書籍とは異なるアニメ由来の描写と、話の内容に関連する事項への独自解釈があります。
時系列的には二巻以後。直後と言いたいけどアインズ様にそんな暇がないので三巻後くらい。
※作者はゴミ箱勢の為、タイトル元ネタの要素は本文には一切ありません
「
◆
「あ、ナーベラルぅ。帰って来てたんだ?」
エントマ・ヴァシリッサ・ゼータが第九階層の通路をぱたぱたと駆けていく途中、至高の御方に随伴して外の世界へ外出中の筈の姉が反対方向から歩いてくるのを見かけて声をかけると、ナーベラル・ガンマはにこっと妹へ微笑みかけた。
「ええ、久しぶりねエントマ。アインズ様がたまには休みをとるべきだろうと仰って、少しだけ帰ってきたのよ」
より正確に言えば、自分をフォローして欲しかった筈の連れなのに、何故か逆にフォローをするハメになってアインズが頭を痛めた結果。“美姫”ナーベの
どうせ普段から転移魔法で移動時間は誤魔化しているので、移動時間を多少調整して一日の空白を作り、普段は人間社会に置いてくるナーベラルを連れて来た。アインズはそのまま階層守護者達と打ち合わせに入り、その間ナーベラルは当然のようにお役ご免となって解放されてしまったのであった。
「私はアインズ様とご一緒出来る方が余程幸せだから休みなんて要らないのだけどね……突発的に帰ってきても仕事のシフトとか入れないだろうし、どうしようかしら」
「ううー……いいなぁナーベラルぅ……羨ましいぃ」
エントマがじたばたと手を動かして飛び跳ねた。アインズが冒険者モモンとして人間社会に潜入する際にナーベラルを伴うことになって以来、彼女の立場はナザリック地下大墳墓の全てのシモベが泣いて羨む垂涎の的である。ナーベラル本人も、そのことは当然弁えているので、羨ましそうに飛び跳ねる妹の頭を優しく撫でて言った。
「ごめんね、エントマ。私の能力が最も適しているというアインズ様の判断だから、代わってあげるわけにも行かないのよ。……そうそう、代わりというわけではないけれど、お土産を持ってきたの」
「お土産ぇ? わあ、何かな何かな……!」
それを聞いたエントマの目線は、そう言いながらナーベラルが取り出した小袋に吸い込まれた。差し出された何の変哲もない革の袋を受け取ると、ワクワクしながら口を開けて中身を覗き込む。すると、エントマの動きが完全に停止した。
「……ナーベラルぅ……これはぁ……?」
ぎぎぎ、と油を差し忘れたロボットのような動きで首を起こし、姉に問いかけるエントマ。そんな彼女に対し、ナーベラルはにっこりと笑って言った。
「人間の死体よ」
革袋の中には
事件の首謀者として犯人を突き出す必要がある、たとえそれが死体でも。そのように考えていたアインズは、ナーベラルの仕業によって
この灰をかき集めて事件の首謀者ですと言ったら信じて貰えるのかな、そのように悩むアインズに、ナーベラルがおずおずと切り出した。曰く、この灰を一部頂くことはできないでしょうか……こんなもん何に使う気だとアインズが問えば、妹への土産にしたいのだという。その時点でアインズも疑問には思ったのだが……彼自身も結局は人間を捕食する生態は持っていなかったので、まあ姉が土産になると判断したのならなるのだろう。そのように思って、ごく一部なら構わないぞと許可したのであった。
それはともかく。
それらの事情をごく簡単に聞いたエントマが思ったことは、自分は知らないうちにこの姉を怒らせるようなことをしてしまったのだろうか、ということであった。そんなことをしでかした心当たりはないのだが、知らないところで不興を買うことなどこの世には枚挙に暇がないというものである。
これを差し出したのがルプスレギナだったら、からかわれているのだと思うところだし、ソリュシャンであれば、嫌がらせだと断定するところではある。だがしかし、
「……ありがとぉ、ナーベラルぅ」
エントマは気遣いの出来る妹である。人間を捕食する生態を持っていない姉が、妹が代用食のグリーンビスケットで我慢していることを覚えていてくれて、それをフォローする目的で行動を起こしてくれた、そのことが嬉しいのだ。純粋な好意に彩られた姉の無邪気な笑顔を心ない言葉で曇らせたくはない。エントマはそのような感慨の元、礼を言って灰の詰まった革袋を
