偽を演じて…   作:九朗十兵衛

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恐竜島がくっそ面白くて、休みが溶けて夕方に何故か悲しくなる九朗十兵衛です。
時間がかかりましたが漸く書けました。

あと前話の誤字修正ありがとうございました!


では本編をどうぞ。


第八話 さいか1/2

 物語にはターニングポイントといわれるものがある。

 その物語において重要な選択が行われる場面。例えば絵本のシンデレラなら城のダンスパーティに行く所がそうだし、人魚姫なら人間の足を手に入れたことがそうだ。

 彼女たちがその選択をしたからこそあの結末に向けて物語は進んだ。もしシンデレラが魔法使いに助けを求めずダンスパーティに行かなければ、彼女は生涯義母や義姉妹の小間使いをしていたかもしれない。人魚姫は王子への恋心を胸に秘め、海の魔女から薬を貰わなければ泡と消えずにすんだはずだ。

 

 そんな場面(ターニングポイント)は何も物語だけに限らず、現実の中にももちろん存在する。

 例えば俺がもし平塚先生に目を付けられなければ、俺は奉仕部に入部することはおろか存在そのものも知らなかっただろう。そうなれば雪ノ下雪乃も、由比ヶ浜結衣も俺の人生において認識外の他人(モブ)のままだったはずだ。

 

 だがこの物語(フィクション)現実(ノンフィクション)には明確な違いがある。それは書物の物語の場合、基本的に読者が読み進めない限りその選択が現れることがなく、現実の場合はそうはいかないということだ。

 時計の針は止まらず絶えず進み続ける。いくら当事者が望むとも望まなくともその選択は突然目の前に現れるのだ。

 

 

「あんさー、さっさとしてくんない?」

 

 

 耳に届いた不機嫌そうな声に閉じていた目を開ける。目の前に広がる景色は見慣れた学校のテニスコートで、俺の対面には二人の人物がいる。どちらも知っている人間で由比ヶ浜と同じく俺とはクラスメイトだ。

 一人は不機嫌そうな声をかけてきた金髪の女で獄炎の女王とか呼ばれている三浦優美子。もう一人は三浦と同じく髪を金に染めている総武の爽やか王子とか呼ばれている葉山隼人。その二人が俺と対峙するように佇んでいる。

 それを見て改めて自分の今の状況に内心ため息をついて空を見上げた。……全く、何で俺はこんな事しているんだろうか。

 

 思わず見上げた空は雲一つない晴天でその青い絵の具をぶちまけたような空を見ながら、俺はなぜこうなったか思い返してみた。きっかけは……そう、確か一週間前だったはず―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初夏が過ぎ日に日に暑くなる中、(わたくし)こと比企谷八幡は相も変わらず昼休みにベストプレイスで優雅に食事をしていた。

 特に今日は機嫌がよく今だったら俺の目を覗いた奴も、「うわぁ、すっごい! 君の目腐ったままキラキラ光ってるね!」という評価をするのではなかろうか。うん、益々気持ち悪くなってますね。

 しかし今の俺はそのようなことを言われても傷つかないし、相手を恨むことは一切ないぐらいには広い心を持ち合わせているのだ。

 

 ではなんでこんなにも機嫌がいいのかというと、今手に持って胃袋に収めているカレーパンが理由である。……そこのそんな理由かと思っている君、ただのカレーパンと侮るなかれ。

 このカレーパン購買で買えるのだが、人気に対して一日に入荷する量が少なくすぐに売り切れてしまうので、生徒の間ではSレアカレーパンと言われているとかいないとか。

 この総武高校に入学して一年以上購買のお世話になっている俺でも、見たことが無かったそれを購入できたのだから、多少浮かれるのも許してほしい。

 

 今日は昼前に体育でテニスをやったので気力がマイナスに突入していたから、正直なにもやる気がなかったのだがそこに来てこの収穫である。これはも疲れきった俺に天が慈悲を与えたとしか思えない。ありがとう神様。今度神社寄ったら三十円ぐらいお賽銭献上するね!

 

「あれ? ヒッキーこんな所で何してんの?」

 

「んぁ?」

 

 残り半分となったカレーパンを頬張ったところで後ろから声をかけられた。この声、そして俺をそんな妙ちきりんな名で呼ぶのは一人しかいない。 

 

「んくっ、フゥ……見て分からんのか由比ヶ浜。昼飯中だ」

 

 咀嚼している物を飲みこんで購入していた水で口の中をスッキリさせてから、頭を巡らせて声をかけてきた人物に答えてやる。こういうエチケットって大事だと思います。

 案の定振り向いた先には由比ヶ浜がいて、俺の事を見ながら首をかしげている。

 

「え、お昼だったら教室で食べればいいじゃん。この前食べてたよね?」

 

 貴方って地雷踏むの好きね。それは俺以外のボッチには急所ですのよ? そんなところに痺れないし憧れねぇです。

 

「この前は雨降ってたからしょうがなくだ。俺は基本的に昼飯は静かに食いたい派はなんだよ。……そういう由比ヶ浜こそ何でここにいるんだ?」

 

 質問に答えて由比ヶ浜こそなぜここにいるのか聞くと、「ちょっと飲み物買いにね」と言って俺の隣に腰かけた。飲み物買いに来たなら早く行ったらいいのに、何で話し込む体勢何ですかねこの娘? 

