魔砲少女リリカル☆ザミエル   作:結城勇気

5 / 7
 閃の軌跡の予約はいつ解放されるのか……。

 セブンスドラゴン2020Ⅱ を買うか否か……。

 そんな悩みが絶えないよ……。


第三話「焦熱×疾風迅雷」

 時刻は八時頃。

 

 夜中の海鳴市、その都市部はビルや店から漏れる光に照らされ、地上の夜空とでも言うべき美しさを見せる。

 

 一日の終わりが近づく中、街を歩く人々の営みは未だ途切れることを知らず、カップルであれば夜のデートを楽しみ、集まった同じ仕事場の男女達は酒を飲む。明るい街が彼らを照らす。噴水が恋人たちを祝福する。

 

 一日があと数時間で終わる。だが彼らの明るい一日はまだまだ終わらない。

 

 人々は笑い、手をつなぎ、楽しげに歩いていく。

 

 胡乱な日々でも、彼ら彼女たちにとってはそれが今の全てだ。永遠に続くようにも感じるし、続いてほしいとも思っているだろう。

 

 

 

 

 

 

 ――そんな街並みを見下ろす者が、とあるビルの屋上にいた。

 

 

 

 

 

 

 夜空を背に地上を見下ろすそれは、金髪の少女だった。一部の髪を黒いリボンで二房(ふたふさ)にして束ね、残した髪を下ろしている。服もスカートも、履いているブーツまで黒で統一されているが、夜風になびく金髪と美しい容貌もあって、彼女自身を映えさせている。

 

 少女は悠然と、ボーっと、ただただ流れゆく街並みを面白そうに、つまらなそうに見つめていた。

 

この世界(ここ)に……あるのかい?」

 

 問うた声は背後からした。女性の声だ。はきはきした声からは、快活な女性を連想させた。

 

 だが、実際に声を発したのは人間の女性ではない。

 

「ここに、この街に。あいつの言ってたものが」

 

 それは狼だった。

 

 大型犬よりも一回りほど大きいだろうか。喋るたびに鋭い牙を見せつけ、額にある赤い宝石が輝く。毛色はほとんどが(だいだい)色。ただし、手足と首回りの(たてがみ)のように跳ね回る毛だけは赤かった。

 

 しかもそれには表情があった。人間のように感情を顔で表した。今のように、真剣さだって顔に出せる。それが毛色以外の狼との違い。

 

 狼の言葉に少女は頷くと、その紅い瞳を街並みから逸らさずに小さく微笑む。

 

「母さんの求めるロストロギア。母さんの研究に必要なロストロギア。青い石の形を取った、一般呼称“『ジュエルシード』。確かにあるよアルフ。母さんが言ったんだ」

 

 言う少女の瞳は、どこか狂気じみた物を含んでいた。

 

 この目的さえ完遂すれば、きっとあの人は元に戻る。願いを叶える願望機を全て集めて、あの人に渡せば、願いは叶う。願望機に願わずとも、願望機が叶えてくれる。それ以外の結末は認めぬし、それを求めて疾走しよう。幻想に消えた幸せの日々を取り戻すために。

 

 狂ったようにそれだけを求めて(ひた)走る()を目にして、狼は悲しげに眼を細める。ギリっ、と歯が軋む音がした。

 

「……そうかい。じゃあ、とっとと持って帰ろう。邪魔が入っても面倒だ」

「うん」

 

 少女はようやく街並みから目を離し、踵を返す。

 

 続く狼に目も向けず、少女は歩き出した。願いと決意と覚悟を背に、戦場へと足を踏み入れる。

 

 スッと開いた手の中に、黄金に光る逆三角形の鋼鉄の石があった。月明かりを反射した訳でもなく、石がキラリと光る。それを見つめて微笑む少女は、それを夜空に掲げた。

 

「じゃあまずは……一つ目」

 

 言うと同時、少女の足元に金色の魔法陣が現れる。その陣が表す魔法は結界魔法。周囲一キロメートル範囲内を結界で包み、周囲からこの空間を切り取り結界外の時間からずらす。魔法に関係のある者だけを残し、それ以外を結界から弾く。

 

 この世界に魔法文化はない。残るのは十中八九、目的の存在のみ。

 

 おでましだ、と隣に並んだ狼が言う。

 

 ドスン、と目の前にあるビルの屋上に黒い何かが現れた。

 

 人型だ。しかし人間ではない。猿ではなくゴリラではなく、そもそも生物ですらない。

 

 ジュエルシード、この世界に落ちた二一の災厄が生み出した思念体。

 

 全身を雨雲が更に暗くなったようなもので形成されていて、手も足も人一人分ほどの太さがある。唯一生物的と言えるのは、顔に値する部位にある二つの赤い目。刃物のように鋭利な瞳が、刺し貫かんと睨みつける。

 

「……おとなしく封印されてくれりゃいいものを」

 

 面倒臭そうに顔を歪める狼に、少女は薄く笑う。

 

「そこまでお利口な頭は持ってないよ。思考力があるっていっても、人間ほどの物じゃない」

 

 ――それに。少女は手に持った逆三角形の石を、思念体に突き付ける。

 

「封印されたがるような人も動物も。そんな希少種いるわけないし」

《Get set》

 

