第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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日本語の6巻まで=原書で出ているうちの半分しか読んでいません。
今後続刊の邦訳が出たら矛盾が出るかもしれませんが、ご勘弁を。
かなりギリギリで主要人物の性格が変わって慌てました。


海軍士官クリス・ロングナイフ/時空の結合より1年5カ月

 この世界の人類は、その船に気づくこともできなかった。人類は単独では超光速航行能力がなく、三種族と呼ばれる、行方不明の超文明異星人が構築したゲートに頼っている。

 何カ月もしてから、たまたま最優秀の望遠鏡が正確にそちらを向いていれば、強力なクロノ・ストリング・エンジンの光を観測できたかもしれないが。

 

 

 ウォードヘブン星に、ジャンプポイントとは極端に違うところから異質な宇宙船が侵入した。それだけでもありえない事態だ。

 政府・軍はパニックになりかけた。つい最近、五隻の戦艦に蹂躙されるところだったのだ。

 だが、出現と同時にはじめられた放送を、冷静な人は聞いていた。

『こちら〔UPW〕全権大使、ミント・ブラマンシュ。あなたがた知性連合からのメッセージを受信しました。クリスティン・アン・ロングナイフ王女殿下からのメッセージも預かっています。

 また、ブラマンシュ商会代表としても交易の機会を求めます』

『こちらペニー・パスリー・リェン大尉。ブラマンシュ大使の言葉が真実であることを誓約します』

 政界・マスコミは半ばパニックになった……クリスの名に。

 首相の娘。王のひ孫。反乱を起こして艦をのっとり戦争を未然に止め……ウォードヘブンが蹂躙されそうになったとき、軍の序列をひっくり返して義勇兵を募り撃退した、若くして伝説の女。英雄ではあるが超絶トラブルメイカー。

「なら、会おう」

 立ち上がったのは老いたレイモンド・ロングナイフ王である。

 

 ミントは、レイモンド王をじっと見つめていた。

 老王はその目をじっと見つめ返す。相手の見かけにごまかされてはいない。

 二人、ふっと微笑した。互いに相手を歴戦と認めたのだ。

「話せそうですわね。まず、この手紙をお読みください」

 ミントが差し出した手紙……間違いなくクリスティン王女の筆跡、ネリーのナノ署名がある。

『〔UPW〕に到着しました。

〔UPW〕幹部の、別の時空で暮らす戦友が、娘を誘拐され脅迫された。誘拐犯の命令は、ある荷物をグリーンフェルド星へ運ぶこと。

 夫婦はそれに従っている。ミント・ブラマンシュ大使をはじめ〔UPW〕は、救出の支援を目的に、ウォードヘブン星を経由してグリーンフェルド星に向かう予定。

 われわれと戦友の船を妨げることなく、便宜を図るよう要求要請する。

 わたしは、知性連合への忠誠より戦友との絆を優先し、なすべきことをする。

 クリスティン』

 大尉の階級も、王女の称号もつけていない。すべてを捨てる覚悟だ。

 その後には、データの形でそれまでの旅、途中で見てきた世界の情報なども、マイクロ電子情報で添付されている。

 読み終えた老王が目を上げる。

 ミントは静かに微笑した。

「王女殿下のお手紙にある通りですわ。

 邪魔をしなければ、クリス王女からすでにいただいている技術と引き換えに、さまざまな技術や製品をお渡しし、交易を始めます。リバースエンジニアリングで技術水準を高め、利益を得、お国を強めればよいでしょう。交易そのものも、どちらにとっても得になるでしょう」

「妨げるならば」

「潰すだけですわ」

 ミントの声は、まったく変化がない。

「〔UPW〕の標準駆逐艦一隻で、知性連合の全艦隊を簡単に撃滅できます。この輸送船だけでも可能です。攻撃・防御・移動ともに、長弓と機関銃の差があります。

 この件ではわたしたち〔UPW〕も、全艦隊を動かしても惜しくありません。別時空の戦友たちからも、戦艦を十万ぐらい動かすと言質をいただいています」

 戦艦五隻で首都を落とされかけた首脳部は、その数を現実と考えることができない。

「そしてあなたがたも、誘拐でご家族を殺されている……誘拐への怒りは、クリス王女と同じはずです」

「……」

「あなたがたは愚かではないはずですわ。ですが、国家という大きい獣を動かすのは大変、それをお願いするだけです」

 老王はため息をつくだけだった。

「簡単に言ってくれるな。それに」

 クリス本人はどこにいるのだ、言おうとしてレイ王は気づいた。

 彼女の性格を考えれば、最前線にいる。すでに動いている、敵陣深く侵入し、身を隠している……こちらはそのことに触れてはならない。

「わからぬものもいるからな。少しだけ、力を見せてほしい」

「かしこまりました」

 と、ミントが素早く指示を送る。

 すぐに、報告が激しく入った。

 信じられないほど強力な荷電粒子流が、何にも当たらないように衛星網を縫って、ウォードヘブン星上層大気をかすめた……と。

「われわれの戦艦主砲の、百万倍を軽く超えています」

 青ざめた表情で報告を中継するトラブル将軍にも、ミントは穏やかに微笑みかけた。

「交易品には、この水準の重粒子砲も含まれていますよ」

 政・軍・財が本能的な恐怖で色めき立つ。

 レイ王が疲れ切った表情で言う。

「騒いでもどうにもならん。今ここに現実がある。

 だが、ミントさん。われわれはピーターウォルドと戦争をしたくない。

 力が拮抗してしまっている。今戦争を始めたら、何十年何百年と、何百万ともしれぬ血が流れることになってしまうじゃろう。戦争を起こさないためには、わしはなんでもする」

「すべてをなかったことにする……こちらの船を消して。それは残念ながら、不可能ですわ」

 ミントの目には、殺気すらこもっていた。

 レイ王は静かにため息をつき、トラブル将軍と目でうなずき合った。

「おっしゃるとおりにするほかあるまい。抵抗しても損しかない、協力すれば大きい得になる、ではな」

「さすがクリス王女のひいおじいさま、ものわかりがよくて助かりますわ」

「気をつけることじゃ。最近、ピーターウォルドの艦が、妙に強い。並行時空の技術を買ったという噂もある」

「多元宇宙のあちらこちらで、ピーターウォルドの名で暗躍している勢力があります。この時空の技術水準を考えると、不思議なことですわね」

 手短に会談を終わらせると、ミントは輸送船から、異常なほど急いで積み荷の半分をおろしてクリスの祖父の一人、大富豪のアレックスにゆだね、そのまま全速力でグリーンフェルド星に向かった。

