好き好きアインズ様!『守護者記念隠し芸大会』!?
時は王都襲撃後――
『先の王都での作戦成功を祝って、アインズ様を慰労する隠し芸大会を実施する計画を立てている。
ついては、各守護者達の芸の出来を第三者的視点から評価してもらいたい』

守護者統括から下された難度200なミッションに、戦闘メイド達が挑む!

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十七の瞳

ナザリック地下大墳墓第9階層――"レンタル会議室"

 

名前の通り、ちょっとした内々の会議などで使用されるような部屋。

使用目的は特に決まっておらず、ありとあらゆる施設が混在するナザリック内においては、逆に言えば使い道に困る類の部屋。

かつてアインズ・ウール・ゴウンの仲間達が悪乗りで作ったものだが「辛い現実を思い出させる」という理由から忌避され、また、ギルドメンバー達が集まる際には主に円卓(ラウンドテーブル)が用いられた為、会議室としてすら需要がないまま、結局作るだけ作った後は一度も使われることなく放置されていた部屋の一つでもある。

 

それがこの異世界において、初めて使用された。

この部屋の名称を繰り返そう。

 

 

"レンタル会議室"

 

 

白を基調にした床や天井には何の装飾も施されておらず、よくいえばシンプルな、悪くいえば殺風景な室内には、申し訳程度に置かれた花瓶に生けられた造花を除けば、ゴゥゴゥと耳障りな作動音を響かせる空調設備にホワイトボード、部屋の中央には4脚の会議用机を重ねて作った大きな長方形の卓が鎮座し、そしてパイプ椅子が向かい合わせに3脚ずつ、計6脚置かれているのみ。

 

空の箱が6つ、卓上に並べられているのが奇妙といえば奇妙だ。

 

そんな飾り気のない室内にいるのは、メイド服に身を包んだ見目麗しい6人の美女。

言わずと知れた、戦闘メイド"七姉妹(プレイアデス)"が内、彼女を除く全メンバーが勢揃いしていた。

 

「珍しいこともあるものですね、私達が一堂に会するなんて」

「そうね、あの子が来られないのは残念だけど・・・。それでユリ姉様、今日は一体何の用なのですか?」

「そうそう、カルネ村の監視という超きちょーな任務を一時中断して戻って来たんすけど、何かあったんすか?」

「アルベド様から、ご命令を戴いたので」

「・・・・・・・・・・・・アルベド様から?」

「ゴ命令ィ?」

 

「アルベド様からのご命令を伝えるわ。

 

『先の王都での作戦成功を祝って、アインズ様を慰労する為、守護者全員で隠し芸大会を開く計画を立てているわ。ついてはアインズ様にご披露する前に、各守護者達の芸の出来を第三者的視点から評価、改善点など忌憚のない意見を述べて欲しいの』

 

とのことよ」

 

「あんま似てないすね」

「・・・・・・・・・・・・ユリ姉、無理するな」

「う、うるさいわね」

「隠シ芸ィ?」

「変わった特技などですね。声帯模写や・・・」

 

言いながらソリュシャンは花瓶から造花を一本抜き取ると、それを目の高さに、皆が見えるように掲げる。

そしてもう片方の手で造花を隠すようにかざし、一振り。

すると持っていた造花は彼女の手の中から見事に消えて無くなっていた。

 

「おお」と、感嘆の声が漏れる。

 

唇に人差し指を当てつつ、もう一度同じような動作で何も持っていない手をかざすソリュシャン。

全員の目がそこに集まったことを確認し、再び一振り。

消えたはずの造花が、先ほどあった手の中に戻っている。

 

「・・・・・・・・・・・・イリュージョン」

「まぁ、普通に出し入れしているだけなんですけどね」

 

掌の上で造花が浮き沈みする。

ソリュシャンは捕食型粘体(スライム)。液状生物ゆえに、体内にアイテムなどを収納することなどお手の物。

その気になれば人一人取り込んだまま行動することさえ可能だ。

無論、そのまま溶かし喰らうことも。

 

「ソーちゃんは色々出来そうで羨ましいっす!あとユリ姉の"顔面ボウリング"も久し振りに見てみたいっす!」

「誰がいつそんなことをしたの!・・・・・・じゃなくて、披露するのは私達ではなくて守護者の方々よ。間違えないで頂戴ね」

「それで、具体的に何をすればいいのですか?」

「いえ、何もしなくていいそうよ」

「それは一見、とても哲学的な答えですね」

「ドユコトォ?」

 

「私達は私達で、ここで好きなように過ごしていて構わない、とのことよ。

これからお一人ずつ、守護者の皆様がこの部屋に来て芸を披露して下さるのだけど、その間私達は一切見て見ない振りをすること。笑ってしまったり、何か反応した場合は、目の前の箱の中にめいめい身に付けてるものを外して入れてもらうわ」

「なるほど、それをもって評価点とするのですね」

「だから箱が6つ置いてあったんすね。ずっと気にはなってたんすけど」

「それと、何でもいいから気が付いた点があればこの紙に書いて提出して頂戴」

 

全員にアンケート用紙とペンが配られる。

アンケート用紙は6枚。5段階評価と備考欄が設けられたものだ。

一応、無記名式にはなっている。

 

「デモォ、見テ見ヌ振リヲスルノハ失礼ジャナイィ?」

「それについては守護者の方々も承知の上とのことよ。つまらなければスルーして構わないし、面白いと思えば笑っていい」

「遠慮は無用、ということですね」

「・・・・・・・・・・・・脱ぐ必要はあるの?」

「『その方が緊張感があっていいでしょう?』と微笑まれていたわ」

「目に浮かぶようですね」

「それに、仮に全てに反応したとしても6つ分だもの。R指定の心配は・・・」

 

