第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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ファウンデーション/時空の結合より半年

 ある時空の銀河帝国が、まだ強大で豊かだった時代。一人の学者……ハリ・セルダンが帝国の衰退に気づいた。

 心理歴史学。たとえるならば、気体原子運動論……一つ一つの原子の動きは予想できなくても、億・兆よりもさらに上の数字の原子の集まり、全体の挙動は容易に計算できる。

 同じように、とてつもない数の人間が集まれば、その挙動は数学的に予測でき、そして操ることができる。

 計算結果。『銀河帝国の衰退と滅亡は止められない』しかし、『三万年の無政府状態を、一千年にすることは可能』

 セルダンにできる最善のことは、後者の予想を実現することだった。彼は学者仲間たちとともに、帝国の腐敗した裁判制度を利用して追放の身となり、間もなく死んだ。……最果ての資源の乏しい惑星ターミナスに、銀河百科事典を作る『財団(ファウンデーション)』が遺された。

 それから数十年、セルダンは死に、銀河帝国が力を失って近隣の豪族にターミナスも狙われた。

 そのとき〈セルダン・プラン〉が発動した。一見詰んで見える状況……技術しかない、軍事力のない少数の国。沈滞した社会。だが、進取の気性を持つ一個人が、ただ一つしかない解決策を選び押し通すことで見事に逆転し、独立を維持し社会を変革した。

 原子力技術を用いた、勢力の均衡で。それは危機のたびに繰り返された……技術の飾りのはずだった宗教。貿易。

 そうして、ファウンデーションはいつしか強国となっていた。だが、ファウンデーションは突然、セルダンにも予測不能と思われる、ミュールという突然変異(ミュータント)の個人によってなぎ倒された。

 

 さらに、セルダンも予測できなかった要因はもう一つ加わる。

 多元宇宙がつながり、この銀河そのものと、いくつもの別の宇宙の帝国が出会ってしまったのだ……

 崩壊したプランを再修正するには、心理歴史学が必要だ。

 心理歴史学の知識を持つのは、今や『銀河の反対側』に隠れ潜み、ミュールの激しい追及を逃れている、第二ファウンデーションのみである。

 その複雑な数式には、多くの定数が代入され、それが新しい数学を切り開く。

 支配されたファウンデーションの力強い人たち。ミュールの手を逃れ、今もファウンデーションの理想のために戦う人たち。

 多元宇宙の幾多の帝王たち、そしてその臣民も、同じく拡張された数式に代入される数値にすぎない。

 

 

 かつて快楽の観光惑星だった星に、〈世界連邦〉の君主がいた。

 その顔を知る人自体ごく少ない。親衛隊もいない。大衆の前でのパレードや儀式をせず、肖像や似顔絵も許さない。さらに異様なのは、彼には家族がなく、ハーレムも作っていないことだ。

〈第一市民〉という、飾り気のない肩書。ミュール(ラバ)という、奇妙な名。

 外見は痩せこけた、異様に長い鼻の男。人類世界の第二法則、「指導者はアルファオス、すなわち平均より身長が大きく体力に優れる」を裏切っている。

 ただしこの第二法則は歴史上何度も裏切られてはいる……ナポレオン・ボナパルトやアドルフ・ヒトラーの名を挙げるまでもあるまい。ミュールがこの地位にあるのは、その二人ともまったく違うものだ。

 その眼には、銀河の十分の一を支配してもなお満ちることのない悲哀がたたえられていた。だが、それを知り憐れむ者は、この時空に一人しかいない。その一人とは永遠に会うこともない……彼女は人しての共感と友情よりも、夫と〈セルダン・プラン〉を、ミュールを憎むことを選んだのだ。

 ミュールの統治は非情にして有能。支配下の奴隷たちがフォアグラ用ガチョウのように喉に押しこまれたもの……秩序と平和。衣食住。峻厳だが公正な法の支配、治安。医療と教育……特にファウンデーションが独占していた原子力技術の公開。実力主義の人材登用。安定とチャンス、経済成長……仕事と賃金。封建と戦乱の悲惨、支配者の気まぐれと残酷よりずっといい暮らし。愛国の誇りと魂の自由以外、すべて。

 最大多数が、ミュール以前よりいい世界にいるのは間違いない。特に、腐敗と圧制のきわみにあったファウンデーションの民こそミュールに感謝すべきだ。理性的には。

 

 ファウンデーションを落とした男、第一市民ミュールがまず最優先で調べているのは、第二ファウンデーションの位置である。そのために帝国の拡張すら止めているほどだ。

 そして、最近報告された別宇宙の艦隊についての情報。

「どこに門があり、どんな手段でやってくるのか。向こう側に何があるのか」

 そう、その強力な超能力で転向させられた、何十人もの有能な人が……そして切り札として、転向させられていない人たちが送り出された。

 銀河のすべてを、そしてあらゆる並行時空のすべての星を支配するために。敵を知るために。

 

