魔法少女リリカルなのは~管理局員の奮闘~   作:愛川蓮

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運命と春~思いと名前~


第15話

僕は多分人生の岐路に立たされているのかもしれない。

僕の手にはテスタロッサさん達と高町さん達が集めているジュエルシード。

僕の周りにはテスタロッサさん達と高町さん達の他には織主君、鎌瀬君、ヒテイ君達がいるしその周りからも気配がする。

 

……問題は川の水が結構冷たいって事なんだよね。

 

「鮎川君! 早くそれを此方に……」

「今は近付かないで、テスタロッサさん! ぼ、僕の要求を聞かずに近付いたら……ち、近付いたら……」

僕は人生で初めて『脅迫』っていう犯罪をしようとしていることに怯えながら近くの石を拾いあげる。

 

「じゅ、ジュエルシードを壊すよ!」

僕の発言に鎌瀬君以外の全員の顔が一斉に青ざめた。

 

「ば、馬鹿な真似は止めろ鮎川! それがどんだけ危険な物かは教えたよな!?」

「そんな真似をしたら君どころか地球が消し飛ぶかもしれないんだよ!? 急いでそれを僕達かテスタロッサに渡すんだ!」

「両親や友達が泣いても良いのか!」

水崎君達が刑事ドラマに出てきそうな台詞を言いながら迫ろうとして石を振り上げると悔しそうに止まる。

……目配せをしてるって事は突進するタイミングを計ってるって事だね。

 

「鮎川君待って! 危険な真似は止めて!」

「テスタロッサさんは魔導師だからまだ大丈夫だけど君は封印することすら出来ないんだ! 早くそれを捨てるんだ!」

高町さんとスクライア君が必死に呼び掛けて来るけど僕にだって譲れないものがある!

 

「ぼ、僕の要求を言うよ! ひ、1つ! 高町さん達とテスタロッサさん達は喧嘩を止めて仲良くして!」

「……鮎川君の目線ではそういう風に写ってるんですね」

「喧嘩してるんじゃなくて争奪戦をしてるんだが……傍目見たらから喧嘩にしか見えんか」

リニスさんと水崎君が何故だか複雑そうな顔をするけど僕はそれを無視して次の要求を言う。

 

「ふ、2つ! 高町さん達とテスタロッサさん達は協力してジュエルシードを集めて!」

「無理だね! 管理局の魔導師がいるんだよ、協力しようとしても監視されるのがオチさ!」

「無理だな。どっちにしても戦うことになる」

「い、今は文句を言わないで!」

アルフさんと暁君が僕の要求に文句をいれる。でもまだあるんだ……!

 

「み、3つ! その、えっと……て、テスタロッサさん。その名前で……呼んでも……良いかな?」

「……え?」

僕が3つ目の要求を言うと緊張していた場が急に白けるのがわかった。水崎君はずっこけたし、暁君は頭に手をあてたし、萩野君と高町さんは苦笑いだし、スクライア君は何だか悟ったような顔だし、テスタロッサさんは何が何だかわからないような顔だし、リニスさん、アルフさんは「「ほうほう」」と言ってニヤニヤしてるし、鎌瀬君は物凄く怒ってるし織主君は「それは……今言うべき台詞じゃないだろ」って呟いてるし……

 

「……なんとまあ純粋な願いだな」

そう言って場に緊張感を戻したのは意外にもヒテイ君だった。

 

「少年。君は勢いに任せてこんな作戦を取ったようだな。……足下ががら空きだ!」

「クロ!」

「了解、確保」

ヒテイ君の仲間が名前を言うと物凄い勢いで黒い毛並みの狼が突進してきて僕を押し倒した。

その時にジュエルシードが川底に叩き付けられて、光が視界に溢れかえって、そして……僕の意識は途絶えた。

 

…………

 

変化が訪れたのは唐突だった。鮎川君が持っていたジュエルシードが光ったかと思うと川の水が鮎川君と狼に集まり始めそのまま鮎川君と狼を飲み込むとそのまま天へと登ってある程度の大きさになると私達に敵意を剥き出しにして襲いかかってきた。

 

……ジュエルシードのいる場所から先の川に水がない!?