そして、エントマの挑戦が始まる。
◆
まずは一応、念のため。エントマは革袋の口を開くと、その中に人差し指を突っ込んで中身の灰をほんの一撫で、すくい取った。人差し指についたその灰を難しい表情で凝視した後、おそるおそる仮面蟲の下にある自身の口元に持っていく。
沈黙。
エントマ・ヴァシリッサ・ゼータの体がびくりと痙攣し、顔面の仮面蟲が半回転した。どのような命令が伝わってか、しかめっ面になったその仮面を掴んでゆっくりと正位置に戻す。
そのまま、彼女は無言で革袋の口を閉じると、しかめっ面のままゆっくりと立ち上がって歩み去った。
「おや、エントマではないですか。何か用ですか……わん」
そしてエントマが向かったのは、メイド長であるペストーニャの下であった。彼女は人の体に犬の頭を持つ、どこぞの神話にでも出てきそうな異形種である。実際には一般メイドと変わらないホムンクルスなんだけど。
「メイド長ぉ、お願いがあるんだけどぉ」
差し出された革袋を受け取って中を覗き込み、ペストーニャは眉を顰める。その犬頭の鼻をひくひくと動かして匂いを嗅ぐと、難しげな声を出した。
「微かに漂うこの香り……もしかしてこれは人間の灰ですか?」
「うん、その通りだよぉ」
冷め切った灰に残る僅かな人間の焼けた匂いを正確に嗅ぎ取り、犬の頭に見紛わぬ嗅覚を示して見せたメイド長の識見を賞賛すると、エントマは本題に入った。
「蘇生魔法を、この灰にですか……わん」
この灰に蘇生魔法をかけて肉体を復元することはできないだろうか。エントマにそう問われたペストーニャは、真面目な顔で考え込んだ。
高位の蘇生魔法は、欠損や腐敗はおろか、死体自体がなくても復活を可能とする。そう言う意味では、対象が灰になっていることは問題にはならない。だが。
「この灰……一人分と言うには少ないですね?」
ナーベラルがアインズにお願いして分けて貰ったカジットの灰は、焼け残った分のおよそ五分の一であった。アインズが、灰のうち過半は組合への提出分として残して置きたがった為である。
五分の一の灰からカジットを復活させることは、おそらく不可能ではない。では、残りの灰にもう一度蘇生魔法をかければ、カジットを二人に増殖することは叶うのか? 常識的に言えば、そんなことが起こるとは考えづらいところである。であれば、カジットが蘇生した時点で残りの灰は消えて無くなるのか、それとも消えないが蘇生もかけられないただの灰になるのか。あるいは、それこそ
その辺りの仕様は、至高の御方もおそらく多大な興味を示すところであるだろう。そう言う意味では、ペストーニャもそれを確認するために蘇生魔法をかけることは吝かではないのだが。
「いずれにしても、蘇生魔法の実験にはアインズ様のご許可が必要になるかと思います……わん。そもそもエントマ、この灰がどなたの死体なのかは御存知なのですか?」
「う、それはぁ……」
エントマは返答に詰まった。彼女が把握しているのは、姉のナーベラルがゴミクズのように蹴散らしてきた下等生物のうちの一人のなれの果て、という程度に過ぎない。誰が生き返ることになるのかもよく分からずに、蘇生しようというのは思慮が浅いと言われれば返す言葉もなかった。
エントマは曖昧に言葉を濁すと、もし正式に依頼するときは至高の御方の許可を得てからにするし、こっそり
「……おや、エントマ。どうしたの」
「やっほ、シズぅ」
次にエントマが向かったのは、四番目の姉こと、シズ・デルタの下である。彼女は手を振って近づいてくる妹の姿を確認すると、抱きかかえていたイワトビペンギンのぬいぐるみ……もとい、執事助手のエクレアを側に控えたショッカーの戦闘員に渡した。完全に脱力したエクレアを名残惜しそうに最後にもう一度モフると、手を振って行っていいよと促す。男性使用人がぺこりと頭を下げ、白目を向いたエクレアを抱えてえっちらおっちらと歩き出すのを横目に、シズはエントマへと向き直った。
「あのね、シズ。ちょっとあなた用のドリンクをぉ、分けて欲しいんだけどぉ」
「……私専用ドリンクを? 何故に」
