”暁紅のフィルディア”───彼女が恋を知るお話。



1 / 1
暁紅の恋、追想の光

 辺りの陽も落ち、黄土色の雲が流れる景色から星々の輝き満ちる暗く濃い蒼空に変わる。様々な星々を転々としてきたが、これだけがただ変わらない光景だった。小さく息を吐いたキサラは、管制室の自席から見える夜空から手許の書類に視線を戻す。先程ギガンテス討伐から帰還し、ルティナに相棒と呼ばれている青年が帰還報告と共に持ってきた物だった。

 

 

 第一次調査隊の選抜には艦長及び副艦長、そして第一次調査隊隊長であるフィルディア、其処にオペレーターであるキサラも加わり進めていた。デルタ・ヴァリアントには数多の戦場を生き抜いたベテランから、訓練校を卒業し配属されたばかりの新人まで様々なクルーが搭乗している。目的地である惑星に到着するまで、大抵のクルーはコールドスリープ処置がされている。常時動いている者は管制室に居る艦長等の幹部達、医務室に配属されている者など限られた人数だった。

 

選抜には様々な要因が考慮される。能力、技能、クラス───。経歴も考慮されるが、新人とベテランを組ませる事が定例だった。今回デルタ・ヴァリアントに配属された新人は50名。訓練校での経歴が詳細に記されたデータをデバイスで確認していたフィルディアが、お、と小さく声を零した事にキサラが気付き隣の彼女に視線を送る。

 

「艦長。こいつ、オレの部隊に加えます」

 

真面目な、でも何処か楽しそうな表情で艦長に告げるフィルディアにマグナス達他の三名が各々のデバイスに、フィルディアが告げた新人のデータを開く。成績で言えば訓練校でも中の上ではあるが、別段何かに特化している訳でもなかった。だが、フィルディアはこの新人に何かを感じたのだろう。許可する、との艦長の言葉に腰まで伸びる緩いクセ毛の栗色の髪を揺らし小さくガッツポーズをする彼女に、キサラは口許を緩めていた。

 

 

 デルタ・ヴァリアントが惑星マキアに不時着した後、グランを扱える青年の他にルティナ、セイル、イズナの四名は不時着ポイント周辺の安全確保からギガンテス討伐まで、惑星マキナの第一次調査隊として活動している。彼ら四名は数々のギガンテスを討伐する等、訓練校を出たばかりの新人とは思えない功績を挙げていた。そして四名の中でも特に頭一つ抜けてでいたのが、彼だった。

 

コールドスリープから目覚めた他のクルーが調査に出た際にギガンテス・アグリオスに遭遇。彼らは別件のアグリオス討伐に駆り出されておりフィルディアが動く事になったのだが、キサラから通信を聴いた後直ぐに駆け出した彼が、フィルディアが現場に到着した際にはアグリオスを単騎討伐していたのだ。この一件以来、青年は危険を省みずギガンテスから仲間を救出した英雄的扱いを受けるようになっていった。

 

更に言えば、それ以降フィルディアがより彼を気に入り、頻繁にデートという名の地獄特訓に誘う様になっていった事には少し同情を感じ得ないと、キサラは内心思う。

 

フィルディアとは長い付き合いになるが、彼女は男女問わずに人気だった。言葉遣いや性格は並の男より男らしいが、面倒見は良く容姿も十分に美形な部類に入る。訓練校時代や正式に入隊した当初は何度か男性から食事に誘われたり告白もされたりしてきたらしいが、色恋よりも強くなる事にしか興味が無かったと、何度か酒を飲み交わした時に話していた。更にはダーカー千体斬り等を成し遂げ、”暁紅のフィルディア”と呼ばれる頃には男性は誰も寄り付かなくなってしまったらしい。

 

本人はあまり気に留めていない様子だったが、ああ見えてフィルディアは繊細なところがある。マグナス艦長に後を託され、必死にもがきながら皆の希望であろうと苦悩する姿──だが決して他の前では見せないようにしている彼女を、キサラだけは気付いているのだ。

 

