第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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宇宙戦艦ヤマト/時空の結合より2年8カ月

 ベムラーゼ首相を討たれ、銀河衝突に苦しむボラー連邦の残存勢力は、パルパティーン帝国の本格侵攻に抵抗していた。

 ボラー連邦は、辺境星域にできたゲートを無視していた。多元宇宙の存在自体を無視し、報告を握りつぶしたのだ。その遅れに大艦隊の侵攻を許し、橋頭保を築かれた。

 反応の遅れの理由は、ベムラーゼ首相を含む主力の壊滅もあった。だが、根本的には組織としての病状だ。デスラーがガルマン・ガミラス帝国を興した時と同様に。

 多元宇宙の報告を拒絶したのは、自由惑星同盟のレベロ政府もだ。

 秦の二世皇帝の耳に、反乱の報は長く届かなかった。権力を握る宦官、趙高が握りつぶしたから。

 気がついた時には、ガルマン・ガミラス帝国との絶望的な二正面戦となっていた。

 どちらかと和して、遠交近攻、など判断ができる者はなかった。

「われわれは無敵だ!」

 と叫び続け、内部で誰がベムラーゼ首相の後を襲うかの権力抗争を優先したのだ。ものを考える人間はいなかった。ものを考えることは死に値する重罪であり、とっくに排除されつくし、教育と自然淘汰によって防止されていたのだ。

 ガルマン・ガミラスの新興を許したこと自体、ボラー連邦自体が文明として衰退過程にあったしるしだ。

 ボラー連邦はパルパティーン帝国に比べ、戦力・技術力は決して劣ってはいなかった。ワープする惑星破壊ミサイル。ブラックホール砲。火力、デスラー砲すら防ぐ重装甲。

 惑星破壊ミサイルの飽和攻撃は、スーパー・スター・デストロイヤーすら撃沈した。

 緒戦の勝利は、ボラー連邦残存幹部の傲慢を、致命的に深めた。

 

 パルパティーン帝国のペカッティ・シン大提督は、大敗にへこたれなかった。

 インペリアル・センター=コンサルトには戻らなかった。別時空を攻めた将軍や大提督が次々と粛清されたこともある。

 大規模な橋頭保を築いていたことが幸いした。

 ヒットアンドランに戦術を切り替え、粘り強く戦い始めた。

 

 パルパティーン帝国に対するため、ボラー連邦は周辺の収容所惑星を、次々と惑星破壊ミサイルで囚人・看守・駐留軍ごと破壊した。

 極端な焦土戦術。利用されるかもしれない惑星を、次々と住民ごと粉砕する。

 足元を掘り崩す愚行だった。強制収容所は、ボラー連邦の経済にとって欠かせないものだったのだ。ナチスドイツもソ連も、強制収容所の超安価な労働力こそが、急速な工業成長を支えていた。

 また、シン大提督は惑星の破壊を、むしろ幸いとした。

 同僚のマテオ・バッチ大提督が、わざわざ超兵器を持ちだして惑星を粉砕し、資源をたくさん手に入れたことを知っていた。同僚のところにスパイを入れて知ったのである、もちろん。

 というわけで、鉱石を加工してプレゼントしてくれてありがとう、というほどのことだ。

 ちなみにガルマン・ガミラスは、プロトカルチャー由来の自動工場技術を手に入れてから、惑星破壊ミサイルを資源採取用に使っている。その目的に、惑星破壊ミサイルごと艦船を別時空に貸すこともある。

 ちなみに、強制収容所の看守を倒して囚人たちに武器を与えたり、圧政下にある諸民族を扇動したりして敵国を倒す……これはうまくいかない。一見うまくいきそうに見えるが、歴史的に成功例がないのだ。

 敵本国から離れた植民地の独立運動を支援するなら、成功例はあるが。

 ハンニバルがローマ軍を壊滅させ、イタリア半島で暴れても、ローマに征服された緒都市は誘いに乗らなかった。

 ナポレオン一世は、アイルランドを応援しイギリスに叛かせようとしたが、失敗した。

 ヒトラーがソ連を攻めた時、強制収容所で苦しむ囚人や、民族虐殺の地獄にいた諸民族を解放し、戦力にして勝つ……それはしなかった、できなかった。

 自由惑星同盟がゴールデンバウム朝銀河帝国に侵攻し、アムリッツァの大敗に至った戦争でも、占領した星々の窮民たちは立ち上がるどころか、食を求めるブラックホールでしかなかった。

