インフィニット・ストラトス~異世界に降り立つは魔王と呼ばれし精霊~   作:ガーネイル

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14.見せかけの力とエミルが持つ強さ

 アリーナ更衣室

 

 普段着替えている場所で着替えるエミルとシャルル。

「それにしてもすごいね。こんなに人が集まるなんて」

 すでに着替え終えたエミルは電光掲示板を見て人の集まりように驚いていた。着替え終えたシャルルが顔を出す。

「三年にはスカウト。二年には一年の成果の確認に。それぞれ人が来ているからね」

「なるほどね。大変なんだね、企業のお偉いさんたちも」

 この時、エミルの脳裏には大手カンパニーの会長なのに手錠をはめていた男性が浮かび上がっていた。それを打ち消すように頭を振る。

「エミル、どうかしたの?」

「ううん。何でもないよ」

「そう? ならいいけど。エミルはボーデヴィッヒさんと対戦できるか気になる?」

「気にならない。……って言ったら嘘になるけど大丈夫だよ。遅かれ早かれ戦わなきゃいけないから」

「エミルならないとは思うけどあまり感情的にはならないでね? 不必要に煽ったりしないでよ」

「大丈夫。分かってるよ」

 もっともエミルなら心配はないがラタトスクが出てくるなら話が変わってくる。彼なら必ず煽るはずだ。今までそうだったのだから。

 ラタトスクのことを知らないシャルルは何の疑問も持たず安心したように頷く。

 電光掲示板の表示がトーナメント表に切り替わる。そしてエミルたちの対戦相手が表示される。

 電光掲示板に表示された対戦相手の名前はラウラ。何の因果かラウラのペアは一夏だった。敵視されていると知っていてペアを組む人はそうそういない。つまり、一夏はペアが見つからなかったということだろう。

「どうやら早速みたいだね」

「うん。一夏は大丈夫だといいんだけど」

 シャルルが今ここにはいない一夏を気に掛ける。

「大丈夫だよ。何かが起きる前に終わらせればいいから」

「すごい自信だね。何か策でもあるの?」

「まぁね。シャルルは一夏の足止めをお願い」

「任せて」

 そしてトーナメントの幕が上がる。

 アリーナに出る前にラタトスクがエミルに話しかける。

「(ボーデヴィッヒとは俺にやらせてくれ)」

「(いいけど、何かあるの?)」

「(力がどういうものか間違えてるやつが気に食わないだけだ。だから俺が……俺たちが教えてやるだけだ。力とはこういうものだ、とな)」

「(分かった。ボーデヴィッヒさんのことは任せるよ)」

「(すまねぇな。ありがとう)」

「エミルー。グラウンドに行くよー」

「うん」

 そうしてエミルとシャルルはグラウンドへと向かう。

 

