第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

14 / 70
エンダーのゲーム/時空の結合より1年半

 ルシタニア星の近くに、クロノゲートが開き〔UPW〕の船が訪れたのは、ウィル戦が終わって間もないころだった。

 通信を受けた住民は、絶叫するように止めた。

「近づくな!この星はとんでもなく危険な病原体に汚染されています!

 そしてこのルシタニアは、〈百世界〉の代表ではなく、反乱者です。スターウェイズ議会と接触するなら、ここから22光年離れていますがトロンヘイム星があります」

 ルシタニアの、人類である住民は苦しんでいた。自らが犯してしまった罪……復讐にかられ、友と誓ったペケニーノを虐殺したことに。そしてバガーと粛清艦隊、病の恐怖に。

 

「このゲートは厳重に監視してください。デスコラーダ・ウィルスの入ったプローブが通過するかもしれません」

 その連絡に、〔UPW〕はゲートの出入り口に大型の無人衛星を常駐させ、連絡がなければウィルスより大きい物体はすべて破壊するシステムを構築した。

 

 ルシタニアとの連絡は安定していたが、しばらくは電波を通じた情報のやり取りが主だった。ルシタニアから直接物資を上げることはできなかった、デスコラーダ・ウィルスに汚染されている可能性があるから。

〔UPW〕は、その反乱に対しても中立の態度を取った。〔UPW〕の助けがなくても、ルシタニアの人々は問題を一つ一つ解決した。

 フィロティック物理学を、生命を深く理解した。ジェインを用いた、超光速どころかどんな距離でも瞬時に移動できる航法をつくった。デスコラーダ・ウィルスの毒性と知性を抜き、ペケニーノたちの生命と変態を維持できるウィルスを作った……妙な副産物はあったにせよ。

 ジェインがフィロトの糸を伝い、この時空の外側に出た……その時に乗っていたミロは、健康な肉体を作ってそちらに魂を移し、古い肉体はあっさりと崩壊した。そしてエンダーの両隣には、若いころの姉ヴァレンタインと兄ピーターがいた。どちらもエンダーの記憶から創り出されたものだ。

 

〔UPW〕も、フィロティック物理学やアンシブルの知識と引き換えに、ある程度の支援はした。艤装前の中型船をいくつか、ルシタニア母星に近い惑星軌道に運び、一万人程度なら半永久的に暮らせるコロニーとした。

 だが、それは木に変態するペケニーノにとっては暮らしにくい場であり、あまり人気はなかった。

 むしろ、降下した……汚染の危険があるので〔UPW〕は所有権を放棄する……シャトルに積まれた、先進的なコンピュータのほうがありがたがられた。

 

 別に、超光速のクロノドライブでトロンヘイム星に行き、スターウェイズ議会にも接触した。その対応は、〔UPW〕にとってはすっかり慣れたものだった。要するに現実を拒む者が多い。証拠も見たがらない。

 ルシタニアが反乱と同時に交信を絶っていた……にもかかわらず『ヒューマンの一生』などルシタニア由来という情報が多く流れたため、多くの要人が疑心暗鬼になっていたこともある。実はジェインが切ったふりをしていたのだが。

 トロンヘイム星の人々は、何年も前に旅立ってはいたがヴァレンタインが長く滞在し、多くの人を教育していただけに比較的柔軟だった。その人々は、アンシブルを通じて知っている人に、多元宇宙について伝え始めた。

 スターウェイズ議会が口を封じようとしても屈しなかったし、議会の制御を受けない裏回線は広くあった。

 またルシタニアの別働隊として、超光速で動いていたピーターと惑星パスのシー・ワンムが、上層の思想家たちから説得していたこと、何人かの予言者のような人たちが事実を受け止めたことが、動きのきっかけになった。

 巨大な人間集団というのは、大きい船のように動きが鈍い。舵を切ってもなかなか曲がりださない。

 それが動くまでの間、〔UPW〕は半ば無関心に見守っていた。

 だが、その状況は一変した……〔UPW〕がボスコーンに敗北し、レンズマンと出会ったことで。

 

 エンダー・ウィッギンは、ぬけがらになりつつあった。

〈異類皆殺し(ゼノサイド)のエンダー〉にして、初代・死者の代弁者。人類の救世主であり、人類最悪の犯罪者であり、魂の救い手であり、人類史上最大のベストセラーの書き手であるアンドルーが。

 妻ノビーニャは〈キリストの心の子ら〉修道会……宇宙時代になって新設された、結婚と禁欲を同時に義務づける……に入り、研究を含め世俗とのつながりを絶ってしまった。

 できたばかりの超光速船を動かす仕事は、〈外側〉で作りだされた二人が引き継いでいる。

 エンダーの肉体はゆっくりと崩壊を始めており、魂は若いピーターとヴァル二人に分け与えられていた。

 だが、〔UPW〕はエンダーを必要としていた。多元宇宙屈指の軍事指導者を。〈死者の代弁者〉、比類ない洞察力を持つ賢者を。

 

