魔法少女リリカルなのは~管理局員の奮闘~   作:愛川蓮

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運命と春~再開と転入は突然に~


第8話

「ただいま〜〜」

僕『鮎川春雄』は、アルフさんにマンションの近くまで送り届けられた後、マンションの僕の家まで帰った。

本当は、マンションから普段僕ら家族が使ってるスーパーの行き帰りの時間より早いから時間を潰したかったんだけど……買ってきた物の中にはアイスや冷凍食品があったから溶ける前に帰らなきゃいけなかったんだ。

 

「あら春雄、何時もより早かったわね。近道でも見つけたの?」

「う、うん。そうなんだ。でも途中で買い物袋を落っことしそうになったし危ない道だったからもう使わないよ」

「あらそう。じゃあ買ってきた物を冷蔵庫と冷凍庫にいれてね」

「うん。……あ、卵が幾つか割れちゃってる」

……多分あの光景を見て、不深山君を思い出して落とした時に割れちゃったんだ。

 

「あらあら……じゃあ今夜は割れた卵も使って一品追加しなきゃ」

「ごめんね。手間をかけて」

「良いのよ、それに割れたお陰で一品お夕飯が増えるんだし貴方にとっては結果オーライよ」

「そ、そうかな……?」

……ダメだ。さっきの光景を見たせいで、未だに不深山君とその背後にある『何か』が頭に浮かんでくる。

 

「ご、ごめん……ちょっと横になってくるね」

「……そう、わかったわ」

僕が少しふらつきながら部屋に向かうと、母さんは少し苦しそうな顔をしながらそう言った。

 

僕は部屋に入ると、そのままベッドに潜り込んで眼を閉じる。

眼を閉じると、さっきの変な杖を持った男の子達が逃げていくのと吼えながら突撃してくる怪物、そして……

 

「あの子……綺麗だったな」

僕を助けてくれた金髪に赤目の女の子が浮かんできた。吸い込まれそうな白い肌、夕日に反射して煌めく金髪、そして宝石の様な赤い眼……ダメだ。頬が熱くなってきた。

 

「誰だったんだろう……あの子? アルフさん、ちゃんとお礼言ってくれたかな……」

そのまま僕は未だに見る夢の世界(悪夢)へと旅立った。

 

…………

 

「……ふう」

私『フェイト・テスタロッサ』は、使い魔である『アルフ』と住んでいるマンションに帰るとお風呂に入っていた。

理由は簡単。ジュエルシードの探索に疲れたのと、あの後遭遇した様々な人間達を忘れたかったからだ。

 

織主と言っていた男を倒してジュエルシードを奪った後、私達がジュエルシードを探そうとしていたら、金髪赤目のやたら偉そうな男や銀髪に左右の眼の色が違う気持ちの悪い笑みを浮かべた男、私の名前を知っていて馴れ馴れしく私に触ろうとした黒髪の女の子等の様々な人物が言い寄って来て、ジュエルシードを探すどころではなくなってしまった。

因みに、彼らは全員私とアルフが打ち倒した。全員が全員魔法や強力なレアスキルを使っていたが、私とアルフ、そして私のデバイスである『バルディッシュ』の連携の前に敗れさった。

 

「初日からこれじゃ先が思いやられるな……」

それでも……それでも母さんの為にジュエルシードを集めなきゃいけないんだ……!

私はお風呂から出て、部屋着に着替えながらそう決意した。

 

「あ、フェイト。あがったのかい?」

「うん。アルフもお風呂入ってきなよ」

「そうさせてもらうよ……あ、そうそう言い忘れてた事があったよ」

私がお風呂から出ると、人間形態になっていたアルフが振り返りながらこう言った。

 

「あいつらに出会ったから忘れてたけど……夕方に助けた奴が『ありがとう』って言ってたよ」

「……そう、伝言ありがとう」

「別に良いよ。じゃあお風呂に入らせてもらうね」

そう言ってアルフはお風呂場に向かって行った。

 

「……『ありがとう』か」

私は夕方に助けた男の子について考えた。

母さんに言われて、ジュエルシードを探す為にこの街へ来た私は、来て早々に感じた魔力を頼りにあそこに行ったらジュエルシードとあの子がいたんだ。

あの子は、リンカーコアも母さんに『横暴な虐待毒婦め! フェイトを解放してもらおう!』とか言って襲い掛かって瞬殺された奴等みたいに特殊な能力も持っていなかった。そして側にいて魔導師であるにも関わらず、ジュエルシードに襲われるあの子を見ていただけの織主に対する当て付けも含めて助けたんだ。

……そんな身勝手な理由で助けた私にありがとう、か。

 

「……あの子にとっては危ないところを助けてくれた私がヒーローに思えたのかな?」

私が考えていると玄関の呼び鈴の音が鳴った。

 

「? 誰か来たのかな?」

私は玄関まで来て開けると。

 

「はい、どちら様で……え?」

「あ、隣の鮎川なんですけど、夕食のお裾分けに来たので良ければ……え?」

……さっき助けた男の子がタッパーの入った袋を持って立っていた。

 

…………

 

「う~……」

何時も通り、巨大な不深山君に追いかけ回されるという悪夢を見た僕は、のそりと起き上がると同時に扉が開く音が聴こえた。

 

「あ、お父さんお帰り」

「只今。良い子にしてたか?」

「うん」

お父さんは僕の頭を撫でながら言い僕はそれに応えた。

 

