偽を演じて…   作:九朗十兵衛

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どうも九朗十兵衛です。

まずは、沢山のお気に入り登録有難うございます。感謝と同時にお腹が痛くなりました(白目)

今回の話を投稿するにあたって前のお話の後半を少し修正いたしました。
よろしければそちらも確認していただければと思います。


では、本編のほうをどうぞ。
少しでも読んでいただけた方の暇がつぶせますようにと思います。


第二話 夢を見て、夢の中で雪ノ下雪乃は彼に出会う

 

 

 太陽が輝き、朝の都市を照らす中、多くの人が行き交う大通りを一人の少年が人を縫うように歩いていく。

朝早く住んでいる路地から、都市の中央地区に続く左右に露店が立ち並ぶこの大通りに来た少年は、新鮮な果物を売っている露店の前で立ち止まり店主に話しかけた。

 

 

「おはようオッチャン、何時ものちょうだい」

 

「ん?……おぉ、坊主か! おはようさん。今用意するからちょっと待ってな」

 

 

 店主は声をかけたのが少年だと分かると、日に焼けて黒くなった顔に満面の笑顔をのせて、自分の店の商品である果物を紙袋に詰め始めた。

紙袋に詰められていく果物を眺めながら、手持ちぶさたの少年はここに来る途中に気になったあることを店主に聞いてみることにした。

 

 

「朝ここに来る時にさ、周りの奴らが何時もよりピリピリしてたような気がしたんだけど何かあった?」

 

 

 店主は少年の言葉に果物を入れる手を止めて、笑顔を消した顔で辺りを見回した。そんな店主の様子に、不味いことを聞いたかなと思った少年は質問を取り下げようとした。

 しかし、辺りを見回して誰も聞き耳を立てていないことを確認した店主は、残りの商品を袋に詰め少年に差し出しながら、内緒話だというように上体を丸め、袋を持つ手とは反対の手を口元に寄せ顔を近づけてきた。

 それに対して少年は目線で左右を確認し、袋を受け取り代金を渡しながら耳を店主に寄せた。

 

 

「俺も又聞きしただけで実際見たわけじゃねぇけどよ。……実は昨日マザリモノが出たらしいんだよ」

 

「ッ!?」

 

 

 店主の言ったマザリモノという言葉に、少年は肩をビクつかせ目を大きく開いたかと思うと、店主に近づけていた体を起こして、今度は目線ではなく頭を左右に動かして周りを確認、そしてまた顔を近づけことの詳細を聞こうとした。

 

 

「本当に? どんな奴だった? 男と女どっち? どんな特徴が出てたの?」

 

「そんな一遍に聞かれても俺も又聞きだから分からねぇよ。俺が聞いたことは、マザリモノが出たってことと、捕まって中央地区に連れてかれたってことだけだ」

 

「…そう、捕まったんだ」

 

 

 話を聞いた少年は、そう呟くと上体を起こし肩の力を抜き俯いてしまった。それを見た店主は捕まったと聞いて安堵したのか、それともこの話を聞いて怖くなってしまったのかと思い、顔に笑顔を戻して少年の頭に手を置く。

 

 

「おう、そういうわけだからもう安心だぜ。そのマザリモノを捕まえた時も怪我人が出たって話は聞いてねえしな。まぁこれからしばらくの間、夜間の見回りが増えるっつう話もあるから、坊主もあんまり夜遅くに出歩かねぇほうがいいぜ」

 

 

 そうでかい図体に似合わない優しい声で少年に語り掛け、元気づけるかのように乱暴に撫でた。その勢いに頭が左右に大きく揺らされ、店主の手が離れた時には元々ボサボサだった髪が鳥の巣のようになってしまった。

 その頭を見て声をあげて笑う店主、その笑い声につられる様に周りの視線が集まり周りも笑い出す。そんな周りの様子に慌てて髪を直し、顔を赤く染め挨拶もそこそこに少年はその場を離れようと足早に歩き出す。

 

 

「坊主!」

 

 

 後ろからの呼びかけに振り返ると、丸い物体が自分に向かって飛んできているのが分かり、空いているほうの手で掴み確認してみると艶やかな赤に染まったリンゴだった。

 

 

「笑った詫びだ! うちの自慢のリンゴだから味わって食えよ!」

 

 

 そう言って店主は笑顔で手を振った後、新しく来た客に向かって接客を始めた。少年は店主を一瞥したあと手元のリンゴを一口齧り咀嚼、飲み込んだ後に口元を緩め雑踏の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貰ったリンゴを食べながら歩く少年は、大通りを中央地区方面に向かって歩いていた。

