第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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時空の結合より2年7カ月

 第一次タネローン防衛戦と呼ばれる大戦は、始めはそれほどの戦いになるとは誰も思わなかった。

 結婚が、戦いを準備していた。

 

 病癒え故郷に帰ったラインハルトを出迎えたのは、暗殺未遂だった。

 それはヴェスターラントの罪を思い出せるもので、逃避のためにラインハルトはヒルデガルド・フォン・マリーンドルフを求め、結婚につながった。

 一つの過ちにより友を失い、妻と嫡子を得た……といえば、春秋の筆法にしても味つけがすぎるだろう。

 

 少し前から、レンズマンからも奇妙な指示が多元宇宙各地に出されていた。

 要するに、

(偽の標的を作れ)

 というものだ。

 銀河パトロール隊は、第二銀河の、一見無価値な星を厳重に防護した。五百パーセント重複した監視網、何千もの鉄槌、星を軽く砕く要塞砲……誰がこれを落とせるというのか、という鉄壁の要塞であった。

 ガルマン・ガミラス帝国は、破壊されたテレザート星跡を厳重に防護し、

「ここがタネローンである」

 と宣伝した。

 五丈の竜我雷は、六紋海の小さい星を要塞化して、

「ここが心理歴史学の研究所だ」

 と宣伝し、学者や本を集め学術都市を作りあげた。

 以前から、五丈は心理歴史学を手に入れていると周辺に宣伝していた。

 ほかにも、極秘の命令を受けた者はいた。

 第二段階レンズマンは人数も少なく、顔も知られているので動きがとれない。

 だが、ひそかにアリシア星に行き、レンズを手に入れた者もいる。ジェダイの修業を済ませた者も多い。

 

 

 古代進と森雪も、長い婚約からついに結婚式を挙げた。

「新婚旅行は新ガミラスだろ?」

「グリーセンベック大将からも手紙が来たけど、すごくいいところらしいな」

「でかい船がまるまる一つ、魔法の国テーマパークになってるってよ」

「それともベータ植民惑星にでも行くか?」

「ほらうわさの」

「こら!」

「ダイアスパーとかいう、すごい観光地が見つかったらしいな」

「観光地?もっと想像を絶する技術だ、話半分だとしても」

 見えているのは真田や上層企業に連なる南部など、わずかな人だけだ。

「ヤンさんから動画メールが来たけど、ワームホールの地球やその向こうのデビルークアースもきれいらしいな。豊かな森がある地球、ぜひ見てみたいよ」

「そうはいっても、私費で行けるのはせいぜい」

「いや……申し訳ない」

「長官!」

 突然ドアが開き、入ってきた藤堂司令長官自身が、雪に深く頭を下げた。

「ヤマトで〔UPW〕に行ってくれ。新ガミラスからローエングラム帝国経由だ」

 古代の表情が天国から地獄になった。

「え?」

「トレゴンシーどのから要請があった。〈白き月〉に、〈武蔵〉以外の、撃沈されて多数の戦死者を出した艦船の残骸を運ぶように」

(ヤマトの強さの秘密は?)

 それは多元宇宙でも大きな疑問の一つである。

 地球防衛軍の愚かさとも言われている。

 だが、アリシア人には別の考えがあったようだ。

〈白き月〉と〈黒き月〉の対照も、注目すべきだろう。

〈黒き月〉は機械的な同一規格大量生産で、物量で押す思想だ。人間も個性なき部品にするのが、その規格思想のあらわれでもある。

 それに対して〈白き月〉は、人間の可能性……奇跡を起こす力を重視する。人間のテンションで、不安定だが上限のない力を発揮する紋章機があらわれだ。

 奇跡を起こす力……〈白き月〉なら、ヤマトの、

(〈大和〉の英霊の加護を再現できるのではないか?)

 と、考えたらしい。

 もちろん、冒涜だという叫びは百も承知だ。

 だが、トレゴンシーたちは卓越した交渉力で、許可を取りつけた。

(ヤマト地球が否んでも、別の地球から調達すればいいのだから……)

 である。

 なぜか〈武蔵〉は禁じられた、どの時空であれ。だが〈信濃〉〈ビスマルク〉〈プリンス・オブ・ウェールズ〉……英霊を抱いて眠る鉄塊・木塊は、数多くあるのだ。

 それをできるだけ調べ、その残骸の一部を集めている。

「それはもう、ヤマトに積むよう命じた。事後承認ですまないが、急だ」

「はい、承認します」

「新ガミラスにも寄るように、とトレゴンシーどのから。何か対〈混沌〉の作戦があるらしい」

 長官が辛そうに加える。

「それに、デスラーからの戦況情報だ……ボラー連邦がそろそろ追い詰められている」

 相原の言葉に、当然だろうという顔をする皆……だが、島だけは顔色を変える。

「それって」

「ああ。ボラー連邦が滅んだら、ガルマン・ガミラスと、ルークの故郷の帝国が直接対決だ。十万単位の艦船、十兆単位の人口らしい……」

「それは……」

「なら、地球のために、情報収集は、絶対に必要よ。何よりも最優先で」

 雪が、必死で平静を装う。女にとって新婚旅行がどんなに大切か、それでも……

「でも雪」

「古代くん。多元宇宙の平和、ひいてはこの地球の平和のためよ、新婚旅行ぐらい……新婚旅行ぐらい……」

 必死で涙をこらえる雪に、宇宙戦士たちは歯を食いしばることしかできなかった。

 

