魔砲少女リリカル☆ザミエル   作:結城勇気

4 / 7
第二話「協力・共闘・同盟」

 パトカーのサイレンが夜の海鳴に鳴り響く。

 

 後からユーノに聞いた話だが、あの場には封時結界という空間を切り取って周囲の時間軸からずらす、すなわち結界を解いた後は何事もなかった状態になる魔法が使われていたらしい。……のだが、完全な結界を張るにはユーノ自身の魔力が十分ではなかったようで、一部を除いてあの戦闘痕は綺麗に残ってしまった。

 

 パトカーが出たのも、おそらく戦闘中の爆音なりなんなりも漏れてしまったのだろう。見事に先ほどの戦場、槙原動物病院付近へと向かっている。

 

 そんな戦場にいた、平凡な小学三年生こと高町なのはは、公園のベンチに腰掛けていた。

 

 屈辱に(まみ)れ崩れ落ちた彼女だったが、腐っても黒円卓の大隊長。パトカーのサイレンを耳にした瞬間に我に返り、ジュエルシードをレイジングハートに格納して早々に立ち去ってきた。

 

 しかし、そんな彼女にしてはらしくもなく、その顔には疲労の色が見て取れる。

 

「あのぅ……大丈夫?」

 

 俯くなのはの隣にうずくまるフェレット、ユーノ・スクライアの言葉に、なのはは小さく頷いた。

 

「……問題ない。今これでは、先が思いやられる」

 

 ゆっくりと身を起こし、頬を数回叩いて前を向く。視線の先にある、公園内の湖で魚が一匹はねたのが見えた。

 

 防護服――バリアジャケットと言うらしい――の問題は、黒円卓の者たちが身に着ける漆黒の軍服を再現することで解決した。“リリカルマジカル”などという、魔法少女じみたバカバカしい呪文も……納得はできないが割り切ることは出来る。いちいち細かい事で立ち止まるほど、なのはは弱い女ではなかった。

 

「……ケガは治ったようだな」

 

 身を震わせ、胴に巻かれていた包帯を器用に取り去るユーノに目をやりなのはは言った。

 

 彼女の言うとおり、包帯の中から(さら)されたには、先のケガなどほとんど残っていない。多少残ってはいるものの、全て擦り傷程度。人間にしても動物にしても、放っておけば治るレベルだ。

 

「それも魔法か」

「えぇ。あなたのおかげで、魔力を治療に使うとが出来ましたから」

「だがそのせいで結界とやらが十分でなかったわけだ」

「あぅ……」

 

 申し訳なさそうな顔をするユーノに対し、ふん、となのはは鼻を鳴らしてユーノに目を向ける。

 

「まあいい。私は気にせん。幸い誰にも見つからず、人死にも出なかった。あの程度、多少騒がれるだけで済むだろうよ」

「でも……」

「なんだ」

「……あなたを巻き込んでしまいました」

 

 目を伏せてユーノは言う。

 

 元より真面目な性格なのだろう。何かしらの考えと理由があるのだろうが、ジュエルシード(あんなもの)を一人で回収しに来るくらいだ。生真面目と言ってもいいかもしれない。

 

 だからこそ勝手に罪悪感や責任を感じるし、背負う必要のないものまで背負いだす。真面目も行き過ぎれば融通の利かないバカにしかならない。それが常に悪いとは言わないが、度が過ぎれば身をも滅ぼすことになりかねない。特に彼のようなタイプはまさにだ。

 

「くだらん」

「え?」

 

 だから切って捨てた。

 

 なのはとしては別にユーノがどうなろうと知ったことではない。だが正直イラついた。

 

「夢に見た貴様の戦い、はっきり言って情けなく嘆かわしいものだった」

「うぅ……」

 

 ユーノは何も言い返せず、小さく呻く。

 

 だが、となのはは続けた。

 

「貴様の意思、覚悟は評価できるものだった」

「え?」

「少なくとも、その辺ににいるようなクズどもよりもよっぽどマシだ。何が何でも成そうとする覚悟、そのためにくたばろうとも前に進む意思。全力を()し、諦観など一切せずに己が剣を以て戦った」

 

 故に評価すると言う。未熟も未熟ではあるが、一人の戦士として認めると。

 

 だからムカつくのだ。この自分が評価してやったにもかかわらず、今のように情けない姿を晒しているユーノが。

 

「私を巻き込んでしまっただと? 自分だけで解決できん奴が偉そうな口を利くものだ。その上、私を下に見おって。ふざけるなよ小僧が」

 