「それじゃ面白くないっすね」

「は?」

 

「守護者の方々は本気で芸を披露されるんすよ?だったら私達だって同じくらい真剣にやるべきだと思わないすか?」

 

実に胡散臭い真面目な顔をして、まくしたてるルプスレギナ。

 

「そうですね、やはり私達の側にもリスクはあった方がより楽s・・・真剣に臨めるのでは?」

「ソリュシャン、アナタまで何を言い出すの?」

「装備品を一つずつだとエンちゃんやシズ、ユリ姉辺りが超有利じゃないすか。ユリ姉なんて頭の分だけ一つ多いんすよ?ひきょーってレベルっす。箱は全部で6つ。だったら、6回反応したらすっぽんぽんになるように、外す装備品は一個ずつじゃなくて部位で分けるなんてどうすか?」

「すっぽんぽんになる意味がないでしょ!」

 

「それなら、武器→防具→頭→上着(上)→上着(下)→下着の順でどうでしょう?」

「じわじわと脱がせていく感じっすね!さんせーっす!盛り上がってきたっす!!」

「ちょっ・・・、二人とも!」

「まぁ、それくらいであれば」

「・・・・・・・・・・・・別にいい」

「私モ構ワナィ」

「あ、あなた達まで!?」

「おんや~、ユリ姉。ひょっとして自信ないんすか?」

「そんなことはないけど・・・でもっ」

「じゃあ多数決で決まりですね」

「ぬっく」

 

「それで、それまで何をして過ごしますか?」

「お茶菓子もあることだし、てきとーにガールズトークでもするっすか?」

 

卓上にはご丁寧にお茶菓子に飲み物、エントマ用にグリーンビスケットも別に用意されている。

ながら喋りには理想的な環境だ。

 

「本当にてきとーね」

「・・・・・・・・・・・・だったら、外での話を聞かせて欲しい」

「そっか、シズは外に出る機会自体があまりないものね」

 

こくりと頷くシズ。

彼女は戦闘メイドの一人だが、ナザリック内の全てのギミックとその解除方法を熟知するというキャラクター設定が為されている。言ってみれば家の鍵のようなものだ。おいそれとは外に連れ出すわけにもいかず、彼女に割り当てられる仕事といえば専らナザリック内でのそれに限られていた。

先日のイビルアイとの戦闘などは、初めてといってもいい"外"での任務だったのだ。

 

「といっても主に動いていたのはセバス様で、私は屋敷に詰めていただけですし」

「私の方もあんまり面白い話はないっすよ?むしろ退屈っす。あんな辺鄙な村、パーッと蹂躙されればいいのに」

「トナルトォ、残ッテイルノハァ」

 

全員の目がナーベラルに注がれる。

 

「わ・・・私?」

「そっすよ。ここはナーちゃんこそが適任でしょう!何しろ外にお出になられているアインズ様の御側仕えとして帯同することを許されている、ナザリック一の果報者っすから」

「いやー、そんなことは」

「ニヤケテルニヤケテルゥ」

「メイドの子達も口々に言ってるわよ。毎日がアインズ様当番なんて羨まけしからん!って」

「・・・・・・・・・・・・ニヤケテルニヤケテルゥ」

「似てるっすね」

「そして、アルベド様のヘイトを一身に集めているナザリック一の不幸者ですね」

 

「定時連絡はいうまでもなく、毎回帰還する度に呼びつけられては微に入り細に入る報告を義務付けられているわ・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・うわぁ」

 

途端に疲れ切った表情になるナーベラルに、全員が同情の色を浮かべる。

何事に付けても良い面もあれば悪い面もある。しかしながらこのペナルティはあんまりではないだろうか、と。

無論、アルベド本人はペナルティのつもりでやっているわけではないだろう。だからこそ余計に性質が悪いともいえるのだが。

そんな暗く沈みかけた雰囲気を払拭するように、ユリがわざとらしいくらい明るい声を上げる。

 

「・・・ま、まぁそれはともかくっ!じゃあ、ここは報告会ということにしましょうか。これから私達は、アインズ様の真なる目的である世界征服に向けて本格的に動いていくことになるのだから、私達もナザリックの末席をけがす身、微力ながらも私達の力が必要とされる時がくるかもしれない。その時に備えて私達は私達なりに、入手した情報を独自に共有・分析しておくべきだと思うの。しかるべき時に、すぐさま行動に移れるように」

「さっすが、ユリ姉っす!よっ、副リーダー!」

「そうですね、どんなに小さな事でも何かの役に立つとも知れないのですから」

「お・・・

 

その時、ガチャリと音がし唐突にドアが開かれる。

一瞬全員の目が集まりかけるが、慌てて顔を逸らし無関心を装う。

 

入ってきたのはライトブルーの武人。第五階層守護者コキュートスだ。

 

(いきなりコキュートス様?)

 

てっきり階層順に来るとばかり思っていたところ、やや意表を突かれる形になり動揺を隠し切れない6人。

 

部屋に入ってきたコキュートスは、無言のまま彼女達の後ろをぐるりと一周しホワイトボードの前に立つと、4本の腕で身体を抱え――

 

 

 

「コノ部屋、寒ッ!」

 

 

 

「っぶ!!!!!」

「くっ・・・」

「ふ」

「・・・・・・・・・・・・・」

「ククッ」

「くくく・・・」

 

 

(こういう流れか・・・っ!)