 

 

 銀河衝突による被害から回復したガルマン・ガミラス帝国は、新技術の圧倒的な力でボラー連邦を追い詰めつつあった。

 デスラーは、ボラー連邦滅亡後の、パルパティーン帝国との直接対決も視野に入れていた。ゼントラーディ=ローエングラム大戦で、ルーク・スカイウォーカーらにも会い話を聞いている。

 プロトカルチャー由来の技術で多数の艦を作り、人も育てた。隣のローエングラム銀河帝国と競い合うように、コーデリア盟約で手に入れたバーゲンホルムはじめ新技術を全艦に導入し、訓練と実戦を積んだ。

 

 ボラー連邦は、あくまでガルマン・ガミラス帝国を主敵としている。だが、もう対抗できる水準ではない。銀河衝突でガルマン・ガミラス本星が被災したために、わずかに延命したにすぎない。

 ボラー連邦に、銀河衝突で破壊された星はなかったが、これまでの航路の多くが使えなくなった。それは経済の足元を大きく崩した。ガルマン・ガミラスには新しいエンジンがいくつもあったので、その問題は最低限だった。

 

 

 シャルバートの技術で改良を済ませたデスラー艦隊は、ボラー連邦の諸領土をほとんど無視し、パルパティーン帝国とボラー連邦の大艦隊がぶつかり合うど真ん中に突撃し、両方を相手取った。

 

 ボラー連邦主力艦隊が、まさに鎧袖一触。

 ガルマンガミラス艦の影もとらえられない。艦載機がほんの一瞬出現し、ボラー艦の位置を確認して、即座にバーゲンホルムで消えるだけ。

 ボラー艦のオペレーターも、ほとんどはそれを見落とす。ステルス水準も高いのだ。少数はいぶかしむが、もう遅い。すぐさま宇宙の虚空、しかも至近距離からハイパー放射ミサイルが何百発も出現する。瞬間物質移送機とハイパー放射ミサイルを合わせたら、どういうことになるかは言うまでもない……敵にとっては悪夢だ。

 対空砲火など暇もなく、仮に当たっても主砲の直撃でもなければ破壊できない。浸透するように装甲を貫くミサイルから死の放射能ガスが放たれ、乗員を殺戮し、核分裂・核融合問わず核燃料・核爆薬の核反応を暴走させる。核弾頭や核を用いる補助エンジンが、次々に大爆発を起こす。

 反撃したときには、常にそこにいない。すさまじい速度、超光速に入るまでの時間の短さ。複数のエンジンがあるガミラス艦は、従来の常識では侵入できない暗黒ガスや大重力場にもゆうゆうと逃げこむ。偶然反撃がデスラー艦隊をとらえた、と思っても、常に濃密な対空砲火が弾を撃墜し、無傷のまま艦は姿を消す。

 スター・デストロイヤーも、同じくデスラー砲とハイパー放射ミサイルに次々と蒸発し、あるいは乗員が全滅して幽霊船と化す。

 ハイパードライブやその探知機もデスラー艦隊には標準装備、さらにバーゲンホルムやフォールドで先回りされる。

 ヤマトや古代守艦も手を貸したが、必要はほとんどなかった。

 シャルバート艦も参加する必要はなかった……もとより、教義上人間同士の戦いには参加できないのだが。

 

 シン大提督の旗艦〈ファイ〉がまさに破壊されようとしていたとき、デスラーに至急の連絡が入った。

「何事だ!せっかく敵の大提督を討ち取ろうとしていたときに」

「申し訳ありませんデスラー総統」

 惑星連邦を訪れていた、ヴァニラ=Hとエンダー・ウィッギンが古代とデスラーに呼びかけた。ロミュラン式遮蔽装置をつけた、〔UPW〕のリプシオール級戦艦。惑星連邦から、パルパティーン帝国を横断して駆けつけたのだ。

