第三次スーパー宇宙戦艦大戦―帝王たちの角逐―   作:ケット

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宇宙の戦士/時空の結合より2年9カ月

 機動歩兵リコ愚連隊は、壊滅の瀬戸際にあった。

 クモの本拠、惑星クレンダツウに攻めこむ前は、

(ほどほどに勝っていく……)

 状態にあると思っていた。

 捕虜救出も、できると思っていた。

 すべては罠だった。

 

 突然、通信に混じる強烈な雑音。上空とも、遠くの味方とも話せなくなる。

 だが、それは救いだったろう。上空では、帰るべき母艦が次々に破壊されているのだから。

 人間より一回り大きい、強化服(パワードスーツ)をまとった兵が、人間より大きな、脚の長い節足動物じみた異星生命体と戦っている。

 二十世紀後半の、核爆撃機をしのぐ火力。戦車以上の防御。宇宙船の耐環境性能、それでいて針に糸を通せる器用さを持つ強化服。着ているのは、十人に一人しか訓練を完遂できぬ、死亡者当たり前で鍛えぬかれ選抜された、機動歩兵。

 二時間しか戦えない装甲宇宙服で疲弊するローエングラム帝国装甲擲弾兵はこの装備をうらやむだろうし、逆に巨大なPTを駆る鋼龍戦隊はその弱さに呆れるだろう。

 彼らはそのどちらも知らない。ひたすら、与えられた戦力で戦うだけだ。

 巨大で多数で火力にも優れたクモ相手では、互角ですらない。一体の生命の価値が違いすぎるのだ。

「だいじょうぶだ!それより目の前の敵だ」

 エミリオ軍曹がなだめようとする、

「ベーコンのフライ!と、とんでもない数です」

 という叫び。

 訓練でやってきた、士官学校の訓練で臨時に来ているベアボーだ。

 彼も機動歩兵としての実戦経験はあり、戦える。問題は、士官としての任務を果たせるかどうかだけだ。

 新兵のひとりを、軍曹がかばって倒れる。

「父さあん!」

 激しい声とともに、指揮官が激しく撃ち続ける。

 その足元には、片腕を失った軍曹。

「任務に私情を混ぜてはなりません、指揮を!部下を助けなさい!」

 息子である指揮官に叫びかけるエミリオ、だが息子は叫ぶ。

「あんたも部下だ!」

 リコを非難する味方はいなかった。

 通信できる味方自体が少なかった。

 全員が結束して、父子を守った。

「くそ、モントゴメリー隊!」

「生き延びるんだ、待っている味方はいる!」

 落ち着きを取り戻したジョアン・リコ少尉の言葉に、隊員全員が微笑を取り戻す。

「残念ながらね」

「モントゴメリー隊のアルを、一発殴ってやるまで死ねないんです」

 隊長が立ち直ると、余裕も出る。

 機動歩兵の結束は強い。指揮官が冷静であれば、全員が冷静に戦っていられる。

 そして、実戦を経験した指揮官は、死に直面しても崩れることはない。指揮官一人を育てるために、軍は膨大な金と力を注いでいるのだ。

 この上なく貴重で高価、だがそれを使い捨てるのが戦争というもの。

 戦士たちは、黙って使い捨てられるわけにもいかない。

 一人、また一人と倒れながら、戦い続ける。

 もはや、自分が生きる死ぬなどどこかに行っている。

「あっちに突っ込むぞ、偶数、援護!続け!」

 リコの命令に、生きている者皆が応える。

 その命令が正しいかどうかなど、誰も考えない。

(こいつに命は預けた!)

