第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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ワームホール・ネクサス/時空の結合より2年2カ月

 ついに病癒えたラインハルトは、迎えに来たワーレン艦隊と合流し、故郷に向かうことになった。ゲートを通って地球へ、そしてガルマン・ガミラスから故郷へ。

 ワーレン艦隊が迎えに来ている。

 千隻のキロメートル級戦艦に、エスコバールの人々は度肝を抜かれた。

 健康を取り戻した主君に、ワーレンたちは感泣し「ジーク・カイザー」を叫んだ。

 すぐにワーレンの号令でデスラー、ヤマト、エスコバールにも感謝の声を上げた。

 

 快癒と出発は、別れも意味していた。

「卿は」

 エスコバールの港で、ラインハルトはじっと、入院中そばにいてくれた夫婦を見つめた。

 ヤン・ウェンリーとフレデリカ・グリーンヒル・ヤンは深く頭を下げた。

「私たちは、故郷の時空には戻りません」

 わかっていたことだった。

 同盟にとどめをさしたヤンは、同盟方面には帰れない。帝国に仕えれば地位は思いのままだが、むさぼる気はない。望むのは、引退と平穏だけである。

「ゆっくりと、いくつもの並行時空を巡って歴史を学びます」

 というヤンに、皇帝は柔らかな笑みを向けた。

 友、の言葉はただ一人のみ。だが、この夫婦は入院中、家族同然に尽くしてくれた。

「書物ができたら送ってくれ。きっと、予の統治にも役だとう」

「喜んで。……故郷を、多元宇宙すべてのラマンを、頼みます」

 あっさりとした別れだった。

 

 主君を迎え入れたワーレン艦隊は、ディンギルとの戦いで打撃を受けた地球を横目に見、古代進と再会し外交日程をこなした。

 そしてガルマン・ガミラス帝国の新しい首都、新ガミラスを訪れた。天然の居住可能惑星こそないが、巨大惑星の衛星や小惑星帯が多く、使いやすい資源に恵まれた星系である。そこに巨大艦が集まって都をなしている。

 500キロメートル級の小惑星を自動工廠が貪欲に食っている。6日に一隻の割で4000メートル級の艦が完成している。半年後には、〈白き月〉に匹敵する規模の、宮殿・工場・要塞を兼ねた超巨大船ができる予定だ。

 そこでラインハルトたちはデスラーとも会談した。

「そのままで住める、海と森があるような惑星にこだわることは、惑星破壊ミサイルがあり、自動工場の技術を得たわれらにとっては無益だ。

 ワープ可能な惑星破壊ミサイルの脅威に常におびえ、守りの姿勢で心を固く臆病にするだけではないか。今は、居住できぬ星々の資源を巨大要塞にすることは容易なのだ。

 ガトランティスの利を思うべきだ。

 あのように、征服した地を荒廃させて次を求めることはしないが、分散していることでたとえ災害にあっても、生き残りがガミラス民族の栄光を取り戻すことができる。戦いでも戦力集中がしやすく、戦場を選べる強みがある」

 デスラーの言葉を、ラインハルトは静かに聞いた。

 同じく覇王であり、実に気が合う。美意識の高さも共通している。

「卿が敵であれば楽しかったろう」

 は、どちらもいつも思うことであった。

 ラインハルトの天才は、ガトランティス帝国の優位も即座に理解した。ハリ・セルダンが死後はるか後にベル・リオーズを斃し、エンダーがパルパティーン帝国を苦しめている『強い将軍と強い皇帝』の、有効な対抗策でもあるのだ。

「ズォーダー大帝のことは、今も尊敬している。漢(おとこ)だった」

「ぜひ、お手合わせを願いたかった」

 ラインハルトは十分にその事績を学んだうえで、楽しげに美しい笑みを浮かべていた。

 

 

