俺の夢にはISが必要だ!~目指せISゲットで漢のロマンと理想の老後~ 作:GJ0083
季節は夏。
めでたく夏休みを迎えた俺は目の前のソファーに座る二人に目を向ける。
そこに居るのはご存知、織斑姉弟。
二人はなぜ呼ばれたのかわからず怪訝な顔をしている。
「という訳で、明日の篠ノ之神社の夏祭りでお店を出したいと思います」
俺のセリフにポカンとした顔をする二人。
まぁ、という訳も何も説明一切無しで話を切り出したんだけどね。
しかしこの二人は本当に似てるな。一夏に千冬さんのコスプレさせれば一儲けできるかな?
「質問がある人は手を挙げてください」
「はい!」
一夏が勢い良く手を挙げた。
「はい、一夏」
「お店って何の店ですか?」
一夏は満面の笑みでそう聞いてきた。
うんうん、そこまで喜んで貰えると企画した側としても嬉しい。
祭りでお店とか男としてテンション上がるよな。
「店はかき氷屋とイカ焼き屋だよ」
うぉぉと喜ぶ一夏。
それに比べ――
「千冬さんは何かありませんか?」
何も言わず、じっと俺を見ている千冬さんに話を振る。
「一つ一つ聞くのは面倒だ。神一郎、さっさと全部話せ」
ため息混じりで言う千冬さん。
なんだろ、信用なのか慣れなのかわからないが、こう反応が薄いと寂しいぞ。
「えーでは、まず今回の目的ですが、ズバリ金です」
千冬さんと一夏の表情が真面目なものになる。
「一夏、かき氷屋とイカ焼き屋の共通点ってわかる?」
「え? 共通点?」
一夏が腕を組んで首を傾げる。
流石にわからないか。
「正解はね。材料費がほぼタダって事」
俺の答えを聞いても一夏はピンとこないらしく、まだ首を捻っている。
「一夏、氷って水だろ? 水なんてどこにでもあるものだろ?」
一夏はコクりと頷く。
公園の水や山の湧水を飲めるのは国と自然を守る人達のお陰だ、本当にありがたい。
「そしてシロップ、まぁシロップ自体は安い物も多いけど、自分で作ればさらに安い」
一夏は感心した様にウンウンと頷く。
「そしてイカだが、さて一夏、ここまで聞いてて何か閃かないか?」
一夏は目を瞑り――
「わかった!」
カッと目を開いて笑顔を作る。
「釣れば良いんだ!」
「その通り、釣れば元手は0円だ」
一夏は、スゲーそんな方法が、と喜んでいる。
「神一郎、機材はどうする?」
「かき氷機は廃棄されてた奴を修理して使います。イカを焼くのは、俺の持っている大きめのバーベキューコンロがあるのでそれを」
「売り上げは折半か?」
「もちろん」
「ふむ」
千冬さんは顎に手を当て何やら考え込んでいる。
また借りがどうとか考えてるんだろうな。
「千冬姉……ダメかな?」
そんな千冬さんに一夏が上目遣いでおねだりする。
「滅多にできない経験だし、たまには良いだろう」
おおう、チョロいな。
あっさりとOK出たよ。
「千冬姉、ありがとう!」
一夏が満面の笑みを千冬さんに向ける。
千冬さんはその一夏から視線をそらす。
照れてるんですねわかります。
「それで神一郎さん、これから何をすれば良いんですか?」
一夏は俺にも笑みを向けてくる。
楽しそうな顔してるのに非常に申し訳ないけど。
「特にないよ?」
「え? その、準備とかは?」
「一夏のやる気に水を差す様で悪いんだが、事前準備はほとんど終わってるんだよ。これからするのは、シロップ作り、氷の確保、イカを釣ってくる。の三つだけ」
一夏は少し気落ちした顔をしてしまった。
祭りって事前準備も楽しいもんな。わかるよ一夏の気持ち。
だって俺も楽しんで準備してたから。
楽しすぎて一夏のやる事が無くなってしまったけど。
「その三つは手伝う事ないんですか? シロップ作りとかなら手伝えると思いますけど……」
「それなんだが、格安にする為にある人に頼んじゃった」
「ある人?」
一夏が首を傾げ、千冬さんはその人物が思い当たるのか眉を寄せる。
その時。
『ふっふっふっ』
部屋に声が響く。
一夏は素直に驚いて辺りを見回し、千冬さんは深くため息をついた。
『そう、私こそが、かき氷機の修理からその他のアレコレまで請け負った影の立役者――』
「たっばねさんだよ~」
ぎゅむ
千冬さんが座っていたソファーの後ろから現れた束さんは、千冬さんに覆いかぶさるように抱きつき、その両手で千冬さんの胸を鷲掴みにした。
俺と一夏の視線が一部に集中したのはしょうがないと思う。