 行き交う人々は様々な人種で溢れている。肌の色が黒い者、白い者、黄色い者、赤い者、青い者と様々で、姿形も普通の人間もいれば、二足歩行の獣の姿をしたもの、頭から角と臀部から尻尾を生やしたものと多種多様であった。

 

 

(俺にとってはこれが当たり前で、150年ぐらい前は俺達みたいな普人族しか居なかったっていう話を協会の人に聞いたけど……正直想像できないな)

 

 

 遠くに見える都市中央地区に立つ塔の林を眺めつつ、少年はそんなことを考える。暫く歩き、大通り横の脇道に入った少年は、残り少なくなったリンゴを齧り周囲に対しての警戒レベルを上げた。

 少年が入った脇道は、大通りの喧騒が嘘だったかのようにひっそりとしていて道幅が大人三人が並べるぐらいである。

 両脇の建物が高いせいで日が射さず、ひんやりとしている。こういう脇道は人通りが少なく治安がよくないのだが、少年の目的地はこの道の先の通りにあるためこの道を使用しているのだ。

 リンゴを口に咥え、今まで利き腕の右手で紙袋を抱えていたのを左手で抱え直し、羽織っている茶色の外套の中、腰に着けているナイフの位置を確認して少年は道の奥に向かって歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は夢を見ているのだろうと、見覚えのない古ぼけた映画館の観覧席に座りながら自覚した。周りを見渡すが誰もいない、立ち上がろうとしても体は動かない。少しの間体を動かそうと試してみたが、どうやっても動かず諦めて正面のスクリーンに視線を向ける。

 ぼんやりとスクリーンを眺めていると、周囲の証明が落ちブザーが鳴った何が始まるのだろうか? 私の背後からの光でスクリーンに映像が映る。その映像の中の人物を見て私は眉をひそめた。

 

 

「私?」

 

 

 そう、映し出された映像の中には小さい頃の私がいた。

大体小学校に上がる前ぐらいだろうか? そんな幼い私が色鮮やかな世界で、純白のワンピースを纏い顔に満面の笑顔をのせて周りを見つめていた。幼い私は動かないが周りの動きは激しい。

 頭上には真っ青な空の中眩しいくらい輝く二つの太陽があり、幼い私に温かい光を浴びせていた。地上には様々な色の花達が咲き乱れ、幼い私の周りでは小さなパンさん達が音楽を奏で猫たちが思い思いに過ごしている。それは私にとって楽園だった。

 自分の頬が緩み穏やかな気持ちになっていくのが分かる。だが少し経つと映像が徐々に薄れていく。

 

 

「あぁ………ッ!?」

 

 

 思わず惜しむような声が出てしまったが、楽園が消えて次に映し出された映像に息をのんだ。

 先ほどの幼い私よりも少しだけ大きくなった私が、声も枯れよとばかりに泣いているのだ。そんな泣いている私の周りも様変わりしていた。

 地上で咲きほこっていた色鮮やかな花々はすべて枯れ、枯れた花々の根元からコールタールのような黒い液体が滲み沼となって世界を侵食していく。

 そんな中泣いている私の足元では、パンさん達がその黒い沼から泣いている私と猫たちを守るため、円陣を組みそれぞれ持っていた楽器を盾に変えて整列している。

 頭上では、輝いていた二つの太陽の片方は相変わらず眩しいぐらいに光を放っているのだが、もう片方の太陽が泣いている私に近づきながら、放つ光を徐々に弱めていく。

 光が弱まるごとにそれが太陽ではないことが分かった。それは小さな月だった。今までは太陽の近くにいて、反射する光が強すぎて分からなかったのだ。

 楽園が崩壊していく様を見たくなくて、顔を背けようとしたが先ほどまで動かせていた首から上が動かず、目を閉じることもできなかった。その私などお構いなしに映像は進すむ。

 黒い沼の侵食は止まらず、パンさんが一人また一人と沼に沈んていった。そして高度を下げ続ける月が地面に接触したところで映像が消えた。

 

 

「……」

 

 