そんなフィルディアが最近は本当に生き生きとしている事に当然気付いているキサラだが、此れはまさかそう言う事なのだろうか、と少し思う事がある。もしそうならば勿論応援するつもりではあるが、恐らく恋敵は少なくはないだろう。

 

 

「キサラー、一杯付き合ってよー…」

 

 

だからこそ、フィルディアが何処か落ち込んだ様な声色で誘ってきた際には不思議と彼絡みだろう、と確信があったのだ。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 果実酒をグラスに注ぎフィルディアに差し出すと、彼女は礼を告げて手に取り互いのグラスを軽く当てる。風鈴のような小さな、でも不愉快ではない硝子音を合図に互いにグラスを口に傾ける。甘く喉を焼く感覚にキサラは小さく息を吐くと、親友に言葉を零させる為に口を開いた。

 

 

「……で、一体どうしたのよフィル」

「んー……………いや、さー……」

 

 

自分でも何処か戸惑っているような、分からないような彼女に、キサラはこれはますます自分の考えが当たっているのではと思案する。何せ本来ならば今日この時間はフィルディアは彼と訓練室でデートをしているはずなのだ。…正確に言えば彼が今日誘ってであろうデートに承諾していれば、なのだが。言葉に詰まるフィルディアも中々に珍しいと思いながらも、キサラは助け船を出すべく言葉を続ける。

 

 

「あなたが今日彼とデートしていない事と関係があるのかしら?」

「─────っ」

 

 

息を呑むフィルディアにキサラはじっと見つめて言葉を待つ。両手で包むように持っていたグラスに黙ったまま視線を向けていたフィルディアだが、一口喉に流し込むとぽつりぽつりと。

 

 

「……今日は先約があるんだと。ほら、この前あいつが助けたクルー居るだろ? あのニューマンの女。一緒に飯食うんだって断られた」

 

 

おかわり、と空のグラスを差し出すフィルディアにキサラは瓶から果実酒を注ぎながら続きを待つ。断られたくらいで此処まで何か考えたりはしないはずだ。

 

 

「別に断られたからへこんでるだとかそんなのはねぇんだ。あいつの都合だし。…でも……今頃二人で飯食ってんだろなー、とか、他の女と過ごしてんのかって考えたら………なんか、もやもやする」

 

 

───ああ、やっぱり。

 

不機嫌そうに顔を顰めて何時もの深紅の鎧の胸部に触れる親友の姿に、キサラはくすりと笑みを零す。笑われたと感じたフィルディアは何で笑うんだ、と抗議するがキサラは笑みを浮かべたままだった。これが微笑まずにいられるだろうか。何故なら───。

 

 

「フィル、今のあなたって彼が自分以外の女性と居るのに嫉妬する恋する乙女よ?」

「───は、はぁあぁあ!!?」

 

 

頬を赤らめ座っていた椅子から立ち上がり狼狽するフィルディアに、やはりキサラは笑うのだった。ああ、まさか。まさか親友のこんな姿が見られるなんて。

 

 

「い、いや!待て待て!オレがあいつに恋!?」

「誰が見たってそう思うわよ。自分の予定蹴って他の女と過ごすのが気に食わないんでしょ?」

「気に食わないって言うか、もやもやするだけだって!」

「だからそれが嫉妬じゃない。…じゃあ、私が今から何個か質問するから正直に答えなさい。いいわね?」

「…あ、ああ」

 

 

「彼が側にいると気持ちが高鳴った事は?」

「………ある」

「知らず知らず彼を目で追っていた事は?」

「…………ある」

「自分以外の女性───そうね、最近ルティナと彼が仲睦まじくしていた時に胸がちくりと痛む様に感じた事は?」

「……………ある」

「彼に隣で支えて欲しいと思った事は?」

「………………ある」

「これが最後。彼の事を考えると胸の辺りが温かく感じた事は?」

「───────ある」

「認めなさい、フィル。完璧な恋の病よ」

 

 