 がしっ、とユーノの胴体を鷲掴み自分の目の前に持ってくる。軽く圧迫されるほどの力で掴まれ、うきゅっ、とユーノは小さく苦鳴を漏らした。なのはの鋭い瞳が睨みつける。

 

「貴様が何を考えてジュエルシードとやらを集めるのか知らんが、そんなくだらんことで(つまづ)くのなら、最初から出てくるな。その程度の覚悟でないと言うのなら、(たわ)けた事をぬかさずにとっとと立て」

 

 言ってポイとユーノを投げ捨てる。ゴミ箱に入りそうになったが、何とか縁に足をかけて飛び逃れる。

 

 見ればなのははすでにベンチから立ち上がり、どこかへ歩き出していた。

 

 ――強い女の子だ、とユーノは思う。

 

 今まで平凡に暮らしてきたはずの女の子。それがあんな命懸けの戦場に突然出たにも関わらず、何にも動じない。さらに言えば、強がっている訳でもない。

 

 自分が彼女の立場であったら、あそこまで堂々としていられるだろうか。

 

 強くなりたい。否、強くならなければならない。今の自分は、彼女にも及ばない。

 

 走らなくてはならない。走り続けなくては。彼女が評価するに値する存在になるまで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      *  *  *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に帰ってまず一言。

 

(やはり侮れん……)

 

 肩にユーノを乗せ、適度に速度を出しながら家に帰ってきたなのはを待ち構えていたのは、仁王立ちした兄と、後ろで手を組んで待っていた姉だった。

 

 兄はまさに怒ってますと言わんばかりのしかめっ面を浮かべ、姉は同情しますと言いたそうな苦笑を浮かべている。

 

 バレている可能性を考慮して、家の付近で“仮面”をかぶったのは正解だった、となのはは安堵した。

 

「……こんな時間にどこへ行ってたんだ?」

 

 恭也の鋭い声が、俯き加減のなのはを責める。“小学三年生な”なのはは、赤騎士なのはの時からは考えられないほどに少女で、兄に怒られれば申し訳なさそうな顔になる。

 

「その……なんか、嫌な予感がしたと言うか……この子が心配になって……」

「動物病院まで行ってきたのか」

「……うん。そしたら、この子がちょうど外に出てて……」

 

 肩に乗るユーノに手をやる。指先をそっと舐めた。

 

「……理由は分かった。でもな、こんな真夜中になのはみたいな小さな子供が外に出るのはいただけない。特に真夜中は、昼間なんかには出てこないような奴だって出てくるんだ。どんな危ない奴に襲われても不思議じゃないんだぞっ」

 

 語気を強める恭也に、ユーノも揃って肩を震わせる。

 

 言ってることは正しいし、兄として妹を案じての事だ。非があるのは自分だし、言い訳も反論する気もない――今回における反論は逆ギレと同義だろうし――。というより出来ない。全て事実で、魔法のことなど話せないのだ。確実に関わらせてもらえないだろうから。

 

 しゅんとしながら、なのはは素直に「ごめんなさい」と小さく告げた。“小学三年生な”なのはの心からの謝罪だった。

 

 それを()んだのか、それとも反省の気を察したのか、美由希がまぁまぁ、と間に入る。

 

「なのはも反省してるみたいだしっ、無事に帰ってきたんだし。今回は初犯ってことで、許してあげようよ」

「しかし――」

 

 尚も食いつく恭也に、呆れ顔で制す。

 

「はいはい、恭ちゃんの気持ちも分かるけど。外も寒いし、なによりなのははいい子だから、今日みたいなことはもうしないよね?」

 

 ウインクしながら、なのはを見る。申し訳なさそうな顔をしながら一つ頷く。

 

 恭也は若干納得いかな気な顔をするが、美由希の笑顔を見て小さくため息をついた。

 

「……分かった」

「お兄ちゃん、心配かけてごめんなさい……」

「次は、父さんも加えてお説教だからな」

「肝に銘じます……」

 

 安堵の息と共に、苦笑した。

 

「それにしてもさぁ」

 

 美由希はなのはの肩に乗るユーノをそっと手に乗せ、空に掲げるように持ち上げた。

 

「可愛いよねー、この子。ペットとして人気になるだけあるわ」

「きゅい?」

「あははっ、かーわいぃー!」

 

 頬ずりしながら抱きしめ、美由希は家の中に入っていく。

 

 残された二人は、お互いに見合わせる。苦笑い。

 