 二人のかたわらには、奇妙な戦士がいた。

 ウォーフ。

 そして二人の人……ルダ・シャルバートやサーシャがはっとした。

 一人は地球人、黒人男性。惑星連邦士官の服装をしているが、なにともいえず雰囲気がある。

 もう一人は地球人に似ているが、繊細すぎる美貌。エルフ耳と、ラインハルト姉弟と比べたくなるほど繊細な髪。片目は潰れており、片腕もない。

「モーグの息子、ウォーフだ」声からあふれる力は相変わらずだ。「古代艦長、再会できてうれしい。デスラー総統、古代守、お初にお目にかかる。

 紹介する、

 ベンジャミン・シスコ退役大佐。

 コルム・ジャエレン・イルゼイ公子」

 エンダーが進み出る。

「エンダー・ウィッギン提督です。第二段階レンズマンとして、知らせるべきことがあります。

 ヤマト、われわれを護衛し〔UPW〕に急いでください。

 また、シン大提督は殺すべきではない、マザー・シャルバートに帰依させましょう。彼は常に信仰の対象を求める男、彼が若いころ信じていた宗教は平和主義でシャルバート教に近い」

「何を考えているのかな?」

 殺戮の喜びを止められ、デスラーのなめらかな声にかすかな不快がにじむ。

「帝国の、ミスローニュルオド大提督が将来必要になると、とある上位存在から」

 謎めいた言葉ではある。

「総統閣下には贈り物も用意しています。ロミュラン式遮蔽装置、レプリケーター、トリコーダー、転送、ホロデッキ」

 まっすぐに見つめるエンダーに、デスラーは苦笑気味に笑った。

「ふん、戦場はここだけではない。行くがいい」

 その時には、第二段階レンズの力でエンダーが〈ファイ〉を制圧していた。

 そしてシン大提督を、ルダ・シャルバートの船に移乗させる。

 支配を解かれた大提督は、慌てて武器を探すが、そこにいたルダ・シャルバートを見た。

 打たれたようにひざまずく。一目で、その神聖な雰囲気はわかる。

「あなたは」

「マザー・シャルバートです。あなたを迎えに来ました。悔い改めなさい、あなたの罪はすべて許されます」

「ああ……」

「あなたは若いころ、『神聖な道』のよき信者でした。信仰を禁じられ、棄教を誓い大提督として働き、ダークサイドをあがめていた間も、あなたの心は光を求め、真の信仰に飢えていたのです。

 与えましょう」

「ああ、ああ……帰依します、帰依します。シャルバート、永遠の忠誠と信仰を誓います」

「相手が人ならば、たとえ殺されても無抵抗を貫きなさい」

「はい、誓います」

「〈混沌〉と〈法〉、どちらの極端とも戦い、〈天秤〉を守って戦いなさい」

「はい、誓います」

 ……宗教に飢えていた大提督にとって、マザー・シャルバートは餓死寸前の人に差し出されたハチミツ入り粥だった。

 彼は帝国とのゲート付近に駐留し封鎖を守ると誓い、兵をまとめて去る。

 

 同時にその戦いは、ボラー連邦の戦力を致命的に失わせた。もはや大帝国の維持も、パルパティーン・ガミラス両帝国と戦うことも不可能、反乱を抑えることもできない。

 何もしなくても10年は持つまい……誰が見てもそれはわかった。

 

 ボラー連邦を深く切り裂き、戦線をヒステンバーガーに任せたデスラー艦隊は、そのままテレザート星跡に赴いた。

 レンズマンの言葉を受け、テレザート星跡をタネローンと偽りの発表をし、敵を引きつけるえさとしている。

 

