インフィニット・ストラトス~異世界に降り立つは魔王と呼ばれし精霊~   作:ガーネイル

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 お待たせしました!
 いつも通りのクオリティですが、よろしくお願いします。


 ・・・・・・社会人って大変ですね


19.墜ちる騎士

 一夏はセシリアや鈴たちから高速戦闘のレクチャーを受け、箒はその近くで束の指示の下、紅椿の最終調整を行っている。

 エミルは寧に連れられ、集団から少し離れる。そこで二人は向かい合う。連れだしたのはいいが、言うことが纏まっていないのか寧は口を閉じたり開いたりする。そしてようやく固まったのか、真っ直ぐエミルを見つめる。

 

「ねえ、エミル。ちゃんと帰ってくるんだよね?」

「そのつもりだけど、どうかしたの?」

「なんかエミルがいなくなっちゃう。そんな気がしちゃって……。だって、エミルは違う世界から来た人だから」

 

 今は亡きラシェーラという世界の天文という機関に拉致されたと言う形になるが、行ったことがある寧だからこそそう思わずにいられなかった。彼がいなければ寧はイオンとして新生ラシェーラで生活していただろう。今、結城寧として生活できるのは地球やラシェーラと全く異なる世界から来た少年のおかげなのだ。

 寧が攫われた時のように留まっている世界に害を及ぼすことはない。でも自分のように元の世界に帰りたいと思っているのではないかと、そう思ってしまうのだ。

 エミル自身としては確かにテセアラ、シルヴァラントに帰るという思いは確かにある。だが、一夏や、千冬、セシリアや鈴などの代表候補生や寧とネロがいるこの世界に居たいという思いも確かにある。どちらも大切にしたいからこそ、反する二つの思いに板挟みにされている。

 

「そうだね。確かにそのうち帰るかもしれない。でもまだその時じゃない……と思う。一夏たちをあの世界に連れて行くのをデルタとも約束してるからね。それにクラスメイトや先生たち、一夏と代表候補生たちや寧とネロと過ごす時間はとても好きだからね。だからちゃんと帰ってくるよ、約束する。寧と冒険を始める前に約束もしたしね。君を守るって」

 

 まだ寧がイオンと名乗り、失った記憶を取り戻して夢の世界にいた時。ネロを止めるために、皆を助けるために現実に戻ることを決めた。そんな時、駆けつけてくれたエミル。その少年は一番最初に交わした約束を覚えていたのである。寧は右手の小指をエミルに向ける。

 左手の小指を寧の小指に絡める。

 

「約束だよ。嘘ついたら許さないよ。だから絶対に帰ってきて」

「うん、分かったよ」

 

 寧はエミルに聞こえないほど小さな声で呟く。

 

「gou ih-rey-i gee-gu-ju-du- zwee-i;」

 

 これは契絆想界詩(けいはんそうかいし)。この言語はラシェーラの存在したジェノムという生命体の公用語だ。そして寧がイオナサルとして万寿沙羅を救うために謳った『Ahih rei-yah』の一節でもある。意味は襲い来たる艱難(かんなん)を払いたまえ。これを正しく理解出来るのはあの世界で謳った本人であり、テレフンケンという竜のジェノムと同調していた寧だけなのだから。

 

 

************

 

 三人は現在砂浜にいる。それ以外の生徒は全員先ほど集まっていた部屋で待機。教師陣もそこで状況をモニタリングしている。

 一夏が待機状態になっている白式で時間を確認する。時刻は作成開始時刻である十一時三十分を示した。

 三人がそれぞれISを展開し、身に纏う。

 

「じゃあ、箒よろしく頼む」

「本来なら女の上に男が乗るなど私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ」

 

 箒の言葉は二つの捉え方があるように感じる。一つは女尊男卑特有の男は女の下にいればいいという考え。もう一つは力のある男子が女子の上にいるなどありえないという昔ながらの考えだ。捉え方は人それぞれだが、聞く人次第で言葉の受け取り方は全て変わってくる。

 だが、不思議なことに彼女の声音からそれらが一切感じられない。むしろ弾んでいるように聞こえる。余程一夏の手伝いが出来るのが嬉しいのだろうか。

 だが、一夏としては不安がある。束が調整し、保険にエミルがいるとはいえ、箒は専用機を使い始めてから半日経ってない。特に操縦面の不安が拭えないのだ。

 

「箒、これは訓練じゃない。十分注意して」

「無論分かっているさ。ふふ、心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる。大船に乗ったつもりでいるといいさ」

