第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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宇宙戦艦ヤマト/時空の結合より1年9カ月

 ヤマトの故郷に、奇妙な事故が起きた。いきなり、別次元から銀河が飛んできて銀河系にぶつかった。

 ガルマン・ガミラス本星は壊滅した。

 といっても、ほかの星にはほとんど被害はない。銀河の星の密度……宇宙の広さをなめてはいけない。

 地球の大きさを一センチにすれば、太陽系に一番近い星でも何万キロメートル。地球内に収まらない距離になる。

 どこの宇宙でも常時いくつも起きている銀河衝突で、星の衝突などほとんど起きていない。多少起きていても、千億の二倍から考えれば些細なことだ。

 

 その、億に一つの偶然にあたってしまったガルマン・ガミラス本星にとっては災難だったが、多元宇宙のおかげで被害は大きく軽減された。

 隣のローエングラム銀河帝国がゼントラーディ基幹艦隊に襲われ、デスラーが救援に行ったお礼として、ローエングラム銀河帝国艦隊が救援に来てくれたのだ。一万隻ものキロメートル級艦船、収容人数は膨大だ。

 また、ガルマン・ガミラス帝国の側も、並行時空から多くの技術を手に入れていた。特にありがたかったのがゼントラーディの、無尽蔵の艦を作り続けるプロトカルチャーの自動工場技術。

 本格的に動き出し、さらにその工場自体が自己複製を始めるにはまだ間があったが、すでに六千メートル級の巨大艦がいくつも作られ、本星近くに集められていた。

 それで、ガルマン・ガミラス本星の人間はほとんど退避できた。

 ほかの星々で起きた災害も早期に収め、ガルマン・ガミラス帝国は力を取り戻した。むしろ、利用できる星が二倍に増えただけだった。

 

 それ以上の災厄を受けたのは、地球である……

 

 しばらく前に帰還していたヤマトは、ガルマン・ガミラス本星に見舞いに旅立った。

 それで本星の惨状にデスラーが死んだと勘違いし、さらに爆発から逃げるためにランダムワープをした先で、ディンギル星の水没を目撃した。

 救助作業に努力はしたが、助けられたのは一人だけ、しかも多くのクルーとコスモハウンドを失う結果にもなった。

 その後悔で集中力を欠いたか、直後の急襲への対応は遅れた。

 だが、ヤマトは〔UPW〕で技術を受け取り、航海しながら実験を重ねていた。ハイパー放射ミサイルはバラヤー式のシールドを貫通できなかった。

「総員戦闘配置!」

「古代、あれはハイパー放射ミサイルだ。強力な放射能ガスを出す」

 真田が目を見張って叫ぶ。

「全員宇宙服を着用」

 命令は、即座に実行される。ガルマン・ガミラス帝国やボラー連邦との戦い、そしてゼントラーディ軍との戦いで鍛え抜かれた宇宙戦士たちだ。

「それだけじゃない、核反応も促進するから、補助エンジンやミサイルの核弾頭も爆発しかねん。今の地球の標準戦艦なら一発で轟沈だな」

「なんて恐ろしい兵器だ。新しい技術をもらっていてよかった……あれのデータを持ち帰るためにも、ここを切り抜けるぞ!島、バーゲンホルムだ。南部、爆発を偽装しろ」

 素早く宇宙服を着た古代が指示を出す。

「ああ。無慣性に移行する!」

「煙幕を張れ」

 南部が叫び、何人もの人が素早く動く。

「ミサイルを投棄し、近距離で自爆させます」

「予備装甲版を艦外投棄します!」

 芸細かく、爆発を偽装したヤマトは、光速がのろのろに思える高速で太陽系へ飛んだ。

 ヤマトの偽装爆発に、ルガール・ド・ザールは見事に引っかかった。

「ふん。む、母星は爆発したか……よい、弱者は滅びるのが宇宙の真理だ」

 彼が悼みもしない弟が、ヤマトにいることも知らないまま。大型艦は静かに、同朋の大半を見捨てた強者たちのもとに帰っていく。

 

