魔砲少女リリカル☆ザミエル   作:結城勇気

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プロローグの2

 幼稚園という屈辱的な生活を乗り越え、なのはも今や小学一年生も後半。あの三年などとは比較できないほどに、苦しい三年だった。再び自殺を考慮の内にいれんとするほどに。

 

 歌を歌い、本を読んで、折り紙で遊び、積み木で遊んで、女子の積み木を崩して泣かせた男子をうるさいからと張り倒して泣かせ、喧嘩両成敗で先生に怒られ、昼寝する。給食とやらも食べた。先日家族で外食した際に食べたお子様ランチを食べてるみたいでムカついた。

 

 運動会やらお遊戯会やらにも参加させられた。

 

 前者は面倒な事態を防ぐために、自分の身体能力を極限まで、それはもう幼稚園クラスにまで抑えたうえで競争型は全て一位を取った――とりあえず一位以外は身体が拒否した――。

 

 後者は何故か王子役をやらされた。やった話は白雪姫だったか。ドイツのとある地方の民話だったはずだ。が、どうにも今回やる白雪姫は、なのはの知るものとは少しばかり違った。

 

 まず白雪姫の蘇生法が違う。なのはの知る白雪姫は、王子の家来が彼女の棺を担いで運んでいる途中、蹴躓(けつまづ)く。その衝撃で毒りんごを吐き出し生き返るという物だったのだが、このお遊戯会での白雪姫は王子によるキスで生き返るらしい。

 

 何とも女子供の好き好みそうな話だ、となのはは思っていたが、いざ配役が決まれば白雪姫にキスする王子。なんだそれはと異を唱えようとしたが、周りが予想外にも賛同しだしてタイミングを逃し、完全に流され配役決定。白雪姫の役は誰がやるという話になり女子による取り合いになった。

 

 そして本番……一言でいうならば、家族やら幼稚園の同級生やらで全なのはが泣いた。主に恥辱的な意味で(ちなみに本当にキスはせず“もどき”で終わった。白雪姫役の女子は残念がっていたが)。

 

 そんな日々を三年――歌を歌い、本を読んで、折り紙で遊び、積み木で遊んで、女子の積み木を――(後の二年間のお遊戯会全て王子役だったこと以外)以下省略――。

 

 ちなみに、幼稚園の途中、父親の高町士郎が仕事柄(ボディガード)によるケガで入院していたらしい。が、今の生活で余裕のなかった彼女は、まったく気が付かなかった。家が騒がしいとは思っていたし、最近(一応の)家族に会わないと頭の片隅で思ってはいたが。

 

 この三年間で十回ほど自殺を考えたが、メルクリウスが犯人だったら負けたことになると何とか生き延びる。そしてまた幼稚園(地獄の戦場)へ……。“城”よりも過酷な世界だと理解したのは卒園式前日だったか。

 

 ようやくこの地獄世界・恥辱の剣(幼稚園)から解放される。そんな思いから思わず、歌いながら落涙してしまったのを覚えている。周りの同級生からは何故か感動されていたがよく分からない。

 

 

 

 

 

 そして――今に至る。

 

 

 

 

 

 今やなのは(エレオノーレ)は小学一年生。それも後半。

 

 私立聖祥大付属小学校。なのはの住む海鳴市の中でも名門に入るらしい学校だ。とりあえず入学試験は平均一〇〇点で合格しておいた。制服は気に食わなかった。

 

 そうして何度かいざこざに巻き込まれつつも――今に至る。

 

 そう、今に至る。

 

(なぜこうもいちいち巻き込まれる……)

 

 なのはは心の中で嘆息した。

 

 そしてどうしたものか、と目の前の男達を一瞥して思考する。

 

 なのはは手錠と縄で拘束されていた(・・・・・・・・・・・・)

 

 隣には(彼女たち自称)友人である金髪と紫髪の少女たち。どちらも美少女と言える容貌の持ち主で、なのはと同じ聖祥大付属小学校の制服を着ている。

 

 前述したいざこざの一つによって出来た(彼女たち自称)友達だ。

 

 簡単に言えば、いじめっ子だったアリサといじめられっ子だったすずか。二人が何やら中庭でやっている中、なのはがそろそろ教室に戻ろうかと中庭を横切ろうとしたら二人がいた。

 

 どうもアリサが、すずかのヘアバンドを取っていじめているらしい。

 

 正直どうでもよかったが、非常に邪魔だったので――

 

『通行の邪魔だ、そこをどけ』

 