 特に、エンダーを助けろと叫んだのが、突然訪れた第二段階レンズマン、ウォーゼルだった。

「彼は必要である、多元宇宙の軍事力をまとめ、ボスコーン……ほかにもある大きな悪に対抗するために。死なせてはならない!」

 恐ろしい姿……多数の、柄に支えられた目を持つ竜……第二段階レンズマンである彼はエンダーを、そのレンズでじっと見つめた。

「アイウア……魂は一つ。肉体は三つ。エンダー、そして若いヴァルとピーター。さらにジェインも、魂が密接に混じっている」

 ウォーゼルの声にも、皆だいぶ慣れてきている。

「ジェインも、大切なラマンなのです。死なせてはならない」

 ミロが強く言った。

「でしたら、われわれのコンピュータを使ってみますか?」

 ロゼル・マティウスが提唱する。

「いえ、その前に……そう、あちこち試してみるように、と窩巣女王から」

 エラが首を振った。

「でも、魂はまだ完全には理解されていないわ、いじって大丈夫なの?何が善で何が悪か、わかっているの?」

 傷つきすぎたエンダーの妻、ノビーニャは修道会の立場から言った。

 シー・ワンムが静かに答えた。

「善とは……こう思います。他人の成長を願うこと。自分がもっている良いものを、すべて他人にあたえようと願うこと。できることなら悪しきことは取り除いてやること」

 ノビーニャは素直にうなずけなかった。

(なら、なんで死んだの!)と、死んだ両親やピポ、リボに訴えていた。

 無論、彼女は身勝手だ。デスコラーダ病を研究して死んだ両親は同胞と娘のために研究に身をささげた。ピポとリボは同胞のように愛するようになったペケニーノにつくし、そして儀式のためとは言えペケニーノを刃で切り刻めなかったため、犠牲になった。ノビーニャは、自分だけのために生きてほしい、全存在を自分に向けてほしい、そう願っている……それは幼子が母に求めるのと同じだ。

 クァラも、「どんな甘っちょろい育ちしてんのよ」と、ワンムの悲惨と言える育ちを百も承知で怒鳴りつけた。

 司教は「いや、ワンムの言葉こそ、善だ。『あなたの神を愛せよ』『自分を愛するように隣人を愛せ』それこそ律法の、イエス様の教えのすべてなのだ」と、認めた。

 

 そしてジェインは、エンダー・ヴァル・ピーターの三人の肉体、そしてペケニーノ……第三の生を生きている父樹、そして母樹の間を駆け巡った。

 エンダーたち人間は、体をのっとられそうになる衝撃に改めて、自分は生きたいということを再確認した。

 また、ジェインの力を通じて母樹と語り合えた父樹たち、そして母樹が何万年かぶりに実らせた花と実を味わったペケニーノたちの喜びも大きいものだった。

 その経験で、あちこちを飛び回ることに慣れてきたジェインは、リプシオール級が持ってきた試作コンピュータに飛び移ってみた。

 もともとリプシオール級も、航路計算や機関制御のために強力なコンピュータを持っている。

 量産型紋章機には、クロノ・ストリング・エンジンの制御も可能にする先進量子コンピュータがある。

 ナノナノ・プディングの故郷、ピコ星に残るナノマシン技術から作りだされたナノマシン集合体がある。

 加えて、クリス・ロングナイフがもたらしたネリーをコピーし、改良したきわめて先進的な携帯コンピュータがある。三種族の遺物を〈紅き月〉が解析した、とんでもないコンピュータも試作されている。

 R2-D2・C-3POやミレニアム・ファルコンのコンピュータも解析され、ドロイド技術もろとも量産試作の段階に入っている。

 ノアがアンシブルを用いるコンピュータを理解し、さらに改良した、クロノ・ストリングを用いる試作的な超光速コンピュータも運ばれてきた。

 それらを試験的につなげたコンピュータは、〈百世界〉の何万ものアンシブルコンピュータの集合体の、何十兆倍ものメモリと計算速度があった。

 フラクタルの無限を内包した母樹たちには及ばないにしても、ジェインを受け止めるには十分だった。

 

 また、〔UPW〕はエンダーにも、新しい肉体を作り始めた。古い肉体の崩壊が止まらないことは明らかだったからだ。

〔UPW〕総がかりで作りだした、新しいエンダーの体……

 保存されていた、エンダーのDNA。

 ナノナノ・プディングと同系のナノマシン。

 事実上人格を持てる、ネリーのコピーを十個ほど。

 暗黒星団帝国やアナライザー、ドロイドの技術を用いた機械ボディ。

 それらをひっくるめ、刻んで混ぜて、健全な中年男性の肉体を一つ作り上げたようなものだ。

 