 ヤマトは旅から帰り報告を行った。

 ガルマン・ガミラス本星の崩壊。

 アクエリアスによる有人星の大災害と、謎の敵の急襲……そしてハイパー放射ミサイルのデータ。

「あの敵と戦う場合には、われわれ地球防衛軍の基本戦法である、マルチ隊形からの波動砲斉射は通用しないでしょう」

「ばかな!」

 古代進を怒鳴りつけたのは、参謀である。

「縁起でもないことを言うな」

 と、同調する者がわらわら出てくる。

 藤堂司令長官はひたすら黙っている。

「敵の、小型水雷母艦がヤマトの退路を断とうと小ワープしました。そのワープはきわめて始動が早いものです。

 波動砲はどうしても、一分以上前から異常なニュートリノが出ます。それを見てすぐにワープし、こちらが行動できないうちに別の方向から反撃することが可能でしょう。

 まして敵の主力武器は、ワープ直後でも問題なく使えるミサイルなのです」

「黙れ!波動砲の斉射は宇宙最強なのだ」

「宇宙最強?こちらの資料を見てください。デスラーは赤色巨星を」

「見る必要などない!地球防衛軍の無敵を疑うか!」

「コスモハウンドがいくらすると思っているんだ、無意味で無謀な救助作戦で何人殺したんだこの無能艦長!」

 参謀の表情を見れば、おびえていることがわかる。見たくないものは見ない。砂ダチョウは官僚色が強く、権力闘争に注力する高級将校の常だ。

「マルチ隊形は白色彗星にも粉砕されたじゃないか、あの時一隻でも波動砲を撃てる艦が残っていたら、徳川さんも斉藤も」

「反逆者の報告など聞く耳もたぬ!」

「それで死ぬのは誰なんだ、今艦に乗っている、若い宇宙戦士たちだ。オレの後輩だ。誰かの息子で、兄なんだぞ!あんたは、嘆き悲しむ母親に、くだらない感情で息子さんを殺しました、といえるのか!」

「黙れ!」

「きさまが吊るされていないことがおかしいんだ!」

 またも会議からつまみ出された古代進は、屈辱と怒りでボロボロだった。

「またやったのか……」

 島があきれ返っていた。

「どれだけの、どれだけの犠牲を出せばわかるんだ?」

「どれだけ出したって、痛くもかゆくもないさ。軍人さんは、部下を殺すのがお仕事だ。そして無駄にたくさん戦死させるバカから出世するのが軍の常だ」

 笑っている島の言葉は、心に突き刺さった。ゼントラーディとの戦いで、何人も戦死者は出ているのだ。

 罵倒として言われなくても、ディンギル星での救出で部下を死なせた罪悪感も……形容できないほど大きい。

 兄の守を死なせた……誤報だったが……沖田艦長を責めたことも思い出し、体の芯が冷え切る。沖田のほうが何万倍辛かったか理解して以来、中学校の時の黒歴史と同様になってしまっている。

 島が静かな表情で話す。

「それより現実には、少しでも死者を減らし、生き残る艦を増やすにはどうするか、だ。

 南部が、あのミサイル野郎のうわさを流してる。真田さんや山崎さんも、技術関係から説得して、バラヤー式のスクリーンを入れるように言っている。宇宙服を着て空気を抜き、核燃料や核弾頭を密封しておくだけでも、被害は半減できるんだ」

「ああ……防衛軍は、戦法を完全に誤っているんだ。まして、新しい技術を使ったら、まったく違う戦法だって考えられるのに」

「そうだな」

 と、島は壁を殴りながら歩いていく親友を見送った。

 

 再び地球を水没させるのは遠い未来のこと、と思われていたアクエリアスが急なワープで地球を襲うことが判明した。

 今回は大量の水、ガミラス戦役のように地下に隠れても、どこかが水圧で破れたらすべて水没する。

 太陽系内のコロニー、火星や木星衛星の基地への移住が始まろうとしたが、それをディンギルの艦隊が襲撃する……

 迎撃した地球艦隊は、古代らの予想通りマルチ隊形からの波動砲斉射をかわされ、ハイパー放射ミサイルの飽和攻撃を受けた。

 多くの艦が行動不能にはなった。

 だが、ヤマトからの情報で戦闘前に宇宙服を着て、核物質を厳重に密封していた船も多くあったため、死者の数は少なかった。何隻かは、禁止命令を無視しバラヤー式のスクリーンをつけていて無傷だった。

