ハイスクール・フリート・プラスワン・アンド・アザー   作:オーバードライヴ

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最後の絆と最後の焦慮が

 

 

 コトリと置かれた湯のみとおにぎりにヴィルヘルミーナはゆっくりと顔を上げた。食堂の電気は既に夜間用に明度が暗くなっているが、目を合わせた彼女が微笑んだ。

 

「……ミカン」

「少しでも胃に物を入れといたほうがいいよ」

「わかっとる、わかっとるんじゃが……」

 

 ヴィルヘルミーナは視線を手元に落とした。テーブルの上にはタブレット端末と紙が散乱している。書き散らされた戦略図にはいくつもバツ印が引かれていた。

 

「どうも、気が急いてしかたない」

「そうだろうと思って、はい、梅昆布茶にしたよ。梅のクエン酸で疲労回復、昆布のアルギン酸で新陳代謝が上げられるし、女の子の味方なんだよ」

 

 どこか自信満々でそう言って向かいの席に腰掛ける美甘。彼女の手元にも同じようにおにぎりと湯呑を乗せたトレーがあった。

 

「なんじゃ、ミカンも食べてなかったのか」

「出港用意とかで食事の時間がズレちゃったからね。だから余ったごはんでおにぎりです。中は海苔付が昆布で、ついてないのは高菜漬のおにぎりね」

 

 ヴィルヘルミーナのそれよりも少し小ぶりなおにぎりを手に取った美甘はいただきますと律儀に声に出してから、ぱくりと齧る。

 

「……塩利かせ過ぎたかも」

 

 そう言って眉を顰める美甘の様子を見てから、ヴィルヘルミーナはゆっくりとおにぎりに手を付けた。海苔付きの方を手にして、齧ってみる。目の前に作ってくれた人がいるのに、手を付けないのは失礼だろう。

 

「……おいしい」

「ほんとっ? ……よかったぁ」

 

 ふにゃ、という擬音が似合う笑みを浮かべて美甘が首を傾げた。その姿にちょっとどきりとして、ごまかすように口の中におにぎりを突っ込んだ。握りたてなのだろう。暖かいおにぎりが胃に沁みる。

 

「……よかった。御飯が食べれるなら大丈夫だね」

 

 美甘はそう言って梅昆布茶を一口。おにぎりの横に添えられた黄色いたくあんをポリポリとおいしそうに食べる彼女を、ヴィルヘルミーナは僅かに羨ましく思った。

 

「……いつもと変わらないんじゃな、ミカンは」

「ん?」

 

 そういうとおにぎりを口にしたまま美甘は首を傾げる。慌てて飲み込んだ美甘はいつもと同じテンションで口を開いた。

 

「どうしたの? 急に」

「ミカンは、怖くないのか」

 

 そういうと、美甘はどこか影のある笑みを浮かべて見せた。

 

「……怖くないって言ったら、信じてくれる?」

 

 そういうと美甘はテーブル越しにヴィルヘルミーナの手を取った。晴風クルーの中でもかなり小柄な部類に入る彼女は上半身をテーブルに乗せるような形で無理矢理に体を乗り出してそっと手に触れた。

 

「主計科は烹炊所が仕事場だから上のことはわからないけど、それでも怖いよ。いつ、沈むかわからないし、烹炊所から出火とか、十分ありえることだし……怖いよ。死んじゃうかもしれないと思うと、怖いよ」

 

 でもね、と続けた美甘はそれでもいつも通りの、否、いつも通りに繕おうと笑みを浮かべた。

 

「私にできることをして、動いていないと、もっと怖くなるんだ。何もできずに逃げたらきっと後悔しちゃうから。それが嫌だから、動いてる」

 

 ヴィルヘルミーナの手を包んで、美甘は言葉を紡ぐ。

 

「私にできるのは、おいしいごはんを作ること。みんなを『お腹が空いて力が出ない』なんてことにしないようにすること。それしかできないけど、それならできる」

「……強いな、ミカンは」

「そんなことないよ、ミーちゃんの方がずっと……」

 

 美甘に言い切らせる前にヴィルヘルミーナは首を横に振って否定した。

 

「……冷静さを欠いて、現実から目を逸らして、自分でも、本当に何をしとるんかわからんくなる。……なぁ、ミカン」

 

 

――――――儂は、アドミラル・シュぺーを撃てるんじゃろうか。

 

 

 そう言って、ヴィルヘルミーナは目を伏せた。

 