 ヤマトでは、秘密の会議があった。最初のイスカンダルへの、そして多元時空の旅をともにした者だけだ。

 ウォーフとの再会の喜び以上に、懸念すべきことがある。

「みんな記憶はあるよな?ピカード艦長の故郷では、貨幣がない……デスラーに言っておくか?」

 最初に島が言った。

「島、それは対岸の火事じゃないぞ。おれたちの故郷も、遅かれ早かれだ」

 真田がやや憤然という。

「これがなくても、ダイアスパーもそういうところだって話ですね」

 太田がため息をつく。

「まあ、言うだけは言っておこうか」

 古代はため息をつくだけだった。

 

 

 テレザート星域。ヤマトの皆にとっても、デスラーにとっても懐かしい場だ。

 白色彗星帝国に粉砕された、かつて栄華を誇った惑星。

 そこには、わずかに精製金属の痕跡こそあれ、破壊ガス雲がうずまくのみだ。

 その周囲は、デスラーやゴーランドも利用した宇宙の難所でもある。

 それはまた戦闘にも活用される。

 

 宇宙のサルガッソー。交通の要所にある大暗礁、悪夢の宇宙気流。

 長い時間に幾多の艦船を呑み、その墓場となっていた。

 その艦船はことごとく、長い眠りから覚めてかりそめの生命を与えられていた。しかも、おぞましい生物と融合した姿で。

 それが、偽りの防塞に攻め寄せた。

 

 大型の艦をいくつか送り、破壊され破片も資源として吸い尽くされた星跡に駐留しているだけのハリボテ、指揮官にとっては奇襲だった。

 そこに何もないと知りながら守るのは心を崩すが、デスラーは死守を厳しく命じている。怠慢も死だ。

 そして敵の存在こそ、

(総統は正しかった……)

 ことを示している。

 普通ならば、これほどの距離、何十日もの防御となり敗れるだろう。

 だが現在のデスラー艦隊には、即時通信のアンシブルとバーゲンホルムがある。

 ほとんど瞬時にかけつけたデスラー艦隊は、理想的なハンマー&アンビル(金鎚と金床)を形成した。もとよりテレザート星周辺星域の地形は、デスラーも知り尽くしている。

 

 

 デスラー艦隊にはただでさえバーゲンホルムなどがあるのに、シャルバート星の技術でさらに大幅に強化されていた。

 すでに完成した艦船を改造しようとしたら大変だ。だが、ヤマトに積んだハイドロコスモジェン砲は対空機関砲のサイズで外付けできた……そんなお手軽兵器が、シャルバート船内部の工場で、何万も大量生産され提供された。

 外殻に、死角ができないよういくつかつければいい軽自動車サイズの半球、艦長に渡されるサングラス、コンピュータの端子に垂らす泥のような液体。そして全員分の錠剤薬。すぐ艦隊全部にいきわたる。

 要するに、レーダー、CIWS……自動対空機銃、高速化ソフトのセットだ。

 そのセットは、ヤマトも受け取っている。艦橋の左右と第三艦橋下に機銃をつけた。

 

 サングラスのレンズを降ろして見たいと思えば、100光年先の大腸菌が見える。電磁波とは違う、ワープアウトの予兆もわかる。

 むろんその情報はコンピュータにも流せるので、艦長の許可があればレーダー担当が使うこともできる。

 加えて攻防一体の、強力なCIWS。

 威力はヤマトの15.5副砲程度だが、毎秒40発の連射速度。精度と追従性も高く、弾切れもない。またその弾には重力衝撃波が含まれ、敵のレーザーやビームも霧散させるし、ワープ中の異空間にも破壊は届く。

 アンドロメダ級多数に囲まれ、ショックカノンとミサイルの片舷斉射を受けても防ぎきれる。

 その情報が流れ込み、CIWSを制御するコンピュータは、泥状のピコマシン集合体から侵入したプログラムで別物と化した。

 見た目は変っていない。安定し処理速度が上がるだけである。さらに即時通信でつながったネットワーク全体が安定し、桁外れの処理速度になる……それだけのこと。とんでもない天才プログラマーが全体を見直し、ユーザーインターフェイスを変えることなくスパゲッティを櫛ですき切りそろえたようなものだ。たまらない美しさで。