 そのディンギル本隊を、修理と補給を終えたヤマトが襲った。

 バーゲンホルムの圧倒的な速度。敵陣の中央に出現したと思ったら主砲を、三基とも別々の目標に叩き込み、煙突ミサイルと舷側ミサイルをばらまく。

 月基地から出撃していたコスモタイガー隊も、Xウィング同様ハイパードライブを装備している……瞬時に敵陣に押し寄せ、ミサイルの嵐を放ってかき消える。

 戦いを見ていたディンギルの少年は、かばい合い助け合いながら戦う地球艦隊と、弱肉強食以外にない同朋たちの違いに心揺らいでいた。

 

 ディンギル艦隊を壊滅させた残存艦隊とヤマトは、あとワープ二回の距離にあるアクエリアスを急襲した。

 そこで、敵本拠地を探り交渉を求め続けた。

 波動砲は使えない。敵のニュートリノバリアに波動砲が当たったら、何が起きるかわからないと真田らが警告した。

「ルガール大神官大総統、新たな故郷を求めるのなら、プロトカルチャーの技術を用いれば短期間でいくらでも船を作ることができる。

 エネルギーだって、船団ごとバーゲンホルムで可住惑星のない星の近くに行き、太陽電池を広げれば事実上無限だ。宇宙線から無制限に近くの恒星のエネルギーを得る装置を与えてもいい。

 もう、不毛の星でも、何兆人でも人が住めるようにできるんだ。争う必要なんてない」

「だまれ愚かな臆病者。他者を踏みつぶし、皆殺しにして生きることこそ、宇宙の掟。弱肉強食こそ大宇宙唯一の真理なのだ」

 ルガールの目には狂信と軽蔑のみがあった。それこそ、彼らが地球人の子孫であることの明白な証拠だった。

「それは欠乏がある場合だけだ、もう欠乏はない!」

 叫びは、ヤマトの外殻のように硬い拒絶にはじかれた。

「力のみが決めるのだ。力をもってヤマトを、地球をもみつぶして、故郷をふたたび手に入れる」

 ルガールの叫びに、ヤマトのクルーはむしろ悲しくなった。

 彼らも、ディンギルと同じ祖をもつ人間である。戦争でゆがんだ人間を、戦争が引き出す人間の本性を、人間を嫌というほどよく知っている。

(また、皆殺しの戦いを繰り返すしかないのか)

 絶叫したいほどの痛みをこらえ、通信の切れた画面を見つめる。

「おとう…さん…」

 物陰から通信をみつめてつぶやく、ディンギルの少年の涙にも、胸がはりさけそうになる。

「すまない。おれの言葉に力が足りなかった」

「ううん、だって弱肉強食……でも、ウルクで脱出したのは、若く強い男だけだよ?大神官大総統の息子でも、弱いからって置いて行かれた。女は一人もいないのに」

「それじゃ、たとえ勝利して地球を滅ぼしたって、意味がないじゃないか」

「ごめんなさい!考えるのは僕の仕事じゃない、ごめんなさいお兄ちゃん」

 激しい体罰を思い出してわき腹を押さえ、うずくまり涙をこらえる少年の姿に、ヤマトのクルーは激しい憤りと悲しみを感じた。

「まあ、あっちのベータ星では男女の性転換も簡単にできるらしいから」

「太田くん!」

 雪が太田をとがめる。

 

 そして本隊との戦いが始まった。

 ハイパー放射ミサイルはバラヤー式シールドがある艦には通じない。それを持たない艦も、真田が新開発した、広い空間に稲妻状の破壊力を充満させる対ミサイルアクティブスクリーンでミサイルを防いだ。