 ヤン・ウェンリーは、エレーナ夫婦を連れてブラマンシュ家の船が、〈ワームホール・ネクサス〉から〔UPW〕に至った道に行くことにした。

 とても遠く、時間のかかる道だ。

 だが今、短い道である五丈から智が支配する夷を経てコマールに至る道は、正宗がふさいでいるのだ。

 さらにワーレンは、旅立つヤンのためにといろいろと持ってきた。無論ラインハルトの命令がある。

 ユリシーズ号が、バーゲンホルムを含む最新技術で改良されて与えられた。

「虎を野に放つのなら、身ひとつでも三個艦隊をつけても危険は変わらぬ。信じるか、信じぬかだ。予は彼を信じる。先も、信じたとおりにやってくれたのだ」

 ラインハルトの言である。

 その乗員たち、もちろん忠実な不正規隊(イレギュラーズ)の最精鋭もおまけ。

 中でも元薔薇の騎士(ローゼンリッター)のカスパー・リンツは、ジェダイの修業をやりとげている。

 ローエングラム帝国に敵対しないと誓約した自由傭兵、という扱いだ。報酬に不自由はない。故郷の、帝国・フェザーン・同盟すべてのデジタル文化資源と支障のない程度の技術が、そのままとてつもない金額の貨幣となっている。ラインハルトの治療はバラヤー持ちなので、大使館や商館が必要とする分を除いた相当部分はヤン夫妻に渡されている。

 それだけでなく、同じバラヤー関係者で難病患者であるデンダリィ隊のタウラ軍曹も、コーデリア・ヴォルコシガンの依頼もありヤンのボディーガードに加わることになった。

 

 ヤンはまず、バラヤーに向かうことにした。

 礼儀上はラインハルトが挨拶に行くべきという意見もあった。だがバラヤーの側も、例えばローワン姉妹がジャクソン統一星から救出された事件にマイルズが関係していること自体、機密だったりする。

 ラインハルトの滞在自体が秘密でもあり、動けばそれだけ秘密は漏れる。

 何度か、ラインハルトとグレゴール皇帝らとの間で、即時通信を通じた会談は行われているので今回はそれで十分、となった。同時に、いつか皆が集まり首脳会議(サミット)を、という話も出た。

 グレゴールは映像ながらラインハルトの美貌と迫力に感銘を受け、ラインハルトもグレゴールの、若くもの静かだが平静な威厳を認めた。

 

 エスコバールからバラヤーへの旅は、従来のワームホールを用いる技術ではかなり長くかかる。だが、バーゲンホルムやガミラス式波動エンジンを備えたユリシーズ号改にとっては、ゆっくり行っても四日だった。

 バラヤーでは、秘密裏だがグレゴール皇帝夫妻自らが出迎えてくれた。

 そこで、何よりもヤン一行を驚かせたのは、バラヤーも別の経路からゼントラーディ人とかかわりを持ったことである。それはバラヤーでもかなりホットなニュースだった。

 その話を聞いたヤンは、人目もはばからず泣きじゃくった。戦死者たちのことを思って。

 もちろん、バラヤーがゼントラーディ人に出会ったのはラインハルトたちがゼントラーディ軍と戦った、それよりかなり後のことだ。戦争中はバラヤーとローエングラム帝国の国交を考えたりする余裕などなかった。

 もちろん、メガロード01についてきていたゼントラーディ人も驚き、連絡を強く望んだ。

 そのためにも、エスコバールとバラヤー、またバラヤー・コマール・セルギアール三星の、バーゲンホルムに適した星間物質が少ない航路、ワープやクロノドライブに適した重力場が安定した場、そして即時通信網の増強が強く望まれた。

 ヤンはそのような外交・商売関係には無関心なので、有能な副官であるフレデリカが頑張ることになる。

 彼女の外交官としての手腕だけでも、ヤンたちがもらった金には充分値するとラインハルトが評したほどだ。

 

「マイルズの手紙は読みました。お目にかかれて光栄です」

 グレゴール皇帝はヤンの事績を知って会う人が常に見せる、

(ギャップに驚く……)

 表情を、みごとに抑制している。

 そして、まっすぐな目と暖かな手にも圧倒された。ラインハルトやデスラーとは質が違うが、威厳は確かだ。

(こういう支配者もあるのだな)

 と、ヤンは目を開かれる思いだった。

(このひとも世襲の皇帝のはず。それでこれほどの専制君主ができるなら、君主制にも可能性があるのではないか?自論を疑う姿勢がなければ狂う。この方の教育は、ラインハルト陛下の後継者を育てるのに、参考になるのでは?誰が教育したんだ?)