 

〔UPW〕では、エリ・クインらが五丈方面からマイルズの元を訪れた。

 彼女はマイルズの、昔の恋人でもある。彼が妻エカテリンを紹介するのを、みんなにやにやと見ていた。エレーナ夫妻とシヴァ女皇、タクト・マイヤーズも。

「お久しぶりです、マイヤーズ長官」

 エリは任務を最優先として、気まずさをごまかした。

「ああ、思い出してくれたんだね。相変わらず美人だ」

「ご結婚おめでとうございます、タクト長官。マイルズ・ヴォルコシガン卿、グレゴール皇帝よりの伝言をお届けします」

「ありがとう、提督」

「こちらも」

 エリは子を抱くように大事に抱えていた、キャベツ大の漬物石をマイルズに渡した。

 思っていたほど重くはない。

「これは、バラヤー・智・メガロード01同盟が手に入れた、ダイアスパーの技術です。グレゴール皇帝陛下より、皇帝直属聴聞卿として渡すに値する相手に渡せ、と」

「……ああ」

 5キロほどだったそれが、一気に重くなった。生涯で二番目に重いものに……部下の生首に次いで。ネイスミス時代の戦いで、抱えてしまったそれがフラッシュバックしてしまう。そうなると必ず思い出す、斜路とともに落ちていく赤毛……

 一瞬目を閉じて心を整え、ためらいなく、マイルズはタクトに歩み寄った。漬物石を差し出す。

「お渡しします。エリ……聞いているか、コーデリア・ジェセック誘拐の件は」

「え」

 エリが凍りついて、エレーナ夫妻と、父と手をつないでいる幼児を見た。

「この子が誘拐され、脅されました。デンダリィ隊ともバラヤーとも連絡するな、と言われ、〔UPW〕を頼ったのです。〔UPW〕も、ヤマト、ガルマン・ガミラス帝国、ローエングラム銀河帝国、反乱同盟のソロさんたち、五丈の太助さん……そして銀河パトロール隊。多くの助けがあって、救出できました」

 エレーナの声は冷静だが、冷静だからこそ強い感動がこめられていることが、元同僚のエリには伝わった。

(変わらない、絶対に信頼できる戦友。

 というかアレグレ(現秘密保安庁長官)のやつ、黙ってたわね?いいえ、ちゃんと今のシヴァ陛下たちを、私が先入観なく判断できるように、ってわけね)

 エリが笑ってうなずいた。

 タクトがそれを手にしたのは一瞬で、ノアがひったくって飛んでいった。

「ラグビーでもするんだろうか」

「誰も取らないと思うけど」

「いや貴重品だ。リリィ、護衛」

「は」

 レスターの言葉に、リリィ・C・シャーベットが飛び出した。

 エリ・クインはシヴァの方を振り向いた。

「そしてシヴァ女皇。あなたにも伝言を預かっています。コーデリア・ネイスミス・ヴォルコシガン国主夫人、智の紅玉公、メガロードの一条未沙提督からです。

 多元宇宙が戦乱にならぬために……ある程度以上の技術があれば、物質的な欲望は誰もが事実上無限に満たすことができる。居住可能惑星にこだわらなければ、全自動工場が作った都市宇宙船で十分生活できる。

 人はパンのみにて生きるにあらず、というけれど、衣食足りて礼節を知る、ともいう。全員に十分な衣食を与え、争う理由を減らそう。

 そのために、ことなる時空の技術を組み合わせ、より優れた技術を創ろう。

 以上です」

 シヴァの顔が喜びに輝いた。

「ありがとう……うれしい。早速お礼を、自ら言いにうかがいたいほどだ。無理はわかっているがな」

「では、パーティにしようか」

 タクトが待ちきれないように言った。

「残念ながらその暇はないな」

 レスターが苦々しげに言った。

〔UPW〕の者はわかっている。皆がクリス・ロングナイフがもたらしたネリーの複製をつけている……常に視野の隅に小さいパソコン画面が浮いているに等しい。

「はい。五丈の情勢も報告すべきことはあります」

 エリ・クインも、それを話したいようだ。

「まずその話を聞こうか」

 タクトの言葉に、エリが五丈を侵略したベア=カウ族について語り始める。

 

 

 花束を抱えてマリーンドルフ家を訪れ、義父にため息をつかせたラインハルトだが、結婚だけが皇帝の仕事ではなかった。

(ゴールデンバウム帝国の、子を産むだけの無能皇帝どもとは違う……)

 である。

 それこそラインハルトの、

(矜持というもの……)

 と、いうわけだ。

 何人もの忠臣にさんざん、結婚も重要な皇帝の仕事だと言われながら逃げ回ってきた彼だが、ついにその仕事は済ませ、より好む統治という仕事に復帰した。

 留守を預かっていた文武百官は、びくびくしつつあらゆる情報を提出し、皇帝の裁断を待った。

「見事であった」

 そう、ラインハルトは笑った。

「予がいなくても、なんとかなるものだな」

「いえ、われらは自らの限界を思い知りました」

 誰よりも有能に留守政府を牽引したオスカー・フォン・ロイエンタール元帥はひざまずいた。

 