(息子とともに戦えるなんて、なんて幸せ者なんだ。絶対に死なせない)

 機動歩兵は、集団でひとつの生き物となる。人間個人を越えた、一つの偉大なものが、戦い続けるのだ。

 トノサマバッタの類が、密度が高まった状態で代を重ねると色も体格も変わって、集まって飛び立つことがある。とてつもない数が集まり、ありとあらゆる植物食物を食らい尽くして、普通のバッタには考えられぬ距離を飛び続ける。

 飢餓地獄をもたらす、大陸規模のわざわい。蝗害と呼ばれ、イナゴと誤られている。

 人間も、似たようなものだ。

 軍隊という状況になると、自分でものを考え臆病な人間とは全く違う、別の心のあり方が表に出る。

 時にはそれは、残虐な虐殺と破壊の悪鬼でもある。が、このような戦場では自らを省みず自軍戦友のために戦い抜く、誰もが気高いと認めるものであろう。

 そう、ひたすら戦い抜くのだ。機動歩兵は、決して屈することはない。あきらめることはない。

 レンズマンもそうだ。レンズマンは生きているかぎりあきらめない。

 そのレンズマンが、半分に減って戦い続ける機動歩兵に、もう大丈夫だと告げた。

 

『敵ではない、グレー・レンズマンのウォーゼルだ』

 その、心の声も聞き終わらない。意識が遠のいていく。

 力尽き、倒れ伏すリコが見たのは、柄のある眼が多数あり鋭い翼の、長くのたくる怪獣だったのだ。

 叫ぶ余力すらなかった。

 

 

 リコたち、半分近くに減ったリコ愚連隊の生存者が目覚めたのは、見慣れぬ巨艦の大きい部屋だった。

 無事な仲間に安堵し、死んだ仲間を悼む激しいひと時が過ぎる。

 リコ隊長とエミリオの父子が互いの生を喜ぶのは無論だが、父子の絆と愚連隊の絆、どちらがより太いとも言い難かった。それだけに、いない仲間の悲しみも大きかった。

 そして、何よりも自らが機動歩兵だと思い出す。

 ならば、

(最優先は、味方との連絡……)

 である。

 だが、強化服を着ていない。予備通信機で通信したが、やはり激しい雑音に支配している。

 立とうとしたが、立つ体力など残っていなかった。

「おれたちは、捕虜なのか」

 そうすごむのが精いっぱいだった。

 大部屋の端にいた、うろこを持つ長い体の、恐ろしい生物……龍に。

「その子を離せ!」

 と叫ぶ者もいる。

 ごく幼い女の子が、龍のような生物に乗っているのだ。

 その脇には、ベレーとジャンパーの、人類と思える軍人もいる。身長10メートルはある巨人までいた。

『心配はいらない。君たち、残存兵力を救助した。君たちの政府と交渉したい。仲介してくれないか。

 わたしは銀河パトロール隊、グレー・レンズマン、ヴェランシアのウォーゼル。こちらにつながった、並行時空の出身者だ。

 この子はコンスタンス・キニスン。私がさらったのではなく、両親の許可と本人の同意があって、わたしに預けられている』

(信じられない……)

 という感情はなかった。

 その感情がなかったこと自体、ウォーゼルの巧妙きわまる制御があってのことだった。

『わたしは人類の言葉は話せず、心に語りかけている。そちらは普通に話してくれればいい、その時の心が伝わる』

 それ以後は、違和感なく音声での会話のように進んだ。

「ほかに、生き残っている仲間に会わせてくれ」

 その要求はかなえられた。

 作戦に参加した艦船の、半分近くがやられていた。地上に降下した機動歩兵も、四割が死んでいた。

 そのままでは全滅だったのが、ウォーゼルたちの救援で助かったのだ。

 それから、味方の生存者がいないかしばらく働いたのちに、基地で全員が説明を受けた。

 その間に、援軍が軍・政府の上層部と交渉をしていた。

 

 

「……クモも、人類も、〈痩せっぽちども〉も、同じだ。種として生き残りたい。より広い土地が欲しい。自分たちとは違う存在は、全部皆殺しにしたい。

 だから、どちらが生き残るか、戦い抜くまでだ。そう教えてきた」

 新しい同盟者、〔UPW〕の医療技術で車椅子から立てるようになった士官学校校長、ニールセン大佐(終身元帥)が話しているのを、士官たちは驚きと感動を持って聞いていた。

「だから、クモがブエノスアイレス、ついでサンフランシスコを攻撃した。

〈痩せっぽちども〉が地球の位置をクモに教えたからだ。

 そして、こちらの情報部の動きで、〈痩せっぽちども〉を寝返らせ、こちらの研究者が作ったノヴァ爆弾の力もあって少しずつ勢力を逆転させ、捕虜を取り返すための、今度の作戦を……」