 

肩を震わせつつ、彼女達がようやく今回の集まりの真意を実感する中、それなりの手応えを感じたのか、コキュートスは満足げに頷くと部屋を出て行った。

 

「・・・なるほどー、こういうことっすか」

「大体分かったわ。それにしても、いきなりアレはないんじゃないかしら?」

「というかコキュートス様はずるいわ。コキュートス様ってだけでずるいわ」

「・・・・・・・・・・・・今のは冷気に対する完全耐性を持ってるのに・・・っていうネタでいいの?」

「シズ、解説は止めてあげて頂戴」

「デモ確カニシンプルナ分、瞬発力ガ全テナネタデハアルワヨネェ」

「冷静に分析したら負けってヤツっすね。そして躊躇したら負け」

「二の太刀要らず・・・コキュートス様らしい選択だけど」

 

「しかし実際ああいう状況で平静を装い続けるのって案外しんどいわね」

「やっぱりどうしても身構えてしまいますね」

「それはそうと、シズ以外はアウトってことでいいかしら?」

「コキュートス様、オ強ィ」

「油断したっす」

 

アンケート用紙と、

ルプスレギナは聖印を象った巨大な武器、ソリュシャンは短剣、ナーベラルは杓杖、ユリはガントレット、そしてエントマは事前に召還していた剣刀蟲を、めいめい卓上の箱に収めていく。しばらく所在無げにうろうろと這い回っていた剣刀蟲だったが、気に入ったのか、今はガントレットの上で大人しくしている。

 

「さて、こんな感じで不意打ち気味に来られるみたいだし、私達は私達で話の続きをしましょう。ナーベラル?」

「と言われても、何を話せばいいのか。えっと・・・何か質問ある?」

「気になってたんすけど、いいすか?」

「何、ルプー?」

「アインズ様とお泊りってことは、つまりあんなことやこんなことも既に経験済みってことすか?」

 

いきなり核心を突いてくるルプスレギナの質問に、全員が、シズまでも身を乗り出してくる。

ユリに至ってはメガネを持ち上げ、およそこれまで見たこともないような真剣な眼差しを向けてくる。心なしか鼻息も荒い。

 

「お、恐ろしい事を言わないでルプー!そんな不敬なことを考えたことはないわ!それ以前にアルベド様に殺されるわ」

「でも、もし仮にアインズ様に求められたら、応えるべきじゃないかしら?」

「アルベド様という方がいらっしゃるのに、私ごときに感心を持たれる筈がないでしょう。はい、この話はおしまい!」

「でもお泊りってことは一晩中2人きりってことなんすよね?その間は何してるんすか?」

「そもそもその前提が間違ってるから。夜間は、アインズ様はナザリックにお戻りになられているもの。私は組合からの緊急要請に備えて待機しているけど」

「じゃあ何も面白いことはないのね」

「面白いことって・・・少なくとも皆の期待するようなことは何もないわ。断言する」

 

全員が白けた雰囲気で席に戻る。

 

「ナーちゃんには失望したっす。ガッカリっすよ」

「でも人間からはモテモテなのよね、ナーベラルは。セバス様の上げられる情報にもあったわよ、"美姫"ナーベ」

「ビキィ?」

「ナーベラルの冒険者の時の二つ名よ。ね?"美"しき"姫"?」

「一応言っておくけど他称よ、それ。アインズ様の"漆黒"だって、下等生物が勝手に言い出したのが定着しただけ。アインズ様は何も言われないから、そのままにしているけど。全く不快極まるわ」

「デモ案外マンザラデモナカッタリシテェ?」

「止めてよ、エントマ。下等生物に言い寄られても迷惑なだけ。さすがに最近は少なくなってきたけど、最初の頃はそれはもう・・・思い出しただけで腹が立ってきたわ」

「何だか、そっちの話の方が面白そうっすね」

「アインズ様の前だから自重したけど、その都度叩き潰せたらどんなにスッキリするか」

「えー?いいじゃないすか。人間をからかうのも面白いっすよ」

「私だったら誘いに乗った振りで・・・」

「ソウソウ、戴イチャウヨネェ」

「その辺は全く理解できないんだけど」

 

文字通り、人を人とも思わぬ会話に眉を顰めるユリ。

 

「全く、この子達はどうしてこう」

「・・・・・・・・・・・・血管ビキビキ、美姫ナーベ」

「シズ・・・

 

ガチャ。

 

(今度は誰?)

 

控えめに開けられたドアから顔を覗かせたのは小さな闇妖精(ダークエルフ)

第六階層守護者の片割れ、マーレ・ベロ・フィオーレがおどおどと部屋に入ってきた。

 

コキュートスと同じく彼女達の背後をグルリと回ったあと、ホワイトボードを背に立つ。

一体何をするつもりなのか。見た感じ、いつもと同じ格好だ。何かを仕込んでいる様には見られない。

とすると、コキュートスと同じような一発芸を披露するつもりなのだろうか。

何らかのタイミングを見計らっているのか、はたまた緊張の為か、何もする気配がない。

 

全員が固唾を呑んで見守る中、おもむろに手に持った杖をスタンドマイクのように構えたマーレの顔付きが激変する。

目を見開き、スタンスを広く取り、そして大きく深呼吸―――

 

 

 

 

 

「答えは何処へーイェーイェー♪探してーイェーイェー♪」

 

 

 

 

「っぶ!!!!」

「ちょっ・・・!」

「くっ」

「・・・・・・・・・・・・」

「トムハック!!」

「ブふッ!」

 

 

 

「うぃまいそ―――――――――――――――♪」

 

最後の一押しとばかりに、髪を振り乱しエビ反るマーレの異様に、溜まらずシズ以外の全員が噴出す。

 

(それは反則でしょう!!)

