偽を演じて…   作:九朗十兵衛

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皆さん初めまして、人生初の作品を投稿させていただきました。

この話は、もしも八幡が子役をやっていたらという妄想が溢れてしまい思わず書いてしまった作品です。


長々と書くのもあれなので本編へどうぞ。
少しでも読んでくれた方の暇つぶしになれればと思います。


※二話にも書きましたが後半を少し編集しました。


始まりの前のお話
第一話 比企谷八幡は過去を目にする


 

 雲で月が隠れた深夜、雪の降り積もったとある都市、一部の歓楽街を除き、皆寝静まっているだろう中を明かりもつけず走る影があった。

 

 

「ハッ、ハッ……大分遅くなっちまったな、急がないと……ッア!?」

 

 

 影は走りながら呟くと、最後のもう一踏ん張りだとばかりに、足に力を入れて走る速度をあげようとした。

しかし、もう大分走っていて予想よりも体力が削れていたのか、足に力が入らずもつれさせ、転倒して腕に何か抱えていたのか地面に派手にぶちまけてしまった。

転んで数秒もしないうちに慌てて起き上がり、地面に散らばってしまったものをかき集め、何もなくなっていないのを確認して安堵の溜息を吐いた時、辺りに光が差した。

いつの間にか雲がなくなり満月が顔を出したのだ。

 

 

暗闇で全貌のわからなかった影の正体が月の光で明らかになった。

 

 

 影は少年だった、年齢はまだ10になるかならないかぐらいで、ボサボサの黒髪は一房だけ重力に逆らうように立っている。羽織っている茶色い外套は汚れが目立ち、所々破れたり穴が開いていた。中の服もそう変わらないだろう。

 その姿はみすぼらしく浮浪児ようであるが、薄汚れていても顔の造形の端正さは損なわれておらず、成長したらさぞ男前になるであろう顔立ちをしていた。

その中でも一番目を惹くのが少年の目で、過酷な現状に絶望したような死んだ目をしておらず、何が何でも生き延びるこんなところでくたばってたまるか!! という生への執着がギラギラと輝き、狼のような鋭く真っ直ぐな目だった。

 

 

 少しの間、空に浮かぶ満月を眺めていた少年だったが、自分の今の状況を思い出したのか、集めたものを袋に詰め込み、急いで立ち上がりまた深夜の都市を走り出して人気のない狭い路地にたどり着いた。

 その路地は都市の外壁に近く、都市の中でも一二を争う程の危険地帯と荒れ具合で、この路地周辺に住んでいるのはネズミかこの少年ともう一人ぐらいである。

少年は躊躇することなく路地に足を踏み入れ、一つの建物の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふぅ、ただいま」

 

 

 建物に入った少年は一つ息を吐き、帰宅のあいさつをした。

それが合図だったのか、少年の纏っていた雰囲気が、刺々しいものから柔らかい物に変化し、目つきも鋭さが解けて先ほどの狼のようだった印象が、気の抜けた子犬のように変わっていた。

少年は両手に抱えていた袋を片手で抱えなおし、入り口脇の棚の上に置いてあったカンテラに、片手で器用に火を入れそれを明かりに建物の奥へと歩いていく。

少年が歩くたびに、板張りの廊下はギシリギシリと鳴り、いつ抜けてもおかしくないほどに痛んでいた。

 

 

「ん~、そろそろ手直しした方がいいか? ……そうなると、またそこら辺から廃材集めてこないとなぁ」

 

 

 そんな呟きをして、さて、どうしようかと少年は考える。

幸いというか、ここ周辺は少年ともう一人以外住んでおらず、廃材を集めるのもそこまで苦ではない。

だが痛んでいるのは廊下だけではないので、修理するなら纏めて修理してしまいたいのだが、そうなると廃材集めに1日、修理に1日か2日か下手をすると、それ以上かかってしまうのでその間仕事を休む必要がある。

 

 

「…流石に仕事を休むのは駄目だな、そこまで余裕がある訳じゃないし、もう少し余裕が出来てからでいいか」

 

 

