ハイスクール・フリート・プラスワン・アンド・アザー 作:オーバードライヴ
武力を羨望するものたち
海の上で働いていたころの癖で、金曜日の昼にはカレーを食べるという習慣が抜けない。今日使ったレストランは少々スパイスを利かせ過ぎていたように思う。もう少し果物の甘みを活かしてもいい気がした。
「宗谷さんは舌が肥えておりますからなぁ」
「いえ、カレーライスだけは食べつけておりますから」
男性の声が響く。それに答えながら宗谷真雪は窓の外を眺める。どんよりとした曇り空に覆われた道を行きかうのはスーツ姿のビジネスマンばかり。歩道の向こうでは小形の連絡艇が水路を縦横無尽に行きかう。個人所有のものから、会社のロゴが入った短距離用ゴンドラ、公用水上車などが狭い水路を行きかっていた。そこから視線を前に戻す。
「大山議員が主催する金鵄友愛塾ですが、宗谷さんがおっしゃった通りでした。ここ5年でメンバーの構成比率が大きく変化しています」
誰もいない虚空を睨むようにしながら、らっきょうの漬物を口に含む真雪。
「7年前の金井製薬の会長、金井清次郎の加入を皮切りに、いくつもの製薬会社や医療系シンクタンクが続々と金鵄友愛塾に参加しています」
「医療機関への出資額の変動は?」
「当然膨れ上がっています。その中でもずば抜けて投資額が大きいのが4年前から参加している鏑木製薬株式会社です。ほら、バイオ製薬や抗鬱剤などの国内最大手ですよ」
そう言われて真雪はそっと目を細めた。既に空になった皿はどこか薄汚れて見える。二人掛けの席ではテーブルもそこまで広くないが、カレーを食べるには十分すぎるぐらいの広さだ。純白のテーブルクロスが目に眩しい。
「鏑木製薬に関してですがね、噂レベルではありますが、面白い話を小耳に挟みまして」
「それは何かしら?」
「はい、……これについてはサービスとしておきましょう。実は、鏑木製薬ではここ4年ほどで、脳神経外科の医師や抗鬱剤などの開発チーム所属者を中心に強引なヘッドハンティングを行うようになりました。噂では相場の4割から5割増しで雇っているとか」
「……続けなさい」
「はい。これもまた噂レベルではあるのですが、……どうやら、ここ8カ月は厚生労働省の役人が鏑木製薬に出入りしているようです。それもかなりの頻度で」
厚生労働省、その名前が出てきたタイミング、ウェイターが寄ってくる。皿を下げてもらい、同時に千円札を2枚程挟んだ伝票を渡す。恭しく礼をしたウェイターが去っていくのを確認して、真雪は口を開く。
「その役人の名前を調べられるかしら?」
「そうおっしゃられると思って調べておきました、実は……」
「春日井弘忠、厚生労働省健康局疫病対策課課長、かしら?」
「おや、ご存知でしたか。その通りです」
「彼もまた、金鵄友愛塾の塾生ね」
「春日井の参加は18年前、古参の部類にあたります」
男の声に笑みが乗る、それを聞いて真雪は硝子のコップに注がれた水を飲みほした。
「春日井の動きと鏑木製薬に渡された献金の行く末、調べることは可能かしら?」
「不可能ではありませんが、お金がかかります」
「構いません、いつもの5割増しでどう?」
「7割増しで承ります」
「では、それで」
立ち上がる。向かいの席に置いていた小ぶりな鞄を片手に提げる。
「宗谷さんはお得意様です。一つだけ忠告を」
真雪に背を向けるように座っていた男が口をあまり動かさずに告げた。彼の持つナイフに映った目は鋭く真雪を射抜いた。
「同業者が金の匂いを振りまきながら動いています。おそらく公調か内調か……ともかくお気をつけて。私としても貴女とのチャンネルを失うのは痛い」
「……情報ありがとうございます。報告期待しています」
「ご贔屓に」
男はビフテキにナイフを差し込み、食事を続行する。それを尻目に真雪はレストランを出る。ウェイターが慌ててお釣りを持ってこようとするが、受け取ってから、すぐウェイターの胸ポケットに差し入れた。ウェイターが戸惑っている間に曇天の空の下に出る。
「梅雨には早すぎるのだけど、憂鬱になるわね」
水路に沿うように歩く。水上バスの乗り場まではそんなに遠くない。空が泣きだす前にバスに乗ってしまいたい。そう思ったタイミングだった、耳障りなエンジン音が響いた。小形の連絡艇が乱暴に水路に横づけされていた。
「……乗れ、人魚」