 ただでさえネリーやR2-D2などの技術をもらっており、コンピュータの性能は桁外れだ。それが最適のソフトを得たのだ。

 特に兵站の効率化はすさまじかった。自動生産工場の性能も爆発的に高まる。

 どの艦も何種類も詰んでいるエンジンの、使い分けも最適化された。ハイブリッド車の燃費・性能はコンピュータプログラムが命であるように。行く手の航路を観測し、観測結果を分析し、最適のエンジンを選ぶ……それが自動で、瞬時よりさらに短い時間でできる。速度も安全性も、航行可能領域も、桁外れに広がる。

 瞬間物質移送機の、転送距離も転送質量も大幅に増えることになる。

 戦後の民生にも、それは大きくかかわるだろう。

 

 味のない、一度飲めばいい錠剤薬も人数分渡された。

 それを飲んだ者は、幻覚や精神支配に高い耐性を持つことになる。

 その価値は、戦いが進むにつれて明白になった。

 

 デスラーは、内心震えあがった。まあ、シャルバート文明の恐ろしさはハイドロコスモジェン砲を見ればわかるが……母星を超新星爆発させ星系を一掃するのが本来の使い方、太陽を安定させ地球を救ったのは応用に過ぎない。

 それとフラウスキーの研究をヒントにした超新星爆発兵器はゼントラーディ=ローエングラム大戦で試験され、実用化のめどはついた。が、赤色巨星でなければ時間がかかる。普通の主系列星を短時間で爆発させるにはまだかなりの研究が必要だろう。

 

 

 瞬間物質移送機と次元潜航艇を擁し、さらにバーゲンホルムと強力なエンジンを併用するデスラー艦隊の機動は、地球西暦2000年前後の水上艦、アメリカ空母打撃群にも似ていた。違いがあるとすれば、デスラー砲の存在……空母打撃群なら、トマホーク戦術核が許容されている、といえる。

 空母が中心となり、戦艦がイージス艦の役。数もあり主力であるデストロイヤーはF/A18にあたる。次元潜航艇はそのまま潜水艦。艦載機はその目と手を精緻にする。

 四隻一組のデストロイヤー改が、瞬間物質移送機で何光年も離れた宙域に送られる。そこから四隻のセンサーがまとまり一つの大レーダーとして、あらゆる情報を収集する。

 瞬間物質移送機+ハイパー放射ミサイルがある。敵の位置をつかむだけで、決定的な打撃力になる。

 その場にいた四隻一組は互いをカバーしつつ、すさまじい超光速でドッグファイトもこなし、敵が地上標的のようなものであれば精密に打撃する。かなわなければ速度に飽かせて逃げ、情報を収集し続ける。もちろんデストロイヤーもハイパー放射ミサイルで、十分な破壊力を手にしている。

 臨検や物資回収、機雷原破壊など人手が必要な作業もこなす。

 さらに、動き回る敵も仕留められるように、ハイパー放射ミサイルを搭載した戦闘爆撃機も瞬間物質移送機で送られ、任務が終わればハイパードライブで帰投する。

 亜空間は次元潜航艇が守って敵のワープアウトを防ぎ、また敵の退路などに出現して確実に打撃をぶちこむ。これまたハイパー放射ミサイルだ。

 比較的単純な、使い捨て無人観測機を何千もジェイン航法で戦域にばらまき、アンシブルで返ってくる膨大な情報も参考にし、必要があれば敵のレーダーを飽和させる。それは空母打撃群を支援する偵察衛星や盗聴網にもあたるだろうか。

 膨大な情報を、旗艦の超コンピュータが確実に処理する。

 そして敵の本拠をつかめば、瞬時に主力が出現してデスラー砲を叩き込む。

 

 ディンギルの技術を吸収したため、波動砲斉射も回避可能になった。前兆のニュートリノを観測し、砲本体が届くまでにワープすることで。

 もともとバーゲンホルムの超速度がある、打撃群全体でヒットアンドアウェイができる。

 

 その艦隊にとって、シャルバートのプレゼントはそのまま大幅な戦力増になった。

 桁外れの速度と打撃力に目・脳・盾が加わり、さらに怪物による狂気にも免疫ができたのだ。

 