 石が光る。その形態を変化させ、待機状態を解除する。黄金のコアをさらけ出し、格納されていたデバイスモードの部品が組み合わされ、形を成す。主のためだけの武器となる。

 

 ジャキ、と。変形を完遂したそれが、その手に握られた。

 

 長い棒状の柄と、黒い斧状の刃。その中心に輝く金色のコア。一般的にハルバードと呼称される形を取った己が相棒を、思念体に向ける。

 

Barrier jacket(バリアジャケットは)?》

「あの程度なら必要ないよ」

 

 思念体が飛ぶ。生物では不可能なほどに体をしならせ、常識外の速度で突っ込んでくる。

 

 速い。戦いの「た」の字も知らないような一般人では、動いたことは認識できても、その動きには目が追い付かないだろう。そのまま磨り潰されてデッドエンドだ。それが大人でもない少女なら尚更。

 

 あくまで一般人ならば、の話だが。

 

 音速に近づかんとするほどのスピードを出しながら、思念体は腕を振るった。少女の目の前に辿りつくと同時に振るいきられるよう計算され放たれたそれは、華奢(きゃしゃ)な少女が受ければ、文字通り一撃必殺。

 

 避けられるはずがない。相手はただの少女だ。武器を持っていようと、魔法を持っていようと、こんなスピードについて来れるはずがない。

 

 はずがない。はずだった。

 

「遅いよバーカ」

 

 振るいきられた瞬間、思念体の一撃は空を切った。あまりの速度、威力によって放たれたことで空気が弾き飛ばされ、破裂音が鳴り響く。

 

 視界から消え、周囲からも少女は消えた。どこだ、どこへ行った、と辺りを見回す思念体はそれに気づかない。

 

 ゴ――ッ! と、思念体の頭に漆黒の刃が叩きつけられる。非現実的な腕力で振るわれたそれは、頭をコンクリートに叩きつけるどころか突き破って、一気に一階まで叩き落される。頭上から殴られた、と思念体が理解したのは体で土煙を巻き上げてからだった。

 

 地面に伏せった思念体は、もごもごと立ち上がる。先日別の少女が戦った思念体のように弾け飛びはせず、損傷はない。ダメージだけが蓄積し、体をふらつかせる。

 

「サンダー――」

 

 見上げた空が光り輝く。視線の先には、金色の魔法陣を展開し辺りに雷のような物を発生させている少女。見つめる先は己自身。ターゲットは明白だ。

 

「――レイジッ!」

 

 閃光が(きら)めいた。思念体が動くよりも速く、雷光が地面に到達する。

 

 ビルが破壊された。いや、正確に言えば、ビルの一階が放たれた魔法により吹き飛ばされ、倒壊した。土煙と共に崩れて倒れるビルは、反対側のビルも巻き込み破壊する。ガラガラと巨大な欠片をまき散らす。落ちたそれらが道路を砕いた。

 

《Glaive Form》

 

 少女のデバイスがコアを光らせ、電子的な男声を発する。機構音を鳴らし、斧部分を一瞬分解して別の形態へ変形させる。斧の形をしていた穂先は全く別の物へ、槍の刃と化した。

 

 穂先と柄の付け根が稼働し少し飛び出る。そこから三つ金色の羽が展開された。

 

「ジュエルシード、封印」

 

 全く無事なビルの屋上に着地し、くすりと微笑みながら少女が言うと、穂先の先端に輪を作る帯状の魔法陣が生まれる。その中心に光球が現れ、バチバチと帯電しながらバスケットボールほどの大きさにまで膨れ上がった。

 

《Sealing》

 

 光球が弾け、光の柱が瓦礫の塊へ向けて放たれた。適当に撃ったわけではない。そこに目標がいると断じて撃ったのだ。

 

 そして――光柱が到達せんとする瞬間、瓦礫をどけて思念体が現れ……飲み込まれた。

 

 思念体の断末魔、爆発音。それらが鳴りやむと共に、結界内の街中を静寂が包みこむ。

 

 軽い音を立てて、少女が道路へ着地した。躊躇(ためら)いもなく崩れたビルへと歩みを進め、今さっき光の柱を放った場所の前で立ち止まる。

 

 未だ爆煙の噴き出るそこへ、デバイスを突きつける。煙の奥で何かが青く光った。ふっと浮いて煙の中から出てくると、デバイスのコア部分へすぅっと吸い込まれ格納される。

 

「幸先がいいねぇ。このまま何事もなく順調に行ければいいけど」

 

 いつの間にかそばまで来ていた狼が嬉しそうに笑いながら言った。

 

 つまらなそうな顔をする少女は踵を返し、デバイスを待機状態に戻らせ、その手に握りしめる。

 

「何かあっても関係ない」

 

 歩き出した少女に狼は続く。その体が光に包まれ形を変え、人間の女性になった。

 

「立ちふさがるものなんて、全部気にせずに走り抜ければいいんだ。退()かないなら轢殺(れきさつ)する。それだけだよ」

 

 言って笑うと結界を解いた。

 

 倒壊していたビルは元通りの姿になり、砕けた道路も瓦礫も消失した。そこにあるのは、先ほどビルの屋上から見ていた人々の平和な営みだけ。

 