 水先案内も必要なかった。ネリーのすべての情報がコピーされ、配られているのだから。

 

 

「お二人とも、限界です。それに場所を空けていただかないと」

 ジャック・モントーヤが、運動器具を動かしつづけているクリス・ロングナイフとマイルズ・ヴォルコシガンに強い声で言い、肩をつかんで揺さぶる。

 次元潜航艇内の小さなカプセル内でできる、ガルマン・ガミラスの艦内運動……地球で言えば500メートルクロール、自分の体重を背負って800メートルハードル走、五回が限度の重量で各種ウェイトトレーニングのサーキットを、繰り返すようなものだ。トライアスロンの三倍にはなる。

「おーい、そろそろ運動部屋空けてくれ。体伸ばしたいんだ」

 潜水艦乗りの乱暴な声も響いた。

 ただでさえ狭い次元潜航艇に、コンテナを増設して十数人+大型戦闘機を詰めこんでいるのだ。

 星空が見える通常空間航行はまだましだが、少しでも有人惑星や無人設備が近くにあれば、即座に潜航する。何も見えない超空間は閉塞感が倍加する。

 海兵隊が全員ではなく、一個分隊だけなのも欲求不満を増している。

「すまない」

 声をそろえた二人が器具から降り、倒れこむ。大量の汗で全身ずぶ濡れだ。限界をはるかに超えて続けていたのだ。

「今戦いが始まれば、疲れて戦えぬであろう。愚かものめ」

 ナツメ・イザヨイに言われ、

「すまない」

 また、二人の声がそろう。

 マイルズにとって初恋の人であり、幼いころから自分を守ってきたエレーナ……傭兵隊員としても忠実に役割を果たし、あらゆる激戦を共に潜り抜けた。その夫バズも、傭兵隊の大切な部下だ。マイルズの母の名をもらった幼子のことを、思わずにはいられなかった。

 クリスも幼い弟の死を思い、胸が張り裂けそうだった。また、仲間の多くがいないことも辛い。ペニーもアビーも、ドラゴ船長も、学者たちもキャラもいない。

 何もできないわけではない、こうして時空から深く潜航して、エレーナの船を追っている。戦力もある。

 次元潜航艇の魚雷も炸薬を変更され、威力は三倍以上になっている。

 一個分隊だが、海兵隊もいる。〈白き月〉の巫女たちが申し出たコンピュータのアップデートは、実戦で使えなくなると困ると断った。だが歩兵火器も全員、〔UPW〕やミッターマイヤーから桁外れに強力なのをもらっている。

 攻撃力はヤマトに匹敵する、パピヨンチェイサーまである。その主ナツメは、元公女でもありクリスやマイルズとも対等に話している……二人が人質を思って半狂乱になっていないときは、だが。

 

 

 どの有人星からもかなり遠く、思いがけない航路からグリーンフェルド星まであと数日。違和感のあるコンテナ船の一室では、三人の男女が光の剣を交えていた。

「すごい素質だな、二人とも」

 手を止め、汗一つかいていないルークが笑う。

「便利だがえらく使いにくいな、このライトセイバーってやつは」

 ワルター・フォン・シェーンコップが汗をぬぐった。

「資格のない私たちのため、予備のクリスタルを費して剣を作っていただき、教えをいただいて、大変恐縮だ」

 リリィ・C・シャーベットも息が荒い。

「ま、バックアップとして持っていてもいいが、実戦はナイフ頼りになりそうだ。斧を持ちだすのは無理だろうからな」

 シェーンコップが、緑のライトセイバーをひっこめた。

「銃撃戦のリスクもある。ゼッフル粒子を散布しても、敵が理解せずに発砲したら両方全滅だ。私も、できれば使い慣れた剣の方がよい」

 リリィが青紫のライトセイバーを、剣士として敬意をこめて見つめる。

「出番がなければそれにこしたことはない、が」

「それに備えて腕を上げておくべき、か。今度は実体のナイフでやるぞ」

 シェーンコップがにやりと笑う。リリィの頬にも微笑が浮かぶ。

「お、お手柔らかに……」

 ルークに冷汗が垂れる。リリィとシェーンコップがにやりと微笑み、刃渡り35cmはある刃引きのナイフを二刀に握る。

 実体の刃物となると八煌断罪刃に余裕で入れる二人には、ルークはまだ及ばない。素質は劣らないが、修業期間がまだまだ短いのだ。

 ルークが深く息を吸い、フォースを集中してシェーンコップを柔らかく見る。

 シェーンコップは頬に笑みを浮かべ、精神に働きかけるフォースを実戦経験で受け流す。

 リリィは二人を直立不動で見つめ、二人の筋肉と気……フォースの流れを見ようとしている。

 三人とも、じっとしていられない。

 特にリリィは、子を誘拐された親のことを思って泣き叫ぶのをやっとこらえていて、ひたすら修行でごまかしているだけだ。

 

 船のブリッジでは、三人の女が仕事を続けていた。

 船長のエレーナ・ボサリ・ジェセックは、戦闘用マウスピースをぎりぎりとかみ続けている。そうしなければ、唇や爪がなくなってしまうからだ。鉄棒を両手で、全力で握り続けている。そうしなければ、どんな誤操作をするかわからないからだ。

「爪を噛むのはクィニー(傭兵時代の仲間、エリ・クインのこと)の癖だったわ」

(彼女がいてくれたら、デンダリィ隊がいるならどんなに心強かったか)

(デリア……絶対助ける。あなたの名付け親、コーデリアさまにもう一度、抱かせてみせる)

(生きているの?返事をして!泣き声を聞きたい、笑顔を見たい!)