 

小声で「よしっ」とガッツポーズをとりながら退室するマーレ。

 

 

 

「今のはひきょーっすよ!!色んな意味で反則じゃないっすか!?」

「最後のガッツポーズでダメだったわ・・・」

「というかマーレ様のあんな姿初めて見たんだけど」

「意表ヲ突カレタァ」

「・・・・・・・・・・・・?・・・・・・・・・・・・歌っただけ?」

「いや、そう言ったらそうなんだけど。本質はそこじゃないっていうか・・・」

 

 

シズ以外の5人が、今度は胸当てや脚甲など防具を箱に収めていく。

エントマは例によって事前に召還していた硬甲蟲だ。

硬甲蟲は、仲間だとでも思っているのかそれらを突っついて回っていたが、やがて何の反応もない事に興味をなくしたように動かなくなった。

 

「・・・エンちゃん、ずるくないすかね?」

「仕方ないでしょう、エントマは戦闘系ではないし」

 

エントマは純粋な戦闘系ではない。

精神系魔法詠唱者にして符術師である彼女の本分は後方支援。

武器戦闘も出来ないことはないが、その際は召還した蟲を用いる為、特別に武器や防具などを携帯する必要がないからだ。

故に、これまでは召還した蟲を提出することで誤魔化していたのだが、当然見た目に変化がない為、何となくペナルティを科されている感が薄くなる。

 

「大丈夫ゥ、次カラハチャント脱グカラァ」

「いや、そこは脱がない方向で頑張るべきなんじゃないの?」

 

いずれにしてもまだ武器防具を外しただけ。

見た目だけなら、言うなれば戦闘メイドから一般メイドにクラスチェンジした程度のこと。シズ以外。

 

「それにしても、これで見事なまでに2連敗っすね」

「でもコキュートス様にしてもマーレ様にしても、今みたいなギャップネタには適材ですもの、さすがに他の方々はそうはいかないんじゃないかしら?」

「例えばデミウルゴス様の女装なんてどう?」

「・・・・・・・・・・・・何それ見たい」

「イクラナンデモォ、ソレハナイデショ」

「それに、こっちもそろそろ慣れてきた

 

ガチャ。

 

続けざまにドアが開く。

 

(今度はやけに早いな)

 

入ってきたのは先ほどと同じ闇妖精・・・しかしながら、その姉アウラ・ベラ・フィオーラの方だ。

アウラには違いないのだが、・・・何故だろうか。理由は分からないが、妙な違和感がある。

普段の快活さが感じられないというか、おどおどとこちらの様子を伺う様はまるで・・・

 

しかし、その答えはすぐさま当の本人から明かされた。

 

 

 

「あっ、間違えてお姉ちゃんのパンツ穿いてきちゃった!!」

 

「「「「「(ぱんつっ?!?!?)」」」」」

 

 

 

直後、勢い良くドアが開かれる。

 

 

 

「コラー!マーレッ!!」

 

 

 

当然駆け込んできたのはマーレの格好をしたアウラだ。

羞恥心の為か若干頬が赤く染まっている辺り、実に良く分かっている。

 

 

 

「「「「「(き、汚ねぇー!!!!)」」」」」

 

 

 

そのまま「ご、ごめんなさーい」などとほざきつつ、てけてけと小走りに逃げるアウラの格好をしたマーレを「まちなさーい」と棒読みで追いかけるマーレの格好をしたアウラ。

そんな微笑ましい追いかけっこを二周分、そのまま退室する二人を尻目に騒然となるシズ以外のヤツら。

 

 

「お二方とも早着替えご苦労様っす!!」

「もう優勝決定ですね。これはちょっと勝てる気がしません」

「ずるいわー、アウラ様ずるいわー」

「ギャップ萌エ、ココニ極マレリィ」

「おお・・・おお・・・」

「・・・・・・・・・・・・ユリ姉、落ち着け」

 

「ともかく・・・」

 

めいめい、頭部の装備品を外していく。

 

「あ、エンちゃんのお面はノーカンでもいいっすよ?」

「大丈夫ゥ」

 

団子蟲にカツラ蟲、律儀に仮面まで外し、本物の顔を露わにするエントマ。

箱の中をエントマの顔が―厳密には仮面蟲が―這い回る様はなかなかにシュールだ。

 

「あ、ユリ姉の頭部はカンで」

「エントマには悪いけど、そこはノーカンにして頂戴。この後に差し支えるから」

「むしろメガネ取ったユリ姉さんが普通過ぎて全く印象に残らないんですが」

「どういう意味よ!」

「メガネハ顔ノ一部ナノォ」

 

箱の中では、いつの間にか仮面蟲がユリのメガネをかけている。どうやら気に入ったらしい。

 

「まさかのマーレ様2連荘と思わせてからの・・・おそれいったっす」

「個人的にはアウラ様もマーレ様のパンツを穿かれていたのかがすごく気になりますね」

「えぇ、そこはとても大事な部分だと思うわ」

「でもこの場合、マーレ様のポイントになるの?あくまでアウラ様の芸として見做すべき?」

「箱が6つということは、アウラ様扱いでいいんじゃないっすか?だって、あと残っているのは」

「シャルティア様ニィ、デミウルゴス様ァ」

「そしてアルベド様ね。数としてはピッタリだもの、そういうことでいいんじゃないかしら?」

「良かったわぁ。すっごく良かったわぁ。もう、何も思い残すことはないわ」

「・・・・・・・・・・・・ユリ姉、鼻血」

 

「マーレ様といえば、聞いた?こないだ連れてきた人間を第二階層の黒棺に放り込んだって」

「恐怖公の眷属に身体の中からキレイにしてもらったっていうアレっすね」

「うーわ・・・」

「羨マシィ」

「虫も殺さないような顔で結構えげつないこと考えるっすよね。さすがのソーちゃんもドン引きっすか?」

「そうね。ちょっと方向性が違うかなって気はするわね」

「方向性って」

「ギリギリ寸止めからの大治癒(ヒール)でふりだし精神耐久エンドレスループは楽しいっすよ?」

「あら、部分焼きも捨て難いわよ?必要最低限の部位を保持したまま、どこまで苦痛を持続させられるかが腕の見せ所っていうか」

「二人が何を言ってるのか全然分からないわ。下等生物なんてグーパン一発即昇天、ですよねユリ姉様?」

「私もアナタが何を言ってるのか分からないわ、ナーベラル」

 