「絶対に止めなきゃならん。我が祖国ドイツ国共栄圏の一国であるメラネシア-ブーゲンビル侯国と蘭領インドネシアとの戦争は絶対に止めなきゃならんのだ。それは嫌というほど分かっとる。ニューギニア島だけじゃのうて、東南アジア、ヨーロッパ本土も巻き込んだ大戦争になるかもしれん。そんな火種になるくらいなら、我がアドミラル・シュぺーも沈むことを望むじゃろう。それでも、それでもじゃ」

 

 視界が歪んでしまう。それでも動き始めた口は止まってくれなかった。それが自分を傷つけるとしても、それを美甘にぶつけていいものではないとしても、もう止まってくれない。

 

「それでも、怖くなる。儂がテアを殺してしまうかもしれん。助けを求めているのはテアのはずじゃ。アドミラル・シュぺーの異常を艦の外に伝えるように儂に命じたのはテアじゃ。正気を失ってしまう前に、助けを呼ばないとと言って、儂を送り出した。テアこそ逃げたかったはずじゃ。それでも儂を逃がした。それに応える義務が儂にはある。なのに、ずっと逃げて、今でも逃げようとしとる」

「ミーちゃん」

 

 美甘が心配そうに言うが、ヴィルヘルミーナは止まれない。

 

「撃たなきゃ止まらない、でも撃ったらテアが死んでしまうかもしれないなんて、……なんで、こんなことになってしまったんじゃろうか。なにを、どこで、間違えたんだろうか……」

 

 直後にそっと頭に腕が回された。驚いて目を開けるといつの間にか横に立っていた美甘の胸に抱きすくめられるような形になっていた。座ったままのヴィルヘルミーナは無理なく彼女の胸に収まる。

 

 

 

「……辛かったら、泣いてもいいんだよ」

 

 

 

 そう言って幼子を宥めるように髪を梳く。その手は本当に優しく、それに縋りたくなる。

 

「ミカン……」

「今だけ、少しだけ泣いて、シュぺーの皆さんを笑って迎えに行こう? きっと大丈夫。私たちが、晴風が味方だよ」

 

 その言葉に、ほんとうに何かが壊れそうになる。壊れてしまわないように声をかみ殺す。美甘は彼女の頭を強く抱き込んだ。

 

「そうだ、シュぺーのみんなを助けたら、シュぺーとミーちゃんの再会を祝ってパーティーしようよ。補給があったばっかりだし、何でも作れるよ。ソーセージもあるし、和風の料理だって作れるよ。あの後、練習したんだから。少しは上手になったんだから、ドイツ料理も」

 

 美甘は努めて明るい声でそう言った。

 

「うん……うん……! そうじゃな、素晴らしい提案じゃ……! 本当に、いいアイデアじゃ……」

「でしょ? そうと決まれば腕によりをかけて作っちゃうよ!」

 

 美甘に髪を撫で梳かれながら、ヴィルヘルミーナは頷いた。答える余裕もなくなってしまったのか、なんども頷くことで美甘に答えていた。

 

「……大丈夫、助けられる。皆なら、大丈夫」

 

 美甘の声は小さかったが、確かな質量をもって食堂に広がり、細波のように広がった。

 

「大丈夫、なんとかなるよ。ミーちゃん」

 

 その声は、ヴィルヘルミーナの胸を打ち、同時に部屋の入り口でそのやりとり聞いてしまっていた、岬明乃まで届いていた。

 

 

 

 

「……なんとかなる、か」

 

 小さく呟いた声は食堂までは届かないだろう。そう思って呟いたタイミングで肩をトンと叩かれた。叩いた相手――――明乃の上官である柳昂三が背を向けて率先して歩き出す。ついて来いと言うつもりらしい。

 

 そのまま柳は一度外に出た。南洋の湿った汐風が二人の髪を揺らして去る。

 

「……柳教官」

「作戦提案書を確認した。迅速な作戦立案、感謝する。ここから先は私の仕事だ。ご苦労だった」

 

 柳はそう言って軽く笑った。

 

「本当ならこの後はしっかり休んで適当な訓示をして終わりになるんだが……岬艦長、君は今回のシュぺーのこと、どう見る?」

 

 柳の声に、明乃は僅かに視線を落とした。

 

「よく……わかりません。でも、戦争は止めないといけないのは確かです。戦争になったら……」

「誰もが不幸になる。……そうだな。それに関してはその通りだ。だれも戦争を望んでない。でも、確実に戦争を起こしたい勢力が存在する。もしくは戦争になるぞと喧伝したい勢力が存在する」

 