 二人は夜中の都市部を歩いていく。

 

 やがて少女と女性の姿になった狼は、人ごみの中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「なんとなく懐かしい気配がする……。誰か同じような状況になってるのかな」

 

 

 

 

 

 

 

 そんな小さな呟きを、夜の街に残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      *  *  *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「分かったら行ってこんかァッ!!」

「うんっ! ありがとう高町さん!!」

 

 なのはに殴られ、笑顔で走り去る少年。それをジュエルシード片手に見届けるなのは。肩に乗って顔を引き攣らせながら、事の顛末(てんまつ)を見ていたユーノ。

 

 そんな訳のわからない状況が出来上がった、なのはの家族が経営する喫茶翠屋の近く。見届けを終えたなのはは、周辺に人がいない事を確認すると、サイドを家に挟まれた狭い道に入り、レイジングハートを取り出してデバイス形態に移行させる。

 

 ピン、とジュエルシードを指ではじいて目の前に放った。

 

「ジュエルシード、封印」

《Sealing》

 

 桃色の光で包まれるジュエルシードは、瞬く間にその力を抑えつけられ、封じ込められる。

 

《Receive No.10》

 

 レイジングハートの中へとジュエルシードが格納されたのを確認すると、レイジングハートに労いの言葉を送った。一言返答し、待機状態へと戻ったレイジングハートを再び首から下げる。

 

 念のために、もう一度誰かいないか確認する。…………誰もいない。

 

「えーっと、なんていうか……お疲れ様」

 

 苦笑しながら念話してくるユーノを、肩から手に乗せて翠屋を目指して歩き出す。

 

「……被害もなく終えられるのなら、それに越したことはないだろう」

 

 ムスッとしながら歩いていくなのはを一瞥すると、ユーノは先ほど行われていた茶番を思い返す。

 

 今日は元々、なのはの父である士郎が監督する小学生サッカーチーム『翠屋JFC』の試合を応援しに行っていた。なのははもちろん、興味を持っていたわけでは決してないが、士郎の手前であったし学校のようには出来ず、アリサとすずかに無理矢理連れて行かれたのだ。

 

 士郎のコーチングとメンバー達の努力の賜物か。『翠屋JFC』は勝利した。

 

 その後、勝利を祝って翠屋で食事会が行われ、なのは達も参加。三人そろって、昼食をとっていた。そんな最中(さなか)だった。

 

 『翠屋JFC』のキーパーがジュエルシードをポケットにしまったのをなのはが目にしたのだ。

 

 キーパーの少年は立ち去り、用があって先に帰ったらしいマネージャーの少女を追いかけた。当然、ジェルシードを追ってなのはもそれを追う。

 

 ――そして、繰り広げられたのが先の茶番だ。

 

 発動する前に回収し封印しなければならない。だから率直にそれは私の物だ、と言って出た。

 

 困惑するキーパーの少年だったが、なのははこっそりとレイジングハートから取り出した封印済みのジュエルシードを突きつけた。そして言う。いくつかあったそれを落としてバラ撒いてしまった故に探していた、と。

 

 キーパーの少年はそれを信じたが、ジュエルシードをマネージャーへのプレゼントとしたいから譲ってほしいなどと抜かした。

 

 なのはは考えた。深く深く考えた。

 

 過激な手段に出れれば簡単な話だが、それは避けて穏便に済ますべきだと判断した。

 

 だから――殴り飛ばした。

 

 馬鹿者ッ! と叫びながら。

 

『女を物で釣るなど軟弱物のすることだ!』

 

 そうなのはが言った瞬間、尻餅をついていた少年は劇画タッチになって驚愕した。ユーノの目には何故か、彼の背後で雷のようなものが落ちたように見えた。

 

『真に惚れていると言うのなら、物ではなく言葉にしろ! それすら出来んと言うなら恋愛などする資格はないッ』

 

 どういう訳か目を見開く少年は、どういう訳か膝をついて涙を流した。

 

 そして突然立ち上がると笑いだし、なのはにジュエルシードを渡して――冒頭に戻る。

 

 ……ちなみに余談だが、そのあと少年がマネージャーの少女を近場に公園にまで連れ去り告白したところ、見事にカップルが成立したらしい。

 

「運が良かった。あの男が素直に納得したのもそうだが、今朝見ていた特撮、『マスク・ド・運転手“マグロ”』に使えるセリフがあったのも運が良かった」

「マスク・ド・運転手? あぁ、朝やってた魚の仮面をつけたライダーの特撮アニメだね」

 

 二人が言っているのは、数年前から子供たち、最近では大人も見るようになっているらしいマスク・ド・運転手シリーズだ。

 

 マスク・ド・運転手一号から始まり、二号、サーモン、シャーク、Ⅴ4、ホエール、そして現在のマグロ。魚をモチーフにした仮面をつけ、敵をやっつけたり、サーフボード型バイクに乗ったりする特撮ヒーロー。それがマスク・ド・運転手である。

 

 そして、なのはが話題についていくのに見ているアニメの一つでもある。

 

「正直、『魔法先生シュピ虫!』の敵のセリフを使う事も考えたが……」

「なのはって……何気にアニメに詳しいよね」

「? 見ていれば分かるレベルだろう」

 