 オーベルシュタインとの不仲は相変わらずであったが、それもヤン・ウェンリーが去り際に調節していた……三元帥の多数決が基本、となれば双璧が優位。ただし必ずヒルデガルド・フォン・マリーンドルフが同席し、彼女が重要と判断すれば決を止め、摂政大公妃アンネローゼ・フォン・グリューネワルトに伝える……皇姉もオーベルシュタインの理を認めれば、それに従え、と。

 結果的に、誰にとってもラインハルトがいるのと、さほど変わらなかった。

 むしろ、オーベルシュタインも、ロイエンタールもミッターマイヤーも、アンネローゼを煩わさないため、対立を公然化しないよう事前に調整することが多かった。

 三元帥だけではない。ヤンが摂政として帝国全権を握っていたわずかな間に、人事職権を絶妙に組み合わせていたのだ。誰も暴走できない、対立は誰かが止める、そして正しい判断に落ち着くように。

「これほど性格も能力も人間関係も、全部知られていたら……」

「かなわないわけだ。戦場の心理学者、か」

「見事、レースのようです」

「これからも、宰相として帝国にいてくれたら」

「キルヒアイス提督とヤン元帥が陛下の左右に……ああ、何億隻の敵でも、どんな政治問題でも楽勝だ」

「オーベルシュタインなどは出ていってくれてよかったと思っているだろう、ナンバー2不要論ってやつでな」

 などと、約二名以外は語り合っていた。

 オーベルシュタインもその人事・制度素案を丸のみした。

 真相は、ヤンとオーベルシュタインがともに構想を整え、ヤンの名で命じた……ハン・ソロやシェーンコップを手先に使って極秘に連絡して。帝国では二人とラインハルト以外知らない。

 オーベルシュタインとヤンには、奇妙な信頼関係があるようだ……無私と能力、視野の高さ、という共通点か。

 実際、オーベルシュタインは自らもやりにくくなるのに、帝国の国益を考えてヤン案に同意した。ヤンも彼がそうすると信じきり、短時間で最小限の修正を受け入れ命令した。

 閑話休題。

 

「船はなんとか浮いています。しかし、新しい技術と多元宇宙諸国という新しい前提を見つつ、ローエングラム朝銀河帝国という船の舳先をどちらに向けるかは、われらの力を越えております」

「よし。卿たちは、正しいことをした。

 特にコーデリア・ジェセックの救出に参加し、コーデリア盟約を結んだこと、ガルマン・ガミラス帝国とヤマトを助けたことも、帝国の大きな利益となろう」

 と、微笑みかける。

「わが帝国が多元宇宙の辺境となるか、中核となるかはこの数年で決まる」

 美しい姿が炎のごとく燃え上がる。群臣はみな主君の快癒を実感し、背筋に震えが走る。

「生存。向上。公平。それが舳先の向きだ」

 直接観測した、ガルマン・ガミラスの新兵器が起こした超新星爆発より激しい気迫がこもっている。

 一息、言葉をしみこませる。

「先の大戦で、われらは滅亡の瀬戸際に追い詰められ、勝利した。

 次の脅威はいつあるかわからぬ。どんな敵があろうと、また勝利せねばならぬ!

 人の望みは、自らと家族が生きることであろう。生きた民なくては帝国もない。

 生きるためにはまず、いかなる侵略者にも打ち勝てる力が要る。そのためには向上せねばならぬ。科学技術を学び、子を教育し、現実を直視せねばならぬ。

 また臣民を飢えさせてはならぬ。

 帝国が腐り崩れても、民は飢え殺される。それも防がねばならぬ。

 国が腐らぬために、必要なのは公平である。予は、公平な法と公平な税、公平な実力主義によって繁栄と勝利をなした。これからもそうする。

 多元宇宙を無用に侵略しなかったことも、勝利につながった。これからも侵略はせぬ。

 生を脅かすのは飢えと外敵、内乱のみではない……今後、罪なきを処刑せぬ。虐殺を見逃しはせぬ」

 粛然。リヒテンラーデ一族の処刑。そして公衆の面前でぶちまけられてしまった、ヴェスターラント虐殺を戦略的理由で見逃したこと。二つの罪の自己批判だ。

 ラインハルトは、ヤンの逃亡・レンネンカンプの自殺について自らの非を認めたことで当時の同盟の威信を粉砕したことがある。

(妻が、そして他郷での長い療養で自らと向き合ったことが、強さをくれた)

 ラインハルトがキルヒアイスに、言えなかったこと。今も胸をさいなむ、それを言うためなら帝位とひきかえてもいい。

 取り返しがつかない。だから、二度としない。ヴァルハラの、赤毛の友が望むのは、それだけだ。

「予も、卿ら臣も、そして帝国・同盟・フェザーン・ゼントラーディ問わず民たちも、すべて新しい技術を学び向上し、生と勝利をもぎとるのだ。

 そのためには自由も与えよう、枷があっては向上はできぬ。科学教育にも力を入れる。

 もしも予が、帝国が向上を妨げ、不公平に生命を奪う、ゴールデンバウムや末期の同盟のごとき寄生虫になったなら遠慮はいらぬ。倒せ!」

 以前から自分が弱ければ倒すよう言ってはいるが、やはり衝撃的な言葉だ。

(キルヒアイス、予も誓いを果たしたぞ……)

