運命は呪いを喚ぶ   作:ポリウー

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 厳ついフルフェイスヘルムにマスターとか呼ばれた。個人的には軍師ポジの方が性に合っていると思う。


――Rebellion against Fate――
2月2日:穂群の陳宮


「訊いてやる。お前がオレのマスターか」

 

 土蔵に凛と響く声。粗野で力強く、思いの外高い音色。状況を見るに、目の前の騎士から発されたようだ。

 

「……マス、タぁ? いったい何の――――うッ!?」

 

 問い質すより先に訪れる衝撃。右手が熱い。たまらず包帯を取ると、そこには以前に見つけた痣が明確なカタチを伴って刻印されていた。

 

「ちょっと……厨二病案件はもう間に合ってるんだけど」

 

 もう他人の目は誤魔化せない。明日からは手袋でもはめようか。そんな風に僕が戸惑っていると案の定見咎められた。

 

「よし、令呪はあるな。いや焦ったぞ。召喚されたのにマスターがいないなんてジョークとしちゃ三流だ」

「……あの、いったいなんの話で」

「話は目の前のヤロウをぶっ潰してからにしようぜ。なァ、サーヴァント」

 

 手にするきらびやかな宝剣を男に向ける騎士。肌がひりつくのは戦慄が僕を襲ったからだ。それは、殺意。日常に生きる僕でも感じ取れるくらい熾烈なソレが場を覆った。

 

「やれやれ、穏やかじゃないな。仮にも最優のクラスならばもっと余裕を持ったらどうかね、セイバー」

「お行儀のいい優等生がお望みなら他所をあたれ。もっとも、無事だったとはいえオレのマスターを害したんだ。当然此処で消える覚悟はあるんだろうな――――ッ!」

 

 砂塵が舞う。白銀の残光を残して騎士は消えた。そして後には――――

 

「――――うそ」

 

 数刻遅れて耳に届く轟音の元に目を向けると、そこには嵐が巻き起こっていた。白銀の宝剣と黒白の双剣が織り成す、剣戟のオーケストラ。視認することなど到底不可能な腕捌き。それでも、セイバーと呼ばれた白銀の騎士が赤い外套の男を圧していることは辛うじて理解できた。

 

「二流のクセに中々どうして粘るじゃねェかッ!」

 

 苛立たしげに放った一撃に、弾き飛ばされる双剣。好機と見るや否や、セイバーは追撃をお見舞いしようとする。受ける男は隙だらけ――――否。

 

「ダメ! アレを弾いても直ぐに手元に戻る!」

 

 土蔵に追い込まれた時のことを思い出す。僕の静止の声が届いたのか、慣性を無視して急停止するセイバー。対する男は予想通り再び双剣を手にしていた。

 

「……チッ、喰えねェ手品だ。それがテメエの能力か」

「手癖の悪さだけが取り柄でね。……おっと、そうこうしている内に新しい手合が招かれたようだぞ」

 

 後ずさった男の言葉。まさか、さらに新手の連中が来るというのだろうか。

 

「確かにそのようだが……おい、アーチャー」

「私の事か? 弓など手にはしていない筈だが」

「たとえ二流といえど、お前のその技量は並外れた鍛錬の賜だろう。そんなヤツが三騎士以外であってたまるか」

「君がどう思おうと勝手だが、視野狭窄は寿命を縮めると忠告しておこう。で、何かねセイバー」

「アレはお前の差し金か?」

 

 セイバーが門の外を指差す。そこには恐ろしいことに、更なる人外が待ち受けているらしい。男、アーチャーが答える。

 

「さてな。私を追う者が流れ着く先など、与り知らぬことだろう」

「……誘導したってことか。ますます気に食わねェ、何ならオレとその追跡者で挟み撃ちしてやってもいいんだぜ」

 

 闘志燃え滾るセイバーを余所に、アーチャーは僕に視線を向ける。何も映さない空虚な瞳に思わず怯んでしまう。

 

「それもいいだろう。だが、君のマスターの力量は低い。混戦にもなれば、流れ弾で脱落してもおかしくはないな」

「……フン」

 

