■月■日:拝啓養父上様
拝啓、養父上さま
おげんきですか。
先日お寺を住処にしていたアライグマが、となり町の役場に連れられていきました。かのお話に影響されて真似をして飼ってみるという心理は理解できなくもないですがならば最後まで面倒を見きれないという結末を彼らは知っていたのでしょうか。自然と人間との融和の難しさを青春の淡い一頁に刻むのは大変結構ですが、屈強な外来種に我が国の脆弱な自然が蹂躙される未来にまで知恵が及ばなかったのでしょうか。三十年近く前の日本男子代表として、養父上さまには是非釈明の一つでも戴きたいところです。
養父上さま、私は元気です。月も星も見えぬ闇夜なれど、夜道は街灯が照らしだしてくれます。なんとも欺瞞に満ちた台詞ですが、養父上さまのお言葉に応えられるほど私は終ぞ大成しませんでした。
少年の大きな夢。かつて語られた時は黄色い救急車を呼ぼうかと思案いたしました。目標は大きければ大きいほど良い、とは様々な媒体から耳にする有り難いお題目ですが、中年の哀愁ただよう背中からあんな言葉が吐き出されるのですから、正気度がガリガリと音を立てて削れること請け合いです。とはいえ、恩があるのも事実。多少の無茶なら嫌々ながらも引き受けたでしょう。ええ、あくまで多少ならば、ですが。呪われた我が身の事情を多少なりとも存じあげていれば、この些か以上の無理難題に応えられないことをご理解いただきたいと愚考します。
養父上さま、不義理な娘をお許し下さい。いえ、義理の娘ではありますが。
さて、養父上さま。実は先日、新たに契約を取り交わしましたことをご報告いたします。保証人としての養父上さまに、ご許可をいただきたく、ここに一筆したためました。はい、養父上さまならよくご存知である
養父上さま。これまで同様、この手紙は墓前にお供えしておきますので、ご自慢のオカルトチックな手法でご確認なさってください。
では、新たに契約を取り交わしましたことをご報告いたします。
私たちは主従契約を締結いたしました。
養父上さまへ
かしこ
るい智原作のシーン、「拝啓母上様」のオマージュです。
本物はもっと長いのですが、作者の技術ではこれ以上装飾過多な文章を書くことが難しいので、これで断念しました。