 

「あのジュエルシード……川の水を全部吸ってる!? アルフ、リニス! 気をつけて! 多分あれ際限なく大きくなるし回復能力も半端じゃないと思うよ!」

「わかってるよ! 早く坊やを助けないとね!」

「それからミャオさんもです!」

私はアルフとリニスと共に、ジュエルシードに攻撃を開始すると同時に鮎川君を助ける為、ジュエルシードの頭部(?)に飛び込もうとして……まるでスライムのようになったジュエルシードに弾き飛ばされた。

 

「こいつ……水の性質を自由に変えられる!?」

「フェイトちゃん!」

私がジュエルシードの能力に気付くと、なのはが心配そうに此方に走ってくるのが見えた。

 

「なのは、君と私は敵どうしだから。だから……心配しないで」

私は立ち上がりながらもう一度突撃をしようとして……

 

「食らえジュエルシード! 王の財宝!」

鮎川君が中にいるのを知っていて鎌瀬の放った一撃に愕然とすることになった。

あれは確か広範囲の攻撃だったはず……あれじゃあ中にいる鮎川君が!

 

私は慌てて放たれた財宝を撃ち落とそうとして……迎撃の為にジュエルシードから飛んできた無数の氷で出来た矢を回避することになった。

 

「ば、馬鹿な……なぜ我が財宝がジュエルシードの攻撃ごときで……」

「てめぇ! 中にいる鮎川を殺す気で放っただろ今の攻撃!」

鎌瀬が自分の自慢の攻撃があっさりと破られた事に愕然としていると、ミズサキ君が鎌瀬のバリアジャケットの襟首を掴み激昂する。

 

「鮎川? ……ああ、あのジュエルシードに飲まれているモブか。安心しろモブが1人や2人死んだところで何も変わりは……」

「寝てろ」

ふざけた事を言う鎌瀬を、ミズサキ君は容赦なく顔面を殴って気絶させた。

 

「秘剣……『嵐雨(らんう)』」

「『砲嵐(ほうらん)』、『弾雨(だんう)』……斉射!」

私が声に振り向くと、そこにはカンリの仲間が赤と青の二種類の炎を灯したデバイスでジュエルシードを切り刻み撃ち抜いていた。

けど……

 

「……っ! 青の炎で一時的に治りを遅くしても赤の炎で分解しても水がひっきりなしに補充されるからキリがない……!」

「くそ! どうすれば良いんだ!?」

そう。相手は上流から流れてくる水を吸収していくらでも補充できるから、少しのダメージじゃああっさりと回復してしまう。

かといって一気に大ダメージを与えようとすると……

 

「ディバイン……」

「避けてなのは! 氷の矢が来る!」

「またぁ!?」

こうやってジュエルシードが氷の矢を放って行動を阻害するんだ。

これじゃあ鮎川君が……!

 

「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! せめて鮎川だけでも助けなきゃいけねぇのに……!」

「お困りのようだね少年少女の諸君」

突然の声に私たちが振り向くと、そこには顔に戦隊物のレッドのお面をつけた怪しい人が立っていた。

 

「……誰だ?」

ミズサキ君が思わず手を止めて訪ねると怪人物はポンと手を叩いてこう言った。

 

「そうか自己紹介がまだだったな。私の名は……あ~、そう! 『多重緒面(たじゅうおめん)』だ。宜しく頼む」

……凄く偽名臭い名前だ

 

「……そうかい。で? その多重緒面は何のようだ?」

「ん? ああ、あの少年を助けつつジュエルシードも封印できる画期的な策があるんだがねぇ……聴く?」

「聞かせて」

私が即答で多重緒面の言葉に頷くと、なのは、リニスとアルフそして多重緒面自身も驚いていた。

 

「理由を聴いても良いかね? 私はこの通り怪しい見た目なのだが……」

「……鮎川君は元々私が巻き込んだようなものだから。だから……鮎川君を助けるためなら死神だろうと悪魔だろうとすがってみせる!」

私がそう言うと多重は「なんとまあヒーローっぽいこって」とぼやいた。

……私なにか変なことを言ったかな?