 

 一夏の言葉を遮り、重ねるように言う。

 やはり普段より声が浮ついている。形に出来ず言いようのない不安に一夏はエミルを見る。何を言いたいのかが分かったのかそれに対し、無言で頷く。

 少年二人の間で箒を気にかけるということが追加された。

 

『織斑、篠ノ之、キャスタニエ、聞こえるか』

 

 オープンチャネルを介し、千冬の声が三人の下に届く。それに対し、頷き返す。

 

『今回の作戦の要は一撃必殺だ。短時間での決着を心掛けろ。討つべきは銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)。以後福音と呼称する』

「「了解」」

「織斑先生。私は状況に応じて一夏のサポートをすればよろしいですか?」

『そうだな。だが、無理はするな。お前は紅椿での実戦経験は皆無だ。突然、何かしらの問題が出ないとも限らない』

「分かりました。ですが、出来る範囲でサポートします」

 

 やはり、不安が拭いきれないのか一夏の顔はどこか不安げである。

 本部で箒の声を聞いていたメンバーも声が弾んでいるという印象を受ける。千冬も同じ印象を持っていた。真耶に箒を覗く二人にプライベートチャネルの回線をつなぎ、有事の際、箒をサポートしろという指示を出す。

 

『では、始め!』

 

 エミルはもしもが起きた時の保険であるため、見失わない程度のスピードで後ろを追いかける。

 先行部隊であり、本命である一夏は箒の背に乗り、一気に遥か上空へ辿り着く。その速さは瞬時加速(イグニッションブースト)と同等、いやそれ以上だ。背中に一夏を乗せているにもかかわらず、速度は落ちない。むしろ加速していく。ものの数秒で目標高度である五百メートルに達する。

 

「暫時衛星リンク確立、情報照合完了――目標の現在地を確認。一夏、一気に行くぞ」

「お、おう」

 

 紅椿をさらに加速させる。脚部や背部装甲を展開させ、展開部からエネルギーを力強く放出させる。

 そこから目標を確認できるほど近づくまではあっと言う間だった。

 

「見えたぞ一夏」

「あれが銀の福音か」

 

 名前に銀とある通り、体全体は銀色に覆われている。何より目立つのは頭部から生えている一対の翼。大型のスラスターと広域射撃武器を融合させた代物だ。

 現在、後ろから追いかけている状態だが接触するのもすぐだろう。一夏は無意識に力が入り、雪片二型を強く握る。

 

「加速するぞ、目標に接触するのは十秒後だ」

 

 

 スラスター、展開装甲共に出力を上げて加速する。その速度はすさまじく、まともに立っているのも難しいだろう。だが、そうは言っていられない。一夏は立ち上がり、零落白夜を発動させる。箒はそれに合わせて瞬時加速を行い、間合いを詰める。

 

「うおおおお!」

 

 光の刃が触れる直前。福音は来るのが分かっていたかのように最高速度のまま方向転換を行う。

 元々の高速機動であるため、現状の間合いでは引くには少し遅すぎる。

 

「箒、このまま押し切る!」

 

 反撃を喰らう前に仕留める。零落白夜を使用する際にSEを消費する。後ろにエミルが控えているとはいえ、手痛い一撃や手遅れになる前に決着を付けたい。

 もう一度攻撃を仕掛けようと接近した時、福音から機械音声が発せられる。

 

「敵機確認。迎撃モードに移行。《銀の鐘(シルバー・ベル)》、稼働開始」

 

 機械音声でしかないはず。だが、福音は自分たちに対し敵意を持った。一夏はそう感じた。僅かに嫌な予感。背筋に凍るような感覚に襲われる。

 再び体勢を変え、針一本通すような精密さで再びその攻撃を回避する。そのまま距離を開け、上空に離脱する。

 一夏たちは再び距離を詰めようとするが、福音がそれを何回も許すわけがない。翼から無数に光の弾丸を撃ちだし、二人に反撃する。

 これに当たってしまったら零落白夜はSEが足りず、使えなくなってしまう。二人が取る行動は回避するが、弾丸が二人を追いかける。ほとんどが箒の方へ向かうがスピードを生かし、全て回避する。一夏の方へ数発流れるが、危なげなく避け、福音へと向かう。

 

「箒、左右から同時に攻めるぞ。左は頼んだ!」

「了解した!」

 