「マイルズ閣下のおかげで、わが故郷の何千億人もが助かりました。ラインハルト陛下の治療に協力していただき、ありがとうございました」

 そう返すヤンの、威厳も何もない雰囲気に、フレデリカは少し心配にすらなる。だが、グレゴールの目を見れば彼女もわかった。皇帝は見ためにごまかされてはいない。

「こちらも、あなたの故郷の皆さんには大きな借りがあります。ジェセック一家は、われらバラヤー帝室にとっても家族同然なのです。バラヤー帝国の、すべての支援と最大の友情を誓います」

 お互い穏やかに、最高級の紅茶を楽しむ。

(好みまで調べてくれていた、部下たちも有能なんだ)

 そして皇帝夫婦に別れを告げ、イワン・ヴォルパトリル大尉の案内で大学の歴史学科を訪れバラヤーの歴史を学ぶことができた。

(やはりバラヤー史にも暴君はいる。世襲の専制は、どうにも質が安定しない。といっても民主政治も絶対ではないか……グレゴール帝は、幸運な偶然というべきか?)

 フレデリカはレディ・アリス・ヴォルパトリルの案内で服選びを楽しみ、ヴォル・レディたちと深いつながりを作る……それがのちにどれほど役に立ったことか。

 宇宙の男どもはバーゲンホルムの超速を活かし、ベータ植民惑星の快楽を楽しむ者もある。

 

 バラヤー滞在を終えたヤンは、紹介状を手に地球の、ブラジルに向けて旅立つことにした。

 そこに、マイルズのかつての恩師というべきカイ・タング准将が引退している。

「地球、というのがウソのようだ」

 ユリアンの報告、ヤン自身が学んだ歴史にあった、破壊と搾取に荒れ果てた惑星とは違う。

 多少の温暖化被害などはあるが、豊かな星だった。

 中でも、アマゾンの大森林には圧倒された。

 地球の人々も、ある程度超光速船に慣れ社会の変化も始まりつつある。だが、地球の大人口と盛んな産業は、巨大船のように鈍さにもなる。

 ブラジリアのホテル。美しい石のヴォールトに、柔らかなソファが点在している。ヤンは存分に素晴らしい紅茶を堪能していた。

 とんでもない身長と不思議な美しさで目立ちまくっていたタウラが、突然すさまじい速度で飛び出し、ずんぐりした男を激しく抱きしめる。

「べっぴんさん!アナコンダより痛いぞ、この」

 娘に再会したような、うれしそうな悲鳴が上がる。

「まだ生きてたとはなあ、タウラ軍曹。もうとっくに死んだと思ってたよ。いい服を選んだな、昔のピンクとは違って似合ってる。何度も言おうと思ったんだが、頭をつかまれて背骨ぐるみ引っこ抜かれたくなかったからな!」

「准将こそ、潰れるかと思うほどの力でしたよ。服は、レディ・ヴォルパトリルのおかげです、バラヤーの。これこそ最高の武器だって」

 タウラがもう一度、男がつぶれそうなぐらいに抱きしめて横に動く。

「まったくとんでもない武器だよ! ヤン・ウェンリー元帥ですな。カイ・タングだ」

 濃く日焼けした初老の男だった。ものすごい力の握手。どう見ても現役軍人の体格だ。

 マイルズが見れば、現役時代よりさらにたくましくなっていると驚くだろう。

「ヤンです。妻のフレデリカ。ネイスミス提督……ですよね、あなたにとっては?彼の紹介でうかがいました」

 真相を知っていたタングが、にやりと微笑んだ。

「メールは読んだよ。しかし、ワームホール時代の、船が最速だった時代を思えば驚きに口もきけないな。一千万隻の敵艦というもの、ぜひこの目で見てみたいもんだ」

「それと戦う立場になれば、あまり見たくない光景ですよ?」

(正直、思い出したくもない)

 引退した傭兵は、大いに笑った。

 