 しばらく、大佐は目をつむる。

「すべて、敵に見せられた欺瞞だった。われわれは、見たいものを見、信じたいものを信じたのだ」

 衝撃に、鍛え抜かれた士官たちも頭が動く。

「ハンマーを持っている人間にはなんでも釘に思える、と同じ。われわれには、すべての相手が自分たち人間と同じ、領土や征服が大好きな存在に見えていたんだ。昔奴隷商人に、すごい宴会だな、と食人種が言ったように。

 敵を知ろうと、努力はしてきた。『オペレーション・ロイヤリティ』で多くの犠牲を払い、敵の頭脳クモを捕虜にし、女王グモの死体を得た」聞いているリコの表情が、自分も体験した激戦の痛みと誇りに固まる。「だが、それも顕微鏡をのぞいて黄熱病の病原体を探すような、崇高ではあったが……成果は望めないものだった」

 老雄の吐息には、深い悲しみがにじんでいた。

「考えるべきだったのかもしれない。たかだか千年の技術差で、アメリカ先住民帝国もインドもヨーロッパに膝を屈した。なのになぜ、人類と、これほど多くの種族が共に生きることができるのか……

 われわれが〈痩せっぽちども〉〈クモ〉と呼ぶ種族、両方を操る本体が地球人にも技術を提供していたから、だった」

 衝撃。

「そして、〈クモ〉を操って地球を攻撃させ、逆に〈痩せっぽちども〉を通じて情報を伝えて、反撃をさせている。地球人にできる程度の」

 声にならないざわめき。士官たちですら、姿勢を保ちきれない。

「〈痩せっぽち〉と、〈クモ〉の、ものを考える本体は、別の時空に存在している巨大なカビ状の生物だ。それが、ものすごく細い菌糸を、極微の時空のひずみを通してこちらの時空に伸ばし、〈痩せっぽち〉と〈クモ〉の神経系に寄生し、操っている。宿主が死んだり捕まったりしたら菌糸の部分は溶け失せ、少し脂肪分の多い水と化す。

 そいつの好物は、自分たち以外の知的生命体の、闘志……戦士の断末魔だ」

 苦々し気な言葉に、リコは言葉を失った。

「〈痩せっぽち〉〈クモ〉のどちらも、菌糸から見れば操り人形で、闘志も何もない。

 だから、別の免疫系があって菌糸が侵入できず、個々に魂がある地球人に技術を与えた。闘争と犠牲、戦死する時の魂の叫びを食って、楽しむために。

〈痩せっぽち〉は地球人に似ているから、地球人と話し合う仕事をしている。そして〈クモ〉は、地球人にとって戦いやすい、憎みやすい敵だった。右手に怪物、左手に天使の人形をつけてカーテンのかげに隠れ、幼児を脅しては慰めてだましていたようなものだ。

〔UPW〕とのつながりがなければ、われわれは奴の望むまま、終わりなき戦争をずっと続けていただろう。過去に消費しつくされて滅んだ生物もいるし、はるか遠くで戦い続けている生物もいるそうだ。

 地球人でない生物が相手なら、ほかにも14種ぐらいあるストックから、適当な『敵』と『交渉相手』を取り出して、両方を使って戦い続けさせる、それだけのことだ。

〈クモ〉も〈痩せっぽち〉も、全戦力はわれわれが把握している、その何十億倍もある。地球人は、断末魔を長く食べるために、飼育されていただけだ。トナカイの群れを追って移動生活をし、必要なだけ殺して食べつつ、全滅させないよう一定数は残しておくように」

