俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~ 作:GJ0083
木々の間から柔らかな光が差す中、小川のせせらぎを聞きながら大きな岩の上で大の字になる。
季節は春、まだ肌寒い山中で白い吐息を吐き出しながらCDプレイヤーのスイッチを入れる。
ここはやはりAIRの曲だろう。個人的に山や海にとても合うと思う。
綺麗な歌声が森の中に響く。
胸から下げている黒い片翼型のネックレス、待機状態の流々武を指で触りながら目を閉じる。
至福。
そう至福である。
転生前の自分は、今頃満員電車の中に詰まって仕事に向かってるかと思うと笑いが込み上げてくる。
神様貯金と小学生と言う社会的責任がほとんどない立場、そしてどこにでも行けるIS。
もうね、幸せすぎて怖くなる。
心配は貯蓄額かな? 織斑家への援助だったり、外遊費などでかなり貯金が減った、これからの事を考えると少し心許ない。
一応、金欠回避策として千冬さんの写真が多量にある。ISの大会『モンド・グロッソ』で千冬さんが優勝したら売り捌く予定である。眠りネズミのコスプレも束さんに写真を頼んでいるのでこれも高値間違いない。
完璧な計画だ。
ISで家を飛び出してから十日、現在俺が居る場所は住んでいる場所から50キロ程離れた山の中、川が流れ、テントを貼るスペースがある良さげな場所をたまたま見つけ現在キャンプ中。
最初は北海道辺りを、と思っていた。
正直に言おう、地下の訓練場ならともかく、大空を飛ぶのめちゃくちゃ怖かった!
最初はテンションが高かったから良かったけど、雲の上からふと下を見たら、感じるはずのない重力に引っ張られる感覚に襲われビビリました。
低空飛行しようと思ったけど、ステルスモードはエネルギー消費が激しい為、万が一に備え止めといた。
泣く泣く近くの山に降りた俺は運良くこの穴場を見つけ今に至っている。
ちなみに、春の山中は冬眠明けのクマや猪が大変危険なので、ISか猟銃を持ってない人は真似しなでください。
テントまで戻りお茶を入れ朝食の準備をする。
ご飯はここで釣ったヤマメ。調味料は塩と空腹。
朝っぱらから焼き魚とか幸せだな~。と思いなが魚にかぶりついていたら、目の前にいきなり画面が現れた。
「しーく~ん。た~す~け~て~」
目の下のクマにぼさぼさの髪、久しぶりのお疲れモードの束さんだった。
「お久しぶりですね。随分酷い有様ですがどうしたんです?」
束さんが助けてとはただ事ではない。
「早く帰ってきて~」
束さんが泣きながら予想外のお願いをしてきた。
「箒ちゃんが可愛くて小悪魔なんだよ~」
「落ち着いて初めから説明しなさい」
箒が可愛いのは俺も知ってます。
束さんの話を要約すると。
お茶会したら箒との心の距離が縮まった。
それから電話が来る様になった。内容はノロケ話と俺との仲の勘ぐり。
ISコアの製作で忙しいが、愛する妹を邪険にできない、と頑張って誤解を解こうとしたがなかなか勘違いを直せず連日質問攻めにされているらしい。
「俺との仲って、一体なぜそんな事に?」
箒も女の子って事か、まさかそんな勘ぐりされるとは。
それにしても箒と恋バナとは、束さんも成長したね。
「そんなの束さんが知りたいよ~。『別に普通に好きなだけだよ?』って言っても納得してくれないし」
あぁ、うん、普通に誤解されそうな事言ってそうだよこの人。
女の子が男に対して簡単に好きって言葉を使ってはいけません。
「箒ちゃんが言うにはね、好きって種類があるんだって、ねえしー君、束さんて、しー君の事を人として好きなのか、男として好きなのか、どっちだと思う?」
それ俺に聞くんですか?
なんの罰ゲームだよ。
束さんの表情を観察する。
画面越しとはいえ、真面目な顔をしていて、そこに一切のテレや恥じらいはない。
下手に誤魔化さない方がいいか。
「そうですね、束さんにとって、俺との思い出で一番楽しかった事、嬉しかった事はなんですか?」
束さんの気持ちがloveなら、答えは遊園地になると思うけど――
膝枕とか手作りお弁当とか、一番それっぽいイベントだし。
「う~ん、温泉でちーちゃんを盗撮した時かな?」
うん、これやっぱり勘違いしたら恥ずかしいやつだ。
「理由を聞いても?」
「しー君が束さんに向かって『千冬さんを盗撮するの手伝ってくれません?』って言った時、なんでか嬉しかったんだよね。あと、ちーちゃんの動きを予測しながらカメラ仕掛けたりするのすごく楽しかったんだよ」
納得できる理由だ。
千冬さんは親友だが、二人の仲は『ライバルと書いて親友と読む』ってのが近い。
その点俺は違う。一緒に悪巧みして一緒に怒られる。『遊び仲間』って感じ。
そう、束さんにとって初めての『遊び仲間』
いや、ほんとこれなんの罰ゲーム? 自画自賛でもの凄い恥ずかしいんだが。
「次に箒に聞かれたら「友愛」って答えてください――それで? 他にも何かあるんですよね?」
それだけの理由で帰って来てなんて言わないだろう。
案の定、束さんの顔が曇る。
「えっとね、箒ちゃんの事はオマケなんだよ。本当の理由はコレ」
束さんが気まずそうに一枚の紙を取り出す。
流石に何が書いてあるかは見えない。
「それは?」
「契約書……内容は『流々武の修理費を無料にする』だよ」
「なんで壊れる事前提の話なんですか?」
流々武の名前を知ってるって事は相手は千冬さんだろう。
俺なにかしたっけ? まさかコスプレの復讐? 次はないぞって言う警告?
