休みを丸々使うことで何とか書き上がったため投稿させていただきます。
では、本編をどうぞ。
「さあ、者どもっ! 饗宴の始まりであーるっ!!」
そう両手を広げて声高に宣言する中二男子こと材木座義輝と、その前に座る俺、雪ノ下、由比ヶ浜の三人。
朝、一限目を遅刻したことにより平塚先生から有り難いお言葉(流石に物理は回避できた)を頂いてから授業という睡眠時間を得てある程度回復。俺の顔も自殺一歩手前から、三歩手前ぐらいには改善されました。……あれ? あんまり変わってない?
で、放課後になって俺たちが奉仕部に集まって、少しすると現れた材木座のこのテンションである。……こいつ昨日の様子から少しは大人しくなってるかと思ったが、もう回復してやがった。
材木座の無駄に高い回復力に呆れを通り越して感心していると、隣に座る雪ノ下が動いた。なんかデジャヴ?
「……感想を言う前に一つ聞きたいのだけれど」
「ホムン? 何かな、雪ノ下殿」
魂的なものが出るまでお話()したおかげか、昨日の緊張が嘘だったかのようにしっかりと受け答えする材木座。以外と順応高いのな。
「貴方はプロの作家を目指している。という前提で評価をつけて構わないのかしら?」
「うむ、それで構わぬ。忌避なき意見を所望する」
質問にたいして胸を張って答える材木座は自信に溢れているが、正直俺はそれを憐れみの目で見ていた。それは何故か?
その答えは俺の隣でポツリと呟かれた「……そう」の一言と、雪ノ下の顔に浮かぶ笑顔の質が変わっていったからである。ちょっとぉ。右半身寒くなってきたんですけど、今六月なんですよ。太陽さん仕事してください。
そして雪ノ下の口が開かれる―――
「……論外、というほかないわね」
「ゴッフォ!?」
おーっと、雪ノ下選手開幕そうそう内蔵をえぐるボディブローを炸裂。余裕綽々だった材木座選手、無防備なところにこの一撃をまともに食らったー!! これは立てないか、立てないか?
「な、なぜ論外なのか、参考までに詳しく教えて、も、もらえないだろうか」
立ったー! 材木座選手立ちました! だが、もうすでにふらふらな状態です。大丈夫なのでしょうか。
「文法が滅茶苦茶、ルビの誤用、話の展開が継ぎはぎだらけで何を目指しているのか分からないこと、色事を使って話に興味を持たせる作品は確かにあるけれど、特に意味もないところで肌の露出をさせるのは白けるだけよ。あと……」
「ウゴォ! ブヒャ!? ヒデブッ!……」
大丈夫じゃなかったー! これは酷い。雪ノ下選手立つのがやっとな材木座選手を滅多打ちです。なんかもう周りから「ゆっきのした! ゆっきのした!」という幻聴が聞こえてくる様なラッシュです! つーか
「何よりも、貴方の書いたコレには自分の書きたいものを書くだけで、読者に内容を理解してもらおうという気持ちが感じられないわ。自慰がしたいのならばこれでもいいのでしょうけれど、読み手に対価をもらうプロとしてならば問題外よ」
「」
き、キマったー! 材木座選手立てない! 倒れ伏したまま動かない材木座選手、表現するならばクレーターで倒れ伏すヤム○ャそのもの。これは試合終了ですね。
あ、それと今自慰って言葉でいやらしいことを考えた君。木炭クッキー一枚ね。
材木座に止めをさした雪ノ下は、冷淡な眼差しで倒れ付したままピクピクと痙攣している材木座を眺めていたが、一つ息をつくと話始めた。
「正直まだ言い足りないけれど、この辺りで止めておきましょうか。……では、次は由比ヶ浜さんね」
「「「え?」」」
雪ノ下の言葉に声が重なる。その中には俺と由比ヶ浜だけではなく、倒れ伏していたはずの材木座まで含まれていた。え、まだ続けるの? これ以上はただの死体蹴りよ?
しかし、現実は非常である。俺達から注がれる視線を意に介することなく雪ノ下はただ坦々と告げた。
「これは私個人ではなく奉仕部に来た依頼ですもの。ならば全員の感想を聞かなくては意味がないわ」
いや、まぁ、雪ノ下の言うことは正論である。確かに依頼は奉仕部に来たため俺達も感想を言わねば依頼は達成されない……って、え?
