「現場は此処か!」
俺が神社の石段を二段飛ばしで境内まで駆け上がると、そこには三つ首の凶悪な面構えのケルベロスになった犬(に憑依したジュエルシードの思念体)と、愛犬のあまりの変貌にショックを受けたのか白目をむいて仰向けに気絶した飼い主と思われる女性がいた。
「速いよアヤト……うわあ!? 犬が凄いことになってる!?」
「……あの犬の『強くなりたい』や『大きくなりたい』という願望が変質されて、あんな風に変貌したのか?」
「推察は後にして早くワンちゃんとあの人を助けないと! でないとあの人がジュエルシードに食べられちゃう!」
「そうだね! なのは! 昨日と同じように詠唱を……」
猛スピードで走った俺に漸く追い付いた4人が口々にそれぞれの意見を述べた後、それぞれのデバイスを起動させようとして……!?
「伏せろ!」
「ユーノ君、危ない!」
俺がヤマトとユウヤを、なのはがユーノを地面に押し倒すと、その頭上を無数の剣、槍、矢その他諸々の武器が通過し……
『『『ギャガワオォォォォン!?』』』
それら全てがケルベロスに命中した。しかも……
「っ!? 何の冗談だ!? 今の攻撃全部俺達どころかジュエルシードに憑依されてる犬ごと殺す気で放ってたぞ!?」
ケルベロスの傷口から漏れる魔力の煙に混じって流れる赤い液体……つまりケルベロスの元になっている犬が傷付いた事で血を流しているを示す物だった。
「う、ああ……あ? う、うそ、だよね……? あれじゃ、ワンちゃんが……ワンちゃんが……死んじゃ、う……」
「なのは、しっかり! あの程度の量の出血ならまだ軽症の段階だ! 急いで治療すれば間に合う筈だ!」
流れる犬の血に気が付いたなのはが青ざめた顔でふらつき、ユーノが慌てて支えて犬がまだ大丈夫だとなのはを諭す。
「ちくしょう! 何て真似をしやがる! 何処の誰だ、こんなことをしやがるのは!」
「……アヤト、ヤマト。俺は今、無性に腹がたっている……!」
「僕も同じだよ。管理局員として、同時に1人の人間としてね……!」
「ふん、図体だけの大きなデカブツの癖に存外しぶといな。我の嫁たるなのはに我の実力を示すデモンストレーションには丁度良い……何?」
俺達があまりの暴挙に怒りながら後ろを振り向くと、そこには黄金の鎧を身に付けた赤目に金髪の同い年の男がいた。
「てめえか! こんなひでえ真似をしやがったのは!」
「何故だ? 何故淫獣のユーノがフェレットになっておらんのだ? しかも嫁であるなのはの周りに何故モブキャラが3人も……? まさか、我以外の転生者の仕業か……? いや、我の学校の転生者は全て半殺しにしたはず。ならば何故……?」
俺が男にキレながら問いかけると、男はぶつぶつと訳のわからないことを呟いていた。
……呟いてる事に管理局員として許せねえ言葉があるな。
「まあ、良い。そこの淫獣にモブキャラども、そこから退け。我がそいつを打ち倒しなのはの好感度を上げねばならんからな」
「……嫌だね」
男がふざけた事を言いながらよってくるが、そんな男にヤマトがポツリと呟いた。
「何……?」
「ああ、聴こえなかった? じゃあ君のその愚鈍で愚劣で若いのに呆けたお爺さんみたいに遠くなって頭部に着けてる意味がない耳にもよーく聴こえるように言ってあげようか? ……嫌だねって言ったんだよ、この動物虐待が趣味で見た目の最悪な金ぴか鎧を着込んだキ○○○野郎!」
「な、な、な……」
男が問いかけると、ヤマトは俺達が訓練校でチームを組む事になった『事件』並の怒りの表情で容赦なくピー音が入るレベルの罵倒を言い放った。
その罵倒に男となのは、ユーノが凍り付く。
「……え? や、ヤマト……君?」
「え、ええ~?」
「ああ、なのはとユーノは初めてだったな? ヤマトは普段は温厚で俺達の中では一番理知的なんだが……キレるとあの通り凄まじい罵倒が相手に叩き付けられる。そもそも俺やアヤトがヤマトとチームを組む切っ掛けになったのは、あいつがアヤトや俺をバカにした同級生を苛烈に罵倒して模擬戦をするはめになったからだ。それ以来俺とアヤト、ヤマトの3人はつるむようになったんだ」
