ハローエブリバディ、皆のアイドル八幡だよぉ! 元気にしてたかなー?
《オオォォォ!》
うんうん、良かった。みんなが元気だと、私も元気いっぱい勇気りんりんで最っ高の気分になれるからね。それでね、さっそくなんだけど、今日はみんなに重大発表があるんだ。
……なんと私八幡は今日から、ユニットを組むことになりました!
《えぇ~!!》
やっぱり驚きだよね。私も、まだぜんぜん心の整理がついてないの。ここまでソロで頑張ってきた私が、まさかグループで活動するなんて、昨日プロデューサーに告げられた時は驚き過ぎて椅子から転げ落ちちゃったくらいだよ。
《アハハハハ!》
あ、笑うことないじゃない! もう、みんなひどいなぁ。……でもうん、正直これからの事を考えると不安でいっぱいだけど、みんなが笑顔でいてくれる。それだけでやっていける気がするよ! グループで活動する私をこれからもよろしくねー!!
《オオォォォォォ!!》
よっし! みんなの元気をもらったから、今日のライブはいつもの十倍百倍一千倍、倒れるまでいっちゃうよ! じゃあ、みんな準備はいい? ……せ~の!
「…………うす」
「こんにちは比企谷君。……元気がないようだけれど何かあったの?」
扉を開いて入ってきた俺にこの部室の主である雪ノ下雪乃が、本に向けていた視線を俺に向けながら笑顔と共に挨拶をしてくれた。しかし、俺の顔を見るとその笑顔を心配するようなものに変えて言葉を投げかけてくる。多分、今の俺の顔は生気がなく、目の腐り具合も半端ないのであろう。
「……いや、特に問題は無い。気にしなくて大丈夫だ」
「そうは見えないのだけれど……」
気にしないように言う俺になおも雪ノ下は気遣ってきてくれる。しかし、今の俺にはその気遣いは逆効果である。今の状態になった原因は部室に来る気分が乗らなさ過ぎたので、自分を励ますために開いた脳内劇場が、余りに無残で気色の悪いものになってしまい励ますどころか追加ダメージがクリティカルで致命傷の重体だったのだ。なお、主演、観客、裏方全部俺である。
なんであんな世にも悍ましいものが展開されたのかは、多分夜に聞いたAKB40の影響であろう。キッツいのカテゴリーは違えど、無残さだけで見ればどっこいだった。
これ以上このことで頭を使うと、脳細胞が壊死しそうなので追い払う様に頭を振り、気を取り直して雪ノ下に質問する。
「んで、依頼は来てんのか?」
「いいえ、来ていないわ。だから比企谷君も好きにしていていいわよ」
「……もしかして、この部活って暇なの?」
俺の質問に首を振る雪ノ下に思わず疑問を呟いてしまう。てっきり雪ノ下が部長をやっているので、普段は客が殺到しているイメージを抱いていたのだが、実際はそんなことないのであろうか? もしそうだったら、俺的には嬉しい限りだ。つーか気が乗らなかった主原因はそれである。
そんな俺の疑問に雪ノ下は以下の通りに返してくれた。
「この部に依頼に来るのは、平塚先生が紹介した人だけだから多くはないわね。……この部が作られた当初は、私を慕ってくれる人達が良く来ていたのだけれど、部活動の邪魔だと平塚先生が追い払ってしまったの」
……それって部活動に支障があるという尤もらしい言い訳を盾に、青春楽しむ生徒が憎らしかったからではないだろうな? いや確かに、部員以外の奴らが屯していたら依頼人が来れないから正しいんだけどね。まあ俺にとっては、人が少ないのは朗報なので理由は何でもいいか。
雪ノ下の返答に納得すると俺は昨日置いた椅子に座り、さて何をして時間を過ごすか考える。雪ノ下は昨日と同じで読書にいそしんでいるが、俺はある理由から人前で読書が出来ない。
別に本を読んでいる姿が醜悪とか、エキセントリックなポーズとって読むとかではないのだが、本に熱中するとある癖が出てしまうのだ。中学の時はそれのせいで折本に絡まれる様になったので、二の舞を演じるわけにはいかん。
結局、寝るかスマフォを弄るかの二択しかないので、スマフォという名の暇つぶし用携帯玩具で人理修復の旅に出ることにしたのだった。
◇
来い! 来い! よし、金きた! ……ちゃうねん。俺が欲しいのは文明破壊系彼女じゃないねん。忠義の騎士でもないねん。いやどっちも嬉しいけども。あぁ、花嫁皇帝でねーなー。……ん?