響いた低い声に真雪は眉を顰めた。連絡艇のパワーウィンドは僅かに開かれているが声が通るだけだ。スモークガラスのせいで中は見えない。真雪は連絡艇に飛び移るようにしてそのドアを開けた。
「……女性を招くにしては慇懃ではないかしら?」
「話すのは私だ、人魚」
革張りの内装の奥に座る人物が脅しをかけるようにそう言った。日本人にしてはかなり彫りの深い顔立ちが目立つ男は横に置いた杖をいじりながらそう告げた。
「貴様の調査は中止。出ないと不愉快な目に遭うが、よろしいか?」
そう言う声に真雪は一瞬笑みを浮かべた。
「……何がおかしい」
「上級国家公務員が脅しですか」
「なに?」
「その口調と態度は典型的な中央省庁出身者が使うそれね」
そう言うと男は冷たい目で真雪を見る。
「……だから?」
「話をするのは私です」
そう言って真雪は目を細めた。
「貴方がたがどんな事情を抱えていたとしても、未来ある若者三十幾人の命に代えられるようなものではないわ。では」
そう言って連絡艇の扉を開け、改めて外に出ようとする。
「負けたよ、宗谷真雪さん」
溜息交じりにそう言った男を真雪は改めてみる。仕立てがいいスーツはブルーグレーのシンプルな三つボタン。それに包まれた肩が上下した。肩を竦めて、降参の意を示したらしい。
「……適当に回してくれ。こちらとしても事情を話す必要がありそうだ」
男がそう言うと音もなく連絡艇が動きだす。真雪は仕方がなく、連絡艇の中に戻った。
「それで、どちら様? このタイミングということは、公安調査庁かしら。接触がくるなら
「残念ながら全部はずれだ、宗谷さん。職業柄名刺を持っていなくてね、こんなもので失礼するよ」
そう言って男が何かを取り出した。現れたのは小ぶりな手帳、金色の五つの尖った光の影が印刷されている。桜の代紋、旭日章だ。
「……驚いた。貴方、チヨダね」
「警察手帳のみでその答えが出てくるのは偏っているとしか言いようがないな」
「でも、外れてはいないのでしょう」
不満げな男は鼻を鳴らすだけだった。
「
「暴力的極左集団や極右団体の監視、指導。それに関わる合法非合法問わない情報収集の実施」
「ドラマの影響を受けているようだが、及第点だろう。……加えてもう一つ言うなら、そのような過激な思想的背景を持つ人物の
そう言って男は真雪を睨んだ。
「……その情報を素人に探られては困るのだよ、宗谷さん」
「大山議員が
「ノーコメント」
「大山議員が絡む内容でチヨダが監視するとすれば、現状は金鵄友愛塾関連でしょう。金鵄友愛塾は軍再編の必要性を訴える急先鋒。右翼団体からの献金を受けている可能性も高い。いわば右翼団体のロビー活動の窓口となっている状況にある。チヨダにとって監視するに値する団体ね」
男が黙り込んでいるのを言いことに話を進める真冬。
「その金鵄友愛塾の羽振りが良くなったのは製薬会社を大量に丸め込んだあたりから、そしてその中の一つで大きく動き出したのは8ヵ月前、塾生が製薬会社に出入りを公に始めた。……国立海洋研究所から横須賀女子海洋学校に同行調査の依頼の時期とピッタリ一致する」
「なぁ、宗谷さん。憶測で物を語るのはやめないか」
男が嫌そうな声を出したが、真雪は無視。
「チヨダは破防法に規定される犯罪への準備運動がないかも監視対象にしているはず。ここまでの羽振りを考えれば、それに向けた何かが動いている可能性も当然考えていることになる。例えば―――――バイオテロ」
男はしばらく微動だにしなかったが、しばらくの時間が経ってから溜息をついた。
「……未だ仮定の話だぞ」
そう言って男は外を見た。雨粒が一つ、空から落ちてくる。
「金鵄友愛塾は自らを憂国の士として、活動を行っている。国民の一人として国を憂い、行動している、とね。我々もそれを否定するつもりはない。日本は先進国だ。主義主張の自由、言論の自由、行動の自由が認められる。だとしてもその過程で不特定多数に多大なる犠牲を強いるような行動は認められない」
「公共の福祉に反しない限り、ですね」
「そういうことだな」
「つまり、金鵄友愛塾は公共の福祉に反するような何かを起こそうとしている、ということでしょうか?」
その質問に、男は答えない。戻ってきたのは質問だった。
「アストロターフィング。聞いたことは?」
「……人工芝運動。草の根活動を装った特定の団体の
