自身にとっては「俗世」の事だった。床に組み付いた、狩衣の人間。その上に跨り、刀を突きつける。明治維新、ある大名の先祖を祀る神社に、諸事情で本来の刀の写しとして奉納されて以来、1度も戦に出た事のない身だった。それが今、こうして手足を得――今の「主」を討とうとしている。見つけたのは偶々。自分達刀剣男士への扱いは筆舌に尽くしがたい程に手酷いものだったが、どこか堂々としていた審神者だ。逃げも隠れもしないだろう。その発想は当たり、この執務室。今はあちこちの調度品が壊れているそこに鎮座していた審神者の腹を蹴飛ばし、こうして今、本懐を果たそうとしている。以前から、出陣の度に、他の刀剣男士達と共に話し合い、夜のうちに決起した事だ。今頃、この本丸の門からは、歴史修正主義者達が雪崩れ打ってきているだろう。居場所を教えた。最後まで飽くまで審神者に尽くす、といった刀剣男士達は彼らを迎え撃っている。中にはこんのすけに政府への応援を要請しようと走っていく者もいたが、放置した。それまでに、ここの審神者を討てる。そう確信していたからだ。
そして今、全く抵抗するそぶりを見せぬ審神者は、呟いた。それはこの喧噪の中、それでも奇妙に静かに、彼の耳朶を打った。性別と年齢を遮断する効果のあるという面隠しは、こうして口元まで見える今も、この審神者の正体を明かさせなかった。
「今、こんなに騒ぎになっているのは、お前ら刀剣達の中でも私を討つかどうか別れたんだろう。こんな、ろくでもない主でも」
「……貴様は巫覡の家系だそうだからな。どうしても、僕達は巫覡を好いてしまう」
「『神』。付喪『神』だからな。異類に好かれる巫覡の血筋。審神者の選考基準のひとつだ。だから私を殺すのに、こんなに時間がかかった」
嘲笑うその言葉に、眉根を寄せる。油断はしない。万が一、ここまで歴史修正主義者が来たらそちらを迎え撃たねば。自身が討ちたいのだ。歴史修正主義者に破壊されたくはないし、この審神者の首を譲る気もなかった。それ程に、今は憎んでいた。
そもそも、横柄だったのだ。この審神者は。自分達「神」に仕える気など毛頭ない。石切丸や三日月、太郎太刀などの神気溢れる刀剣男士に対してすら、その態度は一貫としていた。ましてや、道具として使われた事など1度もない、そして戦力としては最初はほぼ使い物にならなかった自分にすら、それは同じだった。それでもこれまで戦ってきたのは、偏に、この者の巫覡の血筋の為だ。古来、巫覡、特に巫女は神の嫁とされた。神の種を宿す一夜妻。一目見て気に入る、気に入ってしまう、神を「落とす」血筋――それを忌々しそうに言い放つ、この審神者の目的に、不意に気付いてしまった。刃を動かす。皮1枚、切れた。
「僕達に、殺されるつもりだったのか。最初から」
「政府に一矢報いてやろうと思ってね。こんな事件があったら、ちょっとは、『野に下った艦船血統の末裔』を審神者にする事に関して考慮するんじゃないかと思ってね」
更に眉を顰める。それは聞き慣れぬ言葉の為だ。それに解説の必要を感じたらしい。はじめて見る、少しだけ和らいだ口元だった。
「艦船血統、通称『艦娘』。嘗て、人類が軍艦……武器の『記憶』――いわば、お前達と同じ付喪神だろうな。それを体に降ろしていた、巫覡の血統だ。女性ばかりが生まれ、血筋でその『艦の記憶』を受け継いだ。その為に強化された、人の肉で出来た武器だった。深海棲艦と呼ばれる敵を討つ為に、彼女達は使われ続けたんだ。150年にわたって。……終戦は、21世紀後半。あれから100年とちょっとぐらいしか経ってない。その『記憶』がいまだ濃厚に残っている『艦船血統の末裔』がいても、おかしくないだろう」
「……――」
理解が追いつかなかった。しかし、それがわかった途端、仮初めの体が強張った。
人でありながら、武器として「使われ」続けた。自身は同じ「武器」であっても神として、神体としてあがめられていた為に、それは真に理解する事は出来ないだろう。だが、そのおぞましさは、十二分に伝わる。軍艦、軍。それらは、この体を得た時に、歴史の知識のひとつとして知っていた。そのほとんどが、世界中で巻き起こった戦の果てにどうなったか――どの「艦」の記憶を持っていたとしても、それは。