 だが、ディンギルの目的はアクエリアスのワープまでの時間稼ぎ。そしてハイパー放射ミサイル以外にも、ニュートリノ砲や通常ビームで激しく攻撃してくる。

 ショックカノンの嵐で敵を破壊していったヤマトは、強力な援護射撃を受けて敵の巨大要塞に直接着地した。

 マシン馬に乗ったルガール大神官大総統が白兵戦を挑んだが、一瞬の隙をついてコスモタイガー隊が発進し、惑星ワープ装置の本体がある神殿を急襲する。

 神殿を守るため引き返したルガールは、古代と激しい白兵戦を繰り広げる。

 そのとき、後継ぎであるルガール・ド・ザールが、敗北の罪で抹殺されかけた恨みをこめて父親に打ちかかった。

 それを逆に殺したルガールは、その首を邪神の像にささげた。

 父子相打つ、愛も何もない闘争の醜さに、古代は吐き気をこらえた。

 そのとき。突然邪神が動きだした。

 一番驚いていたのは、ルガール自身だった。大神官である彼自身こそが、狂信しつつもまやかしを一番よく知っていたのだ。

 驚くルガールの心臓に、邪神の手が突き刺さった。

「ぐ…ぐお…」

 すさまじい苦痛のうめき声とともに、その姿が変わっていく。

 突然、神殿の壁に揺らめく影が、うごめく。

 とっさに伏せた古代の頭があったところを、高速の弾丸が貫いた。

 そして防衛軍の戦士も、ディンギルの戦士や神官たちも貫かれ、うずくまる。

 いつしか、ルガールの肉体は消えていた。壁のうごめく影が、何億もの甲虫のような何かとなって高速で飛び始める。

 自分をかすめたそれを壁から抜いた古代、

「バッタ?なんなんだ……生存者、全員撤退しろ!」

 古代は絶叫しながら走り出した。息が上がり、心臓が破れそうになっても走り続ける。

 その背後では何千という人間たち、石像が次々と、不気味な異形と化し動きだしている。そのことが、目の前の柱や壁に映る影からだけでもわかる。直視したら発狂してしまうということも。

 

 生存者とともにヤマトに帰った古代たちは、とてつもないものを見てしまった。

 都市衛星ウルクの人々が、機械が、次々に巨大な異形となっている。

 それだけではなく、アクエリアスの光も不気味に脈動し、暗黒の触手をほとばしらせているのだ。

「古代!なにが」

「全艦緊急離脱!戦闘隊形をとれ!」

 絶叫にヤマトが、多数の艦が次々とエンジンをふかす。

 だがいくつかは、おぞましい触手に飲みこまれて爆発していく。

 必死で制御する機関士たち。

 徳川太助は問題なく作業をしている……赤色巨星を超新星化させる戦いで片腕を失ったが、ローエングラム帝国軍の治療で義手をもらった。その後〔UPW〕でナノマシン治療を受け、生身と変わらず力だけは三倍になっている。

 激しい揺れに耐えるブリッジクルーの前に、醜く傷つき恐怖にゆがんだ、クイーン・オブ・アクエリアスの姿が浮かぶ。

「アクエリアス」

『おねがい……戦って……

 あれは、ディンギルの人々、あなたたちと共通の先祖が遠い遠い昔あがめていた古代の邪神、バズズ。別の名で呼ぶなら、アガックとカガックの娘の一人グガック。

 科学とともに邪神たちの力は失われていたはずでした、でも多元宇宙の結合で、悪霊の世界と、命と原子の世界の境界も薄くなったのです。

 この私も、食われています……生命である私が、ゆがんだあってはならない生命、生ける邪神としてすべての宇宙の滅びをもたらしてしまう……

 どうか、多元宇宙を守って』

 あとは人の言葉ではなく、聞くに堪えない絶叫となり、その美しかった姿は崩壊していく。

 ともに、巨大な美しい水の惑星は、ウルクと融合するように変化していく。地球より大きい莫大な水の塊が、アメーバのように不気味に変動していくのだ。

 巨大クラゲのように、無数の触手が吹き上がる。その先端部は100キロメートルを超える、ディンギル艦と不気味な土壌生物を融合させ、超巨大化させたような代物になっている。