 複雑な回避運動をこなしながら、福音へ近づく。だが、それ以上に弾丸の連射速度がそれを上回り、イタチごっこをしている状況へと陥る。先ほどの無数の弾丸もその連射速度から来るものだ。

 ようやく追いつき、攻撃してもまるで蝶が舞っているかのように不規則な動きをするため、攻撃がまるで当たらない。

 

「一夏! 私が動きを止める!!」

「分かった!」

 

 箒はそう言うなり二刀流での攻撃を仕掛ける。突き、斬撃を繰りだす。だが、それだけではない。腕部の展開装甲が開き、攻撃をする度、エネルギー波が襲い掛かる。

 ある意味化け物同士の戦いのようにも見える。その均衡はすぐに崩れた。回避ばかりしていた福音が徐々に防御を使い始め、攻撃をさばききれなくなっていた。箒が行動を抑え込むことに成功する。

 

「一夏、今だ!」

「おう!」

 

 一夏も瞬時加速を用い、目標へと接近する。が、何かに気付き見当違いの方向へと進む。箒はそれに驚き、一瞬力を抜いてしまう。だが、それを見逃す福音ではない。弾丸を浴びせ、離脱する。距離を開けてからもう一度弾丸を放つ。また攻撃に当たるほど箒もバカではない。数発が一夏の進行方向上に飛んでいく。それをギリギリのところで追いつき、弾く。

 

「何をしている! せっかくのチャンスに!」

「船がいるんだ。海上は先生たちが封鎖したはずなのに……」

「密漁船!? この非常時に……」

 

 回避行動を取っている間もSEは消費されていく。その中で最も回避したい出来事が起こる。雪片二型のエネルギー刃が消え、展開装甲が閉じる。

 エネルギー切れを起こし、作戦の要だった武器がたった今潰えた。

 

「馬鹿者! 犯罪者などを庇って! そんなやつらは放って」

「箒!」

 

 一夏が名を強く呼んだとき、箒は息を詰まらせる。一夏は諭すように箒に話しかける。

 

「箒、そんな――そんな寂しいこと言うなよ。力を手にしたら弱いやつのことが見えなくなるなんて……。どうしたんだよ、全然箒らしくないぜ」

 

 箒は明らかな動揺を見せる。持っていた刀を手放し、手で顔を覆う。

 実戦において動きを止めるということは致命的な行為である。何故ならその瞬間を狙えば敵を仕留めることなど容易いからである。それこそ、軍事用のISがそれを狙わないわけがない。

 チャンスと見た福音が三十六門全ての砲門を開き、攻撃を仕掛ける。ターゲットはおそらく箒。背を向けている為、彼女は気付いていない。

 

(頼む、間に合ってくれ!)

 

 残りわずかであるエネルギーを使って最後の瞬時加速を使う。箒と福音の間に入り、全ての攻撃を受ける一夏。それにより完全に活動限界を超え、強制的に解除される。箒は意識を失い、落ちていく一夏に追いつき、抱き留める。

 

『作戦は失敗だ。キャスタニエ。二人が戦線離脱するまで時間を稼いでくれ』

「了解しました。箒さん、早く一夏を連れて早く逃げて」

「……あぁ、すまない!」

 

 箒が背を向け、旅館がある方へと飛んでいく。

 一夏と箒への興味は既にない。既に福音のターゲットは新しく来たエミルへと変わっていた。

 両者の間に緊張が走る。動き出したのはほぼ同時。エミルはより上空へと向かい、福音はさらに距離を開ける。

 エミルは持っている剣を振り抜き、衝撃波を撃ち飛ばす。

 

空牙衝(くうがしょう)!」

 

 生み出された衝撃波は福音へと向かう。目に見えない衝撃波を対処する方法は限られている。飛んでいく方向が限られていても速度までは分からない。地上なら砂埃をたてるという手段を取れるが、ここは上空。雲で同じことは出来るだろうがそれは難しい。よって当たるのはほぼ確定。

 

「La……♪」

 

 福音には爆発する光の弾丸がある。甲高いマシンボイスを響かせ、それを発射する。爆発させることで相殺、もしくは場所の特定を図る。本当に暴走しているのか疑う賢さがある。テセアラやシルヴァラントにはこのような技術はない。この技術を上回っていると言って良いほど発展していた七次元先の世界でもこのようなことはなかった。

