森に入り込んだ人間は、道中でおしゃべりなパラセクトと出くわした。

※二人称小説です。(ポケモン小説スクエア様に投稿済み作品)

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森の中で

 おやおや、こんな辺鄙な森に何のようで来たのですか人間さん。と言っても、言葉は通じないですよねー。

 ――ん? その反応はもしかして、私の言葉が分かるのですか。

 

 なんと、本当ですか。これは驚きです。

 

 初めてですよ、あなたのような方に会うのは。今までこの森には何人か人間が来ましたが、言葉が分かる方にはお会いしたことがありません。

 当たり前だって? それもそうですね。この森に来る人間の数などたかが知れてますし。

 それで、ポケモンの言葉が分かる人間さん。あなたはこの森にはどういった御用で来たのですか?

 

 ……だんまりですか。まぁそれはそれで構いません。私のような見知らぬパラセクトに、話す意味はありませんものね。

 

 しかし私から言わせて貰いますと、この森は人間さんが足を踏み入れるような場所ではありませんよ。この森に漂う胞子は人間さんの体には毒ですから。死にたくなければ早く立ち去ることです。

 

 ――あぁ、なるほど。やはりあなたも彼と同じこと言うのですか。ここで死ぬために来たのでしょう?

 

 何故分かったのか聞きたい顔をしていますね。目ですよ、あなたの眼は彼と同じ目をしている。

 

 死に際に見せたあの彼の目と……。

 

 けれども彼は、あなたのように暗い顔はしていませんでしたが。

 彼とは、私のマスター……トレーナーと言った方が分かりやすいですかね。

 あなたみたいに言葉が通じなかったので、こうして質問することは叶いませんでしたが。

 

 どうして死のうと思ったのですか。あなたの力はすごいと思いますよ。ポケモンと話が出来るのですから、それを上手く使って何かできると思うのですが。

 

 ――そうですか。気味悪がられたのですか。精神科が何か分かりませんが、きっと辛いことをされたのですね。お気の毒に。

 

 ポケモンと話せることであなたの人生はめちゃくちゃになったと、そう言いたいのですね。

 ポケモンはお持ちではないのですか。こうしてお話ができるのです。心許せるパートナーを作っては居ないのですか。

 なるほど、アレルギー持ちで普段はポケモンに近づけないのですか。ならば私が側にいて大丈夫ですか?

 

 いえいえ、アレルギーで全身かゆみに襲われながら死ぬのは、それはそれで辛いと思ったので聞いただけです。

 せめて死ぬ時ぐらいは、安らかに逝きたいでしょう?

 

 死ぬことを止めようとしているのか、進めているのかどっちだですって?

 止めようとはしていませんよ。ただ理由があるならそれがどういった理由なのか、聞きたかっただけです。

 

 ――あなたを見ているとあの時のことを思い出すのです。

 

 少し、過去話をさせて貰ってもいいですか。聞く必要はありませんよ。独り言だと思って構いません。私は、昔マスターと共に旅をしていました。

 

 他にも仲間が居ました。ストライクのストイック、モルフォンのモルンなど、彼は虫タイプが好きな方でした。

 そうでなければパラセクトである私を、育てることはしなかったと思います。彼はバトルが好きでしたが、私たちと戯れることも大好きでした。

 

 自ら言うのもなんですが、特に私は仲間内でも可愛がられていました。

 幸せな日々を過ごしていたと言えばいいですかね。しかし、そんな幸せな日々と言える日は突然終わりを迎えました。

 

 ある日、彼に異変が起きました。

 突然街中で倒れてしまい、病院という所に運ばれたのです。その後、彼は白い服を着た人間さんとなにやら怖い顔で話し合っていました。

 

 ボールの中でしたからよく事情が分かりませんでしたが、嫌な空気だったのを覚えています。

 それから数日後、彼は病院を出ました。

 

 そしてその後の行動は私たちを酷く混乱させました。まったくもって突然でした。彼は私たちを手放し始めたのです。

 ある者はご友人に引き渡され、ある者はレンタルポケモンとして寄付され、保護区に送られる者も居ました。

 

 どうしても引き取り先が見つからない者は、元住処だった場所や住みやすそうな場所に逃がされました。

 当然皆悲しみ、怒っていましたよ。説明もなしに、彼は私たちと縁を切ろうとしたのです。

 

 そのせいで彼をうらむ者も現れました。理不尽な行為もですが、仲間と離れ離れにされたのも私たちにとって辛かった。

 

 何も言わぬまま、最後に残った私を連れて彼はこの森に来ました。

 もとより、パラセクトを欲しいという人間はほとんど居ませんから、野生に帰る覚悟は出来ていました。

 彼は森の奥に入ると、私をボールから出してこう言いました。

 

 お前にだけは話しておきたいことがあると言うのです。それから彼はしゃがみこんで、私の背にある大きなキノコに手を置きながら話し始めました。

 

 何故、私たちを手放したのか。

 

 それは、彼の命がもういくばくも無いというものでした。言葉の意味は理解できませんが、医者と言う方に末期と言われたようです。

 

 だから急いで私たちの面倒を見てくれる方を探した、と言いました。

 彼は自分の体よりも、私たちのことを優先して考えてくれたのです。ぼろぼろの体だったにも関わらずにです。

 

 これを私たちに話さなかったのは、死ぬのが怖くなるからだと言っていました。言ったら決意が崩れるだろうからと言うのです。

 

 それなら何故私に言うのですかと、私は聞きたかった。だけど、あなたのように言葉が分かる方ではありませんでしたから、質問は出来ませんでしたが。

 

 最後に彼は私に命じました。キノコの胞子で眠らせてくれと。私は、命令どおり眠らせました。今では、それが正しかったのか良く分かりません。

 

 えぇ、それから彼は目を覚ますことはありませんでしたよ。彼の体から小さい虫がたかり始めてから、私はようやく死んだことに気づいたのです。

 それまでずっと側に居ましたから、時間の感覚がありませんでした。まぁ、お腹が空いたりした時は、離れてご飯を食べに行ったりしましたが。

 

 彼が死んでから、墓と言うものを作りました。

 

 昔、墓と言うのを彼から教えてもらいましたから、見様見真似で穴を掘り、彼の墓を作ったのです。と言っても、ただ埋めただけですが。

 今も彼はこの森で眠っています。森に一部となって…………なんなら見てみますか?

 

 そうですか、見たくはありませんか。 え? この私に何を頼むのですか?

 

 ……それは、私が彼にしたことを、あなたにしろと言うことですか。何故です?――私にあなたが死ぬことを手助けしてくれと、そうあなたは頼んでいるのですね。

 

 死ぬなら勝手に死になさい。私は手を貸しません。彼だってあなたと違い自然に死んだのです。

 

 あなたは自分で死のうとしているのです。彼と、マスターと同じだと思わないでください。私の胞子は眠らせるだけで、あなたを殺すことは出来ませんよ。

 死んだ後埋めてほしいなら、それだけは手伝いますがね。

 

 ――あぁ、今の言葉は撤回します。もうあなたは手遅れみたいですね。

 どうやら私の話を聞いてくれたせいで、あなたは胞子の毒にやられてしまったようです。

 けれど、今ならまだ間に合うかもしれませんよ。生きる手助けなら、私はしますよ?

 

 ――――やはり、決意は変わりませんか。ならあなたの頼み、聞きましょう。

 

 それではおやすみなさい。良い夢を見られると良いですね。


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