 訳も分からず首を傾げるなのはに、ユーノはそうだね、と言った。

 

 ……設定資料集を読まなければ分からないようなことまで知っているのは、“見ていれば分かるレベル”と言うのだろうか、と頭の片隅で考えながら。

 

「あ、なのはおかえり」

「なにかあったの?」

 

 翠屋の外の席で待っていたアリサとすずかが、なのはに気づいて顔を向けた。

 

 なのはは少し用があっただけだ、とだけ告げて席に着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      *  *  *

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後の朝。なのはは着替えを済ませて、ユーノと共に自室を後にした。

 

 現在までに回収したジュエルシードは、先日キーパーの少年からもらい封印したのを含めて六つ。他に回収者がいないと仮定すると、残りは一五個となる。

 

 まぁ、なのはは他にはいないなどと、そこまで楽観的な考えを持つほど子供ではない訳だが。そこまで簡単に済むような代物ではないだろう。

 

 近い未来、ジュエルシードを巡って誰かと戦う可能性は十分に、いや、ほとんど一〇〇パーセントに近いのではないかとなのはは思っている。

 

 だからこそ、最近は予習復習の時間を若干削り、魔法の勉強と練習を重ねている。おかげで飛行魔法は問題なく使えるようになり、通常状態の魔法の杖以外の形も二つほど使えるようになった。

 

 階段を下りて一階へと降りる。今日はすずかの家へ招待されているため、これから月村邸へと向かう。名目上は付き添い、本音は恋人であるすずかの姉、忍に会いに行くという事で恭也も一緒だ。

 

 降りきってリビングに出ると、恭也と美由希がいた。

 

 気配を消していたわけでもないので、美由希はともかく恭也は部屋を出た段階ですでに気づいていたようだ。リビングのドアを開けた時にはこちらを向いていた。

 

「もういいのか?」

「うん、大丈夫!」

 

 笑顔で言うと、恭也はソファに乗せていた軽い荷物を手に取った。

 

「じゃあ美由希、行ってくるよ」

「お姉ちゃん、行ってきます」

「はーい、いってらっしゃい二人とも」

 

 美由希の見送りを背に、なのはとユーノ、恭也は我が家を後にした。

 

 月村邸方面へと向かうバスの来るバス停は、一〇分ほど歩いたところにある。これまでも何度か利

用し、月村邸へと行ったことがあった。

 

 バス停で待つこと数分。バスがやってきた。子供料金を払って乗り込む。これが出来るというのが、(なのは)の利点の一つだった。(ちなみにユーノは鞄の中に入れてあるので、何も言われていない)

 

 二人が席に座ると、バスの半自動ドアが閉じる。運転手が発信の旨を伝え、バスが動き出す。軽い揺れと共に前進し、通行可()を示す信号を通り過ぎる。

 

 学校でのことや友達の事、恋人の事や剣の事。他愛ない話をする兄妹二人を乗せるバスはいくつかのバス停を通り過ぎていく。時折信号前で止まりつつ、何事もなく平和に進行する。

 

 だと言うのになのはは、恭也との会話の片手間に周囲の警戒をしていた。

 

 別に何かを危惧しているとか、そういう事はない。確かにジュエルシードの有無を気にはしているが、この警戒はまた別。平和な世界に慣れきれないが故である。

 

 戦争に生きた彼女にとって、車内とは安心できない場所だ。屋内よりも安心できない。

 

 襲撃でもされれば行動が屋内より制限される。バスジャック、テロ、高町を狙っての攻撃。どれでもいいが、家や店なんかよりも、車内というのは動きづらい。さらに言えばこれはバス。自分以外の人間が乗り、そのほとんどが一般人だ。騒ぎ出せば更に動けない。

 

 その程度でどうにかなるほど(やわ)ではないが、面倒なのは変わりない。

 

 つまるところ、常時危機的意識。この国、この世界のように頭の中が平和に染まっていないからこその警戒。

 

 無意味だと分かっていてもしてしまう、根っからの軍人気質なのだ。

 

 世界はどこも戦場であり、どこで何が起こってもおかしくはない。そういう考えだ。

 

 ――まぁ、何事も起こりはしなかったのだが。それはそれでいい。

 

 目的のバス停で下車し、しばらく歩いて数分ほど。

 

 高級住宅街、というほどでもないが、少しばかり大きめで平均的なものより数万数十万ほど高そうな家々が立ち並ぶ区画。その中に異質な、どう考えても急激と言える変化。敷地レベルで周りと違う家が、否、屋敷があった。

 

 物語の中にでもあるような、裕福な一家を示す家だ。屋敷の周りは五メートルほどはありそうな外壁で囲まれているし、入るために開けるのがドアではなく門である辺り、普通の家とは違う。

 

 明らかな境界で周囲と切り離された、普通じゃない家。それがここ。

 

 バニングス家も似たような物だろうが、それは今重要じゃない。

 

 恭也が門の門の横にあったインターホンのスイッチを押す。ピンポーン、とどこででも聞くような音が鳴る。数秒もしないうちに女性の声がスピーカーから聞こえた。

 

『いらっしゃいませ恭也様、なのは様。門をお開けいたします』

 

