プロローグ:バッドエンドは突然に
「校舎の中で走ってはいけません」とは、凡そ学び舎に通う者達全ての魂に刻み込まれた格言である。今や全国的に形骸化している――クラスメイトの誰かさんに至っては積極的に破ろうとする――それを、これまで僕は人の目を気にして律儀に守ってきた。
「はぁ、はぁ……っ!」
それが今じゃ夜の校舎をひたすら走っている。優等生サマ形無しだけど、バレなきゃルール違反じゃないのだ。
走る。走る。走る。
何故走る? 逃げるために走る。
何から逃げる? 鬼から逃げる。
この現状は、まさに鬼ごっこと呼ぶに相応しいだろう。……思えば鬼ごっこなんてオトコノコの遊び、今まで片手で数えられるくらいしかやったことがなかった。遊ぶ彼らの姿を羨ましげに見つめていた僕の想いを汲みとって、神様がこの
廊下に参加者二人分の足音が響き渡る。一つは僕の分、もう一つは――――
「……先輩っ、わたしは大丈夫です、からっ」
「駄目だよ! 桜も逃げないとっ!」
力の抜けた後輩の柔らかい手を引いて僕は逃げる。後に続く彼女の顔は闇夜に溶けるように青白くなっていた。……当然だ、あんな現実離れした光景を目の当たりにしたんだから。
今朝話題になっていた体育館から、不審な人影たちが出てくるのを見つけたのはついさっきのこと。引き止める桜をなだめて後を追ってみたところ、事件は現場で起こっていた。……校庭に辿り着いた彼らは、とてつもない何かを始めようとしていたのだ。そこにいた二人の人影が醸し出す気配は、僕のような部外者ですら感じ取れる異常なモノ。一触即発の空気に、僕の弱虫はすっかり怖気づいてしまった。
そして結果がこの始末。好奇心に殺されるニャーの人が僕だった。
……非常口が視界に入る。瞬間、緊張が緩んでしまう。振り向けば後ろには桜しか居ない。
「ぅく、はぁっ………………ふぅ」
安堵から思わず溜息が漏れる。僕たちはあの鬼から逃げることが――――
「脱走は串刺しの刑よ、子リス」
「――――え?」
気付くと胸から槍が生えていた。
ソレが貫いているのは僕の心臓。
ソレで穿ったのは――――
「あら? この子リス、なかなか
鬼の正体は少女だった。可愛らしい女の子。平時にこの姿を見かけたなら心臓がドキリとするかもしれない。今は文字通り心を奪われていた。
「ネズミが熱を上げてたのも納得ね。アイツにはもったいないぐらいだったわ」
僕の返り血を舐めあげるその顔は、容姿に見合わない妖艶さだ。
「――――――――ッ!」
見上げれば傍らに佇む桜が、青ざめた顔でその唇をわなわなと震わせ何かを叫んでいる。生憎と僕の耳にもうその声は届かないけれど、僕は大事に思われていたんだな、なんて感慨が湧いた。
…………意識が遠のいていく。けれど彼女の想いがあれば、こんな最期でも満足に逝くことが――――――できるわけないだろ。
なんて理不尽だ。僕はただ桜の掃除を手伝っていただけなのに。
何が悪かったんだろう。性格? 容姿? 運?
ああまったく笑えない、だってたぶんソレら全部が正解だから。
呪われている。
全てが呪い、呪われている。
世界はみんなに呪われている。
もちろん僕も呪っている。
――――だから、ぼくは呪われている――――
はい。ゲーム起動時のアレもどきです。
それにしてもこの下手人、いったい誰ザベート・何トリーなんだ……!?
とまあ、この作品、安価スレか何かと見紛うくらい登場人物やら設定やらが変わっています。
そこら辺はご容赦を。