……きな粉牛乳という飲み物がある。察しの良い方はこれだけで理解して頂けたことだろうが、きな粉が灰、牛乳がシズ専用ドリンクというわけだ。エントマが試そうとしているのは、シズ専用ドリンクに混ぜて飲んでみたら美味しく頂けないだろうかという手段であった。
「……ふむ。まあ、飲みたいというのであれば分けてあげなくもない」
専用ドリンクはなにぶんシズ専用と銘打たれているだけのことはあり、基本的にシズ以外の人物が配給して貰うことはできない。エントマとシズは連れだって食堂に向かい、カウンターにて男性使用人にシズ専用ドリンクを二杯注文する。逆に言えば、シズさえいれば、他人に分け与えることも問題視はされない。
「……私はチョコにするけど。エントマは?」
「んー、じゃあ、バナナでお願いぃ」
三種の味をどうするか問われたエントマは、一瞬考え込んでバナナを選択した。これから他の物を混ぜ込もうというのだ、ベースの味はなるべく自己主張が強くない方がいい。そう思っての無難な選択である。
皆のマスコット、シズの姿を認めた一般メイド達が一緒のテーブルに呼ぶのを固辞し、二人で適当なテーブルにつく。そのまま自身はいつも通りに専用ドリンクをちゅうちゅうとストローで啜りながら、シズは妹の様子を無表情なりの興味を込めて見守った。が、しかし、エントマがおもむろに懐から取り出した灰をさらさらとドリンクに流し込むのを目にすると、その目つきに唖然とした物が宿る。そしてさほど間を置かずに、その視線は剣呑な物へと変化した。そんなことにはお構いなく、ふんふんと鼻歌交じりにストローでドリンクをよく掻き混ぜたエントマは、色が若干濁った気がするバナナ味の液体を見てごくりと喉を鳴らした。緊張の面持ちでストローを自身の口元、例によって仮面蟲の下の本物の口に持っていく。ちゅう、と一口その飲み物を啜ったエントマが硬直するや、髪の毛に擬態した虫が逆立ってわしゃわしゃと動き出し、背中から蜘蛛の足がぴょこんと飛び出した。
沈黙。
「……念のため言っておくけど、私専用の飲み物をわざわざ分けてあげたのに、残したりしたらオシオキするから」
「シ、シズぅ……」
先回りした姉に完全に退路を断たれたエントマは、涙目で残りのドリンクを飲み干したのであった。いつもと変わらぬ無表情ながら鬼気迫る様子のシズの姿は、普段彼女をマスコット扱いして持て囃す一般メイド達にしてからが、心胆寒からしめるものであったという。
「ご要望の品ができましたよ、エントマ嬢」
「ありがとぉ……」
そして。
「……あ。いい香りぃ」
エントマがその湯気をすんすんと吸い込むと、仄かに漂った人肉の香りに口元を綻ばせた。
何を隠そう、このグリーンビスケットには、焼く前の種の段階でエントマが渡した灰が練り込んであるのだ。副料理長に頼み込んで作ってもらった特注品である。人肉の香りに食欲を多いに刺激されたエントマは、かりっと焼き上がった熱々のビスケットを手の上で踊らせながら、期待を込めてばりっと一口噛み砕いた。
沈黙。
「う~ん……味は、普通なのぉ」
風味の増した香りとは異なり、味の方はさほど元々のグリーンビスケットとは変化がなかった。むしろ微妙に苦みとえぐみが追加されていて、どちらかと言えば悪い方向に変化しかけていたが、我慢できないと言うほどではなかった。エントマにとっては幸いなことに。
期待ほど味が変わっていなかったことを残念に思いつつも、もそもそとビスケットを咀嚼していくエントマ。とにかくこれで、姉に託されたお土産を消費する目処は立ったと言えるだろう。あまり美味くはないビスケットだが、この特注品を混ぜていくことで、そこそこ目先を変える程度のことは出来るに違いない。
実際に出来ているかはともかく、嗅覚に意識を集中し、味覚からは意識を逸らし。心ここに有らずと言った様子でただただ無心にビスケットを頬張るエントマ。そんな彼女に、背後から声をかける者が居た。
「……エントマ、少々よろしいですか」
「…………ふぁい?」
ぼけっとした様子で、声を掛けて来た人物の方へと振り向いたエントマの目が、焦点が合うにつれて驚愕に見開かれた。
「デッ……デミウルゴス様ぁ!?」
◆
「お……お肉だぁ……」