 まず使者を送ってきたのは、いくつもの「別の宇宙」の一つ、〔UPW〕を名乗る組織だった。

 強力な戦力を持ち、二つの時空を支配し、人がいない多数の時空の門も握っている。だが自分からは攻撃せず、まず交渉を求め、〔UPW〕への加入を求めてくる。

「多くの戦争で鍛えられた精鋭です」

「根本的には貴族主義ですが、トランスバール皇国の若い女皇シヴァが開明的で、急速に民主化と実力主義による人材登用が進んでいます」

「紋章機と呼ばれる少数の大型戦闘機が、桁外れの戦力を持っているようです」

「ゲートキーパーと呼ばれる、一人の能力者が並行時空への出入りを支配しているようです」

「〔UPW〕長官のタクト・マイヤーズはゲートキーパーの夫だということです」

「別の時空の帝国に、トランスバール皇国が攻撃されているそうです」

 それら情報がミュールの手元に集まる。

 

 ついで、警告もなく攻撃してきた艦隊があった。

 皇帝パルパティーンが派遣した、超巨大戦艦スター・デストロイヤー。

 帝虎級を前面に立て、破壊と殺戮の限りを尽くす練。

 すべての他者を敵としか見ないコロニー連合。

 

 竜我雷率いる五丈、グレゴール帝治めるバラヤー帝国は武器をちらつかせつつ交渉してくる。

 ピーターウォルド家は交渉と交易と見せながら、制圧のための戦力を送ってくる……と、ロングナイフ家は警告してくる。

 

 ミュールは、使者や敵の捕虜と直接会うことはなかった。転向もさせなかった……相手の技術水準や超能力の有無がわからないからだ。超能力シールドと探知器を持つ相手や、自分以上の超能力者に感情制御をかけようとしたら目も当てられないことになる。

 むしろ、道化に扮して下級者と接し、肌で情報を手に入れようとした。

 戦争を仕掛けることはしなかった。

 最低限の防御に徹して、他の余力は相変わらず、第二ファウンデーションの探索に回した。

 今や、第二ファウンデーションの脅威だけが、並行時空の艦隊から帝国を守り、反撃の糸口になる最大の武器になると、ミュールは知っていた。

 

 

 第二ファウンデーション。そこの人々は情報を集め膨大な数式に代入し、計算を続けていた。

 その成員は、言語を用いた会話などしない。だが、あえて言語に翻訳しよう。

「この、多数の並行時空がつながるという現象は、ミュール同様〈プラン〉にとって破滅的です」

「そして、並行時空の帝王たちは、心理歴史学という学問について知ろうとするでしょう。自らの帝国を永続させるための、最終兵器になるのですから」

「われわれの銀河の前帝国は、衰退しうぬぼれていました。だから心理歴史学を利用して自らの王朝を永続させよう、という発想は誰も抱きませんでした。しかし、並行時空の英雄たちは若く、たけだけしく、柔軟な心を持っているのです」

「皮肉なことに、ミュールが我々を守っているようなものだ」

「また、並行時空には異星人が存在する宇宙もあります。それは心理歴史学の第三法則に抵触し、〈プラン〉を崩壊させるものです」

「われわれがすべきなのは、すべての並行時空とミュールを項に入れて、〈プラン〉を再設計することだ」

 そのような会議があって間もなく、彼らはこの宇宙から消失した。

 ミュールが必死で追い求めている謎……第二ファウンデーションの位置、『銀河のもう一つの端』。かつての銀河帝国の首都、今は帝政末期の大略奪によって農業惑星に戻ったトランター。

 その、大略奪からも保護された帝国図書館を含む、それ自体が脱出用の巨大戦艦となっていた地域が、突然消え失せた。

 そして消えた中には、ミュールから隠れてファウンデーションの再興を待ち、農業世界で働いているベイタ・ダレルとトラン夫婦、その小さい子もいた。

 それは、ミュールのもとにも届かないほど小さいニュースに過ぎない。

 ただし、銀河各地に散る第二ファウンデーションのエージェントは、消え失せた第二ファウンデーションと奇妙な方法で連絡を維持していた。時空の壁も貫いて心の連絡ができる、複製も分析もできないレンズを持つ男たちを通じて……




ファウンデーション
ギャラクシーエンジェル2
スターウォーズ
銀河戦国群雄伝ライ
老人と宇宙
ヴォルコシガン・サガ
海軍士官クリス・ロングナイフ
レンズマン

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