「由比ヶ浜って部員だったの?」
「今さら!?」
俺の疑問に目を丸くして突っ込んでくる由比ヶ浜であるがしょうがねぇべ。俺ってばお前の事、勝手に居座る座敷童程度に考えてたんだからさ。
「えぇ、部外者のままでは平塚先生に追い出されてしまうもの。この間入部届を書いてもらったから部員で間違いないわ」
あ~、そういや俺が入部した時にそんなこと言ってたわ。つーか平塚先生よく由比ヶ浜の入部認めたな。俺の時に資格がどうたら言ってなかったっけか? なに、あれって俺を入れるために適当言ってたのん?
「そういうわけだから由比ヶ浜さん。感想、聞かせてもらえないかしら?」
俺が納得したのを見た雪ノ下は改めて由比ヶ浜を促す。因みに由比ヶ浜、原稿は持ち帰ったのだが読むことはなくカバンに入れっぱなしだったらしく、昼休みに俺を心配して話しかけられた時にポニテ女子に続いて癒されかけたが、それが判明して吹っ飛んだ。その時浮かべた笑顔にイラッとしたのは記憶に新しい。
そんなわけで奉仕部に集まってから、材木座が来て雪ノ下の感想が始まるまで読んでいたのだ。……しかし、俺はこいつの目が原稿から滑りまくっていたことを知っている。
「あ、え~と……あ~」
案の定、由比ヶ浜はなにも言えずに視線をさ迷わせ必死に言葉を探していた。
しかしそれも仕方ない。先程まで雪ノ下のラッシュを浴びせられる材木座を見ていたのだ。これ以上は酷であると当たり障りのない言葉を探しているのだろう。
大丈夫だ由比ヶ浜。空気を読めるお前ならば最適解を出せるはずだ。そう、由比ヶ浜の出すべき答え、それは―――
「む、難しい漢字いっぱい知ってるんだね!!」
「ボッフェ!?」
そうだね! 空気を読んで死体蹴りだね! ……うん、知ってた。
いや、由比ヶ浜が意図して蹴りこんだんじゃないのは分かってるんだけどさ。
だからって的確に急所である
「あぶろばろぷあがふろろれろりりっ!」
そして由比ヶ浜に蹴り抜かれたことでごっそり耐久値が減ったのか材木座が壊れた。奇声を発しながら床を縦横無尽に走り回る様は、まさにイギリスの珍兵器パンジャンドラムが迷走するがごとく。そして最後には壁に激突して止まった。
「つ、次はヒッキーだよっ!」
材木座の壊れっぷりに盛大に引いた由比ヶ浜はバトンを俺に渡してくる。おい、俺にとどめ刺せってか。お前の血は何色だ。
「ハア、ったく。……材木座」
「はっ、はぁちま~ん」
上下逆さまのまま動かない材木座の元まで歩み寄り呼びかける。すると材木座は俺をすがる様な目つきで見上げ、涙さえ流し始めた。お前なら分かってくれるだろうと、その眼は言っている。……そんな目をされたら答えたくなっちまうだろうがバカ野郎。
多分、俺の目はかつてない程に優しいものになっているのかもしれない。そう思わせるほどに俺の言葉を待つ材木座の表情が明るくなっていった。だからこそ、俺はこう言ってやるのである。
「で、何個パクったよ?」
(俺の睡眠時間を)殺しているんだ。殺されもするさ。
◇
材木座の小説に対する感想が終わる頃には、すでに空は茜色に染まっていた。その空に浮かぶ沈みかけの太陽が夕方特有の物悲しさを強調していて、何とも言えない雰囲気を醸し出す。
昔の人がこの時を人の世界と人ならざる者の世界の交わる時間帯、逢魔時と呼ぶのも分かるというものだ。
「……また、読んでくれるだろうか?」
窓から見える夕暮れの空を見ながらそんな柄でもないおセンチなことを考えていると、俺にとどめを刺されて機能停止していた材木座が起き上がりそんなことを言い出した。マジかよ。なに、マゾなの?