(マイルズ。私たちを見たということは、もう全部知ったはず。そしてどんなことでもしてくれるはず。多元宇宙を滅ぼしてでも)

(シヴァ陛下……ミントさん、タクトさん……フォルテさん……どう感謝していいか、返しようもない。戦友のためだから。こちらも、戦友のため、なんでもする。いつでも死んであげる)

(なんでもする。なんでも。どんなことでも)

(殺してやる。皆殺しよ、星ごと、銀河全部)

(おそい、遅すぎる……クロノ・ドライブでも)

(はやく、はやく、はやく。もっと加速できないの?)

(ミスを犯してはならない。現実的に、冷静に、仲間を信じて。わたしはプロの傭兵よ。あれだけの戦いを生き抜いてきた)

 

 テキーラ・マジョラムは遠隔で二機の紋章機をチェックしていた。

 カルーアに戻ってしまったら、とても耐えられない。強い魂を集めたテキーラだからこそ、耐えられる。

 それでも、複雑な作業に没頭していなければ、平静を保つのは無理だ。運動でごまかすのも限界がある。

 

 フォルテ・シュトーレンは、骨董品の火薬銃を磨いて磨いてみがきぬいている。すりへってしまうほどに。

 重いが絶対の信頼性を誇る歩兵機関銃。

 接近戦では最強の、ポンプアクション式散弾銃。

 身長より長く、当時の医療技術では使用者は身体を壊す、機関砲弾を用いる対戦車ライフル。

 ガンブルーと銘木が美しいボルトアクション狙撃銃と、大口径長銃身のリボルバー。

 切り札となるスナッブノーズリボルバーと、延長マガジンの多弾数オート。

 最後の保険、銃身を切り詰め銃床を切り落とした水平二連散弾銃。

(頼むよ、相棒)

 そう、銃に語りかける。もう一つの相棒、ハッピートリガーはヴァル・ランダル星を救うために自爆した……

(待機も戦いだ。今できるのは、その時に銃が動くように、完全に整備することだけ)

 

 エレーナの夫バズは、あまりにも長く眠っていないため、テキーラが魔法で眠らせている。エレーナにも、八時間後には同じことをする予定だ。

 

 エレーナたちが飛んでいるのは、グリーンフェルド星のオールト雲ではある。地上の距離感覚が残っていれば虚空としか思えない。知性連合の、もちろんピーターウォルドの文明水準でも、何もあるはずがない。普通なら油断しきっている。

 だが、全員針が落ちても飛び上がるほどに緊張しきっていた。

 それを襲った海賊こそ、災難にほかならない。

「両方の紋章機のセンサーが、ネリーのデータにある核融合炉のニュートリノを探知したわ。三光分ほど離れたところの長楕円軌道小惑星に隠れてる」

 カルーアの言葉に、エレーナが素早くうなずき、マウスピースを外した。

「戦闘準備。こちらからは迎撃しない、近づいたら交信を始める。逆方向にも警戒」

「あいよ。リリィ、紋章機につきな。ルークは機関室、シェーンコップは中央ハッチ」

 と、フォルテが素早く通信する。

 テキーラはもう紋章機にすっ飛んでいた。

「ゼッフル粒子は?」

 シェーンコップからの通信。

「まかない。敵が知らずにぶっ放したらドカーンだからねえ、いつでもばらまけるようにしときな。全員簡易宇宙服着用」

 フォルテがさっと答えた。

「了解」

 このコンテナ船が襲われるということが何を意味するか……全員、考えることすら恐れている。

 そう……最初からエレーナ夫妻を殺して、コンテナの荷物だけを奪う、と予定されていたのでは。人質は必要ない、拉致直後に殺されているのでは……

 考えることすら耐えられない。ひたすら、闘志に集中しなければ崩れてしまう。

「戦闘の指揮はお願いします」

 エレーナがフォルテにうなずきかける。

「ああ」

 もう簡易宇宙服に着替えたフォルテが、軽く片手を上げる。その表情には何の動揺もない。

 エレーナも、最悪の想像は押し殺して傭兵艦長の表情でいる。

「イーグルゲイザー、戦闘準備完了」

「スペルキャスター、オールグリーン」

「分離機構、油圧・爆薬とも準備はできています」

 エレーナが静かに言う。

「そろそろいいよ、逃げはじめよう」

「はい。面舵、加速3」

 エレーナが氷のような声で復唱し、操縦を入力する。

 不自然な船の、不自然な二つのエンジンが激しい光を上げ、ぐっと航跡が曲がる。

「リリィ、機関室に第二通路を通って行きな。ルークを援護」

『承知した!』

 船はデブリをかわす。拳程度の大きさだが、もともとの速度が早いので、クリスの船なら当たったら完全に破壊される。

 大きく針路を修正した船の下腹部に、奇妙な船がせまる。

 前面にスマートメタルを、斜めの板のように掲げている……クリスの船のアクティブレーダーなら、完全に無効にできる。核融合炉も切っており、慣性で動いて、突然化学ロケットで姿勢を制御、エンジンにレーザー砲を放ってきた。