 グラウンドにて対峙する。

「どうやら早速みたいだね、ボーデヴィッヒさん」

「だが、余分な手間は省けた。先日までの貴様の発言を後悔させてやる。織斑一夏はその後だ」

「一夏のことは変わらないんだね。なら全部止めるしかないね」

「貴様一人なぞ、相手にならん」

 その会話を最後にして両者距離を取る。

 上空に試合を始めるためのカウントが表示される。

『5』

 観客席にいるセシリアと鈴が両手を組んで祈るようにしている

『4』

 イオンとネロは真剣な眼差しでグラウンドを見つめる。

『3』

 企業の人たちもいきなり出てきたエミルのことを興味深げに見ている。

『2』

 エミルがレザートネイターを抜き、構える。対し、ラウラは不動の構え。

『1』

「叩きのめす!」

「止めてみせる!」

『0』

 合図がなり響く。

「シャル、一夏のことは任せたよ!」

「うん。エミルも頑張って」

 シャルルは一夏のほうに向かっていく。エミルは左手にチャクラムを展開し、投げつける。

「獣招来!」

 エミルは自分の身体能力を上昇させる。

 ラウラは飛んできたチャクラムを弾き返す。弾き返されたチャクラムはそのまま弧を描きエミルの元へ戻る。

「レイトラスト!」

 もう一度チャクラムを投げつける。その後エミルは上昇する。

「空牙衝」

 剣を振り抜き衝撃波を作り出す。チャクラムと衝撃波がラウラに襲い掛かる。が、ラウラはそれを避ける。

 エミルは二重瞬時加速を用い、ラウラに接近する。

「何だと!?」

 そのまま蹴りを入れる。ラウラにもう一撃入れようとしたとき、ラウラのAICが発動する。

「まさか教官以外でその技術を扱えるものがいるとは思わなかったが、所詮その程度のようだな!」

 ラウラがレールガンをエミルに向ける。エミルがAICに捕まった瞬間、セシリアたちが目を瞑る。

 AICに捕まっていてもエミルは落ち着いていた。シャルルは一夏と戦っていて助けに入れない。

「決めつけるにはまだ早いんじゃないかな?」

「何? 動けない貴様に何ができる」

 エミルは目を閉じる。そして開いた時、若緑色の目は燃えるような緋色の目に変わっていた。

「何もできないよ。でもね……攻撃はもうしてんだよ」

 その瞬間左からチャクラムが襲ってくる。

「馬鹿な!」

 AICが解除される。そしてその瞬間、再び接近する。

 そこからお互い切り結ぶ。だが、その勝負には長い間剣を握ってきたエミルに軍配が上がる。隙を見つけ懐に潜り込む。

「鳳翼旋! 瞬連刃! 魔神閃光断!」

 キャンセラーを用い、三連続で技を叩き込む。AICを使う暇を与えないよう攻撃を入れる。

「降魔穿光脚!」

 止めに放った蹴りがラウラの鳩尾にクリーンヒットする。吹っ飛んだラウラは壁に衝突する。砂埃が舞い上がりラウラの姿が視認できなくなる。

 ラウラを視認できるようになった時、ラウラが叫んだ。

「あああああああああ!」

 シュヴァルツェア・レーゲンから電撃が放たれる。近づこうにも放たれる電撃の量が多くて近づけない。

「ボーデヴィッヒさん、どうしたの?」

 一夏との戦闘を終えたのかシャルルがエミルの元へ来る。

「分からねぇ。急に叫びだしたと思ったらこれだ」

 そして電撃が徐々に収まり始めると同時にありえない現象が起きた。

 シュヴァルツェア・レーゲンが泥状になりラウラの体を包み込み始める。なおもラウラは叫び続けている。

「何?」

「ちっ。いきなり何だってんだ?」

 ラウラを完全に飲み込んだとき、泥が人型を作り始める。

 そしてアリーナ内にサイレンが響き渡る。

『非常事態発生。トーナメントの全試合は中止。状況レベルDと認定。鎮圧の為――』

 観客席を覆うようにしてバリケードを張る。

 そして人型が完成した時。

「雪片……。千冬ねぇと同じじゃないか」

 一夏がそう呟く。そして一夏は雪片弐型を構える。

「俺がやる」

 そして人型が動き出し、一夏を捉える。雪片弐型は一撃で弾き飛ばされる。加えて二撃目。辛うじて腕で防御するが、ISが強制解除される。そして腕からは血が流れている。雪片が僅かに一夏の腕に直撃したのだ。

 腕を少し抑えた後に立ち上がり人型に走っていく。一夏の目には怒り。ただそれだけだった。

「何してんだバカ野郎! 死ぬつもりか!」

 ギリギリのところで止めたのはISを解除したエミルだった。

「放せ! あいつ、ふざけやがって! ぶっとばしてやる!」

「うるせぇ! 何もできねぇやつが何をほざきやがる!」

 一夏の胸倉を掴みあげる。

「今、ろくに白式(そいつ)も展開出来ないお前が行って何が出来る。怒りに飲まれるな、周りを見ろ。お前の周りに誰がいる? 今ここで戦ってんのはお前一人じゃねぇんだ。お前も周りを頼ることを覚えろ」