「え、マゾなの?」
材木座の問いかけに顔をひきつらせた由比ヶ浜とシンクロした。だが、しょうがない。あれだけボロクソ言われててまた来ようなどそういう性癖だと思っちまうよ。
「いや、違うから―――確かにお主たちの感想は、我の心を絨毯爆撃よろしく蹂躙しつくしてくれた」
そう胸を抑える材木座は、しかしその眼に宿る何かを濁らせてはいなかった。
「だが、そこに嘲笑はなかった」
そう言って俺たちを見る材木座はここに現れた時よりも力にあふれている様で、顔に浮かぶ笑みも晴れ晴れとしている。
「雪ノ下殿は我がプロを目指すことを確認した上で感想をくれた。由比ヶ浜殿は……正直に言うとその見た目故、真っ先に嘲笑を向けてくると思っておったが、そんなこともなく我を気遣おうとしてくれた。結果はアレでだったけど……そ、そして八幡! お主は感想は酷かったが、その眼の隈を見れば我の小説を確かに読んでくれたことが分かる! ……感想は酷かったけど」
二度も言うほど大事なことなんですかね。
「そ、そういうわけだからな。……またここに持って来てもいいだろうか?」
再度問いかけてくる材木座は根のヘタレの部分が出てきているのか、不安そうにしている。
そんな材木座に答えを返したのは例のごとく雪ノ下であった。
「構わないわ」
「ほ、本当か?」
雪ノ下の返事に信じられないのか問い返す材木座だが、雪ノ下はそれに事もなげに告げる。
「貴方の依頼は小説の感想を聞かせてほしいということだもの。それに回数制限なんて設けていないのだから、ここに持ってくるのであれば読ませていただくわ」
「あ、あたしも読むよ! ……正直ちゅーにの書く小説意味わかんないけど」
「お、おぉ……」
微笑みながらそう言う雪ノ下と由比ヶ浜に感動する材木座。……由比ヶ浜の後半の言葉は小さすぎて材木座には聞こえなかったらしい。しかしまあ、部長殿が言うんじゃ仕方ないわな。
「持ってくるのはいいけど、次持ってくるときは完結したの持ってこい」
「は、はちまんっ!」
「抱き着こうとするな! 暑苦しいっ!」
飛び掛かってきた材木座を咄嗟に避ける。俺に男に抱き着かれて喜ぶ趣味はないんだよ!
俺に避けられ顔面を強打して倒れた材木座だが、数秒もしない内に勢いよく起き上がった。
「そうと決まればこうしてはいられぬ。我は次回作の執筆を急がなければならぬ故、これにてさらばっ! あ、次はもう少し優しくしてくれると我は嬉しいです!」
ハイテンションで去って行く材木座は最後にそんなことを言っていたが、それはお前の小説の出来次第だろうよ。何はともあれ今回の依頼は終了した。
「~~っハア。ん?」
部室から材木座が去ったことで、そう認識した途端どっと疲れが噴出した。そんな疲れで凝り固まった体を解していると足元に紙が落ちていることに気付く。
「って、これ材木座の原稿じゃねえか。 あいつ落としていきやがったな」
拾ったものは原稿の内の一枚で、多分急いで出て行ったから落としたのだろう。
「チッ……おーい、材木座にこれ持って行くから先行くぞ」
「あ、わかったよー。バイバイ、ヒッキー!」
「えぇ、また明日」
カバンを引っ掴んで二人にそう言うと俺は足早に材木座を追いかけるのであった。
◇
「やはりヒロインのお色気は控えるべきであったか。いやしかし、読者の心を掴むにはそういう要素は必須! ……っは!? そうか! 入れるべきはモロ見せではなくチラリズムだといことかぁ!!」
「控える部分がちげえんだよ」
「な、なにやちゃ!?」
部室を後にした俺が材木座に追い付くために気持ち早めに歩いていると、歩きながら一人反省会をしている材木座を見つけた。しかしその内容が彼方にかっ飛びすぎていたため、思わず突っ込んでしまった。
誰もいないと思っていたところに、想定外の突っ込みを貰って慌てたのであろう材木座は盛大に噛んだ。多分何奴って言いたかったんだろうな。
「って、八幡? なんだ、いきなり後ろから話しかけるから、我の命を狙う秘密結社の刺客と勘違いしたではないか」
「お前の命を狙ったところでその秘密結社に何の利益があんだよ。……ほれ、忘れもんだ」
材木座の呆れるほどの平常運転にため息を吐きたくなるが、目的のものを渡すのが先決と原稿を差し出す。
「む? おぉ! わざわざ届けに来てくれるとは、やはりお主は我が同志っ! これからも忠義を尽くすがよい!」
「同志に忠義尽くせとか忠義の使い方間違いすぎだろ。……おい、材木座」
「ふっはっはっはぁ! ん? どうしたのだ八幡」
俺から原稿を受け取って上機嫌で高笑いをする材木座に呼び掛けると材木座は首をかしげて答える。
俺がこうして態々原稿を届けるためだけに、こいつを追いかけて来たとかそんなわけはない。もう一つ用件があったからだ。では、その用件とは何か?