「……失礼しまーす」
暇つぶしを兼ねて始めた修復の旅で行った召喚儀式が、無事物欲センサーによって肩透かしを食らっていた時にそいつは来た。
控えめのノックに雪ノ下が答えると、カラカラとゆっくり開いた扉から現れたのは、恐る恐るという言葉が似合うほど弱弱しい声と、その声とは似つかわしくないぐらい派手な格好をした女子生徒であった。というか知っている人物である。
「えぇと、平塚先生に言われて来たんです、けど……って、ヒッキー!?」
扉を閉めて振り返った髪を明るい茶髪に染め、制服を着崩した今どきギャルの見本みたいな少女こと、俺に定期的に挨拶してくるが、名前が分からないため心の中で「挨拶少女」と呼んでいる奴が俺を見て目を見開きながらそう叫んだ。……ヒッキーってお前。そのネズミの王様か引きこもりみたいな名前は俺の事を言ってるのか? いやさ、こっち見て行ってるからそうなんだろうね。
「誰がヒッキーだ。挨拶少女」
「挨拶少女ってなに!?」
「いや、お前定期的に挨拶してはそのまま去って行くじゃん? だから名前分らんし、そう呼ぶしかねえだろ」
「ッ!?」
俺の返答に言葉を詰まらせて絶句する挨拶少女。何でそこまで驚くのん? もしかして俺が覚えてないだけで、名乗られたことがあるのだろうか。
俺が首を傾げて絶句する挨拶少女を見ていると雪ノ下が溜息を吐いた。
「……二年F組所属の由比ヶ浜結衣さん。貴方のクラスメイトよ」
「え? ……マジで」
雪ノ下から告げられた衝撃の事実に驚き、挨拶少女改め由比ヶ浜を見ると、本当に俺が名前を知らない処かクラスメイトとしても認識していなかったことに、ショックを受けたのかへこんでしまった。確かに覚えない俺が悪いけど、何でボッチに覚えられていないだけでそこまでへこむんですかねえ。承認欲求高い系なの?
「……なんか、すまん」
「ううん、ちゃんと名前教えてなかった私も悪いし……」
あまりの落ち込みように気まずくなって謝ると、俯いたまま由比ヶ浜が首を振る。あ、これ無理です。俺じゃ解決できませんわ。
助けを求めるために雪ノ下に視線を向けると、呆れた様に肩を竦めると奥から椅子を取り出して由比ヶ浜に声をかけた。本当助かりますわー。
「立ったままというのも疲れるでしょう? 座って話さないかしら?」
「うん、ありがとう。……えっと、雪ノ下さん? だよね」
雪ノ下の勧めで椅子に腰を下ろした由比ヶ浜が、確認するように尋ねるとそれに頷いた雪ノ下が椅子に座りなおす。
「ええ、二年J組所属でこの部の部長の雪ノ下雪乃です。よろしく由比ヶ浜さん」
「あ、あたしは由比ヶ浜結衣です。よろしくね雪ノ下さん」
「……うちの部員がごめんなさい。彼には後でちゃんと言っておくから安心してね」
ショックと緊張で委縮しながら挨拶をする由比ヶ浜に笑顔を向けた雪ノ下が、その笑顔のままこちらに視線をチラッと向けて先ほどの俺の非礼を詫びる。その言い方に俺は間髪入れずに反論する。
「いや悪かったけども、その言い方はやめてくれ。お前は俺のかーちゃんかよ」
「あら、高校生の私に子供がいるわけないじゃない。それに、私の子供だったらクラスメイトの名前も覚えられないようなこともないでしょうしね。あぁでも、謝ることはできたようだし、甘えたいのであればあとで頭を撫でてあげましょうか? ヒ―くん」
「ヒーくん!?」
「マジやめろ。寒気がフルバーストで俺の精神が氷河期に入って死んじゃうから、もしくはお前の取り巻きに肉体を物理的に殺されちゃうから」
「……それは語外に二人きりの時にしてほしいと言っているのかしら? 生憎とそこまで安くはないのだけれど」
「勘弁してください」
泣くよ。これ以上やられると八幡泣いちゃうよ。つーかなんてこと言ってくれちゃってんのこの人。今の会話で俺の二の腕鳥肌だらけになってんぞ。
戦慄の視線を雪ノ下に送り、まだ続けるようだったら土下座も辞さない覚悟を決めていると、俺たちの間に座っていた由比ヶ浜が、先ほどの落ち込みようが嘘だったかのように、顔に驚きの表情を張り付けて呟いた。
「……二人って仲いいんだね」
「今のどこに仲のいい要素があったんだよ。俺が一方的にイジメられてただけだろ」
「だって、ヒッキーいっぱい喋ってるんだもん。教室にいる時は誰ともしゃべらないで寝てるか、携帯弄ってるかじゃん」
よく見てるね君。何、ボッチ観察って流行ってんの?
「そりゃ、喋る相手誰も居ないからな。つーかヒッキー止めろ」
「え……じゃ、じゃあ、ヒ、ヒーくん?」
「ヒッキーでいいです。いやヒッキーがいいです!」
顔を赤らめ俯きながらの上目遣いで、戯けたことを宣う由比ヶ浜に、全力で先ほどのあだ名? を推奨する。っていうか何でよりによってそれを選ぶ! 後、呼ぶの恥ずかしいならやめろよ。しかも、あだ名推奨したら残念そうな顔するとか、そんなに俺をイジメたいんですか? このドSが!