「煙幕出します!推力停止」

 エレーナが即座に、エンジンである紋章機の近くとブリッジから煙幕を放つ。むろん、シールドによって中身は無事だ。それを敵に悟られないためだ。

『この程度の攻撃、平気よ』

 通信。

 同時に、彗星の陰からも小型の、妙に機関部が大きい船が襲いかかってくる。

「テキーラ、魔法で標的Aの機関部を無力化。ルーク、敵が侵入しようとするのをカウンター。シェーンコップは第二シャトルに」

 フォルテの命令に、全員が素早く動く。

『了解』

『承知』

『アイ、マム』

「できるだけ生かしときな」

 言ったフォルテ自身も、散弾銃に非致死性弾をこめる。

 エレーナは腰のスタナーを叩いた。

 リリィは、剣と同じ長さ・重さの特殊金属棒を手にした。

 

 海賊船から見れば、エンジンとブリッジをやられて煙を吹いている船に横付けし、ハッチを破って侵入、そのまま内部を制圧する……予定だった。

 慎重に船の相対速度を調整し、コンテナ船に横付けし、連絡チューブをハッチに当てようとする……

 簡易宇宙服を着たルークは、敵からは死角になるハッチから出て、フォースを用いた大ジャンプで敵船に飛び移った。熱噴射も光もないので探知はできない……ライトセイバーで敵船の壁を切り破り、噴き出す空気が収まると同時に、背後から襲いかかった。

 奇襲などというものではない。減圧の強風で立ってもいられず、何の反応もできない海賊たちは、ライトセイバーを使うまでもなく電撃棒で制圧され、針金で縛りあげられた。

 

 ルークが向かった船からは、別働隊が小型シャトルで襲撃し、ハッチを爆破しようとした……と思ったらハッチが内側から開けられ、悪鬼が襲いかかってきた。

 リリィの棒が縦横に振るわれ、四人の海賊が手足の骨を折られるのに三秒はかからなかった。

 

 そして、リリィが制圧した小型シャトルで敵船に『帰り』、ルークとの挟み打ちで制圧するのもあっという間だった。第一、テキーラの魔法によって敵船の留守番は全員、精神の働きが自覚なく鈍くなっていたのである。

 また、二人ともライトセイバーがある以上、電子ロック付きのドアは無力、壁を切り破って考えられないところから奇襲される。

 

 エレーナの船の小型シャトルに乗ったシェーンコップは、彗星の陰から出てこようとしたもう一つの敵船に向かった。

 魔法攻撃で主機関が故障、パニック状態……その壁に取りつき、あちこちに小さい爆薬をしかける。

「始まったか」

 微笑みつつ、遠隔点火スイッチを入れる。

 あちこちが一気に減圧し、警報と暴風で全員がパニックになった……ライトセイバーで切り破った穴から侵入し、スタナーで一人一人気絶させるのは造作もなかった。

 

『制圧終わり』

『こちらも終わった』

『終わったぞ』

「了解。ちょっと力仕事になるけど、倉庫に全員引っ張るぞ。エレーナ、だんなを起こして、ブリッジを誰かに任せな」

「はい」

「油断するな、徹底的に警戒するんだ。今が一番危ないと思いな」

「はい」

『そうね』

「制圧した、と油断させて隠れ場所から、ってのもよくある手だよ。トイレとかにいるやつもいる。姫さんが言ってたけど、奴らは証拠隠滅をしたがる。体にも船にも爆弾があると思いな」

『了解。あんたがイゼルローンの守備隊長だったら、無理だったな』

 シェーンコップの声は、奇妙な落ち込みかただった。

 

 そして縛り上げられ、気絶し、骨折した何十人かの男たちが、すさまじい怒りに燃えるエレーナ・バズ夫妻の元に引き出された。

 頭と思われる男に、エレーナは手早くパッチテストをし、即効性ペンタを投与した。

 善意に満ちあふれ、とろけた表情をした男に、エレーナは規定通り、簡単な質問をしていく。名前。生年月日。所属。最近のニュース。

 何の抵抗もなく答えていく屈強の男に、背後で縛り上げられた海賊たちは震えはじめた。下手な拷問より、薬で簡単に心が破壊されていく方が怖い。

「そう、船の人間を皆殺しにして船荷を第四惑星に送る、と。……コーデリアはどこ?人質の娘は?」

 強烈な感情を抑える水晶のような言葉に、ルークもシェーンコップも、彼女が凄腕の傭兵艦長だとやっと実感した。

「知ぃらねえ、子供なんて知ぃらねえ。おれたちはただ、船を襲って皆殺しにして荷物をいただいて、第四惑星のステーションに向かえ、ってだけだ」

「そう」

 エレーナは拮抗薬を注射し、尋問をバズに交代して引っこんだ。目顔でテキーラを呼んでから。

 物陰で、エレーナはテキーラに、

「魔法で、何かないか探ってください」

「そうねぇ、やってみる」

 と、相手に気づかれないようにテキーラが魔法を使う。

 その結果、少なくとも命じた人間の人相は出てきた。保安局のナンバースリーと、最近になって顔を見るようになった変な海賊らしい。

 尋問は続いているが、エレーナはデブリーフィングにかかる。

「組織を細分化して、ほかの部署がやってることは知らないし、上にたどるのも難しいようにするのがピーターウォルドのやりかた、とクリスのレポートにあったよ。おそらくあの海賊がコンテナを運んだら、問答無用で皆殺しにされてたろうね。

 で、これからどうする?」

 フォルテが出した言葉に、リリィなどは息を呑んだ。

「確かに、予定がその一本線だけなら、コーデリアはもう死んでいるわ」

 それを冷徹に言うエレーナ。エレーナがフォルテを見る目は、もっとも言いにくいことを言ってくれた勇気への尊敬がある。

「いいかい」フォルテが鞭を軽く動かす。「海賊たちはあとで証人になる。エンジンを破壊して外宇宙に飛ばし、物資が切れる前に救助してやればいい。それからはロングナイフ王女に任せる」