 柳はそう言って煙草のパッケージを取り出した。蓋の内側に張り付いた銀紙を引きちぎるように乱雑に引き抜いた。

 

「ここから先はオフレコで頼むぞ。周囲に公言することは断じて許さん」

 

 安いオイルライターで煙草に火をつけた彼は一息つけてから、声のトーンを落とした。

 

「アルジャーノン・ウィルスを活用した金鵄友愛塾の破壊工作である可能性が高いのは、容易に想像がつくとは思うが、私はこれを我々に鎮圧させることが目的と踏んでいる」

 

 その言葉に明乃は僅かに怪訝な表情を浮かべた。それを予期していたのか柳がすぐに言葉を継いだ。

 

「今回の事件、日本国にとってはあまりに旨みが無いように見える。確かにニューギニア島は鉱石の宝庫だが、日本には本格的に戦闘に介入し漁夫の利を得るだけの持久力はない」

「だから、晴風に……」

「我々第一特務艦艇群が止めることによって、ドイツに恩を売れる。ドイツに対してなんらかの譲歩を求めることぐらいはできるだろう。最も、私が知ることが出来ない高いレベルの条件がある可能性が否定できない以上、ただの憶測に過ぎんが。それでもあまりに不自然だ。このタイミングでアドミラル・シュぺーをけしかけて戦争を引き起こすメリットが見いだせない」

 

 柳の声を聴いてそれでも明乃は頷いた。

 

「でも、そうだとしたら、アドミラル・シュぺーを止められる確率は高いんですよね」

「あくまでアドミラル・シュぺーがアルジャーノン・ウィルスの完全な影響下に置かれていて、金鵄友愛塾の意図が私の予想通りだったらという条件が付くがね」

「だったらやることは変わりません。シュペーは止めなきゃいけない。私たちは止めるだけです。それが誰のためになったとしても、守るべきものは、守らないと。そう、思います」

 

 まっすぐな答えに柳は肩を竦めた。

 

「……そうだな。悪いことを言った」

「え?」

「なんでもないよ。とりあえず、このまま行けば明日の1030時前後には状況が開始されることになる。休んでおけ」

「はいっ! ……柳教官も、休んでくださいね?」

「分かってるよ。この煙草を吸いきったら寝るよ。真冬艦長の根性注入は御免だからな」

 

 その言いぐさに明乃は苦笑いだ。実際に()()にあっただけにいろいろ思い出してしまう。

 

「それでは、お先に失礼します」

「おやすみ」

 

 柳はそう言って明乃を見送った。そして、タブレットを操作する。

 

「……不在着信が入ってると思ったら、いきなりどうしました?」

『悪いわね柳君。そちらの状況は把握してるわ』

「まったく、公務から外れているのになんで情報をリアルタイムで仕入れてくるんですか真雪校長」

『企業秘密という事にしておいて頂戴。……こちらの情報が有益なものに繋がるかもしれないと思って連絡を取らせてもらったわ』

「有益かどうかはこちらで判断します」

 

 通話先の女性にそう答え、柳は煙草を吹かした。

 

『端的に言うわね。北条沙苗という人物は、16年前に死亡しているわ。今北条沙苗として振る舞っているのはその妹の北条更紗である可能性が高い』

「……どういう意味です?」

『文面通りよ。16年前、北条沙苗はベトナムのフエで自殺している。ベトナムの病院に検死報告書が残っていた。間違いなく、北条沙苗はこの世にいないはずの人間よ。時を同じくして失踪している北条更紗という人間にすり替わっている可能性が高い』

「つまり?」

『……彼女の目的は、おそらく復讐よ。彼女らの居場所を奪った、日本と言う国への反逆の可能性がある』

「それを見逃すような敵ですか。金鵄友愛塾がそれを織り込んでいないはずはないでしょう」

『えぇ、それでも彼女を最前線に送り込んでいる。……わかるわよね?』

 

 柳はそれを聞いてため息をついた。

 

「それで、どう追い詰めるつもりですか、金鵄友愛塾の方を」

『それは陸で何とかするわ。あなたたちは任務通り、武蔵を止め、アドミラル・シュぺーを止めてほしい。……陸も海も止めなければ、火の海になる』

「……わかりました。通信に枝がつく可能性がありますので、これで失礼」

 

 柳はそう言って通信を切った。

 

「……本当に、テメェは何者だ、北条」

 

 

 

 

 

 

 

 

    †

 

 

 

 

 

 

 

 

「……正義とは何か、それを定義づけること自体に意味があるのでしょうか?」

 

