バルマー本星の近くでは、激しい三つ巴の戦いが続いていた。
巌となってクロノゲートに陣取り、ヒリュウ改の背を守るハガネ。
すべてを滅ぼそうとする、ありえない数のバルトール。
傲慢と憎悪に満ちたバルマー帝国。
ハガネは複数の波動エンジンによる多数の中口径ショックカノン、緑のシールドなど圧倒的に強化されているとはいえ、敵はすさまじい数だ。
また、新兵器の扱いに慣れていないことが、事故と疲労のもとになる。
(だから、マリオン博士はEOTを嫌うのか……)
そう思い知るクルーもいるが、それを考えるより戦いが続く。
機動兵器たちも次々と動かなくなる。機構が複雑な人型機は関節部など消耗が大きく、また一人乗りゆえにどうしても戦闘継続時間が短い。
実体弾は消耗し、補給に戻る暇もない。特に実体弾兵器が多いアルトアイゼンはヒート角も折れ、重装甲で味方の盾となるだけだ。
最強を誇るSRXも、念動力者たちが倒れ動くのはR-2のみ。
力尽きんとしたそのとき、クロノゲートから巨大な翼が飛び出した。
『こちら〔UPW〕軍所属ルクシオール。艦長ココ・ナッツミルクです。ハガネ、応答してください!』
「ココさん」
テツヤ・オノデラが疲れ切った表情で、髪型を変えたココを見つめる。
三つ編みにメガネ、少し頼りないブリッジオペレーターだった彼女。今はほどいた髪をなびかせ超医学で視力を回復させ、歴戦の風格を漂わせている。
テツヤ自身も、幾多の戦いで変わっている。
だが、再会の感慨にふける間もない。艦長室もボロボロに壊れている。ハガネそのものが、何もしなくても10分以内に自壊する。あらゆる計器が絶叫し、コンピュータは総員退艦を推奨している。
『交代します。どうか、ゲートへ』
「ありがとう、全機帰還せよ」
恥も外聞もない。そして『虚憶』でともに戦った戦友、弱みを見せることにもためらいはない。
機動兵器に退避命令。そしてボロボロの艦をゲートに向かわせる。
新手のルクシオールを襲う敵を、ルクシオールに多数貼りつけられた使い捨て無反動ロケットが一瞬牽制し、その間に七機の紋章機……大型個人戦闘艇が飛び出す。
ロケットは何百もの子弾を放出する。そのすべてが波動カートリッジ弾、圧倒的な殲滅の光壁となる。
それが晴れた、飛び出すルーンエンジェル隊。
恋人のアプリコット・桜葉機と合体したカズヤ・シラナミの指揮の元、ハガネ所属の機動兵器を母艦に返すため、おびただしい敵と戦い始める。
リリィ・C・シャーベットの精密な狙撃が刺さる。味方をかばいぬいたアルトアイゼンが散る、その直前だった。もはや自力で動くこともできない赤鉄錆の塊を、ヴァイスリッターが引きずって逃れる。
カルーア・マジョラムの強力な魔法が大型艦を足止めし、ナツメ・イザヨイが放つ蝶の姿をした弾幕が切り刻む。
アプリコットとカズヤの機体から放たれた二条の光が、爆発の嵐を生み出す。
ハガネ隊を追う敵を、激しいドッグファイトで阻むアニス・アジート。
そしてナノナノ・プディングのナノマシンが、ハガネ隊全体を癒す。それがなければ、ゲートにたどり着くまでに何機が力尽きていたことか。……後送して救急治療室にたどりつくまでの輸血と強引な止血程度だ。傷が深すぎる。
同時に、ルクシオール隊には別の仕事もあった。
技術獲得にこだわる〔UPW〕の方針があり、ルーンエンジェル隊が破壊した敵機からズフィルード・クリスタルなどが回収された。
(こういう仕事のためには、人型機もあったほうがいいんだが)
そういう声もあった。
そしてクロワ・ブロート、コロネ・シュークルートら技師は見慣れぬ敵機の破片に、興奮しきっていた。
バルマー帝国の巨大艦は、ルクシオールが手ごわいと見たか、背後にある超巨大輸送艦を攻撃した。
兵站を断つ、兵の常道である。
非武装の輸送艦が次々に被弾していく。