「あらあなた、お帰りなさい。ちょうどお夕飯が出来たところよ」

「ああ、只今。そりゃ二重の意味でタイミングが良かったな」

「? 二重の意味でってどういう事?」

「ああ、隣の部屋に誰かが引っ越してきたみたいでな。近所付き合いも兼ねておかずを一品分けたいと思ってな」

「あら、気が付かなかったわ。そういうことなら春雄、煮物をお隣に持っていってくれないかしら?」

「うん、わかったよ」

僕は着替えると、煮物の入ったタッパーの入った袋を持ってお隣に行く。

何故かうちのお隣さんって、人が入る度に変なことが起きて出ていくんだよね……例えば住人が幽霊を見たとかそういうの。

今では心霊スポットなんて言われてるんだよなぁ……

 

僕がそんなことを考えながら呼び鈴を鳴らすと、すぐに女の子が出てきた。

 

「はい、どちら様で……え?」

「あ、隣の鮎川なんですけど、夕食のお裾分け来たのでよろしければ……え?」

そこにはさっきあった金髪の女の子がいた。

 

「え、え~と……どのようなご用件でしょうか?」

「あ、え~と……夕食のお裾分け来たのでよろしければそちらの夕食に加えていただければと……」

「あ、そ、それはご丁寧にどうも……」

そうして僕は女の子に袋を手渡すと、そのままぎこちなく家に入った。

 

「あら春雄。ちゃんと渡して……顔を赤くしてどうしたの?」

「あ、うん……お隣に僕と同い年の女の子がいたから……」

「あらあら一目惚れしちゃったのかしら?」

「ち、違うよ! そ、そんなんじゃ……」

そうは言っても、急に沸いてきたこの胸の高鳴りをうまく説明できない僕だった……

 

…………

 

「……学校へ?」

『ええ。あなたくらいの年齢の子は全員が学校へ行くそうよ。お隣の子と会った以上そうでもしないと怪しまれるでしょ?』

私は母さん…『プレシア・テスタロッサ』に報告をしていると、母さんはそんなことを事も無げに言った。

 

「でもジュエルシードは……」

『ジュエルシードは学校が休みの日や夜にでも捜索出来るでしょ? 今は近所に怪しまれないようにするのが先決よ。それとも私に逆らうの?』

「……いえ」

『そう。通う学校は私が決めて授業費も払っておいたから安心しなさい。因みに転入は明日からよそれじゃ』

そう言って、母さんは通信を切った。

 

「……あの鬼ババが何のつもりだい? フェイトにわざわざ学校に通わせてさ」

「……さあ? でも彼に姿を見せた以上、母さんの言うとおり怪しまれないようにするのも大事だよ。私は母さんの言うとおりに動くだけ」

「フェイト……」

アルフが不満そうに顔を歪めるけど、諦めたのか溜息を吐く。

 

「わかったよ、明日に備えて寝ようか。おやすみフェイト」

「おやすみ、アルフ」

私はアルフと言葉を交わすと、そのまま夢の世界に旅立った。

 

…………

 

「……それで? 本当にフェイトはその学校に行ったら支えてくれる子に会うの?」

「そ、そうだ! だ、だから命だけは……!」

通信を終えた後黒髪の女性……プレシア・テスタロッサがボロボロの男に振り向いて確認すると、男は息も絶え絶えにプレシアに命乞いをする。

 

「あら? 『死ね毒婦!』とか言いながら襲いかかってきたのに自分が死にそうになると命乞いをするの? 私がしたら絶対に許してくれないのにそれはフェアじゃないわよね?」

「ひ……!?」

そう言ったプレシアは、震えている男の頭を鷲掴み……

 

「さようなら」

「た、助け……ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

プレシアが凄まじい量の電撃を流すと、男の体はたちまちのうちに炭になり灰となって崩れ落ちた。

 

「ふん、他愛ないわね」

そう言ってプレシアは部屋の一角にあるカプセルを見ると、自嘲気味笑いながら言う。

 

「『アリシア』、大丈夫よ。(フェイト)はあいつらが言うように絶対に傷つけはしないわ。だって……あなたが望んだ妹ですもの……」

そう言ってプレシアは部屋を出て寝室へと向かった……そしてその場には『フェイトと瓜二つ』の少女が入ったカプセルが残された……

 

…………

 

「おはよう。橋出君」

「オッス鮎川。聴いたか? またこのクラスに転入生が来るんだってよ」

「え、また?」

「ああ、その証拠にお前の隣に誰もいない席があるだろ?」

「あ、ほんとだ」

僕がお隣である橋出君と話していると、昨日転入してきた水崎君達と高町さんが駆け込んで来た。

……高町さんは席に座るや否や、溜息を吐き始めたけどどうしたのかな?

 

「心配する必要はねえよ。2、3日すりゃ治るさ」

「そうなの?」

「そうだよ(言いたかねえけど『あれ』をなのは抜きで倒せるとは思えねえしな)」

橋出君がまるでわかっているような事を言ったのに首を傾げますが、先生が来たので席に座ります。

 

「皆さん、嬉しいニュースです。昨日に続いてまた転入生がこのクラスにやって来ました。それでは自己紹介をどうぞ」

「ふぇ、『フェイト・テスタロッサ』です! 今日から宜しくお願いします!」

僕は女の子……テスタロッサさんが入ってきたのに驚いて、橋出君と一緒に椅子ごと転けてしまいました。

 

そして僕は知りませんでした。これがテスタロッサさん……『フェイト』との運命の出会いだったとは……

 




如何でしたか? リアルでのゴタゴタがあったので遅れに遅れましたがなんとか投稿できました。
次回もお楽しみに!

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