インフィニット・ストラトス~異世界に降り立つは魔王と呼ばれし精霊~ 作:ガーネイル
それではごゆっくり。
放課後。エミルたちはアリーナにいた。なお、一夏は箒の擬音たっぷりの説明、鈴の感覚任せな説明を受けて頭を抱えていた。セシリアはエミルから近接武器の説明を受けている。その目はとても真剣なものだ。
そこにシャルルが来る。
「一夏。ちょっと相手してくれる? 白式と戦ってみたいんだ」
「シャルル。分かった……というわけだ二人とも。また後でな」
鈴と箒は一夏を睨む。一夏はそれを然としてそれに気付いていない。
アリーナ内で一夏とシャルルの周りにはいつのまにか観客で溢れていた。エミルとセシリアもその試合を見ている。
試合が始まってから数回にわたる切り結びは一夏の成長が見られエミルは頷いていたが、宙に逃げられ銃で射撃されてからはあっと言う間だった。
まっすぐ飛んでくるものにまっすぐ向かっていくというのは自殺行為志願者以外の何者でもない。
「つまりね、一夏が勝てないのは単純に射撃武器の特性を理解していないからだよ」
試合終了後一夏はシャルルに教えを受けていた。なお、この時、エミルはセシリアと近接武器による特訓を行っている。
そこから少し離れたところで一夏とシャルルが射撃武器による練習を開始する。
エミルがセシリアから二本目を取り、一夏も射撃を終えた時、アリーナ内が少しざわつき始める。
「あれってドイツの第三世代じゃない?」
「まだ本国でのトライアル段階って聞いてたけど……」
この場にいる全員がピットの方を見る。そこには真っ黒で巨大な砲身が印象的なISがいた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」
「織斑一夏」
ラウラが一夏の名を呼ぶ。
「何だよ」
シャルルから借りていたのであろう銃を返しながら返答する。
「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話は早い。私と戦え」
「嫌だ。理由がねぇよ」
「貴様になくても私にはある」
「今でなくてもいいだろ。もうすぐクラスリーグマッチなんだからその時でも」
「なら……」
ラウラが一夏に砲身を向け、射撃した。
「危ない!」
エミルがチャクラムを展開、投擲し砲弾を切る。チャクラムはそのまま弧を描き、エミルの手元に戻る。
「ドイツの人は喧嘩っぱやいというか、血の気が多いみたいだね」
「エミル・キャスタニエ……」
この時、初めてこの場でエミルを視界に入れる。
「僕の友達を傷つけるのは許さないよ」
「ちょうどいい。先日の分を返すとしよう」
「井の中の蛙大海を知らずってところかな?」
「その言葉、そのまま返すとしよう」
互いの武器を構え、視線があい、火花を散らす。
「そこの生徒何やってる!」
注意のアナウンスが入る。興が削がれたのかラウラはISを解除する。
「今日の所はここまでにしておこう」
一夏とエミルを一瞥し、引き返していく。
「一体どういうことだ一夏!」
「アイツとアンタの間に何があるっていうのよ」
一夏はその言葉を気にせず、ただラウラがいた方を見ていた。
解散し、場所はアリーナ更衣室。
「さっきは大変だったね」
「一夏、大丈夫?」
エミルとシャルルは椅子に座って一点を見つめる一夏に声をかける。
「あ、エミルか。さっきはサンキューな、助かったよ」
「気にしなくていいよ」
一夏が着替え始めようとしたところでシャルルが声を上げる。
「エミル、僕は先に戻ってるね。一夏もまたね」
「え? ここでシャワーを浴びて行かないのか? お前、いつもそうだよな」
「へ?」
「何で俺たちと着替えるの嫌がるんだよ」
「べ、別にそんなことないと思うけど……」
「そんなことあるだろ。たまには一緒に着替えようぜ」
強引に誘う一夏にエミルがストップをかける。
「一夏、相手が渋ってるのに強引に誘うのはどうかと思うよ」
「あぁ、悪い。でも、せっかくだし仲良くしたいじゃんかよ」
「それなら他にももっと手段はあるでしょ? 休日に遊びに行くとか」
「それでもそうだ。ごめんな、シャルル」