 そう結論が出たところで、前方から板の軋む音が少年の耳に届いた。

 

 

「おにいちゃん…おかえり」

 

 

 少年が前方に視線を向けると、目指していた部屋の扉が空いており、その扉の前の廊下に顔の半分を包帯で覆った女の子が少年に向かって笑顔で話しかけてきた。

少女の姿を目にした少年は、顔に驚きを浮かべたかと思うと、直ぐに眉をハの字にして心配そうに少女に駆け寄った。

 

 

「リコ!?寝てないと駄目じゃないか!」

 

「っ!…ごめん、なさい」

 

 

 怒られたと思ったリコと呼ばれた少女は、身を縮こませて目に涙を貯めて謝り、自分の服のお腹辺りを握って俯いてしまった。

そんなリコの反応に慌てた兄である少年は、持っていたカンテラを廊下に置きリコの頭を優しく撫でて口を開く。

 

 

「俺こそ、態々出迎えてくれたのに怒鳴ってごめんな?……体は大丈夫か?」

 

「……うん、ぽんぽんいたくないし、おむねもぎゅーってしないよ」

 

「そうか、ならいいんだ……リコ、ただいま」

 

「!……おかえり、おにいちゃん!」

 

 

 少年の言葉に、顔の泣き顔を笑顔に変えて抱きつくリコ、その拍子にリコの顔半分を覆っている包帯がずれて、その下の皮膚が現れてしまった。

リコの皮膚は幼い子供特有の柔らかい肌ではなく、蛇のような鱗が覆っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妹の小町が用意してくれた朝食を食べながら、テレビのチャンネルをいつも見ているニュース番組に合わせると、数年前に上映した映画の一場面が流れ、それを見た俺は、朝特有の怠さで濁らせていた目がいっそう濁ったのを自覚した。……濁ってるんじゃなくて腐ってるって? うるせぇよ。

 

 

「おぉ~懐かしい‼ これお兄ちゃんだよね?」

 

 

 脳内でエア突っ込みをしていると、台所から両手にお茶の入った湯飲みを持って出てきた制服にエプロンを着た小町が、目を輝かせながら俺に湯飲みを渡し自分の席にすわってテレビに顔を向けた。

 

 

《十年前に発売され、人気を博した近未来ファンタジー小説「重なったこの世界で」の最終巻が、発売まであと一週間を切りました。

そこで今回、特別コーナーと致しまして、「重なったこの世界で」の人気に火を着ける切っ掛けとなりました、映画化第一作目の~重なったこの世界で・竜と都市~をピックアップしていきたいと思います》

 

 

 テレビの中で女性アナウンサーが、笑顔でコーナーの内容を説明していく。

あぁそういや、先月の中学の卒業式でも式が始まるまでの待ち時間に、クラスの奴らがそんな話をしてたっけな。あの時は、3年の全クラスが集まってたから、人口密度が多くて鬱陶しいわ、空気に同化して気配消すのに全力出してたのに、折本に絡まれるわで式始まる前に気力がマイナスまで振り切って、家に帰るまで死んでたから忘れてたわ。え?折本に告白? 何処の世界線の話ですかね。

 

 

「お兄ちゃん、目がモザイクが必要なぐらい腐ってて、気持ち悪くなってるよ」

 

 

 いつの間にか、椅子にのったまま壁際まで身を引いた小町が俺に注意してくる。ちょっと小町ちゃん? モザイクって俺の目はグロなの? それはいくらなんでもお兄ちゃん傷ついちゃったよ。俺の繊細なグラスハートが、ズタズタに切り刻まれて、それを材料に新しく新品が出来ちゃったまである。新しくなるのかよ。

 

 

「んっうん!……いや、先月の卒業式のとき、周りでそんな話してたなって思い出してただけだ」

 

「あぁあの時のお兄ちゃん、式の最中だっていうのに、目の腐りが今みたいに凄いことになってたよね……まぁ、そんなことはどうでもいいんだけど、小町のクラスでもこの小説で盛り上がってたよ。小町は漫画版しか読んでないから、あんまり盛り上がれなかったけどね」