 リコは、仲間たちも、言葉が出なかった。

「今回の戦争……敵が捕虜を取ったのも、わかるだろう」

 リコは、士官学校で大変な思いでこなした宿題を思い出す。

 一人の捕虜のために大戦争を起こしても惜しくない、という結論……機動歩兵の常識を、論理的に証明しなければならなかった。

「われわれ人類は、一人の捕虜のためにも全軍で助けようとする。それがわかっていれば、一人の捕虜を生かしてエサにしておけば、いくらでも断末魔を食えるというわけだ。

 それでも、捕虜救出に力を尽くすべきだ、ということは正しい。相手がどんな存在だか、こちらには見えなかったのだ。

 では、クモと〈痩せっぽち〉の正体がわかっても同じだろうか。それは諸君が自らの頭で考えるべきことだ」

 深い吐息が、講堂を包んだ。

 際限のない悲しみと悼みに、打ちひしがれつつ。

「今、何をするかを考えよう。〔UPW〕は、その敵……その敵と組んだ、似たような他者を拷問して楽しむデルゴン上帝族、その仲間ボスコーンと戦っている。

 われわれも助けられた恩義、そしてこの地球人の生存のために、すべき仕事は多くある。

 昨日までの、諸君の奮戦に心より感謝し、一層の奮闘を期待する!」

 打ちひしがれた老雄は再び、自らの足で立ち上がった。

 そして元機動歩兵である士官たちも、立ち上がる。

 機動歩兵は、命ある限りあきらめない。訓練と実戦を潜り抜けたのだ。

 その強さを見たからこそ、ウォーゼルもアッテンボローも手を差し伸べた。もちろん、それがパトロール隊・〔UPW〕の利益になると判断したからでもあるが。

 

 

〈SKIA〉に、以前から〈クモ〉は多数の艦隊を送っており、〔UPW〕軍が対処していた。

 チェレンコフ推進……大重力場のそばにワープアウトできる、つまり惑星のすぐそばに出現して攻撃してくる敵の前に、〈SKIA〉の主星とクロノゲートを守る戦いは神経を使い続けた。

〈クモ〉の艦船の攻撃と防御は、それほどは強くない。だが圧倒的な数と、超光速移動の速さがある。特にチェレンコフ推進からの出現にぶつかってしまうと、強大な防御を誇る〔UPW〕艦でも致命傷は免れない。

〈SKIA〉は、多数の有人時空が加わる以前に〔UPW〕に加入した時空の一つ。

 はるか以前は栄えていたが、ヴァル・ファスクによるクロノ・クエイク・ボムで星間飛行が不可能になり、一つの星を除いて人類は死滅、生き残った人類も衰退していた。

 それが〔UPW〕の支援で文明水準を高めつつあったが、まだまだ生産力も低い、人口も少ない、教育水準も低いと、あまり戦力にはなっていなかった。

(いっそのこと……)

〈SKIA〉住民を避難させて、その時空を閉鎖すれば、という意見すらあった。

 だがそれは、ほかにも生き残りがいるかもしれないなどの理由で却下された。

 そして、おかしいと思う者もいた。

「あの推進方法だ。多くの星が欲しければ、人類など無視してひたすら遠いところで植民をすればいい」

「すでにやっていて、この攻撃は陽動じゃないか?」

「いや、それはない。ジェイン航法でアンシブル入りの無人機を多数散布している」

「なんとか、意図を読まなければ」

 そこにうってつけの存在が来た。第二段階レンズマンのウォーゼルが、

「こちらに、デルゴン上帝族の気配がある」

 とやってきたのだ。

 ウォーゼルが属するヴェランシア人は、キムボール・キニスンと助け合うまでデルゴン上帝族に支配され、呼び出されては拷問惨殺される家畜にほかならなかった。恨みは遺伝子に刻まれ、一人のデルゴン上帝族を殺すためなら、どんなことでもする。どんな苦痛でも疲労でも苦労でも喜んで。

 まして、ボスコーンと組んだデルゴン上帝族にまた誰かが支配されるなど、考えるだけでも発狂しそうなほどの怒りになる。それを、鉄よりも強い意志力で抑えて前線に出、クモたちの心を読み取ろうと努めた。

 そして、〈混沌〉との戦いに関する情報を受け取り、クモの本体……億単位の艦船と思われる……との戦いを決意した。

 ウォーゼルの故郷からも、膨大な生産力に任せ多くの艦船が送られてきた。

 だがそれ以上に力になったのは、ラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝の断で、パウル・フォン・オーベルシュタインがまとめダスティ・アッテンボローに預けられた、元同盟の将兵が乗るゼントラーディの艦隊である。

 