「金鵄友愛塾は極右団体の実質的なロビー活動の窓口となっている。……軍隊ほどの武力がなければ解決できない何かを仕組んでいる可能性がある。それによって日本の再軍備が必要だという世論を醸し出すこと。それにより、日本の再軍備へ向けた法改正を狙いたい。背景はそんなところだろうと、我々は読んでいる」
「その手段として使われているのが、横須賀女子海洋学校の直教艦だと?」
「……仮定の話と言っただろう。状況証拠しかないわけだ」
明らか尖った声に男が淡々と返す。
「でも状況証拠だけは掴んでいるのでしょう?」
「……」
「ここまで話したという事は私も利用する気なんでしょう、チヨダさん? 一方的な搾取はいつか破綻する。Win-Winで行くためにもそこは信頼していただいてもいいはずよね」
あからさまなため息をついて見せる男。
「……ヘスペリデス計画、その計画はそう呼ばれているらしい」
「ヘスペリデスといえば……神話の女神の名前だったかしら」
「ギリシア神話だ。ヘーラーの果樹園を守る女神たちの総称であり、黄金の林檎の世話をするニンフたちだ」
「黄金の林檎とはまた妙なものが出てくるわね。トロイア戦争でも始める気かしら?」
そう言うと不機嫌そうに鼻を鳴らす男。真雪が立ち上がる。
「適当なところで下ろしていただけます?」
「くれぐれも不用意な行動は慎んでもらいたい。素人がどうこうできる状況はとうに超えている」
「あら、それならなんでここまで情報開示をしたのかしら?」
営業用の笑みを浮かべて真雪がそう言う。
「相手のしっぽを引きずりだせばよいのでしょう? 別に私は金鵄友愛塾がどうなろうと知ったことではないわ。そちらについてはその処理ができる人に一任します。私はただわが校の生徒が使い潰される状況を止めたいだけですので」
そう言ってドアを開ける。振り出した雨の匂いが鼻を突く。
「では、失礼、チヨダさん」
そうだけ言って、外に出た。おそらくこちらから連絡を取らなくても、勝手に寄ってくるだろう。
「だから人魚は嫌いなんだ」
そうぼやく声は聞こえないふりをした。
†
晴風の主砲ユニット交換が行われることになったのはいいのだが、これをするためには、波の穏やかな海面を必要とする。本当ならば横須賀なりどこかのドックに寄って行うものなのだが、時間がないということで工作艦『明石』によって作業を進めることになった。
「……最短で二日か、驚異的な速度だな」
柳はそう言ってタブレット端末を覗きながら呟いた。南洋のある島の入り江に停泊させた晴風の前部甲板では、明石のクルーが急ピッチで作業を続けていた。それを艦橋から眺める柳は心底驚いたようだった。
「以前晴風に施された武装のミッションパッケージ化がなせる業です。3日以内に主砲や魚雷などの武装パッケージを任務に適切なものに換装することが可能です」
明石艦長の杉本珊瑚から説明を受けて、柳はタブレット端末を返した。
「操作手順の変更は?」
「俯角の操作の上限値が変わる以外は基本的にありません。機種転換による習熟度訓練は必要ないかと」
「それは助かるな、全く」
「基本的に遠隔操作で砲塔内部のユニットは無人化されていますから、主砲ユニットの換装では基本的に手順の変更などは起きませんから、ご安心ください」
「ん、わかった。とりあえず明石の皆さんには換装をお願いする」
その答えに珊瑚が敬礼、柳も答礼を返して、艦橋を出る、南の島の太陽光は遠慮がない。湿度が高い日本のような不快感ではないが、あっという間に肌がやられそうだ。
「あ、教官!」
「だから教官じゃないっての」
舷側の板張りの所を水着にサンダルという格好で走ってきたのは砲雷科で雷撃手を務める姫路果代子だ。ミントグリーンのリボンと二つ縛りにした明るい茶色の髪が揺れる。
「あれ! 教官が手配してくれたんですか!?」
「あれと言われてもわからないよ」
「G-RX3です! 61センチ径の最新魚雷です!」
そう言われて柳は装備の補給品リストを思い出す。そう言えば6式魚雷の搭載があったのを思い出す。
「武蔵相手にダメージを与える可能性があるならこれぐらいは必要だろうからね。で、そんなにテンション上がるかね?」
「だってブルマーでも使ってない最新装備ですよ!」