 この行為により、衝撃を放つ空牙衝や魔神剣(まじんけん)などは優位性がないことが証明された。頼れるのは自分のISの操縦技術と戦闘能力のみである。そして個体差も勝敗を分ける大きな要因になる。先ほど一夏たちが互角以上に戦えたのは機体性能に助けられていたところがある。これからの戦いは違う。長い旅の中で培った彼だからこそ、戦闘能力は上だと言い切れる。だが、そこに空中での戦闘技術は含まれない。その経験はこの世界に来てからが初めてなのだ。故に地上における戦闘技術以外は銀の福音に劣る。明らかに分の悪い戦いではあることが分かる。だが、それは負ける理由にはならない。何故なら、ギンヌンガ・ガップでリヒターと戦った時、彼は悪魔との契約で理不尽なほどの強さがあった。だが、それに勝利することが出来たのだから。

 チャクラムもあるが、今回は焼け石に水でしかない。よって、さっきの二人と同様に近接戦闘を仕掛けるしかない。それがエミルに残された唯一の道でもある。

 衝撃波を駆使しながら目標へと近づいて行く。攻撃が対象に当たるまでもう少し。そして届かせるための一歩を持っていた。

 

「はあ!」

 

 蹴りを入れてから剣を振り抜くが、当然回避される。だが、それはさっきまでの話。福音が距離を開けようとした瞬間。上空から雷が落ちてきて対象の動きを止める。エミルが使ったのは虎乱蹴。しかし、ただのそれではない。トニトルスと呼ばれる雷を司るセンチュリオンの力を纏った一撃。その電撃は相手の動きを止めるのに最適だった。

 

瞬連刃(しゅんれんじん)! 魔神剣!」

 

 五連続の斬撃から闇の力を込めた魔神剣を放つ。だが、やられてばかりの福音ではない。魔神剣を片翼で受け止める。片翼から弾丸を放ち、エミルに一矢報いる。爆煙に包まれ、外からは様子が分からない。

 SEが切れかけているとはいえ、一夏の意識を飛ばした強い威力を持っている。

煙が晴れてくると所々装甲がダメになっている。

 

『キャスタニエ! 大丈夫か!? 二人は戦線離脱した。タイミングを見計らって離脱しろ。無理する時ではない』

「すいません、その指示は従えません。あのISには人が乗っているかもしれないんです。暴走状態のISに長時間乗って無事でいられる保証がありません。本当に無理そうだったら離脱するので安心してください」

 

 そう言ってから回線を一方的に切り、対峙する。

 力の奔流によって暴走した個体というのは好戦的になり、周りを傷つける。封印状態のセンチュリオンの力により暴走した魔物も例に漏れなかった。だが、福音は少し違うように感じた。何故なら、一夏と敵対するまで被害者を誰一人として出していなかった。おそらくだが、銀の福音は暴走状態でも搭乗者を守ろうとしていたのかもしれない。

 

「キミたちを助ける。だからもう少し待ってて」

(限界だったら代わるぞ)

「大丈夫。きっとこれは僕がやらなきゃいけないことだから」

(分かった。ったく、頭が固ぇな)

 

 エミルは呼吸を整え、再び接近する。自分に向かって飛んでくる弾丸のみを弾き飛ばし、必要最低限の動きで対処する。だが、それでも連射速度の方がそれを上回る。徐々に被弾する数が増えていく。それでも動きを止めることなく進んでいく。

 攻撃を当てられる距離まで詰めることはできたが全身はボロボロだった。SEも風前の灯。それでも止まらない。止まることは許されない。

 

「まだだ。まだ終わってない。僕は……」

 

 ――キミたちを止める。

 声にこそならなかったが、強い想いを込めた一撃を放つ。それは今までのどの攻撃よりも遅い。それを避けることなど簡単なこと。だが、福音にとってそれは避けるが出来なかった。一撃は胴体に決まり、装甲に罅を入れる。その後、全三十六砲門による連射が再びエミルを襲う。黒煙が上がる中、落下していくエミル。海へと落ちていく中、意識を手放す。

 

(ごめん、寧。約束守れないかも……)

 

 そしてそれは、IS学園に来てから負けなしだったエミルの敗北が決まった瞬間でもあった。

 




 突っ込みどころあるかもしれないが、俺は受け付けん! 今回の話で書いたんですが、エミルがいた世界には魔物はいてもあんな物騒なものはないんですよ? なら対抗できなくても不思議じゃありませんよね。仕方のないことです。
 


 それはそれとして今週から新社会人としての生活が始まった訳なんですが、大変ですね。これから忙しくなる中、投稿するのは難しいと思いますが、これまで以上に頑張りますよ!
 これからも作者共々よろしくお願いします。
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