そして、デミウルゴスに連れられてその部屋に足を踏み入れたエントマが目にした物は。赤々と輝く炭を敷き詰めた上で十分に熱された鉄板と、その傍らに無造作に積まれた赤身の肉であった。積み上がった食材から人間の手だの足だのが見えていなければ、何の変哲もないバーベキューの準備である。
「おっと、いけない。はしたないぃ」
知らず、溢れてきた涎を慌てて袖口で拭うエントマの様子を見て微笑むと、デミウルゴスは一緒に連れてきた副料理長に頷いて見せた。己の役割を心得た副料理長が素早く鉄板の前に陣取って、積まれた肉に手早く串を通して炙り始める。
「……どうぞ、腿肉のタタキでございます」
涎を垂らして期待の眼差しを送るエントマの為に、手早く表面を炙ってスライスした切り身を差し出す。エントマがゴクリと唾を飲み込んでその皿を受け取り、一杯に頬張る。
「美味しいぃ~」
満面の笑顔を浮かべて焼肉を平らげていくエントマを見て、デミウルゴスはほっとしたように息をついた。副料理長が黙って追加の肉を焼き始める。
「とりあえずは、満足して貰えたようで良かったよエントマ」
「あ、ありがとうございまふデミウルゴス様……アレ?」
エントマの目尻にはいつの間にか涙が滲んでいた。ぽろぽろとこぼれ落ちていく涙の粒を、慌てて拭うエントマの様子を、デミウルゴスは苦渋に満ちた顔で見つめる。
「この度は本当に済まなかった……君がそこまで苦しんでいることに気づくのが遅れ、本当に申し訳ない。私の失態を許して欲しい」
「……えぇ?」
突然深々と頭を下げて詫びを入れて来たデミウルゴスの意図が掴めず、困惑するエントマ。何か話がずれている気がする。
「君以外にも禁断症状に苦しんでいるのを、我慢している者達が居るかも知れない……早急に調査して、全員に飢えを凌ぐだけの肉を供給し、アインズ様にご報告申し上げねば……」
「あの、デミウルゴス様? 何のお話ですかぁ?」
一人で納得して話を進めていくデミウルゴスに疑問を呈すると、デミウルゴスは不思議そうにエントマを見返した。
「何って……今回発覚した代用食の継続摂取に関する問題点のことだよ」
デミウルゴスは言った。
プレアデスのエントマ・ヴァシリッサ・ゼータが代用食のグリーンビスケットでは我慢できず、どこからかかき集めてきた人間の灰らしきものを摂取しようとして四苦八苦している――そのような報告を受け、そこまで追い詰められているとは一大事と、慌てて
「あ、あのぉ~。ちょっと、誤解があると思うんですぅ……」
「ん?」
エントマは迷った……事情を正直に話した物かどうか。
だが、相手はナザリック一の賢人・デミウルゴスである。なるべく事情をぼかして曖昧に誤魔化そうとした彼女の試みは容易く打ち砕かれ、断片的な情報から事情を全て推察されるのに時間はかからなかった。
「成る程……そう言うことでしたか。全く、人騒がせな話ですが……まあ、安心しましたよ。君が追い詰められていたわけではなかったと知れて」
「デ、デミウルゴス様ぁ……ナーベラルに、悪気があったわけではないんですぅ。その、なんというか、怒らないであげてぇ」
大真面目に姉を庇うエントマの様子に、デミウルゴスは苦笑して答える。
「君がそう言うなら、私としては是非もない……まあ、穏便に済ますと約束はしましょう。ただ、君は気づいてなかったかもしれませんが、君の行動は結構な騒ぎになっているのです。何も言わずに済ますというわけには行かないでしょうが、いいですね?」
「……はいぃ~」
◆
「デミウルゴス様、お呼びとのことでしたが……あら、エントマも」
「ご苦労様です、ナーベラル。まあ掛けてください」
思い立ったが吉日とばかりに、早速その場に呼びつけられたナーベラル。まあ、彼女が明日にはエ・ランテルに戻る予定であるという事情も有るわけだが。そんな彼女は、デミウルゴスに呼ばれた場にエントマが同席しているのを見て軽く目を見張った。
「ありがとうございます。それで、ご用件は何でしたでしょうか」
「うん、そのね、ナーベラルぅ。今朝貰ったお土産のことなんだけどぉ……」
勧められるままに椅子に掛けるナーベラルに、エントマが話しかける。言い淀む彼女が、けぷっと小さく可愛らしいげっぷをするのをナーベラルは目聡く見咎めた。
「ああ、もう食べたのかしら。どうだった?」
「あー、えーとね、グリーンビスケットに混ぜて貰ったらぁ……風味が変わってぇ、新鮮な気分で食べられたわぁ」