「技術的にはもう10年近く前だぞ。噴進弾万々歳な形で警備艇も航洋艦も進化しているからな。弁天型……アメリカだとインディペンデンス級になるのか。それとかも魚雷は324mm径の短魚雷だ。装甲が分厚くて抜けない旧世代の戦艦あたりを相手にするときぐらいしか出番がないぞ」
「それでも魚雷ってロマンがありませんか?」
「ロマンで公務はこなせないの」
「教官の意地悪ー」
「だから教官じゃないと言ってるだろう」
果代子はそう言って頬を膨らませる。それを見た柳は肩を竦めた。
「それでもまあ、今回ばかりはこれが役立つ時が来るかもしれないな」
「本当ですかっ!?」
「いかんせん、相手の装甲が厚いからな。魚雷でぶち抜くという事になるかもしれない」
そういうと表情を明るくする果代子。普段はもっとおっとりとしていて優しい言動なのだが、やはり砲雷科の性なのだろうか。水雷長の西崎芽依の言っていた『撃て撃て魂』が宿っているのだろうか。
「まぁいい、とりあえず午後からは講習会だ。その場しのぎにはなるが、武装系の扱いについてだ。午前中のうちにしっかり羽を伸ばしておけ」
そう言って柳は軽く果代子の肩を叩いて横を抜けた。
「はーい、午後から頑張ります」
響いた声を聞きながら柳はドアを開け、晴風の中に入る。向かうのは小さな部屋だ。ノックを一つ。ドアが開いて、西崎芽依が顔を出した。明度の低い部屋に入れば、数人の女性が詰めていた。その中の一人、平賀が敬礼。
「わざわざすいません、呼び出してしまって。数少ない休息を邪魔してしまっていますね」
「どのみち明石の補修リストの確認などもあったので一向に構いませんよ。それはまぁ、いいんですけどね、平賀監察官。……とりあえず説明を、まずは立石砲術長の処遇から」
そう言うと一人椅子に座らされている志摩の肩が跳ねた。
「責任能力の欠如もなく、精神疾患の兆候も皆無。なぜ発砲沙汰になったのかは不明です」
「だーから! タマちゃんにそんなつもりはないし、理由もないし、そんなことをする奴じゃないって何度も言ってます!」
芽依が不愉快そうにそう言うのを柳は手で制した。
「薬物反応は?」
「サンプルは採取しましたが、結果待ちです」
「では、未だ仮処分の状況ですね。普通の職員なら調査結果が出るまでは自宅謹慎とするのが通例ですが」
柳の言葉に、彼を睨みつける芽依。この人は生徒を守ろうとしていないのかと、表情が雄弁に告げていた。
「それに関してですが、特例措置的に晴風での勤務を継続してもらう方針が良いかと」
「……」
平賀の発言に芽依が目に見えて嬉しそうにするが、柳は表情を険しくしていた。
「ただし、条件として立石志摩二等海上安全整備士の砲術長権限は砲雷科の別の科員に引き継ぐこととします。晴風は現状最低限の人員で業務をかろうじて回している状況です。一人でも人員は欲しいのでは?」
それは立石志摩をヒラの砲雷科の隊員として、砲術長を別の人間にするということだ。この時点で処分人事の体裁は整うことになる。
「人員が減らないのは諸手を上げて歓迎したいところですが、それは立石2士への処分が確定ということでよろしいか?」
「それは……」
「砲術長からの降格処分は仮処分と性質が大きく異なるでしょう。薬物反応などの外的要因の可能性が一切なくなるまでは保留すべきだ」
「ですが、整備局所属艦船への意図的な砲撃を行った以上、処分は避けられませんよ」
「だとしても、法執行機関たる海上安全整備局が冤罪の可能性が一定以上ある状況で処分を下すわけにはいかないだろう。『疑わしきは被告人の利益に』でしょう?」
柳の言葉に平賀は押し黙る。その隙間を埋めるように、柳が言葉を続けた。
「今問題になるのは、結果が出るまでの立石2士の身柄がどこの預かりになるか、それだけでしょう。処分云々は結果が出てからやればいい」
「……それはそうですが」
「裏切り者を自分の船に乗せるのが嫌か? 平賀」
柳がそう言うと、平賀は初めて怒ったような表情を見せた。
「そんなことは言っていません! しかし……」
「
脅すような声の下がり方をして、平賀は観念したようにため息をついた。
「……柳さんの口の堅さを信頼しますが、この件に関しては海上安全委員会より圧力がかかってます」
「……道理で、だな」
柳がそう言って頭を掻きむしった。
「で、整備局側としてのベストの落としどころは?」