有効打につられて敵が集中し……輸送艦が爆発し、無数の破片と化して敵を蹂躙。
その爆炎から、何万ものスズメバチが飛び出した。
ダークエンジェル2と3。
エオニア戦役で、パイロットの脳を侵食し部品におとしめた、〈黒き月〉の模倣紋章機ダークエンジェル。今なお皆が呪う悪夢だ。
だが、パイロットは人間ではなく、バガー。
バガーの働きバチは、爪や髪の毛同様使い捨てでいい。遺伝子は姉妹と同一であり、記憶は窩巣女王と、生体器官として作られるアンシブルで常に共有している。一人一人の遺伝子・記憶・脳配線・肉体が唯一無二でかけがえがないヒトとは、違う。機械と融合させ使い捨てにしてもかまわない。機械から直接操縦バガーに流れこむ膨大な電子情報は、そのまま体内アンシブルで集合精神(ハイブマインド)に送られる。ハイブマインドはそれを軽々と受け入れ処理し、使いこなす。
化学合成細菌と共生し栄養源にする虫バターのおかげで、バガーの人口も莫大だ。
DA(ダークエンジェル)2は35メートルとむしろ小型だが、シャルバート技術のCIWS、大口径パルスレーザー、プロトン魚雷、重力内破槍、バーゲンホルムとハイパードライブも追加装備している。攻防走とも元のダークエンジェルよりはるかに優れる。特に走と目を強化しているが、プロトン魚雷と重力内破槍で大型艦も破壊できる。
サイズが小さい分、早く大量生産できる。
6機に1機が160メートルほどに大型化された、実質は駆逐艦のDA3。小型波動エンジンを搭載している。武装もショックカノンと重力内破槍、分子破壊砲、そして拡散・収束切り替え可能な波動砲を搭載している。もちろん波動エンジン・バーゲンホルム・ハイパードライブ・クロノストリングエンジンのハイブリッドだ。
内部にもバガーやドロイドがおり、ダメージコントロールもできる。
それだけではない。観測者としての、多数の機械の目を持つバガー。二つの目でも、それで三次元を認識することができる。百万の目は百万次元の認識となり、その膨大な情報を受け入れ制御できる知性さえあれば、見えぬものはない。
ちなみに窩巣女王のひとりが、ルクシオールで守られている。
ほんの数秒、ラインハルトやフィッシャーすら呆然とするほどの短時間で、多数の小型艦が整列する。
格子点の駆逐艦と、それを護衛する小型機。
直後、波動砲の壁が放たれる。万に及ぶ小型波動砲の同時発射。
圧倒的な、あまりに圧倒的な光の壁。
小型機は拡散波動砲のシャワーに貫かれ、大型艦も一点集中する複数の収束波動砲に溶けていく。
転移能力を持つ敵機が、その隙を狙おうとする。だがそれは小型機が高速高機動でしっかり迎撃する。二基のCIWSが球全体をカバー、射程距離に入られれば終わりだ。
近接兵器とシールドを持つバルマー機動兵器やバルトールも、圧倒的な機動性に翻弄され、重力内破槍に貫かれるだけだ。大型で頑丈な敵は、プロトン魚雷で破壊される。
さらに駆逐艦は波動砲発射直後の硬直をものともせず、バーゲンホルムをかけ動力をクロノストリングエンジンに切り替え、圧倒的な超光速で離脱・再編する。
一つのハイブマインドがすべてを見ている。完全な集団機動だ。
ユルゲン博士の理想……家族を失った哀しみから、個を捨てて結集することで戦力を高めようとしたバルトール。また個性を消し去って確実な性能を発揮させる〈黒き月〉。どちらにとっても、バガー戦隊は理想的な存在だろう。
ただし、それだけではバガーがエンダーに敗れたように、〈黒き月〉が〈白き月〉に敗れたように、弱さもある。
それをフォローするのが人間……ルーンエンジェル隊。そしてバガーの集合精神と人間の仲立ちをするのが、コンピュータの中に生きるジェインである。
ジェインが濾過して渡す情報を受け取るのがタピオ・カー。