シズを除く全員が主だった装備品はもとより髪留めなども外しており、完全に休み時間のメイド状態。

解けて垂れた髪が妙に色っぽい。

 

「なんだかお揃いって感じっすね」

「髪を下ろしたルプーって、珍しいわよね」

「うっふ~んっす」

「エントマもよく似合ってるわよ?」

「私、キレイィ?」

「・・・・・・・・・・・・都市伝説?」

 

素顔を晒しているエントマの頭部は、本来は無い筈の金髪縦ロールで覆われている。

 

「何だかまるで姉妹みたいっすね!」

「いや、姉妹なんだけどね」

「なかなか皆が違う髪型をしてるところって見る機会ないから新鮮だわ。ていうかユリ姉様・・・」

「・・・・・・・・・・・・ユリ姉が誰だか分からない」

「分かってるじゃないの、私よ!ごめんなさいね、地味顔で!」

「テイウカ、シズダケマダノーミスナノネェ」

「本当ね。今ので無反応って、どれだけハードル高いの?」

「・・・・・・・・・・・・むしろユリ姉の反応にドン引きでそれどころじゃなかった」

「申し訳ありません」

「・・・・・・・・・・・・それに、そういう時、どんな顔すればいいかが分からなくて」

「笑えばいいと思うわよ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・難しい」

 

「え?今、試みたの?全然分からなかった」

「シズちゃん、無理するなっす!そのままのシズちゃんでいいんすよ!」

 

 

さて置き、残るは「上着(上)」、「上着(下)」、そして「下着」。

 

 

「いよいよここからが本番って感じっすね」

「嬉しそうね、ルプー」

「いやー、いやがる乙女を無理矢理チョメチョメは浪漫じゃないっすか?」

「最低な発想だわ、ルプス。ていうかこっちを見ながら言わないでくれる?」

 

「次は誰っすかねぇ。シャルティア様辺りっすか?」

「・・・・・・・・・・・・あるいはデミウルゴス様?」

「トリはシャルティア様カアルベド様デ取リ合イニナッテルダロウカラ、キットデミウルゴス様ジャナイカナァ」

「ていうか芸をなさるデミウルゴス様って全然イメージ出来ないんだけど」

「それこそ手品などは器用にこなしそうなイメージはありますね」

「あぁ、そっちっすか。これまでネタ系ばかりだったから」

「たしかに、マジシャンの格好とか似合いそうだものね」

「そろそろ正道で来るかもしれないわね。何が来ても、さっきのに勝てる気はしないけど」

「・・・・・・・・・・・・

 

――ガチャリ。

 

 

(!)

 

 

静かに空いたドアから入ってきたのは、いつもと明らかに違う部分がある銀髪の真祖(トゥルーヴァンパイア)

第一~第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールンだった。

 

しゃなりしゃなりと、気取った足取りでぐるりと周回する。

入室してからの一連のこの動きは、恐らく打ち合わせされたものなのだろう。いわばランウェイのようなものか。

ホワイトボードの前まで来ると、やはり他の守護者達同様、メイド達に向き直る。

 

そんなことより、メイド達の視線は既にある一点に集中していた。

半開きの目で。

 

誰もが、これから起こるであろうことが粗方予想できてしまっていた。

そっと見回せば、誰しもの目に困惑の色が浮かんでいる。

見え透いたネタに対しどう反応をすればいいのか、迷っている様がありありと見て取れる。

 

(いや、いくらなんでもそれは・・・)

(そんなあからさまな・・・)

(と、見せかけてからの~・・・)

(・・・・・・・・・・・・でもシャルティア様だし)

(ソレダケハ・・・ソレダケハ・・・)

(お願いですから・・・)

 

若干の、米粒ほどの僅かな可能性に期待し、それが盛大なミスリードであることを内心で祈り始める始末。

 

だが、現実とは非常なものだ。

そんな戦闘メイド達の願いを知ってか知らずか、シャルティアは注意が集まったことを確信すると、自らの平らになった部分を覗き込み、驚愕の表情を浮かべ――悲鳴を上げる。

 

 

 

「む・・・胸が、なくなっていんす!!!」

 

 

((((知ってる!!!!))))

 

 

 

会心のしてやったり顔でメイド達の反応を伺う真祖。

だが、そこに並んでいたのは何とも形容しがたい表情のメイド達の顔。

強いて言うなら憐憫の眼差しに近いだろうか。

 

憐憫?――意味が分からない。

 

シャルティア・ブラッドフォールンの盛りに盛られた偽乳――それは最早公然の秘密だ。

ナザリック地下大墳墓に属するもので、そしてシャルティアを知る者で、その事実を知らぬ者などいないだろう。

だが、敢えてそれを指摘する者もまたいない。そんなことをすれば、己が身の上に降りかかるだろう災禍は火を見るより明らかだからだ。同レベルの守護者同士であればともかく、本来平等であるNPC同士であっても、冗談半分に弄ることすら憚られる腫れ物。

 

それほどの、ある意味で彼女の最もデリケートな部分を自らネタにする、身体を張った自虐ネタ。

彼女の覚悟の程を思えば、その意気は十分に伝わる。それは分かる。痛々しいほどに。

だがしかし――それでもだ。

 

戦闘メイド達の誰もが、一致共通した思いを抱いていた。

 

 

(それはないでしょうよ)と。

 

 