 

「あっ、……ここ、風気持ちいいねぇ」

 

 座った由比ヶ浜は体に当たるよそ風に目を閉じてリラックスしたように体の力を抜いた。どうやらすぐには行かないようだ。……いつまでも気にしていてもしょうがないか。

 横で日光浴を始めてしまった部活メイトを横目に、俺は途中となったカレーパンを胃に詰め込む作業を再開することにした。

 

「あっ!」

 

「……今度は何だよ?」

 

 だが、またしても隣の団子娘に邪魔されてしまった。ちょっといい加減にしてくれませんかねぇ? 

 抗議しようと隣に視線を向けると直前まで気持ちよさそうに目を閉じていた由比ヶ浜が、俺のある部分を凝視していた。もっと正確に言うなら俺の手元である。

 

「そ、それってまさかさ。購買のカレーパンじゃ」

 

「そうだけど……」

 

「うわぁ! いいないいなぁ。ねぇ美味しい?」

 

 俺が食っているのがSレアカレーパンだと知った由比ヶ浜は、驚きと共に羨ましいと分かる表情でまじまじと見つめてくる。ふえぇ、そんなに熱心に見つめられると八幡どう反応していいのか分かんなくて困っちゃうよぉ。

 カレーパンを口に運びかけたままジーっと見つめてくる由比ヶ浜を、気まずげに見つめ返しているとこいつの様子から何やら嫌な予感がしてきた。

 

「……ね、ねぇヒッキー。良かったら一口って、あぁ!?」

 

 いやな予感の通りに何やら阿呆なことを口走り始めたが無視して残りのカレーパンを口に押し込んだ。エチケット? 何それ、食えんの?

 とっとこ歩くげっ歯類のごとく頬をぱんぱんに膨らます俺を、恨みがましく見つめていた由比ヶ浜であるが、やがて諦めたのか身をひいた。

 まったく、なんでリア充は直ぐに一口とか言うんだろうね。

 

「あれ? 二人ともどうしたの?」

 

 諦めはしたがそれでも今だ未練があるのか未だにぶー垂れるている由比ヶ浜を無視して、一心不乱に咀嚼していると前方から声がかけられた。その声の方に視線を向けると、ジャージ姿の人物がこちらに歩み寄ってきている所だった。

 その人物は首元にかけられたハンドタオルで汗を拭っているのと、逆の手に持つラケットから今さっきまで昼練をしていたようだ。

 

「あ、さいちゃんだ。よっす!」

 

「……よっす。由比ヶ浜さんと比企谷君はここで何してるの?」

 

 由比ヶ浜にさいちゃんと呼ばれたさいちゃんさん(仮)は、由比ヶ浜の挨拶に気恥ずかしさからか頬を染めるも、同じように挨拶を返して俺たちがここで何をしているのかを聞いて来た。

 だがしかし、俺の口の中は絶賛満員電車並みにギュウギュウなので今しばらく返事を返すことが出来ない。ここは隣のネオ・ボインのガハマーン様にお任せしよう。

 

「えっとね。ヒッキーはお昼食べててあたしは暇つぶし! さいちゃんは練習? 部活もして昼練もって大変だね。そういえば、体育でもテニス選択してたよね」

 

 この娘自分の用事をまるっと忘れてませんかねぇ。え、何なん? お前ってばもしかしてガルス・ガルス・ドメスティカスなの? 三歩どころか一歩も歩いてないんですけど。

 隣の鳥娘に口を我武者羅動かしながら憐憫(れんびん)の目差しを送るが、由比ヶ浜は話に夢中なため気づくことはなかった。

 そんな由比ヶ浜の話を聞く限りこのさいちゃんさん(仮)は随分なテニス好きの様である。

 

「うぅん、好きだから苦じゃないよ。あ、そうだ。体育の時に見てたけど、比企谷君テニス上手いね」

 

「え、そーなん?」

 

「うん、フォームがすごく綺麗だったんだ」

 

 と、二人してこちらを見つめて話のバトンを差し出してきた。二人が話している間に口の中のものを胃に収めた俺は残りの水で口をすっきりさせ一息つき、さてどうだったかと思い出してみる。 