「一つアドバイスをくれてやる。今度から書き上げた小説は読み上げろ」
「……はぇ?」
俺の言ったことが理解出来ないのか固まる材木座だが、俺はそれに構わずさらに続ける。
「ただ読み上げるんじゃ駄目だぞ? その場面を頭に思い描きながら感情を込めて読み上げるんだ。最初は主人公の台詞だけでもいい。たが、感情は込めろ。それと身振りを加えるのも必要だから」
「ちょ、八幡ストップ! ザ・ワールドである!!」
材木座の言葉に世界が停止する―――わけがない。だが俺の口を止める事には成功した。
「なんだよ」
「いや、何だよじゃなくて……八幡は我に死ねと?」
は? なんでそうなる。
「だって、出来上がった作品をお主たちの前で読み上げるとか……それトラウマ案件じゃないですかやだー」
「誰が人前でやれって言ったよ。一人の時に決まってんだろうが」
そんなんされたら確かにトラウマだよ。俺たちのな。
……材木座に説明したアドバイスだが、これの元は俺の本を読むときにでる癖だったりする。
元々俺が演技に興味を持ったのは五歳の時に家族で行った劇がきっかけで、その後家で絵本を読んでその内容を幼い小町に見せたのが、俺の演者としての初めての公演であった。
それ以来、俺は家にある絵本を読んではその内容を小町に見せることをしていたのだが、絵本がそんなにたくさんある訳もなくすぐに枯渇。仕方なしに両親に追加の絵本を
両親は俺が絵本を強請る訳を聞くと、買う代わりに自分たちにも演技を見せてくれというので言われるままに行った。
それを見た両親が意外なほど俺の演技が達者だったと思ったのか、ある子役のオーディションに応募。そのオーディションに受かったことで俺は子役としてデビューしたのであった。
まあ、俺の来歴はどうでもいいとして、その最初の行いを延々続けていたことでそれが癖になってしまったのだ。
この癖も結構厄介なもので、小学生に上がってからは人前で本を読むことは極力控えていても、本にのめりこみその世界に入ってしまうと自然と口から出てしまうのだ。
因みに、中学の時の失敗とは誰も来ないようなところで本を読んでいたら、癖が出たところをなんでいたのか知らんが近くにいた折本に見られたのである。ファックッ!
あー、でだ。なんでそれを材木座にやらせるのかであるが、材木座の小説って基本パクリなのだ。それも複数から設定を流用していたりする。
そんなことをすれば、よっぽどの作家の腕がない限り話は破綻するのが当然で、材木座の小説もご多分に漏れず継ぎ接ぎだらけになってしまっているのだ。
だから自分で自分の作品を演じさせることでその違和感を直に体験させる。そうすれば多少はマシなものが出来上がるだろうという塩梅だ。こいつの普段の言動を考えればそう難しいことでもない。
そんな事を俺に関して以外を掻い摘んで材木座に告げてやった。
「という訳だから材木座。とりあえず書き上げたら直ぐにやれ」
「は、八幡お主、我のためにそんな方法を編み出してくれたというのか。我、感涙である!」
「んなわけねえだろ。お前の作品の質が向上しないと読む俺の精神が汚染されんだろうがよ」
つまりは俺のためだ。しかし材木座は俺の言葉が聞こえなかったのか上機嫌に高笑いするのみである。
「どぅわっはっはっは! 我、相棒の秘法により開眼せり! 待っていろ八幡、すぐさま次回作を書き上げ貴様の度肝を抜き七転八倒怨憎会苦艱難辛苦百八煩悩の果ての五濁悪世の先無間地獄まで連れて行ってやろうともさ! こうしてはいられぬぅ!! 我が叡智の箱より溢れるものを書き留めねばぁああぁぁぁ!!」
「いや、お前が言った四字熟語、全部苦しむ系なんだけど……って行っちまいやがった」
テンションマックスのまま俺のツッコミも聞かずに雄たけびと共に走り去った材木座。え、やだ、俺あいつに鬼の責め苦よりひどいもの読せられるのん? それどんなドグラ・マグラ?