残り少なかった果実酒を飲み干すと、大きく息を吐きながらフィルディアは机に突っ伏す。質問を投げかけたのはキサラ自身だが、まさか此処まで全てに頷くとは思っていなかった。恋が芽生え始めているのでは、とずっと考えていたのだが予想は更に上を行っていたらしく。フィルディアの彼に対する想いは中々に強いものがあった。だが、問題が一つあるとするならば本人がまだ完全に自覚出来ていない事だろうか。こればかりは本人が彼に対して恋している、と実感させなければいけない。

 

 

「でも、あのフィルが彼に、ね……」

「……仮にこれが恋って言うならスタートの時点で勝ち目はないだろ。…あいつにはルティナがいる」

「だからって別に付き合ってる訳じゃないみたいよ? まあ、ルティナは彼の事が好きみたいだけど」

「…………………」

「でも、私はフィルを応援するわよ? フィルがやっと見つけた想いなんだもの。…少しは自分に我が儘になりなさいな」

 

 

 

空になった果実酒のボトルを見やり、キサラは腰掛けていた椅子から立ち上がりボトルが数本並ぶ棚に向かいその中の一体を手に取る。今日くらいは取っておきを出そう。親友の恋心が成就する事を願って。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

───認めなさい。完璧な恋の病よ。

 

 

 先日キサラに言われた台詞が頭から離れず、訓練室にてフィルディアは無心に”明紅”を振るい続ける。艦長の仕事は様々あるが、常に管制室に居なければ駄目だという事はない。逆に非常時以外自分が戦場に出る事も許されない。勿論、それは今デルタ・ヴァリアントが置かれている状況故のせいではあるのだが。

 

自分に艦長は向いていないと常々思っている。やはり自分には明紅を携え戦場を駆け回っている方が肌に合っている。だが、自分は亡きマグナス艦長に艦を、クルー達を託されたのだ。決して希望の光が消えないように、皆の光であり続ける為に。

 

 

「───はぁッ!!」

 

 

縦に、横に、斜めに、そしてグランアーツを織り交ぜた連撃を繰り返す。原生生物やダーカー相手に不覚は取らない。無論、誰が相手だろうと慢心等一切しない。一瞬の油断が戦場では命取りになる事はフィルディアは身を以って経験している事だった。様々な惑星に赴いた際、小型種だからと油断したクルーが何人も死に、入隊当初は倒したと思い気を抜いた隙を狙われあわや死に掛けた事もあった。その一つ一つの経験が、今のフィルディアを形作っていたのだ。

 

一通り振り終え、明紅を下げる。相変わらず気持ちは晴れやかにならなかった。キサラは自分に我が儘になれ、と言っていたが今のフィルディアはデルタ・ヴァリアントの艦長だ。我が儘に等なれる筈がない。それが唯の言い訳に過ぎないという事は、フィルディア自身が良く理解していた。

 

もしも、自分が艦長ではなく隊長のままだったならば───もっと素直になれたのだろうか。調査隊選抜の時、彼に何か惹かれるものがあった。一目惚れなど色恋ではなくこの男は何かをやり遂げる、そんな第六感的な予感があった。結果、自分の勘は正しかった。訓練校を卒業したばかりの新人が、命の危機すら省みず強大なギガンテスに一人立ち向かい仲間を救ってみせた。

 

───とくん、と胸が温かく、高鳴った。

 

この胸の高鳴りと温かさが、フィルディアは嫌いではなかった。むしろとても心地良い。それだけで満足だった。彼が誰を選ぼうと、彼の隣にフィルディア以外の女性が立とうと。この高鳴りと温かさがあれば。そっと瞳を閉じ、フィルディアはゆっくりと息を吐いた。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 ブリッジにルティナ達四名が集められ、キサラから新種のギガンテスが観測されたとの説明がされる。場所は鋼の荒野の奥地。そこで観測された新種のギガンテスを討伐せよ、が新たに四人に与えられた任務だった。何事も無ければ夕暮れまでには帰還出来るであろう、とルティナ達は考えている様子だが、フィルディアは何処か嫌な予感を抱いていた。それに、こういう時の悪い予感は得手せず当たるものだ。フィルディアはブリッジから退出しようとする彼を呼び止める。なんでしょうか、とフィルディアを見つめる彼にう、と小さく零し言葉に詰まる。