 話の流れがイマイチ掴めない。判っているのは、魔術の存在を知る僕の目から見ても異常な力を彼らが振るって殺し合いをしていることと、どうやら僕の存在がソレの足手まといであることくらいだ。

 

「……いいぜ、今夜は見逃してやる」

 

 剣を下ろす。未知の相手への警戒が、彼への敵対心に勝ったらしい。

 

「感謝する。ではお礼に一つ良い事を教えてやろう。君が今から対峙するのはキャスターだ」

「オイオイ、いいのか? そんな重要な情報投げ売りしちまって」

「構わんよ。君にとっては私より彼の方が御し易いだろうし、私としてもアレとの対決は避けたい」

「っつーことは対魔力低いのか、お前。マスターの目からはヤツのステータス、どう見える?」

「え、えと? …………あ、なんか視えたかも」

 

 促されたので、目を凝らしてアーチャーを視てみるとイメージが浮かんでくる。ラベルの貼られた試験管。筋力とか耐久とかのゲーマーには馴染み深いモノは置いておき、言われた通り対魔力とやらに着目する。

 

「この薄さは……Dランクかな」

「三騎士の名が泣くぞ、アーチャー」

「そう言う君の対魔力は高そうで何よりだ。ではな」

「あっ、ちょっと待って、アーチャー!」

 

 去ろうとする背中を呼び止める。正直わけの判らない状況だけど、彼個人に訊きたいコトが残っている。

 

「僕は和久津智。十年前に切嗣さんに引き取られた女の子だ」

「それが一つ目の問いへの回答か」

「そう言うこと。で、僕が答えたからにはそっちも名乗るのが筋だと思うけど? もちろん、私はアーチャーです、終わり。なんてのはナシだよ」

 

 一片の嘘を織り交ぜながら、赤と黒の背中に問い質す。その広い背に何を負ってきたのか、僕には想像もできない。彼は暫く口を閉ざし、やがてポツリと呟いた。

 

「……私は最早何者でもない。私という存在の全てはこの世界では消失しているからな」

「…………はい?」

「和久津智、だったな。君は理解しなくていい。……私のことは、未練がましい亡霊だとでも思ってくれ」

 

 そう言い残して、今度こそ去っていくアーチャー。イマイチどころじゃない。彼らを取り巻く環境はまだしも、彼個人の話は一片たりとも理解できなかった。

 

「そんじゃマスター。立て続けで面倒だが、お次はキャスターだ。とっとと片付けてくるぜ」

「ストーップ! 話は後でもいいから、せめていっしょに行こうよっ」

 

 アーチャーが去ったかと思ったら、セイバーが屋敷の外に飛び出そうとする。マスターなんて呼ばれてるし、先程のアーチャーみたいに襲ってこないから、少なくとも敵ではないと思う。

 

「いいのか? さっきのアーチャーじゃないが、うっかり死んでも責任取れんぞ?」

「自分ちの前で切った張ったされるのを放っておく趣味はないんだ。それに、危険からは君が守ってくれるんでしょ、セイバーさん?」

「……オレに対して守れ、か。正直ガラじゃないんだが、やって出来ないことはねェ。いいぜマスター、ついてきてくれ」

 

 

 

 果たしてそこにいたのは魔術師然とした青いローブを身に纏う男。そして、

 

「……和久津さん。あなたもマスターだったのね」

 

 クラスメイトの遠坂さんがいた。“あなたも”と彼女は言う。ということは、遠坂さんも僕と同じマスターなのだろうか。傍らにいる男が口を開く。

 

「昨日見た女の片割れか。どうなってんだマスター、学校にはアンタ以外マスターになれる魔術師はいないんじゃなかったのかよ」

「そう、そのはずよ……。でも、まさか、いや、有り得るかも……」

「要は敵ってコトだろ? 相手はセイバー。ちぃとキツイが、倒せないワケじゃねェ」

 

 言葉と共に杖を構える偉丈夫。彼の言によれば、遠坂さんは魔術師だったらしい。驚きを顔の下に潜ませる。今は一触即発の場面。どうやらこちらを敵視している男をやすやすと刺激するわけにはいかない。この場で唯一明確な僕の味方、セイバーに目配せする。何かこの状況を打開する一手を打ってくれないだろうか。

 

「キャスター、ねぇ……。お前らが追っていた落第騎士ならまだしも、オレは魔術師風情には負けんぞ。だろ、マスター」

 

 火に油を注ぎやがった。挑発してどうする、僕はこの場を収めたいだけなのに!