 一瞬瞑目して友を思い、皇帝は口を開いた。

「新たに誓おう。死者たちにも、今生きる者にも、これから生まれる者にも。

 予はローエングラム帝国を、多元宇宙の中核となす!」

「ジーク・カイザー!」

 絶叫が上がる。

 

 叫びが収まるのを待ち、自らの興奮を沈めたラインハルトは静かに、音楽的な声で続けた。

「バラヤーと智の探検隊が発見したダイアスパーという超技術都市のことを、予はごく近くで聞くことができた。

 想像を絶する超技術と、多元宇宙の多くを結ぶ〈ABSOLUTE〉の道筋にこのローエングラム帝国は位置している。

 一つ、われらには優位がある。今この時の軍人の数だ」

 美しき皇帝は、言葉が百官にしみるのをじっと見る。

 そのとき、皇帝は次々に流れるニュースの一つに目をとめた。

「今入った、このニュース」と、全員に共有させる。「に関連して、最優先で命じる。

 ロイエンタール、今動かせる帝国全戦力の三分の一を率いて〈ABSOLUTE〉に行き、タクト・マイヤーズ長官の指示に従え。

 オーベルシュタイン、五万隻前後のゼントラーディ艦と、旧同盟軍人より希望者を集め〈ABSOLUTE〉へ。旧同盟軍人が各艦を指揮し、ダスティ・アッテンボローに従うよう、手配せよ」

 大胆な命令にざわざわと声がする。

 ラインハルトが示したニュースは、〔UPW〕からだった。五丈の同盟国を、新く発見された並行時空の奇妙な艦が攻めている、というものだ。

「ご説明をいただいてもよろしいでしょうか?」

 シュトライトの言葉に、ラインハルトは静かにうなずいた。

「まず、人選について。

 ミッターマイヤーは先に〈ABSOLUTE〉に赴いた。だがオーベルシュタインもロイエンタールも、並行時空を知らぬ。予も学ぶことがあった。ある程度以上のものは、別の時空を見るべきだ」

「ありがたきご高配、身命にかえて」

 ロイエンタールが深く礼をする。

 オーベルシュタインは無言で礼するのみ。

「〔UPW〕は無人艦や、数人で動かせる戦艦を事実上無限に作る能力がある。人口も多い。だが艦も軍人も減って、育てているところだ。

 銀河パトロール隊も多くの艦船と多数の兵員がある。五丈も、技術水準は低いものの兵員数が多い。彼らが〔UPW〕に参加してしまったら、〔UPW〕軍の中でわが時空出身者は少数派となってしまう。

 今だけだ。今、われらの時空を出身地とする艦船を多数送ることで、〔UPW〕軍の中で多数派となることができる」

(同時に、潜在的危険分子の排除にもなる……一時しのぎかもしれないが)

 そう考え、口に出さなかった者もいる。

「ですが、旧同盟の軍人は、叛徒ではありませぬか」

「卿が今生きてそう言えるのも、戦友、血の兄弟である彼らのおかげではないか。

 そして別の時空で、帝国と同盟の違いなどかまう者はいない、この時空の出身者だ。一惑星の別の大陸ほどのことだ。

 予は、敵であったものも信じることにより天下を取った。これからも信じることで帝国を強くしていこう。猜疑心の塊となり果てて生きながらえたくはない」

「ジーク・カイザー!」

 群臣は思わず叫んだ。

 特にかつて敵であった、シュトライト、フェルナー、そしてファーレンハイト、メルカッツ、フィッシャーらの、

(この信頼に、応えずにおくものか……)

 思いは、格別であった。

「これも強調しておく。ヤン・ウェンリーやバラヤーのグレゴール帝とも話したことだが、今後多元宇宙において重要になるのは智の故地であろう。先に言った、ダイアスパーと〈ABSOLUTE〉を結ぶ最短距離にある。五丈の新王はその優位を逃しはすまい。かの時空が統一される前の時間を、有効に使わねばならん」

 することは多くあった……もちろん、リヒテンラーデ一族の恩赦、連座制の廃止も含めて。拷問禁止、旧同盟に準じる法の適正手続も。そちらは即効性ペンタのおかげで抵抗は少なかった。

 旧同盟から、〔UPW〕に行きたいという志願者は多かった。

 軍人でいたい、だが帝国の旗はローエングラムの黄金獅子旗だろうと嫌だ、という同盟軍人は不正規隊を中心に、結構いたのだ。

 またそれは、ラインハルト不在の一年に起きた現実の事態に対する、柔軟な対応というべきであった。

 不在中の方針ともそれほど違わなかった。別時空への援軍、最低生活保障、科学技術の受容と教育、公平な裁判と機能する政府、どれも必要に応じたとはいえ留守政府がやってきたことだった。

 ラインハルトをよく理解する人たち……ヤン、アンネローゼ、オーベルシュタインらが立てた方針でもあった。

 

 

 バラヤー帝国のグレゴール帝、智の正宗も、エリ・クインの報告を受けて即座に援軍を準備した。

 戦力は……超光速の艦船は、ありすぎるほどあった。

 