 固定され目を見開いた私が見つめる中、また映像が映し出された。泣いていた私より少し成長した私が映っているのだが、先ほどの二つとは異なりその私には表情がなかった。

 顔のパーツが無いわけではない。喜怒哀楽、それらの感情が全くない無表情で上を見上げて佇んでいるのだ。世界も最初の楽園が見るも無残な姿をさらしていた。

 世界に広がっていた黒い沼が乾き、ひび割れた黒い荒野が広がった地上には黒く染まった月の残骸が山を作っている。

 無表情の私が纏っている純白のワンピースには、泥が跳ねたのだろう黒いシミがスカートの下の部分をまだらに汚していた。足元では、頭に猫を乗せたパンさんが汚れた部分を消そうと布で拭い続けていた。

 頭上の青かった空は、輝きを増し続ける太陽の光によって白く塗りつぶされていき、やがて青が消えて白一色になった。色で溢れていた世界が、地上の黒と空の白の二色だけの寒々しいモノになってしまった。

 そんな光景が映るスクリーンから目を離せなかった私の体が、急に自由になり周りを確認して、口から空気を吸い込む様な悲鳴が漏れた。

 古ぼけた映画館の中辺り一面が、スクリーンの中の世界を侵食した黒い泥でべったりと汚されていたのだ。浸水するように溢れる泥で、すでに腰のあたりまで埋まった私はもがきながら叫ぶ。

 

 

「いや、誰か……誰か助けて!!」

 

 

 しかし、一人しかいない映画館に助けが来るわけもなく、泥に飲み込まれていく私が最後に見たのはスクリーンの中で太陽に手を伸ばす私だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あふん」

 

 

 そんな気の抜けるような声で、曖昧になっていた私の意識がはっきりする。

周りを見回すと、見知らぬ劇場の満席となっている席の一つに私は座っていた。私の隣には、何を考えているのか分からない表情で前を見据えた母が座っている。そんな光景に戸惑い、なぜここにいるのかと考えて直ぐに思い出した。

 今日はとある小説の映画化にともない起こった問題を解決するために、この映画の監督が提案した映画関係者を集めた舞台を見に来たのだ。うちの家もスポンサーの一つであり、元々は父と姉が来る予定だったのだが、どうしても外せない用事と重なってしまったのだ。その代理として、母と私が来ることになったのであった。母一人でも十分なのではないかと思ったのだが、子供の視点も必要だと言われついてきたのだ。周りにも数人の子供がいるので私が浮くこともない。

 そんな事を考えながら舞台を見ると二人の人物がいた。一人は無精髭を生やした細身の男性で、下を見てしかめっ面をしていた。この人が監督の九重善次郎さんだ。

 もう一人は舞台にうつ伏せに寝転がっていて、顔が見えないが子供の様で、この子が今日この舞台で一人芝居をやる子役の香坂やつは君だろう。香坂君は鼻を指で摩りながら起き上がり周りを確認、隣の九重さんを見上げる。その姿に覇気というものは全くなく、どこにでもいるただの子供にしか見えなかった。

 

 

「……なにこれ?」

 

 

 そう胡乱げな目つきで問いかける香坂君に私は首を傾げた。香坂君の反応はこれからこの舞台で演じる者のそれではなく、何も知らない人が突然舞台に上げられ、事情を知っているだろう人に聞いた。そんな反応だった。

 関係者には一週間前には連絡が来てたので、知らないはずは無いのだけれど……

 

 

「お前には、今からここで重なったこの世界での主人公を演じてもらう」

 

「……聞いてないんですけど?」

 

「今言った。それにこの連中を黙らせるには、これぐらいのハプニング楽に乗り越えられないといけねぇだろ」

 

「わぁ~い、突発的な事故を意図的に起こすとか何という外道」

 

 

 どうやら知らなかったらしい。軽口を叩く香坂君に、九重さんはしかめっ面を見ている此方まで苛立たしくなるような、相手を馬鹿にする皮肉気なものに変えて鼻で笑った。

 

 

 

「なんだできねぇのか?」

 

「……はぁ、そんなやっすい挑発しなくてもやりますよ」

 

「最初からそう言えってんだよ。何、いつも通りにやればいい」

 

 

 そう言って、九重さんは舞台を降りて香坂君一人が残される。そんなやり取りを見て、私は先ほどの香坂君に抱いた印象を改めて並の子役ではないことがわかった。並の子役がこんな事をされては、委縮しまともな演技もできずに終わってしまうだろう。

 だが彼は、舞台で周りを確認し、九重さんから説明とも言えないようなことを聞かせられても全く変わっていなかったのだ。こんな事、私には無理だと断言できる。私の知る中でそれが出来るのは姉ぐらいだろう。