 

「……わかった。しかしそのためにはそこにいる管理局員達に、(狩人と百合島は……駄目だ見てるだけだ。出てこようともしない)そこで隠れている奴に織主君、そしてカンリ君とその仲間の支援が必要なんだ……協力してくれないかね?」

多重緒面の言葉にミズサキ君達が嫌な顔をする。

……多分私も同じ顔になっているんだろう。鮎川君を見捨てようとした織主と共闘するなんて……

 

…………

 

「それで? 俺達は何をすれば良いんだ?」

カンリを仲間の2人が説得して協力させた後私達はスクライア君が張り巡らせた結界の中にいた。

 

「ああ。私がたてた作戦はこうだ。先ず高町君と織主、それから死ぬ気の炎を使う少年とカンリが全力の砲撃を一斉に撃ち込んで回復に専念させることで迎撃を少なくする。

そして接近戦を得意とする君と死ぬ気の炎を使う少女、ミズサキ、不深山が一気に突っ込んでジュエルシードと鮎川君と狼の入っている頭部を切断し露出したジュエルシードを封印する……というものだ。何か意見はあるかね?」

「他のメンバーは?」

「他のメンバーは砲撃班の護衛と突入班の援護だ。例え砲撃で大ダメージを与えたとしても水を吸ってすぐに回復するからな」

「鮎川君の救出は?」

「頭部を切断後近くにいたものが救出してくれ。封印する者はジュエルシードの近くにいる人物だ。他に質問はあるかね?」

アカツキ君と不深山君の質問を捌いた緒面が周囲を見渡すと、全員が緒面の正体を気にしつつも作戦自体に不満はないようだった。

 

「……ないな? それでは作戦を開始する」

そう言われて私とミズサキ君、それからカンリの仲間の『アヤ・ミツルギ』が上空に待機すると、なのはとミツルギさんの義弟の『ユウト・ミツルギ』、カンリがデバイスを水平(織主は居合いの構え。……西洋の剣で居合いの構えは結構シュールだ)に構え、他のメンバーはジュエルシードから放たれる無数の氷の矢をシールドや弾幕で防ぐ。

 

そして……

「いまだ、撃て!」

「ディバインバスター!」

「『砲雷(ほうらい)』!」

「エクスカリバー!」

「龍炎絶砲!」

緒面の言葉と共に一斉に4つの砲撃が放たれ、ジュエルシードに大穴が空いてジュエルシードは慌てて体の修復を開始する。

……させるか!

 

「突入班、突入開始!」

「バルディッシュ!」

『ソニックムーブ』

緒面の指示と同時に、私が加速魔法で突っ込むと他の2人も遅れて突進を開始する。

ジュエルシードから迎撃が放たれるけど……

 

「マシンガンシューター、ランダムシュート!」

「「「バインド!」」」

「フェイトの邪魔はさせないよ!」

サポート班のみんなが全て迎撃する。……! 届いた!