 同様の、美女の体はジェインにも提供された。完全な人間とは微妙に違うにせよ、人間に混じって生活するには支障はなかった。

 ……信心深いカソリック系のルシタニアでは、教会とかなりの軋轢にはなったが。ピーターとヴァルが〈外側〉でエンダーにより作りだされた時も、神に創造され受肉したアダムとイブの子孫ではない……洗礼を受けさせるわけにはいかない、と教会と軋轢になった。

 だが、教会はその軋轢のことは忘れていた。ウォーゼルがレンズの力を用い、エンダーとヴァレンタインを除いて記憶を操作した……ピーターとヴァルは最初からエンダーとノビーニャの子供だ、と。

 教会関係者が書類を調べれば洗礼記録がないことに戸惑うかもしれないが、そのことは意識されないように精神を操作されていた。

 

 ちなみに〔UPW〕でも、例えばナノマシン集合体であるナノナノ・プディングは洗礼を受けられないだろう。受ける気もないが。……暗黒星団帝国は全員自害したため捕虜がいないが、帰化する捕虜がいたら教会とは軋轢になったかもしれない。

 本当は、今のエンダーと若いヴァルには魂が欠けている。その問題を解決するため、ウォーゼルは二人を故郷、惑星アリシアにいざなった。

 ゲートから〈ABSOLUTE〉、クロノゲートで〈EDEN〉に出、トランスバール皇国領のローム星にあるゲートからリゲルに出て、そこからアリシア。短い旅ではない。

 

 

 ウォーゼルたちが出かけた直後に粛清艦隊が襲ってきたが、それは〔UPW〕と、超光速どころか即時移動が可能になったピーターの、ただの気密カプセルでしかない船が抑えた。ジェインが情報さえ覚えていれば、絡み合うアイウアをフィロトの糸を通じて〈外側〉に一度持って行き、また好きな場所で再構成できる。

〔UPW〕は次元内での政権交代には不干渉……クーデターさえも容認するが、ジェノサイドだけは止められれば止めるのを方針としている。

 ちなみに、ドクター・ディバイス……分子破壊砲、たいていのシールドを通して焦点を結び、そこに高密度の物体があれば、分子のつながりを断つ連鎖反応を起こす、戦艦でも密集した艦隊でも、惑星すら破壊する最終兵器も使用されかけた。それはピーターが敵艦の倉庫に返し、使用不能にしたが、〔UPW〕はレンズマンにもらったスパイ光線で隅々まで調査し、リバースエンジニアリングを開始した。

 そして、〔UPW〕とスターウェイズ議会は本格的に交渉を始め、またスターウェイズ議会は、ルシタニアにおける多くの科学の進展や、デスコラーダ・ウィルスを散布している星の情報をやっと受け入れた。

 またルシタニア以外の星も、〔UPW〕の技術……最近、キムボール・キニスンに提供された、近くの恒星のエネルギーを宇宙線の形で直接受容できる技術も含む……を受け入れた。

 超光速船は、それまでの恒星間旅行の常識を一変させた。それまでは、エンダーがそうしたように、光速ぎりぎりで恒星間を渡り、乗員は年を取らないが故郷の家族友人は、特に往復したらこちらは数日でも故郷は何十年後、知っている人はみんな死んでいる……だった。実質片道切符だったのだ。

 それが、恒星間を数カ月……新型のバーゲンホルム船なら分単位、ジェインに負担がかかるが計算船なら瞬時に航行できるようになった。

 特にジェインを用いる計算船は、計算能力は必要だが船そのものの設備が必要ない。要するに気密カプセルでいいのだ。……〈外側〉で余計なものを産み出すリスクもあるので、人気はないが。

 太陽系で言えば水星・火星・木星や土星の大型衛星・冥王星といった不毛な星々に、短期間で億単位の人間やバガー、ペケニーノが居住できる見通しもできた。

 それまでの〈百世界〉は、無人機が光速ギリギリで観測した情報をアンシブルで受け取り、緑の木が生えている惑星に入植するだけだったのだ。生命のない岩塊でも使えるとなれば、候補は百倍以上に増える。

 さらに、〈ABSOLUTE〉から行ける何万もの無人時空にも、バガーとペケニーノも入植が認められることになった。それで全滅の可能性は大幅に下がる。

 

〔UPW〕も、待望のアンシブル……どんな遠距離でも即座に通信でき、コンピュータの最後の制約である光速の制約を破る装置を手に入れた。

 またバーゲンホルムで接近し、マイルズが渡した事実上あらゆるシールドを貫通する重力内破槍と、たいていのシールドを無効にし惑星すら破壊する分子破壊砲で攻撃、即座にバーゲンホルムで消え失せる、という戦術を量産紋章機に標準装備するようになった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。