 冷たい夜風が吹きすさぶ。

 

 とりあえず寒いので、彼女に続くことにした。

 

 

 

 

 

 

「きゃぁーーーーーっ! かぁわいぃーーーー!!」

「きゅきゅっ」

「ふむ。お手」

「きゅっ」

「賢いなー」

 

 美由希のあとに続いてリビングに入った瞬間に目に入ったのがそんな光景だった。

 

 いつの間にか美由希の手から桃子の手に渡り、まさしく少女のようにはしゃぎながらユーノを抱きしめ頬ずりする。甘く大人な匂いがユーノを襲った。

 

 同い年くらいの女の子も、特有のいい匂いという物を振りまくが、これはまさしくそれの上位存在。なのはから感じた物以上の“女の匂い”。幼いユーノはそれによって引き起こされる一種の酔いに耐えながらもただのフェレットを演じた。

 

 時折その頬を舐めてやったり、お手を要求されれば素直に応える。女性陣に抱かれ愛でられ、なのはの家族たちの腕上やら首回りやらを走り回り、一人サーカスのごとく働いて働いて働きまくった。

 

 ――結果。

 

「きゅぅ……」

 

 ユーノの餌などの相談も含め、なのはの部屋に辿りつくころには、ただでさえ消費した体力を使い切り、今にも崩れそうなフェレットが出来上がったのである。

 

「まったく……いくら魔法で負傷は治したとはいえ、病み上がりの癖に働くからだ馬鹿者」

「うぅ……ごめん」

「いい。途中で止めなかった私にも非がある」

 

 “小学生なのは”は止めるタイミングを掴み損ね、結果として最後まで働かしてしまった。

 

 “仮面”のデメリットは、ある意味こういったところにある。完璧に小学三年生になりきるが故に、心の奥底はともかく思考の一部も小学三年生に侵食される。完璧、完璧と言いはしたが、そういう面で見ればまだ“完璧”というには未熟なのだ。

 

 なりきりとは、時には多重人格をも引き起こす。そういった事態は防がなくてはならない。

 

 まだまだ改善の余地はあるか、となのはは片隅で考えつつ、ユーノ専用の寝床である籠に作られた、簡易的ベッドの上に彼を寝かせる。

 

「今日は仕方あるまい。事情に関しては――学校、その授業中にでも聞かせてもらおう」

 

 念話なら距離は関係ないだろう? と聞くなのはに、ユーノは頷いた。

 

「あのぅ……」

 

 と、ユーノは怪訝な顔をしておずおずと問う。

 

「なんだ」

「なんで念話のこと……」

 

 なのははつまらなそうに言う。

 

「知り合いに年齢詐称の魔女(ビッチ)がいて、そいつの話にあった。それだけだ」

「はぁ……」

 

 魔女? と首を(ひね)るユーノを余所に、なのはは今度こそ、ベッドにもぐりこむ。

 

 意識はゆっくり、ゆったりと、休息の時の中へ消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

       *  *  *

 

 

 

 

 

 

 

 ジリリリリリリリリリッ!! とけたたましい音に意識を引き起こされ、なのははうっすらと目を開けた。

 

 ゆるゆるとした動きで掛布団をどけて身を起こす。髪はだらしなく跳ね、その目はポーッとしたまましばらく虚空を見つめ、だらりと落ちた肩には力強さの欠片もない。

 

 かくん、となのはの頭が傾いた。

 

 この身体になってから毎朝この調子だ。魂が生粋の軍人乙女でも、身体能力が魔人のそれであっても、すっぱりと覚醒できないのだ。身体自体が寝起きに弱いらしい。規則正しく生きているし、夜更かしも(昨日は置いといて)していないのにこのザマだ。改善も難しい。寝ない事も一度だけ考えたが、人の身で、それも子供の身体でそれは難しかった。

 

 約十秒ほどポーッとしていると、ようやく頭が働き始めた。虚空を見つめていた目は力を取り戻し、崩れていた肩は立ち直る。それと同時にベッドから立ち上がる。

 

 クローゼットから聖祥大付属小学校の制服を取り出し、鏡の横に置いてあるハンガー用のフックにかける。寝巻を脱いで下着姿になり、真っ白な手足の肌を晒す。

 

 ハンガーにかかっている制服を余計な(しわ)を作らずに取って、黒いインナーに袖を通す。その上からワンピース状の白い服と上着を着て、胸元に(ひも)リボンを結ぶ。そして鏡の前に立ち、ササッと髪をとかして後頭部にまとめた髪の束をリボンで留めて完了だ。