「あれ? ちーちゃん怒んないの?」
千冬さんがノーリアクションのをいい事に束さんはさらにムニムニと――
なんて命知らずな。
「束、私はちゃんと学んでいる」
千冬さんが束さんにゆっくりと手を伸ばす。
「なにお゛!?」
その手は束さんの顔面をしっかりと掴む。
「部屋の中で殴り飛ばせば神一郎の私物を壊す可能性がある」
見事なアイアンクロー。
冷静な判断で家主として嬉しいです。
「ちょ、ちーちゃん、顔が、束さんのキュートなお顔が潰れちゃう!?」
「安心しろ束、お前は言うほど可愛くない」
「ひどっ! そして痛いっ!」
メキメキと擬音が聞こえそうなほど千冬さんが力を入れる。
「ごめんないごめんなさいごめんなさ~い!」
「そのまま逝け」
泣きながら謝る束さんに千冬さんは無情にもトドメを刺そうとする。
「千冬さん待って、今回は束さんの力が必要だから」
「ちっ」
俺の言葉を聞いて千冬さんが舌打ちしながら手を放す。
「うぅ~、束さんの頭が割れる所だった。しー君ナイスだよ」
束さんは床にへたり込みながら自分の顔ペタペタと触る。
こちらこそ良いもの見れました。ナイス束さん。
「あの~、神一郎さん?」
「どうした一夏?」
今まで黙っていた一夏が手を上げる。
「その……シロップって束さんが作るんですか?」
一夏の顔色が若干青くなっている。
過去の事案を思い出せばそうなるよね。
「そうだよ。まぁ一夏の心配も理解できる。だから一度試してみようか」
台所に向かい、自前のかき氷機でかき氷を二つ作る。
さらにコップに水を入れ、それを居間のテーブルに置く。
「それでは二人共注目してください」
二人が俺に注目する。
「まず、色付けの為の粉を水に加えます」
用意した小瓶に入っている粉を水に入れスプーンでかき回す。
そうするとコップの水が鮮やかな青に変わる。
「では束さんお願いします」
「は~い」
いつの間にか隣に立った束さんにコップを渡す。
束さんはコップを左手で持ち、右手でコップに何か入れる仕草をする。
「アブラ~カタブラ~」
そのコップを両手で持ち上げ呪文を唱える。
「しー君できたよ~」
「了解」
束さんからそのコップを受け取り、スプーンでかき氷に出来上がったシロップをかける。
それを二人の前に置き。
「「ブルーハワイおあがりよ」」
手のひらを上にし、束さんと二人でポーズを決める。
「食えるか!」
予想通り千冬さんにツッコまれる。
「まぁまぁ落ち着いて、毒じゃありませんから」
「さっきの粉はなんだ?」
「着色料です」
「束は何をした?」
「味付けだよ~」
「千冬さんの心配はわかります。だけど、これは本当に無害なんです。俺が保証します。だから――」
束さんとの一瞬のアイコンタクト。
「ほら千冬さん、あ~ん」
「はいいっくん、あ~ん」
二人でスプーンをそれぞれの口元に持って行く。
「おい、なんの真似だ神一郎」
「た、束さん?」
急な展開に目を白黒する二人。
「千冬さん、騙されたと思って」
「いっくんは食べてくれるよね?」
さあさあ、とスプーンをさらに近づける。
「はぁ、しょーがない」
「束さん、食べますから! ちょっと離れてください」
恐る恐る口を開く織斑姉弟の口にスプーンを入れる。
しゃくしゃくと咀嚼音だけが聞こえる。
「普通だな」
「そうだね千冬姉。普通のかき氷だ」
驚いた顔をしながら、二人は、二口、三口と自分からかき氷を食べ始めた。
「しかし神一郎が水に入れた粉はなんなんだ? 着色料と言っていたが、普通に作るより安くなるものなのか?」
「千冬さん、着色料は気にしないでください」
着色料について考えてはいけない。調べてはいけない。
それが現代社会に生きる者のルール。
本当は怖い着色料ってね。
今回使ってるのは無害だけど。
「まぁ、そんなこんなで準備は全部任せてください。二人の力が必要なのは明日からなんで」
千冬さんと一夏はさっきのシロップ作りで若干不安がってる様だが、俺は笑顔で押し切った。
◇◇ ◇◇
太平洋某所。
現在、流々武を装着し海面近くを飛びながら移動している。
周囲に灯りは一切なく、夜空の月明かりがとても綺麗だ。
「束さん、この辺ですか?」
流々武の右肩に座っている束さんに話かける。
「うん、この辺だね。束さん特製『イカスメルたん』に反応有りだよ」
ギリギリなネーミングだ。
イカ匂い探知機と言いたいのかな?