 体育の時間のテニスと言えば例のごとく体育教師によるボッチいじめと同義の好きな奴と組めだったため、俺はあわてず騒がず教師に向かって「今日体調が悪いので一人で壁打ちしてます」と告げて華麗に回避することに成功したのだ。

 

 丁度その時にフェンスの向こうに眼鏡の中二作家(仮)が、サッカーボールをもってこちらを見ていたがあえてスルーした。なんか俺を見つめるあいつの目が同じ荷馬車に乗った同類を見るドナドナの子牛と重なったが、多分気のせいだろう。

 まあ(材木座)はどうでもいい。それよりも俺のフォームに関してだが、正直綺麗だとか言われても第三者目線で見たことないから分かりません。

 というわけで正直にそう言うことにした。

 

「いや、自分のフォームとか見たことないから……あ~、すまん名前何だっけ?」

 

 二人に答えたのいいのだがいくら脳内検索しても目の前のさいちゃんさん(仮)の顔と、覚えたクラスメイトの名前と一致しないため仕方なく聞くことにした。

 まあ、そんな事を言ったので案の定由比ヶ浜から非難の籠った視線を頂きましたがね。

 

「……ヒッキー、さいちゃん同じクラスメイトなんだよ?」

 

 視線どころか言葉にも含まれてしまっているが、こちらの言い分も聞いていただきたい。

 

「クラスメイトなのは分かってたけど名前が分からんかった」

 

 うん、これは酷い。由比ヶ浜の非難も残当ですわ。

 俺の言い分を聞いた由比ヶ浜は呆れたと軽くため息を吐き、正面にいたさいちゃんさん(仮)は気にしないでという風に手を振って笑って許してくれた。あらやだ、この子優しい。

 そんな心優しいさいちゃんさん(仮)と改めて自己紹介をすることになった。

 

「僕は戸塚彩加だよ。改めてよろしくね比企谷君」

 

「比企谷八幡だ。よろしく戸塚。……それにしても一人で昼練とか、テニス部の他の男子は誘わなかったのか?」

 

 さいちゃんさん(仮)改め戸塚に挨拶した後何となくそう聞いてみた。必ずしもそうではないがこういう練習の場合、複数でやった方が効率がいいと思うんだがな

 しかし何だろうね。こういうやり取りをしていると自分がリア充(笑)になってしまったようで、座りが悪くなってしまう。そう思ってしまう程にここ最近の知り合い増加率は明らかに異常すぎる。ちょっと、オートステルスさんどうなってんの? 職務放棄はいけませんのことよ。

 内心最近の自分周辺の動きに嘆きとはまた違った気持ちを抱いていると、何やら戸塚の様子がおかしいことに気付いた。俺を驚いた顔で見てどうしたんだろうか?

 

「なんだよ?」

 

 戸塚の様子に眉を顰め疑問をぶつけると再起動した戸塚が戸惑い半分、嬉しさ半分みたいな顔になった。

 

「う、うぅん、僕って容姿が中性的みたいでよく女の子と間違われることが多いから、比企谷君が間違わなかったのに驚いちゃって……うわぁ、うれしいなぁ」

 

 そういってパァッと顔が輝いてんじゃないかってくらいの笑顔を見せる戸塚。そんな笑顔とともに見せた喜び方がすごく女性的で、自然にそういう仕草が出てしまうから余計女だと誤解されるのでは? という感想が口から出そうになったが空気を呼んで口をつぐんだ。あと残念ながら君の容姿は中性ではない。天秤シーソーががっつり女性側に全体重かけてます。

 いや、まあね。俺も近づいてくる戸塚見て最初は女かと思ったんだよ? でも近くで首元とか見て、あ、男かってわかった。

 戸塚の容姿は俺の様に前歴柄そういうのをよく見た人間でも、間違えそうになるほどに少女然としているのだ。

 しっかしまぁ、メイク無しでここまでの天然物を見たのは初めてだな。メイクありの養殖物は結構見たし、何なら実際なったことがあるけど戸塚を見ると所詮養殖だなって思うね。

 

 なんて思う俺の前では喜ぶ戸塚と、何故か由比ヶ浜も一緒になって喜びはしゃいでいた。……こいつ絶対前世が犬だわ。

 手を取り合い喜び合う百合もどきの二人を、呆れ七割癒し三割で眺めているといい時間となってしまったので教室に戻ることになった。あ、結局、何で戸塚が一人で昼練してたのか聞けてねぇな。……まあ、いいか。

 

 




ここまでお読みいただきありがとうございました。

戸塚はとつかわいいなぁ。メインヒロインよりサブヒロイン方が魅力的に見えるのは何なんでしょうかねぇ。……え、戸塚はヒロインじゃない? ハハッ、ちょっと何言ってるか分からないです。

まあ、サブで一番好き(一番が一人とは言ってない)なのはサキサキなんですけどね!

では、また次回に!
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