 

 

「あー………いや、なんだ。…何でもない。頼むぞ、お前が彼奴らを引っ張ってやれ」

 

 

 了解です、と敬礼し彼は今度こそブリッジを後にする。その後ろ姿を見つめていると、キサラから笑い声が聞こえ振り向いた。

 

 

「さっきからフィルってば顔が赤いわよ?」

「う………う、うるさいな。仕方ねぇだろ」

「いいじゃない。…あ、そうそう。最近のフィルってば何だか可愛くなったって評判よ?知ってた?」

「な、何だよそれ。何でそんな話が出回ってんだ」

「ふふ。恋をすれば女は変わるものよ?」

 

 

ぐっ、と小さく呻き再びフィルディアが頬を朱に染めるとキサラは満足気に自分の席に腰を落とす。こうして親友をからかえる日が来るとは思ってなかっただけに、キサラ自身充実しているのである。だが、フィルディア本人は彼の隣に立とう等とは思っていない様に感じられた。応援はしているとはいえ、フィルディアがそう決めたのならばキサラは深く言うつもりもなかった。

 

 

 

 

 新種のギガンテス───ギガンテス・デェフキュオネと戦う四人をモニターしながら、フィルディアは改めて四人の連携、個々の実力に感嘆の息を落とす。セイルがパルチザンで斬り込み、イズナがライフルで援護、ルティナがウィンドで支援、彼がその場に応じて様々なタイプで陽動。言葉に出さずともそれぞれが互いの意思を理解して行動している。この四人こそ、デルタ・ヴァリアントで最も優れているチームと呼んでも過言ではないだろう。

 

ヘイロウで二重に作った足場からパルチザンを振るうセイルに、ギガンテスの触手が鞭を振るう。触手はセイルに当たる前に彼が振るったソードに弾き飛ばされ、その勢いのまま放ったグランアーツで斬り離された。弱点を突いたのか、デェフキュオネは最弱点であるコアを曝け出し地に倒れる。好機とばかりに四人がコアを集中的に攻撃した。そして力を喪い沈黙したギガンテスにフィルディアは良くやった、と言葉を零した。新種であろうと即座に対応する能力は最早歴戦の戦士たちと何ら変わりはない。今夜は彼奴らに酒の一杯でも労ってやろう、とフィルディアは安堵の息を吐いて艦長席に座り直した。

 

───刹那。

 

 

 

<え、な、なに……!?>

<おいおい、冗談じゃねぇぞ…!!>

 

 

モニターから聞こえた慌てた様子の声にフィルディアは立ち上がりキサラに駆け寄る。

 

 

「どうした、何があった?」

「あの子達が居る場所に新たなギガンテス反応──────さ、三体ですって!?」

「なんだと────!!?」

 

 

モニターを覗き込むと、ルティナ達を示すマーカーの周りを囲む様にギガンテスを表すアイコンが点灯している。…ああ、やはり嫌な予感は当たってしまった。

 

 

「全員、即時撤退しなさい!!」

 

<無理だ、囲まれてる! つか、どっから急に湧いて来やがった!?>

<セイルさん!ミサイル、来ます──!!>

<ちぃッ! うぉおおおおォオオオオ!!>

<セイル!!>

<突っ込むなセイル! 勝てる相手じゃない!>

<だからってこの状況でどうすりゃいい!ギガンテスだけじゃなく、ダーカーまで現れやがった!>

<俺がギガンテスを引きつける、セイルは退路を切り開いてくれ!ルティナ!イズナ!セイルをフォローしてくれ!>

<おまっ、何言ってやがる!三体もいやがるんだぞ!?>

<倒すなんて言ってない、セイル達が離脱出来たら俺も直ぐに離れる!>

<くっ……分かった。待ってろよ、直ぐに道を作ってやるからよ!>

<り、了解です!>

<バディ、私も───!!>

<駄目だ! 大丈夫、死ぬつもりなんてない>

 

