「春人頑張りなさい! ゴールはもう少しよ!」
「ほ、焔君も頑張って!」
あれから数日後。俺達は士郎さんがコーチをしておりさらに雪村、黒埼のコンビと橋出が所属しているサッカーチームの試合を観戦に来ていた。
「へぇ……すげえじゃねえか、雪村はよ」
「うん、まるで闘牛士みたいに相手のディフェンスをかわしてるね」
「黒埼は……体術を活かして強引に相手のディフェンスを突破しているな。……まあ、相手が織主と不深山がいるチームだというのもあるだろうが」
そう、3人が所属しているサッカーチームの今日の対戦相手は織主と不深山の所属しているチームなんだ。
で、普段から超が付くほど仲が悪い4人はサッカーでも変わらないらしい。
「ボールをよこせモブキャラ!」
「っ!? しま……!」
あ、ヤバい!?
「ヤバい! ボールが不深山に取られた!」
「やべぇ! 点差は拮抗してるからここで点を奪われると……」
不味いと俺が言おうとしたら、何時の間にか不深山の前にいた橋出がそのボールを奪い取った。
「……な!?」
「悪いね、ここでお前に格好つけられる訳にゃいかねえんだ(ついでにこいつが昨日封印したジュエルシードもスリ盗ってと……)」
「このモブが……!」
「黒埼、パス!」
「すまねえ、橋出! 春人!」
「わかってる!」
橋出からボールをパスされた黒埼が雪村に向かってそう言うと、二人でゴール前に行き互いの利き脚でボールを……蹴ると見せ掛けて黒埼がボールから離れると雪村が渾身の力でボールを蹴った。
「っ!? くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ボールはゴールキーパーの織主が触れない高さに飛び、ゴールに叩き込まれた。
そして、そこで終了のホイッスルが鳴り、試合が終了する。
「よっしゃ! 雪村達が勝った!」
「かなりギリギリだったけど良かったね」
「ああ、白熱した試合だったな」
……なんて俺達が無理矢理盛り上がるのには理由がある。
それは……
「「…………」」
「……なのは、最近ユーノと口を聞かないけどどうしたのよ?」
なのはとユーノがフミーダイとの一件以来、話をしていないうえにそれが原因で非常に気まずくなるからだ。
因みにフミーダイと戦闘したことは士郎さんに話したし、殺傷設定で魔法を使う危険な奴等がこの街にいることも話したうえでなのはを戦線離脱させると言っておいた。(でないとなのはが家族を説得して、また戦線に出かねないからだ)
まあ、なのはの方はやっとこさ再会して恩を返せると思った矢先に、それを無下にされるような事を言われればそりゃ落ち込むし、ユーノの方はなのはが大事だけどその思いも知っているからこそ、気後れして話せないんだろうが……だからってここまで口を聞かねえと此方の気がまいっちまう。
「(ユウヤ、ヤマトどうするよ?)」
「(どうするもこうするも……本人達が解決するのを待つしかあるまい)」
「(そうだね、どのみち僕らじゃどうしようもないよ……)」
「(だよなあ……)」
俺達は、結局ユーノとなのはが自分達で解決するしかないという結論に達して揃ってため息を吐いた。
「……無い!? 何故だ! 何故無いのだ!? 我が原作に介入しハーレムを築くうえで重要な物が何故無い……!?」
「(……悪いね、お前も織主も目立たせはしないよ。後はこいつの封印を少し解除して……ほいっと。
……念の為に俺も現場に出向いておくか。『あれ』に対してユーノが結界を張り損ねた場合に備えてな)」
何やら不深山が地面に這いつくばって意味不明な事を言いながら何かを探していたが、俺達は気にせず祝勝会の会場である翠屋へと向かった。
…………
「うめ~! 運動した後の甘いものとコーラは格別だぜ! 試合で勝ったときは特にな!」
「それについては焔に全面的に同意せざる得ませんね。これは本当に美味しい」
「………何で俺がお前ら二人に挟まれてるんだ? そして、黒埼! ケーキを口に……モゴモゴ……」
「そりゃあん時の橋出のカバーがなけりゃ負けたかもしれないからな! 労いだよ! 労い!」
「焔、口に突っ込みすぎです! 橋出君が苦しんでますよ!?」
「モガモガモガ!!(死ぬ死ぬ死ぬ!!)」
「あ……悪い、橋出!」
「橋出君、水です!」
「(ゴクゴクゴク)げほげほ……黒埼! お前は俺を殺す気かバカ!」
「すまねえ、流石にやり過ぎた!」