 インターホン内と門の上部、その二つに設置されているカメラで瞬時に判断したらしい専属のメイド。軽い音と共に門のロックが外れ、開かれていく。恭也は軽く礼を言うと、躊躇いなく足を踏み入れる。なのはも同じく続いた。二人が入ったことを認識したのか、門が自動で閉じる。

 

 敷地内は外から見るよりも広く感じた。屋敷自体は十数メートルほど先に見える。二人が歩く道のサイドは、青青しい芝生が敷き詰められ、木が一定の間隔を空けて外壁沿いに植えられている。

 

 花があるわけでも噴水があるわけでもない。それらがあるのは反対側、すなわち中庭だ。だがしかし、ここを歩いているだけでもどこか別世界を歩いているような感覚に襲われる。

 

 屋敷へ入る両開きドアの前に立つと、独りでに左のドアが開いた。

 

「いらっしゃいませ。ご案内いたします」

 

 中から現れたのはメイドだった。若紫色の髪を首回りで切りそろえ、クールな顔立ちに典型的なメイド服とヘッドドレスを装備した、(まご)う事なきメイドだ。

 

 こちらです、と笑顔で先導するメイド。月村家メイド長、ノエル・K・エーアリヒカイト。それが彼女の立場だ。

 

 窓から光差し込む長い廊下を歩く。どこぞの城の廊下でも歩いているような気がしてくる。もちろん、かつてなのはのいた“城”と比べれば圧倒的に狭いのだろうが、ここ九年近くあそこで過ごしていないからか、どこか感覚的に広いと感じてしまう。

 

 しばらく歩いたところでノエルが立ち止まる。また両開きドアだ。ノエルが左右両方のドアを開けて、入室を促す。

 

 室内は明るかった。入ってすぐに目に入る巨大な窓。中庭へ通じるものだ。ちょうど真ん中に当たる場所に、白い縁の扉がある。中庭は玄関前と同じく芝生が敷かれ、外壁沿いの木、その間に咲き誇る花たち。奥の方には木々の生い茂る森のようなものがある。白いテーブルと椅子も置かれていて、外でくつろぐことも、走り回ることも出来そうだ。

 

 そんな部屋だ。キラキラしている訳ではないが、涼しげで爽やかな白い内装。一枚絵画があったり、植物の植えられている鉢が隅に置かれていたり。ごちゃごちゃはせず、されど貧相でもない。まさしくお屋敷。落ち着いた印象を受ける月村家にはお似合いと言える。

 

「おはよう、恭也。なのはちゃんも」

 

 そう言ったのは、部屋の中心にあるテーブル、それを囲む椅子の一つに座った女性だった。

 

 美人と言える人だった。どこかで見たような紫色の髪を腰まで伸ばし下ろしていて、服装はTシャツとミニスカートというラフな格好だ。少し釣った目は、見た目をクールに見せてはいるが、性格までクールではない、という事を二人は知っていた。

 

 彼女がすずかの姉である(しのぶ)。そしてなのはの兄である恭也の恋人、月村忍。

 

「あぁ、おはよう」

「おはようございますっ、忍さん」

 

 笑う恭也に続いて、なのはは笑顔で言う。中庭にいる友人二人が、相変わらずの猫かぶりっぷりを目にして苦笑していた。ぴきっ、と頭の中で何かが切れた気がした。

 

 適当に忍との挨拶を終えて中庭に出る。おはよう、と二人が挨拶してきた。残った一席につきながら返答する。

 

「相変わらず、家族の前では“アレ”なのね。裏表っぷりが凄いわ」

「今更やめたところで、何かあったのかと心配されるだけだ」

 

 ふん、と鼻を鳴らしながらなのはは言う。

 

 表が赤騎士、裏が小学三年生。裏しか知らないだろう大人たちにしてみれば、いきなり表のなのはが現れれば目を疑う事間違いない。軍人のように固く、大人顔負けに強く、まったくもって子供らしくない彼女を見れば。

 

 ……となると、小学生を乗り越えても同じような結果ではないだろうか。

 

 遠くない未来の面倒な結末を思い浮かべて、なのはは心の中でため息をついた。

 

「そりゃあ……いきなり“表”になったら、ね」

 

 口をあんぐり開けて固まる大人たちを想像してか、すずかは笑いながら言った。

 

「ところでユーノは? 連れてきてないの?」

「ここにいる」

 

 と、なのはは鞄を開ける。ひょこっ、とユーノが顔を出した。息苦しかったのか、少し嬉しそうだ。

 

 おいでー、とアリサに手招きされ、ユーノはテーブルに飛び乗りアリサの元へと走っていく。

 

 目の前まで行くと、その白い手に抱きかかえられた。頬ずりしたり、腹をさすってみたり。女の子らしく笑顔でユーノを弄り倒す。それに耐えるユーノは、何故か赤面しているように見えた。

 

「はぁ……やっぱ可愛いわねー」

 

 首回りをクルリと回るユーノに、アリサはうっとりした顔で言う。

 

「家の犬たちも、すずかの家(ここ)の猫も可愛いけど。こう、なんていうのかしらね。掌サイズの動物って、犬猫みたいな感じのとはまた違った可愛さがあるわよねー」

「そいつは掌サイズと言うほど小さくはない」

「でも両手に乗るくらいには小さいじゃない」

 