 やや本通りから外れた、地元民ならではのレストランでスパイスの強い内臓・脂身・豆の料理をむさぼり、チリワインに舌鼓を打ちつつ、話は弾んだ。

 タングたちはもちろん、あちこちの時空の話をしたがった。

 ヤンも、聞きたいことは山ほどあった。

「こちら、〈ワームホール・ネクサス〉の地球の近くにも、別の時空につながるゲートが開いたそうですね」

「ああ。地球の人々は二年前に太陽系に出現したゲートを慎重に観測していた。

 こちらから有人船が入るより先に、あっちから使者の船が訪れ、超光速航法に驚かされもした。

 その時は技術が違いすぎる、一方的に征服されるんじゃ、とおびえていた。おれまで徴兵されるところだった、少将として死ね、ってことさ!」

 タングは強く息を吐き、笑った。

「本格的な交渉ができるようになったのは、バラヤー帝国が≪向こう側≫のひとつと同盟して、安く超光速船を借りられるようになってからだ。

 エスコバールにつながったヤマトの地球はケチだし、船も少ない。この地球とつながった地球……ああ、ややこしいからここらのみんなは、DEって呼んでる。デビルーク・アースだ」

 フレデリカはバラヤーから得た情報を思い出してみる。

 その地球、DEはローエングラム帝国や〈ワームホール・ネクサス〉と同じ地形であり、その太陽に所属するほかの惑星も同じ。経験上、その場合は西暦1970年まで同じ歴史を共有している。

 だが、奇妙な情報もあった。

 かなり先進的な超光速艦船が行きかっている。その中には、ゲートを越えて通商を求めてきた船もある。

 それなのに、地球は開発がまったく進んでいない。地球表面を観測したら、生活水準は21世紀初頭程度。

「DEの時空は、銀河大戦が続いていたって話だ。それが最近、ギド・ルシオン・デビルークという英雄王によって統一されたそうだ。まあそう言ってるだけで、信じる理由はないがね。あっちに行って帰ってきた人もまだまだ少ない。

 DEは、長らく異星人との交流がなく独立して発展してきた。異星人は一応訪れているが、まだ公式かどうかは曖昧な状態だそうだ。こっちの人間ももちろん立入禁止。どんな病気が残ってるかもわからないしなあ。

 で、面白い情報があるんだ」

 情報こそ、命や武器より大事な傭兵の通貨である。

「なんでしょう?」

「そのデビルーク王の娘が三人、DEに留学してるって話も聞いた。それでDE周辺に、妙に船が多い。

 あと、これは別のうわさだが……」

 フレデリカがタイミングよく、バラヤーで手に入れたヴォルコシガン領名物、高度数のメープル酒と、それを利用した虫バター菓子を取り出す。

「お、わかってるなあ美人の奥さん! そのデビルーク帝国の首都近くの星から、さらに別の銀河につながって、そこからうわさの〔UPW〕に達するらしい」

 そういって、なぜかタウラの目をじっと見つめる。彼女は察してうなずいた。

「言っても大丈夫か?」

 タウラが微笑する。

「はい。解決しました」

 深いため息とともに、タングの表情がふーっとゆるむ。

「ああ……よかった。よかった。そう、デンダリィ隊の仲間だったジェセック夫妻が、〔UPW〕から来た船とともにそのルートに向かったんだ。絶対知らんぷりしろ、と暗号が来たからそうしたが、心配していたんだ」