 五万隻のゼントラーディ戦艦、そのことごとくにバーゲンホルム、波動エンジンと波動砲、クロノ・ストリング・エンジンが搭載されている。

 それを可能にしたのは、オーベルシュタインに集められた数十万の同盟人、その家族たちだ。合わせれば百万単位、働く年齢の人も多くいた。

 その人たちは、EDENやトランスバール皇国、セルダール、〈ABSOLUTE〉にもできた巨大自動工場で職を得、巨大な都市船で生活を始めた。

 全自動工場は人の手を借りることによって生産性が倍加する。人間ほど汎用性の高い工具、柔軟な点検装置は少ないのだ。

 そして人間は、適切な分野で訓練を積むと、たとえばちらりと一瞬見るだけでヒヨコのオスメスを鑑別できるようになる。指先で桁外れの精度の凹凸を感知することができる。相場予測のように複雑すぎることはできないが、結果が出る物事なら訓練次第で、脳と身体の速いはたらきとつなげることができるのだ。さらにそれとコンピュータ・ロボットを連動させると、桁外れの成果を出すことができる。

 コンピュータでも人間でもなく、コンピュータと人間の的確な組み合わせこそ、最高の生産性を持つのだ。

 また、〔UPW〕には、集団知性であるバガーや、人間以上の智を持つペケニーノの父樹母樹も移住し、協力した。

 原料として必要とされる資源の大量運搬も、惑星ごとバーゲンホルムで動かし、解除してから固有運動を波動エンジンで止めるという力技で解決した。

 食料も、ゼントラーディの大型艦船は、栄養は満たす食料は作れる。それを波動エンジンの過剰なエネルギーで多めに作り、家畜を育てる。もちろん、〈ABSOLUTE〉に直結した星々……エックハルト星区の帝国領やセルダールも、積極的に美食を増産し、届けた。膨大な衣類の需要が、いくつかの技術水準が低い星で、多くの雇用を作った。

 移住者たちの生活は故郷よりも豊かであり、また何万というゼントラーディ艦の近代化改修も恐ろしい短時間で進んだ。

 また、多数の無人艦・無人戦闘機も艦隊に加わっており、戦力は何倍にもなる。

 同盟軍人を主とする艦隊を引き継いだアッテンボローも、よく百万組織をまとめていた。アレックス・キャゼルヌはエル・ファシル自治政府にいるが、彼と同じ教育訓練を受けた同盟軍の後方軍人・官僚・企業人も多く来ているのだ。

 

 巨大要塞を中心とした艦隊が、ゲートから押し出す。

 ゲートは、圧倒的に守る方に有利だ。それが、この多元宇宙の性質を決めてもいる。

 ガルマン・ガミラス帝国やローエングラム朝銀河帝国が別時空を侵略しない理由は、ゲートを守られたら攻めるのがほぼ不可能になるからでもある。

 ゲートの行先が守りを固める前に橋頭保を作る、それ以外に侵略に希望はない。だからこそ、パルパティーン帝国は圧倒的な人口優位があるのに、惑星連邦を落とせていない。

 ゲートを通っての攻撃は、まさに上陸作戦……しかもノルマンディーや仁川とは違い、欺瞞奇襲の余地がない、どんな参謀も止めるものだ。

 アッテンボローはそれを、ほぼ無人艦の先遣隊、そして600キロメートル級の超巨大要塞で断行した。

 ウォーゼルも先頭に出たがった。確かに彼の艦も波動砲の2発や3発耐え抜けるだけの防御力はあるが、それでもキムボール・キニスンの娘の存在もあり、アッテンボロー旗艦の隣にまわってもらった。

 ゲートから出現する敵を粉砕し、ネガティブ・クロノ・フィールドを全開にしての突撃。出た先は、〈クモ〉の本拠地の一つクレンダツウ。

 もちろん、盛大なお出迎えがあった。

 上陸作戦でもっとも貢献したのは、超巨大要塞の徹底的に防護された中央に位置する、一人のレンズマンである。

 レンズだけが、別時空にもリアルタイムで情報を送れる。

 そのレンズマンは、超空間チューブをめぐる戦いの生存者。戦友を目前でデルゴン上帝族に拷問虐殺されている。ゆえにデルゴン上帝族に、ヴェランシア人に劣らぬ憎悪を抱いている。自らの脳をネリー方式で無人艦と直結し、生きた通信端末となることすら志願した。