「それでいいわ。コンピュータの分析は済んだ?」

「ああ、その、保安局のやつにつながってる」

「あとは、このままコンテナを持ってグリーンフェルド星に行きます」

「ああ」

 

 

 数日後、グリーンフェルド海軍艦隊は臨戦態勢にあった。

 二隻の、まったく未知の時空からの船がほぼ同時に着いた。

 一隻は交易を求める、〔UPW〕の正使を乗せた輸送船。

 もう一隻は単なるコンテナ船。そちらが先に、応答した。

「約束通り、コンテナは持ってきました」

『ここはグリーンフェルド星、許可のない船の航行は禁じられている!』

「エレーナ・ボサリ・ジェセックです。そちらに呼ばれたんですよ、コード155-シグマ・オミクロン-22-デルタ・ファイ。繰り返します。155-シグマ・オミクロン-22-デルタ・ファイ」

『し、知らん!われら海軍は、呼んだ覚えなどない』

「あなたがたは一枚岩ではない、とは聞いているわ。宮廷と保安部にも連絡します」

 エレーナが平然と続ける。傭兵艦長として、また民間人船長としても、厄介なところでの政治交渉はお手の物だ。

『即刻炉心反応剤を投棄せよ!』

「炉心反応?わかったわ」

 と、何かが核融合炉から投棄される。クリスの故郷時空の水準では、エンジンの再始動が相当長期間、補給と修理を受けない限り不可能になる……クリスのワスプ号は裏技でかなり早く再始動できるが。

 もちろん、核融合炉自体の世代が違い、紋章機をメインエンジンとするエレーナの船はいつでも即座に再起動できる。

『動くな、臨検する!そちらの貨物船もだ!』

「こちら、〔UPW〕全権大使ミント・ブラマンシュ。外交特権を要求します。当船への攻撃は、〔UPW〕への攻撃とみなされますよ」

「〔UPW〕など知らん!どこだろうと、ここグリーンフェルド連盟領宙ではわれらが法だ!」

「それが、平和な外交関係と交易を求める船に対する態度ですか?ウォードヘブン政府とは違うのですね」

『き、きさまら、ロングナイフの手先か!』

 その間に、ミントはもう別の連絡を命じている。

「ロングナイフ王女に聞いた、クレッツ艦長とヴィクトリア・ピーターウォルドお嬢様の連絡先に。ウォードヘブン大使館に、レイ王とマクモリソン将軍からのメールを転送」

 

 グリーンフェルド星を守ろうと、多数の艦隊が出撃している、といっても戦艦が二十隻に巡洋艦や小型艦がいくらかだ。

「これが、全部?首都の?」

 シェーンコップが呆れた表情で見ている。

「バラヤーも似たような数ね」

 エレーナが苦笑した。

「ハイネセン、アムリッツァ前では二十万隻はいた……」

 みんな、呆然とシェーンコップを見る。あごが外れる思いで。

 何人かは、十万隻と一千万隻の戦いは見ており、沈痛にうなずいている。

 突然、その中の一隻がエレーナの船の方に突出した。

『そのコンテナをよこしてもらおう』

 恐ろしく着飾った、冷酷非情すぎる雰囲気の男が通信してくる。

「人質と交換ですよ」

『人質など知らん!』

「なら、コンテナは渡せません。人質を連れてきてくださる人としか、交渉はしません」

『黙れ。服従すれば死なせてやる。服従せねば何年も拷問する。お前たちの家族も連れてきて、目の前で拷問してからだ』

 眉ひとつ動かさず、エレーナが軽く命令する。即座にリリィのイーグルゲイザーが船から離れて移動、命令してきた男の艦をかすめてかなり遠い小惑星を遠距離狙撃し、粉砕した。

 クリス・ロングナイフと同水準の艦隊には、雲の上の破壊力なのは明白だ。

「人質を連れてきてくれる方に、替わってください」

 エレーナの言葉は静かなままだが、強い圧力になる。

「人質ですか?それは聞き捨てなりませんね」

 ミントが虫も殺さぬ顔で、星系全体に公開通信する。

「〔UPW〕には、あちらこちらの時空におけるグリーンフェルド連盟についての苦情が集まっています。特にガルマン・ガミラス帝国のデスラー総統は、強い不快感を持っていますよ」

 実際にはデスラーは、グリーンフェルド連盟の皆殺しを宣告している。忠臣を反逆者に仕立て上げられそうになり、帝国首都をのっとられかけたのだ。

「さて、交渉相手はどなたですか?」

 ミントの微笑に、複数のチャンネルから非難の声が注がれる。

『こ、これは砲艦外交だ!〔UPW〕は砲艦外交をするのか?』

「砲艦外交?砲艦外交というのは、こういうことですよ」

 ミントが微笑し、指先だけで何か命令する。

 輸送船の底から離れたクロスキャリバーがまず、強烈な二発を同時発射。

 さらにその背後がゆらりとゆらぐと、巨大な球体が出現し、とてつもない威力のエネルギー砲を放つ。

 さらにその球体から次々と戦艦が飛び出すや、何本もすさまじいエネルギーが星系を縦横に切り裂く。

 被害は一切与えていないが、あらゆる観測手段が振り切れてしまう。どの一発も、地球型惑星を破壊するか、弱くても恐竜絶滅クラスの威力、それが何隻も。

「〔UPW〕代表タクト・マイヤーズだ。〈影の月〉、ヤマト、ルクシオール、リプシオール級二隻、アースグリム、デスラー親衛艦隊所属〈シュルツ〉〈ドメル〉」

 通信画面でタクト、古代進、ココ・ナッツミルク、頭に包帯を巻いたファーレンハイト、ガミラス士官らが微笑している。

 ルクシオールはデュアル・クロノ・ブレイク・キャノンをつけたまま。デスラー砲艦二隻も、熱い砲身を冷ましつつ、惑星破壊ミサイルを積んだ艦載機を出撃させている。

 さらにルクシオールからはファーストエイダーとブレイブハートが出撃している。

「ヤマトは帰ったはずじゃなかったのか?」

 リリィがうれしげにいう。

「ま、あたしは知ってたけどー」

 テキーラはとぼけている。

「みんなごめんね、敵をだますにはまず味方から、って。ミントだけは無理だけど」

 タクトが微笑しつつうそぶいた。

「さてと、砲艦外交といかせてもらおう。コーデリア・ジェセックを渡してもらう、そうすればエレーナが約束通り持ってきたコンテナは渡し、条約を結んでわれわれは帰る。ほかにもいくつかの技術を渡し、交易を始めよう。悪い話じゃない。