 すずかの方へと走っていくユーノを目で追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 ――そこで事件は起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 ユーノに何か茶色と白の物が襲った。動物ゆえか、それとも第六感的な何かが働いたのか。反射的にユーノはそれを避ける。

 

 それはひょいとテーブルに飛び乗った猫だった。茶色と白の毛を持つ、ユーノよりも圧倒的に大きい猫だ。捕まれば口でくわえられてどこかへ連れ去られ――その後の結果は言うまでもない。

 

 そんな惨劇的な未来を想像して、ユーノの全身から血の気が引いた。

 

 スプラッタ映画でもカニバリズムでもあるまいし、自分がそうなるのは勘弁願いたい。というかそんなものを(こいねが)うような異常者はいないだろう。少なくとも自分はそんなんじゃない。

 

 (ユーノから見れば)巨大な手が襲い来る。爪と柔らかな肉球が見えた。

 

 飛び退いてそれを避ける。テーブルに爪が当たる音が聞こえた。

 

 テーブルから飛び降りようかと思ったが、それは得策ではない。話に聞くと、この家には一匹や二匹どころでなく猫が飼われているらしい。追跡者が増えるなんて冗談じゃない。

 

 誰かに飛び乗って隠れるか……そのまま襲ってきたらどうする。

 

 ならばここは男らしく立ち向かい打ち倒せばいいのか。現実的ではない。体格差もあればパワーも違う。互角なのはせいぜいが速さだけだ。

 

 ――結果。なのは達の誰かが助けてくれなければ詰み。

 

『な、なのはぁああああああッ!! た、助けてぇッ!』

 

 念話でなのはにSOS信号を送る。

 

 だが現実は非情だった。

 

『その程度乗り越えて見せろ』

『た、食べられちゃうよぉ!』

『なら貴様はその程度の男だった、というだけだろう』

 

 何もする気はありません、と示すように、なのははゆったりと優雅に紅茶を飲む。エレオノーレであった頃は貴族生まれだったから、法も何もかも心得ている。紅茶を飲む一挙動全てが美しい。

 

「こらっ、ユーノ君をいじめちゃだめっ」

 

 咎めるような語気で言ったのはすずかだった。今にも襲わんとする猫を抱きかかえようと手を伸ばす。

 

 あぁ、神様はいたのかっ! 感動の情が全身から溢れ出した。目頭が熱くなり、漏れそうになる涙をこらえる。なのはの舌打ちが聞こえた気がするが気のせいだろう。

 

 猫がすずかの手に抱きかかえられる。ゆっくりと持ち上げられ、すずかの胸に引き寄せられる。

 

 ふっ、と猫が足を振った。

 

「きゃうんっ」

 

 運が良かったのか悪かったのか。振られた足が(あご)に命中し、ユーノはテーブルの下に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 膝枕ならぬ膝布団とでも言うべきか。芝生に落ちたユーノはなのはの太ももに寝かせられた。

 

 なのはは若干渋ったが、飼い主のもとにいた方がいいだろうとの事。

 

 柔らかい膝布団で横になるユーノは、しばらくの間なのはの鋭い舌の攻撃を受け続けることになったのだが、彼女の辛辣な言葉はほとんど毎日聞いてきたため少し慣れていた。何も感じない訳ではないけれど。

 

 柔らかな肌を全身で感じる。女の子特有の甘い甘い匂いに全身を包まれているように錯覚してしまいそうになる。

 

 辛辣だし自分にも他人にも厳しい。プライドが高くて、自分と同じような年頃の少女とは思えないほどの身体能力と強さもある。ぶっちゃけて言えば子供の癖に子供らしくない。

 

 だがこうして触れてみれば女の子らしい柔らかさがある。他の女の子みたいに、男にはない匂いを振りまく。そして暖かい。思わず眠ってしまいそうだ。

 

 漏れそうになった欠伸(あくび)を噛み殺し、子供らしからずとも女の子な少女の顔を覗き見る。

 

 綺麗な顔立ちだ。自分がもっと単純な男だったら、一目ぼれしていたかもしれない。(大人の前以外)目つきは怒っているかのように鋭いが、顔つきには子供らしい幼さがある。それが魅力の一つだ。「美しい花には棘がある」というのを体現しているかのようだ、とユーノはいつだったか思ったことがあった。

 

『何をじろじろ見ている』

『えっ』

 

 ――ど、どうしてバレたの!?

 

『なんだ? 小動物の癖して、私の足の上で寝て、私相手に発情しているのか』

『ち、違うよっ』

『ならば何を見ていた』

『いや、そのぅ……』

 

 やっぱなのはは可愛いよなぁ、なんて思っていたなどと抜かせば、問答無用で殺される可能性が高い。

 

 あり得ない? 否。彼女に己が理屈が通じない事をすでにユーノは悟っている。

 

『……まぁいい。男が女に発情するのは一般的だ。種族が違い過ぎるのはどうかと思うがな』

(いや、僕一応人間……)

 

 この時ユーノの知ることではないが、彼自身は初対面時、人間状態だったと認識していた。

 

 フェレット状態で出会ったこともあり、何か普通とは違う事は感じていても、人間であると認識はしていなかったなのはには通じない理論なのであった。

 