 地球防衛軍艦隊は、半ば絶望しながらそれを見ていた。見るだけで発狂しそうな姿なのだ。

「戦え!」

 ヤマトが、率先して打ちかかる。

 怪物は何層ものニュートリノバリアをまとっている、波動砲は使えない。

 そして突然襲いかかる、50キロメートルはある氷の拳……光速に近い戦闘速度でそんなものがぶつかれば、どんなシールドも装甲も無意味だ。

「島」

「おうさ」

 島の絶妙な操縦が攻撃をぎりぎりでかわす。むしろこちらから当たりに行くように動いて、ミリ単位ですれちがっているのだ。

「戦い続けろ」

 主砲はまったく通用しない、相手が大きすぎる。

 だが、闘志だけで戦い続ける……どう見ても絶望であっても、ヤマトクルーに絶望はなく、それを見た地球防衛軍艦も戦い続ける。

 一隻、また一隻とかばい合い、爆発していく。ヤマトも第三艦橋が破壊されるほどの打撃を受ける。

「そうか」

「真田さん、なにかあるのか?」

 何かを思いついた表情の真田に、古代が必死で聞く。

「ああ、これだ」

 真田が手にしているのは、マイルズ・ヴォルコシガンたちにもらった神経破壊銃。そして画面に、あの呪わしい重核子爆弾の像も浮かべている。

「あの怪物は、超大型艦のサイズだがどれも、どうやら神経系のある生物のようだ。波動砲のエネルギーを、神経破壊銃と重核子爆弾の原理を利用して、敵の神経系を破壊する兵器にすれば、どんな巨大でも絶命するだろう」

「どれぐらい時間がかかる!」

「……五時間くれ」

「ああああっ!」

 あと十秒生き延びることすら無理そうな状況なのだ。

 あきらめはしない。

 だが、理性は詰んだと叫んでいる。

 ほぼ光速で迫る氷塊が直撃する……

 その瞬間、氷塊を何本もの強力な光槍が貫き、蒸発させる。

 無数の破片が、シールドにはじかれる。

 後方を振り返ると、艦隊の艦も次々と、極太の光槍の援護を受けている。

 何十隻かの艦の姿が一瞬浮かび、即座に消え失せる。

 ヤマトのすぐわきの射撃点に、1000メートルの巨大艦がワープアウトし、デスラー砲を発射し特大のミサイルを放ち、即座にかき消える。

 それが、何度も何度も繰り返される。

 敵はとらえることができない。

「あ……」

「無人ブイから通信。『三光年離れた青色巨星に向かえ』」

 報告に、ぶるっと震えた古代。

 島が素早くバーゲンホルムを入れる。

「全艦、あの青色巨星に向けてワープしろ!援軍が隙は作ってくれる」

 古代が味方に通信し、守り合いながら移動する。

 