「そうだよ、一夏。エネルギーがないなら持ってくればいい。リヴァイヴのコアバイパスを開放。エネルギーの流出を許可」

 そしてシャルルがリヴァイヴのエネルギーを白式に流し込む。そしてエミルと一夏の二人を見る。

「約束して、エミル、一夏。絶対に負けないって」

「もちろんだ。ここで負けたら男じゃねぇよ」

「当然だ。あんなガラクタに負けるほど落ちぶれちゃいねぇ。まだ母胎想観の方が強そうだ」

 母胎想観。それは七次元先の世界で戦った存在。エミルの脳裏を共に戦った仲間たちがかすめる。

「母胎想観?」

 一夏が知らない単語に首を傾げる。

「何でもねぇ。こっちの話だ」

 そのやり取りでシャルルが笑顔で一つ爆弾を落としていく。

「じゃあ、負けたら明日から女子の制服で通ってね」

 二人とも少し固まる。

「……いいぜ」

「……負けなければ問題ない」

 そしてリヴァイヴが粒子となって消えていく。

「これで完了だ。後は任せたよ、二人とも」

「ありがとな。……白式を一極限定モードで再起動する」

 一夏の右腕が粒子に包まれる。

「やっぱり、武器と右腕だけで精一杯だったね」

「十分さ。俺には頼りになる仲間がいるんだからな!」

 そう言ってエミルを示す。

「頭は冷えたようだな。雪片弐型があると言ってもそれだと無いも等しい。俺がメイン、一夏はサポートだ」

 エミルは再度ISを展開して、ネザートレイターを構える。一夏は雪片弐型を構える。

「一回で終わらせるぞ。準備はいいな?」

「おう!」

 人型が突進して雪片を振り下ろす。今度こそ、それを一夏が弾いていなす。

 そして、その瞬間エミルが飛び出し、ネザートレイターを振り下ろす。振り抜いた瞬間、人型から再び電撃が流れる。すると、人型から再び泥状に戻り切り口からラウラが出てきてそれをエミルが受け止める。

 

 

 

 

 暗闇の中でラウラは一人で漂っていた。

「お前はなぜ、あいつらを助けようとする……。どうしてそんなに強い」

 ラウラは一人そう呟く。すると、他の者の声が答える。

「友達を守るのは当たり前のことだよ。それに強くなんかないさ。弱いから誰かを信じるのかもしれない」

「誰かを信じる?」

「うん。信じあう心は時に実力以上の力を発揮できるんだよ。と、まぁそんな感じ。これからもよろしくね、ラウラ・ボーデヴィッヒさん。これからは君のことも守っていくから」

 

 

 

 場所は変わって食堂でエミル、一夏、シャルルが簡単な食事をとっていた。

「結局、トーナメントは中止だってね。ただ、個人データは取りたいから一回戦は全部やるらしいね」

「へぇ、そうなんだ」

「ふーん。ん?」

 食べている最中、一夏が少し離れたところで女子生徒数人がこちらを眺めていることに気づく。

 そしてなにやら呟いてた後、泣きながら去っていく。少し離れた場所に箒がいることに気付き、一夏が歩み寄っていく。

「そういえば、箒。先月の約束な、付き合ってもいいぞ」

「「?」」

 話が分かっていないエミルとシャルルはお互い首を傾げている。

「なに?」

 疑う箒だが、声が僅かに弾んでいる。

「だから、付き合ってもいいって……」

 箒が喋っている一夏を引き寄せる。

「本当か? 本当に、本当なのだな」

 声が弾み、嬉しそうな箒。

「お、おう」

 急に一夏から距離を取り咳払いをする。

「何故だ、理由を聞こうじゃないか」

「幼馴染の頼みだからな、付き合うさ。……買い物くらい」

 そう一夏がそう言った瞬間。箒のテンションが目に見えて下がる。それを見て察した二人。箒が一夏と約束した付き合うというのは交際という意味。だが、一夏はそれを勘違いし、買い物だと解釈したらしい。どんな会話を二人が交わしたかは知らないが、恐らく一夏の唐変木は死ぬまで治らないだろう。ということで一度でいいから刺されてしまえ、と思わなくもない。