彼はヴァル・ファスクであり、多数の無人艦を制御できる脳・情報機器直結器官を生来持っている。それがジェインとつながり、無人艦隊の情報を受け取り、エンジェル隊との連携に資する。
そしてそれは人間の言葉、戦術情報に翻訳されて、ココの手元にも流れる。
同時に、ルクシオールに同乗しているレンズマンたちがバルトールやバルマー帝国とも交渉しようとする。
コンピュータ内のジェイン、バガーの集合知性、ルクシオールの艦内公園にもあるペケニーノの雌雄樹も仲立ちにして。
だがそれはうまくいかない、バルトールは〈混沌〉と、それとはさらに別の、
(とてつもなく邪悪な、精神的存在……)
に汚染されている。
またバルマー帝国も、極端な国粋主義・祭政一致のため交渉が成立しない。特にルアフ・ガンエデンが頑固を通り越して狂っている。
「ウィルもああいう感じでした、自分たちは完全な最高だから、違う文明は全部潰すと」
「パトロール隊も昔は苦労したそうだ。いや、今もライレーンはそんな感じだ」
「トレゴンシーの報告では、バルトールにはさらに裏の、とんでもない悪があるとも」
「なら」
そう相談しながら、目の前の激しい戦いを見る。
これほどの戦力に叩きのめされても、バルマー帝国もバルトールも引こうとはしない。
「バルトールの、ユルゲン博士の精神は存在していないな」
「ああ……何か、人間より上の邪悪に食われているようだ」
5時間が過ぎ、限界になったルーンエンジェル隊がルクシオールに戻る。
その後はバガーが主力となり、全面攻勢に入っている。
だが、バルトールをバガーの乗るDA2・3で崩すのが難しくなってくる。
あるバルトールをある攻撃パターンで倒したら、即座に全バルトールがそのパターンを学び、同じパターンは通用しなくなる。
また、バルトールが以前とらえ、脳情報を奪ったエースたち……ラミア、クスハ、アラド、ゼオラ、ラトゥーニの動きもランダムを入れて切り替え、利用し始めている。
ラミアの遠距離狙撃・接近剣戟を兼ね備えた、機械じみて正確な最善手。
クスハの、ATXチームで磨かれた正統派の技術……サイコドライバー級の念動力は使えなくとも。
アラドの無駄が多いだけに読みにくい動きと、直感的……膨大な情報を瞬時に処理し、急所を見分けて突貫するセンス。
ゼオラの、特にアラドのパターンで動く僚機をフォローする隙のなさ、機体制御能力の高さ。
ラトゥーニの、敵のデータを冷徹に分析し、チェスのように何手も先を考えて構築する戦術。
それが瞬時に入れ替わるのだ。チェスで五手先を読んでいる最中、突然シューティングゲームに画面が切り替わり、やっと頭を切り替えたと思ったらトランプが配られ……人間では対応できない。人類とは異質なハイブマインドだからこそある程度対応できる。
また、バルマー帝国も雑魚が粉砕され、シュムエルなど強力なエース機が前面に出てきている。
さらに、バガー機たちの戦闘継続能力の問題も出てくる。ミサイルは使い切り、制限のないパルスレーザーやショックカノンも長時間の連続使用で無理が出る。
攻勢限界が、迫る。
逆襲される……そう思えたそのとき、クロスゲートから援軍を得たバガーは、それまで戦っていた分を補給のため巨大要塞に収納しつつ、兵力を二分した。
一方でクロスゲートを守り、もう一方の20キロメートル級球形艦が表面の波動砲を連射して道を作り、戦線を離脱。バルトールが狙っているという、この時空でテレザート星がある区域への連続ワープを始めた。
それに、なぜかバルマー軍の一部が激しく反応し、ヘルモーズ級も動かして追った。
(あの宙域には触れてはならない)
そんな、激しい念語がレンズマンたちには聞き取れた。
その間、〈ABSOLUTE〉ではタクトとロイエンタールが出撃の準備を続け、同時に鋼龍戦隊の者から情報を集めていた。