 

「……そういうこと。和久津さん。あなたも、魔術師。それならあなたの今までの在り方にも合点がいくわ」

 

 遠坂さんの僕を見る眼が急激に冷えていく。アレは多分相手を敵と見定めた眼だ。僕は魔術師じゃないから見逃して、なんて弁明はもう無理っぽい。こちらの残ってるカードは隣に侍る猪武者とあと一枚。後者を切ることにする。

 

「その通りだよ、遠坂さん。それが判るなら、この屋敷の前にいつまでもいるコトの迂闊さにも当然気付いてるよね」

「……魔術工房か」

 

 この世に生を受けてから、今の今まで磨き続けた嘘つきスキル。幸い魔術に関する知識だけは教わっている。それらしい言葉を言えば、後は彼女が勝手に補完してくれるだろう。

 

「それに、僕のセイバーはアーチャーよりも強い。対魔力だってコッチの方が上。キャスターの分が悪いのは明らかだ」

「……さすがはセイバー、対魔力はAには届かなくてもBか。ステータスも最優のクラスに相応しく高水準ね」

 

 へ~、そうなんだ。苦虫を噛み潰した顔をして僕に情報提供してくれる遠坂さん。どうやら遠坂さんの中では、彼女たちが圧倒的に不利らしい。僕に至っては戦いの内容すら定かではないけれど、もちろんそんなのはおくびにも出さない。彼女を丸め込むために、提案という名の命令を下す。

 

「そこで相談だけど……遠坂さん、今夜は引く気はない?」

「……見逃してくれる、ってワケ? あなたの意図が読めないわ」

「遠坂さんなら判ってくれると思うけど」

 

 遠坂さんに無茶振りする。僕にはサッパリ判りません。心当たりがあるのか、彼女はあっさりと僕の言い訳を用意してくれた。

 

「……召喚直後。それもセイバーだもの、不調なのは当然よね」

「うん、そういうこと」

 

 どういうことだ。……ともかく用意は整った。後は持ち前の口先を使って穏便にお帰りいただこう――――と、考えていたらセイバーが口を挟んできた。

 

「もちろん只で帰すワケじゃねェ。そうだな……令呪一画。オレたちから逃げるために使ってもらおうか」

「……あんまり嘗めないでくれないかしら、セイバー」

「それはコッチの台詞だ。幾らマスターが力を振るえなくとも、他人の陣地にいるキャスターにオレが敗れる道理はない」

 

 遠坂さんの顔色がまた渋くなる。穏便よ、さらば。遠坂さんが自分の右手を見つめる。そこには僕と似たような(しるし)が刻まれていた。ひょっとしてコレが令呪なのだろうか。

 

「……背に腹は変えられない、か。仕方ない、まだ戦争が始まったばかりの段階で教会に保護されるわけにはいかないものね」

 

 ……戦争? 物騒な言葉を呟き、とうとう観念した様子の遠坂さん。右腕を掲げて、屈辱の言葉を告げる。

 

「キャスター。令呪によってあなたのマスターが命じるわ。……わたしを連れて離脱なさい」

「……了解。やっぱりキャスターらしく引き篭もることにするかねェ……」

 

 右手の令呪が光る。そしてキャスターが遠坂さんを抱えたかと思ったら、目にも止まらぬ速さで僕たちから遠のいていく。こうなってはセイバーでも追撃は無理だろう。そして、今や視界の端にいる彼女がこう呟いた気がした。

 

“覚えてなさい、和久津さん。この借りは必ず返すから”

 

 その場しのぎの代償は、憧れの人からの怨恨だ。やっぱり僕は呪われている。




Rebellion against Fate、略してRaF編のスタートです。直訳で運命への叛逆。果たして攻略されるのはセイバーと智ちんのどちらなのでしょう。
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