 彼がレンズ経由でゲートの向こうから送ってくる、無人艦隊すべての莫大な情報をウォーゼルが受け止め、地球人よりはるかに優れた頭脳で処理し、アッテンボローの指揮端末に送る。

 アッテンボローやラオら参謀たちが素早くそれらを検討し、ジェインと複製ネリーの助けも借りて無人艦隊に命令を返す。

 ウォーゼルもアッテンボローも、ついてきているゼントラーディ士官も百戦錬磨だ。だが、その経験こそが足を引っ張らないか、彼らはそれを心配した。

 兵器体系が、技術水準がまったく違うのだ。

 レンズマンの故郷には、波動砲のような強大な砲は少ない。太陽ビームや虚の球体など、きわめて大規模なものはあるが、それとはかなり戦法が違う。

 そしてアッテンボローの戦略は、比較的盾が優位で、万単位の艦隊同士の撃ち合いだった。ゼントラーディもそれはほぼ同じだ。

 攻・防・走、さらに索敵通信も、圧倒的に進歩している。

 

 その圧倒的な戦力で押し出した艦隊の前にあったのは、同じ地球人が奮戦し、粉砕される姿だった。

 アッテンボローが地球人を助けたのは、ほぼ本能というものである。後に、〔UPW〕上層部では注意された。姿形で判断するな、善悪を行動で確認してから敵味方を決めろ、と。

 だが、結果的には幸運であり……困ることもあった。

 情報を集め、地球人を助けたこと自体は正しいとわかった。だが、クレンダツウを分子破壊砲で破壊することはできなくなった。

 そして惑星の奥から、何万という艦隊が噴き出してきたのである。

 

 

 激しい艦隊戦の中、ウォーゼルがついに敵の本性を突き止めた。巨大な惑星の奥深く、アッテンボローがヤン譲りの一点集中砲火……それもデスラー砲とクロノ・ブレイク・キャノンで掘りぬいた大穴の奥に、何兆何京とも知れぬ〈クモ〉がいた。

 マントルの資源をすべて活用する、想像を絶する生物だった。

 それは大きな集合知性をなし、ウォーゼルと、また艦隊に同行していた同じく集合知性であるバガーとも対話できた。

 さらに、そこにはウォーゼルにとって、また何人ものレンズマンにとっても恨み骨髄のデルゴン上帝族までいたのだ。

 その巨大要塞を粉砕し、デルゴン上帝族の血を浴びたウォーゼルとアッテンボローは、その時空の地球人と協力して橋頭保を作り、長期戦を始めた。

 敵の本体は、その時空にもいない。通常時空とは違う、高次元の存在なのだ。

 とりあえず、第三段階レンズマンであるコンスタンス・キニスンとバガーの統合知性が、〈カビ〉と呼ばれる高次元集合知性と対決し、ボスコーンとの同盟だけでも取り消すよう脅した。その対話も時間がかかりそうではあり、その間激しい艦隊戦は続く。

 

 思いがけない対ボスコーン戦の最前線。その時空には、まだまだ謎の生物と、膨大な敵艦があふれかえっている。

 そんな中見出した新たな仲間は、屈辱に震えつつ再び立ち上がり、家族を守り生き延びるためまた戦うと誓った。

 鍛え抜かれ、高度な教育を受けた将兵は、〔UPW〕、パトロール隊にとっても金では買えない貴重な資源だった。

 艦船はそれこそ、指数関数で増える。十年以内に億に達するだろう。だが、それを使いこなす人間こそ、多元宇宙で最大の貴重品なのだ。

 

 それだけではない。この、〈クモ〉〈痩せっぽち〉……〈カビ〉が支配する時空のどこかに扉がある、と予言者でもあるベンジャミン・シスコが告げたのだ。謎の都市タネローンを守り、限りない敵と戦うデスラーやラインハルトを助けるために、何人かの勇士が扉を通らなければならない、と。




宇宙の戦士
ギャラクシーエンジェル2
レンズマン
銀河英雄伝説
エンダーシリーズ

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