 渡さなければ、ピーターウォルド連盟すべての星の、宇宙航行施設を破壊する。

 もちろん、子供に武器を突きつけて武装解除しなければ、なんてやったらまとめて吹っ飛ばし、徹底的に報復する……悪いね、エレーナ、バズ」

「もちろん。お任せします、マイヤーズ長官」

 エレーナは表情を硬くしたが、断固たる決意を見せてタクトにうなずいた。

「この件に関しては、僕たちは決して引き下がらない……どんなことでもする覚悟だ」

 ジェノサイドの脅しすらかけている。

『待て!いいか、どこかの誰かが、グリーンフェルド連盟の名を勝手に名乗っただけかもしれないんだぞ』

 全く別のところから通信が入った。

「その可能性も考えたわ。でも、それならわたしたちを襲った船から、そちらにつながるということはないはず……ヘルマス・サンドファイアの名前が出たわ」

 画面の、グリーンフェルド側の人たちはその名に、激しく緊張している。

「あの」

「サンドファイアの私生児、並行時空を旅していたという」

「あのとんでもない技術をもたらしてきた」

「〈ディスペア〉の」

 ざわざわ、とピーターウォルドの高官たちが目を見かわし合う。

 一つの艦が静かに動き始める。次の瞬間、消えていた。

 気がつくと、ヤマトのすぐそばにいた。

「ゆ、液体窒素パイプが」

「止め、いや、目に見えない刃が、艦内主要部を次々に切り刻んでいます!」

「なんて速さだ」

「島、緊急加速!」

 古代が叫ぶが、

「はい……あ、あれ?だめだ、鎖につながれたように、動けない!」

「トラクタービームだ!」

 ルークが絶叫する。

「あれはさらに、スパイ光線で中を見て、ニードル光線で内部の弱点を切り刻んでいる」

 真田が叫ぶ。

「ヤマトに被害が出ていい、撃ってくれ!」

 古代の絶叫に、スペルキャスターが機体を向かわせる……

 直後、またその……試験戦艦〈ディスペア〉がかき消える。

「速い!」

「光速の、一千倍は出ています!しかも慣性質量が観測できません!」

 雪が絶叫する。

「慣性質量を中立化?な、なら、わずかな力でも加速度は無限大、相対性理論の制限もかからない……」

 真田がうめく。

 光速に近い速度を出せるヤマトや紋章機、だがそれも、この速度の前では超音速戦闘機と歩兵より差は大きい。

 ルークがかっと目を見開く。

「リリィ!すべての計器を切れ。フォースで狙うんだ」

「はい!」

 リリィは素早く操作し、虚空に発砲した……

 ばしっ!

 光の槍が、突然爆発になる。

「ほう、当てるとは。だが、このシールドは破れんよ」

 機械でできているような、四角い顔の男がずんという。

「ば、ばかな……光速の千倍になれば、わずかな光弾でも百万倍の衝撃になるはずだ、それに耐えるシールドもあるだと?」

 真田が叫ぶ。

『は……はは……ははははは、無敵!むうてぇきい!』

『無力!むうりょぉくう!』

 通信画面の、ピーターウォルド側は大喜びで叫んでいる。

『これがピーターウォルド連盟の強さだ!見たかみじめな侵略者どもめ』

『最期だ!』

「ああ、きみたちのね」

 タクトは苦笑いする。

「ええ、私が彼らならこんな力の差を見たら、絶望しています」

 内部を切り裂かれたリプシオール級で奮闘している、ヴァニラが瞑目する。

「われらの力はわかったろう?そうだ、ピーターウォルド……おまえたちも、すべての時空、すべての生命はわれら、ボスコーンの奴隷だ。容赦なき力、おまえたちの信条通りに」

 そう、サンドファイアは顔の皮を脱ぎすてる。その下には青白い、不気味な皮膚があった。

「う……」

『そうはさせない!』

 サプライズ号と名乗った艦の、美しい女士官が叫ぶ。

『ヴィクトリア・ピーターウォルドだ!戦いぬく!ウォードヘブンやチャンス星防衛でのクリス・ロングナイフは、もっと絶望的な戦いを切り抜けた、ロングナイフにできてピーターウォルドにできないわけがない、同じ人間なのだから!』