 

「キサラ!オレが出る、後は頼む!」

「え、ちょっとフィル───!!」

 

 

 

戸惑うキサラの声を背後にフィルディアは明紅を手にブリッジを飛び出した。そのまま艦を駆け出し、ラボの側にある移動用に試作してあるグランバイクに跨る。グランをエネルギーにして動く長距離移動用にシャロンが製造した大型バイクだが、まだ動かした事がなかった。グラン結晶を埋め込み、バイクは大きな音を立てて稼働する。アクセルを回すと予想以上の速度が飛び出し、直線上にいたクルーが慌てて飛び退いた。悪い、とバイクの駆動音に負けぬ様大声を張り上げ、フィルディアは鋼の荒野に向けて速度を上げて走り抜いた。

 

 

 15分程走り抜いた時、前方から走ってくる三人の人影を確認しフィルディアは直ぐにルティナ達だと気が付く。グランバイクに驚愕するルティナ達だが、それに搭乗していたのがフィルディアだと分かると縋り付くように声を上げた。

 

 

「艦長!お願いします、バディを、バディを助けて───!!」

「落ち着け、通信はオレも聞いてた。……彼奴はお前達を逃してそのままあのギガンテス達相手に戦ってやがるんだな?」

 

 

グランバイクを走らせてから直ぐに現地の通信が途絶えた、とキサラから連絡が入った。恐らくはギガンテスによるジャミングだろう、とも。ジャミングがされる前の観測によると、アグリオス、アグリオスの亜種であるアグリオスP型、そして───恐らくはアグリオスの上位種であるだろう新型。ジャミングを放っているのはこの個体だと思われる、と。

 

 

「退路を切り開いた時にアグリオスの砲撃で岩が崩れてきて、あの人が取り残されたんです」

「あいつが折角引きつけてくれていたってのに、仲間を置いて逃げるなんて……艦長、お願いします!あいつを、あいつを助けてやってください!!」

「……お願いします、バディを……!」

「…ああ。オレに任せとけ。必ずあいつを助け出してやる」

 

 

お願いします、と再度懇願する三人に頷いてフィルディアはグランバイクをアクセルを回した。

 

 

 それから直ぐ、アグリオスが放っているだろう爆撃の音が聞こえてくる。その音にフィルディアは一先ずは安堵した。まだ、彼奴は生きて戦っている。最悪の事態だけは免れたのだと。そして、イズナが言っていた砲撃により道が塞がれている箇所が視界に映る。フィルディアの身長を何倍もあるであろう高さまで、崩れた岩が積み重なっておりバイクはおろか跳躍でどうにかなりそうにない。

 

ならば、とフィルディアは持ってきたグラン結晶を投入口に入れてバイクの出力を上げた。崩れた岩から15m程離れた場所にある段差に向けて速度を更に上げる。段差に乗り上げ機体が地面から浮いた瞬間、フィルディアはバイクを傾け機体を浮かす。そして激突する寸前に機体を足場に跳躍した。 激突による爆風はフィルディアの身体を更に上へと昇らせる。瓦礫の山を乗り越えた時、三体のギガンテスと攻撃から逃げ回る彼の姿を視界に収め───フィルディアは満面の笑みを浮かべた。

 

 

─────よく持ち堪えた!

 

 

着地に前転して受け身を取り、明紅を構え駆け出した。

 

 

「はぁあぁあああぁあァァアアァァアアアアアア──────!!!!」

 

 

 

ファングラッシュで距離を詰め、アグリオスが飛ばしたミサイルを明紅の腹で打ち払い、彼に向かっていた軌道を変える。ミサイルは標的から離れた地に落ち爆発する。艦長、と言う彼の驚愕した声を聞きフィルディアは心から安堵した。

 

──ああ、生きている。生きているんだな。

 

身体中至る所に傷を負いながらも必死に生き延びようと足掻いていた彼にフィルディアは笑みを浮かべる。

 

 

「色々とお前には言いたい事があるが、それは無事に帰ってからだ。まずはここから離脱するぞ!」

 