「お姉ちゃんたちどうしてるのかなぁ」

「恭也さんとイチャイチャしてるんじゃない? 二人きりで」

「ふ、二人きり……」

「……なに想像してんのよ」

「くだらん」

「そーゆーなのははさぁ。好きな人とかいないの?」

「敬愛する方はいても、そんなふざけた存在はない。必要もない」

「敬愛? 誰の事?」

「ふざけた存在ってアンタ……」

 

 大した話をするわけでもなく、三人は好きなことを楽しげに話し合う。

 

 恋話になれば、なのはが「くだらん」と連呼するし、動物の話になればなのはも含めてそこそこ盛り上がる(なのはは適当に相槌を打っているだけだが)。料理の話になると、母親に料理を教えられているなのはが教えることになり、勉強の話になればアリサが騒ぐ。

 

 他愛なく過ぎ去っていく時間。

 

 その終わりを告げたのは、なのはが唐突に感じた魔力の波動だった。

 

「「!」」

 

 力の波動、魔力の波。

 

 かなり近くから襲った圧倒的魔力の風。強制的に意識を向けさせるのは、力の嵐だ。全身をビリビリと震わせるそれは、ジュエルシードから送られた戦場への招待状だ。

 

『なのは!』

『分かっている』

 

 感じる魔力からして、ジュエルシードが発動したのは月村家敷地内。少なくとも屋敷の中ではないようだが、すぐさま現場に向かい対処しなければ、なのはとユーノ以外に被害が出る可能性がある。

 

『……森のほうか』

『僕が飛び出してそっちに行く。なのははそれを追って来て!』

 

 つまり、突然走り出したペットを追いかけろ、という訳だ。

 

 肯定の意を告げると、ユーノは太ももから飛び降りて芝生に着地。奥にある森方面へと走り出した。

 

「あ、あれ? ユーノ!? どこ行くのよっ」

 

 いち早く気づいたのはアリサだった。

 

 飛び出そうとするアリサを手で制し、なのはは立ち上がる。

 

「いい。私が行く」

「なのはがぁ? 珍しいわね……」

「迷子にでもなったら探すのが面倒だ」

「……それは私とユーノ、どっちにいってるのかしらねぇ」

「どっちもだ」

 

 アリサの文句を受け流し、なのはは森の中へと走り入っていく。

 

 同時、封時結界が張られるのを感じた。森を丸ごと包み込み、周囲から空間ごと切り離して時間をずらす。

 

 ユーノを見つけるのは、そう難しい事ではなかった。

 

 いや、正確に言えば、ユーノを見つけたのではなく、ジュエルシードを発動した犯人を見つけたのだ。そしてそのそばにユーノはいた。

 

「……なんだあれは」

 

 ユーノがいたのはとてつもなく巨大な影の上だった。それは木のせいで出来たわけでも、外壁のせいで出来たわけでもない。

 

 それは猫によって作られた(・・・・・・・・・)影だった。

 

 文字通りそれは猫だった。姿も形も猫だ。毛の色もよくいるような色だし、可愛らしい顔が厳つくなっている訳でもない。正真正銘、紛うことなき猫だ。

 

 唯一違うのは……サイズ。

 

 異常に巨大になっている。手足だけで電信柱よりも太い。全長は十メートル以上ありそうだ。一鳴きするだけで、スピーカーの目の前で音を聞いているかのように全身に響くし反響する。

 

「た、多分だけど……猫が“大きくなりたい”って、願ったんじゃないかな。それで……それが正しく……」

「あれは正しく叶えられていると言っていいのか」

「……大きくはなってるよね」

 

 にゃお~ん、と呑気に巨大な鳴き声を上げた。

 

「……気にしても仕方がない。あんなでかい猫迷惑なだけだ。とっとと封印するぞ」

「う、うん……」

《Stand by ready. Set up》

 

 レイジングハートの声と共に、なのはの身体が桃色の魔力に包まれ、バリアジャケットである漆黒の軍服が形成される。レイジングハートはデバイス形態へと変形し、なのはの手に握られた。

 

「全く……リリカルマジカル、ジュエルシード――」

 

 封印しようとデバイスを構え、呪文を唱え始めた。

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはっ、あっははははははははははははは――――――――ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 唐突に甲高い哄笑が響き渡った。

 

 それはなのはの物ではなく、ユーノの物でもなかった。

 

 聞き覚えのない声だ。おそらく女。凛とした印象を受ける声ではあるが、吐き出し鳴り響かせる哄笑がそれを全て塗りつぶす。

 

 瞬間的になのは周囲三六〇度にあるあらゆる気配を探る。森の中から空中にまでセンサーを最大稼働させる。

 

「リリカルマジカルだってッ! うひゃはははははあははははは!! どこの魔法少女なのさって話だよっ! あはッ、あっはははははははははは――――!」

「ど、どこに!?」

 

 なのはもユーノも周辺全てを見回す。誰もいない。気配を探るセンサーも反応しない。

 

 ――違う。

 

 気配を探り誰の気配も探れないんじゃない。これはそういう類の問題ではない。

 

 ただ単純に速すぎる(・・・・・・・・・)

 