自虐ネタが悪いとは言わない。

一応の自覚はあったらしいと思えば、いっそ悲しくもなってくるがそれはさて置いても、せめて少しは工夫しろと。

仕掛けが見え透いた手品を披露するバカがどこにいると。・・・いや、驚くべきことに正に目の前にいるのだけども。

そしてそんなものを見せられる身にもなって欲しい。

 

いや、含めてそういうネタというならまだ救いもあるのだが、目の前の真祖の様子を見るに期待は出来そうにないのが遣る瀬無さに拍車をかける。

 

そんなメイド達の心の叫びが、しかしシャルティアに分かろう筈もない。

 

彼女もまた困惑していたのだ。

一体、この反応は彼女の予想の範疇になかったからだ。

 

何しろ彼女にしてみれば、清水の舞台から飛び降りる覚悟で放った渾身のネタ。

大爆笑とまでは行かずとも、多少の含み笑い程度の反応は返ってくるものと思っていた。特にルプスレギナ辺りであれば期待通りの反応をしてくれるだろうという目論み。むしろそれで逆上するなどないよう、事前に、自らに強く言い聞かせていたくらいだ。

全てはアインズ様の為なんだと。滅私の精神!キルマイセルフ!と。

 

しかしそんな涙ぐましい覚悟も、蓋をあけてみればご覧の有様。

 

(でも、これを披露すると決めた時、アルベドもデミウルゴスも絶賛してくれたし・・・)

 

普段から無表情のシズ、そして何故か金髪盾ロールのエントマは置いておくとしても、他の4人が一様に浮かべる表情、その心中が図りかねた。

 

ちらりと箱の中をうかがえば、これまでの守護者達はそれなりのポイントを稼いでいるようだ。

このままでは自分だけゼロということにもなり兼ねないのでは?ここまでやっておいて?

闇妖精の嘲笑う様が脳裏に浮かぶ。

己のプライドに懸けて、それだけは阻止しなければ。

 

(ならば、もう一押しするべきでありんしょうか)

 

しかし何をすればいいのか。

思考の迷路に嵌るシャルティア。ネタ披露後、棒立ちのまま既に結構な時間が経過していた。

 

(・・・何で帰らないんすかね?)

(まだ何かある?)

(ここから大逆転?可能なの?)

(・・・・・・・・・・・・でもシャルティア様だし)

(モウイィ・・・モウイィ・・・)

(諦めたらそこで試合終了ですよっ)

 

シャルティアは考える。恐らく、今までこれほど頭を使ったことはなかったほど考える。

だが、何一つ妙案は浮かんで来なかった。どれだけ脳みそを回転させても、空回るばかり。徒に時間だけが経過し、焦燥ばかりが心中を支配していく。荒い息をつき、汗まみれの白蝋じみた肌は既に青褪め無数の最悪が頭を過ぎる中、それでも僅かな光明を見出し縋ろうとめちゃくちゃに頭を回転させる。

 

 

(ぎぃいいいいいいいいいいいいいいい!!)

 

 

 

 

――その時だった。

 

 

ガチャリ、とドアの開く音が響いた。

入ってきたのはナザリック最高の智者にして、第七階層守護者デミウルゴス。

穏やかな笑顔を浮かべたまま、悠然と歩を進める。

 

そんなデミウルゴスのある一箇所に、メイド達も、そしてシャルティアも、釘付けになる。

 

 

(胸!?)

 

 

そう、デミウルゴスの胸部が、あり得ないほどに盛り上がっていたのだ。

胸襟を開いたそこには、まるで豊満な女性のそれのような見事な谷間が形成されていた。

無論、偽物である。そして、それが本来誰の物であるか、シャルティア含め、この場で考え至らない者はいない。

分からないのは、何故デミウルゴスがそれを?ということだけだ。

 

唖然とする一同に、怪訝な表情を浮かべるデミウルゴス。

「ん~~?」などと言いながらメイド達の顔を覗き込む態で、一人一人に、ぐいぐいと押し付けるように谷間をアピールしてくる。

 

(ちょっ、何してくれるんすか!)

(やめてー!!)

(うおおおおおおおおおおおおお!!!)

(近い!近いですって!!)

 

そこでようやくメイド達の視線が自らの胸元の異様に向けられていることに気が付いたらしい。

同じく瞠目したまま立ち尽くすシャルティアの平らな部分と見比べ、そして全てを察したように大きく頷いた。

 

 

「―――なるほど、そういうことですか」

 

 

 

 

「((((どういうことだよっ!?))))」

 

 

 

 

そのまま、愕然とした表情で固まっているシャルティアを促し、共に退室していく。

余りの事態に静まり返る室内。

 

 

 

「いや、どういうことだってばよっす!!」

 

 

「つまり・・・仕込みだった?」

 

「出来レースってこと?シャルティア様の様子からは、とてもそうは思えなかったけど」

「アルイハ考エラレルノハァ、デミウルゴス様ナリノフォローダッタトイウ線ハドウゥ?」

「余りの惨状を見かねて?」

「・・・・・・・・・・・・いい話、なの?」

「いや、デミウルゴス様のことだから、案外計画的だったりするんじゃあ・・・」

「シャルティア様を上手い具合に乗せた上で?・・・ありそう」

「シャルティア様のネタがウケた場合、滑った場合。両方に備えて用意していた可能性はありますね」

「初めから嵌めるつもりだったとしても、フォローのつもりと言い張れば追及のしようがない。どっちに転んでもデミウルゴス様に瑕疵はない辺り、策士だわ」

「智謀の将・・・」

 

「ま、まぁ何にしても」

 

 

シズ、エントマを除く4人が上着を脱ぐ。

 

 

「・・・何をニヤニヤしているのかしら、ルプス?」

「いやー、いい眺めだなぁーと思って」

 