「現状、晴風は反乱を起こした船として局内部、及び一部メディアでは認知・報ぜられています。今は整備局の正式艦艇として招き入れていますが、その認識よりもおそらく反乱を起こした船という印象が強いでしょう。その状況で立石2士だけが
「……メディアと世論の好奇の目に晒される、か」
柳が導き出した結論に、平賀が頷いた。
「従って、晴風から立石2士を下ろすのは危険と判断します。また、こちらとしてもことを荒立てたくないのもありますから」
「整備局の所属艦艇同士で無駄な殴り合いだからな。――――わかった、公務執行権限を保留し、こちらで身柄を預かる。期間は彼女の処分が確定するまで。それでいいか?」
「はい、よろしくお願いします」
「という事だ、立石、異議はあるか?」
志摩が首を横に振る。芽依は不満タラタラそうだが、柳はあえて無視をした。
「あとはなにかあるか?」
「一点あります。ヴィルヘミーナさんの処遇についてです」
柳はそう言われ、怪訝な顔をした。
「……アドミラルシュペーについては整備局が保護、整備したんじゃないのか? フリーデブルクさんはそちらに合流することになるんだろう?」
「それについてですが……」
タブレットが差し出され、柳はそれを覗き込む。目が見開かれた。平賀の視線がおちる。
「行方不明……! どういうことだ?」
「昨日夜、応急支援を行っていた工作艦朝日に突如砲撃を開始、それを受けて朝日は海域を離脱、その後アドミラルシュペーの行方はわからないとのことです」
「……どうなってる」
「私にもわかりません。ですが、ヴィルヘミーナさんはこれを聞いて、晴風に同行して、追いたいと」
それを聞いた柳は眉間にしわを寄せた。視線が下がったままの平賀を睨む。
「……あんた、当事者に不確定要素の除去も終わっていない段階で話したのか」
「彼女には知る権利があるでしょう。彼女も当事者ですから」
「
「だとしても今回の騒動に一番のノウハウを持っているのは柳さんたちであり、その現場の意見を知っているヴィルヘミーナさんの同行は、メリットの方が大きいでしょう。武蔵を追いかける手助けにもなるかもしれません。彼女の同行を強く推奨します」
柳は舌打ちをして頭を掻いた。平賀の声からは感情がすっかり落ちていた。それを見て、柳がぼやく。
「プロらしくないな、平賀」
「何とでも言ってください、それでも、解決しなきゃいけない問題があるんです」
「その解決しなきゃいけないものと言うのは、なんだ? 子どもの命を天秤にかけてでも暴かねばならないものか?」
柳の言葉に、平賀が視線を上げた。
「今、日本は、撃鉄が起こされたままの拳銃みたいなものなんです。それを暴発させずに撃鉄を戻さなきゃいけない。そのためには、……手段を選んでいる時間は、ないんです。その間に、撃鉄が落ちれば、もう手遅れなんですよ」
その声は震えていた。柳はそれを聞いて、慎重に言葉を選んだ
「大規模テロの発生、それに今回の所属不明艦が使われる可能性を危惧してるのか」
平賀の返事はない。だが、柳は続けた。
「だから、晴風は身を挺してもそれから日本を救えと言いたいのか」
やはり、返事はない。
「そのために齢十六そこらの学生に銃を持たせるのか。それが、この国の正義か」
「――――だとしても!」
平賀が叫ぶ。その声に志摩と芽依は肩を震わせた。彼女はそこから先に声が続かず、しばらく荒い吐息だけが響く。
「この国を今守れるのは、我々だけなんですよ……。海に生き、海を守り、海を往く。そうでなければ、止められないんです……! もうとっくに政治や経済や倫理でどうこうできる地点は超えてしまっている。だから、もう、武力で止めるしかないんです……!」
「……平賀、お前は何を知っている?」
柳が低く問いかけた。平賀が意を決したように口にする
「ヘスペリデス計画……海上安全整備局の艦艇を使用する大規模テロの計画が進んでいます」
新章突入ですが、いきなり物事進めすぎ案件発生です。どうしようほんと……。
そして大人がメインのせいで晴風クルーが空気ですね……。これ、はいふり二次でいいのか不安一杯で投稿です。
次回からはちゃんとミケ艦長とかましろちゃんとかも、活躍する、はず! なん! です!
ということで、次回は子どもたちメインになればいいなぁと思います(あくまで願望)。
―――――
次回 誰かを守りたいという独善を
それでは次回もよろしくお願いいたします。