 智の艦船も数千ある。バラヤーのある時空の全域を回って超光速船の存在をアピールし、超光速交易の基盤を作り、新銀河の探検や開拓をし、あちこちの星国から近くのワームホールがない星に人やモノを運び、と大車輪で活躍してきた。さらにそれらは、ダイアスパーの太陽系に残されていた巨大工場で、順次「近代化改修」を受けている。

 加えて……

 ダイアスパーのある地球で、ダイアスパーの〈中央コンピュータ〉の協力で再起動された遺棄船が、最初の数日で千近く。1カ月で銀河のあちこちを探して、数万。月や地球の大きさの超巨大艦もいくつもある。

 バラヤー・智・メガロードから人を抜擢し、それどころかベータやセルギアールからも人を募集して、とにかく一隻でも動かせるようにコーデリア・正宗・未沙の三人は必死で働いた。

 その激務をあざ笑うように、艦船の数は果てしなく増えていく。

 ダイアスパーの近くにも、造船所は残っていた……それもすぐに多数の船を作り始める。

 さらにダイアスパーによって改造された、ゼントラーディ名物プロトカルチャー由来自動工廠。

 ダイアスパーと接触した24日後。約200メートルの小型艦が150隻、約2000メートルの標準戦艦と約3000メートルの輸送・強襲揚陸艦が各30隻、約4000メートルの指揮戦艦が3隻完成していた。

 

 攻撃・防御・速度・通信情報すべて強化されている……親切なことに、リミッターがついた状態では2世代ほど上の性能に。リミッターを外せば、対空機銃で惑星を破壊できる水準に。

 外見だけでもわかる、細身のワニを思わせる姿が、やや肥えてどれも体積は5倍近く増えている。

 修理の概念がなくても何十万周期も戦い続けられる冗長性と頑丈さも、どれもこれまで以上だ。

 艦隊のシステムも変わっている。

 本来のゼントラーディ艦隊にとって主力だった、艦首部を分離し大気圏突入艇にできるケアドウル・マグドミラと砲艦は生産されなかった。

 エンジンの強化により、大型旗艦でも問題なく大気圏に出入りできる。

 指揮も、標準戦艦でもこなせる。

 また小型斥候艦の砲や可変機の手持ち大型銃が、1500メートル級で艦首全体が砲となる砲艦に倍する打撃力を持つ。

 

 4000メートル級旗艦ノプティ・バガニス。大幅に増えた搭載量で多数の小型艦・可変機を搭載したまま、鉄壁の防御力と速度で突撃し、艦載兵器と艦そのものの圧倒的な火力で中枢を破砕……別時空でいうISA(Integrated Synchronizing Attack)さえ可能だ。もちろん情報能力も大幅に増強され、艦隊を率いる仕事も有能にこなす。

 2000メートル級主力戦艦、スヴァール・サラン。攻撃・防御・速度・情報・搭載、すべてバランスよく強化されている。

 3000メートル級輸送・強襲揚陸艦キルトラ・ケルエール。定評のあった搭載量と頑丈さはさらに高まり、桁外れの速度が加わった。さらに可変機や改良されたクレーンの類により、短時間で膨大な荷物や戦力を積み下ろしできる。戦場でも頼りになるし、平時では最高の船だ。

 そして200メートルほどに小型化された斥候艦。その改修は特に徹底的だ。ゼントラーディでもマイクローンでも三人で操縦可能、速く頑丈で整備しやすい。

 基本形の能力は最低限……それでも砲艦より火力は上……だが、さまざまな装備を追加できる。連射速度の高い砲、高い索敵能力、荷役・輸送能力など。様々な役割をこなせ、費用も安い、理想的な多目的艦となった。

 キルトラ・ケルエールもそうだが、平時に特に役に立つ艦だ。

 多数の、A-4スカイホークに似た小型可変機もある。

 

 それを直接、また映像で見た、人の上に立つ者たち。

 大半は呆然自失するか、大喜びした。

 だが、何人かは、必要な事務処理を概算し、絶叫をこらえていた。

 泣き出してしまって、「感泣しているのですな、わかります」といわれた者もいた。

 ヤン・ウェンリーが、遠いトランスバール皇国のシヴァ女皇に、巨大獣の丸焼きの前に一人フォークを握る子供の絵を送った、という話を思い出す者もいた。

 さらに、

「今後も17日ごとに同じ数の艦船を作るか、または強化自動工廠自体を52日で作るか」

 という、頭がおかしくなるような選択肢まで受け取ってしまった。

(数年で、バラヤー帝国総人口より、艦船の数が多くなる)

(将棋盤に米粒を、最初はひと粒、次はふた粒、その次は四粒、という話ではないか?)