 そこには、2100隻あまりの艦隊が待っていた。

 多くは〈トリスタン〉に似た、1000メートル級。100隻ほどはガルマン・ガミラス様式。見たことのない様式の、100メートル程度の小型艦も混じっている。

「古代」

「古代艦長!」

「進」「おじさま」

「デスラー!ワーレン提督、兄さん、サーシャ!」

 古代の笑顔に、白いバラを唇に寄せたデスラーが微笑する。

 アウグスト・ザムエル・ワーレンもぱっと表情を輝かせた。

 そして古代守とサーシャが苦笑気味に笑う。

「最前は失礼をした。ローエングラム帝国の救援もあり被害は最小限ですんだのだが、避難ついでに領内を巡回していたのだ」

 古代がデスラーを悼んでささげた花を、そっと胸にさす。優雅な動き、キザなしぐさがいやみにならない。

「イスカンダルから急使が入った。地球がやられたら次はラインハルト陛下のいるエスコバールが危ない。ガルマン・ガミラス救援任務はアイゼナッハ上級大将に任せてきた。

 艦数こそ少ないが、全艦バーゲンホルムとバラヤー式シールド、ガミラス式波動エンジンとデスラー砲装備の最新鋭艦だ」

 ワーレンがうれしそうに艦隊を見回す。

 そうしている間にも、画面の端でワーレン艦隊から十隻かき消え、別のところに十隻出現するのが、二秒に一度ほど繰り返されている。

「あれは……そうか、敵のそばまでバーゲンホルムで接近、デスラー砲を発射し、すぐさま別のエンジンでフォールドして離脱する、それを繰り返しているのか」

 真田の声にワーレンがうなずく。

「デスラー砲発射直後は時空が乱れ、多量の微粒子が散乱しており、ワープやバーゲンホルムに適していない。フォールドは別の次元を使うから問題ない。

 治療に出かける前にラインハルト陛下が思いつかれたことだ」

 ワーレンの表情は、主君の天才を誇り輝いていた。

「間断なくデスラー砲を撃たれ、しかも反撃してもそこにはいない、か。やられたら、どうしようもないな」

 相原が呆然と目を見張った。

「志郎、なにかいたずらは思いついてるだろう?」

 古代守が真田に微笑みかけた。

「ああ」

「なら、時間は稼いでくる」

 そう言って、守たちの少人数艦も消える。

「さてと、私も戦いに出かけよう」

 デスラー艦隊が素早くワープする。

「さて、新戦術を試しているのはいいが、やはり敵の質量が大きすぎるようだな」

 ワーレンが報告画面をちらりと見る。

「どうなんだ?」

 古代進の問いに、

「ほとんど効いている様子はない。この新鋭艦隊だけで、多元宇宙以前の十万艦隊でも圧勝できるんだが……」

 ラインハルト自らが選んだ上級大将の一人ワーレン、彼自身も最前線に突撃する勇猛さは諸将にひけをとるものではない。

 だが、あえてそれを抑えて遠くから全艦を指揮し、情報を集めて戦場全体を理解することに集中している。それまでとは比較にならない速度と通信密度、戦闘範囲での戦いのデータをとることを求められている。

 ローエングラム朝銀河帝国の明日のために、すべきことはわきまえている。

 

 二時間。

 真田たちは、波動砲の改造に必死で取り組んでいた。

 前線では、古代守とサーシャの艦が敵を翻弄し、ワーレン艦隊の艦が数十隻ずつ一瞬だけ出てきてデスラー砲をぶっ放して消え、デスラー艦隊が瞬間物質移送機を用いて猛攻をかけている。

 その中で、戦場にとどまって暴れているのは古代守とサーシャの艦だ。100メートル級の小型艦だが、イスカンダルに残っていた技術を大山がいじり倒した怪物だ。

 ずんぐりとした艦体のいたるところに戦艦のメインエンジン級スラスターが搭載され、コスモタイガーよりはるか上の機動性を発揮している。

「ワルキューレのような動きだな」と、データを見るワーレンがうめくほどだ。

 同時に強力な波動ミサイルの連射……いや、射撃ではない。爆弾倉を開いて押し出すだけ、あとは小型波動エンジンを搭載した超大型ミサイルが自力で小ワープし、敵の内部にワープアウトし重力ひずみごと自爆。波動エンジンの暴走自爆の威力は、範囲こそ狭いが収束波動砲に匹敵する。しかも波動砲と違い一切の準備も硬直もなく、艦本体の機動性を全く損なっていない。

 内部動力は補助程度。即時通信でイスカンダルに注文すれば、爆弾倉の受容力場にミサイルが出現する。エネルギーも、機関部に直結した受容力場に波動エネルギーを満たした蓄電池が出現する。弾切れなどない。慣性補正装置も桁外れに強力だ。

 サーシャが敵の攻撃はすべて読み、伝説的な腕を持つ守が操縦する。膨大な攻撃もすべて紙一重でかわせている。

 イスカンダルはもともと技術は高い、ひたすらさぼっていただけだ。

 その戦いは敵の注意の多くを惹きつけ、デスラーやワーレンに大きな余裕を与えていた。

 間断なく放たれるデスラー砲の嵐が、惑星サイズの魔水の塊を容赦なく切り刻んでいる。

 