 半径20光年に及ぶ戦闘域。

 そのすべてをデスラー艦隊は支配している。

 多数集まれば、そこにデスラー砲艦が何十隻も同時に出現し、何十門も束ねた一撃を放ち、反撃を待たずに消え失せる。

 撃ち漏らした敵艦が突出しようとしたところに、虚空からミサイルと爆撃機が出現し、猛撃を浴びせてまた消える。

 どこに出現しても、濃密な無人観測機が即座につきとめ、即時通信で中央に情報を送る。

 地の利を知り尽くしたデスラー艦隊は、激しい攻撃で敵を宇宙暗礁に追い込み、デスラー機雷を瞬間物質移送機で送って行動を束縛する。

 

 その圧倒的な力を持つ金鎚は、敵艦隊を正面から粉砕した……かに見えた。

 不安はあった。ハイパー放射ミサイルが、ほとんど通用しないのだ。

(生身の人間が乗っているのではない?)

 まずその疑問が出た。

 ハイパー放射ミサイルから、ローエングラム朝から手に入れたレーザー水爆・超低周波弾頭に切り替えてからある程度敵を破壊できるようになった。

 それに次々と怪物艦が破壊され、残りは追い詰められたように、テレザートの恒星に飛びこんでいった。

「かなわぬと見て自殺したか」

「いえ、気をつけてください!」

 サーシャが叫ぶ。

 テレザートの主星が奇妙な周波で点滅すると、恒星内部から怪物艦が次々と飛び出したのだ。恒星の炎をまとった、巨大な火の鳥を無数に従えて。

「迎撃しろ!」

 デスラーの叫びに、強大な艦が次々と襲いかかる。ヤマトやシャルバート艦も加わり、波動砲や、名前も知らない強大な兵器を発射する。

 だが、それは外されてしまう。

「ディンギルの、ワープを読んでよけるのと同様か?」

「いや、予兆波のないミサイルもよけられている。敵には、読心能力、または予知能力があるのか」

「それに、強大な幻覚波も放たれています。幻覚予防剤を飲んでいなかったら、今頃我々は見当違いの方向を攻撃し、勝ったと思ったところを奇襲されて全滅していますよ」

「行動と攻撃に、乱数を入れよ」

 デスラーの命令。読心ならランダムな攻撃には対処できない、予知ならランダムな攻撃でもよけられる。

「命中!ですがまぐれですね。効いている様子もない」

「よし、読心ということか。なら乱数行動を徹底せよ。友軍誤射に注意」

 デスラー艦隊の、バーゲンホルムを含む超速度と、先読みでの回避……運よく命中すれば御の字の、極端に被害が少ない消耗戦。

 時に出現する、圧倒的な数の炎の艦……それは読心能力がないようで攻撃が通用するが、数が何百万だ。それを破壊しつくすのには時間もかかるし、兵站の消耗も大きい。

 悪態をつくデスラーに、古代守が告げた。

「スターシヤから通信。つなぎます」

「ああ」

 スターシヤの美しい姿が画面に映る。デスラーの胸は甘酸っぱい喜びに満たされる。たとえ人の妻となっていても、それでも命を捧げようとしたほどに愛した女性だ。

 ヤマトにとっても地球の恩人、総員最敬礼する。

『デスラー、ヤマトの皆さん。多元時空のための戦いに、心から感謝いたします。

 この戦いは、艦隊戦では勝利は望めず、支えることしかできません。敵の読心を支える、とある怪物を倒さない限り。

 守、ヤマト、急いで、急いでシスコ退役大佐とコルム公子……それにカーテローゼ・フォン・クロイツェルと彼女の紋章機を、〈ABSOLUTE〉に送ってください。

 デスラー、それまでこの戦線を支えてください』

「承知したよ」

『デスラー、どうかご無事で』

 複雑な思いを込めた微笑みに、デスラーは騎士らしく礼した。

 

 その言葉を受け、ヤマト、シャルバート、古代守、リプシオール級艦らは、ローエングラム銀河帝国に向かった。デスラーの無事を祈りながら。




宇宙戦艦ヤマト
スターウォーズ
スタートレック

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