「「「(モグモグモグモグ)」」」
そんな漫才をやっている橋出達3人を横目に見ながら、俺達は無言でケーキを口に運んでいた。
何故なら……
「(ユーノ君のわからず屋! 気を付けるって言ってるのにどうして一緒に戦わせてくれないの!?)」
「(前にも言っただろ! フミーダイみたいな奴がまだいるかもしれない……そんな危険な戦場になのはを行かせたくないんだ!)」
「(それはそうだけど……!)」
こんな感じでなのはとユーノが念話で大喧嘩をしてるのがダイレクトに入ってくる為、それを聴くことに専念する為だ。
因みに俺達は最初は喧嘩を止めさせようとしたが「「(引っ込んでて!)(引っ込んでてよ!)」」と一喝されたから大人しくしている。
「……っ! ユーノ君の馬鹿!」
念話も使わずそう言ったなのはは、立ち上がると涙を流しながら翠屋から飛び出して行った。
「なのは!? ちょっと待ちなさいよ!」
「なのはちゃん!?」
「な、なんだなんだ?」
「(あっちゃ~……ユーノの頑固さが裏目に出たか……)」
「……なのは様、泣いてましたね」
雪村の言葉にユーノは苦しそうな顔をした。が……
「(……おい、今ジュエルシードの反応があったぞ)」
「(今はまだ発動してないけど……時間の問題だね)」
……タイミングが最悪とかそんなもんじゃねえぞ!?
「……すまねえ! なのはを探してくる!」
「ぼ、僕も!」
「俺もだ」
「……泣かせたのは、僕だから……僕も、行くよ」
俺達はジュエルシードとなのはを探す為に慌てて翠屋を飛び出した。
…………
「……っ! ユーノ君の馬鹿!」
そう言って私は翠屋を飛び出した。
私の眼には涙が溜まって溢れてそして視界がぼやける。
……ああ、私……泣いてるんだ。
そうして訳もわからずに走って着いたのは……
「此所は……」
ユーノ君と初めて会った公園だった。
「そういえば……初めてユーノ君と会った時も泣いてたっけ」
あれは確か4年前位かな? お父さんが事故にあって大変な時で、お母さん達が大変なんだから私は良い子にしてなきゃって思ってて、でもそれでも寂しくて泣いてて……
「……このブランコ、まだあったんだ」
若干塗装が落ちて錆びてる部分があるけど、まだまだ現役っていう風にブランコは置いてあった。
……ユーノ君と初めて会った時はこれをこぎながら泣いてたんだっけ。
1人で泣いてた私を心配したユーノ君が話し掛けてきて、それで……
「なのに……漸くユーノ君にまた会えたのに……こんなのってないよ……!」
私はブランコの側で膝を抱えながら座り込む。確かにフミーダイ君がやった事は怖くてユーノ君達が私が怪我をしないようにジュエルシードから遠ざけたいって気持ちは痛いほどわかるけど……私は……
「高町さん……? こんなところでどうしたの?」
私が声に振り向くと、そこには数日前に転校してきたテスタロッサさんがいた。
…………
「そっか、そんな事が……」
私とテスタロッサさんは、ブランコに腰掛けてどうして私が泣いていたのかについて(魔法やジュエルシードの事ははぐらかしながら)話していた。
「私はスクライア君の気持ちはわかるかな。私も母さんがそんな危険な事をしてるってわかったら絶対に止めるもの」
でもね……とテスタロッサさんは一呼吸おいて私に言った。
「高町さんはさ……どうして行動で示さないの?」
「あ……」
私はテスタロッサさんの言葉で頭に衝撃が入った。そうだ……言葉でダメなら……
「行動で……示す!」
「……スクライア君にとっては余計な事かもしれないけど、私はそうした方が良いと思うな。時には行動で示した方がわかる人もいるから」
そう言って、テスタロッサさんはブランコから立ち上がった私を見て微笑んだ。
「答えは決まったんだね、高町さん」
「『なのは』で良いよ、テスタロッサさん」
「え?」
「私に進むべき道を示してくれたから。それに……なんだかそうした方が良い気がして」
「……じゃあ、私だけ名前呼びもあれだから、なのはもこれからは私の事を『フェイト』って呼んで」
私の言葉にテスタロッサさん……フェイトちゃんは苦笑いをしながら言った。
「うん、ありがとう。フェイトちゃん。私……行くね」
「うん」
そう言って私は公園から飛び出した。
フェイトちゃんと話してた時に向こうの方からジュエルシードが発動してた……つまりユーノ君達はあそこにいるんだ。だから……!