ルプスレギナ、ソリュシャン、ナーベラル、そしてユリの4人は、上半身のみ下着姿という実に倒錯的な格好になっている。

それぞれが、先ほどの某真祖とは格の違う抜群のスタイルを誇る美女達による競艶である。

 

ちなみにそれぞれの上着は、デミウルゴスと、そしてシャルティア用の箱の、ちょうど中間に架かるように置かれている。今の併せネタをどういう扱いにすべきか熟考の末、そのような例外的措置を取ることによって誤魔化したのだ。

とはいえ、若干デミウルゴス側に寄せ気味になっているのは、彼女達なりの主張だろう。

 

「それにしても残念っすね」

「何が、かしら?」

「だって、次で最後ってことは、ユリ姉の生まれたままの姿を拝む事は適わないってことっすから」

「ハイハイ」

「なら、次は問答無用で全部脱ぎというのはどうでしょう?」

「え?」

「よくあるじゃありませんか、最後の問題だけポイント倍増で大逆転演出。もちろん緊張感を保つという意味で、ですが」

「おおっ、さすがはソーちゃん!グッドアイデアっす!さんせーっす!」

「あなた達自身も同じことだと思うのだけど・・・それは本気で言っているのかしら?」

「まぁ、ユリ姉さんの為なら」

「ナーベラル・・・」

「サンセー」

「・・・・・・・・・・・・私も一人勝ちは忍びない」

「いや、だから勝ちとか負けとかそういう…」

「じゃあ多数決ということで、これで」

「決まりっすね!」

「ぐぬぬ」

 

ニコニコといやらしくも満面の笑みがユリを包囲する。

 

「あなた達、あとで覚えてなさい・・・」

 

「いい感じにオチへの引きが出来たところで、予想通り最後はアルベド様だったっすね」

「まぁなんのかんので面白かったわ」

「コキュートス様の力技、マーレ様の意外性、アウラ様はある意味で正統派だったわね。シャルティア様のネタについては・・・どう評価したものか」

「実際あそこまでアレだと何とも書きようがないっす」

「かといって無記入というのも角が立つし・・・」

「・・・・・・・・・・・・評価できる点は何か無いの?」

「自虐というアプローチは悪くなかったと思うわ」

「確かにっす。コンプレックスを逆手に取るのはお笑いの常套手段っすからね」

「デモォ、ダカラトイッテアノ見セ方ハ悪手ゥ。オチガ読メチャウジャナィ」

「本人的にはそれでいけると思ったのかも知れないけど・・・」

「・・・・・・・・・・・・意外性に欠けた点は否めない」

「あそこまで自信満々だったんだもの、何かあると思うわよねぇ、普通」

「シャルティア様ハァ、容易ニ笑イヲ取レルト計算サレテイタミタイダケドォ・・・」

「・・・・・・・・・・・・何の捻りもなかったとは計算外」

 

「もう"楽しかった"でいいかな」

「何すかその、最終日にまとめて書きなぐった夏休みの絵日記みたいな一文・・・採用っす」

「シャルティア様が読んだら泣くわね・・・」

「そして副料理長の血圧がまた上がる、と」

「折角の材料も、段取りや配置に気を配らないと台無しになるってことね。奥が深いわ」

 

 

ガチャリ。

 

 

 

 

戦闘メイド達の話が一段落したタイミングを見計らったかのようにドアが開かれる。

匂い立つような色気を振り撒きながら入ってきたのは、守護者統括アルベドである。

 

その姿にメイド達は思わず息を呑んだ。

 

いつもの格好とは違う。

 

アルベドはエプロン姿だった。

体の前面を覆うようなエプロンの胸元には、ナザリック地下大墳墓が主人アインズ・ウール・ゴウンを模したと思しき可愛らしい髑髏のアップリケが縫い付けられている。恐らくは、エプロン自体が彼女の手作りなのだろう。簡素な物だが、一見して分かる丁寧な作りで、さすがプロ級の裁縫技術を持つだけのことはあると感心させる出来だ。更に、いつもは腰まで垂らしている長い髪をお団子の形に結い上げ露わになったうなじが、全体に地味な印象と相まって、かえって魅力を増しているようにさえ映る。

夫の帰りを心待ちにする新婚ほやほやの若奥様とでもいえば近いだろうか。

 

その後の営みに早くも思いを馳せ、心ここにあらずとばかりに両頬を初々しく紅潮させ、全身から滲み出す抱いてオーラは、正視するさえ憚られるほど。

その場にいた全員が目も心までも奪われるような艶かしさ。

 

同性ではあるが思わず見惚れてしまうような、ともすれば妙な気を起こしかねないほどの圧倒的な"女"の色香がそこにはあった。

 

 

(すげぇ)

 

 

思わず跪きかける6人。

 

ルプスレギナやソリュシャン、ナーベラルにユリも思わず下を向いてしまう。上半身下着姿の自身が、急に気恥ずかしく感じられてしまったのだ。

それほどの、天上の美を持つ彼女達ですら気後れしてしまう、まさに"真なる美"。

 

これこそが守護者統括。

 

これこそが正妃(自称)。

 

まるで女神の降臨を仰ぐ信者の如き眼差しを一身に受けながら、柔らかに微笑みを湛えたアルベドが歩を進める。

そして彼女が後ろ姿を見せた時、メイド達は我が目を疑った。

 

 

(穿いて・・・ない?)