(ちょっと待て……)

 指を折り、携帯コンピュータを叩いて震えている者もいた。

 キロメートル級の超巨大船が何十隻も進宙して並ぶ、それだけでも圧倒される。3キロメートルは、事実上町のスケールなのだ。

 バラヤーと智の全軍人を合わせても、とても動かせるとは思えない……実際にはどれも少人数で動かせるといわれても、信じられるものではない。

 現場では、人員不足の悲鳴が響き渡った。

 智の軍民も人数はいたが、技術水準の低い人々はほとんど戦力にならない……といっても、ダイアスパーから見ればベータの工科大学学長も智の無筆人足もあまり変わらない。新しく手に入った艦船は技術水準が高いので、より簡単に操作できる。コンピュータによる教育を受けながら、操作訓練を受けることもできる。

 ただしさすがに一晩では、知識を頭に入力することはできても経験もないし信頼もできない。艦を任せる士官としての訓練、というか膨大な学科を学び、経験でそれを骨肉にしていなければ、艦を動かすなどできるはずがない。

 一人で動かせる、月サイズの、十日で銀河を横断できる艦……わずかなミスや悪意も、惑星破壊級の大惨事になる。

 それ以前に、その学ぶべき教科書がない。その技術水準の軍法・艦隊運用マニュアル・民間交通法規自体が、ない。参考にできるものもない。

 日露戦争の軍人が湾岸戦争時の米軍兵器をもらっても、軍の組織から法制度から人間集団を制御する言葉にならないノウハウから、要するにまったく対応できないのだ。単発銃が前提、中大隊横一列で行進する軍が、十人前後の分隊で散開し相互支援するアサルトライフルを手に入れたところでなんにもならない。かといって分隊に権限を委譲する現代軍制にするには、読み書きできる人間の絶対数がまったく足りない。

 まして船。バラヤーやメガロードは、地球の末裔……スターボード優先主義。だが智やゼントラーディは……右側通行と左側通行の違い。しかもそれが超光速で何次元かもわからない……船と馬車しかなかった世界に、新しく飛行機が加わり……二次元が三次元に増えたとき、交通法規を作る人たちがどれほど苦労したことか。

 無人で艦船を動かすこともできるが、その無人艦船に何を命令すればいいかすらわからない。タクシーや運送会社の、通信で運転手に命令する本部にあたるものが、ない。

 コーデリアも正宗も未沙も、部下たちも、

(体をふたつと、十年ちょうだい……)

 といいたいような仕事を三日でやっつけ、すぐその倍の仕事の雪崩に埋まる。

(これではまた体を壊すな……)

 正宗はそう思うこともあった。一人で一国を背負い、二大強国と戦っていた時よりずっと忙しいのだ。

(部下を育てないことは最大の無能)

 コーデリアと夫アラールは息を合わせて、そのことに力を注いでいた。

 セルギアール総督でもあるアラールが、仕事の間を縫って多くの若者を面接し、仕事を与える。それで伸びた者をコーデリアの元に送り、さらに激務で選別し伸ばす。

 もちろん、未熟者に仕事を割り振って、確認してほめたり叱ったり指導したり尻ぬぐいしたりするより、全部自分でやった方が早い……仕事が倍になっているのは、夫婦とも、百も承知だ。

「全面戦争でも、ここまでひどくはないんじゃないかしら?」

「種をまいて、よさそうな苗を送ってるようなもんだ。それもとんでもない促成で」

「ゆっくり育てれば使える子も、何人もつぶしているわね」

「セタガンダからの独立戦争だな、まるで」

「心臓は……?」

 アラール・ヴォルコシガンは指揮官の持病である胃痛もひどく、さらに食生活がひどいので心臓も悪い。つい数年前に心臓発作で倒れ、心臓を培養して交換したこともある。

「ダイアスパーから来た医者が、胃も心臓もとんでもないのに取り換えてくれた」

「わたしも、内臓を交換する必要がありそうね」

 そう、無理に笑うこともあった。

 

 クルーがいきわたり、訓練もされている数百隻がなんとか即応できる。

 正宗自身はある意味人質としてバラヤーに残った。

 形式として智王……幼名虎丸も初陣を許され、その後見には軍人であり血筋のいいイワン・ヴォルパトリル、一条輝もいた。

 輝は実際の指揮権なし、前線に出るな、といわれて不満を持っていたが、将官の娘である妻未沙に、

「なら、智王はどうなるの?あの子こそ、前線で刀を振り回したいはずよ。お飾りも立派な軍人の仕事です。

 安全でラッキー、と思ってるクズなんて、あなたたちが思ってるよりずっと少ないわ。少なくとも父とグローバル総司令は、前線で共に死にたいと唇を噛み破っていたほうよ。

 あなたも、前線に飛び出さない自制と、前線で死んでいく部下を思う心をともに持ちなさい。飛び出してもだめ、自分の方が辛いといいわけして冷酷になってもだめ。それが士官よ」

 と諭され、

「それでかわいそうだから、とあの子を連れて前線に行くなんて、娘を殺したくなければしないで。未来は智の家臣に、人質として預けたのよ」

 と、考えを読まれてしまった。

 さらに未沙は、アリス・ヴォルパトリルを通じてイワンに、

(二人を絶対暴走させないで)

 と監視も頼んだ。

 自分が言ってもいい加減だろうが、母親の命令には絶対に逆らえないことをよく理解して……それほどバラヤー首脳とも親しくなっている。

 

 ダイアスパーの地球に眠っていた戦艦が70隻ほど。200キロメートルに及ぶ超巨大機動要塞2基、50キロメートル級巨大戦艦4隻も含む。

 外見は変わらないが中身は大幅に改造された智の戦艦も150隻、百戦錬磨の将兵とともに初陣の王をいただき、久々の戦いにたぎりたっている。

 改修され新造されたゼントラーディ艦隊も50隻。

 それが、ついに偽装を脱ぎ捨てた飛竜艦隊とともに、智の故地へ、そして五丈へ押し寄せた。

(新五丈を落とすためではなく、助けるためでもない……)

