この作品は、なのは・Dies irae ニワカ知識持ちによる作品です。ニワカは嫌だ、という方はバックor我慢をお願いします。
あと、オリジナル設定もあったりなかったりするので、その辺もお願いします。
ちなみにガールズラブタグは念のため。
さぁ私はどこまでザミエル卿っぽく書けるのか。
東方守護執事との掛け持ち。とりあえず目下目標は失踪しないこと!
プロローグの1
気が付けばそこは暗闇の世界だった。
目を開けようにも開かない。
口をきこうにもうまく動かない。
耳から伝達される音情報はただただ何かが流れるようなものばかり。いや、かすかに人の声のような物も聞こえはするが、くぐもっているというか、かすれ過ぎてうまく聞こえない。
肌で感じられるのは暖かい何か。もごもごと軽く
なんだこれは。よく分からないが何かの中にいるらしい。
窮屈なほど狭い場所だ。袋に詰められているとかそういうわけじゃないらしいが、とにかく狭い。
ぶち破って出てしまおうと腕に力を込めて見るものの、まるで麻痺しているかのように力が入らない。せいぜいその“壁”に触れる程度でしかない。
急にどこかへ身体が引っ張られた。
感覚的に頭の方に引っ張る何かがいる(ある?)らしい。
抵抗してみようかとも考えたがやめた。嘆かわしい話だが、どうも自力では出れなさそうだ。状況判断のためにも、引っ張られてみようじゃないか。
今度は今までにないほどに強く引っ張られた。
瞬間、急に閉じた目に
と、唐突に声が出た。泣き声だ。
誰のものだと思ってみれば、なんと自分から出ているらしい。己の意思に関係なく、勝手に口が泣き叫ぶ。止めようと思っても止まらない。まるで撃鉄の落とされた銃のように、歯止めのきかない泣き声が腹の底から流れて止まらない。
なんだこれは。ますます訳が分からない。
そんな中でも、肌に感じる感覚が変わったのを感じた。空気だ。素の空気が肌に触れている。そのほかにも何かが触れている感覚がするが、それが何かは分からない。
唐突に、勝手に意識が落ちていくのを感じた。
分からない。さっぱりわからない。
とりあえず包まれていた何かからは脱したようだが、結局どういう状況なのか分からない。
ただ一度だけ。
意識の落ちるほんの一瞬。聴覚が鮮明にそれを捉えた。
「――おめでとうございますっ、女の子です!!」
瞬間。
彼女、エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグの意識は闇の底へと消えた。
* * *
――なんだこれは。
とある日の早朝。エレオノーレはこの三年間で何度目かの不毛な自問を、心の内で行った。
さっぱり訳が分からない。どうしてこうなった。エレオノーレは鏡の前に立った
エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグ。
かつて聖槍十三騎士団黒円卓第九位大隊長、通称三騎士と言われる三人の内、赤騎士を賜り、ラインハルト・ハイドリヒのために身も心も彼への忠に捧げた彼女は、気が付けば赤子だった。
何を言っているのか分からないと思うが、彼女自身も何が何だか分からなかった。あそこまで頭がどうにかなりそうになったのは初めてだ。若返ったとか頭がおかしくなったとかそんなチャチなものでは断じてない。どう考えてももっと大きな力によるものだ。
あの
がしっ、と立て鏡のふちを掴み、映る自分の姿をガン見する。手がワナワナと震えていた。
――なんだこれは……ッ!?
そこに映るは一人の幼児。
名は高町なのは。
真紅であった髪は栗色に変貌し、顔の半分どころか全身の左半分を覆っていた火傷の跡も存在しない。名前と顔つきからして完全に日本人だろう。ドイツと手を結びながら敗戦した国の住人だ。もっとも今となっては自分もその一員なのだろうが。
漆黒の軍服など欠片もなく、それを纏っていた身体も、かつての身体の腰よりも下だ。鍛え上げた身体の面影もない。というより、かつての自分の今の年頃よりも劣化している気がする。
ベイの言う劣等人種とやらに成り下がったことに対しての嘆きなど今更ありはしない――というより嘆いても仕方がないと開き直った――が、それでも内から湧き上がる感情を抑えることは出来ない。
今の彼女は三歳だ。
だが意識があったのは生後二、三日から。
頭を打ちつけてしまいたくなるほどの屈辱・恥辱が
ベアトリス・キルヒアイゼンやリザ・ブレンナー辺りが見たら、それはもうムカつく面を下げて爆笑してくれやがる様が目に映るようだ。
「ぐぬぬぬ……」
そんな様を想像したら腹が立ってきた。思わず力を込めた手により、立て鏡のふちがぴきっ、と軽く音を立てた。見れば小さく
なのはは鏡の前を後にして、自室の窓際にあるベッドの上に乗り腰を下ろす。その瞬間に目に入った鏡に、どっかと腰を下ろしたせいで一瞬舞い上がったスカートの内にくまさんパンツが見えて頭を抱えた。
ちなみに、彼女は好き好んでスカートを(もちろんくまさんパンツも)穿いている訳ではない。親の用意した下半身の服がスカートの類ばかり、否、スカートしかないのである。あるのならばズボンの類を穿いているだろう。いや、穿きたい。こんなヒラヒラした布きれでは落ち着かない。自分はルサルカ・シュヴェーゲリンではないのだ。
なのはは一つ、深いため息をついた。
このふざけた現実に打ちのめされて三年。意味もないことをうじうじと悩み続けて三年。ハイドリヒ卿に会えずして三年。一千万年かと錯覚するほどにこの三年間は長かった。
母乳からは解放されたし、ある程度喋れるようになり、自分で歩けるようになればさすがに屈辱的な日々からは脱することが出来た。
正直甘く見ていたとしか言いようがない。
自分はかつて黒円卓に身を置いていた魔人の一人だ。喋ることも歩くこともすぐに出来ると思っていた。が、現実は氷河期よりも厳しかった。
言葉を話せるようになったのは二歳直前だし、歩けるようになったのは二歳になってから数日ほど経ってから。
世の子供事情には興味などなかったから疎かったが、少なくとも歩けるようになった時期に関しては、先日目にしたテレビによる情報だとかなり遅い方なのではないだろうか。
(というよりこの身体、随分と使い勝手が悪い……)
運動神経が悪い。言ってしまえば一言だが、この身体がかつての物ではないという何よりの証拠だ。
それはすなわち、下手したらこの身が朽ちるまでハイドリヒ卿に会えずじまいとなるやもしれないということだ。
故に一度、否、一瞬自殺してしまおうかとも考えたが、すぐに振り払った。
もしメルクリウスの仕業だったとしたら負けた気がするし、それ以外の何かだったとしたら――まぁ、決まり切っている。
「はぁ……」
らしくない、とは思いつつも、なのはは再びため息をついた。
これから、いや、これからもこの身で何年か、下手すれば何十年、何百年生きなければならない。聖遺物はあるようだが、成長している辺り不老は効いていないのかもしれない。出せるかどうかも試そうかと思ったが、さすがに自重した。周りに気づかれる可能性は避けたい。どれだけこのまま過ごすのかもわからないのだ。
「なのはー、ご飯よー」
二階である自室に、階下から母の声が届いた。
時計を見てみれば、いつの間にか朝食の時間。早朝から唸っていればいつの間にか一時間も経っていたようだ。
「一難去ってまた一難、ということわざが
ベッドから降り、ドアノブをジャンプして掴み下ろして部屋を後にする。
そう。今日から再び屈辱的な日々が始まる。
――幼稚園と言う名の。