 と、アリサを張り倒した。

 

 その際たまたま手を放したヘアバンドがすずかの手に戻り、そのまま去っていくなのはの姿がどう見えたのか、なにやら懐かれてしまった。

 

 当然、アリサはアリサでなのはに食って掛かってきたが、適当にいなしているとすずかが乱入。何故かなのはを巻き込んでの大喧嘩になった。結果、ケンカ両成敗。先生に怒られた。なのははデジャビュを感じた。

 

 その後和解したアリサとすずか、共になのはに懐いたのかなんなのか。気が付けばいつも三人一緒だった。

 

 そう、三人一緒だった――誘拐されるのも。

 

 どうやらすずかとアリサはどこぞのお嬢様だったらしい。月村家とバニングス家。なのはは知らなかったのだが、海鳴では結構有名な家らしい。いわゆる身代金要求が目的だろう。あさましい連中だ、となのはは思う。

 

 そして同時に、油断していた――となのはは先ほどの自分に怒りを覚えた。

 

 エレオノーレ・フォン・ヴィッテンブルグの聖遺物、極大火砲・狩猟の魔王(デア・フライシュッツェ・ザミエル)、すなわち、かのドーラ列車砲は、高町なのはの身になっても存在している。故にエイヴィヒカイトも共にあり、事実、魔人としての身体能力はある。

 

 だがどうも霊的装甲は弱まっている、もしくは消失しているらしい。あろうことかスタンガンで気絶させられてしまった。

 

 目を覚ましたのは今さっきだ。アリサの騒ぐ声で意識が起こされた。目を覚まして見ればこの状況だ。手錠と縄で拘束されたなのはとアリサ、すずか。目の前には数人の男達。顔は金髪の男一人以外は、覆面により隠されている。

 

 あえて言うと、制圧、というより殲滅は余裕だ。

 

 手錠も縄も少し力を入れれば引きちぎれるし、動かずとも、列車砲に随行していた兵団の持つ兵器を召喚し運用すれば一瞬で終わる事だろう。が、後の事を考えるとあまり得策ではないと言える。

 

 人間とは窺知し難いものを嫌い距離を置く。

 

 黒円卓に身を置いていた頃と違って、人間関係を全く気にしないという訳にはいかない今、それは正直かなり面倒だ。ベタな話だが、人体実験を行おうと狙ってくる(やから)も出てこないとも限らない。

 

 我ながら弱気なものだ、となのはは毒づく。

 

 だが、少なくとも成人するまでは気にせざるを得ないのが現状だ。前世よりも弱体化しているのは明らかだし、現代兵器も通用してしまう。今回のようなこともある。不死の英雄(エインフェリア)ではない今、バラすわけにはいかない。

 

 故に、どうするべきか。

 

「んで、これからそうするんですかいダンナ。あんたのお目当ては月村の御嬢ちゃんだけだったみてぇだが、二人余計なのが付いてきちまった。片方はバニングス家のお嬢様らしいから、身代金要求してもいいとは思いますが――」

「もう一人は放っておけ。高町を相手にするのは私としても得策ではない。あそこの連中は人間の中でも最強クラスの存在だからな」

 

 なるほど、となのはは思う。

 

 覆面をしていないあたりから、リーダーは顔を隠していない金髪の男だろうと思っていたが当たりだったらしい。

 

 その上狙いは月村すずか――。

 

(同族か、それを狩る者か……)

 

 すなわち、月村すずかの正体を知る者。

 

 なのは自身、すずかが人間とは違う、ハーフかクォーターかは判別できなかったが、純粋な人間ではない事に気づいていた。

 

 身体能力もそうだが、何より気配が違う。長年の経験、なによりヴィルヘルム(黒円卓の吸血鬼)聖遺物()と似通った匂い。

 

「吸血鬼――か」

 

 ギョッとした目ですずかがこちらへ目を向けた。同時に金髪の男も、ほぅ、と興味深げにこちらを見る。一人アリサだけ、訳も分からずなのはへ目を向けている。

 

「高町の娘は知っていたのか?」

「当たりをつけていただけだ。知り合いの(自称)吸血鬼と似た匂いがしたものでな」

 

 なのはは金髪の男へ目を向ける。

 

「貴様からも似た匂いがする――迎えにでも来たか」

「その通り」

 

 金髪の男は楽しげに笑った。まるで新しいおもちゃを貰った子供の様な笑顔だ。

 