 守るべきは、多元宇宙。だが、本当に守るべきは、そして敵は……

 若すぎる仔狼と歴戦の勇士は、戦陣の興奮を抑えかねていた。背後から祈る者の辛さは、たとえようもなかった。

 

 

 

 ガルマン・ガミラス……新ガミラスを訪れたヤマト。

 惑星を持たぬ、巨大艦船の集まりで構成された首都。

 何日も観光したいような壮大な眺めも、ろくに見る間もなく誘導を受け、超巨大な新デスラー艦……実質的な首都でもある都市艦のハッチにヤマトが近づく。

「でかいな」

「ゼントラーディの技術もあって、すごいペースで艦が作られているらしい」

「いくつもの艦がつながってできた船のようだな」

「一つ、見慣れないのがあるな……でもでかい」

「あれだけでかければ、もう大都市だよ。何万人も暮らして、行政もできる」

 と、艦そのものがいきなり、ものすごい力でつかまれた。

「引っ張られる」

 島が目を丸くする。

「このまま向こうの誘導に任せろ。トラクタービームだ」

 真田の声に、

「でもそれって、逃げたくても逃げられないってことか」

 太田が余計なことを言って、

「外交上の配慮もしてくれ」

 と南部にとがめられた。

「ま、楽でいいな」

 と、島が操縦桿から手を離して居眠りをするふりをする。

「デスラーも、次々に別時空の技術を使いこなしているんだな」

 古代が複雑な表情でいった。

 

 礼をかわし、艦を降りた古代と雪は、意外な再会に目を丸くした。

 埠頭に迎えに来てくれたのはデスラーだけでなかった。古代守・サーシャ父子と、ルダ・シャルバートがいたのだ。

「兄さん、ルダさ……マザー・シャルバート」

 奇妙な寒気。

(この人たちが出てくるって、とんでもない事態じゃないか?)

 と、言葉にならない予感が走ったのだ。

「結婚おめでとう。だが、その一言を言う間も惜しい」

 守の目は、完全に軍人の目だった。

「パルパティーン帝国は、事実上全軍でシャルバート星を狙っています」

 静かにそう述べるルダ・シャルバートは、一別以来の美しさだ。だが、その雰囲気はまぎれもなく、犯しがたき現人神(あらひとがみ)にほかならなかった。

「技術がないと偽った事情も、今は理解しているよ、古代」

 デスラーの表情は清明だ。

 進は深く頭を下げ、謝罪した。いいわけはしない。

「ですが、人と人との争いならともかく、アガックとカガックの娘たち、それに〈混沌〉と〈法〉の戦いまでが絡むとなれば……この戦いは無抵抗で殺されればよい、というものではありません。多元宇宙の、あらゆる生命が存在できるか否かにかかわるのです。

 激しすぎる嵐のような〈混沌〉のもとでも、風もない氷原のような〈法〉のもとでも、生命は存在できません。生命が存在できるのはその中間、穏やかな光と適度な多様性がある〈天秤〉のもとだけなのです」

 と、ルダ。

「わたしも、おかあさまも、予知してしまったの。偽タネローンとして設定されたテレザート星跡に、〈混沌〉の軍勢が押し寄せる、って」

 サーシャが辛そうに言う。

「偽物だからやられてもいい、というわけじゃないわ。そこを破られたら、そのままパルパティーン帝国と〈混沌〉が……どちらが上かわからないけど、融合して」

「そうなれば、わがガルマン・ガミラス帝国も滅びる。地球も」

 デスラーが強く言う。

「だから、わたしも、ルダさんも、すべての技術をデスラー総統に預けることにしたの」

「だが、私だけでは危ないと思うだろう?ラインハルト皇帝にも、〔UPW〕にも渡せばいい。そうすれば、お互いに抑止となる」

 デスラーがあっさりと言い、ヤマトの近くに係留された大型艦を見る。

 卵のようにのっぺりした、2000メートル級の艦。

 その隣には、先の戦いで使われたイスカンダルの小型戦艦もある。

「シャルバートの技術を積んだ艦です。艦内の工場で複製した一組は、デスラー総統に渡してあります」

 シャルバートの言葉は人を打つものがあった。

「ヤマト。同行してください。これから、ローエングラム帝国、そして〔UPW〕にも複製を渡します。今回の戦いには間に合わないかもしれませんが、船そのものが戦力になるでしょう。

 そして、その次の戦いに……」

 任務の重さがますますとんでもないものになった進は、背骨が折れる思いだった。

 

 

 急襲を受けているのは、新五丈とガルマン・ガミラス帝国だけではない。

 

〔UPW〕の、例の時空震以前の六時空(*ギャラクシーエンジェル原作に出てくる時空*)の一つ〈SKIA〉。

 そこの星の一つにできたゲートから、以前から蜘蛛型の昆虫様異星人が侵略してきていた。

 だが突然、その敵の強さも残虐性も、桁外れに激しくなったのだ。

 そちらの時空には地球と人類、ほかにも様々な種族があるという。

 