小出し……逐次投入はしない。知勇攻防のバランスが取れた、最良の将とヤン・ウェンリーにも絶賛されるロイエンタールが、そのようなことをするはずはない。
最大戦力をしっかりと集め、正しく情報を収集し、一気に投入する構えだ。
バルマーで地球人に好意的な、イルイ・ガンエデンとアルマナ・ティクヴァーの存在。アルマナの側近、ルリア・カイツやバラン・ドバンも、潜在的には親地球だ。
また、ゾヴォークとの外交も重要になる。
それらを聞き出し、方針を考える。目的のない戦いは、戦略にも優れる者がすることではない。
「バルマーの、親地球派の救出には、おそらく鋼龍戦隊の者が必要になります。艦隊とは質の違う戦力も」
と、レフィーナ。意識不明のテツヤを心配する思いを抑えて。
「ですが多くは重傷。また機体の修理改造も、いくら超技術があっても10日はかかってしまいます」
アヅキ・サワの報告に、レフィーナが補足する。
「トウマ・カノウがクロガネ隊で、連絡が取れないのが痛いですね。彼はアルマナ・ティクヴァーと……その、親しいのですが」
女艦長の口調に、ローエングラム帝国の堅物たちが首をひねる。タクト・マイヤーズやマイルズ・ヴォルコシガンは苦笑した。
「ゾヴォークとの外交は?」
ロイエンタールが冷静に話を戻した。
「今地球にいるメキボス・ボルクェーデとも連絡を取るべきですね」
レフィーナがうなずく。
「外交はマイルズ・ヴォルコシガン卿に一任している。レンズマンはその補助だ」
タクトが軽くマイルズを見た。
「シュラー艦隊、デンダリィ隊とともにマイルズ卿の護衛を強化せよ」
ロイエンタールが丁寧に戦力を追加する。
また、奇妙な方向に突撃していたバガー分艦隊から報告が来る。
この時空における、テレザート星の所在地にバルトールの大軍が攻め寄せているのが観測された。
その数はバルマー本星を攻めている数と比べても、何百倍ともしれない。
さらにそのバルトールには、異質で奇妙な艦や超大型人型機も混じっているようだ。
それだけではない。その周辺の時空はねじ曲がり、ゲートとは異質なつながりをあちこちに持っているようだ。
かなり広い範囲の時空が混じり、行き来できるようなのだ。
そして、そこではデスラー率いるガルマン・ガミラス帝国軍、奇妙な敵を追ってきたローエングラム帝国軍、玄偉率いる怪物と戦っている新五丈軍、さらにネガティブ太陽系帝国と戦っていた銀河パトロール隊も集まっているという。
「ここが決戦の場だ」
ロイエンタールが決意を込めて立ち上がり、全艦隊に出動を命じた。
タクト・マイヤーズも本来の〔UPW〕軍の出動を命じる。
トランスバール皇国のシヴァ女皇や、セルダールのソルダム王も援軍を送った。
さらに、バラヤー方面からはバラヤー・智・メガロード01・ダイアスパーの連合に加え、セタガンダ帝国が主に兵站で協力するという知らせが来た。加えて、その向こうにあるギド・ルシオン・デビルーク王も援軍をよこしてくれるという。
「……ああ。コルムたちが、敵を倒してくれれば、艦隊決戦で勝負をつけられる。それまで協力して、支えてくれ」
ベンジャミン・シスコが沈痛に言った。
「で、誰が一番えらいんだ?」
そのときまたしてもアニス・アジートが、言ってはならないことを言った。
「それは言ってはならぬことじゃ!」
「それを言ってはいかんだろう!」
いつもの倍の激しさで、ナツメとリリィが叫ぶ。
誰が連合軍を指揮するか。それこそ泥沼の同士討ちになってもおかしくない。
〔UPW〕の長官はタクト・マイヤーズだが、彼はトランスバール皇国からの出向だ。また、彼が指揮した艦隊は最大でも千に至るかどうか。何万隻があたりまえの、ローエングラム帝国や銀河パトロール隊、新五丈とは桁が違う。
かといって、ラインハルト皇帝、デスラー総統、竜我雷……誰がやっても、