 動きが動体視力を軽く超越するほどに速すぎて目視どころか、気配を感じ取る間もなく刹那的ににその場から消失しているのだ。

 

 つまりは完全完璧なステルス。

 

 見えもしなければ感じ取ることも出来ないのであれば、それは透明人間と同義だ。それが人外だろうがなんだろうが関係はない。

 

 なのはですら感じ取れないほどの超速度での疾走。普通の人間も魔導師も不可能だ。いくら強化したところで速すぎれば身体が耐えられない。例え耐えることが出来たとしても、超高速移動だ。思考を加速でもしなければ、すぐさま何かしらに激突する運命をたどる。

 

 だが相手はそれら全ての問題をクリアし、目の前に存在している。

 

 普通の人間でもなければ、普通の魔導師でもない。異常な存在だ。同じく異常な存在を以てしなければ勝ち目はない。

 

 そして相対しているのは……同じく異常な存在であることは言うまでもなかった。

 

「レイジングハート、モードセカンド」

《Yes, my master. Mode Second, Stand by ready》

 

 デバイスモードのレイジングハートが桃色の魔力に包まれ、一瞬でパーツごとに分解される。

 

 魔法の杖ではなく、新たな形態へと移行するため、格納されたパーツを変形させ再構成し、組み上げる。金色の刃を作り出し、純白の銃身を形成する。グリップはなのはの手に合わせて構成した。

 

 二回目の形態移行ゆえに何も躊躇う事はなく、主たる高町なのはの求めた唯一無二の武器へと自身を変生させる。願われたのは二丁。求められたのはイメージ通りに使える形。全てを全て忠実にこなす。

 

 レイジングハートを包んだ魔力球が二つに分かれ、なのはの両手へと触れる。再構成した己が形態へと魔力球の形が変形し、形を成す。

 

 そして魔力の光が霧散し、彼女の両手に握られたのは、二丁の銃剣だった。

 

 杖はやり辛い。砲撃形態は時と場合によっては不利になる。故に求めたのは全距離対応型。万能型である彼女が扱いやすい形。

 

 敵は速すぎて見えない。だがそれは魔人ではない者のみ。相手の速度はユーノら常人には速すぎるかもしれないが、魔人の域ではただそれだけ。見えないなんてことはない。

 

 風が吹き荒れた。敵が巻き起こしたソニックウェーブが、周囲の木を引き裂き千切り薙ぎ倒す。その行方を追ったところでその速度故に意味を成さず、見える(・・・)なのはにも意味がない。

 

 なのはが銃剣を振るった。

 

 瞬間、ガッキィン――ッ!! とレイジングハートの刃と、相手の金色の刃がぶつかった。

 

 相手の速度とパワーを受け止めた副作用で、バカげた衝撃が空気を伝い、暴風と化す。ユーノが地面にしがみつくのが視界の端に見えた。

 

「――ははっ、やっぱり。偶然かと思えばそうじゃなかった」

 

 ギリギリと鍔迫り合う。レイジングハートの剣身とぶつかり合う、金色の魔力のよって形成された魔力刃。その元をたどり漆黒のデバイスに行き当たり、それを手にしている主に目を向ける。

 

 それは魔力光と同じような金だった。

 

 髪は光を反射する金色。両サイドで黒いリボンで纏め、ツインテールとしている。真紅の瞳は正常と狂気の混じり合った色を帯びている。整った顔立ちだ。美少女の類に値する。

 

 その手に持つデバイスの形はハルバード。その穂先の刃を上へと向け、開いた砲身から魔力刃を発生させている。

 

 バリアジャケットはまさしく黒い。黒のレオタードにパレオのようなスカート。黒のブーツ、そして黒のマント。ほとんどが黒で統一され、それらが彼女の美しさを際立たせる。

 

「懐かしい気配がした。懐かしい感覚がした。やっぱり勘違いじゃなった。知ってる匂いだよこれは」

 

 煌めく金の少女は、子供らしく、それでいて子供らしくない狂気を孕んだ笑みを浮かべた。

 

 そうだ。私も知っている。この女を、この少女を、否、この少女の中にいる存在を。

 

 その名は――、

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだねぇッ、エレオノーレ!」

 

 

 

 

 

 

 

「貴様か――シュライバーッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 聖槍十三騎士団黒円卓第十二位、大隊長。

 

 ラインハルトより三騎士の一つ、白騎士(アルベド)を賜った者。

 

 ウォルフガング・シュライバー=フローズヴィトニル(悪名高き狼)

 

 白と赤。

 

 一騎当千の魔人二人が、再会する。

 

 

 




 はい、散々『金髪』と『電撃』からしてあの戦乙女な部下さんなのでは、と思われていた金色の死神の正体は、アンナちゃんでした。

 別に適当に決めたとかではないんですが、今考えてるのとは全く違う理由でシュライバー少佐殿に入ってもらってたんですけど、今となってはなんかしっくりきた感じ。


 話は変わって。
 聖遺物は出ないんですかー、っていう質問がたまに来ることありますが。
 出ます。出ますよ。ただしまだ出ません。
 あと魂云々に関しても、そのうち書いていきます。
 中身が空っぽなのか、そんなことはないのか。そういうのをちゃんと書きますので、今はもうちょっとだけお待ちを。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。