 

 

 椅子をもとの位置に戻しながら当時のことを思い出し、呆れたような眼差しを向けてきたが、何時ものことだとばかりに興味を失い自分のクラスでのことを話はじめた。

 凄いことになってるのに興味なくすの早くない? ウサギと一緒でお兄ちゃん寂しいと死んじゃうよ? 実際のウサギは寂しいぐらいで死なないけどな。

 あと小町、偏差値低そうな雑誌や漫画ばっかりじゃなくて、もっと活字の多いものも読みなさい。

 そんなたわいないことを考えている間にも番組は進み、今は映画化の経緯を紹介している。

 

 

《~重なったこの世界で・竜と都市~で注目するところは、なんといってもハリウッドで撮影されたことです。元々は日本で撮影する予定でしたが、この映画の監督の九重善次郎氏の友人であるハリウッド映画監督のライアッド・J・オードバーグ氏が、この小説の大ファンだったらしく、是非とも一緒にやらせてくれという熱烈なオファーがあったそうです。九重氏もこの映画制作に熱い思いがあり、ライアッド氏と意気投合、周囲を巻き込んで当初の予定とは大きくかけ離れた大規模なものとなりました》

 

 

 テレビに写し出された当時の二人の映像を見て懐かしい記憶が蘇る。九重のおっさんのしかめっ面と、ライアッドのおっさんの緩んだにやけ面。

 普段は正反対の表情なのに、映画の撮影中は二人とも無邪気な子供みたいに、瞳を輝かせて周りに無茶ぶりな指示飛ばしてたっけな。

 

 

《撮影のスケジュールが、当初の予定とかけ離れていくに従って起きたいざこざや、キャストの変更も大体落ち着いて来たときに、最後の問題が残ってしまいました。主人公をどうするかという問題です。キャストの変更に伴い、主人公の少年も当時の決まっていた日本の子役から、ハリウッドで活躍している子役に変更しようという意見が大多数でした。しかし、監督の九重氏はその意見を決して聞き入れず、「主人公を一番上手く演じられるのはこいつしかいない!」と断言して、それでも納得しない周りを認めさせる為に、一計を案じることにしたのです。その策とは、映画関係者の上から下まで全てを集めて、その子役の演技を見せて納得させるというものでした》

 

 

 テレビの声であの時の事が脳裏に浮かびあがる。確か家でまったりヒーロータイムを満喫していた俺を突然来た九重のおっさんが拉致って、説明もなしに舞台に放り込んだのだ。親も家にいたが実にあっさりと俺を引き渡していたな。やだ泣きそう。いや、ちゃんとついて来てくれたけどね。……あっ、大事なこと思い出した!

 

 

「クッ!訳もわからず連れていかれて、最終回見逃したことに対して報復するの忘れてた!」

 

「え? 恨んでるのってそっちなの?」

 

 

 小町が驚いたように目を丸くして俺を見る。驚いた顔もやっぱり可愛い。流石俺の守護天使である。

 よく堕天するのがたまに傷だがな! え、それって致命的じゃない?

 

 

「いや、説明なしで舞台に放り投げられたことに対しては特に恨んじゃいねぇよ。納得させるのに、あれが一番手っ取り早い方法だったのは確かだからな」

 

「お兄ちゃんって、普段存在感無いくせに舞台とか撮影になると糞度胸で周りを圧倒してたもんね」

 

「ちょっと小町ちゃん、女の子が食事中に糞なんて言っちゃいけませんのことよ?」

 

 

 いや食事中に限らず駄目だけどな。あと存在感無かったのは、余計な波風たてないように一歩後ろに下がって空気と同化してただけだからね。何なら同化しなくても空気だったまである。なにそれ辛い。

 まぁ冗談抜きで、周りからのあれこれで何度かめんどくさい目にあってからは、意識的にも無意識的にも気配消してたからな。今ではオートで発動してるから便利である。なぜかそのステルスを突破してくる奴がいるけどな。折本とか。

 

 