 

 あとは洗顔やら歯磨きやら朝食やらがあるが、なのはは髪を纏め終えたところでユーノに目を向けた。

 

「おはよう」

「あ、えと……おはよう、なのは」

 

 自己紹介は昨日帰り道で済ませてあり、なのははユーノにファーストネームで呼ぶことを許した。というのも、この先短い付き合いで済まないのは確かだし、この世界においてこういうパターンの二人(魔法少女とそのパートナー)というのは、名前で呼び合うのが普通らしいからだ。

 

 魔法少女など認めるつもりもなければそんなつもりもないが、少なくとも似たパターンであるのは違いない。故に許した。

 

 ――しかし、なのははスクライア(部族名)で呼ぶわけだが。

 

「貴様の朝食はまだ買ってきていない。近所の動物専用の店の開店時間から考えて……おそらく九時半までには来るだろう。それまで待て」

「あ、うん」

「あと、貴様の考えるタイミングで念話して来い。授業中でも構わん。どうせ分かりやしないだろう」

「え? でも……」

「私はこれでも学年主席だ」

 

 言ってなのははドアノブに手をかけ、ドアを開ける。

 

「予習復習は既に終えている。貴様が気にする必要はない」

 

 自信満々と言うべきか、それとも余裕があると言うべきか。それだけ告げて自室を後にした。

 

 残されたユーノは、静かに閉じられたドアをしばらく見つめ、ぽつりと呟いた。

 

「……やっぱすごいなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      *  *  *

 

 

 

 

 

 

 

 

 スクールバスから降りて、なのはは校門をくぐる。

 

 まだ校門であるにも関わらず、昨日のアニメは見たか、サッカーの試合は凄かった、あの俳優がどうだ、などなど。同じく聖祥大付属小学校の生徒達の楽しげな声が、あちこちから聞こえてくる。大した感想は抱かないが、朝から元気なものだ、と頭の片隅で思う。

 

 昇降口を通り、靴を履きかえようと、指定された靴箱の戸を開ける。中に入っていた上履きを手に取り、脱いだ靴を代わりに入れて戸を閉める。

 

 昇降口の目の前にある広場を通過し、階段を上る。途中、すれ違った知らない女子生徒達が「高町さんおはよう」などと挨拶してくる。一人ではない。すれ違う女子生徒は大体挨拶してくるのだ。いつもの事ではあるのだが、何故かはよく分からない。

 

 自分の教室のある階に到達し、クラスの教室まで行って横開きのドアを開ける。教室の中にいる生徒達がなのはに目を向けた。

 

「あ、なのは! おはよう」

 

 一番最初に挨拶してきたのは、なのはの席にすずかといるアリサだった。

 

 なのははそれに答えず、自分の席に向かう。クラスメイト達が、なのはが目の前を通るたびに挨拶してくる。それらに適当に反応を返し、自分の席の机に(かばん)を置く。

 

「おはよう」

「おはよう、なのはちゃん」

 

 席についてから挨拶するのはいつもの事なので、アリサは何も言わない。代わりに、ねえねえ、と何かを心配するような顔で話しかけてくる。

 

「なのはは聞いた? 昨日行った動物病院の話」

 

 要領を得ない。

 なのははすずかに説明を求め、視線を向けた。

 

「事故か何かあったらしくって……大変なことになってるみたい」

 

 その意図を正確に理解してくれたらしいすずかは言った。

 

 ――なるほど、あれは事故とされたのか。

 

 正直、事故どころではない状況なはずだ。銃痕じみた物や爆発痕のよな物もあったはずだが、銃声などの音は鳴らなかったし聞こえもしなかっただろう。せいぜいがあの思念体が突撃して、物を壊す音くらいだ。

 

 周辺住民は納得しないかもしれないが、サプレッサーなどの可能性を考慮したとしても、それ以外に説明も出来ない。下手な説明をして大多数の不安を(あお)りかねないのだし。

 

「あのフェレット大丈夫かなぁ……」

 

 心配そうにすずかが言う。

 

 なのはは椅子を引き、座りながら、

 

「あれなら私の家にいる」

 

 と告げた。

 

「えぇ!?」

「そうなのなのはちゃんっ?」

 

 鞄から筆箱を取り出して机に置き、鞄を机の側面に取り付けられているフックに引っ掛ける。

 