 一人になった香坂君は、少しの間座り込みながら目を瞑っていたかと思うと蹲る様に身を丸めてしまった。その様子に、今考えていたことは勘違いだったのだろうかと思ったが、彼が顔を上げた瞬間そんな考えが吹き飛んだ。

 

 

「……まぁ」

 

 

 隣から母の呟きが聞こえたが、それを気にせず私の目は彼に釘づけになっていた。

 顔を上げた彼の纏う雰囲気が、覇気のない薄いものから、他者を圧倒する濃く強いものに変わり、表情も先ほどの気の抜けたものから、何者にも負けないという、強い意志を宿したものになっており、姿形は同じなのにもはや別人であった。演技はもう始まっているのだろう。

 彼が何かに魅せらせたように、上を見上げて座る様子を見た私の中で、ある場面が浮かびあがった。

 それは小説の冒頭、主人公の少年が暗い夜の街の中で月を見上げているところだ。私の中のイメージと彼が重なった時、彼の周りに広がる何もない舞台が雪の降り積もる夜の街に変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピピピ、ピピピという目覚ましの電子音で私の意識が覚醒した。霞がかる思考のまま体を起こすと、見慣れない部屋のベットで私は眠っていたようだ。

 ここは何処だろうと部屋を眺めていると、隣にパンさんのぬいぐるみを発見し思わず抱きしめる。しばらくパンさんを抱きしめ目を瞑りじっとしていると、霞がかっていた頭がすっきりして此処がどこかを思い出した。

 

 

「……そういえば、昨日ここに引っ越してきたのよね」

 

 

 高校に入学する私は、一人暮らしをするために親に直談判してこのマンションを与えられたのだ。正直、一人で住むには広すぎるのだが、親としてはここより下のランクのマンションだとセキュリティ的に安心できないので、ここが嫌ならこの話は無しだと言われ仕方なく了承したのだ。

 完全に覚醒した私は、抱きしめていたパンさんに朝の挨拶とキスをすると、パンさんを元の位置に戻してベットから降り学校に行くための準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャワーを浴び、制服に着替えてから朝食を済ませ食後の紅茶を楽しむ。うん、美味しい。あそこのお店は当たりであったらしい。今度から紅茶はあそこで買うことに決めた。

 ゆったりと紅茶を楽しんでいると、起きる前に見ていた夢を思い出した。

 

 

「懐かしい夢を見たわね……」

 

 

 そう呟き頬が緩むのを感じる。夢で私が初めて彼に出会った時のことを見られるなんて、今日はいいことがありそうな気がする。

 そう考え、また彼の顔が見たくなった私は自室に戻って机に飾られている写真立てとって、またリビングに戻りテーブルの上に写真立てを置き、正面に座ってそれを眺めながらまた紅茶を飲み始める。

 

 

「……ふふ」

 

 

 自然と口から弾んだ笑いが漏れる。写真の中では小学校時代の私が、その当時の状況からは考えられないような、安心しきったような笑みを浮かべて映っており、その隣には特徴的な跳ね毛を持った少年が気恥ずかしそうな顔を薄い赤に染めて映っている。

 この写真は彼の舞台が終わった後、彼と話す機会が出来てその時に記念に取らせてもらったものだ。

 彼は最初至極めんどくさそうな顔をして断られそうになったが、彼の母親らしき人に、「こんなに可愛らしい女の子のお願いも聞けないなんて」と言われて説教されてしまいしぶしぶ了承してくれたのだ。

 当時の私の周りには私の容姿に魅了され寄ってくる男子しかいなかったので、写真を撮ってもらえることと合わせて喜んだのを覚えている。

 そう回想をしていると、隣に置いていたスマホが震えた。画面に表示されている名前と、画面右上の時間を確認して慌てた。今日は入学式で新入生代表の挨拶をするので、その打ち合わせがあり早めに出なければならなかったのだ。

 私は電話に出て、すぐに行くことを告げてティーカップを片付けると写真を自室に戻してから慌てて家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは彼の物語が動き出し私の答えが見つかる。その物語が始まる一年前のある朝の出来事。

 

 

 

 




ここまでお読みいただきありがとうございました。


如何でしたでしょうか?
楽しんでいただけたのならが幸いです。



いやぁ、今回の話は難産でしたゆきのん難しすぎますのん‼
書いては消して、考えては書いてを繰り返し知恵熱出るか禿げるかと思いました。
ゆきのんらしさが、少しでも出でいればいいのですがあまり自信がなかったりします。


では、何時になるかは不明ですがまた次回お会いできれば幸いです。


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