(誰が多元宇宙の盟主……)
すなわち、
『覇』
となるか……
メンツの問題になってしまう。
対ゼントラーディ艦隊戦では、とっさの事態であった。ヤン・ウェンリー、デスラー、タクトの誰もが勝利という目的を正しく見据えており、誰が最高指揮官かは定めぬまま、三者とも命令すら必要なく最善の行動をとった。
だが、今は違う。
圧倒的な大軍による、大規模な作戦となる。正式な外交関係がある。国際法……多元宇宙国際法も折衝中であり、同時に判例が築かれている最中だ。
しかも、同盟軍が苦しめられたシビリアンコントロールのように、上位存在からの指示がある。人間に対しては、まずレンズマンが指示を受けている。さらに予言者であるシスコやコルムが仲立ちとなる。新しくクスハ、リュウセイなどサイコドライバーも、ジェダイにも予言じみた情報は入る。そしてバガーなど、上位存在に近い戦闘集団もある。
だからといってその命令に一方的に従うことなどできない。人間には人間の誇りがあるのだ。
そのとんでもない問題の存在を直視してしまったタクトは、ロイエンタールと目を見かわし、決然と要人に会議を呼びかけた。とんでもなく勇気のいることだった。
アンシブルを通じて会見した諸王諸将が、苦慮する。
「お初にお目にかかる」
「久しぶりだな」
「病と聞いていたが」
「せんだっては世話になった」
……
黄金・白・青の美しきラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝。意識せずとも優雅なふるまいから、抑えきれぬ覇気が激しくあふれ、燃え上がっている。
ガミラスの誇りを背負うデスラー総統。貴族的な気品と、幾度もの故郷喪失を含む膨大な経験が、柔らかくなににも屈せぬ迫力となる。
竜我雷は、その二人とは対照的に血の匂いを隠さない。分厚く飾りなく、人脂で切れ味が鈍らぬよう荒砥で血脂を落としただけの実戦刀の趣だ。家柄はおろか家族もない雑兵から、刀一振でのし上がった……ラインハルトと比べても桁外れの白兵戦経験が漂っている。だが、ただの荒くれではなく生来の圧倒的な天運、また長じて以来の付け焼刃とはいえ名将に命じられた良書、そして戦争と統治両方の現場の経験で学び抜いた知性もわかる。
智の正宗も、負けぬ覇気を放っている。支配者の娘に生まれ育った気品、血みどろの実戦経験、スポーツ選手以上に鍛えられた女身がよく調和している。
さらに若く気やすい態度の英雄タクト・マイヤーズ。だが見る者が見れば貴族の生まれと実戦経験の豊富さもわかる。
ローエングラム帝国からタクトの下に出向している身だが、今もっとも多くの艦を率いているオスカー・フォン・ロイエンタールが金銀妖瞳をきらめかせている。義眼の同僚に目を向けぬよう、同時に金髪の主君にも純粋な忠誠とは言い切れぬものがある。
キムボール・キニスンの長身は生来完全な骨格を持ち、それだけでも見惚れる。さらに万に一人しか耐えられぬ肉体的鍛錬、実戦経験で一片の贅肉もなく鍛え抜かれている。
実戦経験では劣らぬ、古代進・守兄弟。
ほかにも各時空の英雄たちが多数、挨拶もそこそこににらみあっていた。
軍事的才能で選ぶならば、ラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝と竜我雷、デスラー、智の正宗、さらに、
(旅のヤン・ウェンリーを呼び戻す……)
ことすら考えてしまう。
誰がもっともすぐれているかなど、決めようもない。
言葉しようもないほど恐ろしい沈黙の中、同時に二人の、重臣が口を開いた。
パウル・フォン・オーベルシュタインは、いつに変わらぬ冷徹な声で、
「〈百世界〉のアンドルー・ウィッギン提督を推薦します」
大覚屋師真が同時に軽く、やや自堕落に羽扇で顔を扇ぎつつ、