 また、以前から〈ABSOLUTE〉の引き渡し、〔UPW〕の服従を要求していた、ゼ・バルマリィ帝国……通称バルマーの攻撃を縫って訪れたヒリュウ改が、再会を喜ぶ間もなく別の脅威を訴える。

〈混沌〉に汚染されたバルトールの大軍が、地球すら無視してバルマー帝国に属する、そちらの時空でのテレザート星所在地に猛攻をかけているという……

 

 さらに、銀河パトロール隊が守る、〈EDEN〉のローム星につながる銀河も、ペリー・ローダン率いる太陽系帝国との争いが熱戦になりつつある。

(どうやらボスコーンが侵入しているようだ)

(あれは、上位存在によって作られた悪の存在らしい。善の側のローダンたちがどこかにいる)

 という話もある。

 逆に多くの勢力が、太陽系帝国を狙ってもいる……多元宇宙の至宝、不老不死をもたらす細胞活性装置を求めて。

 

 

 援軍を出したローエングラム帝国にも、脅威が迫りつつある。

 多くの民主主義運動とかかわりつつ、多元宇宙と映像・音楽・通信教育・データ産業の貿易もしているユリアン・ミンツが、その取材から奇妙な陰謀を察知したのだ。

 ユリアンは経済面でも有利すぎる位置にいた。目的はオーベルシュタインが与えた課題、トリューニヒトの映画作りだが、それは民主主義運動にも陰謀にも金にも深く広く根を広げた。

 取材を通じて知り合ったトリューニヒト派の欲深人脈。もともとトリューニヒト派扱いもされていた。

 さらにボリス・コーネフを通じ、フェザーン商人にもつながりがある。

〔UPW〕でも高い地位を得つつある元ヤン艦隊幹部との絆も強い。

 外交でも商業でも貢献したフレデリカ・ヤンを通じ、ガルマン・ガミラス帝国からバラヤー帝国にまで糸が伸びている。

 メルカッツやフィッシャーは帝国軍の最上層に入った。それでワーレン、ミュラーなど帝国上層部との絆も太くなる。

 そしてアレックス・キャゼルヌとミント・ブラマンシュという、人とカネの扱いでは凄腕の教師もいる。厳しいが。

 自分がどんなとんでもない金流と人脈の結節点にあるか、今のユリアンは潔癖ゆえに見ることを拒むことはせず、存分に利用した。

 欲深い者にはカネを、チャンスが欲しいものには人脈を与えることで、並行時空の映像コンテンツという膨大な金脈をつかみ、破綻なく使いこなせるようになった。

 そしてその情報は、対テロにおいてかなり重視されてもいる。

 

 帝国も、対テロには注意を払っている。

 ラインハルトは地球教対策として、こう言った……

「地球教はもう、その根本から壊れている。

 唯一の人類の故郷と奴らは言う。愚かな……

 ヤマトの地球。

 バラヤー帝国の人々の故郷である地球。

 デビルーク・アース。

 プリンツェッシン・クリスの世界にも地球はある。

 銀河パトロール隊の本拠も地球と聞く。

 さらにその向こう、太陽系帝国もまたテラ、地球を故郷とする。

 百世界も、遠くの緑のコロニー防衛軍も、地球が故郷だそうな。

 かのパルパティーンとやらの帝国のかなたに見つかった〈惑星連邦〉も、中心は地球だ。

 どれも、同じ大きさ、公転や自転、大陸配置。ある時点までそれぞれの人類の歴史も同じ、同じ遺伝子を持つ。

 どの地球が、唯一だというのだ?まして神聖など笑止」

 そして旅の間に収集したデビルーク・アース、ワームホール・ネクサスの地球、そしてヤマト地球それぞれの、多数の映像コンテンツを銀河中に流した。

 要するに、「地球大紀行」の類を。

 地球教徒にとってそれは、脳天をハンマーで殴られるに等しかった。

 だが、ド・ヴィリエはそれを逆に利用しようとした。

 多元宇宙、また超技術と公平な統治で急速に発展する新王朝という、現実を認めたくない人々に訴えたのだ。

 生存。向上。公平。新しい仕事を学び新天地に行けば豊かになれる。失敗しても飢え死にはしない。

 しかし、人はパンのみにて生きるにあらず……古い仕事を捨てるのはつらく、飢え死にしないだけでは満足できない人は、いた。人は理性の動物ではないのだ。

 旧帝国の貴族。旧同盟の腐敗政治家。古い利権にすがる、ラインハルトに言わせれば寄生虫ども。

 彼らにはどうしても不満があった。

 そしてその不満は、現実そのものを拒絶することでしか正当化できぬものだった。

 多元宇宙という現実を受け入れれば、ラインハルトが与える自由のもとで向上するほか、選択肢がないのは自明だった。

 それをしたくないなら、現実そのものを拒絶するよりほかにない。信じたいことを信じ、見たいものを見るよりほかにない。

 ド・ヴィリエはその逃げ道を与え、そこに逃げ込む者も多かったのだ。

 その逃げた人間たちに、ボスコーンは無尽蔵に戦力を与え、蜂起の準備をさせた。

 その戦力には、〈混沌〉の罠が仕込まれていた。

 ボスコーン……エッドア人と〈混沌〉、どちらが優位にあるのかは、アリシア人すら知らぬことだった。




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