 

「秘剣『豪雷(ごうらい)』」

「ぶっ飛べジュエルシード! スパイラルバンカー!」

「『ロード』、ジュエルシードを封印しろ」

『……承知しました』

ミツルギさんが雷のような炎でジュエルシードの頭部を切り離すと、ジュエルシードをミズサキ君が抉り出し不深山君が封印する。

そして、私は空中に放り出された鮎川君を受け止める。

 

「鮎川君! しっかりして!」

「……げほげほ!? こ、ここは……?」

良かった……生きてる。

 

「ぬおおおおおおおお!?」

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

私は、塞き止められていた水が一気に解放されて激流になった川に流される鎌瀬君と女の子の悲鳴を無視しながらほっと息を吐いた。

 

…………

 

「たく、幸い下流に人がいなかったから良かったもののいたら大惨事になってたんだぞ! 少しは考えて行動しろ!」

「……はい」

「……ナチュラルに流された鎌瀬達の事は無視するんだな」

「まあ、故意に鮎川を殺そうとしたんだから当然でしょ。しかも助けられたにも関わらず礼を言わなかったしね」

僕は水崎君達と一緒に温泉に入りながらお説教をされていました。

あの後、僕はヒテイ君の仲間に服を乾かしてもらって旅館に帰り、水崎君の提案で暖まるために温泉に入ることになったんだけど……その後で怒りが爆発したのか、水崎君が物凄い表情で温泉に浸かりながら怒り始めたのです。

 

「大体ジュエルシードを壊すだとか言って脅迫をするのが……聴いてんのか!」

「……はい。聞いてます」

それからヒテイ君は騒ぎが終わると仲間達と一緒に去って行きました。

……猫のランさんがミャオを名残惜しそうに見て、白い狼のシロ君がアルフさんに「次は負けねーからな!」と言ってましたがなんだったのでしょうか?

 

それからお父さんとお母さんには外に出たのはテスタロッサさん達と遊んでいたからと水崎君が説明しました。

……流石にジュエルシードの事は話せなかったようです。

 

「それから……」

「べ、別の温泉に入ってくる!」

「あ、まだ説教は終わってねえぞ!」

終わりが見えない水崎君のお説教に、僕は慌てて別の温泉に向かい水崎君も追ってきましたが……

 

「うわわわ!?」

何かを見て顔を真っ赤にするとそのまま元の場所に戻って行きました。

 

「……相変わらず初心(うぶ)だな。お前」

「うるせえ!」

アカツキ君の言葉で我に帰った僕が前を見ると、そこにはタオルで体を覆ったテスタロッサさんがいました。

 

「うわわわわ!?」

「待って!」

僕も水崎君の様に戻ろうとすると、テスタロッサさんが僕を呼び止めました。

……ひょっとしてテスタロッサさんもお説教かな?

 

「答えて。何であんな真似をしたの?」

「……悲しそうな顔だったから」

「え……?」

僕がテスタロッサさんの質問に答えると、テスタロッサさんは意外そうな顔になりました。

 

「月村さんの家での戦いで、テスタロッサさんが僕と高町さんを見て悲しそうな顔をしてたからだよ。だってテスタロッサさんは友達思いで、優しいから。だから悲しそうな顔をしたんでしょ? だからジュエルシードを一緒に集めればそんな顔をしなくても良くなるって思って……」

「……そっか、そうだよね。鮎川君はそういう人だもんね」

僕が理由を言うとテスタロッサさんは何かを悟ったような顔になりました。

 

「テスタロッサさん……」

「『フェイト』で良いよ、鮎川君」

「え……?」

「名前呼びで良いよ。1つ目と2つ目は無理だけど3つ目なら大丈夫だから」

僕はテスタロッサさんの言葉に動揺するとテスタロッサさんは笑顔でそう言いました。

 

「えっと、あの、ふぇ、フェイト……」

「うん。ありがとう鮎川君」

「ぼ、僕も『春雄』で良いよ! その、僕だけ名前呼びなのも不公平だから……」

「なのはも同じことを言ってた。宜しくね春雄」

「う、うん!」

こうして僕はテスタロッサさん……フェイトと名前で呼び会う事になりました。

 

「……説教はまだ終わってねえぞ?」

……その後で水崎君に説教の続きをされ、2人揃って逆上せました。




如何でしたか?
次回もお楽しみに!

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