 

 

エプロンを掛けていたため、前からは分からなかったのだが、丸出しだったのだ。全てが。

穿いてないどころの騒ぎではない。ありていに言って全裸だった。

小さく、うわぁ、という呟きが聞こえた気がした。

 

 

そう、これこそがアルベドの持つ世界級アイテムさえも霞む、彼女の対アインズ用最終決戦装備――"裸エプロン"。

アルベドの持つ手札の中でも純然たる破壊力において最強の一つだ。

 

正直アルベド自身、ここでこの札を切ることに若干の逡巡が無いではなかった。

アインズの為だけに、彼のみを想い、一針一針に狂おしいばかりの愛情を込めて縫い上げた、切り札ともいうべき一手。それを、リハーサルとはいえアインズ以外の者に最初に晒すことが後ろめたくも躊躇われたのだ。勿体無いと。

 

だがもし、これがアインズの不興を買ってしまったら・・・。

彼に対する愛情はもちろん、自分が愛されていることに一片の疑いもないが、それでも、万に一つ、まかり間違って愛する主人に不快な感情を抱かせてしまったら。故に、一度実地で試してみる良い機会と判断したのだ。魅力的には数段劣るとはいえ、戦闘メイド達からの太鼓判があれば、自信をもって実戦に投入できる。

万が一の場合も、「メイド達がどうしてもと薦めるので仕方なく」という言い訳が出来るという薄汚い計算もあったのだが。

 

(ここまでの反応は上々。あとは、ダメ押しをすることで完全勝利としましょう)

 

満面の笑みで振り返り、部屋全体をピンク色に染め上げるような甘ったるい声音で、とどめの言の葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませアインズ様。お食事になさいますか?お風呂になさいますか?それとも、わ・た・く・し?」

 

 

 

 

 

 

胸の前で両手を組み、翼を広げて高らかに詠いあげたアルベドは、その瞬間勝利を確信した。

私こそが地下墳墓に舞い降りた白き豊饒の女神!我が至高なる美に喝采せよ!

 

(勝った!オーバーロード【完】!!!)

 

そのまま一人、ビクンビクンと絶頂に身を震わせる守護者統括。

しばしの余韻を堪能し終え、正気に戻った彼女が視線を戻すと、そこには荒涼とした風景が広がっていた。

 

(あら?)

 

全てが色を失っていた。

壁も天井も床も。メイド達から向けられる視線も。

まるで線画のみで書かれた絵のようにのっぺりとした空間の中でアルベドのみが浮いている、そんな有様だ。

 

引き攣った笑顔でメイド達の表情を伺ってみれば、皆一様に固まっている。

どういう感情の込められたものか、アルベドに向けられた視線には、少なくとも賞賛のそれは感じられない。

あるのは呆れ、あるいは軽蔑、ともすれば怒り。そんな色を湛えている。

 

それは、アルベドをして後退りしてしまうような、全てを拒絶する眼差しだった。

 

誰一人として一言すら発しない、静まり返った室内。

だからだろうか、目は口ほどに物を言うという言葉を体現したような彼女達の視線がひどく耐え難い。

 

和ませるように、アルベドがニコリと微笑む。

 

戦闘メイド達から向けられる視線は虚ろなまま。

 

それに対し、更に笑顔の度合いを深くするアルベド。

 

しかし戦闘メイド達は怯まない。

瞬き一つとてしない。

 

微笑む。

 

じっと見る。

 

微笑む。

 

じっと見る。

 

最早笑顔といっていいかも定かでないそれと、空虚さを増した視線が交錯する。

 

 

(一体どういうつもりなの、この娘達!さっきまでと全然態度が違うじゃない!何が気に入らないっていうの!?)

 

 

――『忌憚の無い意見を述べよ』。

そうは言われても、戦闘メイド達とて立場は弁えている。

階層守護者は、戦闘メイドよりも階級的には上位に位置する存在。その階層守護者の頂点に位置する守護者統括との身分差はいうまでも無い。明確な上下関係が歴然とある以上、それに相応しい振舞いもまた求められるものだ。

先のシャルティアの場合にせよ、本音はさて置いても、それを露骨に表に出すほど彼女達も愚かではない。

 

しかし、アインズ・ウール・ゴウンに絶対の忠誠を誓う従者という点においては、彼女達もアルベドも平等だ。

だからこそ、隠し芸とはいえあのような品位の欠片も感じられない下劣極まる行為を、主人の前で実行せんとする無礼を看過するわけにはいかないのだ。

純粋に軽蔑の感情があったのも事実なのだが。

 

そうして、互いに一歩も譲らぬままどれ程の時間が経過したろうか・・・

 

ついに守護者統括が折れる。

 

アルベドは一つ咳払いをすると再びニコリと微笑み、そして踵を返す。

 

退室の際、悔し紛れかメイド達に恨みがましい一瞥をくれたが、守護者統括の怨嗟交じりの視線にすら身じろぎ一つしない虚ろな瞳に迎撃され、敢え無く退散する白き女神。

直後、外から「糞がぁああ!」という女の声と、すさまじい勢いで何かが壁に激突する音が聞こえ、階層全体が大きく揺れたが、戦闘メイド達は微動だにしない。

 

ただ、いつまでもその視線は守護者統括の出て行った出口に向けられていた。

いつまでも。いつまでも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さく、クシュン、というクシャミが聞こえた気がした。




シズCHAN!!


というわけで、
『オーバーロード』二次創作SS第4弾、お楽しみ頂けたでしょうか?肝油と申します。

今回のネタですが、某バラエティ番組の七変化企画と、
冒頭の遣り取りで何となく察した方もいらっしゃると思われますが、
原作第6巻特装版ドラマCDの守護者オークション回が大元のイメージです。
ああいう馬鹿馬鹿しい話は肩の力を抜いて楽しめるので好きです。
今回のネタも、そんな感じで楽しんでもらえれば幸いですが、さて。

ユリが若干腐り気味なのは、DVD付録マンガの影響でしょう。女装したアウラは可愛かった。



最後まで読んで下さった方、ありがとうござました。

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