平和な時世の、人の器におさまるものではない。
吐き捨てる審神者。それを、今はただ、呆然と見下ろしていた。「野に下った艦船血統の末裔」、即ち、野に下らなかった者達もいるのだろう。それは恐らく、こうして前線に出る事のない身分にいる。そこにいなかった者――そのひとりが、この審神者なのだ。にわかにわきかけた同情は、しかし、嘲笑う審神者によりかき消える。
「『モノ』風情が同情か。それもいい。私は、そんなお前らを心底蔑んでいる。モノの風情で神様気取り、もうお前らの姿を見るのもうんざりだ。何が審神者だ。お前らと話す言葉などない。モノの記憶など、もううんざりだ。生まれた時から散々見せつけられてきたんだからな」
「――挑発か」
「……乗ってくれた方が嬉しい。安心しろ。お前らは人間じゃない。人権もなければ、人間の法律も適用されない。殺人罪で処罰される事はないだろうよ。古来、神は人を裁いた。その逆はない。こんな主の元で生き延びたお前らの練度ならば、新しい審神者を送り込んでくるだろうよ。今度は弱味に付け込んでスカウトしたようなのじゃなくて、ちゃんと検査を通過できた奴をな」
また和らぐ、審神者の口元。最早、自身には審神者の正体がわからなかった。今までは、悪辣で暴虐非道の主だと思っていた。しかし、実際は自分達と同じ「武器」として使われた者達の末裔だった。だが、結局は人間だった。自分達を利用して、自殺を図ろうとしている。こんな事をするのは人間だ。
人間だからこそ、この審神者は、死を望んでいる。神たる自身には、理解できないものだった。
「……足音が近付いてきたぞ。このままだと討ちそびれる」
「――」
「安心しろ。真相は政府が私の脳みそを『見て』知るだろう。だから頭は潰すなよ」
「……そうか」
立ち上がる。刀を構え直した。他の部隊に配属している自身は、果たして、自らの主を手に掛ける事があったか、そしてこれからあるのだろうか。そういえば、自身の「本家」の刀は、嘗て自らの主君を斬ったという。自嘲した。
(僕も「あるじ切り」か。霊刀も、堕ちたものだ)
「付喪『神』からの慈悲だ」
「有難い事だ。これでもう、水底に沈む夢を見ずに済む」
それが最後の会話だった。
切っ先に、面隠しの生首。こんのすけ達が駆けつけた時、「それで」とその刀剣男士はいった。長谷部は、息を飲む。
よもや、審神者がまだこの部屋に残っていると思わなかった。執務室、抵抗した様子のない審神者の遺体。そこで、ほとんど打刀に等しい長さの太刀に、首をぶら下げていた。その太刀を携えた青年が、暗い目でこちらを見ていた。主に、見ているのは長谷部の足下で尾を膨らますこんのすけだ。この部隊に来た当初は、1度も刀として使われた事のないという青年は、純真な目をしていた。それが今や、泥濘の目をしている。青年は、地を這う声で宣った。
「僕は歴史を変えた訳ではない。ただ、非道を働いていた審神者を討っただけだ。こんのすけ殿。それで、『神』の僕達を、人たる政府は裁けるのかな」
「――今は、この本丸を襲う歴史修正主義者達の迎撃を。それから、至急我々も23世紀へ戻りましょう。その、審神者殿の頭が、必要です。MRI捜査にかけますから」
「あぁ、脳みそを『見る』とはこの事か」
ひとりごちる、彼の目は、嘗て主と呼んでいた審神者の頭を見下ろしていた。水底へ沈む石ころを見るような眼だ。最後まで今の「主」を裏切る事の出来なかった長谷部は、しかし非道を働いていた審神者を討った彼を責める口も持てない。ただ、そんな感慨を、なぜか抱いた。
憐れむ目だった。
ある審神者へのある刀剣男士からの
(与えたのは、もう「海の底へ沈む」夢を見させぬ恩恵)
生まれてから、ずっと、その記憶に怯えていた。海を見る度、銃砲の音を聞いた。生きている、それだけで殺され続ける記憶を見た。
自分ではない「モノ」の記憶が、怖かった。忌まわしかった。
私は「ヒト」なのに。
だから、「モノ」の記憶の塊が気持ち悪かった。付喪神が、心底、気持ち悪かった。
End.