 四時間。

 ワーレン艦隊、デスラー艦隊の消耗が激しくなる。

「あの敵は、近づいただけでクルーの精神がやられる。突然笑い転げたり泣きさけんだりするんだ。攻撃が一手遅れ気味だ」

 これ以上なく苦々しい表情だ。力と力なら喜んで戦う、だが精神を攻撃するのは卑怯だ……それは古代たちも共感できる。

「ところで、あの味方も知り合いか?」

 ワーレンがちらりと送った映像。

 ヤマト艦橋士官たちの表情が輝いた。

 多数の艦がごく短い滞在期間で得た情報を総合した画像だ。それでも遠く隠れた、ステルス性の高いその双胴艦の輪郭はぼやけていた。

「アカガネ。かつてともに戦った戦友だ」

 古代進が大喜びで告げる。

「あちらからはレンズマンが来てくれているようだな。精神崩壊を起こしたクルーを何度も助けてくれた」

 通信記録にはトレゴンシーの、人間とは異質すぎる姿。どっしりしたドラム缶から無数の触手が生えている、その中心に輝くレンズ。

 目はない、だが半径二百光年球内の砂粒以上の物体はすべて知覚されている。

 その触手の中に人間の、一歳の誕生日を迎えたばかりの幼児が抱えられていた。本当は全艦隊を発狂させるだけの力を抑えこみ、多少の不快感、ほんの数十人に発作を起こさせる程度にとどめているのはその子だ。そしてそのことを第二段階レンズマンにさえ意識させないほどの熟練を、その幼さで持っている。

 

 四時間半。

「よし、できた!テストの暇はない、ぶっつけで行くぞ!」

 真田の、憔悴しつつ輝く表情を見れば、どんな恐ろしいものができたのかは一目瞭然。

「総員、対神経破壊銃ネット着用!」

 万一漏れがあったら……波動砲の出力で増幅された死に、気休めでしかないのは百も承知だ。

「自由状態に移行」

 島もバーゲンホルムの扱いにすっかり慣れた。

「前方シールド最大」

「波動エンジン120パーセント!」

「全速前進!」

 ただでさえ宇宙最速を誇るヤマトがバーゲンホルムの翼を与えられたのだ。

 1メートルの立方体に原子一つあれば多い星間物質、それが大量に積もって核融合が起きる勢いで前面シールドで押しつぶし、押し渡る。一瞬で戦場の真っただ中に、赤と黒の雄姿が有慣性化する。

「神経破壊波動砲、発射十秒前」

「波長転換装置、オン!」

 そのヤマトを素早く襲う超巨大な氷の触手を、はるか遠くから正確な艦砲射撃が射抜く。一秒間に五発以上、どれもが正確無比の狙撃で。

 別の方向から襲う、ミサイルのような多数の水の塊。

 左手側では黒い稲妻が順番に打ち抜き霧散させる。右手側では緑の曲線を描く帯が八本ずつ、正確に貫通し消滅させる。

 長い10秒、白い稲妻が至近距離から、ゆがんだ生命に支配された水惑星を包む。

 内部の、高等生命の神経系がすべて焼き切れる。

「よく止めてくれた、ヤマトはそのまま加速せよ」

 デスラーの指示を信じて動かぬ水の塊に加速するヤマト、そこに数十本のデスラー砲が機関銃のように突き刺さり、ヤマトがちょうど通れるだけの穴をあける。

 穴の形の悪いところは、古代守艦とアカガネの狙撃機関砲が正確に加工する。

「離脱、バーゲンホルム」

 島の声とともにヤマトが遠く離れる。

 ワーレンの声とともに、全艦が同時に、凹面鏡の形に出現する。

「ファイエル!」

 叫びとともに、二千本のデスラー砲が正確に、一点に集中して着弾する。

 ヤン・ウェンリーお得意の集中射撃、それを新装備で再現するために厳しい訓練を積んできたのだ。

 発射後、即座に別のエンジンを用いて離脱し、再編する。ヤマトの僚艦が波動砲斉射を小ワープでかわされ、ハイパー放射ミサイルを食らったようなことはしない……残心こそ武の神髄である。