「ううん、いいよ。それじゃあ、僕は先に行くね」
「シャルル、買い物してから部屋に戻るから少し遅くなるよ」
「分かった!」
シャルルは走って帰っていった。
「それじゃあ、一夏。僕も行くところがあるし先に行くね」
エミルも一足先に出ていく。
「おう! また明日な!」
「うん。また明日ね」
エミルはアリーナから出て近場のスーパーで買い物を終えた帰り道でエミルは不思議な物を拾った。何かの記録媒体のような形をしている。エミルはそれをポケットに入れて帰路についた。
「ただいま」
扉を閉めてベッドに向かおうとした時、シャワールームから出てきたシャルルと鉢合わせる。
「「え?」」
お互いが顔を見合わせる。そしてシャルルがものすごい速さで物陰に隠れる。
「「………………」」
何とも言えない空気がこの場を支配する。そして先に口を開いたのはエミルだった。
「えっと、少し外歩いてくるね?」
「う、うん」
エミルは鞄と買った品を置いて再び外へ出ていく。一方のシャルルも顔を赤くして物陰で固まっていた。
エミルは外のベンチに座っていた。そして手には帰り道で拾った謎の記録媒体のようなもの。
「何だろう、これ」
そしてたまたま、それが待機状態のISに近づいたとき、淡い光を帯びて吸収されていく。
「ISに関係するものだったのかな? 考えても分からないしひとまず置いておこう。……さて、部屋に戻ろうかな」
エミルが部屋に戻るとシャルルはベッドの上に座っていた。エミルは着替えをもって洗面所へ移動し、そこで着替える。戻って自分のベッドの上に座る。
「「………………」」
再び沈黙がこの場を支配する。時計の針が動く音がとても大きく聞こえる。
「……早速で悪いんだけど何で男の子のフリをしてたのか教えてくれる?」
「実家からそうしろって言われたんだ」
「実家? っていうことはデュノア社の?」
「そう。僕の父がそこの社長。その人からの直接の命令でね」
「どういうこと?」
「僕はね、父の本妻の子じゃないんだ。父とは別々に暮らしてたんだけど二年前に引き取られたんだ。お母さんが亡くなったときにデュノアの人が迎えに来てね。それで色んな検査を受ける過程でIS適性が高いことが分かったから非公式なんだけどテストパイロットをやることになったんだ。でも、父に会ったのはたったの二回。話しをした時間は一時間もないかな」
シャルルは寂しそうな笑みを浮かべて続ける。
「その後にね経営危機に陥ったんだ」
「でも、デュノア社って量産機のシェアが第三位じゃ?」
「そうだけど……結局リヴァイブは第二世代型だからね。現在ISの開発は第三世代の開発が主流になってるんだ。セシリアさんやラウラさんが転入してきたのもそのためのデータを取るためだと思うよ。あそこも第三世代型の開発に着手はしてるんだけどなかなか形にならなくて……このままだと開発許可が剥奪されてしまう」
「でも、それとシャルルが男のフリをするのは全く関係がないよね?」
「簡単な話だよ。注目を浴びるための広告塔。それに同じ男子なら一夏にも接触しやすい。エミルがいたのは予想外だったけどね。それで一夏本人と使用機体データが入手しやすくなる。要は一夏のデータを盗んで来いって言われているんだ、あの人にね」
エミルは激しい怒りにかられた。親が子を道具のように扱っていいはずがない。たとえ、その子が本妻の子ではないとしても、だ。
「はぁ、本当のことを話したら楽になったよ、聞いてくれてありがとう。それと今まで嘘ついててごめんね」
「ううん。気にしなくていいよ。それよりこれからはどうするの?」
「どうって……女の子ってことがばれちゃったし、きっと本国に呼び戻されるだろうね。後のことはよく分からない。よくて牢屋行きなんじゃないかな?」
そう言ったシャルルがはかつてマルタが父親から逃げてたあの時の姿と重なった。エミルは立ち上がりシャルルを見据える。
「それなら大丈夫だね。僕が黙ってればいいだけだし。それにここにいる間は大丈夫じゃないかな? IS学園特記事項に書いてあったはずだよ、本学園における生徒は在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体には帰属しない。だから三年間は大丈夫。その間に何か方法を考えようよ。それに……勇気は夢を叶える魔法だよ」