「で、キレるとあんな罵倒が飛び出すものだから耐性も出来たし、罵倒を事前に止めるタイミングもわかってきたんだが……流石に今回は止めれなかったみてえだ」
「でも2人とも止める気全くなかったよね?」
俺とユウヤの説明にユーノが突っ込みを決める。ち、ばれたか。
「も、モブキャラごときがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! この至高のオリ主たる我を! 『フミーダイ・ヒモテ』を罵倒するとは良い度胸をしているな!」
「至高? 歯垢……歯についてる汚れの間違いじゃないの?」
そのヤマトの一言で男……フミーダイは完全にキレたらしい。
「……もういい! モブキャラには身の程というのを思い知らせてやる……!」
「……アヤト、ユウヤ。こいつ幾つ法律を犯してる?」
「ん? え~と……まず傷害と殺人未遂だろ? それから管理外世界での魔法の使用に殺傷設定での魔法の使用、それを人間と動物に向けて放ったこと、それで人間や動物を傷付けたこと、そんでもって無許可の魔導師であることも法律違反だな。管理外世界だから最後のは意味ねえけど」
「ついでに言うならデバイスの違法所持に違法改造だな。あのデバイス、元々は『ギルガメッシュ』というインテリジェントデバイスらしいが言語機能と非殺傷設定に関する機能が改造されていて機能を失っている。カードリッジシステムも装備されているから気を付けろ」
「な、なんでそんなことを……! 貴様らのようなモブが何故管理局の法律を……」
「管理局員だからだよ。T4W、セットアップ」
「同じく。SD9、セットアップ」
「俺もだ。J5S、セットアップ」
俺達がデバイスを起動させると、フミーダイは愕然とした表情で俺達を見た。
「ば、バカな!? 何故管理局員がこの時点でいるんだ!? 『原作』と違いすぎる……そうか、貴様ら転生者だな! なのはを悪の管理局に引き込もうとするつもりだろうがそうはさせん! 我が貴様らの野望を砕いてくれる!」
……こいつは何を言ってるんだ?
「……ヤマト、ユウヤ。こいつ何を言ってんだ? 悪の管理局って……何をどう考えたらそんな結論になるんだ?」
「黙れ! 三脳に支配されている組織なぞ悪そのもの! 我が……」
「うるさい、バインド」
「滅ぼ……モゴモゴ」
ヤマトがフミーダイの言い分に頭にきたのか、即座にフミーダイをバインドで雁字搦めに縛る。
「……なのは、彼の相手はアヤト達に任せて僕らはジュエルシードを回収しよう」
「う、うん! レイジングハート、セットアップ!」
ヤマトがフミーダイをバインドで雁字搦めにしていると、なのはとユーノはケルベロスに向かって走っていった。
……スルーしてたけど今、祈祷型のインテリジェントデバイスを無詠唱でセットアップしなかったかアイツ!?
「奇襲とは卑怯な! やはり管理局員は悪! 悪に裁きを与える我の正義の鉄槌を喰らえ! 『王の財宝』!」
バインドから脱出したフミーダイがそう言うと、フミーダイの背後の空間に無数の剣や槍等の武器が現れた。
あれがケルベロスを滅多刺しにした魔法か……!
「……公務執行妨害も追加! 今更謝っても許さねえぞ!」
「黙れ! 泣いて謝るのは貴様らの方だ!」
フミーダイが手を振り下ろすとそのまま武器が発射されるが……
「『マシンガンバレット』、ランダムシュート!」
ユウヤが放った射撃魔法が、発射された武器を全てケルベロスにも俺達にも(勿論気絶してる飼い主にも)当たらないように軌道を変えさせた。
「ば、バカな!? 何故我の宝具が貴様のようなモブキャラに……!」
「……どんなに勢いがあっても、角度を変えるように撃てば当たらないようには出来るさ」
さらっと言ったけど、それは結構高等技術だからな?