「この場合、エンダーが最善だ」
こうである。
一瞬の沈黙。
「説明を聞こうか?」
「どういうことだ?」
ラインハルトと雷の目。下手をしなくても反逆になる言葉だ。
それを堂々と言ってのけた二人に、諸王諸将は奇妙な尊敬を向けた。
タクト・マイヤーズが真っ先にうなずき、口を開きかけて閉じた。
「説明いたします」
オーベルシュタインはタクトを無視するように、義眼を光らせた。電池切れはない……その程度の改良はしている。
「アンドルー・ウィッギン提督には、実績・実力があります。
何よりも彼は、スターウェイズ軍提督の地位こそありましたが、反逆罪により軍籍を剥奪され、自由な立場です。せいぜいルシタニアと家族という小さい『私』しかありません」
「彼はレンズマンでもあるが、生まれながらの、べったりのレンズマンじゃない。どの国や派閥とも利害関係を持っていない。それだけで力になる」
公平な調停者には、巨大な価値がある。
イスラム教の開祖ムハンマドは故郷メッカから石もて追われた、新興宗教の教祖でしかなかった。
だが、彼らはメディナで必要とされた。ムハンマドは、さまざまな部族やその派閥が争っていた都市で、公平に調停することを求められ、そうした。
どの部族にも、どの派閥にも偏らぬ……それだけ。それだけで、世界の半分を征服するに足るほどの力となったのだ。
歴史に詳しいヤン・ウェンリーやカイ・タングがいれば、その故事を危惧とするかもしれない。だが、ここでは今、力が求められている。
「ヤン・ウェンリーは本人の主観ではどこにも属していませんが、旧同盟の者は彼に忠誠を誓うか裏切者として憎んでいます。実際には、公平とは遠い」
オーベルシュタインの平静な言葉が続く。
「エンダーは、バガーやジェインも使い慣れてるし、レンズでかみさまみてーなのとも直接話せる」
師真が、軍師としての対抗心を静かに燃やしている。
オーベルシュタインと師真は大きい航路を作る作業で協力し、互いの能力をしっかりと見た。
(多元宇宙という、ばかでかい将棋盤の向こう側に座ってくれる……)
と、師真は喜んでいる。
「諾(ヤー)。何より、こうしてずっとにらみあっていたら、戦に負ける。低能になってしまう。予は低能にだけはならぬ」
ラインハルトの美しいかんばせ、豪奢な金髪が戦気に燃える。
彼が勝利したリップシュタット戦役を思い出す。敵側のシュターデンが、首都オーディンに別動隊を出す、と案を出した。
その案を絶賛したランズベルク伯アルフレットの、
『で、誰が別動隊の指揮をするのです?』
一言に、軍議の門閥貴族たちは静まり返ったという。
最大の功労者として、また首都にある幼帝を押さえ、すべての権力を得る。
ラインハルトに対抗して同盟を結びながらも、実はすべてを得たがっていたブラウンシュヴァイク公・リッテンハイム候、他の大貴族も皆が互いを疑い、誰も動けなかった……
それを読んでいたからこそ、ラインハルトは首都をがら空きにし、メルカッツは別動隊を言いださなかった。
(やつらと同じになってたまるか!)
ラインハルトを動かしたのは、無能への嫌悪だ。
「負けるのは嫌いだ」
デスラーは微笑した。
「ああ」
雷も静かにうなずき、師真にうなずきかけた。
末席にいたアンドルー・ウィッギンは、静かにうなずいて立ち上がった。
目礼し、手首を掲げレンズを輝かせる。
タクト、ラインハルト、デスラー、古代進、古代守、竜我雷、キムボール・キニスン、正宗……オーベルシュタイン、ロイエンタール、師真……次々と、それぞれの故郷の形で敬礼する。
生身の別動隊が、魔の本体を断ち艦隊で倒せるようにするまで、戦い抜く。
スーパーロボット大戦OG
死者の代弁者
ギャラクシーエンジェル2
銀河英雄伝説
銀河戦国群雄伝ライ
宇宙戦艦ヤマト
レンズマン