 すさまじい熱で水が蒸発し、時空が引き裂かれる。食われた生命と死の星霊と、超時空の悪霊のもらす悲鳴が時空にまきちらされる。

 その声だけで、そのままでは艦隊すべて人は発狂していただろう……だがトレゴンシーの腕の中の幼児が、服の中に腕を隠すとレンズを輝かせ、その力が邪悪な思考波を弱める。

 圧倒的な火力で露出した……何か。

 それを形容できる人間などいない、いや見た瞬間発狂するに決まっている。全員の目や知覚力が、第三段階レンズの力で閉じられているのだ。

 そこに竜機人の姿が出現した。

 美しい大型MSが、巨大な黄金竜が変形した鎧をまとってさらに大型化し、50メートルにも及ぶ漆黒の巨剣を手にしている。

 その剣が、静かに振るわれると、無限を超えた闇の生命が剣に吸いつくされていき、一層激しい悲鳴が響き渡る。

「逃げて、全艦ワープ!」

 サーシャの絶叫に、迷う者はなかった。

 別の時空にもぐりこむことで、まるで核攻撃を水に潜ってしのぐように、グガックの断末魔から逃れる。

 本来、万単位の艦が同時にランダムワープなどしでかしたら全滅がオチだが、すべてのワープは正確に計画通りだった……デスラーとワーレンが先を読んで緊急時のワープ先を事前に入力していた、と全員の記憶とコンピュータ記録が書き換えられていた。

 犯人はもちろん、一歳の女の子である。

 

「助かった」

 古代進が激しく息をつく。

「全艦……無事か」

 ワーレンが急いで、艦隊各艦からの生存報告FTLを数える。

 デスラーは静かに、油断なく虚空をにらんでいる。

「終わったのか?」

 サーシャが父親にうなずき、そして画面内のトレゴンシーに微笑みかける。

 リゲル人第二段階レンズマンの腕の中で、幼子が笑いながらトレゴンシーと、とんでもない思考通信をかわす。

「デスラー総統、ワーレン上級大将、そしてヤマト、古代守。戦いは終わった。アカガネは事情があり別の時空での戦いのために去った。

 共に戦えてうれしい、と伝言をもらっている」

 トレゴンシーの言葉で、やっと戦いぬき、精神を痛めつけられた将兵は息をつく。

「デスラー総統ばんざーい!」

「ジーク・カイザー!」

 少しずつ上がる声が、どんどん広がって絶叫となる。

 

 

 戦いは終わった。

 デスラー艦隊とワーレン艦隊は、ガルマン・ガミラス国民を避難させる仕事に戻る。

 その前に、ディンギル帝国の残骸から技術はしっかりもらっていった。

 戦友の危機には助け合う、手に入れた技術は山分け。ロウソクの火を別のロウソクに移しても火は減らない……

 一人の幼女の名をとってコーデリア盟約と呼ばれる条約だ。

 惑星ごと動かすワープ、ハイパー放射ミサイル、反応の早いワープなど得たものは多い。

 そして奇妙な……生命と機械の両面を持ち、精神すら破壊する魔物についても様々な情報を得た。

 多元宇宙にあるのは、幾多の文明だけではない。人間には想像もできぬ魔も存在しているのだ。

 そして、その中で戦う〈永遠の戦士〉たちもいる。精神の戦いではすさまじい強さを誇る第二段階、そして第三段階レンズマンも……

 今はただ、戦いの余韻に呆然としつつ傷をいやし、勝利を喜び誇るのみ。

 

 そしてディンギル帝国唯一の生き残り、ルガール少年は古代守に引き取られることになり、イスカンダルに向かった。

 一応王族である彼の血液は、ディンギル帝国の残骸から技術や文化を絞り出す鍵となった。引き換えにどこの時空に来ても十分な富や教育を与える、と名誉にかけた誓約をもらっている。

「いつかは〔UPW〕やフェザーンにも留学に行くかもしれないわね」

「おい、お前が行きたいのか」

「さあ、ね。その時は送っていってね、おじさま」

 雪の目の前でサーシャが古代進に妖しい視線を送り、進は守と雪に殺意すらこめてにらまれ、仲直りにえらい苦労をすることになる……

 

 




今回は完結編を片づけました。…スターシヤ・守・サーシャは、途中までは原作通り殺すと書いていましたが、「書いてて楽しくなければ」と思ったのでゲーム版準拠全員生存でいきます。どうかお許しを。
また、ヤマト3と完結編の時間間隔とかは完全無視で。

宇宙戦艦ヤマト
銀河英雄伝説
(逆襲のシャアなど)

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