 

どれだけ傷を負おうとも、彼だけは何があろうと連れ帰ってみせる。”フィルディアと約束”をしたルティナ達の為にも、”ルティナ達と約束”をした彼の為にも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 満身創痍になりながらも、何とか戦線を離脱する事が出来たフィルディアと青年はデルタ・ヴァリアントに帰還する事が出来た。ゲート前でずっと待っていたのであろうルティナ達とリーティアにより、彼は直ぐ様医務室へと運ばれていった。落ち着いた後に見舞いに行ってるかと思うフィルディアだが、脳裏にはあの時相対していたギガンテスの姿が焼き付いていた。

 

倒せど倒せど、姿を表すギガンテス。明らかに人工的に製造されたあの兵器は一体何処から、あとどれくらい斃し続ければ良いのだろうか。未だに惑星マキアから脱出する目処も経っておらず、このまま延々と狩り続けている訳にもいかない。クルー達もままならない状況に限界が近付いているのが分かる。だが、フィルディアは決して希望を捨てる事はない。皆の希望であり続ける為にも、前を向いていかなければならないのだから。

 

 

 

 

「───フィル」

 

 

管制室に戻ると、気付いたキサラが立ち上がり声を掛ける。ああ、と片手を上げてフィルディアは艦長席に腰を落とした。

 

 

「無事で良かった。あなたも、彼も」

「ああ。本当に、良く生きていてくれた」

 

 

三体のギガンテスを同時に相手取る等、それがフィルディアだったとしても無事の保障はない。寧ろかなり厳しいだろう。そんな中、手持ちのモノメイトやスケープドール等を全て使い切りながら生き延びてくれていた。

 

 

「彼は医務室?」

「ああ。リーティアに連れられて直行だ。暫くは医務室泊まりになるだろうな」

 

 

肉体治癒とメンタル治癒。臓器等の精密検査も行う様にフィルディアはリーティアに指示していた。それは青年だけではなく、ルティナ達三人にもだ。

 

 

「グランを巧く扱え、かつ対ギガンテスに特化しているのは現状オレとあいつらしかいない。コールドスリープから何人かを目覚めさせ、戦力向上を図りたいが、今はまだグランエナジーが足りない。だから、オレはまたあいつらに出撃命令を出さなきゃいけない───なあ、キサラ。やっぱりオレに艦長は向いてないよ」

 

 

デルタ・ヴァリアントはアークスに所属する軍事集団である。だから、過酷な任務になってもそこは致し方ない。クルー達、無論フィルディアを含め理解はしている。だが、いざフィルディア自身が過酷な命令を出す立場となった時に改めて実感したのだ。艦長という役職は何て重いのだろうか、と。

 

 

「───でも、オレはやる。オレを信じて艦を、クルー達を託してくれたマグナス艦長の為にも。散っていった全ての仲間の為にも。オレはもう───誰一人欠かさない」

 

 

言葉を掛けようとしたキサラを遮り、フィルディアは告げる。その言葉を聞いたキサラの表情を見て、フィルディアは苦笑した。

 

 

「そんな顔するなよ。キサラも頼むぜ、お前を一番頼りにしてるんだ」

「…………もちろん。親友じゃない、ずっとあなたを支え続けるわ」

「…ありがとう。さて、やる事は山積みだ。まずはあの新種のギガンテスだが───」

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 キサラとギガンテスの詳細について詰めた後遅めの夕食を済ませシャワーで汗を流すと、既に皆が寝静まっている時間だった。今日はもう見舞いに行っても青年も寝ているだろう。聞いた話によると火傷や打ち身、切り傷等様々であるが大怪我はしておらず、二、三日の安静で経過を診るらしい。時間的に話は出来なくとも一目見るだけ足を運んでみようか。フィルディアは何時もの真紅を見に纏い部屋を後にした。

 