「どういう訳かは知らんが、出歩いていたらたまたま会ったのだ。包帯も巻かれていたし、あのフェレットだとすぐに分かった」

「逃げ出してたのかしら」

「さぁな」

 

 嘘は言っていない。嘘は。

 

 変な黒い化け物に襲われたり、フェレットが喋ったり、魔法が使えるようになったり、その化け物を封印したり。フェレット発見後の事を言わなかった(・・・・・・)だけだ。

 

「でも良かったぁ。話を聞いた時は心配で……」

「まあ、無事なら安心だわ。今度見に行ってもいい?」

「好きにしろ」

 

 嬉しそうに笑う二人を見ながら、なのはは手を胸に当てた。

 

 掌に感じる胸板以外の感触。先日の魔法の杖――デバイスというらしい――である、レイジングハートの待機形態が、首から下げられている。服の中に、下げる紐も本体も隠しているから、本人以外には分からなくなっている。

 

 今日から魔法使いとしての生活が始まる。ファンタジーとしての期待など持ち合わせていない。ファンタジー云々で言うなら、エレオノーレであった頃、すでに生活の一部だった。

 

 故に持ち合わせるのは可能性への期待。

 

 非現実的な事象には、非現実的なものでしか解決できない。

 

 ラインハルトの元へ戻る。その術。やはり非現実的なものにしかないだろう。

 

 教室内に予鈴が鳴り響く。

 

 まずは情報が必要だ。ジュエルシードの事、魔法の事。それ以外にも何かあるなら知る必要がある。

 

 なのはは本鈴に耳を傾け、教室に入ってきた担任の教師に目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ――ジェルシードとは、願いを叶える願望機である。

 

 一限目の授業中、念話をしてきたユーノは授業中に失礼、と軽い謝罪と朝食が来たことを言って、事情を説明しだした。

 

「この前説明したとおり、漢字は――」

 

 黙々とノートを取りながら、なのははユーノの念話に集中する。

 

 ジュエルシードは、ユーノの世界の古代遺産らしい。

 

 この世界、すなわち“地球”は、次元世界と総称される宇宙のような物の中にある、“世界”と言う名の星の一つらしい。“地球”の他にも数多(あまた)世界が存在しており、人の住んでいない、それこそ地球が出来た頃のような灼熱世界もあれば、“地球”よりも圧倒的に科学の発達した世界も存在している。

 

 ジュエルシードは、多数ある世界の一つ。その世界の中にある、ユーノとその仲間たち(スクライア)が発掘していた遺跡で見つかった石なんだとか。

 

『使用者の願いを叶える願望機、それがジュエルシード。でも、力が不安定で、正しく願いを叶えることが出来ないんだ』

 

 それに、とユーノは続ける。

 

『昨日みたいに、使用者を求めてジュエルシード単体で暴走することもある。昨日よりも危険なのは、何も知らない動物や人が間違って使用してしまったときだ。特に人が使ったときはかなり危ないんだ。下手したら、被害は昨日どころじゃ済まない』

 

 誰かが言っていた。動物は純粋であると。それ故に、ちゃんと接すれば獰猛(どうもう)な肉食獣であろうと、敵意がないことを理解し、共に生きることが出来る。

 

 だからジュエルシードが叶える動物の願いは、純粋さ故にまだマシな物なのだ。

 

 だが人間は違う。

 

 あれがしたい、これがしたい、こうなりたい、どうなりたくない、あんなのは嫌だ、こんなのが欲しい、そんなものは認めない、誰かに好かれたい。

 

 欲望が強い故に、ジュエルシードが叶える願いも強くなる。解き放つ魔力は強くなり、周りに与える被害も大きくなる。

 

『……随分危険なものが、近所に降ってきたものだな。何があった?』

 

 そんな危険なものを、ユーノはバラ撒かないだろう。少なくとも自分のために使おうとして探しに来たのではない、となのはは見ている。

 

「それでは、ここを……バニングスさん」

「はいっ」

『……僕のせいなんだ』

 

 ユーノは辛そうに声を落とした。

 

『ジュエルシードみたいなものを管理したり、次元世界の治安を守ったりしてる、時空管理局、っていう組織があるんだ』

 

 すなわち警察が次元世界レベルになった組織なんだとか。

 

 ジュエルシードを発掘し、調査団に依頼して保管してもらっていた。間違って発動でもしたら危険であると判断されたそれを、管理局の元へ輸送していた途中――、

 

『事故か、人為的か。輸送していた時空間船が何らかの災害にあってしまって……』

 