「ちーちゃんがね、帰って来ないと白騎士使って無理矢理連れ戻すって……それでちーちゃんに無理矢理この契約書を……」
「なんで!? 白騎士なんで!?」
まじで何かしたか俺?
いや、落ち着くんだ。怒りや恨みを買っていたら今頃俺の目に前には白騎士がいるはず。
「束さん、千冬さんは何か言ってましたか?」
「うん、あのね、『学校をさぼるな』とか『道場をさぼるな』とか、色々言ってたけど、ちーちゃんの本音は最後の一言だと思う――」
ゴクリと喉が鳴る。
「『神一郎がいないと一夏の食事が寂しくなる』って」
「餌付けの弊害!?」
誰だよ千冬さんに『一夏の笑顔と自分のプライドどっちが大事?』なんて偉そうなこと言って奴!? 俺だよ!
完璧予想外だよ。まさかそんな理由とは。
いや、予想外か? 考えてみよう。
千冬さんが学校帰りにバイトに行く(千冬さんの晩飯は一夏のお弁当かバイト先のまかないと仮定)
夜帰宅すると一夏が夕食中。
ポリポリと漬物だけでご飯を食べる一夏。(本人は節約&ただ好きなもの食べているだけで悪気はない)
うん、白騎士持ち出してもおかしくないな。
お土産はご飯に合うオカズ系にしよう。
「了解しました。今日の夜には帰ります」
箒の誤解も俺から言っておいた方がいいだろうし。
白騎士怖いし。
「ごめんねしー君」
しょんぼりとする束さん。
疲れてるからだろうか、今日はいつもよりテンションが低い。
「別に束さんが悪い訳じゃないですよ?」
「でも、しー君は今夢を叶えてる途中でしょ? なのに邪魔しちゃったから」
なんとも可愛いこと言ってくれるなこの子は。
「束さん、友達に余計な気遣いはいりませんよ」
束さんのお陰で俺は今ここにいる。
その恩くらいは返したいしね。
「うん。ありがとうしー君」
「いえいえ、それと一つ聞きたいんですが?」
「なにかな?」
「これから先、遊園地の時みたいに一夏や箒と遊ぶ機会があったら行きたいですか?」
「その聞き方だと……わかってるんだね? 束さんがそろそろ家を出ようとしてる事」
原作では、一夏と箒が小学三4年生の時に束さんは失踪した。
時期的にはそろそろ考えてると思ったけど、そうか、もう計画してるのか。
「いつかはまだ決まってないんですか?」
「うん、箒ちゃんの事とか相談してから決めようと思って」
「俺もその事で話があります。でも、こんな画面越しで話す内容じゃない」
「そうだね。束さんもしー君と会ってお話したい」
「ゴールデンウィーク明けにみんなでキャンプに行こうと思ってるんです。なので、参加してくれませんか?」
「それは……」
「箒と会うのが怖いですか?」
束さんがビクッとする。
束さんが憔悴している理由、それは箒との電話が辛かったんだろう。
恋バナしたり、妹のノロケを聞いたりしてる中、心の中では妹を捨て身を隠す準備をしている。妹大好き束さんには酷だな。
「束さん、キャンプだけでも参加してくれませんか? なんせ束さんがいないとキャンプ場まで行く足がない」
「しー君が運転すればいいじゃん――それに束さんも免許ないよ」
「千冬さんが許さないかと。束さんにお願いするのは運転出来る人材の確保です。束さんから頼めばお国の人借りれません?」
「それは出来ると思うけど……」
「だったら、ね? みんなの為にも」
「――わかったよ」
渋々頷いてくれた。
束さん的には、お茶会が箒と顔を合わせる最後の機会のつもりだったかもしれない。
だけど、そんなの寂しいじゃないか。
しかしアレだな。
真面目な話すると疲れるな。
「所で束さん。最後にお風呂に入ったのいつです?」
こんな真面目な話で会話が終わるのは俺達らしくないよね。
「ほえ!? いきなりなにさ!?」
「随分と髪が傷んでるみたいだし。忙しいんでしょ? あれですか、一週間くらいですか? 大台ですか?」
「き、昨日入ったもん」
プイッと目を逸らした。
なんてわかりやすく嘘を吐くんだろう。
「それじゃあ――今から会いに行っていいですか? あ、通信は繋いだままでお願いします」
「え!? でも、ほら、ここは関係者以外立ち入り禁止の場所だし?」
「今すぐ束さんに会いたいんです(キリッ)」
「しー君、そんなに束さんの事を……って、騙されないもん! しー君! 何が目的!?」
「束さんの匂いを嗅ぎたい(キリッ)」
「まさかの匂いフェチ!? でもしー君が望むなら……」
「そんで指差して『やーいスイカ女~』って言いながらそこの研究員さん達と笑い合いたい」
「しー君は最近調子に乗りすぎだと思うの(ポチ)」
「ピッカッチュウ!?」
久しぶりの電撃を味わう。
画面に映る束さんは怒っているようで笑っていた。
先週まで、評価バーが無色だったのに、いきなり色が付くしお気に入りが3倍近くなるしで嬉しい悲鳴でした。
読者の皆様、ありがとうございますm(_ _)m