「私の思いを告げるために……力を貸してレイジングハート! セートアップ!」
『イエス、マスター。セットアップ!』
そうしてバリアジャケットを纏った私は、ユーノ君達に会いに行く為に空を飛んだ……
…………
「こんなくそー! 図体ばかりでかくなりやがって!」
「くそ! コアの位置はわかってるのに攻撃が出来ない!」
「そもそも結界が間に合ったのは良いけど、手数が足りないしね!」
俺達はジュエルシードの思念体と戦闘とはとてもよべない戦いを繰り広げていた。なんでかって? それは……ジュエルシードが憑りついたのは、よりにもよって街路樹だったからだ。それも1本じゃなくて数十本もだ。
お陰で攻撃しようとすれば無数の枝が槍のように飛んでくるわ、蛇のようにくねってきた根が地面から奇襲してくるわで俺達は回避するのに精一杯になっていた。
「おまけにユーノには変な奴が襲い掛かってきて連絡がとれねえし! どうしたら良いんだよ!?」
ユーノはユーノで「死ね! 淫獣! 俺のハーレムのために!」とか言いながら襲い掛かってきた奴の対処と結界の維持で精一杯らしく、俺達に連絡すら出来ていない。
「っ!? 悪いことは重なるもんだね! 結界内に人が6人! 内4人は僕らを追ってきたと思われるバニングスさん達!」
「嘘だろおい!?」
俺はヤマトの言葉に慌てて周囲を見渡すと、そこには確かに壊れた車椅子から茶髪の女と気絶していると思われる黒髪の男を助け起こして此処から逃げ出そうとするバニングス達がいた。
……げ!? しかもジュエルシードがそっちを見やがったし!?
「あぶねえ! ラウンドシールド!」
俺は慌ててバニングス達に殺到する枝をラウンドシールドで防ぐ。
「え、え? 何? 何がどうなってんのよ!?」
「喋んな! 気が散る!」
俺はパニックになりかけてるバニングスを一喝するとシールドに全魔力を込める。
……くそ! 俺のシールドじゃあたいしてもたねえか!?
「俺が抑えてるうちに速く逃げろ!」
「馬鹿! 水崎はどうするつもりだ!?」
「俺はこいつを……くそ!? もうもたねえのかよ!?」
俺はひび割れたシールドを見て悪態をつく。
ここまでか……!?
「ディバイン……バスター!!!」
次の瞬間、俺の前にあった枝が桃色の砲撃を受けて纏めて消滅した。
「……は?」
「アヤト君、大丈夫!?」
俺の前に、此処にはいないはずのなのはが降り立った。
……タイミングが良すぎる援軍だけど、なんでいるんだよ!?
「なのは! 何で来やがった!? お前は関わるなと言ったはずだぞ!?」
「ユーノ君達に、行動で示したいから! 私は……ユーノ君達と一緒に戦いたいって! 絶対に止めないって意思を伝えたいから!」
「そういう訳じゃ……ええい! 話は後だ! こいつは頼んだぞ!」
「うん! ユーノ君とアリサちゃん達の事をお願い!」
そう言ってなのははヤマトとユウヤがいる場所まで舞い上がると、そのままジュエルシードに攻撃を開始した。
「(アヤト! どういう事だ! なんでなのはが此処にいる!?)」
「(俺が知るかよ!? ユウヤはユーノの援護! ヤマトは俺と一緒にバニングス達を安全な場所まで誘導するぞ! 終わったら合流して速攻で終わらせるぞ!)」
「(り、了解!)」
「(……了解!)」
俺は念話を切ると、そのままバニングス達に向き直る。
「ヤマトが来たら此処から離れるぞ!」
「な、何がどうなってるの? なのはちゃんは何で……」
「話は後だ!」
俺は月村にそう言うと、降りてきたヤマトと一緒にバニングス達の避難を開始した。
てな感じで前後編ぽくなった今回の話です。
正直1話で終わらせたかったのですがこれ以上はぐだぐだになりそうだったので一旦切らせていただきました。
次回もお楽しみに!