「ひどい話でした。お子さんが誘拐されたのです……クアディー宇宙、というところで」

「ああ、あれか。ひっでえ事件らしいな」

 タングが不快そうに吐き捨てる。

「解決したならいい。で、ネイスミス提督閣下は……」

「それはもう、獅子奮迅だったそうです」

「目に浮かぶよ! あいつ、エレーナにものすごく惚れてて、いろいろあってバズに奪われてすっごい苦しんでたからなあ」

 笑っている男の目が、突然戦場の殺気のこもった目となる。

「……助けたかった、どんなことをしても」

 人のものとは思われぬ声。筋金入りの軍人でなければ、ヤンもフレデリカも失禁ものだった。

「無事ならよかった。ジェセック夫妻とコーデリアちゃんは?」

「〔UPW〕に就職しました」

〔UPW〕のジェダイアカデミーから来たばかりのリンツが答える。

 ふ、とタングの雰囲気が戻る。

「そりゃあよかった。さてと、少し話の続きをしますかね、と。

 地球、バラヤー帝国、エスコバール。三つの星から、非ワームホール超光速技術が手に入った。どうする?」

 沈黙に、ヤンは静かに食べ続けつつうなずく。もうそのことは、何カ月も前から考えている。

「まず、こっちの事情を説明しておこう。

 うちの時空……って言い方も慣れないな……では、ワームホールを用いる超光速航法しかなかった。それは、一度に一隻しか通過できない。無論出現場所も明白だ。それが防御の異常進化と巨大艦を産んだ。

 だが、前提が変わった。

 それまでは、二百隻の艦がある星と、五隻の艦しかない星はある程度互角だった。出口を三隻で押さえて出るそばからつぶせば負けなかった。戸口を歩兵三人で守れば、百人でも千人でも同じことさ」

 軍事の話はヤンもフレデリカも、見た目とは違い知能の高いタウラも、夢中で聞いている。

「だが、非ワームホール超光速技術ができれば、多数の艦をそのままぶつけることが可能になる。実力がそのまま出てしまう。

 特に、超光速で動く多数の艦を手に入れたと言っていいバラヤーには、三つ選択肢があった。

 一つは、技術を盗まれるより前に、多数の超光速艦ですべての星国を制圧すること。

 だがグレゴール皇帝は、それを選ばなかった。なぜだと思う?」

「食べきれないから」

 シヴァ女皇に、食べきれない量の肉にかぶりつこうとしている子供の画像を送って忠告したヤン本人にはすぐわかった。自らフォークで七面鳥のローストを丸ごと刺し、かぶりつこうとしてみせる。

「そうだ。『いくらかかる?』『統治に必要な費用は、君が出してくれるか?』とおっしゃられたもうた、って話さ。セタガンダ帝国一つを征服し支配するのに、バラヤー帝国予算の何十倍もの金額がかかるのはここから計算してもわかる。

 脳が沸いてるバラヤーヴォルにそんな計算ができるとは思えんがね!」

 この〈ワームホール・ネクサス〉では、ワームホールの消失で長く孤立し、剣と馬の封建時代に逆行していたバラヤー人は、まあ蛮族扱いされている。

「はい」

「それに、もしバラヤーが時空全体を統べる侵略的帝国になりそうになれば、ヤマトの地球に告げる。その場合にはヤマトの地球は、エスコバールなどに波動エンジン技術を渡す……って、エスコバールから通告されたそうだ。

 ここの地球も、同様のはったりをかました。デビルーク王がそんな親切にしてくれるかは、おれみたいな下々にはわからない話だがな。それにあっちの戦力は知らないし」

「ヤマトだけは絶対に、どんなことがあっても敵にしてはいけません。ガルマン・ガミラス帝国もです」

 ヤンが真剣に言う。トールハンマー以上の破壊の雷剣を、何度も目の当たりにしたのだ。さらに、ガルマン・ガミラス帝国主導だが、超新星爆発兵器……その圧倒的な破壊も、戦場で肌で感じてしまった。

(同盟の、アムリッツァ以前の全軍でも勝てる気がしない……)

 のが、正直なところだ。

「占領し、統治するのがどれほど大変で……無限に金と資源と人材を浪費する愚行か、知っています」

 フレデリカが、硬い表情で話した。

 同盟にとっての致命傷、アムリッツァに終わった帝国侵攻……後方勤務だからこそ、その書類と資源の流れは悪夢のように覚えている。

 ヤンも、歯を食いしばっていた。

「やったことがあるのか?」

「はい」

 タングはそれ以上聞かず、とっておきのラム酒を注文した。

 しばらく酒を楽しむ。老兵のやさしさに、タイプは違うがビュコックを思い出し、酔いも手伝って泣きそうになった。

「さてと。次の選択肢……自分たち以外皆殺し。敵が生じるリスクはなく、占領政策の金もかからない。

 智の正宗が平然と言い出し、否定されて笑ったって噂を聞いた」

 ヤンたちもバラヤーで聞いた話だ。バラヤー首脳を試したのか、それとも本気だったのかは、誰も確かめようとしなかった。セタガンダに家族を殺された老人など結構賛成者はいたが、逆に危険人物をあぶりだす結果になったそうだ。