《映画関係者が見つめる中、その子役は堂々と一人舞台に立ち、小道具も使わず身一つで主人公を演じたそうです。残念ながら映像を入手することは出来ませんでしたが、その舞台を見た方にお話聞けました。その方は、「震えが止まらなかった。何もない舞台が、彼が演技を始めると街の路地裏が、周りを囲む敵が、汚ならしい酒場が、物語の場面がありありと浮かんできたよ。演技が終わったあとも、少しの間誰も喋らず動けなかったときに、彼だけが監督に、「これでいいの?」って聞いていたのを見て、この子は本物だと思ったよ」と我々に語ってくださいました。映像を見れないのが残念でなりませんね。

そしてその舞台で関係者を納得させ、見事この映画の主人公を演じきったのが、当時抜群の演技力で様々なドラマや舞台に出演していた"香坂やつは"くんです》

 

 

 その声と同時に子役時代の俺の映像が画面の中に現れた。

"香坂やつは"、これが俺の子役時代の芸名である。香坂はかあちゃんの旧姓を使い、やつはは、ななつ、やつ、ここのつのやつに幡《はん》の"ん"、を除いてやつはという、単純だが俺の本名とは掠りもしないので誰も気づかなかったし、これからも気づかれないだろう。……フリじゃないからね? まぁもう役者やってないからどうでもいいんだけどね。

 

 

「あぁーーーー!」

 

「っぅわ! あっぶなっ!」

 

 

 小町の突然の絶叫に驚いた俺は、持っていた湯飲み離してしまい、残り少なくなっていたお茶を、テーブルに零してしまった。幸いお茶の量が少なかったことと、テーブルの中央に向かって零れたことで、新品のブレザーに被害がなかったことに安堵しながらテーブルを拭いた。驚きすぎて、危うくさっき作り直した俺のグラスハートが、また壊れちまうところだったぜ。……脆すぎじゃね?

 

 

「なにいきなり叫んでんだよ。驚いてお茶零しちまったじゃねぇか」

 

「呑気にご飯食べてる場合じゃないよ! 小町、今日はいつもより早く学校行かないといけないんだよ!? 今からじゃ、走ってもギリギリ間に合わない。だからお兄ちゃん早くいくよ!!」

 

「いや、俺今日入学式だから、この時間に出ると早くつきすぎるんだけどって……聞いてねぇし」

 

 

 小町は自分の言いたいことだけ言うと、自分の食器を台所に持っていき、そのまま鞄を持って玄関に向かって走っていってしまった。俺はため息を吐いて立ち上り、自分の食器を台所の水桶に浸し、リビングに戻ってテレビの電源を消すためにリモコンをテレビに向ける。

 テレビの画面には、昔の俺が全力で役を演じている映像と俺の解説が続いていたが、俺がリモコンのボタンを押すと映像が消え、黒い画面にきり変わる。その黒い画面に映る今の俺を見ながら、先程の女性アナウンサーの言葉の中のある単語が浮かんできた。

 

 

「・・・本物、ね」

 

 

 その言葉を口にしたとき、胸の奥深くにある何かが疼いたのが分かり思わず苦笑してしまう。

もう整理出来たと思っていたのに、自分はまだ抜け出せていないようだ。俺は……

 

 

「おにーちゃーん!」

 

「ッ!?」

 

 

 自分の内に思考が向きかけたが、小町の声で我に帰った。持っていたリモコンをテーブルにおき、頭を左右に振って思考を切り替える。

 

 

「おーう、今いく」

 

 

 俺はダルい声で返事をしながら、ソファーに置いていた鞄を持ち上げて、玄関で焦った顔で待っているだろう小町のもとへ歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、俺の終わったと思っていた役者としての人生が始まるかも知れない。そんな物語の一年前のある朝の出来事。

 

 




ここまで読んでくださりありがとうございます。
楽しんでいただけましたでしょうか?

チキンにも劣る芋虫な肝っ玉を持つ作者です。


いや~ここの皆さんの作品を読んでいてつい書きたくなって書いてしまいました。
書いてて改めて物書きの人すげぇって思いました。


では、次の投稿は何時になるか未定ですがいつかまた会えればと思います。
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