『そうだとも!グリーンフェルド同盟の誇りにかけて、人類の尊厳を守りたい者は立ち上がれ!』

 上官のクレッツ艦長も同調する。

「なら、死んでもらおう。こちらの武器を使うまでもない……10254-12ベト・ヴァウ」

 と、サンドファイアだったボスコーンが眉をかすかに動かす。

 突然、サプライズ号艦内で、政治将校とその兵が、瞳から力を失って艦長や、ヴィクトリアに襲いかかってきた。

 応戦するが、ダート弾が当たっても平気で動き続ける。

「な」

 無表情で、無造作に金属の、床と一体で作られた椅子を引き抜いてヴィクトリアを叩き潰そうとする兵。

「機械なのか」

 クレッツ艦長がうめき、駆け寄ろうとするが間に合わない……

 平然と椅子を振りおろそうとする胴体を、ブラスターの高熱が両断する。

「いいタンカだぜ、嬢ちゃん」

 ハン・ソロがにやりと笑う。

『ありがとう。クリス、聞いていますね?人質は第6ステーションにいるわ。

 いいろな派閥が、処分しようとかバラヤーを脅そうとか、奪い合って宙に浮いていた。

 グリーンフェルド星の地下をうごめいていたソロ将軍に、得になるから探すよう言われていたわ』

 その通信を、タクトとミントが即座に光通信に変える。虚空に浮かぶ潜望鏡が、それを受信してまた虚空に消え……

「サプライズ号を破壊せよ」

 サンドファイア=ボスコーンの命令で、何隻かの無人戦艦がサプライズ号に襲いかかる。

 守ろうとする僚艦が破壊される、無人艦の技術水準が高い。

 そして大口径のレーザーがサプライズ号を狙い、光がほとばしり……はじかれる。

 ミレニアム・ファルコンと、レリックレイダーがシールドを展開し、盾となった。

「ウフォーオ」

「やーっと出番だ!」

 チューバッカの声とともに、二機がサプライズ号を襲う無人艦と戦い、圧倒していく。

「無駄な抵抗を、われが」

 と、サンドファイア=ボスコーンが動こうとした、その時。

 涙滴形の美しい船が、強力な牽引ビームでがっちりと〈ディスペア〉号をつかまえる。

「みんなで撃て」

 と、通信ではなく、全員の心にメッセージが流れる。

「よおし、深皿陣、全艦全力で一点を狙え!星系のほかの施設を破壊しないように」

「了解!」

〈影の月〉を中心に、ルクシオール、ヤマト、アースグリム、リプシオール、デスラー砲艦が次々と空間内に位置を占め、強大な光を集めていく。

 紋章機たちも翼を広げ、陣に加わる。

「デュアル・クロノ・クエイク・キャノン」

「波動砲発射十秒前。総員耐ショック耐閃光防御」

「デスラー砲」

「発射あっ!」

 次々と放たれ、一点に集中する惑星破壊級砲。〈ディスペア〉号のスクリーンが赤、青、白……色を変えていく。二秒、三秒……信じられないことに、耐え続ける。

(これですら、だめなのか)

(なんてシールドだ!)

 戦慄する士官たち。

「くそう……殺せ、コーデリア・ジェセックを殺せえっ!」

 絶叫。

 だが、敵の最後の言葉に、タクトたちは凍りついていた。自分の死よりも……

 特異点の刃も含む集中砲火に、頑丈無比なスクリーンが徐々に崩壊を始める。

 

 静止軌道をめぐる第六ステーションに、何隻ものサンドファイア閥の艦が襲いかかる。

 中の人ごと吹き飛ばそうと、砲撃を始めようとエネルギーを充填している……

 その時。

 虚空から大型の船が出現するや、ステーションのハッチに深く身をめり込ませた。次元潜航艇が浮上したのだ。

 待ちに待っていたクリスとマイルズ、海兵隊が斬りこむ。

「殺せえっ!なすべきことをせよ!」

「タイミングがすべてだ、走れえっ!」

「地図よ」

 ヴィクトリアから送信された地図を、ネリーが受け取り即座に全員が共有する。

 同時に、コンテナから出現したパピヨンチェイサーがサンドファイア側の艦を、次々と粉砕する。

 ステーション内部でも、複数の派閥が争っているようだ。

 さらに、一気に加速したエレーナの船も別の方から横づけし、エレーナ・バズ・フォルテ・ルークが一気に駆けこんできた。

 すさまじい怒りの前に、敵兵は人も、機械も、すべて無力だった。全員、強力なブラスターを装備している。クリスが軍に入ったころのネリーと同等のコンピュータを全員がつけている……三十の目と手、十五の多目的センサーを持つ、広がった生物に等しい。

 マイルズは、何の躊躇もなく敵兵の銃口の前に飛びこむ。頭を下げさせる制圧射撃を、完全に無視して。

 思いがけないタイミングの突進と、身長の低さでわずかに弾道がずれる、狙い直そうとする一瞬で、クリスがグレネードを放つには十分だった……自分たちの安全を度外視した至近距離に。

 そしてマイルズはもう次のドアを蹴り破り、身を投げている。

 エレーナも、躊躇なく自分を投げだして最前線を走り、敵の想像を絶する攻撃をかける。ここまで身命を惜しまない攻撃は、訓練された軍人には逆に想定できない。

 それを、フォルテが精密にフォローする。大口径の旧式火器は、装甲服を着た兵士も圧倒的な運動量で吹っ飛ばす。戦いが激しくなればなるほど、フォルテは冷静になる。

 ルークとシェーンコップは、ぴったりの息で別方面から攻めている。

 実体弾にはライトセイバーは使えない……溶けた金属塊にやられるだけ……が、それは体術でフォローする。敵の射撃の先を読み、射線のすきまに、器械体操のように体を入れる。

「幽霊なのか?なぜだ、なぜ当たらん!」

「大した芸当だな」

 それに惑う敵を、冷徹にシェーンコップが狙撃していく。こちらには一片の容赦もない。

「敵を殺すことより、人質だ」

「そうだな」

 無人の野をのんびり行くかのような二人、その前に、光の剣を構える十数人の、人間とはかなり違うシルエットの存在が出現した。

 骸骨のように痩せ、手足は機械だ。

「ヴ……」

 奇妙な声とともに、鋭く斬りかかってくる。

「これは……ジェダイ騎士のクローンを、さらにサイボーグ化したものか」

 ルークの知らないメイス・ウィンドウが三人。そして若き日のアナキン・スカイウォーカー、さらにルーク自身の顔も二人ずついる。ほかにも何人も。

「シェーンコップ、先に行け!コーデリアを助けてくれ!」

 ルークが絶叫し、最強のジェダイといわれたメイス・ウィンドウの無残な影に、絶望的に切りかかった。

「ああ」

 叫びざま走りだすシェーンコップに、別のサイボーグ・クローン・ジェダイが切りかかる。かろうじて不慣れなライトセイバーで抜き合わせるが、相手はドゥークー伯爵のクローン、圧倒的な強さでシェーンコップの首をはねようとする……