 墜落……という概念が時空間に存在しているかは分からないが、そのせいでジュエルシードなどという世界規模の災厄を、“地球”に落としてしまった。

 

『なるほど。事情は理解した――だが、今の話を聞く限りでは貴様に責などあるようには思えんのだがな』

 

 言いつつもなのはには予想がついていた。ユーノの生真面目な性格から考えて、彼が無謀にも一人で回収しに来たわけを。つまり、

 

『……僕が、僕があんなものを発掘してしまったから』

 

 ということだ。

 

 自分が発見しなければ、運んでいた時空間船は被害にあわず、自分が発見しなければ“地球”に落ちることもなく、自分が発見しなければ、ジュエルシードによる被害などあり得なかった。

 

 そんな『もしも』の話に勝手に責任を感じて、勝手に背負ってしまう。真面目すぎるが故の彼の行動と思考、選択。

 

『こんなこと、言っても仕方ないんだって分かってるんだ。僕が見つけなければ、僕が掘り出さなければなんて言ったって、この状況は変えようがない。現に二一個のジュエルシードはこの世界のこの街(海鳴)に落ちてしまった』

『……言うのもバカバカしいが、俗にいう運命という訳だ。貴様がジュエルシードを発掘したのも、今の状況があるのも』

 

 コクリ、と頷く姿が目に浮かんだ。

 

『それでも……見つけてしまったのは僕だ。発端は僕なんだ。運んでいたのは僕じゃないとか、落としたのは僕じゃないとか、そんなのは関係ない。全部の責任なんて背負えるほど、僕は強くないけど……ジェルシードは僕が回収しなきゃいけない。ううん、するべきだって思ったんだ』

 

 故に来た。たった一人でこの海鳴(戦場)に。

 

 彼には回収するべき責任はない。それを見つけたからその先に起こった全てはそいつの責任だ、などというのは責任転嫁にもほどがある。

 

 危険なものを運んでいたにも関わらず守りきれなかった運送者にも責任はあるし、事故だとして、それが整備不良などであれば、その船を整備していた者にも責はあるだろう。運ぶものに関わらず、整備不良は運送者の命に関わりかねないのだから。

 

 それでもユーノは、自分に責任があると断じた。それは生真面目故の物であろう。だがそれだけで済ませてしまえるほど、ユーノの意志と覚悟は薄っぺらなものではないとなのはは感じた。

 

 だからこそ。

 

『なら協力関係を結んでやる』

『え?』

『同盟でもいい。貴様には貴様なりの理由があるように、私にも私なりの理由があってジュエルシードには、魔法には関わらざるを得ない』

『なのはなりの……理由?』

『そのあたりを詳しく話す気はないが……利害は一致しているだろう。貴様は貴様だけではこの問題を解決できない。私も、魔法に関わらなくてはならない以上、知識や情報が必要だ』

『ま、待ってよ! この問題は――』

『危険だ、などと言うのだろう。だが、貴様だけに任せておくほうが、私としては危険だと思うのだがな』

『うっ……』

 

 ユーノのためではない。壊れては困るが、この世界のためでもない。

 

 あくまで自分のために。戻るべき場所へ戻るために。

 

『等価交換という奴だよスクライア。私は力を、貴様は知識を。互いに利用しあい、各々が持つ問題を解決する。貴様の目的はもちろん、私の目的も、その方が確実だと思うが』

 

 そのための同盟、協力関係。

 

 ユーノはもちろん、悔しいがなのは自身も、自分だけで自分の抱える問題を解決するのは難しい。だから、他人の、誰かの、仲間関係を結んだ者の力を利用し、利用した(借りの)分だけ相手に協力する。

 

 それがこの契約。

 

『貴様に拒否権はない。これを拒否していいのは自分だけで解決できる者だけだ』

『…………』

 

 友人ではない、戦友ではない。あくまで共闘関係。

 

 必要だから手をつなぐ。

 

『……分かった。協力しよう。自分たちのために』

 

 なのはを危険に巻き込むことを納得した訳ではないだろう。

 

 だがなのはの言う事ももっともなのだ。自分だけで解決できるなら、こんなことにはなっていない。

 

 だから受け入れる。

 

 受け入れざるを得ない。

 

 さらに無関係な誰かを巻き込まないために認めるのだ、この協力関係を。

 

『それでいい』

 

 魔人と異世界の魔法使い。

 

 二人の同盟成立を見計らったかのように、一限目終了のチャイムが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      *  *  *