そんな俺と由比ヶ浜のやり取りを見ていた元凶ドSこと雪ノ下が、一つ手を叩いて仕切りなおす。
「由比ヶ浜さんの緊張も解けたみたいだから、用件を聞かせてもらえないかしら? 平塚先生にこの部に行くように言われたのでしょう?」
「あ、うん。えっと、この部って生徒のお願いを叶えてくれるんだよね?」
なんだその照明器具の中にいるオッサンみたいな部活は、そんなんあるなら俺が依頼人になりたいんだけど。
「誤解しているようだから説明させてもらうけれど、私達奉仕部は依頼者の悩みを聞いて、助言したり手助けをするサポートが仕事なの。悩みを解決するのは依頼人自身よ」
「ほえ~、そうなんだ」
阿呆の子みたいに口を開け感心する由比ヶ浜。お前平塚先生に聞いて来たのに、何であんな解釈で来たんだよ。由比ヶ浜が理解したことを確認した雪ノ下は話を続ける。
「理解できたようだから改めて聞くわね。由比ヶ浜さんはどのような依頼でここに来たのかしら?」
「あ、え~と、そのね……」
雪ノ下の再度の問いかけに話そうと口を開いた由比ヶ浜であったが、しかし言葉は出てこず、視線を彷徨わせて困ったように口を閉じてしまった。……俺が雪ノ下に視線を向けると、雪ノ下もこちらを見ていたので肩を竦めて立ち上がる。
「……ちょっくらトイレ行ってくる。その間に雪ノ下にどんな依頼なのか話しててくれ。俺には戻った時に概要でも教えてくれればいい」
「……ごめんね、ヒッキー」
「謝ることじゃねえだろ。つーか男に話しづらい依頼だったら俺がいたたまれねえわ」
謝る由比ヶ浜に手を振りながら部室を出た俺は、トイレには向かわずに近くの自販機でマッ缶を買うと、そこでマッ缶一缶分まったりと過ごし、頃合いを見て部室に戻るのであった。
◇
「うわぁ……」
自販機から部室に帰還したその後、部室には誰もおらず黒板に書置きが有ったので、そこに書かれていた通りに家庭科室に行くとエプロンを着用した二人に遭遇。訳を聞くと由比ヶ浜の依頼は、ある人物にクッキーを渡したいからクッキーの作り方を教えてほしいとのことであったらしい。そんな由比ヶ浜の依頼に、雪ノ下が料理が得意とのことでさっそく家庭科室を借りて指導をすることになりなったとのこと。
俺は味見役とのことなので見学をしていたのであるが、正直な話途中で逃げ出したくなった。
理由は前述の台詞、雪ノ下の指導のもと堂々完成した現物を見て、俺が発言した言葉で大体察することができるであろう。
「……俺これ見たことあるわ。菓子類コーナーじゃなくて、ホームセンターの炭売り場で」
「炭じゃなくてクッキーだし!!」
俺の感想にクッキーだと言い張る由比ヶ浜に改めてそれを見てみる。まず見た目だが、クッキーであるならば程よい茶色かまたはきつね色であるはずなのだが、目に映っているのは茶色いを悠々通りこしてほぼ黒と言っていい焦げ茶色。
漂う匂いは小麦や砂糖、卵などが焼かれたことで香ばしくも食欲を誘うものではなく、炭焼き釜で作られた燃料のものであり、「あ、焼き肉やるの?」と肉や野菜を探したくなるものである。
「いや、どう見ても摂取しちゃダメなやつだろこれ。体に毒を体現しちゃってるよこれ」
「毒じゃないよ! 毒じゃ……毒、かな?」
俺の毒発言に皿に乗った物体を手に持ち否定する由比ヶ浜であるが、その物体を見つめているうちに自信がなくなったのか眉を寄せながら首を傾げている。そして最後は食えないものだと認めたのか項垂れてしまった。
「まだ一回目ですもの、これから挽回できるわ。先ほどの調理中の由比ヶ浜さんは、作ろうという気持ちが強すぎてミスが重なってしまっただけよ」
仮称クッキー正式名炭をめぐって言い合っていた俺たちの横で、調理で散らかった物を片付けて、再度調理の準備をしながら雪ノ下がフォローをする。
「うぅ、ありがとう雪ノ下さん。……でもやっぱり、てんぱってたとはいっても出来がこれとか、私才能無いんだね。それに友達もこういうのやってないっていうか」
手に持った物体を見ながら、苦笑を口元に張り付けて自分を卑下する由比ヶ浜は、予防線じみた言い訳を述べ始めた。これはあまりよくないなと俺が思っていると、準備を終えた雪ノ下がそれを聞き笑顔で由比ヶ浜に伝える。
「そう、では止めましょうか」
ここまで読んで下さりありがとうございます。
というわけでガハマさん登場から依頼途中まででした。
……また前後編になってしまいました。
なんか書いては消して書き直してを繰り返しているとだんだん書きたいものと変わっていってしまいますね。
次回で事故問題を終わらせられればと思っています。
ではまた次回でお会いしましょう。