 真正面から北条の問いを叩き切って、もえかはぼやける視界の奥に北条を捕らえ続けた。

 

 不思議な感覚だ。体が重くて動かせない、頭も高熱が出ているかのようにあやふやだ。それでも必死に意識を繋ぎ止めていく。

 

「ほう、その心は?」

 

 どこか遠くくぐもって聞こえる声を必死にたどる。

 

もし『善いとは何か』と問われるならば、私の答えは『善いとは善いである』であって、それで終わりである。またもしも『善いはいかに定義されるべきか』と問われるならば、私の答えは、『それは定義されえない』であって、私がそれについて言わなければならないことはそれが全てである

「なるほど、G・E・ムーア『倫理学原理(Principia Ethica)』か。君は即ち、私が自然主義的誤謬(ごびゅう)を犯していると言いたいわけだ。正義と他の何かを取り違えていると」

 

 くらくらとする頭でそれでも言葉を追っていく。

 

「あなたは、取り違えている。『善い』は定義できないのに、定義しようとして、それを強要しようとしている」

「それはどうだろう。……そうだね、君がムーアを引いたなら、敬意をもって同じムーアから引用しよう。ムーアはこうも言っている。――――もし私が『善い』だけでなく『善いもの』までが定義できないと考えているならば、私は倫理学の本を書かなかっただろう。というのも私の主たる目的は、善いものの定義を発見することを助けることなのだから。いま私が善いを定義できないということを強調しているのは、そうした方が『善いもの』の定義を求めるときに誤る危険が少なくなるであろうと考えるからに他ならない

 

 朗々と読み上げられるような声はまるで勝ち誇るようなものだった。体は一刻一刻刻むたびに重くなり、身体の自由が利かなくなっていくように思う。それを知ってか知らずか、北条は彼女の傍により、その顔を覗き込んだ。

 

「ムーアは『善い』を定義できないと言ったが『善いもの』を定義することは十分可能だよ。白は白鳥の色だということは誤謬だが、白いものとして白鳥を掲げることは間違いではないはずだ」

 

 北条は彼女の頬を撫でつけ緩やかに笑った。

 

「では知名もえか、質問を切り替えよう。君は正義を成すものを何と定義する?」

「……生き残ることができるという条件を満たしたうえでの、社会格差の是正と、機会の平等の確保」

「ふふん、ジョン・ロールズの『正義論』かな? いかにも優等生らしい答えだ。そこから導くのは戦争行為に対する避けるべき二つのニヒリズム的論法に進むつもりかな? 優秀で結構」

 

 北条はどこか満足そうだ。それでも彼女は言葉を止めない。

 

「ならさ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 その声に、初めて感情らしい感情が過った。

 

「この国はとっくに終わっている。資源も主権も諸外国に寄生して飢えをしのぎ、辛うじて生き残っているにすぎないこの国家には自由も平等もありはしない。君が影響を受けているらしいロールズの考えを借りるなら、正義の第一原理を満たしているとは到底言えない」

「そのために……すべてを、壊すんですか?」

 

 喉の奥で笑うような声が耳朶を打つ。

 

「……だとしたら、どうする?」

 

 熱で魘された頭にその声は滑り込む。どす黒い感情が滲む声。暗闇に包まれたような艦橋に、その声が響く。

 

「……一人の言葉が、一人の行動が、世界を変えることもある。だけど」

「私の行動が大衆の理解を得るに足るとは思えない、かな?」

 

 

 だから、なんだ?

 

 

「……え?」

「だから何だと言ったんだよ、知名もえか。なにか問題があるとでもいうのか?」

「……狂ってますね、本当に」

 

 もえかの言葉には、あはっ、と底抜けに笑い声が返ってきた。

 

「そうとも、今更気が付いたのかい? そうとも、18年前から、ずっと、ずっと、ず――――っとね。私は狂いっぱなしなんだよ。それでも、自らが異端であり、狂った規格外の粗悪品だと知っていれば、優秀な善人を騙ることは容易い。狂って異端で不良品でも、頭の出来は人並み以上だったからね。私の正体に気が付かない人ばかりで、本当に痛快だったよ。それこそ、吐き気がするぐらいにね」

 

 北条の声は至極楽しそうだった。北条は立ち上がったのだろう。声が上から降ってくる。

 

「君と私は似ている。本当によく似ている。慰み者にされ、大切な人を失い、それでもこの世界を捨てきれなかった。自らをこんなにも痛めつけ、死んでしまいたいような苦しみを与えた世界だというのに、この世界を愛してしまっていた。……世界はラッキーだよ! 私達が世界を壊そうとしなかったことに、世界の再生に向けて動き始めたことに! そうは思わないかい、知名もえか!」