 

 

 

 

 

 

 

 塾に行くのに、アリサとすずかは迎えに来て送ってもらう、というのを嫌がると言ったが、それはあくま学校から塾に行く時限定だ。ただ下校するときは、バニングス家の執事兼専属運転手である鮫島に迎えに来てもらい、三人そろって送ってもらう。

 

 かといって、アリサはともかく残る二人までわざわざ家に送るわけではない。すずかは帰り道にちょうど家があるので、わざわざ送る、ということになりはするが、なのはは違う。

 

 いつも通り、アリサの帰路となのはの帰路の分岐する道で、なのははバニングス家の車から降りた。窓越しに笑顔で手を振るアリサに適当に反応を返し、車が見えなくなるのを確認して歩き始める。

 

 現在回収し終えているのは、昨日のを含めて二つのようだ。つまり残るジュエルシードは一九個。

 

 意志と覚悟に反して、随分お早いギブアップだな、と言ったらユーノは苦笑で返した。

 

 帰り道の中にある、商店街に足を踏み入れる。

 

 人々の賑わいは、昨日の事故知っているのか否か、変わらずいつも通りだ。八百屋や肉屋などの食物を売る店では、店主とどこかの奥方が楽しげに笑い、服屋では恋人が恋人の服を選んでいて、おもちゃ屋では子供たちがカードゲームをして遊んでいる。

 

 ――この中に誰かジュエルシードを持っている者がいるのだろうか。疑心が生まれ辺りの人々を見回す。が、しかしそれは判別できない。

 

 ジュエルシードは発動しなければ、その魔力反応を示さない。つまり、発動を未然に防ぐというのはかなり困難なのだ。それこそ、高度な探索魔法でもなければ。だがそれでも人間が持っている場合は発見し辛い。ポケットの中に入れられたり、どこかにしまわれてしまえば更に見つけづらくなる。

 

 他にも、魔力を広域にバラ撒いて強制的に発動させて探す、という方法もあるようだが、魔力の消費が激しい分、あまり適当な方法ではない。組織的な力もないなのは達では、二人がダウンしてしまえばしばらく行動不能になってしまう。

 

 組織と言えば、ユーノの言っていた時空管理局なる組織はどうしたのか、となのはは思う。

 

 “地球”は管理外世界という部類の世界で、管理局の法からは外れた世界らしい。だからその世界がどうなろうが知ったことではない、という事なのか。それとも何らかの理由があって遅れているのか。何にしても、しばらく管理局とかいう組織の力を借りることは難しい可能性が高い。

 

 歯痒いが、後手に回るしかない。

 

 ティー字路を左に曲がり、まっすぐの道を歩く。家は近い。

 

 とりあえず家に帰ったら、ひとまずは授業の予習復習から始めよう。そのあと、魔法についての講義でもユーノから受けつつ、ジュエルシードの探索でもするか。

 

 帰宅後の予定を設定しながら、高町家を視界にいれる。

 

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 ズン、と一瞬何かに触れら多様な感覚がした。

 

「!」

 

 強い魔力の波だ。念話に使われる程度の魔力ではない。それよりももっと膨大で、強く大きい力だ。

 

 なのはは一瞬でそれがなんなのか理解した。

 

『新しいジュエルシードだ! すぐ近くっ!』

 

 ユーノの念話が聞こえる前に、なのはは走り出した。今は真夜中ではないから、全力で走ることが出来ない。エレオノーレであったことならばまだしも、弱体化している今では、一般人に視認されてしまう。

 

 感じた魔力の波が薄れていく。ジュエルシードの発動の際に噴出した力が届いていたのだろう。今や薄れ霧散し、魔力の残滓となっていく。

 

 かといって場所が特定できない訳ではない。魔力の波が消え失せようと、その元となった物が強い魔力反応を示している。魔法における魔力を感じ取れるようになっているなのはには、元のスペックも相まってそれを鮮明に把握できた。

 

 住宅街を走り抜け、家から出てきたらしいユーノと合流しつつ現場へと到着する。あまり人気のない場所だ。目の前には長い石階段。その周りを草木が囲み、頂上には鳥居が悠然と立っている。

 

 悲鳴が聞こえた。女性の声だ。

 

 なのははユーノを肩に乗せ、一気に階段を上る。百段以上ありそうな階段を数段飛ばしで駆け上がり、鳥居の下へ。

 

「あれか……!」

 

 目の前には、気絶しているらしい女性と犬。だがその犬の大きさは大型犬よりも尚巨大だ。

 