「なるほど、君も君で普通の人間の子供とは違うようだ。成長が速いのか、高町家に何かあるのか、はたまた別の要因か。どれでもいいが……面白い」

 

 ならば一つ問おう、と金髪の男は言う。

「何故君は彼女(すずか)と共にいる? 人は理解しえない、いわゆる化け物からは距離を置く生き物だろう」

「すずかは化け物なんかじゃ――!」

「無知な子供は黙っていろ」

 

 その血のように赤い瞳を向けた瞬間、アリサは小さく悲鳴を上げて押し黙った。気が強くても所詮は子供、恐ろしいものには恐怖する。

 

「どうなんだ、高町のお嬢さん」

「愚問だな、そんなことも分からんか」

 

 なのはは、ふんと鼻を鳴らし、つまらそうにすずかへ目をやる。

 

「恐れるに値しないからだ」

「ほぅ?」

「恐れるに値せず、恐怖の対象にもなりえない。そもそも、私が恐れ畏れ、(ひざまず)く相手は一人しかいない」

 

 黄金の獣、つまり……ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒのみ。

 

「つまりは貴様もだよ、名も知らぬ吸血鬼。恐れるに値しない。どうせ下らぬ理想を描いての行動だろうが、劣等が何をしようが所詮は劣等。考えることが浅ましすぎて失笑しか出んよまったく」

 

 バカはバカでも、これならキルヒアイゼンの方が一千万倍マシだな、となのはは言う。

 

 と、今更ながら喋りすぎたか、と後悔する。どう考えても子供らしくない。多少なりとも面倒事は覚悟しなければならないかもしれない。

 

 ふと金髪の男を見ると、肩を震わせていた。怒っている訳ではない、笑っている。

 

「嘘偽りなくまさしく恐れていないという訳か。ククっ、なるほど。まったく恐怖が見えん。君のような子供が存在したとは。高町を恐れるべきか、それとも君を――どちらでもいいが面白い、面白い!」

 

 近づいてきた彼は、ガシッ、となのはの首を鷲掴みそのまま持ち上げた。二人の悲鳴が聞こえた。が、なのはは動じない。

 

「前言撤回だ。高町にも身代金要求でもなんでもすればいい。ただし、その時は彼女のあられもない姿を同封してもらうがね」

高町(うち)は怖いんじゃなかったのか?」

「怖いさ。だが個人的興味が勝った。それだけだ」

 

 ふん、となのはは笑う。男は訝しげになのはを見た。

 

 

 

 

 

 

「だから浅ましいと言った。ここまで接近されて気づけん時点で貴様は負けている」

 

 

 

 

 

 

 瞬間、なのは達三人の意識が落ちて行った。

 

 

      *  *  *

 

 

 目を覚ますと、母親・桃子の顔がまず目に入った。嬉しそうに抱きしめられた。

 

 誘拐犯は、父親の士郎、兄の恭也が打ち倒し警察に引き渡したようだ。吸血鬼は命ごと刈り取ったようだが。ただの人間なのに相変わらずだ、となのはは思った。自分たちの意識を刈り取ったのも、未だ幼いなのは達に血を見せないためだろう。

 

 数日後、月村家で話を聞いたところによると、思った通りすずか達は人間ではない、というより吸血鬼の一族らしい。とはいえ不老不死ではないらしく、長命(二百年以上は生きるらしい)なだけだとか。しかし血を飲まないと長生きは出来ないようだ。特に異性の。

 

 そして、正体がばれた場合、記憶を消す――夜の一族(吸血鬼)であるという記憶のみ――か、秘密を共有し生涯を連れ添う関係となるか。

 

 どちらかを選んでほしい、とすずかの姉である忍は言った。

 

 なのはとアリサは後者を即答した。

 

 なのはとしてはどちらでも良かったのだが、記憶をいじられるのは良い気がしないし、何より前者を選ぶとアリサがうるさそうな気がした。そんな本音を読むことは出来なかったのか、すずかは笑顔で抱きついてきた。ますます懐かれた気がするのは気のせいではない。

 

 その後、何故か唐突に開かれたお茶会で、なのははそれとなくすずか達に聞いてみた。もちろん自分についてだ。すると、

 

「「なのは(ちゃん)が子供っぽくないのは最初から」」

 

 と笑って返されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ――あっという間に一年生としての生活が終わり、二年生になり三年生になった。

 

 気が付けばなのはも八歳。今日は小学三年生の始業式。

 

 なのはの、出会いと再会と事件の一年が始まった。

 

 

 

 

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