 その機械の体が、あっさりと両断された。

「え」

 無言。柔らかな髪の成人女性。眼鏡に赤い瞳。

「リリィの」

 リリィ・C・シャーベットに、顔は似ている。柔らかすぎる雰囲気は違うが。手には不釣り合いな大きさの、鋼の剣。

 その彼女のとてつもない剣気に、サイボーグ・クローン・ジェダイたちは圧倒され、ルークも、歴戦のシェーンコップさえちびりそうになった。

「アイラ・カラメルと、申します。リリィの母親で師です。子をさらわれた母親の気持ち、誰よりも」

 口調はおどおどしているが、剣技は悪魔としか言いようがない。手練れのジェダイのサイボーグ化クローンや保安局の兵が、大根でも切るように切り倒されていく。

 ライトセイバーに鋼の剣を合わせることなく、微妙に動くだけで敵は首を差し伸べるように転びかかり、さらりと斬られる。

「そ。最後の切り札、ってノアさんがセルダールのソルダム陛下に頼んで、ファルコンに乗せててくれたんだ。で、ヴィクトリアのお嬢ちゃんが、人質を確保しとけっておいらたちをステーションに送ってくれた」

 その後ろで、太助がのんきに笑っている。その腕には、幼い子がくるまれていた。

 写真と見比べ、コンピュータで生体状況を確認したルークの表情が、ぱっと明るくなる。

「救出成功、生きてる。総員脱出せよ」

 シェーンコップの通信に、全員が歓声を上げた。

 

 ステーションの戦いは、ほんのわずかな時間だった……

 そして、二十秒以上耐え抜いた〈ディスペア〉号のスクリーンが崩壊する。地球を軽く蒸発させるエネルギーの前に、どんな頑丈な装甲も瞬時に蒸発していく。中の人たちも……

 

「コーデリア……」

「ああ……ああ……」

 幼い愛娘を抱きしめ、泣きむせぶエレーナ・バズの夫婦と、そのかたわらでマイルズとクリスは大喜びしていた。

「ああ、ありがとう、ありがとうございます」

 エレーナが泣き崩れる。渡された幼子をクリスが、固く抱きしめた。

 

「ピーターウォルド連盟に、ボスコーン派はかなり深く食い込んでいるのが現実」

「できることなら、なんでもする。ありがとう……」

 クリスがヴィクトリアに、深く深く頭を下げた。

 

「さて、あなたは」

 タクトが、援軍の涙滴艦と通信を開く。

「銀河パトロール隊グレー・レンズマン、第二銀河調整官、キムボール・キニスン」

 かつてルークたちが見た、小汚い隕石鉱夫とは一変した、グレーの飾りない制服がだれよりも似合う美丈夫。

「まず、率直なことを。あなたたちは弱い」

 ぐ、とタクトは表情を殺した。そのことは嫌というほど思い知った。

「多元宇宙に出て、自分が弱い、自分の故郷は劣った文明だ、っていやというほど知ったわ」

 クリス・ロングナイフが痛々しそうに言う。

「それを笑えないね。これほど圧倒的な差を突きつけられたら」

 タクトが沈痛に言う。

「そうだ。その程度の力で、〔UPW〕などと名乗るのはおこがましい。

 ボスコーン、ほかにも多くある多元宇宙の脅威に対抗するため、タネローンを守るために、力をつけよ。技術を学べ。将兵を鍛えよ」

「ああ、そうするしかない」

 ファーレンハイトが歯を食いしばる。

「手始めに、先ほどのボスコーン艦が持っていた、バーゲンホルムとスパイ光線、宇宙線からのエネルギー受容機の技術はさずけよう。

 また、智=バラヤー連合とも力を合わせるがいい。

 そして、タネローンを探すのだ」

 そう言って小さなカプセルをルクシオールに放つと、涙滴艦は瞬時に姿を消した。

 タクトたちは、人質救出の目的こそ果たしたが、悔しさに震えていた。

「ああ……そうするしかない。もっともっと技術を学ぼう。多くの多元宇宙と接触しよう。技術をかけあわせよう。技師や将兵を教育しよう」

「はい!」

 新旧エンジェル隊の皆が、うれしそうに声を上げる。

 マイルズが送った、少し弱ってはいるが母の美貌を受け継ぐ幼子、コーデリア・ジェセックの動画に、みんな夢中になっている。

 

 膨大な戦後処理は待っている。多くの巨大艦の、内部の考えられないところが深く破壊されている。

 グリーンフェルド連盟の、奥に食いこんだボスコーン派閥と戦うと決意したヴィクトリア・ピーターウォルドに、タクトたちは多くの技術を資金として与えた。

 渡さずにすんだコンテナの中身は、マイルズの故郷が開発している頑丈なシールドとそれを貫通できる重力内破槍、ジャクソン統一惑星由来のいくつもの遺伝子技術資料だった。

 それは盗品であり、マイルズの故郷で元の持ち主に返すと決めたが、別にマイルズの独断で同水準の技術をヴィクトリアに提供した。

 

 多元宇宙はまだまだ底が知れない。

 レンズマンとボスコーンの争いの前では、ヤマトやルクシオール、そしてガルマン・ガミラスやローエングラム朝銀河帝国も、低技術の土人・虫けらにすぎない。

 今はただ、幼子の無事を喜び、目の前の仕事をこなすだけだ。遠い遠い、はるか星のかなたを見上げながらも……




海軍士官クリス・ロングナイフ
ギャラクシーエンジェル2
ヴォルコシガン・サガ
スターウォーズ
銀河英雄伝説
宇宙戦艦ヤマト
レンズマン

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