コールドスリープルームにも医療施設はあるが、医務室と銘打たれている場所は他に存在する。艦内エレベーターで医務室があるフロアに降り足を進めた。今ではあまり怪我をする事もなくなったが入隊当初はよく怪我をし世話になったものだ、とフィルディアは当時を回想し口許を緩める。未だ未だ荒削りな───だからこそ、今のルティナが昔の自分と被るのだ。

 

医務室の扉を開けて中に入ると、誰もいないだろうと思っていた受付にリーティアの姿がありフィルディアは驚愕した。

 

 

「リーティア、寝てないのか?」

「あ、艦長。…はい、メディカルスタッフですから。ですが、ちゃんと交代でお休みは頂いていますのでご心配なくです。艦長は彼のお見舞いですか?」

「…ああ。もう寝てるだろうが、一目顔だけでも見ようと思ってな」

 

 

ご案内します、とリーティアの先導にフィルディアは続く。医務室は大部屋と個室と別れているのはオラクルにある病院と何ら変わりない。医療機器も様々揃えている上、大病を患った際や大怪我をした場合に手術出来る医師も常駐している。職業柄、医務室を利用するクルーは多い。またその中でもリーティアを目的に会いに来る者まで居るらしいのだが。

 

リーティアはある個室に前で立ち止まる。扉の隣にあるネームプレートには彼の名前が書かれていた。それでは、と受付に戻る彼女に礼を言いフィルディアはそっと部屋へ身体を滑り込ませた。

 

 患者用に配布されている服に着替えベッドに休む青年の隣の椅子に、フィルディアはそっと腰を落として彼の寝顔を見つめた。その顔の右頰には処置をしたであろうガーゼが貼られている。恐らくは身体にも同じ様な箇所があるのだろうと思い至り、フィルディアはゆっくりと息を吐く。そしてベッドに片手を置き彼に語りかけるように呟いた。

 

 

「……お前に言いたい事は山程ある。だがまずは礼を言わせてくれ。──ありがとう。仲間を救ってくれて、本当に感謝してる」

 

起こさぬようフィルディアは小声で言葉を零す。勿論、後日彼が起きてから直接告げるつもりではあるが、彼の顔を見ていると言わずにはいられなかったのだ。

 

 

「───お前、いつもセイルに自分の分のモノメイトやディメイトを渡していたそうだな。確かにセイルは猪突猛進でダメージなど気にしない性質ではあるが……それで今日みたいな時があれば、その時はお前が死ぬかも知れないんだぞ?」

 

 

この事をフィルディアが知ったのは今日である。夕食を取る前にルティナと話す機会があり、その時に彼女から告げられたのだ。セイルの戦い方を否定はしないし、勿論怒るつもりもない。仲間を信じているからこそ今も続けているやり方だろう。

 

 

「お前の実力は最早新入りのレベルを超えている。…実力だけじゃない。お前の周りには不思議と人が集まってくる。お前は絶望に満ちたこの状況下で、他のヤツらに希望を抱かせられる存在なんだ。オレの見込みに、間違いはなかった」

 

 

ルティナ、セイル、イズナを筆頭に、ヨミ、カリスト、ヒュペリオン───様々なクルーが彼を信頼し慕っている様子は、フィルディアも気付いていた。無論、自身も彼には信を置いている。

 

 

「…艦長にはな、オレよりお前みたいなヤツが良いんだよ。オレだって柄じゃないのは百も承知だ。でもオレはマグナス艦長から託された皆の希望なんだ。”暁紅のフィルディア”って希望にならなきゃ駄目なんだ。……弱音を吐くつもりなんてない。でも、こうしてお前が倒れた姿を見て改めて実感するんだ。…ああ、何て重圧だって」

 

 

フィルディアは彼の顔から視線を床に落とす。一度溢れ出した言葉は止まらない。彼女自身、絶対にキサラ以外の前でこんな姿を見せるつもりはなかった。なのに。

 

 

「……オレはこれ以上クルーを喪うのが怖い。オレの命令で死んで逝くヤツの姿なんて見たくない。こんな事は艦長として軍人として失格だ。でも……怖いんだ。オレは───仲間を、お前を喪う事が怖くてたまらない」

 

 