 

 まるでオペラのように太く堂々と響くその声は武蔵の中に反響して消える。

 

「だれもが人として平等で、自由で、守られるべきものを守れる世界を! 蒼く清き平和な世界を! 我々なら作り出すことが出来る! 玉座なんていらない! 英雄なんていらない! それでも、この世界を生まれ変えさせた最後の大悪人として滅ぶことが出来るこの境遇を! 幸運と呼ばずして何と呼ぶ!」

 

 そう叫ぶようにそう言って、北条は嗤った。笑ったのではない、嘲ったのだ。

 

 

わたしは絶望した男、反響のない言葉、

すべてを失い、すべてを持っていた男だ。

最後のきずな、わたしの最後の焦慮がお前の中できしむ。

わたしの荒涼たる大地で、お前は最後の薔薇だ!」

 

 飛び出したソネットには聞き覚えがあった。パブロ・ネルーダの詩集『二十の愛の詩と一つの絶望の歌』の中の一遍だ。

 

「君ならわかるはずだ。この世界は狂っている。君の父親もどうしようもない男だったんだろう? 君の大好きなブルーマーメイドの母親の影がなくなったとたん。どうしようもない程の糞野郎に変貌したんだろう? その悪魔の聖別を受けた自分はもう二度と清くはなれない。どうしようもない無力感に苛まれたはずだ」

 

 感情が止められないのか、いつもとは考えられないほどの早口が上から降ってくる

 

「自分の血を呪っただろう。自分の境遇を呪っただろう。この世界を呪っただろう。その呪いは、正義だ。その呪いこそが正義だ。この世界を変え得る劇薬にして、特効薬だ。この世界の価値観に対する呪い、どうしようもない程に狂ってしまったこの世界への呪い! それを受け入れろ! それを肯定しろ! その歪んだ世界観の中でしか生きられない自分を知っていたとしても、その世界を呪わずにはいられない自分を肯定しろ! 君は正義だ! 私たちは正義なんだよ!」

 

 狂ったように叫び、その言葉がさらに太くなる。

 

 

 

「――――()()だ」

 

 

 

 そして、その全てを断ち切った。身体の自由は既に奪われ、首を持ち上げることすら敵わない。それでも、もえかはそう答えた。

 

「……世界の再生なんて思ってないくせに。世界を愛してなんていないくせに。自分以外の誰も見ていないくせに」

 

 抗う。体の自由が利かなくとも、知名もえかは抗う術を知っていた。

 

「箱庭の世界だけをみて、さも世界を知ったように嘯いて」

 

 言葉で、思想で。もえかは抗う。

 

「メッキ張りの独善を振りかざしているだけじゃないですか」

 

 あの子が、そうして抗ったように。言葉で、思いで人を救ってきたように。これには、否と突きつけなければならなかった。

 

 あの子の後ろ姿を幻視する。

 

 守らねばならない。ただ、それだけが彼女を動かし続ける。

 

「それを、正義とは呼ばない。ただの妄想です」

「――――なるほど。君はそう考えるか。面白い」

 

 北条の声のトーンが下がった。

 

「じゃぁ、どっちが正しいか、特等席で眺めてみようじゃないか。知名もえか」

「……私程度の手綱を握れないのに、ミケちゃんを、岬明乃を操れるとは思わないほうがいいですよ、北条教官」

 

 互いが互いの勝利を確信した直後、視界が暗転。

 

「なるほど、アドバイスだな。肝に銘じておこう」

 

 北条の声を最後に、もえかの視界はブラックアウトした。

 

 




……いかがでしょうか。

リアルがハード過ぎて遅れ気味の投稿となりました。お待たせして申し訳ないです。

とりあえず、もかちゃんどれだけ図書館に籠ってたのって疑いたくなるレベルになってきました。アニメを見て思ったのは、もかちゃんの強みは人心掌握術に長けていることなのかなぁと思っています。ある意味一つのカリスマ的ななにかがあるように思います。そうじゃないと一か月も遭難状態でブリッジクルーをまとめておくことなんてできないはずです。

まぁ……そこから膨らませた結果、引用ラッシュで訳わかんねぇよみたいなことになってきました。……本当に大丈夫なのかなぁこれ。

何はともあれ、次回からは戦闘回。なんだかんだで久々なのでどうなるかわかりませんが、お付き合いくださいませ。


――――――
次回 カウントダウンは止まらない
それでは次回もよろしくお願いします。
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