「それじゃあこの辺でやりますか」
移動を止め海面に近付く。
真っ黒な海を指差し。
「いけタバゴン! フラッシュだ!」
束さんに指示を出す。
「タバタバ~♪」
束さんが鳴き声をあげると、周囲にライトが展開され、それらは一斉に海面を照らす。
やだこの子、ノリが良い!?
イカが光に誘われ集まってくるまで束さんと会話をして時間を潰す。
ものの数分だろうか、気付いたらイカの姿が海面近くに見えるようになった。
できれば竿でイカ釣りを楽しみたいが、いかんせん必要数が多いし、時間が余りないため今回は断念する。
拡張領域から直径1メートルの木製の桶を取り出し海に浮かべ、少し海水を入れる。
さらに拡張領域から投網を取り出し。
「そ~れ」
海に投げ入れる。
それを引っ張ると。
「「お~」」
俺と束さんの声が重なる。
網の中はイカで一杯だった。
それを桶の中に入れる。
この調子ならすぐ目標数を達成しそうだ。
数回投網を投げると、桶の中がそこそこ一杯になった。
こんなもんかな。
桶の中でイカ達が暴れていた。
今すぐ刺身で食べたい気持ちをグッと我慢する。
今度は桶を指差し。
「いけタバゴン! れいとうビームだ!」
「タバ~♪」
束さんが鳴き声と共に拡張領域から取り出したのはSF映画に出てくるような一品。
アンテナに棒を刺した形状をしている銃の様な物だった。
束さんがカチッとトリガーを押す。
するとピキピキと音が聞こえた。
よく見ると桶の中の海水が凍り始めている。
だけどこれは……。
「ねぇ束さん」
「ごめんしー君、これ不可視なんだよ」
「今度までに色付けお願いします」
「うん、やっとくよ」
束さんが神妙に頷いてくれた。
ハイパーセンサーで何か照射されてるのは確認できるんだが、いかんせん絵面が寂しい。
桶の中が完全に凍りついたのを確認してから、桶にロープを通して右手から桶をぶら下げる様にロープを持つ。
「それじゃ次の場所に向かいますか」
「は~い」
場所を移動して現在地は南極。
気温は-23℃
ISがなければ凍え死んでいるだろう。
轟々と吹く吹雪が流々武を濡らす。
できれば南極点に行ってみたいが。南極を楽しむのは次の機会にしておこう。
「束さん、この辺りの氷はどうです?」
束さんはしゃがんで地面を調べている。
ISなしでよく平然としてられるな。
「うん、ここの氷は大丈夫だよ」
束さんの許しが出たので氷の掘り出しにかかる。
まずはツルハシを手に持って。
「よいせ!」
地面に打ち下ろす。
いや、地面は正しくないか。
ここは氷の上なんだから。
氷に丸い穴があく。
そこから間隔をあけてさらに円状に穴をあけていく。
次にスコップを持ち。
「ほいさ!」
ツルハシで空けた穴と穴を繋ぐ様にスコップを刺す。
同じ作業を繰り返し。
「どっせ~」
スコップで氷の塊を持ち上げる様に掘り出す。
直径2m程の塊が取れた。
それにロープを巻きつける。
「束さん、お願いします」
「ほいほい」
束さんはぴょんと氷の上に飛び乗り――悲しい顔をした。
「お尻がちゅべたい」
そりゃ氷に直に座ったら冷たいよ。
「はい、これ下に敷いてください」
拡張領域から座布団を取り出し束さんに渡す。
「ありがとうしー君」
「いえいえ」
右手のロープの先にはイカが入った桶。
左手のロープの先に氷の塊とそれに座った束さん。
準備はできた。
ゆっくりと上昇する。
「やっぱり日本につく頃には完璧に日が昇っちゃますね。束さん、予定通りお願いします」
「任せたまえ」
束さんが腰に手を当てえっへんと威張る。
「夜の帳」
流々武は自身は消せるが持っているものは消せない。
だから今他人が見たら桶と氷が宙に浮いてる様に見えてしまう。
なので。
「ミエナクナ~ル君」
束さんもステルスを発動させる事でその二つも見えなくなる。
「さて、日本に向けて飛ばしますよ。落ちないでくださいよ」
「おうさ」
あと数時間で祭りが始まる。
どんな一日になるか楽しみだ。