「……やっぱり、柄じゃないことはするもんじゃねえな」
一人となった廊下で頭をかきながらそう独り言ちる。アホの熱気に当てられ調子がくるって余計なことをしてしまった感が否めない。こんな時は布団ちゃんに包まって寝るに限るわ。帰ろ帰ろ。
「あら、何が柄じゃないのかしら?」
「っ!?!!」
夕方の薄暗い廊下の中、帰ろうと足を踏み出した所で急に後ろから話しかけられて驚きと共に後ろを振り返る。そこにはつい先ほど別れた少女が一人立っていた。
「ゆ、雪ノ下?」
「えぇ、比企谷君先ほどぶりね」
そう微笑と共に手を振る姿に、思わずため息を吐き激しくなった動悸を鎮めるため胸に手を置く。び、びっくりした~。ちょっと、忍び寄るのやめてよね。君アサシン適正ないでしょうよ。
「驚かせるなよ。心臓止まるかと思ったわ。……由比ヶ浜はどうしたんだ?」
「ふふっごめんなさい、そこまで驚くとは思わなかったの。由比ヶ浜さんなら三浦さんから電話が来て遊びに誘われたからそちらに向かったわ。因みに私は部室のカギを返しに行くところよ」
クスクスと上品に笑みながらカギを揺らす雪ノ下。これから遊びって……由比ヶ浜タフだなぁ。
由比ヶ浜のタフネスに感心と呆れを抱いていると、揺らしていたカギをポケットにしまった雪ノ下が話かけてきた。
「それにしても、随分と面白いアドバイスをしてあげたのね」
「……聞いてたのかよ」
「あれだけ大声で話していればいやでも聞いてしまうわ。邪魔をするのは悪いし、だからと言って他のルートだと遠回りになってしまうもの。仕方ないから待たせてもらったわ」
そう言われてしまうと何も言えない。だが、大声で喋っていたのは材木座だけだ。一緒くたにしないでいただこうか。
「あなたも奉仕部員としての自覚が出てきたのね。部長としてご褒美を上げなくてはいけないかしら?」
「いや、いらないからね」
「……あぁ、そうだわ。前に言っていた通り頭を撫でてあげましょうか? ヒーくん?」
「だからいらないって言ってんでしょ。話聞いて、って、ちょ、止めろ。手を伸ばしてくるな!」
勝手に感心しだした雪ノ下は、俺の言葉を無視して少し思案した末に名案だという風に両手の平を合わせると、素敵な笑みと共に俺の頭に向かって手を伸ばしてきた。何なのこの娘? からかい上手なの?
必死の抵抗により、なんとか雪ノ下に頭を撫でられるという羞恥プレイを逃れられた。だ、駄目だ。ここは退却せねばっ!
「全く……俺は帰るからな。雪ノ下もあまり遅くならないうちに帰れよ」
そう言って背を向け足早に歩き始める。
「ふふっ、さようなら比企谷君。……あ、一つだけいいかしら?」
「あ? なんだよ」
立ち去る俺に挨拶をした雪ノ下だったが、そう言って俺を呼び止めたので軽く振り返る。俺ってば結構疲れてるんですけどねえ。まだ何かあるの?
「あのアドバイスってあなたが考えたものなのかしら?」
「なんだそんな事か。……そうだけどそれがどうした?」
俺の返答に笑みを深めた雪ノ下は軽く頭を振って答えた。
「そう……いいえ、少し気になっただけよ。引き留めてごめんなさい」
そう言って手を振る雪ノ下にやっと帰れると溜息を吐くと、俺はおざなりに手を振ってその場から立ち去るのであった。
故に前だけを見る俺に後ろの様子は分からない。
雪ノ下が俺の背中を見えなくなるまでずっと見つめていたことも、雪ノ下が俺の背を見つめながら呟いた言葉が何なのかも、俺には分からない。
「……まだ……確定ではない、わね」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
な、何とか材木座くん回が終わった。
当初予定していた文字数を大幅に超えてしまったため、どうなる事かと思いましたが何とかなりました。いやぁよかった。
では、また次回にお会いしましょう。