それがフィルディアの偽らざる本音。百戦錬磨、一騎当千等と謳われた”暁紅”は人一倍繊細だった。今だって気を抜けば涙が溢れそうになってしまうのを、震えそうになるのをフィルディアは堪えている。

 

そんなフィルディアの手を──暖かな感触が包み込んだ。はっとしてフィルディアが顔を上げると、ベッドに置かれた彼女の手を包むように上から重ねる青年の手があった。

 

 

「お、おまっ、い、いつから起きて───ッ!!?」

 

 

少し前からです、と困ったように告げる彼にフィルディアは顔が熱くなるのを感じた。聞かれた、全部聞かれてしまった。よりにもよって彼に。恥ずかしさとショックで慌てふためくフィルディアに、青年は言葉を零す。

 

 

──例え俺が艦長の命令で死ぬ事になろうとも、それは自分のせいでありあなたが背負う必要はありません。

 

 

勿論死ぬつもりはありませんが、と青年が告げた言葉にフィルディアは息を呑んで彼の顔を見つめる。

 

 

──俺は死ぬつもりはありません。俺の事であなたに重荷を背負わせるつもりもありません。仲間を救いたい、必ず生きて帰らせる気持ちは俺も同じです。だから。

 

 

──あなたが独りで背負う重荷を、一緒に背負っていきたい。艦長だって、俺の大切な仲間なんですから。

 

 

フィルディアを見つめる彼の瞳が見開かれ、狼狽する。そんな彼の様子を見つめていた彼女は、差し出されたハンカチで自分が涙を流している事に気が付いた。それからはフィルディアが狼狽する番だった。彼に背を向け、渡されたハンカチで涙を拭う。

 

ああ、駄目だ。今日はもう色々と駄目だ。

 

 

「……そんな事は、早く怪我を治してから言えっての」

 

 

すみません、と謝る彼に小さく深呼吸をしてフィルディアは向き合う。

 

 

「ま、暫くはあの新種について調べるみたいだから、今はゆっくり休め。……また明日、見舞いにくる。……悪かったな。それと

 

──────ありがとう」

 

 

青年の返事を待たず、フィルディアは病室を後にする。病室から少し離れた時、壁に背を預けて静かに目を閉じる。静まり返ったロビーにはただフィルディアの息遣いだけが耳に聞こえていた。

 

本当に嬉しかった。彼の言葉が、思いが感じられて知らずに涙を零してしまった。そっと胸に手を当てると高鳴りと、暖かさを感じる。彼の言葉一つでこうも気持ちは変わるというのか。

 

 

───認めなさい。完璧な恋の病よ。

 

 

「ああ、認めるさ。オレは───あいつに恋してる」

 

 

彼の隣に立って、彼を支えたい。

彼が隣に立って、自身を支えて欲しい。

彼と共に時を過ごしていたい。

 

自覚して仕舞えば感情が一気に溢れそうになってしまう。だがそれにも何処か心地良さを覚えているのだ。ああ、これが人に恋をするという事なのか。

 

重荷を背負うと言ってくれるのならば、彼を照らせる光となろう。どんな暗闇でも迷う事のない希望となろう。閉じていた瞳を開ける。フィルディアの目にはもう迷いはなかった。

 

壁から背を離し、歩みを進める。

その足取りは、不思議と軽かった。

 

 

 

 

 

 

 




中学生時代、ゲームキューブのファンタシースターオンラインに触れたのが私のPSOシリーズの始まりでした。

暫くシリーズは触れたいなかったのですが、最近になりVitaでファンタシースターノヴァという作品が出ている事を知り購入。最近はハマりこんでおります。


そんな中、フィルディアというキャラクターに惚れ込みました。そしてフィルディアの小説が読みたいと様々なサイト様を探しましたが見当たらず。


───ないなら書けばいいじゃない!


と思い至り書かせていただきました。


ノヴァではプレイヤーキャラクターが自分で作成出来る為に、男、一人称俺、以外に名前と種族も指定しておりません。私的にはヒューマンという感じに書かせてはいただきました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。