「余所見をしてる暇はないよ? バインド!」
「ぬぐ!? ええいバインドごときが我を縛れ……」
「『ソニックランス』!」
ヤマトがバインドで再びフミーダイを縛ると、フミーダイがそれを解く前に俺は加速魔法を組み込んだ刺突をフミーダイに叩き込んだ。
「ぶげあ!? き、貴様ら……! このオリ主である我を虚仮に……」
「サーチャーチェンジ、『フラッシュボマーシューター』……シュート!」
「こざかしいわ!」
ユウヤが放ったシューターをフミーダイは撃ち落とし……直後シューターが激しく光ながら爆発しフミーダイは光に目をやられたのかひっくり返った。
「!? ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「フラッシュボマー……俗に言う閃光弾だ。撃ち落とすのは悪手以外の何物でもないぞ」
「お、おのれおのれおのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 天の……」
「大技は撃たせないよ! バインド!」
「こいつで終わりだ! スパイラルバンカー!」
「同じく、『スタンガンショット』!」
「ば、バカな……我がモブキャラごときにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
大技を放とうとしたフミーダイをヤマトのバインドが縛り、俺のスパイラルバンカーがフミーダイのバリアジャケットを大幅に破損させ、最後にユウヤの対象を麻痺させるスタンガンショットが炸裂しフミーダイは「あばばばばばばばばばば!?」と言いながら気絶した。
「……ユウヤ、お前これ最大出力で撃ったろ?」
「……後遺症は残らん」
「……それもそうだな」
「馬鹿言ってないでさっさとデバイスを回収してなのはの援護に向かおう」
そう言って俺達はフミーダイからデバイスを取り上げると、なのはの援護に向かおうとして……
「ちょっと痛いけど絶対に助けるから! ディバイン……バスター!」
『『『ギャオォォォォォォォォォォン……』』』
ケルベロスが桃色の光に飲み込まれ、ジュエルシードがケルベロスから分離される場面に出くわした。
「「「……え?」」」
砲撃……魔法? 嘘だろ、本当にアイツド素人かよ。砲撃魔法なんて一朝一夕に取得できる魔法じゃないぞ……
「プロテクションが破れなかったからもしやと思ったが……なのはは俺達3人全員の魔力よりも高い魔力量を持ってるんじゃないか?」
……奇遇だなユウヤ、俺も同じことを思ってたよ。
「あ、あははははは……凄いやら怖いやらだね……」
俺達3人ははははと笑いながら、なのはの力に戦慄を覚えた……
…………
「なのは、お前はこの戦いから降りろ」
「どうして!?」
フミーダイと気絶していた飼い主、ユーノが治癒魔法で治した犬を交番に届けた後、俺は帰り道でなのはに戦いから降りるように言った。
「当たり前だよなのは。非殺傷設定を切るような敵がジュエルシードを狙ってるんだよ!? なのはが大怪我を負ったり死んだりしたらどうするのさ! そんなことになったら士郎さん達に申し訳がたたないし何より……僕は自分を許せなくなるんだ……」
「ユーノ君までそんな……」
「ユーノの言う通りだ。お前が傷ついたら悲しむ人がいるのを忘れるな」
「私が抜けたら皆はどうするの!?」
「まあ、なんとかやるよ。ジュエルシードの封印はなのはに任せるしその時は呼ぶけどな」
「レイジングハートは護身用に持ってて。でもジュエルシードを探したり戦うのはダメだよ」
「……っ! う、うん……」
なのはは俺達が折れないと知ると、項垂れた後力なく頷いた。
「(……これで良いんだよな?)」
「(……多分な)」
「(ユーノ、フォローは任せたよ)」
「(……うん、わかったよ)」
俺は力なく歩いているなのはを見ながら念話で会話した……
…………
「ふぇ、『フェイト・テスタロッサ』です! 今日から宜しくお願いします!」
翌日、PT事件におけるなのはの道標となる人物が転校して来るのを俺達はまだ知らなかった……
如何でしたか?
次回は橋出視点でのお話です。
次回もお楽しみに!