エントマとしては、嘘は言っていない……美味しかったとは一言も言ってないので。そのような含みが彼女に通じるはずもなく、額面通りに受け取ったナーベラルは微笑んだ。
「そう、良かった。喜んでくれて私も嬉しいわ」
「……これこれ、エントマ。それでは話が進まないでしょう。しょうがないですね、ここは私に任せて頂きましょうか」
エントマの煮え切らない態度に業を煮やしたデミウルゴスが進み出ると、あうあうと慌てるエントマを制して立ち上がり、ナーベラルの側に歩み寄る。
きょとんとした顔のナーベラルにデミウルゴスがひそひそと耳打ちをすると、段々と彼女の顔に理解と動揺が広がり、ざーっと血の気の引く音がした。ぐらりとその体がよろめくのをデミウルゴスがそっと支えると、音を立てて椅子が床に転がった。
「エ、エントマ……ごめん、私、そんなつもりじゃ……」
デミウルゴスが彼女の肩から手を離すと、ナーベラルはへなへなとその場に崩れ落ちた。青い顔で謝罪の言葉を呟く彼女の前に、エントマがそっと歩み寄ってその手をとると、静かに首を振った。
「あのねナーベラル。私、嬉しかったんだよぉ」
味など問題ではない。姉が妹を慮って示した不器用な気遣い、それこそが嬉しいのだ。そう語るエントマは、まことにできた妹であった。ナーベラルの表情がくしゃっと歪む。
「エントマぁ……!」
「ナーベラルぅ……!」
そのままひしと互いを抱きしめ合った姉妹の姿は、とても心洗われる光景であった。副料理長とデミウルゴスがうんうんと頷きながらそっとハンカチで目元を抑える。
「――さて、ナーベラル」
「は、はいっ」
デミウルゴスが呼びかけると、ナーベラルが背筋を伸ばし居住まいを正した。その脇に不安そうに抱きつくエントマに軽く目配せすると、デミウルゴスは言葉を続ける。
「エントマの気持ちは彼女自身が言った通りですし……私から特に何か言うことはありません。そこに思うところがあるならば次に活かすよう努めてください」
「……心します」
そう言って頭を下げたナーベラルに頷くと、デミウルゴスはエントマに声を掛けた。
「エントマ。もし君が良ければ、私が進めている実験に協力して欲しいのですが」
「実験ですかぁ?」
「私は今、回復魔法による部位欠損の再生と、欠損部位の状態変化について調べている所です。その中には、切り落とした部位を食べた場合というのも含まれますのでね……」
食事後の経過時間に応じて結果が変動するかを調査する等、多少バリエーションを増やすこともできます。そう言って彼女に肉を摂取する機会を設けようと言うデミウルゴスの説明を受け、エントマの顔に理解が広がった。ぺこりと頭を下げて礼を言う。
「それは、わざわざお気遣いありがとうございますぅ」
「また、詳細については連絡致します。それでは、申し訳ありませんが私も少々忙しいので、これで失礼しますよ。姉妹仲良くしてくださいね」
そう言ってデミウルゴスが一礼すると、二人もそれに合わせて再度頭を下げた。
「お手数をおかけして申し訳ありませんでした、デミウルゴス様」
「ありがとうございましたぁ」
退室するデミウルゴス(と副料理長)を見送り、音を立てて扉が閉まると、エントマは抱きついたナーベラルを見上げて言った。
「……ナーベラル」
「な、ななな何かしら!?」
しどろもどろで応答するのがやっとといった姉の様子を見て、にこりと笑いかける。
「また、お土産お願いねぇ」
その言葉を聞いて眼をぱちくりさせた後に、ナーベラルは顔を輝かせた。
「ええ、楽しみにしていてね」
◆
その後。
姉妹達を始めとする他のシモベ達に出会う度、心配そうな顔をして様々な食べ物を手渡されるエントマの姿があり……その都度、隣のナーベラルが顔を赤らめて悶絶することになるのだが、それはまた別の話である。
どっとはらい。
オチに迷ってGW中に仕上げそこねた話。
ジョースター卿がオチなんてなくてもいいさと仰るので、日常系ほのぼのSSだということにして開き直ってみる。
実際にはただの軽口だろうし、書籍では原形をとどめていた旨の記述があるのですが。
アニメだと完全に灰になってるように見えるので想像を膨らませてみました( ´∀`)