 ヤン自身も、正宗を一目だが見ている。

(必要ならやる強さはあった。だが、虐殺の楽しみに溺れるばかでもない。恐ろしい女だった)

「ま、そんなことをしたらヤマト地球とデビルークが敵に回るだろ。次はわが身だからな。

 最後の選択肢……技術を全部まとめて、すべての国に売ってしまう。バラヤーのグレゴール皇帝は、それをやらかしたそうだ! さすがマイルズ坊やの、いとこでご主人さ。アラール・ヴォルコシガン閣下が赤ん坊から育てたという皇帝陛下だ! グレゴール・ヴォルバーラ帝とバラヤー帝国、アラール・ヴォルコシガン国主総督に乾杯!」

 アラールの大ファンであるタングは上機嫌である。

「どうせ盗まれる。なら、今売ればカネになる。そのカネで、より多くの星を開拓できる……聞いています」

 それに加え、各星国と折衝し、要するに

〈開拓に力を入れる。他国を征服しようとしたら、みんなで寄ってたかって潰す〉

 という条約を結んだ、とも。

「先にそれをやられて、ここの地球政府もエスコバールもパニックだ! せっかく先に超光速文明と接触した優位が、一発で、パア。あはは、やったもん勝ちだったんだな」

 タングが大笑いし、突然憧れの表情になる。

「それというのも、智と強い同盟を作り、超光速技術をちゃんと手に入れていたからだ。地球もエスコバールも、船を借りるだけだった。それもアラール・ヴォルコシガン将軍がみごとに勝利し、寛容にも固い同盟を結んだからだ!」

「ですが、そんな条約が実際に効力を持つのは大変でしょう」

 フレデリカの言葉に、タングは誇らしげに笑った。

「おれが前にいたデンダリィ傭兵艦隊が、どこかからとんでもない技術を手に入れたんだ。

 妙な動きをする星国があれば、ばかでかい艦がワームホールもない虚空に出現、迎撃艦隊をあざ笑うように超光速……たまったもんじゃないさ」

 ゼントラーディ戦直後、マイルズは得た立場を最大限に使い、自由惑星同盟の半壊艦大小三隻をせしめ、故郷……デンダリィ隊のエリ・クインに贈ったのだ。

 押し切られたのは摂政だったヤンなのだ、苦笑するしかない。

 

 

 タングやバラヤー帝国がくれた情報のおかげで、これからの旅の見通しも立った。

 デビルーク銀河帝国を横断し、首都星近くにある別の時空ゲートから、東銀河連邦の首都〈星京(ほしのみやこ)〉へ。

〈星京〉からはるばる辺境の〈星涯(ほしのはて)〉の、そのまた辺境にできた〈ABSOLUTE〉のクロノゲートに至る。

〈星京〉を中心とした銀河は争いが続いており、いくつもの星国がそれぞれに無茶な要求をしてくるので通るのが大変で、時間もかかるそうだ。

 

 以前、マイルズがそちらのルートを選ばなかったのは、まだそのルートで〔UPW〕に行けると知らなかったからだ。

 また、(ワームホール・ネクサスの)地球方面にはあまり行きたくなかった。タングには会いたかったが、敵が多すぎる方面なのだ。

 

 ヤンたちの近くの店で、〈星涯〉の名に惹かれ、そちらに向かう準備をしている人たちもいた。

 ほしのはて……スターズ・エンド。〈ファウンデーション〉創立者、ハリ・セルダンが言ったという、第二ファウンデーションのありか。

 もちろん、セルダンが多元宇宙のことを知るはずはない。藁をつかむような連想だが……




銀河英雄伝説
ヴォルコシガン・サガ
宇宙戦艦ヤマト
ToLOVEる ダークネス
銀河乞食軍団

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