 そして、一夏の右頬に箒の左ストレートがクリーンヒットし、しゃがみ込んだところに右の蹴り上げが鳩尾に入る。

「俺が一体何をした……」

「一夏ってたまにワザとやってるのかと思うよね」

「まぁ、一夏だからね」

 エミルとシャルルが蹲っている一夏を眺める。

「織斑君、デュノア君、キャスタニエ君。朗報ですよ! 今日は大変でしたね、でも三人の労を労う素晴らしい場所が今日から解禁になったのです」

「場所?」

「男子の大浴場なんです!」

 

 

 一夏は休んでから行くことにしたらしい。

 エミルは先に大浴場に向かうことにした。シャルルには無理して来なくていいということを伝えた。

 湯船に浸かるエミル。お風呂で思い出すことといえば、まだセンチュリオンコアを集めるために冒険していた時のことだ。マルタが少しいたずらをして一緒に入ることになってそれに驚いたエミルはつい大声を出してしまい、それを聞きつけた仲間たちから不名誉なことを言われたことがある。

 それを思い出したのがフラグとなったのか浴場の扉を開く音がする。

「お、おじゃまします」

 入ってきたのはシャルルだった。エミルは見事フラグの回収に成功したのである。

――――エミルはスケベ大魔王の称号を手に入れた。――――

「な!?」

 エミルは慌てて後ろを向く。ここに来てラッキースケベを繰り出すエミル。さすが主人公である。

「なんで来たの!?」

「僕が一緒だといや?」

「一夏が来たらどうするつもりだったの!」

 最もまだ一夏は部屋のベッドでだらしなく伸びている。

「んー、その時はその時かな。それにお風呂に入ってみたくなって。迷惑なら上がるよ?」

「いや、僕が上がるから大丈夫だよ」

 エミルが出て行こうとした時にシャルルが呼び止める。

「話があるんだ。大事なことだからエミルに聞いてほしい」

「……分かった」

 エミルはゆっくり腰を下ろし、背中合わせになる。

「前に言ってたことなんだけど……」

「学園に残るかどうかってこと?」

「うん。僕ね、ここにいようと思う。エミルがいるからここに居たいと思うんだよ。それにね、もう一つ決めたんだ。僕の在り方を」

 シャルルは振り返り、エミルに寄り添う。

「在り方?」

「僕のことはこれからシャルロットって呼んでくれる? 二人きりの時だけでいいから」

「シャルロット、それが君の本当の名前なんだね」

「うん。お母さんがくれた本当の名前……」

「分かったよ、シャルロット」

「うん」

 話が一段落したところで一夏が来る前に大浴場を後にした二人。途中ですれ違った辺り、本当にぎりぎりのタイミングだった。

 

 

 翌日の朝。

 教壇には微妙な顔をしている真耶が立っていた。

「……今日は転入生を紹介します」

「「「「「「え?」」」」」」

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

「えーと、デュノア君はデュノアさんということでした」

 クラス中が喧騒に包まれる。そして、矛先が同室のエミルに向く。大浴場のことが出てきた瞬間。クラスの壁を壊して入ってきた者が二人。

「「エミル!!」」

 入ってきたのは甲龍を纏った鈴とどういうわけかES45カソードを纏った寧だった。

「ちょっとこれはマズイかな……」

 二人から攻撃が放たれた瞬間、別の者が受け止めた。

 それはシュヴァルツェア・レーゲンを纏い、AICを使用したラウラ。

「助かった……。ありがとう、ボーデヴィッヒさん」

 ラウラがAICを解除し、エミルの方を向く。そしてエミルを引き寄せ……キスをした。

 教室内の時が止まる。そのまま全員の前でラウラが宣言した。

「お、お前は私の嫁にする。決定事項だ。異論は認めん!」

 一度止まった時が動き出し、再び喧騒に包み込まれる。

「「「「「「ええぇぇぇぇ!!!」」」」」」

「なんでさぁぁ!!」

 

 今日も騒がしい一日が始まる。

 




今回はここまでです。なるべく早く次を投稿できるよう頑張ります。
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