「え?」
「昔、シャルルみたいな女の子がいたんだ。言い訳をして諦めようとしてた女の子が。ねぇ、シャルル。ここを卒業してもシャルルと君のお父さんはいつまでも親子なんだよ? なら逃げないで正面から向かい合わなきゃ。もし怖くなった時は僕の勇気、半分分けてあげる。だから頑張って足掻いてみようよ」
エミルが笑顔でそう言い切る。シャルルは立ち上がり、エミルの方を向く。
「エミル……。うん、そうだね。ありがとう!」
ようやく一纏まりしたところで扉をノックする者がいた。
「エミルさんいらっしゃいますか? もしよかったら夕食をご一緒なさいませんか?」
セシリアだ。エミルとシャルルは声を出さずに慌てる。エミルはシャルルをベッドで横にさせた。
「シャルル、体調を崩したことにしよう」
「う、うん」
「エミルさん、入りますわよ」
セシリアがドアを開け入ってくる。すると、エミルとシャルルの様子を変に思い少し訝しんでいる。
「何をしていますの?」
「シャルルが少し体調を崩したから様子を見てたんだ」
「ご、ごほっごほっ」
ものすごくわざとらしい。そんなんで誤魔化されるのだろうか? 非常に怪しい。
「あら、大丈夫ですの? エミルさんをお借りしても?」
「少し落ち着いてきたから、……どうぞ」
「エミルさん、夕ご飯は済まされました?」
「まだだよ」
「なら、ご一緒しませんか?」
「いいけど……シャルル?」
「行ってきていいよ」
「少し、お借りしますわ。では、早速行きましょう」
セシリアがエミルの腕をつかんで歩き出す。
そして部屋を出た後、鈴と遭遇した。
「で、あんた。何してんの?」
「鈴さん?」
「これから私たち、一緒に食事をしますの」
「食事に行くのに腕組む必要あんの?」
「殿方が乙女を案内するのは当然のことです」
「あはは……」
エミルは苦笑いを浮かべる。
「なら、私も一緒していいかしら? さっき夕食食べたけど少し足りなかったから」
「鈴さん、食べすぎはあまり良くないのでは?」
「それなら気にしなくていいわよ。いつも運動してるから」
「それじゃあ、行きましょうか」
鈴はそう言いながらしれっと空いてる方の腕を取る。
両腕には可愛い女子が二人。この状況はモテない男から見ると大変羨ましいものだろう。だが、本人からするとこの状況はある意味冷や汗ものではある。もっとも場所が場所であるので他の生徒から見られると大騒ぎになることは必須なのだ。
「はぁ……」
ここで変に騒ぐわけにもいかず、何かしら反対の言葉を口にすれば機嫌を損ねるのは目に見えてるからエミルは一種の諦めのようなものを抱きながら歩いて行った。
謎の緊張感を孕んだ食事を終えた後、エミルは部屋に戻り、簡単な食事を作っていた。
「シャルル、夕食は親子丼でいいかな?」
「うん。ありがとう……」
エミルは慣れた手つきで親子丼を出していく。ものの数分で完成した。
「はい、出来たよ。お待たせ」
エミルがテーブルに親子丼を置いた瞬間表情が硬いものに変わる。シャルルの視線は親子丼とともに運ばれたお箸へと注がれていた。
シャルルは今から戦場に出るような面持ちでお箸を手に取る。
「いただきます」
シャルルが親子丼にお箸をつけるが――それが口に運ばれることはなかった。何故なら……上手にお箸を使えずポロポロと掴めずにいるからである。
「スプーンに変えようか?」
「う、ううん。大丈夫」
「遠慮しないでいいよ。ルームメイトなんだし頼ってくれて大丈夫だよ」
「ならさ、エ、エミルが食べさせてよ」
「えっ!?」
「頼ってもいいって言ってくれたから……」
「う、うん。分かったよ」
エミルはシャルルからお箸を受け取り親子丼を一口分つまみ、シャルルの口元に運ぶ。
「は、はい、あーん」
「あ、あーん」
お互い照れくさそうにしながらも最後まで続いた。
食後は会話もそこそこにして眠りについた。
とまぁ、今回はここまでです。次回からはタグが少し増えてると思います。
ちなみに次回は番外編でありつつ、本編でもあります。