 高さだけならなのはと同じほどあり、胴体は二、三メートル近くあるだろうか。目は小さいものと大きいものを二つずつの四つ。両耳に当たる部分は角のようなものが生えている。牙は狼のように鋭く、手足も爪も普通の犬からは考えられないほどに太い。

 

「原生生物を取り込んでるんだっ。昨日の思念体より、実体がある分手ごわいよ!」

 

 と、こちらを認識した犬が走り出す。逃げるのではなく、なのは達に襲い掛かるために。幸いと言うべきは、足元の女性を踏まなかった事か。

 

 突撃してくる犬に、なのはは舌打ちする。

 

「なのはっ、レイジングハートの起動を!」

「まさか、またあの長い詠唱を?」

「うんっ、早く!」

「…………」

 

 答えずなのはは、胸元から取り出したレイジングハートに目をやる。

 

「――本当に、詠唱が無ければ、お前の起動は出来ないのか?」

 

 正面を見れば猛スピードで突撃してくる犬。

 

 キラリと、レイジングハートの石面が輝く。

 

It is possible if it is a master.(マスターなら可能です)

 

 ニヤリ、となのはは笑った。

 

 瞬間、ドゴッ!! と、なのはの足が犬の側頭部を捉えた。魔力によって強化された犬ですら、見えても反応できない速度と力を持ったなのはのローキックは、横っ飛びしたように真横へと犬を吹き飛ばす。

 

 立ち上がる犬を正面に捕え、なのはは口を開く。

 

「レイジングハート、セットアップ」

《Stand by ready. Set up》

 

 レイジングハートから桃色の光が噴き出す。噴出した魔力がバリアジャケットである漆黒の軍服を形成し、レイジングハート自身もセットアップ形態へと移行する。三日月状の穂先を組み上げ、棒状の柄と合体し魔法の杖(デバイス)の形を成す。

 

「き、起動パスワードなしで……!」

 

 犬が動いた。地面を蹴り上げ土埃を舞い上げる。その巨躯にも関わらず、圧倒的加速度によってなのはとの間に空いた数メートルを一気に詰める。

 

 対するなのはは、ただレイジングハートを突きつけるだけ。

 

《Protection》

 

 バリバリバリッ!! と、なのはと犬がぶつかり合う。

 

 レイジングハートの先端から展開された桃色の障壁越しに、犬とは思えないほどのパワーと衝撃を感じる。だが、それだけだった。

 

 障壁に(ひび)を入れることはおろか、なのはの足を後方へ少し滑らせる程度の事しか出来ず、反射した衝撃によって犬は崩れ落ちる。

 

《Sealing mode》

 

 ガシャン、と穂先の付け根部分が稼働する。桃色の翼が展開され、コアである赤い宝石から帯が飛び出た。それは動けないでいる犬を拘束する。

 

《Stand by ready》

「リリカルマジカル――」

 

 慣れたのか、屈辱を押し殺しているのか、淡々となのはは告げる。

 

「ジュエルシードシリアル16、封印」

《Sealing》

 

 拘束する帯が犬を更に縛り上げ、レイジングハートのコアから更に放たれる帯が、犬を貫く。

 

 そのまま桃色の光に侵食され――苦鳴を漏らしながら、粒子となって消えて行った。

 

《Receive No.16》

 

 どういう原理かは分からないが、元の姿に戻った犬の横に落ちていたジュエルシードは昨日の物と同じように、レイジングハートを近づけるとコア部分に入っていった。

 

「……これでいいんだろう?」

「う、うん……完璧」

 

 ふん、となのはは鼻を鳴らし、(きびす)を返す。レイジングハートが待機形態に戻り、服も制服に戻った。

 

 ユーノはなのはの才能に舌を巻きながら、その肩に飛び乗った。

 

 

 

 




 神咒神威神楽の天魔・宿儺のセリフのせいで、転生チートオリ主ものを読むのはよくても書くのは躊躇うようになった私。

 ぶっちゃけ、聖祥大付属小学校のあの制服の着方がよくわからんかった。

 本文じゃ、黒いインナー、なーんて言ってるんだけど、実際インナーなのか、あのワンピース状(多分)の奴にくっついてるのか分からないんだよね。本編ちょろっと見てみたけど、鮮明に着替えてるシーンが見つからん…。

 検索もちょっとしてみたけど、コスプレ写真くらいしか見つからなかった。探りが浅いのかもしれないけど。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。